トップ > 投資・開発 > 恩納村〜名護湾のリゾート客室、約4割が津波浸水想定区域 — BCP投資1室10万〜28万円、恩納村ADR2.19万円

恩納村〜名護湾のリゾート客室、約4割が津波浸水想定区域 — BCP投資1室10万〜28万円、恩納村ADR2.19万円

投稿日 : 2026.10.20

沖縄県

投資・開発

恩納村〜名護湾のリゾート客室、約4割が津波浸水想定区域 — BCP投資1室10万〜28万円、恩納村ADR2.19万円

沖縄本島西海岸のリゾート集積を、恩納村の瀬良垣を中心とする半径10km圏で切り取ると、30室以上の宿泊施設は34施設・6,819室になる。この6,819室を、沖縄県が2015年3月に設定した津波浸水想定(最大クラスの津波)に施設の代表点で重ねると、12施設・2,762室、客室ベースで40.5%が想定区域内に位置していた。ただし区域内の客室の6割にあたる1,660室は浸水深1m未満の帯にあり、2m以上の帯は4施設・457室にとどまる。一方で恩納村の推定成約ADRは2026年9月に21,895円と前年同月比+9.2%で推移し、7月には139室のBLISSTIA SUITES & RESORT 沖縄恩納村が開業するなど、西海岸では新規開業とリブランドが続いている。本稿では、浸水深帯別の客室分布を地図と表で確認したうえで、受変電設備の上階化と非常用発電機という設備配置のBCP投資を1室あたりで試算し、恩納村の推定成約ADRから保険・融資の審査でそのまま使える回収感度に落とし込む。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。
  • 浸水深帯:国土交通省 不動産情報ライブラリの津波浸水想定(沖縄県設定・国土数値情報2016年度版)を、各施設の代表点(緯度経度)で判定した浸水深の区分。建物の外形・階数・敷地の高さ・各施設が講じている対策は反映していない。
  • 対象施設:メトロエンジンリサーチが追跡するうち、稼働が確認できる約27,000施設から、北緯26.50度・東経127.86度(恩納村瀬良垣付近)を中心とする半径10km圏・30室以上・2026年9月に販売を確認できた施設を抽出。改称前後の名称で重複していた1施設は1施設として集計した。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設・推定成約ADR・推定稼働率)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・用途地域)、沖縄県(津波浸水想定・津波災害警戒区域・地価調査)。
対象施設・客室
34 / 6,819
恩納村瀬良垣 半径10km・30室以上
浸水想定区域内の客室
40.5%
12施設・2,762室
浸水深1m未満の帯
1,660室
5施設・区域内客室の60.1%
恩納村 推定成約ADR
21,895円
2026年9月・前年同月比+9.2%(N=44)
BCP設備の積み増し
9.8万〜28.0万円
1室あたり・区域内12施設の改修試算
Key Takeaways
  • — 40.5%:10km圏の34施設・6,819室のうち、沖縄県設定の津波浸水想定区域内は12施設・2,762室。区域外は22施設・4,057室で、ブセナ・万座・部瀬名の岬側や段丘上の大型施設が多い。
  • — 1,660室:区域内客室の60.1%は浸水深1m未満(0.01〜0.3m 1施設280室、0.3〜1m 4施設1,380室)。国の電気設備浸水対策ガイドラインが示す「浸水リスクの低い場所への設置」と水防ラインで機能継続を狙える帯である。
  • — 9.8万〜28.0万円:受変電設備の上階化と非常用発電機を区域内12施設で積み増すと総額2.7億〜7.7億円、1室あたり中位18.9万円。恩納村の12か月平均ADR21,562円・通年稼働率80%なら客室売上11日分にあたる。
  • — 21,895円:恩納村の推定成約ADRは9月で前年同月比+9.2%、8月は32,961円。2026年地価調査では恩納村の住宅地が+8.5%、商業地が+11.0%と県平均(+5.8%)を上回り、立地価値は市場で保たれている。
  • — 65円:中位の積み増し18.9万円を10年で回収するのに必要な通年ADRの上乗せ幅(稼働率80%)。新築200室モデルではBCP積み増しがGOP利回りを動かす幅は0.1ポイント未満で、利回りを決めるのは単価帯の選択である。

要点 — 「区域内か否か」ではなく浸水深帯で設備の置き方を決める

結論から述べる。第一に、西海岸リゾートの客室の約4割が津波浸水想定区域内にあるという事実は、立地の良否を示すものではなく、海に面した資産が持つ前提条件である。ビーチフロントであることが単価の源泉であり、区域外にある4,057室の多くも岬の先端や段丘の上という地形の違いで区域を外れているにすぎない。第二に、区域内の客室の6割が浸水深1m未満に集まっているため、国土交通省・経済産業省のガイドラインが基本に据える「設定浸水深に対して十分な高さに電気設備を置く」という考え方で、機能継続の水準に届く施設が多い。第三に、その設備投資は事業計画に織り込める規模に収まる。区域内12施設の改修を想定した試算では1室あたり9.8万〜28.0万円で、恩納村の推定成約ADRに換算すれば客室売上6〜16日分にあたる。以下、公表値、集計方法、浸水深帯別の分布、需要と地価、設備投資、保険・融資の順に確認する。

沖縄県の津波浸水想定 — 2015年3月設定の最大クラス、警戒区域は2018年に39市町村へ

まずは前提となる公表値を整理する。沖縄県は津波防災地域づくりに関する法律第8条に基づき、2015年(平成27年)3月に「沖縄県津波浸水想定」を設定・公表した。想定は「最大クラスの津波が悪条件下において発生した場合に想定される浸水の区域(浸水域)と水深(浸水深)」を示すもので、県は「避難を中心とした津波防災地域づくりを進めるためのものであり、津波による災害や被害の発生範囲を示すものではない」と注記している。10mメッシュの計算であるため堤防の狭い開口部や小河川は十分に表現されず、地形や構造物によっては区域外でも浸水が生じうる点も県が明記している。本稿で用いる国土交通省 不動産情報ライブラリの津波浸水想定レイヤーは、この県設定を国土数値情報(2016年度版)として収録したものであり、浸水深は0.01〜0.3m、0.3〜1m、1〜2m、2〜5m、5〜10m、10〜20mの6区分で提供される。

次に区域指定である。県は同法第53条に基づき、2018年(平成30年)3月27日に南風原町と与那国町を除く39市町村の津波災害警戒区域を指定しており、名護市・恩納村・読谷村・うるま市はいずれもこの日付で指定された。警戒区域は避難体制を整えるための区域で、建築や開発行為の制限は伴わない。一定の建築制限が生じる津波災害特別警戒区域は「現時点で沖縄県内に指定区域はない」と県が明示している。警戒区域とともに公表される基準水位は、浸水想定の水深に「建築物等への衝突による津波の水位の上昇を考慮して必要と認められる値を加えて定める水位」であり、設備を置く階の高さを決める際の実務上の基準になる。

集計の対象と方法 — 10km圏の34施設・6,819室を施設代表点で判定する

対象は、恩納村瀬良垣付近(北緯26.50度・東経127.86度)を中心とする半径10km圏で、2026年9月に販売を確認できた30室以上の宿泊施設である。圏域は南の読谷村・うるま市石川との境から北の名護市幸喜・部瀬名岬までを含み、万座・谷茶・前兼久・瀬良垣・名嘉真・喜瀬・幸喜といった西海岸の主要なビーチフロントがほぼ入る。メトロエンジンリサーチの施設データでは35件が該当したが、名護市幸喜の1施設が改称前後の名称で同じ座標に登録されていたため、公式情報で同一建物であることを確認し、1施設として数え直した。その結果が34施設・6,819室である。

浸水深の判定は、各施設の代表点(緯度経度)が不動産情報ライブラリの津波浸水想定ポリゴン(ズームレベル14のタイル132枚・9,248ポリゴン)に含まれるかを機械的に照合し、複数の帯に接する場合は深い側を採用した。代表点は建物のどこか一点にすぎず、敷地内の高低差や建物の外形は反映していない。したがって本稿の「区域内」は、その施設の全域が浸水するという意味ではなく、「設備配置と避難計画を検討する際に浸水深を前提条件として置くべき施設」という意味で読んでほしい。価格帯の分類は、メトロエンジンリサーチが集計した2026年9月の掲載価格(2名1室・税込)に基づくグレード区分を用い、ラグジュアリー8施設、アッパーミドル11施設、ミドル9施設、エコノミー4施設、バジェット1施設、価格データなし1施設という構成であった。

浸水深帯別の集計 — 2,762室(40.5%)が区域内、うち1,660室は1m未満の帯

集計結果を表1と図1に示す。6,819室のうち想定区域内は12施設・2,762室で、客室ベースの比率は40.5%になる。帯別に見ると、0.3〜1mの帯が4施設・1,380室と最も厚く、谷茶ベイの826室の大型施設と瀬良垣の3施設がここに入る。瀬良垣では、日本ハイアットが2018年8月に開業したハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄(343室)が同じ帯にあり、島状の敷地に低層の棟を分散配置した計画である。1〜2mの帯は3施設・645室で、サンマリーナ・冨着のビーチに面した中高層の2施設が中心となる。2m以上の帯は名護市幸喜・喜瀬の4施設・457室で、区域内客室の16.5%にとどまる。

表1 浸水深帯別の施設数・客室数(恩納村瀬良垣 半径10km・30室以上・2026年9月販売確認)
浸水深帯施設数客室数区域内客室比該当施設(施設代表点による判定)
0.01〜0.3m128010.1%ザ・ムーンビーチミュージアムリゾート
0.3〜1m41,38050.0%ロワジール リビングスイーツ 瀬良垣、リザンシーパークホテル谷茶ベイ、星野リゾートBEB5沖縄瀬良垣、ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄
1〜2m364523.4%みゆきハマバルリゾート、シェラトン沖縄サンマリーナリゾート、ホテルモントレ沖縄 スパ&リゾート
2〜5m337213.5%TWIN-LINE HOTEL YANBARU OKINAWA JAPAN、コートヤード・バイ・マリオット沖縄リゾート、ザ・テラスクラブ アット ブセナ
5〜10m1853.1%ベストウェスタン沖縄幸喜ビーチ
区域内 計122,762100%対象6,819室の40.5%
区域外224,057—対象6,819室の59.5%。部瀬名・万座・瀬良垣の岬側、前兼久〜冨着の段丘上の施設など
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・沖縄県設定)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設・客室数 N=34施設)。判定は施設代表点であり建物外形ではない。ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄の客室数は日本ハイアット「報道資料 2026年4月」の343室。
図1 浸水深帯別の客室数 — 区域内2,762室のうち1m未満が1,660室
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=34施設・6,819室)

この分布を読むうえで大切なのは、西海岸のリゾートが「海に向かって建つ」設計を共有している点である。区域外の4,057室の多くは、万座・部瀬名の岬の上や、国道58号から海側へ下る段丘の縁に建っており、海との距離ではなく地盤の高さで区域を外れている。逆に区域内の施設は、ビーチに直接おりられる砂浜との連続性を売り物にしており、浸水深帯の浅さがそのまま「ビーチへの近さ」を表しているともいえる。だからこそ本稿は、区域内か否かを立地の評価軸にはせず、浸水深帯ごとにどの設備をどこに置くかという設計と運用の論点に進む(ハザードを立地評価の軸として全国8商圏で比較した枠組みはホテル立地評価の第4軸「災害リスク」を定量化するを参照)。

地図で見る — 谷茶〜瀬良垣の浅い帯と、幸喜〜喜瀬の深い帯

図2は、津波浸水想定の浸水深を約100mメッシュに集約して地図に重ね、34施設を客室数に応じた円で示したものである。円の枠線の色が施設代表点の浸水深帯を表し、区域外はグレーで示した。恩納村南部の谷茶・前兼久・冨着では浸水想定が海岸沿いの細い帯にとどまり、施設の多くは0.3〜1mまたは1〜2mの帯か区域外に分かれる。瀬良垣から名嘉真にかけては低平な埋立地と砂州が続くため、島状の敷地でも0.3〜1mの帯に入る。一方、名護湾に面した幸喜・喜瀬では海岸線の近くまで2〜5mの帯が広がり、国道と海岸の間に建つ施設がこの帯にかかる。同じ10km圏でも、湾の奥に向かって浸水深が深くなるという地形の違いが、設備配置の優先順位を分ける。

図2 津波浸水想定(浸水深)と対象34施設の位置(円の大きさ=客室数、枠線の色=施設代表点の浸水深帯)
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・沖縄県設定、約100mメッシュに集約して表示)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設位置・客室数)。浸水域の表示は概略であり、原図は沖縄県の詳細地区別図を参照。

需要と単価 — 恩納村の推定成約ADRは9月21,895円(+9.2%)、8月は3.3万円

設備投資の回収を考えるには、この集積がどれだけの客室売上を生むかを押さえておく必要がある。メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(市区町村中央値)を2026年9月で並べると、恩納村は21,895円(N=44)で前年同月の20,046円から+9.2%上昇した。読谷村は22,553円(N=9)と恩納村をわずかに上回るが、サンプルが9施設と小さい。北部の今帰仁村は40,438円と突出しており、少室数のヴィラ型が中央値を押し上げている。名護市は11,384円(N=25)で、市街地のビジネスホテルが含まれるため西海岸リゾートの水準より低く出る。県内リゾートカテゴリの中央値は16,799円(N=282、前年同月比+7.3%)、県全体では12,040円(N=515、+10.0%)であった。

表2 市町村別の推定成約ADR(2026年9月・中央値・税抜相当)
市町村2026年9月2025年9月前年同月比N(施設)
今帰仁村40,438円37,492円+7.9%21
読谷村22,553円18,074円+24.8%9
恩納村21,895円20,046円+9.2%44
北谷町16,214円14,576円+11.2%25
本部町15,020円13,142円+14.3%22
名護市11,384円9,799円+16.2%25
沖縄県 リゾートカテゴリ16,799円15,652円+7.3%282
沖縄県 全体12,040円10,947円+10.0%515
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・市区町村中央値)。Nは各月の推定対象施設数。
図3 市町村別 推定成約ADR(2026年9月)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
図4 恩納村 推定成約ADRの月次推移(年別重ね合わせ)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=38〜44施設/月)。2026年10月は調査時点の掲載水準に基づく推定。

季節性は図4の通りで、恩納村の推定成約ADRは2026年7月30,375円、8月32,961円と夏に山をつくり、1〜6月は1.7万〜2.1万円で推移する。2025年と比べると、2026年は4月以降のすべての月で前年を上回っており、夏のピークは8月で+16.3%伸びた。2025年10月から2026年9月までの12か月平均は21,562円で、本稿の回収試算ではこの値を通年ADRとして用いる。稼働率は、メトロエンジンリサーチの推定で沖縄県リゾートカテゴリが2026年8月に87.2%(184施設・16,683室)、9月に87.7%(182施設・16,530室)であった。上場REITの開示では、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)が変動賃料等導入29ホテルの地域別実績として沖縄(4ホテル)の2026年8月を稼働率82.5%・ADR47,112円・RevPAR38,853円と公表している。同法人は本圏域内の名護市でオリエンタルホテル 沖縄リゾート&スパ(361室・取得価格14,950百万円)を保有しており、同施設は本稿の判定では想定区域外に位置する。試算では、これらを踏まえて通年稼働率を保守的に80%に置いた。

地価と用途地域 — 恩納村の商業地は+11.0%、海岸部は用途地域の指定がない

立地の価値は地価にも表れている。沖縄県が2026年9月16日に公表した令和8年地価調査(2026年7月1日時点)では、県全体の全用途平均変動率が+5.8%(前年+6.1%)と13年連続の上昇を保ちつつ上昇幅を縮めたのに対し、恩納村は住宅地が+8.5%(前年+10.7%)で県内3位、商業地が+11.0%(前年+7.8%)で同率3位と、県平均を上回った。基準地別では恩納(県)−1(字真栄田)が1㎡37,500円から42,900円へ+14.4%と県内住宅地で4位の上昇率を示し、名護(県)−3(字饒平名)も+14.8%で3位に入った。北谷町(住宅地+11.7%、商業地+11.8%)と宜野座村(+11.0%、+11.5%)を含め、西海岸の観光立地が県内の上位を占める構図である。県は上昇の背景として「令和7年度は国内観光客数が過去最高を記録」し、外国人観光客数も「コロナ禍前の水準に概ね達している」ことを挙げる一方、上昇幅の縮小については建築費の高騰、物価や金利の上昇、労働力の制約が影響したとみている。

表3 令和8年沖縄県地価調査(2026年7月1日時点)— 本圏域に関わる市町村の平均変動率
市町村住宅地 2025年住宅地 2026年商業地 2025年商業地 2026年
恩納村+10.7%+8.5%+7.8%+11.0%
名護市——+11.4%+9.4%
北谷町+9.1%+11.7%+10.9%+11.8%
宜野座村+10.7%+11.0%+8.3%+11.5%
沖縄県 平均+5.7%+5.3%+7.1%+6.9%
出典:沖縄県「令和8年沖縄県地価調査結果の概要」(2026年9月)。名護市の住宅地は変動率順位表(上位5位)に掲載がないため省略。

用途地域については、不動産情報ライブラリの用途地域レイヤーで34施設の地点を確認したところ、指定区域内にあるのはうるま市石川側の1施設のみで、恩納村の海岸部と名護市幸喜・喜瀬の施設地点には用途地域の指定が確認できなかった。用途地域による建物用途や容積率の一律の制限がかからないため、設備を置く階の構成や増築で水防ラインを組み直す際の設計自由度は相対的に高い。その代わり、津波災害警戒区域の基準水位、県の景観条例やリゾート地としての高さ・緑地の協議が実務上の条件になる。地価が上昇を続け、用途地域の制約が緩い区域であるからこそ、海側の低層部に何を置き、何を上階へ移すかという判断が資産価値に直結する。

既存館のBCP設備 — 受変電の上階化と非常用発電機で1室9.8万〜28.0万円

設備配置の指針は、国土交通省と経済産業省が2020年6月にまとめた「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」にある。ガイドラインは、個々の建築物ごとに「設定浸水規模(設定浸水深及び設定浸水継続時間)」と、機能継続に必要な対策の「目標水準」を定めたうえで、対策を三つに分けて示す。第一が「浸水リスクの低い場所への電気設備の設置」で、「設定浸水深に照らし、十分な高さのある位置に設置すれば、洪水等の発生時における対応の状況等に左右されず、比較的確実性の高い効果が期待できる」と位置づける一方、既存建築物については「空間構成上の制約が大きい既存建築物については、実施が困難な面がある」とも述べる。第二が水防ラインの設定で、出入口の止水板・防水扉、からぼりや換気口の開口部対策、排水の逆流防止をラインに沿って切れ目なく講じる。第三が、想定を超えた場合に備える早期復旧対策とタイムラインである。ガイドラインは洪水・内水・高潮を主な対象にしているが、事例集には津波浸水深さを前提にした庁舎の計画も収録されており、考え方は津波にも援用できる。

この枠組みを浸水深帯に当てはめると、対応の重心が見えてくる(表4)。0.01〜0.3mと0.3〜1mの帯(5施設・1,660室)では、1階床面から1m程度の高さを水防ラインに取り、受変電設備・分電盤・非常用発電機を2階以上か架台上に置けば、電気設備は機能継続の水準に届く。1階の厨房とランドリーは機器の移設が難しいため、止水板と防水扉で水防ライン内に収め、上階の宴会場パントリーを代替厨房として位置づけ、リネンは外部委託契約で切り替える運用が現実的である。1〜2mの帯(3施設・645室)では、1階全体が浸水する前提で受変電設備と発電機を上階へ移し、厨房・ランドリーは早期復旧の対象として整理する。2m以上の帯(4施設・457室)では、建物の上層階を津波避難ビルとして位置づけ、基準水位に相当する階の2階上に避難スペースを確保し、電気設備もその階以上に置くことが基本になる。中高層のリゾートが地域の垂直避難の受け皿になりうる点は、この帯の施設が持つ役割でもある。

表4 浸水深帯別の設備配置の方針(編集部整理)
浸水深帯施設・客室受変電・分電盤非常用発電機厨房・ランドリー建物・避難
0.01〜1m5施設・1,660室1階床上1m超の架台または2階へ。水防ラインを出入口・換気口で閉じる屋外架台または2階以上。燃料は72時間分を目安に上階保管1階のまま止水板・防水扉で水防ライン内に。代替厨房・リネン外注を契約で用意上層階を一時避難先に。既存の高層棟が機能する
1〜2m3施設・645室2階以上へ移設。配電経路も1階を避ける2階以上または屋上早期復旧の対象。機器リストと復旧手順をタイムライン化基準水位に応じた避難階を設定
2m以上4施設・457室基準水位の階以上へ基準水位の階以上。屋上設置が基本低層階は浸水前提。上階に簡易厨房を確保津波避難ビルとして上層階に1人1㎡の避難スペース
出典:国土交通省・経済産業省「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」(2020年6月)、内閣府「津波避難ビル等に係るガイドライン」(2005年6月)を踏まえ編集部作成

では費用はどの程度か。公開されている設備費の相場を用いて、受変電設備の上階化と非常用発電機の新設を既存館で行う場合を規模帯別に試算した(表5・表6)。キュービクル式高圧受変電設備は、省エネ補助金の情報サイトが2026年9月時点で示す相場で、50〜300kVAが工事費込み200万〜600万円、300kVA以上が1,000万〜2,000万円以上とされる。既存館での上階移設には構造補強・ケーブル延長・揚重・既存撤去・停電作業が加わるため、編集部の仮定として1.5〜2.5倍の係数をかけた。非常用発電機はディーゼル式の本体が60〜100kVAで500万〜800万円、100〜200kVAで800万〜1,500万円、屋外設置の工事費が330万〜1,000万円という相場(2025年12月時点)を用いた。リゾートはプール・大浴場・大型厨房を抱えるため必要容量が大きく、200室以上の施設では上限を超える可能性がある点は留意したい。

表5 試算の前提(既存館の改修・編集部試算)
項目〜99室100室以上根拠
受変電設備(工事費込み)200万〜600万円(50〜300kVA)1,000万〜2,000万円(300kVA以上)公開されているキュービクル式高圧受電設備の相場(2026年9月)
上階移設の係数1.5〜2.5倍1.5〜2.5倍構造補強・ケーブル延長・揚重・既存撤去・停電作業(編集部仮定)
非常用発電機 本体500万〜800万円(60〜100kVA)800万〜1,500万円(100〜200kVA)公開されているディーゼル式の価格相場(2025年12月)。容量の対応は編集部仮定
発電機の設置工事(屋外)330万〜1,000万円330万〜1,000万円同上。屋内設置の場合は650万〜2,000万円
1室あたりへの換算規模帯ごとの区域内施設の客室数中央値で除算〜99室は中央値68室、100〜199室は124室、200室以上は339室
出典:設備費は公開相場(参考資料欄を参照)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
表6 規模帯別のBCP設備費と1室あたり換算(区域内12施設・既存館の改修・編集部試算)
規模帯施設・客室受変電の上階化非常用発電機1施設あたり合計1室あたり
〜99室(中央値68室)3施設・213室300万円〜1,500万円830万円〜1,800万円1,130万円〜3,300万円16.6万〜48.5万円
100〜199室(中央値124室)4施設・514室1,500万円〜5,000万円1,130万円〜2,500万円2,630万円〜7,500万円21.3万〜60.7万円
200室以上(中央値339室)5施設・2,035室1,500万円〜5,000万円1,130万円〜2,500万円2,630万円〜7,500万円7.8万〜22.1万円
区域内 計12施設・2,762室——総額2.71億〜7.74億円9.8万〜28.0万円
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(客室数 N=12施設)、設備費は公開相場より編集部試算。厨房・ランドリーの移設費と止水板・防水扉は建物条件で幅が大きいため金額化していない。
図5 規模帯別 1室あたりのBCP設備費(下限〜上限・万円)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(既存館の改修・編集部試算)

試算では、1室あたりの費用は〜99室の帯で16.6万〜48.5万円、100〜199室で21.3万〜60.7万円、200室以上で7.8万〜22.1万円となった。区域内客室の74%を占める200室以上の5施設では、発電機と受変電の費用を多くの客室に配賦できるため1室あたりの負担が最も軽い。12施設すべてが同じ対策を取ると仮定した総額は2.71億〜7.74億円で、1室あたり9.8万〜28.0万円、中位で18.9万円である。沖縄で非常用電源の重みが増すのは、津波に限らず台風による長時間停電が毎年の前提になるためで、2023年8月の台風6号では動きの遅い台風が停電を長引かせ、県内11市町村の避難所でも停電が生じ、非常用電源で扇風機を回す状況が報じられた。発電機は津波のための設備ではなく、毎夏の台風営業を支える設備として償却を考えられる点が、本島西海岸の試算で釧路や白浜と異なるところである。法令が求める非常用電源が火災時の30〜60分ぶんにとどまり、72時間の営業継続に必要な電源が任意投資に委ねられている点とその費用については、ホテルの非常用電源、法定は30〜60分ぶん|72時間に延ばす費用は100室で1室10.9万〜14.2万円で全国16商圏を対象に整理している。

回収感度 — 中位18.9万円は客室売上11日分、ADR上乗せ65円で10年回収

1室18.9万円という中位の積み増しを、恩納村の推定成約ADRでどう受け止めればよいか。12か月平均ADR21,562円に通年稼働率80%を掛けると、1室1日あたりの客室売上は17,250円、年間では630万円になる。中位の18.9万円は客室売上11.0日分、下限の9.8万円で5.7日分、上限の28.0万円でも16.2日分にあたる。設備が浸水して復旧に1か月を要した場合に得られなくなる客室売上は1室52万円で、上限側の積み増しとほぼ同じ規模になる。言い換えれば、1回の長期休業を避けられれば投資額は回収される計算であり、損害保険の免責や休業補償の設計とセットで考えると、積み増しの位置づけがはっきりする。

表7 1室あたりBCP設備費の「客室売上日数」換算(通年稼働率80%・編集部試算)
推定成約ADR(12か月平均など)1室10万円1室20万円1室30万円1室50万円
名護市 12か月平均(10,788円)11.6日23.2日34.8日57.9日
恩納村 12か月平均(21,562円)5.8日11.6日17.4日29.0日
読谷村 12か月平均(22,007円)5.7日11.4日17.0日28.4日
恩納村 2026年8月(32,961円)3.8日7.6日11.4日19.0日
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。客室売上日数=1室あたり設備費÷(ADR×稼働率80%)。名護市・読谷村は2025年10月〜2026年9月の12か月平均、恩納村8月は2026年8月の単月値。

単価側から見ることもできる。中位18.9万円を10年で回収するのに必要な通年ADRの上乗せは、稼働率80%で1泊あたり65円にすぎない。表8は上乗せ幅と稼働率を動かした場合の回収年数で、上乗せ100円・稼働率80%なら6.5年、200円なら3.2年で回収が終わる。恩納村の推定成約ADRが前年同月比で+9.2%(約1,850円)動いた2026年9月の実績を踏まえると、65〜100円の上乗せは価格設定の誤差の範囲に収まる。審査の場では、「浸水深1m未満の帯にあり、受変電と発電機を2階以上に置き、その費用は客室売上11日分・ADR換算65円」という3点を示せれば、設備配置が収益に与える影響を定量的に説明できる。

表8 ADR上乗せ幅×稼働率別の回収年数(1室18.9万円・編集部試算)
通年稼働率+100円+200円+300円+500円
通年稼働率 70%7.4年3.7年2.5年1.5年
通年稼働率 80%6.5年3.2年2.2年1.3年
通年稼働率 90%5.8年2.9年1.9年1.2年
回収年数=1室あたり設備費÷(上乗せ×稼働率×365日)
図6 ADR上乗せ幅別の回収年数(1室18.9万円)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

新築200室モデル — BCP積み増しは建設費の0.4〜1.0%、利回りを決めるのは単価帯

建替えや新規開発ではどうなるか。客室35㎡・客室部分比率60%のアッパーミドル型200室を想定すると、延床面積は約11,667㎡(3,529坪)になる。建設費は国土交通省 建築着工統計に基づくRC造の2025年実績202.6万円/坪を用いて71.5億円(1室3,575万円)、これにTurner & Townsendが2026年3月に示した日本の建設コスト上昇率(2026年+5.3%、2027年+5.0%)を織り込むと79.1億円になる。土地は令和8年地価調査の恩納(県)−1(字真栄田・住宅地)42,900円/㎡を2万㎡に当てた8.6億円を参考値として置いた。海岸部のリゾート用地は取引事例が少なく、この値は水準感の目安にすぎない。BCP積み増しは表5の200室以上と同じ前提で0.26億〜0.75億円、中位0.51億円で、建設費に対する比率は0.4〜1.0%にとどまる。GOP率は、業態別の目安(リゾートホテル20〜40%)とインヴィンシブル投資法人が開示するMHM運営91物件の実績38.9%(2024年12月期)を踏まえ、初年度の保守値として30%を採用した。

表9 ADRシナリオ別の総投資とGOP利回り(新築200室・稼働率80%・編集部試算)
項目A. 恩納村平均並みB. 上位リゾート帯C. 最上位帯
想定ADR(通年)21,562円30,000円45,000円
客室売上(年)12.6億円17.5億円26.3億円
GOP(年・GOP率30%)3.78億円5.26億円7.88億円
GOP利回り(BCPなし・総投資80.1億円)4.72%6.56%9.85%
GOP利回り(BCP中位・総投資80.6億円)4.69%6.52%9.78%
インフレ織込み後(総投資88.1億円)4.29%5.96%8.94%
投資回収年数(BCP中位)21.3年15.3年10.2年
投資回収年数(インフレ織込み後)23.3年16.8年11.2年
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。GOP利回り=GOP÷総投資(建設費+土地+BCP積み増し)。運営委託料・固定資産税・FF&E積立の控除前。回収年数は総投資÷GOP。シナリオAは恩納村の12か月平均、Cはジャパン・ホテル・リートが開示する沖縄4ホテルの2026年8月ADR(47,112円)に近い水準。
図7 ADRシナリオ別のGOP利回り(BCP中位・建設費2025年ベース vs インフレ織込み)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(新築200室モデル・編集部試算)

試算の読みどころは2点ある。1点目は、BCP積み増しが利回りを動かす幅の小ささである。シナリオAでは積み増しなしの4.72%が中位の積み増しで4.69%となり、低下は0.03ポイントにとどまる。建設費のインフレ織込みが同じシナリオで0.4ポイント利回りを下げるのと比べると、設備配置の判断は投資採算の制約ではなく、設計の初期段階で決めてしまえる前提条件だといえる。2点目は、利回りを動かすのが単価帯の選択だという点で、恩納村平均並みのシナリオAが4.69%、上位リゾート帯のBが6.52%、最上位帯のCが9.78%と、ADRが1万円変わるごとに利回りは2ポイント前後動く。西海岸では2026年7月に139室のBLISSTIA SUITES & RESORT 沖縄恩納村がホテルコンドミニアム型で開業し、ザ・リッツ・カールトン沖縄が改修を経て同月に再開するなど、上位帯の供給更新が続いている。新規参入が狙うべきは、浸水深帯への対応を前提条件として済ませたうえで、どの単価帯に建てるかという一点に絞られる。

保険と融資 — 津波は地震系の補償、審査で問われるのは浸水深と設備の階

保険の整理から始める。ホテルが加入する企業向け火災保険では、地震・噴火・津波による損害は基本補償の対象外とされ、企業向け地震保険や地震・噴火・津波を対象とする特約で別途手当てする仕組みが一般的である。住宅向けで議論が進む水災料率の細分化(2024年10月以降、市区町村単位で5区分、料率差は参考純率で約1.2倍)は洪水・内水を対象にした仕組みであり、津波の備えは地震系の補償に属する。参考として、住宅向け地震保険の基本料率(財務省、2022年10月以降始期)は保険金額1,000万円あたり年額で、沖縄県がイ構造(鉄骨・コンクリート造)11,600円・ロ構造(木造)19,500円に対し、東京都は27,500円・41,100円、高知県は23,000円・41,100円、北海道は7,300円・11,200円で、沖縄は全国の中位帯に位置づけられている。企業向け契約の料率や支払限度は個別の引受けで決まるため同じ数値は当てはまらないが、津波浸水想定の浸水深と電気設備の設置階は、引受け条件を協議する際にそのまま提示できる材料になる。同じハザード差が支払保険料とレンダーのLTVという2つの経路でNOIと利回りに効く仕組みは、ホテル火災保険の水災等地で年101万円差 — PMLがLTVと利回りを動かすが全国10商圏で分解している。

表10 地震保険の基本料率(住宅向け・保険金額1,000万円あたり年額・2022年10月以降始期)
都道府県イ構造(主に鉄骨・コンクリート造)ロ構造(主に木造)
沖縄県11,600円19,500円
東京都27,500円41,100円
高知県23,000円41,100円
北海道7,300円11,200円
出典:財務省「地震保険の基本料率(令和4年10月1日以降保険始期の地震保険契約)」。住宅向けの料率であり、企業向け契約の料率とは異なる。

融資の側では、気候変動に伴う物理リスクを担保評価に織り込む動きが制度面で進んでいる。三井住友トラスト基礎研究所は2026年3月のレポートで、不動産は「立地が固定され、耐用年数が長い資産であるため、洪水などの物理リスクが資産価値や賃料収入、担保価値に与える影響が長期にわたり持続する」と述べ、実証研究では「洪水リスクが市場価格に十分に反映されていないケース」があるとしたうえで、期待浸水深・超過確率・期待損害額といった確率指標を立地評価に組み込む方向を示している。国土交通省も2023年3月に「TCFD提言における物理的リスク評価の手引き」を公表し、企業が財務的観点から水害リスクを評価する指針を整えた。不動産取引では2020年8月から水害ハザードマップを用いた浸水リスクの説明が重要事項説明に加わっており、津波災害警戒区域も法令上の区域として説明の対象になる。審査担当者が確認するのは、区域の内外ではなく、「想定浸水深は何mか」「受変電・発電機・配電経路はどの階にあるか」「浸水時の営業再開までのタイムラインがあるか」の3点であり、表4と表6の整理はこの問いにそのまま対応している。

表11 保険・融資の審査で示せる材料(本稿の集計との対応)
審査で問われる点示せる材料本稿での該当
想定浸水深と基準水位県の津波浸水想定(詳細地区別図)と警戒区域の基準水位表1・図2。区域内12施設のうち5施設は1m未満、4施設は2m以上
電気設備の設置階受変電・分電盤・発電機・配電経路の階と水防ライン表4の方針。1m未満の帯は架台・2階化で機能継続水準
投資額と収益への影響1室あたり設備費と客室売上日数・ADR換算表6〜表8。中位18.9万円=売上11日分、ADR上乗せ65円で10年回収
休業期間の見通し早期復旧のタイムライン、代替厨房・リネン外注の契約表4。1か月の休業は1室52万円の客室売上に相当
地域での役割津波避難ビルとしての上層階の受け入れ人数2m以上の帯の4施設は垂直避難の受け皿になりうる
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

投資判断の整理 — 浸水深帯を前提条件に据えた3つの進め方

1m未満の帯(5施設・1,660室)— 設備配置で機能継続水準に

区域内客室の6割がここにある。受変電と発電機を架台・2階以上に置き、出入口と開口部の水防ラインを閉じれば、ガイドラインの「浸水リスクの低い場所への設置」に相当する。1室あたりの積み増しは200室以上で7.8万〜22.1万円、客室売上に換算して数日〜2週間分で、保険・融資の協議で最も説明しやすい帯といえる。

1〜2mの帯(3施設・645室)— 上階化と発電機、厨房は早期復旧で

1階全体が浸水する前提で電気設備を上階へ移す。厨房・ランドリーは移設よりも、復旧手順のタイムライン化と代替手段の契約で営業再開を早める方が費用対効果が高い。発電機は毎夏の台風営業にも効くため、津波専用ではなく通年の運営投資として償却できる。

2m以上の帯(4施設・457室)— 避難階と構造を軸に

名護湾の奥に位置する幸喜・喜瀬の帯。基準水位に相当する階の2階上に避難スペースを置き、電気設備もその階以上に集約する。中高層の建物は地域の垂直避難の受け皿になりうる。建替えの機会があれば低層階を駐車場・ロビーに充て、客室と設備を上層に置く断面が基本形になる。

ここまでを整理すると、沖縄西海岸のリゾート集積で約4割の客室が津波浸水想定区域内にあるという数字は、設備配置と避難計画の前提条件を与えるものであり、立地の価値を減らすものではない。区域内の6割が浸水深1m未満の帯にあり、必要な積み増しは1室9.8万〜28.0万円、恩納村の推定成約ADRに換算して客室売上6〜16日分に収まる。地価が県平均を上回って上昇し、推定成約ADRが前年同月比+9.2%で推移する市場では、設備を上階に置く費用はADR上乗せ65円で10年のうちに吸収できる規模である。来年度の保険更新と設備更新の予算を組む秋に、浸水深帯別の設備投資をこの単位で棚卸ししておくことが、保険料と融資条件の協議を自分の数字で進める近道になる。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:図4の2026年10月の値は調査時点でOTAに公開されている販売価格から推定した水準であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。本稿の試算(表7〜表9)は推定値に基づく概算であり、実際の投資判断には個別の敷地・建物条件に基づく詳細なフィージビリティ・スタディと、県の詳細地区別図・基準水位の確認が必要です。

関連記事

釧路駅2km圏のホテル2,752室、99.6%が津波浸水想定区域 — BCP積み増しは新築1室48万〜111万円
白浜温泉の宿、客室の36%が津波浸水想定区域内 — 132施設を浸水深帯で集計
災害時の多言語放送、どこから備えるか — 外国人比率27%超の7都道府県に客室41%、12商圏の客室69%がハザード区域
ホテルのGOPとは|計算式・USALIの階層・100室モデル感応度

参考資料・出典一覧

■ データソース

施設の位置・客室数・価格帯区分、恩納村など市区町村別の推定成約ADR(2024年1月〜2026年10月・市区町村中央値)、沖縄県リゾートカテゴリの推定稼働率(2026年8〜9月・182〜184施設)はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計。津波浸水想定・用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリ(沖縄県設定・国土数値情報2016年度版)、地価は沖縄県「令和8年沖縄県地価調査」、REIT実績はジャパン・ホテル・リート投資法人の月次開示(2026年8月)による。

■ 試算前提

浸水深の判定は施設代表点(緯度経度)とポリゴンの照合で、複数帯に接する場合は深い側を採用。BCP設備費は受変電設備の上階化と非常用発電機の公表相場を施設規模帯ごとに積み上げた編集部試算。回収感度は恩納村の12か月平均推定成約ADR21,562円・通年稼働率80%・365日を置き、新築200室モデルはRC造202.6万円/坪に建設コスト上昇率(2026年+5.3%、2027年+5.0%)を織り込んだ。

■ 限界・留意点

代表点判定のため、敷地内の高低差・建物の外形と階数・各施設が既に講じている浸水対策は反映していない。浸水想定は最大クラスの津波を前提とした県の想定で、被害の発生範囲を示すものではない。推定成約ADR・推定稼働率はOTA公開情報に基づく推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。設備費は相場ベースの概算であり、個別の投資判断には敷地・建物条件に基づく詳細調査と、県の詳細地区別図・基準水位の確認が必要である。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 施設データ(恩納村瀬良垣 半径10km・30室以上・34施設/6,819室)、推定成約ADR(恩納村 月38〜44施設、市区町村中央値)、推定稼働率(沖縄県リゾートカテゴリ 182〜184施設・16,530〜16,683室)、保有関係マスター(2026年10月17日時点)

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・業界レポート

■ ニュース・プレスリリース

出典: 日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」

関連記事