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クマ出没5万801件の秋、温泉地の備え|出没上位8県の宿泊ストックを地図化

投稿日 : 2026.09.22

秋田県

岩手県

宮城県

新潟県

青森県

山形県

福島県

群馬県

クマの出没は9〜11月に年間のピークを迎える。環境省の集計では、2025年度(令和7年度)の全国の出没情報は5万801件と直近5年で最多となり、うち9〜11月の3か月で3万1,102件、年間の61.2%が集中した。人身被害も216件・238人(うち死亡13人)にのぼる。山間の温泉地は出没エリアと地理的に重なるため、紅葉・登山・温泉と需要が重なる秋の集客期に、受入体制の備えが問われる。本稿では環境省統計で出没と被害の分布を押さえたうえで、出没が多かった8県の温泉地・山間市町村にどれだけの宿泊ストックがあるかを当社データで集計し、宿と自治体が秋に取れる備えを実務ベースで整理する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設が主要予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。市町村単位のADRは対象施設の中央値(そのエリアの標準的な施設の水準)です。
  • 出没情報=環境省がクマ類(ヒグマ・ツキノワグマ)について都道府県から聞き取った速報値。集計方法(警察への通報件数、市町村からの情報など)は都道府県ごとに異なり、同一個体の複数回目撃を含む場合があります。北海道は出没数を公表していないため全国計に含まれません。九州・沖縄8県はクマが生息しないため調査対象外です。
  • 延べ宿泊者数=観光庁「宿泊旅行統計調査」の年確定値(単位:人泊)。
  • データ出典=環境省、観光庁、東北森林管理局、メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • 5万801件:2025年度の全国のクマ出没件数(環境省速報値)。前年度の2.5倍で、年間の61.2%が9〜11月に集中した。
  • 68.1%:2025年度の人身被害216件のうち9〜11月の割合。市街地や人家周辺など、人の生活圏側での被害割合が高まった。
  • 1,730施設・52,467室:全国出没の79.4%を占める上位8県の、温泉地・山間41市町村にある宿泊ストック(N=41市町村)。
  • 1,517万人泊:8県の2025年9〜11月の延べ宿泊者数。出没のピークと、山間の宿が年間で最も稼ぐ3か月が重なる。
  • 費用をかけずに始める4点:出没情報の掲出、誘引物の管理、屋外動線の見直し、自治体との連絡手順。2026年は東北のブナ開花が回復したが、結実の確定は秋になる。

2025年度の出没は5万801件、うち61.2%が9〜11月に集中

環境省が公表するクマ類の出没情報(速報値、2026年9月9日更新)によると、2025年度の全国の出没件数は5万801件だった。2024年度の2万513件から2.5倍に増え、直近5年でも突出している。特徴的なのは季節分布で、10月だけで1万5,998件、11月が1万338件と、秋の2か月で全体の51.8%を占めた。9月を加えた9〜11月では3万1,102件、年間の61.2%となる。

この秋の集中は、単に「秋に人が山へ入るから」という理由だけでは説明できない。環境省が2026年5月1日の関係省庁連絡会議で示した分析では、2023年度と2025年度の東北における秋の出没増加について、ブナ科堅果類の凶作の影響による可能性が考えられるとされている。餌となる堅果類が不作の年、クマは食料を求めて行動域を広げ、結果として人の生活圏に現れる件数が跳ね上がる。以下のチャートは、その年ごとの振れ幅の大きさを示している。

出典:環境省「クマ類の出没情報(速報値)」よりホテルバンク編集部作成(2026年9月9日更新)

2026年度(令和8年度)の状況も見ておきたい。4〜7月の出没は全国で1万7,362件と、前年同期(1万2,716件)を36.5%上回り、直近5年の同期間では最多である。「高止まり」という表現が実感に近い。ただし年度全体の水準は、これから迎える秋の動向で大きく変わる。

人身被害216件のうち68.1%が秋、被害は「人の生活圏」側で起きている

人身被害はさらに秋に偏る。2025年度は年間216件・被害者238人(うち死亡13人)で、このうち9〜11月が147件・161人・死亡8人。件数ベースで68.1%が秋の3か月に集中した。月別では10月が78件・89人・死亡7人と突出している。

出典:環境省「クマによる人身被害件数(速報値)」よりホテルバンク編集部作成

宿泊施設の運営にとって重要なのは、発生場所の内訳である。環境省の分析では、2025年度は7月以降、市街地や人家周辺、事業所、公園、農地、道路といった「人の生活圏」での被害割合が、2023年度・2024年度と比べて高い傾向にあった。加えて、秋に大量出没があった2023年度・2025年度はいずれも9月以降に生活圏側の割合が高まっている。つまり、備えるべき場所は登山道や森林の奥だけではなく、駐車場から玄関までの導線、従業員が朝夕に出入りする裏口、ゴミ置き場といった「宿の敷地とその周辺」を含む。

都道府県別に見ると、出没・被害ともに東北が中心である。2025年度の出没件数は秋田県1万3,592件が最多で、岩手県9,739件、宮城県3,559件、新潟県3,528件、青森県3,334件、山形県3,124件と続く。人身被害件数も秋田県59件・岩手県39件・福島県21件の順で、上位が重なる。

出没上位8県のクマ出没件数と人身被害(2025年度・速報値)
都道府県出没件数
2025年度
同 2024年度うち9〜11月
2025年度
人身被害件数
2025年度
被害者数
(うち死亡)
秋田県13,5921,34010,0695967(4)
岩手県9,7392,8835,7603940(5)
宮城県3,5598002,44955(1)
新潟県3,5289252,4541617(0)
青森県3,3347251,6291010(0)
山形県3,1243571,8571212(0)
福島県2,0476181,2342124(0)
群馬県1,3986789251012(0)
8県計40,3218,32626,377172187(10)

出典:環境省「クマ類の出没情報(速報値)」「クマによる人身被害件数(速報値)」よりホテルバンク編集部作成。年度は4月〜翌3月。

この8県だけで2025年度の全国出没件数の79.4%(4万321件)を占める。以降の分析では、この8県を「出没上位県」として扱う。

2026年の東北はブナ開花が回復 — ただし結実の確定は秋

秋の見通しを立てるうえで手がかりになるのが、東北森林管理局が管内145箇所の定点で実施しているブナ開花・結実調査である。豊凶指数3.5以上が「豊作」、1未満が「大凶作」と判定される。2025年は開花時点の指数で青森0.5・岩手0.6・宮城0.3・秋田0.4・山形0.4と5県すべてが大凶作と予測され(秋の結実調査でも5県とも大凶作が確定)、実際に秋の出没が跳ね上がった。

これに対し2026年の開花状況は、青森3.4・岩手3.5・宮城5.0・秋田3.6・山形4.0と、宮城・秋田・岩手・山形が豊作圏、青森も並作圏まで戻っている。開花は初夏時点の予測値であり、実際の結実状況は秋の調査で確定する。したがって「2025年のような大量出没が繰り返される」と決め打ちする材料はない一方で、「もう心配ない」と読むのも早い。備えの水準を落とさずに秋を迎え、確定した結実状況と各県の出没情報を見ながら運用を調整する、というのが現時点で取りうる姿勢である。

出典:東北森林管理局「ブナ開花・結実調査」よりホテルバンク編集部作成。各年とも開花時点の豊凶指数(2026年の結実は秋に確定)。

出没上位8県の温泉地・山間41市町村に1,730施設・52,467室

では、出没が多かったエリアにはどれだけの宿泊ストックがあるのか。出没上位8県から、温泉地・高原・山間部を含む41市町村を抽出し、メトロエンジンリサーチが追跡する稼働中の施設を集計した。結果は1,730施設・52,467室。1市町村あたり平均42施設・1,280室で、うち客室1,000室以上の市町村が21ある。

下の地図は、その41市町村の宿泊ストック(円の大きさ=客室数)を、県ごとの2025年度出没件数の水準で色分けしたものである。円をクリックすると施設数・客室数・昨秋の推定成約ADRが表示される。

出典:メトロエンジンリサーチ、環境省「クマ類の出没情報(速報値)」よりホテルバンク編集部作成(N=41市町村・1,730施設)

個別に見ると、客室ストックが大きいのは湯沢町3,899室(108施設)、妙高市2,610室(143施設)、草津町2,440室(110施設)、南魚沼市2,294室(91施設)、みなかみ町2,183室(101施設)といった温泉・高原リゾートの集積地である。山形市4,313室、青森市4,064室、福島市3,745室は市街地の宿泊施設を含む市域全体の数字だが、いずれも蔵王温泉・酸ヶ湯・高湯温泉など山間の温泉地を市域内に抱える。

昨秋(2025年9〜11月)の推定成約ADRは、対象36市町村(対象施設5軒以上)の中央値で11,700円。上位は尾花沢市34,400円(N=5)、小坂町21,200円(N=5)、蔵王町18,300円(N=14)、中之条町18,300円(N=33)、草津町17,900円(N=79)、みなかみ町17,400円(N=47)と、1泊2食の旅館型が中心のエリアが並ぶ。群馬県内の市町村別単価の階層で見たとおり、みなかみ・草津のような温泉地は県都と比べて明確に上のレンジにある。秋は年間でも単価を取りやすい時期であり、受入体制を厚くする効果もまた、単価×客室数の規模で効いてくる。

客室数の多い順に、主な市町村を並べたものが次の表である。

出没上位8県の温泉地・山間市町村 客室数上位16(推定成約ADR 2025年9〜11月)
市町村施設数客室数推定成約ADR
2025年9〜11月
ADR対象
施設数
山形山形市904,313¥11,00058
青森青森市454,064¥11,00038
新潟湯沢町1083,899¥12,70036
福島福島市753,745¥8,80068
新潟妙高市1432,610¥8,90041
宮城大崎市542,542¥10,40037
群馬草津町1102,440¥17,90079
山形鶴岡市612,407¥9,40046
新潟南魚沼市912,294¥11,00024
群馬みなかみ町1012,183¥17,40047
青森弘前市312,141¥6,90023
岩手八幡平市621,654¥12,10013
群馬嬬恋村661,627¥12,20023
岩手花巻市341,499¥13,90031
福島猪苗代町521,473¥10,50020
山形米沢市421,382¥9,60032

出典:メトロエンジンリサーチよりホテルバンク編集部作成。客室数上位16市町村(ADR対象施設10軒以上)。ADRは9〜11月の月次中央値の平均、100円単位に丸め。

9〜11月は8県で1,517万人泊 — 年間需要の4分の1超が秋に来る

出没のピークと需要のピークは、そのまま重なっている。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年年確定値によれば、出没上位8県の9〜11月の延べ宿泊者数は合計1,517万人泊。全国では1億7,100万人泊で、年間(6億6,110万人泊)の25.9%を占める。

県別の秋のシェアはこれを上回るところが多い。秋田県28.6%、青森県28.4%、宮城県27.2%、福島県27.1%、山形県26.6%と、紅葉・きのこ・温泉が重なる東北では年間需要の4分の1から3割弱が9〜11月に集中する。群馬県25.4%、岩手県25.4%、新潟県24.9%も全国並みの水準だ。つまり、出没件数が最も増える3か月は、山間の宿にとって年間で最も稼ぐ3か月でもある。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年年確定値)よりホテルバンク編集部作成

なお、宿泊需要の年ごとの増減は、天候・行事・交通・為替・インバウンド動向など多数の要因で決まる。本稿のデータから、出没件数と宿泊者数の間の因果関係を読み取ることはできない。ここで示したかったのは、あくまで「秋に動く需要の規模」である。統計値そのものの読み方については宿泊旅行統計調査の速報値と確定値の差も参考にしてほしい。

宿が取れる備え — 情報・誘引物・動線・連携の4点

ここからは実務の話に移る。国の制度も2025年以降、大きく動いている。2025年9月1日に施行された改正鳥獣保護管理法(令和7年法律第28号)により、人の日常生活圏にクマ等が出没した際、安全確保等の条件の下で市町村長の判断により銃猟を実施できる「緊急銃猟」制度が設けられた。環境省は市町村向けの緊急銃猟ガイドラインを公表し、2026年4月に改訂している。また2025年11月14日には関係閣僚会議で「クマ被害対策パッケージ」が決定され、緊急対応・短期・中期の3段階で施策が進む。パッケージには、環境省・観光庁が連携し、インバウンドを含む登山客等に対して出没情報や注意喚起を多言語で発信することも明記された。

宿泊施設の側で準備できることを、4つの観点で整理する。いずれも新たな設備投資を伴わないものから着手できる。

宿泊施設が秋に向けて取れる4つの備え
観点秋に向けた具体策
① 情報の掲出都道府県・市町村が公開する出没マップや防災メールを日次で確認し、フロント・エレベーターホール・客室内に掲出する。日本語のみの掲示は避け、英語・中国語・韓国語を併記する(環境省・観光庁も多言語発信を進めている)。「昨日どこで目撃されたか」を具体的に示すと、宿泊者の行動が変わる。
② 誘引物の管理生ゴミ・厨芥の屋外保管をやめ、密閉容器または屋内保管に切り替える。回収頻度を秋だけ増やす。敷地内の放任果樹(栗・柿・リンゴ)は収穫または伐採を検討する。屋外のバーベキュー場・テラスの食べ残し、ペットフード、コンポストも同様に管理対象とする。
③ 動線と屋外運用駐車場から玄関、離れ・露天風呂への渡り廊下、送迎車の乗降場所、従業員の裏口といった屋外動線を洗い出し、照明の増設と見通しの確保(下草刈り)を行う。薄明薄暮の時間帯は人身被害が起きやすいため、送迎の発着時刻や早朝の散策案内を見直す。屋外施設は時間帯運用(夜間閉鎖)を選択肢に持つ。国の「クマ被害対策パッケージ」でも、国立公園のキャンプ場等における電気柵やフードロッカーの設置などの安全対策強化が盛り込まれている。
④ 連携と手順敷地内・周辺で目撃した場合の連絡先(市町村の担当課・警察・猟友会)と伝える内容(時刻・場所・頭数・進行方向)を1枚の手順書にまとめ、フロントに常備する。緊急銃猟の判断主体は市町村であるため、平時から担当課と顔つなぎをしておくことが初動を早める。従業員向けには、遭遇時の基本行動(走って逃げない、背を向けない、距離を取る)を秋前に共有する。

出典:環境省「クマ被害対策パッケージ」「緊急銃猟ガイドライン」等よりホテルバンク編集部作成

費用面では、国の支援制度が自治体経由で使える。環境省の指定管理鳥獣対策事業交付金は、緩衝帯の整備、電気柵の設置、人の生活圏周辺での追い払い、放任果樹などの誘引物の管理、はこわなの購入・設置維持管理、ICTやドローンを活用した出没情報の収集・提供などを支援対象とする。農林水産省の鳥獣被害防止総合対策交付金では、クマ撃退スプレーの導入も支援対象に加えられた。いずれも交付対象は都道府県・市町村および連携協議会であり、宿泊施設が直接申請する制度ではない。地域として何を整備するかを決めるのは自治体側なので、温泉組合や観光協会を通じて「宿の敷地周辺で必要な整備」を早めに上げておくことが、制度を実際に使える形にする近道になる。

あわせて、ハード面の投資判断が絡む場合は温泉地の敷地に関する規制の整理も参考になる。屋外設備の配置変更や建て替えを検討する場面では、獣害対策と土地規制を同じテーブルで見ておきたい。

まとめ — 秋の3か月をどう迎えるか

整理すると、2025年度の出没は全国5万801件で、その61.2%が9〜11月に集中した。人身被害216件のうち68.1%も同じ3か月に起きており、発生場所は市街地や人家周辺といった人の生活圏側の割合が高まっている。出没上位8県は全国件数の79.4%を占め、その温泉地・山間41市町村には1,730施設・52,467室の宿泊ストックがあり、同じ3か月に1,517万人泊の需要が動く。

一方で2026年の東北はブナの開花指数が回復し、2025年のような堅果類の大凶作という前提条件は今のところ見当たらない。結実の確定は秋になるため断定はできないが、過度に構える段階でもない。現実的な着地点は、出没情報の掲出・誘引物の管理・屋外動線の見直し・自治体との連絡手順という、費用をかけずに始められる4点を秋の入口で整えておくことだろう。緊急銃猟制度が動き出し、国の支援メニューも自治体経由で用意されている今は、地域として備えを積み増しやすい局面でもある。山と共にある宿にとって、秋の受入体制は集客を支える基盤そのものである。

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参考資料・出典一覧

■ 政府統計・公的資料

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 宿泊施設数・客室数(稼働確認ベース)、市町村別の推定成約ADR(2025年9〜11月)
クマ出没5万801件の秋、温泉地の備え|出没上位8県の宿泊ストックを地図化

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