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白浜温泉の宿、客室の36%が津波浸水想定区域内 — 132施設を浸水深帯で集計

投稿日 : 2026.10.06

和歌山県

投資・開発

白浜温泉の宿、客室の36%が津波浸水想定区域内 — 132施設を浸水深帯で集計

和歌山県白浜町の白浜温泉エリア(白良浜・湯崎・綱不知周辺)で、宿泊施設の登録座標と和歌山県が設定した津波浸水想定区域を重ね合わせた。対象はメトロエンジンリサーチが2026年9〜11月宿泊分の販売価格を確認できた132施設・3,040室で、このうち57施設・1,101室(客室ベースで36.2%)が想定区域内に位置する。浸水深3m以上の区域に入る客室は1,011室で、全体の33.3%にあたる。一方、区域外の宿は推定成約ADRの中央値が高く、2017年以降に開業した施設の客室の8割超は区域外に立地している。本稿では浸水深帯別の分布、規模・業態・単価・用途地域・地価との関係を集計し、建替や新設時に検討する設計・保険・BCPの論点を整理する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 津波浸水想定・浸水深帯:津波防災地域づくりに関する法律に基づき和歌山県が設定した津波浸水想定(最大クラスの津波を想定した行政公表の想定)を、国土交通省 不動産情報ライブラリ(国土数値情報「津波浸水想定」)から取得。浸水深は同データの区分(0.3m以上1m未満、1m以上2m未満、2m以上3m未満、3m以上5m未満、5m以上10m未満 等)に従う。
  • 区域内の判定:各施設の登録座標(1点)が浸水想定区域のポリゴンに含まれるかで判定。敷地の一部のみが区域にかかるケースや、建物の階数・地盤高は考慮していません。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ(施設・価格)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・土砂災害警戒区域・用途地域・地価・指定緊急避難場所)
対象施設・客室
132 / 3,040
半径3km・販売確認ベース
浸水想定区域内の客室
36.2%
57施設・1,101室
浸水深3m以上の客室
1,011室
48施設・対象客室の33.3%
白浜町 推定成約ADR
¥14,800
2025年9月〜2026年8月平均
津波の指定緊急避難場所
60か所
半径3km内(うち区域内6)
Key Takeaways
  • — 36.2%:白浜温泉(中心から半径3km)で販売を確認できた132施設・3,040室のうち、和歌山県設定の津波浸水想定区域内は57施設・1,101室。
  • — 1,011室:区域内の客室の大半は浸水深3m以上の帯にあり、5m以上の帯だけで757室(対象客室の24.9%)。3m未満の浅い帯は9施設・90室にとどまる。
  • — 19,200円 対 10,700円:施設別の推定成約ADR中央値(2025年9月〜2026年8月、N=50)は区域外が区域内の約1.8倍。高単価帯は湯崎〜千畳敷の段丘上に多い。
  • — 18.3%:2017年以降に開業した施設の客室930室のうち区域内は170室。2016年以前開業の施設(44.4%)から比率が大きく下がった。
  • — 14,800円:白浜町の推定成約ADR(12か月平均)は、対象施設数15以上の南紀沿岸市町で最も高く、和歌山県全体(9,700円)の約1.5倍。

要点 — 浸水想定は白良浜背後の平地に集中、高単価帯は段丘上に多い

結論を先に示す。第一に、白浜温泉エリアの宿の客室のうち約3分の1が浸水深3m以上の想定区域にある。これは白良浜の背後に広がる平坦な市街地と、綱不知湾沿いの低地に温泉旅館・民宿が集積してきた歴史的な立地の結果である。第二に、「海沿いの高単価帯ほど浸水想定と重なる」という直感はデータでは支持されなかった。推定成約ADRの中央値は区域外の宿で19,200円、区域内の宿で10,700円であり、湯崎から千畳敷にかけての海岸段丘の上に高単価の旅館・リゾートが多く立地している。第三に、新しい供給ほど区域外を選んでいる。2017年以降に開業した施設の客室930室のうち、区域内は170室(18.3%)にとどまり、2016年以前開業の施設(44.4%)と比べて比率が大きく下がっている。

投資の観点では、区域内の既存館は温泉街の中心・ビーチ至近という立地価値を持つ一方で、建替や大規模改修の際には上階避難の確保、受変電設備の上層配置、保険設計、BCPを事業計画に織り込むことで、立地価値を長く維持できる。区域外の段丘上の用地は供給の受け皿として選ばれており、その価格帯にも裏付けがある。以下で順に数字を確認する。

集計の対象と方法

対象エリアは白浜町の白浜温泉中心部(北緯33.68度・東経135.355度)を中心とする半径3kmとした。白良浜、湯崎、千畳敷、綱不知、東白浜、堅田の一部がこの圏内に入る。メトロエンジンリサーチの施設マスターでは、この圏内に開業日・閉館日ベースで2026年時点190施設・4,156室が登録されている。ただし休業中や販売実態の確認できない施設も含まれるため、本稿では2026年9〜11月宿泊分について販売価格を確認できた132施設・3,040室を集計対象とした。

津波浸水想定は、国土交通省 不動産情報ライブラリの公開データから地図タイル単位(ズームレベル15)で取得した(集計対象の宿が所在するタイル内の浸水想定ポリゴン3,786件)。各施設の登録座標がどの浸水深区分のポリゴンに含まれるかを判定し、浸水深帯ごとに施設数と客室数を集計している。なお、津波浸水想定は最大クラスの津波が発生した場合を想定して行政が公表したものであり、発生の時期や頻度を示すものではない。本稿の集計は立地の特性を把握するためのもので、個別施設の安全性を評価するものではない。

浸水深帯別の施設数・客室数 — 5m以上の帯に757室

浸水深帯別に見ると、区域外が75施設・1,939室(63.8%)で最も多い。区域内では5m以上10m未満の帯が28施設・757室と最大で、3m以上5m未満の帯が20施設・254室で続く。0.3m以上3m未満の浅い帯は合計9施設・90室にとどまる。つまり白浜温泉では、浸水想定区域に入る宿の大半が「浅い端部」ではなく「深い中心部」に位置している。白良浜の背後の平地は標高が低く、区域に入る場合は深い帯に入りやすい地形である。

表1 浸水深帯別の施設数・客室数(白浜温泉 半径3km)
浸水深帯(津波浸水想定)施設数客室数客室構成比1施設あたり客室
区域外751,93963.8%25.9
0.3m以上 1m未満4421.4%10.5
1m以上 2m未満3431.4%14.3
2m以上 3m未満250.2%2.5
3m以上 5m未満202548.4%12.7
5m以上 10m未満2875724.9%27.0
区域内 計571,10136.2%19.3
合計1323,040100.0%23.0
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=132施設・3,040室、2026年9〜11月宿泊分の販売確認ベース)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・和歌山県設定)。0.01m以上0.3m未満の帯に該当する施設はなし。
浸水深帯別の客室数と施設数(白浜温泉 半径3km)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=132施設)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定)

浸水深帯の分布が深い側に偏っていることは、建替・改修の設計方針に直結する。下の表は、想定浸水深の基準を0.3mから5mまで変えたときに、その深さ以上の区域に入る施設数と客室数がどう変わるかを示したものである。仮に床レベルのかさ上げや設備の上階配置で1〜2m程度までの浸水に対応できるとしても、それを超える帯に残る客室は1,016〜1,059室で、区域内全体(1,101室)からほとんど減らない。該当客室が大きく減る分岐は5mで、3m以上の1,011室が5m以上では757室になる。白浜温泉の区域内では、かさ上げで浸水を避ける手法より、上層階に避難空間を持たせる設計のほうが論点の中心になりやすい。

表2 想定浸水深の基準別に見た該当施設・客室(白浜温泉 半径3km)
想定浸水深の基準該当施設数該当客室数対象客室に占める比率
0.3m以上(区域内全体)571,10136.2%
1m以上531,05934.8%
2m以上501,01633.4%
3m以上481,01133.3%
5m以上2875724.9%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=132施設・3,040室、2026年9〜11月宿泊分の販売確認ベース)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・和歌山県設定)。各施設の登録座標1点が含まれる浸水深区分で判定。

地図で見る — 浸水想定区域と宿、津波の指定緊急避難場所

下の地図は、津波浸水想定を約100mメッシュに区切り、各メッシュ中心点の浸水深帯で塗り分けたものである(色が濃いほど深い)。白丸は集計対象の宿(円の大きさは客室規模)、灰色の菱形は白浜町が津波に対応する指定緊急避難場所として公表している地点を示す。浸水想定区域は白良浜の背後から綱不知湾にかけての平地に連続して広がり、湯崎・千畳敷側の海岸段丘や堅田の丘陵地には区域がほとんどかからない。宿の分布もこの地形に沿っており、白良浜背後の商業地に中小規模の宿が密集している。

半径3km内にある津波対応の指定緊急避難場所60か所のうち、54か所は浸水想定区域外の高台や学校・寺社の敷地である。残る6か所は区域内にあり、このうち4か所は浸水深5m以上の帯に位置する建物で、上階への避難(垂直避難)を前提とした指定と読める。指定場所の名称には宿泊施設名を冠するものも複数含まれ、地域の避難体制の中で宿泊施設の建物が役割を担っていることがわかる。

津波浸水想定区域(浸水深帯)と宿泊施設・指定緊急避難場所の分布
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定・指定緊急避難場所)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設座標・N=132施設)。浸水深は約100mメッシュ中心点での判定のため境界付近は簡略化されている。

規模別の違い — 区域内客室の47.5%は100室以上の4施設

客室規模で分けると、区域内と区域外で構成が異なる。100室以上の大型館は区域内に4施設・523室、区域外に6施設・866室ある。区域内の客室1,101室のうち47.5%をこの4施設が占めており、区域内の客室の約半分は大型館に集まっている。30〜99室の中規模館は区域内が2施設・125室にとどまり、区域外(11施設・644室)に多い。10〜29室の中小規模では区域内20施設・329室と区域外16施設・306室が拮抗し、1〜9室の小規模宿(民宿・貸別荘・ゲストハウスなど)は区域内31施設・124室、区域外42施設・123室である。

この違いは、避難の考え方にも関係する。大型館は一般に中高層の鉄筋コンクリート造が多く、上層階への避難という選択肢を建物内に持ちやすい。一方、1〜9室の小規模宿や一棟貸しは低層の建物が多く、高台の指定避難場所への移動(水平避難)を前提とした計画になりやすい。区域内の小規模宿31施設は施設数では区域内全体の半数を超えており、宿泊者への避難経路の案内や多言語での情報提供といったソフト面の備えが、小規模宿の信頼性を高める余地として大きい。

客室規模帯別の客室数 — 浸水想定区域内と区域外
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=132施設)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定)

浸水深帯と客室規模を掛け合わせると、区域内の構成がさらに具体的に見える。区域内の100室以上の大型館4施設のうち3施設・423室は浸水深5m以上の帯にあり、5m以上の帯の客室757室の55.9%を占める。一方、3m未満の浅い帯には30室以上の宿がなく、9施設すべてが29室以下である。1〜9室の小規模宿は区域内31施設のうち14施設が5m以上の帯に入っており、上層階を持たない建物では高台への水平避難が前提になる。規模と浸水深の組み合わせによって、同じ「区域内」でも取りうる対策が大きく異なる。

表3 浸水深帯×客室規模帯のクロス集計(施設数・客室数)
浸水深帯\客室規模1〜9室10〜29室30〜99室100室以上計
区域外42施設・123室16施設・306室11施設・644室6施設・866室75施設・1,939室
区域内・3m未満6施設・27室3施設・63室——9施設・90室
区域内・3〜5m11施設・33室7施設・81室1施設・40室1施設・100室20施設・254室
区域内・5m以上14施設・64室10施設・185室1施設・85室3施設・423室28施設・757室
合計73施設・247室36施設・635室13施設・769室10施設・1,389室132施設・3,040室
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=132施設・3,040室)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定)

業態別に見ると、旅館は36施設・1,352室のうち21施設・720室(客室の53.3%)が区域内にあり、区域内の客室数では業態別で最も多い。リゾートホテルは16施設・895室のうち区域内が4施設・138室(15.4%)にとどまり、段丘上の立地が多い。民宿は15施設・134室のうち10施設・78室が区域内で、白良浜背後の旧来の宿泊街に多く残っていることがうかがえる。

表4 業態別の施設数・客室数と浸水想定区域内の比率
業態施設数客室数うち区域内 施設うち区域内 客室区域内 客室比率
旅館361,3522172053.3%
リゾートホテル16895413815.4%
デラックスホテル226718531.8%
民宿15134107858.2%
オーベルジュ380156.3%
ホステル・ゲストハウス141073109.3%
ペンション83741848.6%
貸別荘・コテージ・キャンプ場338791618.4%
ビジネスホテル・その他58143138.3%
合計1323,040571,10136.2%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=132施設・3,040室)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定)。業態はメトロエンジンリサーチの施設分類。

単価との関係 — 区域外の宿は推定成約ADR中央値が19,200円

次に、浸水想定と客室単価の関係を確認する。2025年9月〜2026年8月の12か月のうち6か月以上について推定成約ADRが得られた50施設(旅館31、リゾートホテル16、ビジネスホテル3)を対象に、各施設の期間平均を算出し、浸水深帯ごとの中央値を比較した。区域外の25施設の中央値は19,200円、区域内の25施設は10,700円で、区域外が約1.8倍の水準にある。区域内を帯別に見ると、3m未満(4施設)が9,100円、3m以上5m未満(7施設)が10,700円、5m以上(14施設)が12,200円で、いずれも区域外を下回る。

業態構成の違いを除くため旅館だけで比べても、区域外13施設の中央値21,400円に対し、区域内18施設は11,200円である。客室数で加重した平均でも区域外19,800円、区域内15,500円と同じ方向を示す。湯崎から千畳敷にかけての段丘上には、露天風呂から太平洋を望む客室を備えた高価格帯の旅館・リゾートが多く、眺望という付加価値が単価に表れていると考えられる。浸水想定区域内の宿は白良浜や温泉街の中心に近く、ビーチ利用や街歩きの利便性を持ちながら手ごろな価格帯を担っており、白浜温泉の価格帯の厚みを支える存在といえる。

浸水深帯別の推定成約ADR(施設別12か月平均の中央値、2025年9月〜2026年8月)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=50施設:区域外25・区域内25)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定)。3m未満はN=4のため参考値。

白浜町全体の推定成約ADRは、2025年9月〜2026年8月の12か月平均で14,800円だった。月次では2026年6月の11,800円が最も低く、2025年12月の17,400円が最も高い。2026年1〜8月の平均は14,600円で、前年同期間(13,600円)比+6.9%と上昇基調にある。月別では、2026年1月が前年同月比+23.2%と大きく伸びた一方、6月は同-7.7%、8月は同-1.9%だった。夏休みと年末年始に単価が高まる季節性ははっきりしており、ビーチリゾートとしての需要構造が単価に反映されている。

白浜町の推定成約ADR 月次推移(年別重ね合わせ)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(白浜町、対象施設数 月54〜63施設)。確定月のみ表示(2024年は9〜12月、2026年は1〜8月)。

エリア単位の単価水準を周辺と比べるため、南紀の沿岸市町と和歌山県全体の推定成約ADRを同じ期間で並べた。白浜町の12か月平均14,800円は、対象施設数が15以上ある市町のなかで最も高く、那智勝浦町(12,900円)、田辺市(12,000円)を上回り、県全体(9,700円)の約1.5倍にあたる。2026年1〜8月の前年同期間比も+6.9%と、県全体(+2.6%)を上回った。いずれも津波浸水想定区域を抱える沿岸の市町であり、白浜では浸水想定の有無がエリア全体の単価を押し下げる形では表れていない。区域内外の単価差は、町内の立地の違い(白良浜背後の平地か、段丘上か)として現れていると読むのが自然である。

表5 南紀の沿岸市町と和歌山県の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月)
市町・エリア12か月平均最高月最低月2026年1〜8月 前年同期間比対象施設数(月)
白浜町14,800円17,400円(2025年12月)11,800円(2026年6月)+6.9%54〜59
那智勝浦町12,900円16,800円(2026年8月)9,500円(2026年6月)+9.3%15
田辺市12,000円13,800円(2026年8月)10,700円(2026年6月)+1.9%28〜30
すさみ町(参考値)21,900円34,600円(2026年1月)16,300円(2026年6月)-5.5%5
串本町(参考値)7,500円8,900円(2026年2月)6,400円(2026年6月)+6.4%4〜7
和歌山県全体9,700円11,800円(2026年8月)7,900円(2026年6月)+2.6%210〜227
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・税抜相当、確定月のみ。対象施設数は各月の算出対象施設数の範囲)。すさみ町・串本町は対象施設数が10未満のため参考値。

供給の推移 — 2017年以降の新設客室は8割超が区域外

施設マスター上の開業日・閉館日をもとに、半径3km圏の施設数と客室数の推移を見ると、2012年の97施設・2,531室から2026年には190施設・4,156室に増えた。とくに2017〜2019年に客室が約1,100室増えており、この時期に大型の宿泊施設の開業が続いたことがわかる。2020年以降は客室数がほぼ横ばいで、施設数の増加は貸別荘やゲストハウスなど小規模施設が中心である。

集計対象132施設を開業時期で分けると、2017年以降に開業した56施設・930室のうち区域内は23施設・170室(客室の18.3%)にとどまる。2016年以前に開業した58施設・2,044室では区域内が29施設・907室(44.4%)で、新しい供給ほど区域外に立地する傾向がはっきり出ている。施設数では区域内の新規開業も23施設あるが、その多くは一棟貸しや小規模宿で、客室の大きな塊は段丘上や丘陵地に向かっている。津波浸水想定が公表されて以降の開発判断に、立地の選択が一定程度反映されていると読むこともできる。

※データに関する注記
本グラフはOTA掲載確認ベースの集計です。OTA事前掲載は全体の約19%にとどまり、半数以上が開業後の掲載のため、直近以降の月・年は今後の掲載で軒数が増加する可能性があります。確認申請ベースの建築計画パイプライン(国土交通省「建築物動態統計調査」)と併せて参照することを推奨します。
白浜温泉 半径3km圏の施設数・客室数の推移(2012〜2026年)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=190施設。施設マスター上の開業日・閉館日ベース、各年末時点。2026年は190施設・4,156室)
表6 開業時期別の施設数・客室数と浸水想定区域内の比率
開業時期(施設マスター)施設数客室数うち区域内 施設うち区域内 客室区域内 客室比率
2016年以前582,0442990744.4%
2017年以降569302317018.3%
開業日不明186652436.4%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=132施設・3,040室)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定)

用途地域と地価 — 商業地域の宿の65%が区域内、商業地の地価は横ばい

用途地域との重なりも確認した。容積率400%の商業地域には集計対象の46施設・1,238室が立地し、そのうち30施設・526室が浸水想定区域内にある(施設数で65.2%)。商業地域は白良浜背後の温泉街中心に指定されており、高い容積率を生かした建替えの余地がある一方で、敷地が浸水想定区域に重なりやすい。第二種住居地域(容積率200%)には30施設・1,185室があり、区域内は13施設・477室である。大型館の多くは住居系用途地域と商業地域にまたがって分布している。

表7 用途地域別の施設数・客室数と浸水想定区域内の内訳
用途地域(容積率)施設数客室数うち区域内 施設うち区域内 客室
商業地域(400%)461,23830526
近隣商業地域(200%)322900
第二種住居地域(200%)301,18513477
第一種住居地域(200%)321921051
第一種・第二種中高層住居専用地域(200%)19194447
第一種低層住居専用地域(50〜80%)2200
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域・津波浸水想定)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=132施設)

地価は、圏内の地価公示・都道府県地価調査の5地点で2019年以降の推移を確認した。温泉街中心の商業地2地点(白浜字上堀・都道府県地価調査、白浜字浜通リ・地価公示)はいずれも浸水深3m以上5m未満の区域内にあり、2026年は1㎡あたり76,200円と64,100円だった。2019年からの下落は1.5〜3.3%にとどまり、2023年以降は横ばいから小幅上昇に転じている。区域外の住宅地3地点は30,700〜38,600円で、同じく小幅な動きにとどまる。浸水想定区域内の商業地の地価が大きく崩れていないことは、温泉街中心の立地価値が市場で維持されていることを示している。

白浜温泉圏の地価推移(2019〜2026年、円/㎡)
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。地価公示は各年1月1日時点、都道府県地価調査は各年7月1日時点。

補助指標 — 土砂災害警戒区域には24施設・355室

白浜温泉は海岸段丘と丘陵が海に迫る地形のため、津波とは別に土砂災害警戒区域も確認した。集計対象132施設のうち24施設・355室が土砂災害警戒区域(一部は特別警戒区域)に位置し、このうち12施設・133室は津波浸水想定区域とも重なる。段丘の縁や斜面に近い立地では、津波からの避難先となる高台と斜地の管理がセットで論点になる。投資判断では、津波と土砂の2種類のハザードを同じ地図上で確認しておくことが有効である。複数のハザードを単価・防災投資と合わせて商圏単位で比較する視点は、ホテル立地評価の第4軸「災害リスク」を定量化するが参考になる。

投資判断への示唆 — 浸水深帯ごとに変わる設計・保険・BCPの論点

ここまでの集計から、白浜温泉の宿泊資産は大きく3つのゾーンに整理できる。以下は浸水深帯と立地の組み合わせごとに、建替・改修・取得の際に検討しておきたい論点をまとめたものである。

区域外(段丘上・丘陵地)

75施設・1,939室/ADR中央値19,200円
眺望を生かした高価格帯が多く、2017年以降の新設客室の8割超が集まる。用地は斜面に近いことが多く、土砂災害警戒区域の有無と、アクセス道路が低地を通るかどうかの確認が要点となる。

区域内・3m未満

9施設・90室
浸水深が比較的浅い帯で、小規模宿が中心。建替時に1階床レベルのかさ上げや、設備・備品の上階配置を組み合わせることで、営業再開までの期間を短くできる余地がある。

区域内・3m以上

48施設・1,011室
温泉街の中心・ビーチ至近の立地価値が高い帯。大型館は上層階を避難空間として位置づける設計、受変電設備・非常用発電機の上層配置、宿泊者向けの避難誘導計画を事業計画に織り込むことで、立地価値を長期で維持しやすい。

表8 浸水深帯・立地別に見た建替・改修・取得時の論点
論点区域外(段丘上)区域内・3m未満区域内・3m以上
建物設計斜面・擁壁の状態確認、アクセス動線の複線化床レベルのかさ上げ、1階は駐車場・ロビー等に上層階の避難空間確保、構造の耐浪性の確認
設備配置非常用電源の容量確認受変電設備・機械室の上階配置受変電設備・非常用発電機・給水設備の上層化
保険・財務地震保険・土砂災害の補償範囲の確認地震・津波による損害の補償範囲と免責の確認補償範囲・支払限度額と営業継続費用の補償の設計
BCP・運営高台の立地を生かした地域の受け入れ拠点としての役割近隣の避難場所への誘導計画、多言語案内垂直避難の運用手順、地域の避難体制との連携
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。個別の設計・保険の条件は物件ごとに専門家への確認が必要。

建替や大規模改修のタイミングは、こうした論点を事業計画に組み込む最も効果的な機会である。とくに3m以上の帯にある大型館は、上層階が宿泊者や周辺住民の避難先として機能しうるという点で、地域の防災インフラとしての価値も持つ。実際に圏内では、宿泊施設の建物が津波の指定緊急避難場所に指定されている例がある。受変電設備の上層化にかかる費用感については、別稿高潮浸水想定区域の客室は大阪で81%・3府県12万室で1室あたりの試算を示している。また、保険料や補償範囲は建物の構造・築年数・所在地によって大きく変わるため、取得時のデューデリジェンスでは浸水深帯を前提条件として保険会社・設計者と早い段階で共有しておくことが有効である。建物の築年数と保険料負担の関係は、ホテルの火災保険値上げ、1室1泊1.5〜29円で詳しく分析している。

まとめ

白浜温泉エリアでは、販売を確認できた132施設・3,040室のうち57施設・1,101室(36.2%)が和歌山県設定の津波浸水想定区域内にあり、その大半は浸水深3m以上の帯に位置する。区域内の客室の約半分は100室以上の大型館4施設に集まり、施設数では1〜9室の小規模宿が多い。単価では区域外の宿の推定成約ADR中央値が19,200円と区域内(10,700円)を上回り、高価格帯は海岸段丘の上に多い。2017年以降の新設客室の8割超が区域外を選んでおり、供給の立地選択にも変化が見える。

白良浜と温泉街の中心という立地価値は地価にも表れており、区域内の商業地の地価は横ばいを保っている。この立地価値を長く生かすには、建替や取得の段階で浸水深帯を前提に設計・設備配置・保険・BCPを組み立てることが要となる。浸水想定は行政が公表した最大クラスの想定であり、本稿の集計は立地の特性を把握するための材料として活用いただきたい。

集計に関する注記:本稿の津波浸水想定は、津波防災地域づくりに関する法律に基づき和歌山県が設定した想定(最大クラスの津波を想定したもの)を、国土交通省 不動産情報ライブラリ経由で取得したものです。発生の時期・頻度や個別建物の被害を示すものではありません。区域内外の判定は施設の登録座標1点で行っており、建物の階数・地盤高・敷地形状は考慮していません。自治体の最新のハザードマップ・避難情報は白浜町・和歌山県の公式情報をご確認ください。推定成約ADRは確定月(2025年9月〜2026年8月)のみを使用しています。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

施設・価格はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング(白浜温泉中心〔北緯33.68度・東経135.355度〕から半径3km、2026年9〜11月宿泊分の販売確認132施設・3,040室。施設マスター上は190施設・4,156室)。ハザード・都市計画・地価は国土交通省 不動産情報ライブラリ(津波浸水想定〔和歌山県設定〕、土砂災害警戒区域、用途地域、地価公示・都道府県地価調査、指定緊急避難場所)。単価は推定成約ADR(白浜町・南紀沿岸市町・和歌山県は2025年9月〜2026年8月の確定月)。

■ 試算前提

区域内外と浸水深帯は、各施設の登録座標1点がズームレベル15の地図タイル単位で取得した浸水想定ポリゴン(3,786件)のどの区分に含まれるかで判定した。施設別の推定成約ADRは、12か月のうち6か月以上の値が得られた50施設の期間平均を用い、浸水深帯ごとの中央値を比較した。表2は想定浸水深の基準を0.3m〜5mで変えた場合の該当施設・客室数、表3は浸水深帯と客室規模帯のクロス集計である。

■ 限界・留意点

建物の階数・構造・地盤高・敷地形状は考慮していない。津波浸水想定は最大クラスの津波を想定した行政公表の想定で、発生の時期・頻度や個別建物の被害を示すものではない。販売確認ベースのため、休業中や販売実態の確認できない施設は含まない。施設別ADRはN=50で、3m未満の帯はN=4の参考値。すさみ町・串本町の推定成約ADRは対象施設数が10未満のため参考値として扱った。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

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