香川県のホテル単価は、県平均という一本の数字では到底とらえきれない。メトロエンジンリサーチのデータを市町単位まで分解すると、2026年6月実測の推定成約ADRは最上位の直島町が約¥46,200、最下位の坂出市が約¥4,900と、同一県内で約9.4倍の開きがある。しかもこの階層は秋に向けて一様に持ち上がるのではなく、層ごとにまったく異なる角度で立ち上がる。本稿では香川県16市町の単価階層を4層に整理し、昨年秋の実測値と今秋の見通しを重ねて、どの層にどれだけの伸びしろが残っているかを読み解く。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価)=各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- 掲載価格=各施設がOTA等に掲載している全プランの平均額(2名1室・1室あたり・税込、素泊まりから食事付きまでを含む)。上記のADRとは算出基準が異なるため、本記事では明確に区別して表記します。
- 算定対象施設数(n)=推定成約ADRの算出に用いた施設数。掲載価格の集計対象施設数とは別の数値で、本記事では両方を併記します。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ
- — 県内9.4倍差 — 2026年6月実測の推定成約ADRは直島町 約¥46,200(算定3施設)に対し坂出市 約¥4,900(同10施設)。県平均 約¥7,100の一本値では見えない構造。
- — 4つの単価階層 — 直島⇄まんのう間 約¥22,500、小豆島⇄琴平間 約¥6,500、土庄⇄高松間 約¥1,900の3つの段差で分離。単価を動かすレバーは「島」と「門前町」の5市町に集中。
- — 秋の傾きは層で約5倍差 — 前年実測で第2〜3層は6月比+45〜75%、県都・地方都市の第4層は+8〜15%。第4層の小さな振れ幅は行事期の伸びしろがそのまま残っていることを示す。
- — ピーク月がずれる — 秋の2ヶ月では琴平町・土庄町が10月に高く(金刀比羅宮 例大祭 10/9〜11)、小豆島町は11月に明確なピーク(寒霞渓の紅葉見頃)。データ上の山と行事カレンダーが月単位で符合。
- — ホワイトスペースは「中規模×¥12,000超」 — 平均25室以上かつ推定成約ADR ¥12,000超の市町がゼロ。秋のピーク時には複数市町が¥15,000前後に到達しており、通年で成立させる商品設計に最大の機会。
香川県16市町は4つの単価階層に分かれる
2026年6月の推定成約ADR(実測基準)を市町別に並べると、値は連続的に分布しているのではなく、明確な段差を伴って4つの塊に分かれる。最も大きな段差は直島町(約¥46,200)とまんのう町(約¥23,700)の間で、その差は約¥22,500。次いで小豆島町(約¥16,600)と琴平町(約¥10,100)の間に約¥6,500の段差があり、さらに土庄町(約¥9,100)と高松市(約¥7,200)の間に約¥1,900の段差が入る。この3つの段差で区切ると、香川県の宿泊単価構造は次の4層として整理できる。
| 階層 | 該当市町 | 推定成約ADR帯 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 第1層 | 直島町 | ¥40,000超 | アート観光の突出層。小規模宿が大半を占める島内で、少数の高単価宿が算定対象 |
| 第2層 | まんのう町(参考)、小豆島町 | ¥15,000〜¥25,000 | リゾート・島嶼上位層。滞在目的が明確で連泊需要を取り込む |
| 第3層 | 琴平町、土庄町 | ¥9,000〜¥15,000 | 門前町・島嶼ゲートウェイ層。参拝と島渡りの結節点で、行事期の弾力が大きい |
| 第4層 | 高松市ほか10市町 | ¥4,900〜¥7,200 | 県都・地方都市層。ビジネス・広域移動需要が基盤で通年の変動が小さい |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年6月実測基準)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年6月・推定成約ADR、括弧内は算定対象施設数n)
第4層の内部は¥4,900〜¥7,200の幅に11市町が密集しており、市町間の差はほとんどない。県内で単価差を生んでいるのは、実質的に第1層から第3層までの5市町だという構造が見てとれる。言い換えれば、香川県内で単価を動かすレバーは「島」と「門前町」に集中している。こうした県内格差は香川に限った話ではなく、全国の都道府県で同様のレンジ差が観測される。その全国的な広がりについては県内ADRは最大5.2倍開く — 市区町村レンジ全国比較でみる二極構造と空白帯で整理している。
「施設数」には二重構造がある — 直島町37施設と算定対象3施設
この階層図を読むうえで、避けて通れない前提がある。市町別の集計には性格の異なる2つの施設数が併存しているという点だ。掲載価格の集計対象となる施設数と、推定成約ADRの算定対象となる施設数は同じではない。推定成約ADRは業態別の補正係数を適用できる検証済みカテゴリ(ビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセル)に限って算出されるため、ペンションや民宿、ゲストハウスが多いエリアでは算定対象が大きく絞り込まれる。
その差が最も極端に出るのが直島町である。2026年6月時点で掲載価格の集計対象は37施設あるのに対し、推定成約ADRの算定対象はわずか3施設。しかも掲載価格の平均は約¥20,600であるのに対し、推定成約ADRは約¥46,200と、通常とは逆方向に大きく乖離している。これは母集団のミックスの違いによるもので、島内37施設の大半を占める小規模宿が掲載価格側には含まれ、推定成約ADR側には含まれていないためだ。実際、当社が把握する直島町の47施設・258室は1施設あたり平均5.5室と極端に小さく、島の宿泊供給が小規模宿中心であることを裏づけている。
したがって直島町の約¥46,200という数値は、「島全体の標準的な宿泊単価」ではなく「算定対象となった3施設の水準」として読む必要がある。島の平均像を知りたい場合は、掲載価格ベースの約¥20,600(集計対象37施設)のほうが実態に近い。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
さらに注意が必要なのは、直島町の算定対象施設数が2026年6月の3施設から10月・11月には1施設まで減る点である。直島町の10月見通しである約¥24,000という値も、算定対象がわずか1施設の値であり、6月の3施設の値と直接比較できるものではない。この低下は需要の減退を示すものではなく、算定対象の入れ替わりによる見かけ上の変動と考えるのが妥当だ。参考までに、前年の2025年10月・11月については直島町の推定成約ADRがそもそも算出されておらず、この島の単価は季節を通じて安定した比較が難しい領域にある。
同じ理由で、まんのう町も慎重な扱いが必要となる。掲載価格の集計対象は2〜3施設、推定成約ADRの算定対象は全期間を通じて1施設である。約¥23,700という6月値は特定の1施設の水準であり、「まんのう町の平均」とは呼べない。以下、本記事では直島町とまんのう町を参考値として扱い、断定的な市町間比較からは外して論じる。多度津町(算定対象1施設)、善通寺市(同1施設)、三木町(同2施設)、東かがわ市(同2施設)、さぬき市(同3施設)、宇多津町(同3施設)も同様に参考扱いとする。
市町別データ一覧 — 実測・見通し・供給規模
| 市町 | 26年6月 推定成約ADR | 算定 n | 26年6月 掲載価格 | 26年10月 見通し | 26年11月 見通し | 施設数 | 客室数 | 平均 室/施設 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 直島町 参考 | ¥46,235 | 3 | ¥20,630 | ¥24,010 | ¥21,240 | 47 | 258 | 5.5 |
| まんのう町 参考 | ¥23,701 | 1 | ¥39,161 | ¥35,213 | ¥34,914 | 5 | 81 | 16.2 |
| 小豆島町 | ¥16,622 | 9 | ¥29,197 | ¥19,463 | ¥30,252 | 45 | 592 | 13.2 |
| 琴平町 | ¥10,062 | 16 | ¥25,258 | ¥14,709 | ¥15,046 | 33 | 862 | 26.1 |
| 土庄町 | ¥9,051 | 9 | ¥27,852 | ¥17,712 | ¥18,674 | 59 | 1,020 | 17.3 |
| 高松市 | ¥7,166 | 72 | ¥17,739 | ¥11,335 | ¥10,629 | 163 | 7,714 | 47.3 |
| 東かがわ市 参考 | ¥6,784 | 2 | ¥21,345 | ¥10,813 | ¥13,694 | 14 | 350 | 25.0 |
| 観音寺市 | ¥6,279 | 13 | ¥15,625 | ¥8,914 | ¥9,219 | 23 | 818 | 35.6 |
| 多度津町 参考 | ¥6,176 | 1 | ¥27,167 | — | — | 5 | 37 | 7.4 |
| 丸亀市 | ¥6,105 | 12 | ¥14,759 | ¥9,022 | ¥9,157 | 27 | 1,624 | 60.1 |
| 宇多津町 参考 | ¥5,788 | 3 | ¥16,097 | ¥8,993 | ¥9,219 | 11 | 323 | 29.4 |
| 三豊市 | ¥5,626 | 5 | ¥31,139 | ¥7,829 | ¥7,829 | 43 | 200 | 4.7 |
| 三木町 参考 | ¥5,498 | 2 | ¥26,732 | ¥8,924 | ¥8,924 | 3 | 201 | 67.0 |
| さぬき市 参考 | ¥5,309 | 3 | ¥45,935 | ¥7,923 | ¥7,855 | 28 | 179 | 6.4 |
| 善通寺市 参考 | ¥5,172 | 1 | ¥9,738 | ¥6,060 | ¥5,989 | 11 | 206 | 18.7 |
| 坂出市 | ¥4,892 | 10 | ¥14,003 | ¥9,027 | ¥9,038 | 30 | 968 | 32.3 |
※「参考」は推定成約ADRの算定対象が3施設以下、または母集団の偏りが大きく市町平均としての解釈に注意を要する市町。10月・11月は調査時点の掲載水準に基づく見通しであり、実測値ではありません。施設数・客室数はメトロエンジンリサーチが把握する範囲で客室数が登録されている施設の集計。綾川町は推定成約ADRの算定対象がないため一覧から除外しています。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
秋の立ち上がり方は層ごとにまったく違う — 前年実測が示す約5倍の傾き差
ここからが本記事の核心である。香川県の各市町は秋に向けて一斉に単価が上がるわけではない。層ごとに立ち上がりの角度がはっきり異なる。
まず、比較の基準を揃えておきたい。推定成約ADRには、月が締まって検証済みの基準に切り替わった実測と、調査時点の掲載水準から算出する見通しの2つの基準がある。2026年6月は実測、7月以降は見通しであり、この境界をまたぐ比較には基準差が混入する。実際、香川県全体でみると2025年は6月の約¥7,200から10月の約¥7,700へ+7.5%の上昇(いずれも実測基準)だったのに対し、2026年は6月の約¥7,100から10月の約¥10,900へ+54.4%(実測→見通し)と、桁違いの伸びに見える。この差の相当部分は基準の違いと、調査時点で残っている在庫の構成によるものと考えられる。季節の形そのものを読むには、実測どうしで比較できる前年の推移を見るのが確実だ。
そこで2025年6月を100として、6月から12月までの推定成約ADR(すべて実測基準)を指数化した。結果は明快だった。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2025年・すべて実測基準の推定成約ADR、2025年6月=100)
| 市町(層) | 2025年6月 | 2025年10月 | 2025年11月 | 6月比(10・11月の高い方) | 算定n |
|---|---|---|---|---|---|
| 小豆島町(第2層) | ¥14,700 | ¥20,800 | ¥25,700 | +74.5%(11月) | 7〜8 |
| 土庄町(第3層) | ¥7,300 | ¥10,800 | ¥10,700 | +47.8%(10月) | 10 |
| 琴平町(第3層) | ¥9,700 | ¥14,400 | ¥14,100 | +47.4%(10月) | 14〜15 |
| 坂出市(第4層) | ¥4,300 | ¥5,700 | ¥6,500 | +53.8%(11月) | 8〜12 |
| 高松市(第4層) | ¥7,700 | ¥8,000 | ¥8,800 | +14.7%(11月) | 67〜72 |
| 観音寺市(第4層) | ¥6,400 | ¥6,800 | ¥7,200 | +13.4%(11月) | 9〜10 |
| 丸亀市(第4層) | ¥6,200 | ¥6,200 | ¥6,700 | +8.1%(11月) | 11〜12 |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2025年・実測基準の推定成約ADR)
観光需要が主軸の第2層・第3層は6月比で+45〜75%という角度で秋に立ち上がる。一方、県都・地方都市の第4層は高松市+14.7%、観音寺市+13.4%、丸亀市+8.1%と、傾きは+8〜15%にとどまる。同じ県内でありながら、秋の弾力性には約5倍の差がある。第4層は年間を通じてビジネス・広域移動需要を安定的に取り込む構造で、季節による振れが小さいぶん、行事期に単価を上げる余地がそのまま残されているとも読める。なお、観光地と県都で秋の傾きが分かれるこの構図は他県にも共通しており、群馬県の宿泊市場2026 — 草津・伊香保・四万みなかみ・前橋高崎の4層で読む秋のADR階層でも同じ4層の枠組みで検証している。
もうひとつ興味深いのは、ピーク月が層によってずれる点だ。琴平町と土庄町は秋の2ヶ月では10月が高く、小豆島町は11月に明確なピークが来る。この1ヶ月のずれは、後述する秋の行事カレンダーとほぼ完全に一致している。なお坂出市は第4層に属しながら+53.8%と大きめの伸びを示しているが、算定対象が10月に8施設まで減っており、母集団の入れ替わりの影響を含む可能性がある点は付記しておきたい。
2026年秋の見通し — 第3層が¥15,000〜¥18,000帯へ
同じ市町について、2026年6月(実測)から12月(見通し)の推定成約ADRを実額で並べたのが次のグラフである。7月以降は調査時点の掲載水準に基づく見通しであり、実測とは基準が異なるため、6月との段差をそのまま需要の伸びと読むことはできない。ここで注目したいのは市町間の相対的な位置関係である。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年6月は実測、7月以降は調査時点の掲載水準に基づく見通し)
見通しベースでは、10月に土庄町が約¥17,700(算定8施設)、琴平町が約¥14,700(同14施設)と、いずれも第3層の水準を大きく上回る。11月には小豆島町が約¥30,300(同7施設)まで達し、6月の約¥16,600からほぼ倍増する形となる。県都の高松市も10月に約¥11,300(同69施設)、11月に約¥10,600(同65施設)と、6月の約¥7,200から水準を切り上げている。算定対象が69施設・65施設と厚いぶん、高松市の見通しは県内で最も信頼度が高い部類に入る。
前年の実測が示した「第3層は秋に高止まり、第2層は11月ピーク」という形は、2026年の見通しにも引き継がれている。琴平町は10月・11月がほぼ同水準(約¥14,700/約¥15,000)、小豆島町は11月が突出。層ごとのピーク月の違いは、単発の年の偶然ではなく構造として繰り返されていると考えてよいだろう。
供給の地理的分布 — 単価階層と客室規模は逆相関する
単価階層をもう一段深く理解するために、供給の分布を地図に落とした。円の大きさは各施設の客室数(平方根スケール)、色は所属する単価階層を示す。当社が把握する範囲で客室数が登録されている香川県内554施設をプロットしている。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=554施設)
地図が示すのは、単価の高い市町ほど円が小さいという逆相関である。高松市は163施設・7,714室で1施設あたり平均47.3室、丸亀市は27施設・1,624室で平均60.1室と、県内の客室ストックは瀬戸内海沿いの都市部に集中している。対して単価上位の直島町は47施設・258室で平均5.5室、小豆島町は45施設・592室で平均13.2室と、施設数の割に客室数が少ない。
つまり香川県では、「客室規模を持つエリア」と「単価を取れるエリア」がほぼ完全に分離している。この分離こそが、次に見る価格帯の空白を生んでいる。
規模×単価で見えるホワイトスペース — 中規模かつ¥12,000超の空白
横軸に1施設あたり平均客室数、縦軸に2026年6月の推定成約ADRをとり、円の大きさを施設数としてプロットすると、香川県の市町は明確なL字型に分布する。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年6月・推定成約ADR、円の大きさ=施設数)
この図から読み取れる空白は2つある。
空白① 中規模 × ¥12,000超
平均25室以上かつ推定成約ADR ¥12,000超に該当する市町がゼロ。最も近いのが琴平町(平均26.1室・約¥10,100)で、そこから上には市町が存在しない。規模の経済と単価を両立するレンジがまるごと空いている。
空白② ¥25,000〜¥40,000帯
第1層(約¥46,200)と第2層(約¥16,600〜¥23,700)の間に約¥22,500の断層があり、該当する市町がない。島嶼部の上位価格帯に厚みがない状態といえる。
空白①については、秋の見通しがヒントになる。10月・11月には土庄町が約¥17,700〜¥18,700、琴平町が約¥14,700〜¥15,000、小豆島町が11月に約¥30,300と、複数の市町が¥15,000前後から上の水準に到達する。季節のピーク時には需要側がその価格帯を受け入れているということであり、通年でその水準を維持できる商品設計に伸びしろがあると読める。琴平町は平均26.1室・33施設・862室と、県内の観光エリアでは相対的に客室ストックがまとまっている点も、この空白を埋める起点として有利に働きうる。
空白②は、島嶼部で滞在価値を高める商品の余地を示している。直島町では小規模宿が供給の大半を占め、平均5.5室という規模構成のもとで一部の施設が¥40,000超の水準を実現している。その間の価格帯に厚みが生まれれば、島全体としての受け入れ層が広がる機会になるだろう。島嶼部で新たな価格帯を担いうる動きとしては、小豆島に34年ぶりに開業した「edit x seven 瀬戸内小豆島」の事例も参考になる。
2026年秋の需要カレンダー — ピーク月のずれを説明する3つの軸
層ごとのピーク月のずれは、香川県の秋の行事カレンダーと精密に対応している。以下はいずれも一次情報で確認した内容である。
| 時期 | 内容 | 主に効く市町 |
|---|---|---|
| 2026年10月9日〜11日 | 金刀比羅宮 例大祭(9日 宵宮祭/10日 例祭・神幸祭・御神輿発御/11日 行宮朝祭・還幸祭) | 琴平町(第3層) |
| 2026年11月10日 | 金刀比羅宮 紅葉祭 | 琴平町(第3層) |
| 11月上旬〜12月上旬 | 寒霞渓の紅葉見頃(日本三大渓谷美のひとつ、ロープウェイで景観を望む) | 小豆島町・土庄町(第2〜3層) |
| 2026年度〜(通年) | 瀬戸内国際芸術祭の屋内作品「定期公開」開始。小豆島・女木島・男木島は5〜11月の第2土日、豊島は毎週土日月祝、粟島は毎週土曜、引田は毎週日曜、大島は4〜11月の第2土日 | 小豆島町・土庄町・東かがわ市 |
| 2025年5月31日開館 | 直島新美術館(安藤忠雄設計、ベネッセアートサイト直島における同氏設計の10番目の施設) | 直島町(第1層) |
出典:金刀比羅宮「令和8年 金刀比羅宮の年間行事」、小豆島町・寒霞渓ロープウェイ公表情報、瀬戸内国際芸術祭公表情報、ベネッセアートサイト直島公表情報よりホテルバンク編集部作成
ここで重要な確認をひとつ。瀬戸内国際芸術祭は3年ごとの開催で、直近の本開催は2025年、2026年は本開催年ではない。したがって2026年秋の島嶼部の需要は、芸術祭本体ではなく通年公開されているアート施設と自然景観が支えることになる。この点で注目すべきなのが2026年度から始まる屋内作品の定期公開である。これまで会期外に屋内展示を鑑賞できる機会はゴールデンウィークやお盆などの長期休暇に限られていたが、定期公開により小豆島・女木島・男木島では5〜11月の第2土日、豊島では毎週土日月祝に鑑賞機会が生まれる。加えて小豆島の瀬戸内アジアギャラリーでは「特別企画展2026」の開催が公表されており、会期外年の島嶼部にとって新たな来訪動機となる可能性がある。
琴平町の10月ピークは例大祭(10月9日〜11日)と、土庄町の10〜11月の高止まりは島渡りの玄関口としての機能と、小豆島町の11月ピークは寒霞渓の紅葉見頃と、それぞれ月単位で符合している。データ上のピーク月と行事カレンダーがここまで一致するのは、香川県の秋の宿泊需要が明確なアンカーを持っていることの現れといえる。
まとめ — 「県平均」では見えない4層と、層ごとに異なる打ち手
香川県全体の推定成約ADRは2026年6月時点で約¥7,100(算定162施設)、前年同月の約¥7,200からほぼ横ばいである。しかしこの一本の数字の内側では、市町ごとに9.4倍の単価差と、秋に向けて約5倍の傾き差を持つ4つの層が同居している。県平均を眺めているかぎり、この構造はまったく見えない。
層ごとに整理すると、打ち手の方向は次のように分かれる。第2層・第3層は前年実測で6月比+45〜75%という秋の弾力性が確認できており、ピーク月(琴平町10〜11月・小豆島町11月)に照準を合わせた商品設計が効きやすい。第4層は年間の振れ幅が+8〜15%と小さく安定しているぶん、行事期の需要を取り込む余地がそのまま伸びしろとして残っている。高松市は算定対象69施設という県内で最も厚い母集団を持ち、10月見通しが約¥11,300と6月実測の約¥7,200から水準を切り上げていることからも、秋の需要を単価に反映させる素地はある。
そして県全体としては、平均25室以上かつ¥12,000超という規模と単価を両立するレンジがまるごと空いている。秋のピーク時には複数の市町が¥15,000前後から上の水準に到達しており、その価格帯を受け入れる需要は実在している。それを通年で成立させる商品が、香川県の宿泊市場に残された最も大きな機会だといえるだろう。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年7月以降の推定成約ADRは、調査時点(2026年7月31日)でOTA等に公開されている販売価格に基づく見通しであり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。また実測基準(月が締まった過去月)とは算出基準が異なるため、6月実測値との段差をそのまま需要の伸びと解釈することはできません。算定対象施設数(n)が10施設未満の市町については、母集団の入れ替わりによる変動幅が大きい点にもご留意ください。
あわせて読みたい
- 県内ADRは最大5.2倍開く — 市区町村レンジ全国比較でみる二極構造と空白帯
- 地方二次都市の外資ブランド分岐点 — 金沢・熊本・高松の実勢ADRで検証
- 高松×直島マンダリンオリエンタル開発を起点とした瀬戸内エリア投資分析
- 【取材】香川・庵治町に開いた少しおせっかいな宿「kawasakike」
- 地方中核都市の新規供給吸収余地 — GW2026完売観測率×新規開業で読む8市マップ
- 群馬県の宿泊市場2026 — 草津・伊香保・四万みなかみ・前橋高崎の4層で読む秋のADR階層
- 福島県の宿泊市場2026 — 会津・裏磐梯・いわき・郡山、4層構造で読む秋のADR階層と伸びしろ
- 【取材】小豆島に34年ぶりの新ホテル「edit x seven 瀬戸内小豆島」始動
- ゴルフ旅の宿はいま、いくらか|ゴルフ場密集15市町村の秋の宿泊単価と受け皿
参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチの香川県16市町 月次集計(2025年6月〜2026年12月、2026年7月31日取得)。推定成約ADR・掲載価格・算定対象施設数(n)を市町単位で取得し、供給側は客室数が登録されている県内554施設の施設数・客室数・座標を用いた。需要カレンダーは金刀比羅宮・小豆島町・寒霞渓ロープウェイ・瀬戸内国際芸術祭・ベネッセアートサイト直島の各公表情報(一次情報)で確認。
■ 試算前提
推定成約ADRは各施設の最安プラン水準(2名1室・1室あたり・税込)に業態別の補正係数を適用した推計値(税抜相当)で、エリア値は算定対象施設の中央値。2026年6月までは月が締まった実測基準、7月以降は調査時点(2026年7月31日)の掲載水準に基づく見通し基準を用いている。4層の区分は6月実測値の分布に現れた3つの段差(約¥22,500/約¥6,500/約¥1,900)で機械的に切った。秋の傾き比較は基準差の混入を避けるため、すべて実測基準どうしで揃う2025年6月〜12月の系列で行っている。
■ 限界・留意点
算定対象が3施設以下の直島町・まんのう町・多度津町・善通寺市・三木町・東かがわ市は参考値であり、市町平均として断定的に比較できない。実測基準と見通し基準は算出方法が異なるため、6月と7月以降の段差をそのまま需要の増減と読むことはできない。算定対象施設数は月ごとに入れ替わるため、n が10施設未満の市町では母集団の変動が値に影響する(坂出市の10月は8施設まで減少)。推定成約ADRは推計値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。掲載価格と推定成約ADRは算出基準が異なるため直接比較できない。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ — 香川県16市町の推定成約ADR・掲載価格・施設数(2025年6月〜2026年12月、2026年7月31日取得)、施設分布・客室数(N=554施設)
■ 行事・観光情報(一次情報)
