日本政府観光局(JNTO)は2026年9月29日、米国市場向けのプレスリリース「Where to Go in 2027: Japan Edition」で、2027年に訪れるべき日本の5県として奈良・香川・島根・新潟・神奈川を挙げた。国内ではトラベルボイスが10月6日に報じている。JNTOの文脈は「定番以外の、その年にしか体験できない理由がある場所」であり、世界遺産の登録や周年、芸術祭、国際園芸博覧会、ラグジュアリーホテルの開業が各県の理由として並ぶ。本稿では、この5県が外国人宿泊の規模としてどの位置にいるのかを観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年確定値と2026年速報値で確かめ、推定成約ADRの季節の山がどこにあるのか、2026〜27年にどれだけの客室が加わるのかを県単位で整理したうえで、JNTOの推奨を宿泊需要に変える余地を読み解く。
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
- — 4.19%:5県の外国人延べ宿泊者数(2025年確定値、合計7,537,810人泊)の全国シェア。前年比+18.9%は全国(+9.4%)の約2倍。
- — 2026年は方向が割れる:1〜7月累計で新潟+4.6%・島根+4.4%・神奈川+3.5%、奈良−22.1%・香川−3.9%(全国−8.5%)。
- — 外国人宿泊の山は県ごとに違う:新潟は1〜3月に年間の53.1%、奈良は4月、香川・島根・神奈川は10月が最多で、夏に山を持つ県はない。
- — 推定成約ADRの谷は5県とも2026年6月:最高月は奈良・島根・神奈川が2025年11月、新潟が12月、香川が2026年8月。12か月平均は前年比+3.3〜+6.2%。
- — 新規供給:2026年開業(掲載確認分)は神奈川47軒・1,486室、香川32軒・857室。2027年はコンラッド横浜(272室)とマンダリン オリエンタル 瀬戸内(高松92室・直島22室)が最上位帯に加わる。
JNTOが挙げた5県と「2027年である理由」
まず一次資料を確認しておく。JNTOニューヨーク事務所のリリースは、日本が2027年も米国からの渡航先として注目を集め続ける見通しを前提に、「ユニークで、定番から外れた」県を5つ選んだと書いている。選定理由は県ごとに異なるが、共通するのは「2027年に期限や節目がある」ことだ。下表はリリースの記載をそのまま要約したもので、客室数や開業日はJNTOの記載に加え、各社の公式発表で確認できた値のみを補っている。
| 県 | JNTOの位置づけ | 2027年の節目・催事 | 言及された宿泊施設 |
|---|---|---|---|
| 奈良県 | 京都・大阪から約1時間。古代の遺産とラグジュアリーの両立 | 「飛鳥・藤原の宮都」(19資産)が2026年7月に世界遺産登録 | 星のや奈良監獄(2026年6月開業、旧監獄を転用した宿泊施設)と、明日香村で2027年開業予定の同系列施設に言及 |
| 香川県 | 面積最小の「アートの県」 | 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)が改修を終え2027年春に再開 | マンダリン オリエンタル 瀬戸内(高松・直島)が2027年夏開業予定。事業主体の2023年12月15日発表では高松92室(サンポートB2街区・地上13階)、直島22室(本村地区・メイン棟+離れ3棟) |
| 島根県 | 「最も精神性の高い県」 | 石見銀山が2027年に発見500年・世界遺産登録20年。出雲大社、足立美術館の庭園 | (記載なし) |
| 新潟県 | 食とアートが交わる県。東京から新幹線で約1時間 | 第10回 大地の芸術祭(2027年7月17日〜11月7日)。伝統的酒造りがユネスコ無形文化遺産、佐渡島の金山が2024年に世界遺産 | 妙高で2029年初頭開業予定のスキーリゾートに言及(2027年の項目ではあるが開業は2029年) |
| 神奈川県 | 横浜を中心に、東京都心から短時間 | GREEN×EXPO 2027(2027年3月19日〜9月26日、横浜・上瀬谷) | HOTEL THE MITSUI HAKONE(2026年12月15日開業、126室)、コンラッド横浜(2027年開業予定、272室) |
出典:JNTO「Where to Go in 2027: Japan Edition」(2026年9月29日)、四国まちづくり&おもてなしプランニング発表(2023年12月15日)、三井不動産発表(2026年7月)、ヒルトン「会社概要」(2026年8月25日更新)よりホテルバンク編集部作成
ここで押さえておきたいのは、5県の「節目」が暦の上でばらけていることである。GREEN×EXPOは3月から9月、大地の芸術祭は7月から11月、MIMOCAの再開は春、マンダリン オリエンタルの開業は夏で、石見銀山の周年は通年の訴求になる。つまり2027年の5県は、同じ時期に同じ需要を奪い合う構図ではなく、春・夏・秋それぞれに別の県が理由を持つ。この点は後述するADRの季節の山と合わせて読むと、各県の「どの月に伸びしろがあるか」の答えになる。
外国人延べ宿泊者数 2025年確定値 — 5県合計で全国の4.2%、伸び率は全国の約2倍
では、5県は外国人宿泊の規模としてどこにいるのか。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年(令和7年)確定値によると、全国の外国人延べ宿泊者数は1億7,992万人泊で前年比+9.4%だった。5県の合計は7,537,810人泊、全国シェアは4.19%にとどまる一方、前年比は+18.9%と全国の約2倍の伸びを示した。JNTOが「定番から外れた」と表現した通り、規模は小さいが成長局面にある県が選ばれている。
| 県 | 外国人延べ宿泊者数 2025年(人泊) | 前年比 | 全国シェア | 外国人比率 | 延べ宿泊者数 全体(人泊) |
|---|---|---|---|---|---|
| 奈良県 | 520,130 | +30.1% | 0.29% | 16.4% | 3,177,210 |
| 香川県 | 1,127,070 | +24.3% | 0.63% | 22.9% | 4,931,700 |
| 島根県 | 114,300 | +36.5% | 0.06% | 3.3% | 3,428,130 |
| 新潟県 | 848,870 | +60.6% | 0.47% | 8.3% | 10,205,090 |
| 神奈川県 | 4,927,440 | +11.5% | 2.74% | 18.4% | 26,794,990 |
| 全国 | 179,922,130 | +9.4% | 100.00% | 27.2% | 661,105,480 |
| 5県合計 | 7,537,810 | +18.9% | 4.19% | 15.5% | 48,537,120 |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成
内訳を見ると、神奈川県が4,927,440人泊(前年比+11.5%・全国シェア2.74%)で5県の65%を占め、香川県が1,127,070人泊(+24.3%)、新潟県が848,870人泊(+60.6%)と続く。新潟県の伸び率が突出しているのは、後述のとおり冬季のスキー需要が1〜3月に集中して積み上がったためだろう。奈良県は520,130人泊(+30.1%)で、延べ宿泊者数に占める外国人比率は16.4%で、香川県(22.9%)、神奈川県(18.4%)に次ぐ5県中3番目の水準にある。島根県は114,300人泊と5県で最も少なく、外国人比率も3.3%にとどまるが、前年比は+36.5%と高い。石見銀山の周年と出雲大社を軸にした2027年の訴求は、母数が小さい分だけ伸び率として表れやすい県といえる。
2026年1〜7月の速報値 — 全国は減速、5県は方向が割れる
直近の動きはどうか。2026年分は同調査の月次速報値(2026年7月分は第2次速報、8月分は第1次速報)で追える。注意点が一つある。観光庁は統計精度向上のため、2026年1月分調査から施設の層化基準を「従業者数」から「客室数」に変更しており(客室数20室以上は悉皆調査、20室未満は標本調査)、前年同月比には見直しの影響が含まれている可能性があると注記している。本稿の2026年の比較も同じ留保付きで読んでほしい。
全国の外国人延べ宿泊者数は2026年7月が1,331万人泊(前年同月比−6.5%)、8月(第1次速報)が1,264万人泊(同−10.3%)で、1〜7月累計では96,556,530人泊と前年同期比-8.5%だった。8月分の都道府県別内訳は第2次速報(10月30日公表予定)を待つ必要があるため、県別は1〜7月で並べる。
| 県 | 2026年1〜7月 (人泊) | 2025年1〜7月 (人泊) | 前年同期比 | 2026年7月 (人泊) | 7月 前年同月比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 奈良県 | 252,720 | 324,300 | -22.1% | 32,710 | -30.8% |
| 香川県 | 590,560 | 614,700 | -3.9% | 76,640 | +16.1% |
| 島根県 | 63,860 | 61,190 | +4.4% | 8,920 | -26.3% |
| 新潟県 | 617,340 | 590,220 | +4.6% | 30,430 | -14.9% |
| 神奈川県 | 2,759,320 | 2,666,340 | +3.5% | 371,010 | -3.9% |
| 全国 | 96,556,530 | 105,485,610 | -8.5% | 13,314,610 | -6.5% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」推移表(2026年7月分 第2次速報まで)よりホテルバンク編集部作成。2026年1月分から層化基準が変更されており、前年比には見直しの影響が含まれる可能性がある
全国が減速するなかで、新潟県(+4.6%)、島根県(+4.4%)、神奈川県(+3.5%)の3県は1〜7月累計で前年を上回った。新潟県は1〜2月だけで384,630人泊と、前年の同じ2か月(354,170人泊)を上回っており、冬の山がさらに高くなった形である。一方で奈良県は-22.1%、7月単月では-30.8%と5県で最も大きく減った。4月は56,130人泊と前年(71,060人泊)に届かず、5〜7月も前年を下回っている。世界遺産登録が7月であったことを踏まえると、登録効果が宿泊数に表れるのは秋以降、あるいは2027年の訴求が本格化してからと見るのが妥当だろう。香川県は7月単月で+16.1%と反転しているが、1〜7月累計では-3.9%で、2025年春に瀬戸内国際芸術祭の春会期(4月18日〜5月25日)があった反動が4〜5月に出ている。
月別に見た「山」の位置 — 新潟は1月、奈良は4月、香川・島根・神奈川は10月
JNTOの推奨を受け止める側として重要なのは、各県の外国人宿泊が年のどの月に集中しているかである。2025年確定値の月別構成比(年計に占める各月の割合)を5県で比べると、山の位置がはっきり分かれる。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成
新潟県は1月だけで年間の23.0%、1〜3月で53.1%を占め、冬に偏った構造である。4〜9月はいずれも5%未満で、大地の芸術祭(2027年は7月17日〜11月7日)が埋めようとしているのはまさにこの空白期間だ。奈良県は4月が13.7%で最も高く、春の山が明確である。香川県は10月が12.4%、11月が11.2%で、10〜11月に年間の23.6%が集まる。2025年は瀬戸内国際芸術祭の秋会期(10月3日〜11月9日)と重なっており、芸術祭のない2027年にマンダリン オリエンタルの開業(夏)とMIMOCAの再開(春)がどこまでこの季節性を平準化するかが論点になる。島根県と神奈川県も10月が最多で、秋の山を持つ。外国人シェアが秋に最も高まる県が47都道府県のうち6県にとどまることは、訪日客比率が「秋に上がる県」は47中6県 — 外国人シェアの季節地図で整理している。
STRが2026年9月のAHICE(日本・極東アジアホテル産業カンファレンス)で示した分析では、国内需要は1995年以来一貫して8月が山である一方、訪日需要には桜の春・紅葉の秋・雪の冬という3つの山があり、訪日比率が高まるほど夏が閑散期に近づく兆しがあるとされた。5県の月別構成比はこの整理と整合的で、新潟は「冬」、奈良は「春」、香川・島根・神奈川は「秋」の山をそれぞれ持ち、夏(6〜9月)に年間の山を持つ県はない。
推定成約ADRの季節性 — 4県が11〜12月に山、5県すべてが6月に谷
単価はどうか。メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(各施設のOTA最安プラン水準に業態別補正係数を適用した推定値、税抜相当)を都道府県単位の中央値で見ると、確定月である2025年10月〜2026年9月の12か月で、山と谷の位置は次の通りになる。
| 県 | 最高月(ADR) | 第2位の月(ADR) | 最低月(ADR) | 12か月平均 | 前年同期比 | 対象施設数 (月ごと) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 奈良県 | 2025年11月(¥16,590) | 2025年12月(¥14,858) | 2026年6月(¥9,803) | ¥13,181 | +3.3% | 131〜136 |
| 香川県 | 2026年8月(¥8,994) | 2025年11月(¥8,614) | 2026年6月(¥7,074) | ¥8,055 | +3.5% | 146〜163 |
| 島根県 | 2025年11月(¥12,592) | 2025年12月(¥11,870) | 2026年6月(¥8,980) | ¥10,392 | +5.7% | 163〜181 |
| 新潟県 | 2025年12月(¥11,478) | 2026年8月(¥11,320) | 2026年6月(¥8,368) | ¥9,711 | +6.2% | 405〜435 |
| 神奈川県 | 2025年11月(¥15,574) | 2025年12月(¥15,289) | 2026年6月(¥12,318) | ¥14,164 | +5.8% | 542〜586 |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(確定月のみ。前年同期比は2024年10月〜2025年9月の12か月平均との比較)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(1〜9月は2026年、10〜12月は2025年の確定値を暦月順に配置)
奈良県・島根県・神奈川県は2025年11月、新潟県は2025年12月が最高月で、5県のうち4県が晩秋から初冬に単価の山を持つ。奈良県は11月に¥16,600まで上がり、12月(¥14,900)が続く。4月(¥14,800)もほぼ同水準で、春にも山がある。神奈川県も11月(¥15,600)、12月(¥15,300)、4月(¥15,300)の順で、秋と春の2つの山が並ぶ(箱根・みなとみらい・湘南・業務帯で季節の形が異なる点は神奈川ホテル市場2026 — 箱根・みなとみらい・湘南・業務帯の4層と秋に開く単価差を参照)。新潟県は12月(¥11,500)と1月(¥11,200)に加えて8月(¥11,300)も高く、スキーに加えて夏の避暑需要が二つ目の山を作っている。香川県だけは8月(¥9,000)が最高月だが、前年の8月は¥10,600と芸術祭の夏会期に重なって高く、2026年8月は−15.4%で推移した。
谷は5県とも2026年6月である。奈良県は¥9,800で前年同月比−17.7%、神奈川県は¥12,300で−6.2%と、山との差は奈良県で約1.7倍、神奈川県で約1.3倍に開く。先ほどの外国人宿泊の月別構成比で新潟・香川・神奈川の夏が平均以下だったことと重ねると、6〜7月は「量も単価も下がる」月であり、STRの「夏が閑散期に近づく」という指摘が単価側からも確認できる。ただし奈良県の6〜7月は修学旅行の分散受け入れ月でもあり、団体中心の需要構成が中央値を押し下げている面もある。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
12か月平均で見ると、新潟県(+6.2%)、神奈川県(+5.8%)、島根県(+5.7%)が5%台の上昇、香川県(+3.5%)と奈良県(+3.3%)が3%台である。月別の前年同月比は2025年10月〜2026年4月が島根県の2月(−0.4%)を除いてプラス圏で、5〜7月にマイナスへ転じ(奈良県は5月、香川・新潟・神奈川県は6月、島根県は7月から)、9月に神奈川県(+5.6%)、香川県(+7.8%)、新潟県(+3.6%)、島根県(+1.4%)がプラスへ戻った。奈良県だけは9月も−3.6%と戻りが遅い。2026年は春までの値上げが夏に剥落する形で推移しており、秋以降に単価の山をどこまで取り戻せるかが2027年の助走になる。
2026〜27年の新規供給 — 神奈川は2026年に1,486室、香川は過去3年で最多の857室
需要の受け皿はどれだけ増えるのか。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、OTA掲載が確認できた新規開業施設を県別・開業年別に集計した。掲載は開業の数か月前から出るため、2026年の残り期間と2027年は今後の掲載で件数・客室数が増える。2027年の列は「現時点で掲載が確認できた施設」にすぎず、下限値として読む必要がある。
| 県 | 2024年開業 | 2025年開業 | 2026年開業 (掲載確認分) | 2027年開業 (掲載確認分) |
|---|---|---|---|---|
| 奈良県 | 14軒/315室 | 13軒/167室 | 16軒/176室 | 0軒/0室 |
| 香川県 | 46軒/399室 | 48軒/719室 | 32軒/857室 | 1軒/24室 |
| 島根県 | 18軒/26室 | 33軒/346室 | 16軒/342室 | 1軒/158室 |
| 新潟県 | 33軒/284室 | 18軒/251室 | 17軒/591室 | 0軒/0室 |
| 神奈川県 | 60軒/1,276室 | 53軒/1,171室 | 47軒/1,486室 | 1軒/50室 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。開業年は各施設の設立日、客室数は各施設の登録値の合計
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。2026年は掲載確認分のみで、今後増加する
神奈川県は2026年開業分だけで47軒・1,486室が確認でき、2024年(1,276室)、2025年(1,171室)を上回る。内訳はOMO7横浜(276室)、ヒルトン・ガーデン・イン横浜みなとみらい(228室)、THE DAY HOTEL ShinYokohama(191室)、The HOTEL Well-hub Haneda(186室)、OMO5横浜馬車道(175室)など横浜・川崎の100室超が中心で、年末にはHOTEL THE MITSUI HAKONE(126室、12月15日)が加わる。国土交通省「建築物動態統計調査」の確認申請ベースでは、横浜市中区北仲通の共同住宅・ホテル複合(ホテル272室、2027年5月末竣工予定)が控えており、客室数と所在地はヒルトンの会社概要が示すコンラッド横浜(272室・2027年開業予定)と一致する。GREEN×EXPOの会期(2027年3〜9月)にちょうど重なる開業であり、横浜の最上位帯に新しい価格の基準点ができる。
香川県は2026年に32軒・857室で、2024年(399室)、2025年(719室)から増え続けている。JRクレメントイン高松兵庫町(191室)、HOTEL AZの三木店と観音寺店(各158室)、スマイルホテル観音寺(91室)、HOTEL RAH(88室)とビジネス帯の供給が厚く、2027年夏のマンダリン オリエンタル 瀬戸内(高松92室・直島22室)は価格帯としてこれらとは別の層に入る。島根県は2026年にダイワロイネットホテル松江駅前(208室)、2027年1月にHOTEL AZ島根安来店(158室)が確認でき、県内客室の規模からすると小さくない追加である。新潟県はTrip7湯沢天空温泉ホテル(220室)とホテルグローバルビュー長岡(206室)で2026年は591室と、前年の2倍超になった。奈良県は2026年に16軒・176室で、48室(星のや奈良監獄)と42室の2軒の計3軒を除けば10室以下の小規模施設が中心で、世界遺産登録地の明日香・橿原・桜井の受け皿は依然として薄い。県内の価格帯別に見た供給の空白については、奈良のホテル投資、60室以上でADR2万円超は1軒 — 6,728室の空白価格帯が掘り下げている。
推奨を需要に変える余地 — 県ごとの「空いている月」に理由を置く
ここまでを整理すると、JNTOの5県は「外国人宿泊の規模は小さいが伸び率は高く、単価の山が秋に集中し、6月に谷を持つ」という共通の輪郭を持ちながら、山の月は県ごとに違う。推奨を宿泊需要に変える余地は、この「空いている月」に2027年の理由を置けるかどうかにある。
奈良県は春(4月)の山と秋(11月)の山がすでにあり、谷は6〜7月である。飛鳥・藤原の登録は7月だったが、宿泊数への反映は2026年前半に見えていない。2027年に向けては、登録1周年となる7月に「夏の飛鳥」を米国市場へ訴求する余地が大きい。単価側でも6〜7月は前年比二桁減で推移したため、ここに訪日個人客の滞在を加えられれば中央値の底上げに直結する。香川県は芸術祭のない2027年にマンダリン オリエンタルの夏開業とMIMOCAの春再開が重なる。10〜11月に年間の23.6%が集まる季節性を、春と夏に分散させる材料がそろう年であり、ビジネス帯の供給増(2026年857室)と上位帯の開業が同時に進む点で、価格帯ごとの役割分担が問われる。
島根県は外国人比率3.3%と5県で最も低く、裏を返せば伸びしろが最も大きい。石見銀山の発見500年・登録20年は通年の訴求素材で、秋(10〜11月)の山に加えて5月(ADR第3位・¥11,000)の春需要を伸ばせる。松江駅前に208室、安来に158室が加わる供給面の余裕もある。新潟県は冬に53.1%が集中し、4〜9月は各月5%未満である。第10回大地の芸術祭(7月17日〜11月7日)は空白期間をそのまま覆う会期であり、前回(2024年・第9回)開催時の宿泊需給を踏まえた受け入れ計画が立てやすい。神奈川県は5県の65%を占める規模の県で、GREEN×EXPOの3〜9月は春の山(4月)から夏の谷(6〜7月)までを横断する。横浜に2026〜27年で1,000室超、箱根に126室が加わるなか、会期中の平日をどう埋めるかが成果の分かれ目になるだろう。
最後に、JNTOの推奨は「2027年に行く理由」を米国市場に提示したものであり、宿泊数として表れるのは早くても2027年春以降である。本稿の5県の数字は、その助走期間に各県がどの月・どの価格帯を伸ばせるかを測る基準線として使ってほしい。
よくある質問
Q. JNTOが挙げた「2027年に訪れるべき5県」はどこですか?
A. 奈良県・香川県・島根県・新潟県・神奈川県の5県です。日本政府観光局(JNTO)ニューヨーク事務所が2026年9月29日に米国市場向けのリリース「Where to Go in 2027: Japan Edition」で発表しました。飛鳥・藤原の宮都の世界遺産登録、石見銀山の発見500年、第10回大地の芸術祭、GREEN×EXPO 2027、ラグジュアリーホテルの開業など、2027年に節目がある県が選ばれています。
Q. 5県の外国人延べ宿泊者数は全国のどのくらいですか?
A. 観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年確定値で、5県の合計は7,537,810人泊、全国シェアは4.19%です。前年比は+18.9%で、全国(+9.4%)の約2倍でした。5県のうち神奈川県が4,927,440人泊と約65%を占めます。
Q. 5県の客室単価が高い月・低い月はいつですか?
A. 推定成約ADR(都道府県単位の中央値、2025年10月〜2026年9月の確定月)で見ると、最高月は奈良県・島根県・神奈川県が2025年11月、新潟県が2025年12月、香川県が2026年8月です。最低月は5県とも2026年6月でした。
Q. 2026〜27年に5県で開業する主なホテルは?
A. 神奈川県ではHOTEL THE MITSUI HAKONE(126室、2026年12月15日開業)とコンラッド横浜(272室、2027年開業予定)、香川県ではマンダリン オリエンタル 瀬戸内(高松92室・直島22室、2027年夏開業予定)、島根県ではHOTEL AZ島根安来店(158室、2027年1月)が確認できます。2026年開業分(OTA掲載確認ベース)は神奈川県47軒・1,486室、香川県32軒・857室です。
まとめ
JNTOが米国向けに示した2027年の5県(奈良・香川・島根・新潟・神奈川)は、2025年の外国人延べ宿泊者数の合計が7,537,810人泊で全国シェア4.2%、前年比+18.9%と、規模は小さく伸び率は全国の約2倍だった。2026年1〜7月は新潟・島根・神奈川がプラス、奈良と香川がマイナスで方向が割れている。推定成約ADRは4県が11〜12月に山、5県すべてが6月に谷を持ち、12か月平均は+3.3〜+6.2%で推移した。新規供給は神奈川が2026年に1,486室、香川が857室と厚く、2027年にはコンラッド横浜(272室)とマンダリン オリエンタル 瀬戸内(高松92室・直島22室)が最上位帯に加わる。各県の「空いている月」に2027年の理由を置けるかが、推奨を需要に変える鍵になる。
関連記事
- 「飛鳥・藤原の宮都」世界遺産登録 — 明日香・橿原・桜井の宿泊受け皿を数字で棚卸し
- 島根のシティは確定7月−8.2%、ビジネスは+1.5% — 業態間スプレッドは¥1,817から¥965へ
- 大地の芸術祭2026・越後妻有 — 開幕2ヶ月の宿泊需給と8-9月想定ピーク
- GREEN×EXPO 2027開幕まで7か月半 — 上瀬谷会場5km圏の客室は1,172室
- コンラッド横浜272室、西区1.97万円と中区1.16万円の境に立つ最上位帯
- 修学旅行の分散先はどの月か|京都・奈良・長崎は6〜7月、沖縄は12〜1月
- 2026年7月の延べ宿泊者数は-3.5%、ADRは-4.4% — 47都道府県を量×単価の4象限で分類
あわせて読みたい
- 神奈川ホテル市場2026 — 箱根・みなとみらい・湘南・業務帯の4層と秋に開く単価差
- 香川16市町の単価階層マップ2026 — 県内9.4倍差、秋の立ち上がりは層で5倍違う
- 奈良のホテル投資、60室以上でADR2万円超は1軒 — 6,728室の空白価格帯
- ホテルルートインGrand出雲は244室・2027年以降 — 出雲市81施設2,164室の11%に当たる新規供給
- 季節で宿が出入りする県は新潟・北海道・山梨|掲載数の振れ14.5%と閑散月のADR
- 訪日客比率が「秋に上がる県」は47中6県 — 外国人シェアの季節地図
- 7月の外国人延べ宿泊−4.6%、減少の93%は中国 — 除けば−1.0%で地方18県は増加
参考資料・出典一覧
■ データソース
外国人延べ宿泊者数は観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年は確定値、2026年1〜7月は月次速報値、8月は全国値のみ第1次速報)。推定成約ADRと新規開業施設はメトロエンジンリサーチ(OTA公開価格・掲載情報の継続追跡)。JNTOの選定理由と各ホテルの客室数・開業時期は、リリースおよび事業者の公式発表による。
■ 試算前提
ADRは各施設のOTA最安プラン水準(2名1室・1室あたり・税込)に業態別の補正係数を適用した推定成約単価(税抜相当)の都道府県中央値で、確定月(2025年10月〜2026年9月)のみを使用。対象施設数は月ごとに県別131〜586施設。外国人宿泊の月別構成比は2025年確定値の各月÷年計。新規供給は各施設の設立日を開業年とし、登録客室数を合計した。
■ 限界・留意点
宿泊旅行統計は2026年1月分から層化基準が従業者数から客室数に変わっており、2026年の前年比には見直しの影響が含まれうる。推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。新規供給の2026年残り期間と2027年は掲載確認分のみで、下限値として読む必要がある。JNTOの推奨の宿泊数への効果は本稿の集計期間に含まれない。
- JNTO「Where to Go in 2027: Japan Edition」(日本政府観光局ニューヨーク事務所、2026年9月29日)
- JNTO、米国向けに2027年に訪れるべき5県を発表(トラベルボイス、2026年10月6日)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」 — 2025年(令和7年)年間値(確定値)集計結果、2026年7月分第2次速報・8月分第1次速報、推移表
- 観光庁「宿泊旅行統計調査の層化基準の変更について(2026年1月調査分より)」
- 世界のホテル業界キーパーソンが見る日本市場、訪日客の構成変化でピークシーズンにも変化 — AHICEレポート(トラベルボイス、2026年9月29日)
- 四国まちづくり&おもてなしプランニング「高松・直島へのマンダリン オリエンタル ホテルグループの進出について」(2023年12月15日)
- 三井不動産、箱根・小涌谷に「HOTEL THE MITSUI」でホテル開業、2026年12月に全126室で(トラベルボイス、2026年7月13日)
- GREEN×EXPO 2027(2027年国際園芸博覧会)公式サイト
- 瀬戸内国際芸術祭2025 公式サイト(会期:春4月18日〜5月25日、夏8月1日〜8月31日、秋10月3日〜11月9日)
- 国土交通省「建築物動態統計調査」(計画中ホテルの確認申請情報)
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(都道府県別・月次)、新規開業施設(OTA掲載確認ベース)
出典: ヒルトン「会社概要」(2026年8月25日更新)
