ホテルの収益は、1年のどの季節に稼ぐかだけでなく、1週間のどの曜日に稼ぐかでも形が変わる。メトロエンジンリサーチのデータから、北海道・東京都・大阪府・愛知県・福岡県・静岡県・長野県・沖縄県の8道府県で客室60室以上のホテル2,153施設を対象に、2026年6〜7月の土曜と火曜の掲載価格の比(施設単位)を測った。市場ごとの中央値は沖縄県の1.18倍から福岡県の1.49倍まで。一方で、同じ市場の中では1.8倍以上で売る施設と1.2倍未満で売る施設が並んでおり、8市場全体では1.8倍以上が246施設、1.2倍未満が731施設あった。本稿では、この曜日プレミアムの違いが年間売上の構成、必要な平日単価、そしてNOIの振れ幅をどこまで動かすのかを、100室モデルで試算する。
本稿は、季節(月次)のばらつきを扱った『雪はコストか資産か — 冬RevPARが夏の53%の県と、冬ADR2.66倍の町』とは軸が異なり、1週間の中の曜日によるばらつきを、日別の掲載価格を施設ごとに集計して扱う。またシルバーウィーク2026やお盆2026、地方36市の在庫消化のような特定の連休ではなく、連休を除いた通常週の構造を見る。施設ごとの値付けの伸びしろという運営側の視点は週末プレミアムの分布を4市場で比較した記事で扱っており、本稿はそれを取得価格・融資・開業計画の側に翻訳する位置づけである。
Key Takeaways
- 8道府県・2,153施設の土曜÷火曜(掲載価格、施設単位)の中央値は1.31倍。市場別では沖縄県1.18倍〜福岡県1.49倍で、業務型の4都府県がレジャー型の4道県を上回った。
- 市場間の差より市場内の差のほうが大きい。福岡県は下位25%が1.13倍・上位25%が1.82倍、北海道は1.06倍〜1.68倍。
- 土曜と火曜の推定稼働率の差は4〜10pt程度で、曜日プレミアムの大半は単価が生んでいる。
- 週末に寄った市場でも、客室売上の64〜68%は日曜〜木曜の夜が稼ぐ(試算)。
- 100室・通年稼働率80%のモデルでは、平日単価+500円(年1,044万円)が土曜単価+2,000円(年832万円)を上回る。平日の稼働を土曜に近づける余地は静岡県・長野県・大阪府で大きい。
本記事における指標の定義
- 掲載価格:各施設がOTA等で公開している販売価格。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・その日に掲載された全プランの平均。完売日は最後に掲載されていた価格で集計。本稿の曜日分析(土曜÷火曜の比、曜日別指数)はすべて掲載価格ベースの相対比較であり、成約価格そのものではない。
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。本稿では都道府県単位の集計にのみ用いる。
- 土曜÷火曜の比:施設ごとに土曜チェックイン日の掲載価格の中央値を火曜チェックイン日の中央値で割った値。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ
測り方 — 施設ごとに割ってから、市場の分布を見る
対象は8道府県で客室数60室以上として把握している運営中の施設の全件を母集団とした(計2,733施設)。集計期間は2026年6月1日から7月26日までの56日間で、このうち海の日を含む3連休の夜(7月18日〜20日)は曜日ではなく連休が価格を動かすため除いた。残る53日には土曜が7日、火曜が8日含まれる。業務型の市場として東京都・大阪府・愛知県・福岡県を、レジャー型の市場として北海道・静岡県・長野県・沖縄県を置いた。
算出の手順は3段階である。まず施設ごとに、土曜チェックイン日の掲載価格の中央値と火曜チェックイン日の中央値をそれぞれ出す。次に施設単位で「土曜÷火曜」を計算する。土曜・火曜のいずれかで観測が5日に満たない施設は除いた。最後に、市場ごとに施設単位の比を並べ、中央値・下位25%(p25)・上位25%(p75)を示す。平均ではなく施設単位の中央値を使うのは、規模の大きい施設や価格帯の高い施設に市場の値が引っぱられないようにするためである。
算出方法(再集計用)
① 母集団:8道府県の客室60室以上の運営中施設(計2,733施設)。② 価格:各施設・各日の掲載価格(2名1室・税込・全プラン平均、完売日は最終掲載価格)。③ 期間:2026年6月1日〜7月26日から7月18〜20日を除いた53日。④ 施設ごとに土曜の中央値÷火曜の中央値(各5日以上の観測が条件)。⑤ 市場ごとに施設単位の比の中央値・p25・p75。参考として、最安プラン価格で同じ計算をした値と、観測行をそのまま平均した「土曜の平均÷火曜の平均」も併記した。
表1は、母集団から集計対象に至るまでの施設数と、3つの算出方法による結果である。最安プラン基準で計算し直しても市場の並びはほぼ変わらず、福岡県・東京都・大阪府が上位、沖縄県・長野県・北海道が下位に並ぶ。観測行をそのまま平均した比では、価格帯の高い施設の値動きが平均を大きく動かすため、愛知県(1.42倍)・北海道(1.29倍)・長野県(1.26倍)が施設単位の中央値より高く、東京都(1.33倍)は低く出る。本稿は施設単位の中央値を主な指標とする。
| 市場 | 母集団 | 価格観測 | 集計対象 | 客室数 | 中央値 | p25 | p75 | 最安プラン基準 | 観測行の単純平均比 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 福岡県 | 254 | 212 | 211 | 36,409 | 1.49 | 1.13 | 1.82 | 1.57 | 1.53 |
| 東京都 | 787 | 612 | 604 | 117,590 | 1.43 | 1.23 | 1.65 | 1.55 | 1.33 |
| 大阪府 | 418 | 305 | 302 | 62,953 | 1.35 | 1.23 | 1.56 | 1.43 | 1.35 |
| 愛知県 | 259 | 205 | 203 | 34,658 | 1.31 | 1.11 | 1.61 | 1.30 | 1.42 |
| 静岡県 | 251 | 228 | 223 | 27,256 | 1.27 | 1.14 | 1.46 | 1.31 | 1.32 |
| 北海道 | 391 | 323 | 318 | 54,690 | 1.22 | 1.06 | 1.68 | 1.25 | 1.29 |
| 長野県 | 185 | 147 | 137 | 15,326 | 1.19 | 1.06 | 1.31 | 1.16 | 1.26 |
| 沖縄県 | 188 | 159 | 155 | 27,654 | 1.18 | 1.09 | 1.29 | 1.20 | 1.17 |
| 8市場計 | 2,733 | 2,191 | 2,153 | 376,536 | 1.31 | 1.14 | 1.58 | — | — |
市場の中央値は1.18〜1.49倍、差は市場の中に大きい
図1は、市場ごとに施設単位の土曜÷火曜の中央値(点)と、下位25%〜上位25%の幅(棒)を並べたものである。市場の中央値の幅は0.31ポイント(1.18〜1.49倍)にとどまる。これに対し、福岡県の中の幅は0.69ポイント(1.13〜1.82倍)、北海道は0.62ポイント(1.06〜1.68倍)あり、同じ市場の中で値付けの流儀が大きく分かれていることがわかる。
とりわけ北海道は分布が二つに割れている。1.2倍未満の施設が48.7%を占める一方で、1.5倍以上の施設も32.7%ある。業態別に見ると、北海道のシティホテル(N=55)の中央値は1.44倍、ビジネスホテル(N=173)は1.28倍、リゾートホテル(N=48)は1.13倍、旅館(N=35)は1.12倍で、夏の観光期に平日から単価が乗るリゾート・旅館と、週末に単価を寄せる都市型ホテルが同じ道内に並んでいる。取得検討で「北海道の曜日プレミアム」を1つの値で置くと、どちらの型の施設かによって前提が外れやすい。道内のビジネスホテルが週末よりも火〜木に厚みを持つことは、曜日別の推定OCCを業態ごとに見た記事でも確認できる。
地図は8市場の位置と、市場ごとの中央値・集計対象施設数を示したものである(円の大きさは集計対象施設数、色の濃さは中央値)。
業務型の市場ほど土曜に寄せ、リゾート・旅館は週の中で平らに近い
業態をそろえて比べると、市場の性格がよりはっきり出る。8市場を合わせた業態別の中央値は、ビジネスホテル(N=1,452)1.36倍、シティホテル(N=273)1.31倍、リゾートホテル(N=186)1.18倍、旅館(N=101)1.18倍だった。さらにビジネスホテルだけを取り出すと、業務型4都府県(N=1,000)の中央値は1.43倍、レジャー型4道県(N=452)は1.25倍で、同じ業態でも立地の需要構成によって土曜の上乗せ幅が異なる。
| 市場 | ビジネスホテル | シティホテル | リゾートホテル | 旅館 | 火曜の掲載価格(施設中央値) | 土曜の掲載価格(施設中央値) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 福岡県 | 1.50(175) | 1.46(23) | — | — | ¥14,951 | ¥24,253 |
| 東京都 | 1.47(453) | 1.28(72) | — | — | ¥17,969 | ¥26,392 |
| 大阪府 | 1.37(209) | 1.33(59) | — | — | ¥12,966 | ¥18,053 |
| 愛知県 | 1.32(163) | 1.32(22) | — | — | ¥12,364 | ¥17,352 |
| 静岡県 | 1.29(133) | 1.25(26) | 1.27(31) | 1.25(30) | ¥13,860 | ¥18,204 |
| 北海道 | 1.28(173) | 1.44(55) | 1.13(48) | 1.12(35) | ¥22,134 | ¥32,324 |
| 長野県 | 1.15(74) | — | 1.27(27) | 1.16(24) | ¥16,954 | ¥22,498 |
| 沖縄県 | 1.22(72) | — | 1.12(71) | — | ¥23,199 | ¥29,169 |
曜日ごとの形も市場で違う。図2は、各施設の火曜の中央値を1.00とした曜日別の指数を、市場の中央値で示したものである。福岡県は金曜1.16・土曜1.49と金曜から段を上がり、東京都も木曜1.08・金曜1.10・土曜1.43と週の後半に向けて上がっていく。静岡県は月曜〜金曜が0.99〜1.02とほぼ平らで、土曜だけが1.27に上がる「土曜一点型」である。沖縄県は金曜1.14・土曜1.18・日曜1.03と、週末の上乗せが金〜日に分散している。金曜が土曜を上回る日が生まれる条件については、千葉県で10月2日(金)が3日(土)を上回った事例が参考になる。
土曜と火曜の稼働差は4〜10pt、プレミアムの主役は単価
では、土曜の上乗せは需要の差に見合っているのか。ここからは都道府県単位の推定稼働率に切り替える。同じ期間(7月18〜20日を除く)の曜日別の推定稼働率を平均すると、土曜と火曜の差は東京都4.6pt、沖縄県5.7pt、福岡県4.7pt、愛知県4.0ptと小さく、大阪府10.4pt、静岡県9.8pt、長野県8.2ptでやや大きい。土曜÷火曜の単価比(1.18〜1.49倍)に比べ、稼働の比は1.05〜1.13倍にとどまり、曜日プレミアムの大半は単価の側から生まれている。
| 市場 | 火曜 推定OCC | 土曜 推定OCC | 日〜木 平均 | 土曜との差 | 土曜÷火曜(単価) | 対象施設/客室 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 大阪府 | 77.2% | 87.6% | 76.9% | 10.7pt | 1.35 | 414/59,634 |
| 静岡県 | 77.4% | 87.2% | 76.9% | 10.3pt | 1.27 | 701/29,935 |
| 長野県 | 81.6% | 89.8% | 81.0% | 8.8pt | 1.19 | 502/18,485 |
| 北海道 | 86.5% | 92.2% | 86.3% | 5.9pt | 1.22 | 665/52,729 |
| 愛知県 | 80.3% | 84.3% | 78.5% | 5.8pt | 1.31 | 328/33,925 |
| 福岡県 | 87.4% | 92.1% | 86.3% | 5.8pt | 1.49 | 381/28,992 |
| 東京都 | 90.0% | 94.6% | 89.6% | 4.9pt | 1.43 | 804/104,099 |
| 沖縄県 | 84.9% | 90.6% | 85.7% | 4.9pt | 1.18 | 710/35,632 |
図3は、横軸に土曜÷火曜の単価比、縦軸に土曜と日〜木平均の稼働差をとったポジショニングである。右下(単価比が高く、稼働差が小さい)には福岡県・東京都が位置し、平日も高い稼働を保ったまま土曜に単価を乗せている市場である。左上(単価比は控えめで、稼働差が大きい)には静岡県・長野県が入り、土曜に需要が集まる一方で平日の稼働にまだ積み増せる余地を持つ。大阪府は単価比・稼働差がともに中位より高く、両方の手が効きやすい位置にある。
週末に寄った市場でも、客室売上の6割超は日曜〜木曜が稼ぐ
曜日別の単価指数と推定稼働率を掛け合わせ、1年の曜日構成(土曜52夜・金曜52夜・日曜〜木曜261夜)に当てはめると、客室売上がどの曜日に乗っているかを試算できる。土曜の夜が1年の客室売上に占める比率は沖縄県の16.6%から福岡県の20.4%、金曜と土曜を合わせても32.0%〜35.8%だった。裏返せば、曜日プレミアムがもっとも大きい福岡県でも、客室売上の64%は日曜〜木曜の夜が稼いでいる。
投資計画で使う水準に直すため、各市場の2026年6〜7月の推定成約ADR(税抜相当、ADRの定義は冒頭のとおり)に、上の曜日の形を当てはめて「火曜相当」と「土曜相当」の単価を逆算したのが表4である。たとえば東京都は推定成約ADRが約12,400円で、火曜相当は約11,500円、土曜相当は約16,400円になる。福岡県はADR約10,600円に対し火曜相当約9,700円・土曜相当約14,400円と、ADRと平日単価の差が8市場でもっとも大きい。開業計画で必要ADRを置く際、この平日単価の水準が日曜〜木曜の261夜にかかることになる。
| 市場 | 推定成約ADR(6〜7月) | 前年同期比 | 火曜相当(試算) | 土曜相当(試算) | 土曜の売上比率 | 金土の売上比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 東京都 | ¥12,394 | -4.4% | ¥11,476 | ¥16,422 | 19.7% | 34.4% |
| 沖縄県 | ¥12,548 | +10.9% | ¥11,852 | ¥14,033 | 16.6% | 32.4% |
| 静岡県 | ¥11,768 | -3.6% | ¥11,270 | ¥14,291 | 19.1% | 33.5% |
| 北海道 | ¥11,245 | +0.8% | ¥10,714 | ¥13,028 | 17.4% | 32.0% |
| 福岡県 | ¥10,598 | +0.2% | ¥9,672 | ¥14,421 | 20.4% | 35.8% |
| 長野県 | ¥10,510 | -1.6% | ¥10,153 | ¥12,112 | 17.8% | 32.3% |
| 大阪府 | ¥8,416 | -31.5% | ¥7,893 | ¥10,680 | 20.0% | 34.5% |
| 愛知県 | ¥8,024 | -2.5% | ¥7,659 | ¥10,057 | 18.9% | 33.4% |
1.2倍と1.8倍、同じADRに必要な平日単価は約1,000円違う
次に、曜日プレミアムの大きさだけが違う3つの市場を想定し、同じ年間ADRを達成するための平日単価を逆算する。前提は、100室・稼働率は通年・全曜日80%で一定、年間ADR(推定成約ADRの水準)12,000円、金曜は土曜の上乗せ幅の2割を上乗せ(8市場の中央値に近い形)、日曜〜木曜は同じ単価とした。土曜÷火曜の比は、沖縄県・長野県の中央値に近い1.2倍、福岡県の中央値に近い1.5倍、福岡県の上位25%に近い1.8倍の3通りである。
| 土曜÷平日の比 | 必要な平日単価 | 金曜単価 | 土曜単価 | 日〜木の売上比率 | 金土の売上比率 | 土曜の売上比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1.2倍 | ¥11,603 | ¥12,067 | ¥13,924 | 69.1% | 30.9% | 16.5% |
| 1.5倍 | ¥11,055 | ¥12,161 | ¥16,583 | 65.9% | 34.1% | 19.7% |
| 1.8倍 | ¥10,556 | ¥12,245 | ¥19,001 | 62.9% | 37.1% | 22.6% |
1.8倍の市場では平日単価が約10,600円でも年間ADR12,000円に届くのに対し、1.2倍の市場では約11,600円が必要になり、差は約1,000円(約9%)である。開業計画で「このエリアのADRは1.2万円」と置くとき、そのADRが土曜の高単価に支えられた数字なのか、平日から均して取れている数字なのかで、日々の営業で求められる平日の値付けは変わる。取得時のデューデリジェンスでは、月次のADRに加えて曜日別の単価比を確認しておくと、前提の置き方が具体的になる。
平日+500円と土曜+2,000円、どちらのレバーが効くか
同じ100室・通年稼働率80%のモデルで、単価を動かした場合の年間の客室売上の増分を比べる(需要の価格反応は考慮しない単純計算)。平日(日曜〜木曜の261夜)の単価を500円上げると年1,044万円、土曜(52夜)の単価を2,000円上げると年832万円で、平日側が上回る。土曜だけで平日+500円と同じ増分を得るには、土曜単価を約2,500円上げる必要がある。
値上げ率で見ると、両者の意味合いはさらに変わる。1.2倍の市場で土曜を2,000円上げると土曜単価は14.4%上がり、土曜÷平日の比は1.37倍になる。これは沖縄県や長野県の上位25%(1.29〜1.31倍)を上回る水準である。1.8倍の市場では同じ2,000円が10.5%の値上げにあたり、比は1.99倍になる。平日+500円は1.2倍の市場で4.3%、1.8倍の市場で4.7%の値上げにとどまる。どちらの市場でも、1年の中で夜数の多い平日に小さく積むほうが、市場の標準から離れずに増収を取りやすい。
単価以上に大きいのが、平日の稼働を積むレバーである。同じモデルで日曜〜木曜の稼働率を5pt上げると、1.2倍の市場では年1,514万円、1.8倍の市場では年1,378万円の増収になり、いずれも単価の2つのレバーを上回る。週末に単価を寄せている市場ほど平日単価の水準は低いため、1ptあたりの金額はやや小さくなるが、年間261夜にかかる効果の大きさは変わらない。
NOIの振れ幅 — 土曜より平日の単価が握っている
曜日プレミアムの違いは、NOIの感応度にどう効くか。表6は、表5の3つの市場で、土曜・金土・日〜木のそれぞれの単価が10%動いた場合の客室売上とNOIの変化、およびDSCRの変化を試算したものである。前提は、NOIを客室売上の32%とし、単価の変化はそのまま売上とNOIに乗る(費用は変わらない)、基準のDSCRを1.40倍とした。いずれも試算のための仮定であり、特定の業態や施設の実績値ではない。
| 単価が10%下がった曜日 | 1.2倍の市場 | 1.5倍の市場 | 1.8倍の市場 |
|---|---|---|---|
| 土曜のみ(52夜) | 売上-1.7%/NOI-5.2%/DSCR 1.33 | 売上-2.0%/NOI-6.2%/DSCR 1.31 | 売上-2.3%/NOI-7.0%/DSCR 1.30 |
| 金曜・土曜(104夜) | 売上-3.1%/NOI-9.6%/DSCR 1.26 | 売上-3.4%/NOI-10.7%/DSCR 1.25 | 売上-3.7%/NOI-11.6%/DSCR 1.24 |
| 日曜〜木曜(261夜) | 売上-6.9%/NOI-21.6%/DSCR 1.10 | 売上-6.6%/NOI-20.6%/DSCR 1.11 | 売上-6.3%/NOI-19.7%/DSCR 1.12 |
金曜・土曜の単価が1割動いたとき、NOIの変化は1.2倍の市場で9.6%、1.8倍の市場で11.6%と、差は2ポイントにとどまる。週末に寄った市場のほうが週末の値動きに敏感なのは確かだが、その差は想像されるほど大きくない。これに対し、日曜〜木曜の単価が1割動くと、NOIはどの市場でも約2割動き、DSCRは1.40倍から1.10〜1.12倍まで変化する。つまり、NOIの振れ幅を握っているのは土曜の上乗せ幅よりも平日の単価水準のほうである。
地銀やレンダーがストレステストを組む際には、「週末の単価が落ちたら」という1本だけでなく、「平日の単価が落ちたら」という1本を並べておくと、どの市場の案件でも感応度を同じ物差しで見られる。逆に、平日の単価と稼働を上向かせる施策は、どの市場でもNOIとDSCRを最も大きく押し上げる手段になる。金利水準から必要な単価を逆算する手順は主要8商圏の「成立ADR」を試算した記事で整理している。
平日需要の取り込みが、稼働の上限を押し上げる
最後に、各市場の実際の曜日の形に戻り、平日の伸びしろを金額に置き換える。表7は、日曜〜木曜の推定稼働率と土曜の差の半分だけ平日を積み上げた場合に、100室のホテルで年間どれだけ客室売上が増えるかを、表4の火曜相当の単価で試算したものである。静岡県は約1,520万円、長野県は約1,170万円、大阪府は約1,100万円と、土曜に需要が集まるレジャー型と大阪府で平日の伸びしろが大きい。東京都・福岡県・沖縄県は平日の稼働がすでに高く、平日の上積みは約730万〜750万円と相対的に小さい。
| 市場 | 日〜木 推定OCC | 土曜 推定OCC | 差の半分を平日に積んだ場合 | 火曜相当の単価 | 100室の年間増収(試算) |
|---|---|---|---|---|---|
| 静岡県 | 76.9% | 87.2% | +5.2pt | ¥11,270 | 約1,515万円 |
| 長野県 | 81.0% | 89.8% | +4.4pt | ¥10,153 | 約1,169万円 |
| 大阪府 | 76.9% | 87.6% | +5.4pt | ¥7,893 | 約1,097万円 |
| 北海道 | 86.3% | 92.2% | +3.0pt | ¥10,714 | 約826万円 |
| 沖縄県 | 85.7% | 90.6% | +2.4pt | ¥11,852 | 約753万円 |
| 東京都 | 89.6% | 94.6% | +2.5pt | ¥11,476 | 約738万円 |
| 福岡県 | 86.3% | 92.1% | +2.9pt | ¥9,672 | 約729万円 |
| 愛知県 | 78.5% | 84.3% | +2.9pt | ¥7,659 | 約584万円 |
平日の稼働を積む手段は、市場の性格によって変わる。静岡県や長野県のようなレジャー型の市場では、企業研修・スポーツや文化活動の合宿・ワーケーションを含む連泊プランなど、曜日を選ばない団体・長期の需要が平日の受け皿になりうる。大阪府や愛知県のような業務型の市場では、日曜夜の前泊需要や法人契約の連泊が、谷になりやすい日曜・月曜を底上げする。すでに平日の稼働が高い東京都・福岡県では、稼働の積み増しよりも、平日単価の水準そのものが収益の伸びしろになる。
取得・開発を検討する投資家にとって、この違いは事業計画の書き方にも関わる。週末に単価が寄った市場ほど、平日の需要をどれだけ取り込めるかが稼働の上限を決め、そこに運営者の力量が表れやすい。アセットマネージャーにとっては、平日の稼働平準化が単価の引き上げと並ぶ、あるいはそれ以上の収益機会として整理できる。
よくある質問
Q. 曜日プレミアムが大きい市場は、投資先として有利なのか。
A. 本稿の試算では、プレミアムの大小が年間売上の構成に与える差は数ポイントにとどまり、NOIの感応度の差も金土の単価変動で2ポイント程度だった。どちらの市場が優れているかではなく、同じADRを平日と週末のどちらで稼いでいるかを把握し、平日単価の前提を明示しておくことが事業計画の精度を上げる。
Q. 掲載価格の比を成約ADRにそのまま当てはめてよいのか。
A. 本稿の曜日分析は掲載価格ベースの相対比較であり、成約単価の曜日差を直接測ったものではない。表4・表5では、推定成約ADRの水準に掲載価格の曜日の形を当てはめた試算として扱っている。個別案件では、運営実績の曜日別データで置き換えるのが望ましい。
Q. 連休や季節を含めるとどう変わるか。
A. 本稿は海の日の3連休を除いた通常週の構造を見ている。連休の夜は曜日ではなく暦が単価を動かすため、年間の計画では本稿の曜日構成に連休の上乗せと季節の波を別途重ねる必要がある。季節の波は冬と夏のRevPARを比べた記事を参照されたい。
まとめ
8道府県・2,153施設の土曜÷火曜の比は中央値1.31倍で、市場別には1.18〜1.49倍、業務型の市場ほど土曜に単価を寄せ、リゾート・旅館は週の中で平らに近かった。ただし市場の中の差は市場間の差より大きく、1.8倍以上で売る施設が246、1.2倍未満の施設が731あった。稼働の曜日差は4〜10pt程度で、プレミアムの大半は単価が生んでいる。
投資の側に翻訳すると、週末に寄った市場でも客室売上の6割超は日曜〜木曜が稼ぎ、NOIの振れ幅を握るのは土曜の上乗せ幅より平日の単価水準である。100室モデルでは平日+500円が土曜+2,000円を上回り、平日の稼働を積む効果はそれ以上に大きい。取得価格やDSCRを組む際には曜日別の単価比と平日単価の前提を明示し、平日需要の取り込みを稼働の上限を押し上げる機会として事業計画に織り込むことが、市場の性格に合った計画づくりにつながる。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
曜日別の掲載価格は、北海道・東京都・大阪府・愛知県・福岡県・静岡県・長野県・沖縄県の8道府県で客室60室以上として把握している運営中の施設(母集団2,733施設)の日別掲載価格(2名1室・税込・その日に掲載された全プランの平均、完売日は最終掲載価格)。対象期間は2026年6月1日〜7月26日の56日間から海の日の3連休の夜(7月18日〜20日)を除いた53日。土曜・火曜それぞれ5日以上の観測がある2,153施設を集計対象とした。推定成約ADRは同8道府県の2026年6月・7月の月次値の単純平均(税抜相当、全業態、N=473〜1,136施設)で、前年同期比は2025年6〜7月との比較。推定稼働率はOTA販売在庫に基づく推定値(全業態・全規模、対象328〜804施設)。いずれもメトロエンジンリサーチ。
■ 試算前提
曜日プレミアムは施設ごとに土曜チェックイン日の掲載価格の中央値を火曜チェックイン日の中央値で割り、市場ごとにその比の中央値・p25・p75を取った(平均ではなく施設単位の中央値)。表5・表6・図5のモデル試算は、100室・通年稼働率80%(全曜日一定)・年間ADR12,000円(推定成約ADRの水準)・年間夜数は土曜52夜/金曜52夜/日曜〜木曜261夜・金曜は土曜の上乗せ幅の2割を上乗せ、という前提に置いた。感応度試算ではNOIを客室売上の32%、基準DSCRを1.40倍とし、単価の変化は費用一定で全額NOIに反映されると仮定している。表4の火曜相当・土曜相当は、推定成約ADRの水準に掲載価格ベースの曜日別指数と推定稼働率の形を当てはめた試算値。
■ 限界・留意点
本稿の曜日分析はすべて掲載価格ベースの相対比較であり、曜日別の成約単価を直接測ったものではない。推定成約ADR・推定稼働率はいずれも推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値や施設全体の実稼働率とは異なる。単価比の母集団(60室以上)と推定稼働率の母集団(全業態・全規模)は一致しないため、両者を掛け合わせた売上構成・増収額は試算の域を出ない。モデル試算は需要の価格反応・費用の変化・祝日・連休・季節の波を考慮しておらず、特定の業態や施設の実績値でもない。また対象は2026年6〜7月の53日であり、通年の曜日構造を代表するものではない。個別案件の判断にあたっては運営実績の曜日別データで置き換えられたい。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ — 日別掲載価格(8道府県・60室以上、N=2,153施設、2026年6月1日〜7月26日)、推定成約ADR(2025年6〜7月・2026年6〜7月)、推定稼働率(OTA販売在庫ベース、2026年6〜7月)
■ 政府統計・公的データ
