那覇・旭橋駅の周辺で、既存の建物を改装してホテルにする計画が2026年8〜9月に相次いで公表された。マリオット・インターナショナルが8月24日に発表した「シティエクスプレス by マリオット沖縄那覇」(215室・2027年春開業予定)と、コロンビア・ワークスが9月15日に公表した旧「琉球サンロイヤルホテル」の一棟改修(127室・2028年春開業予定)で、いずれも新築ではなく既存躯体を活かす再生型である。旭橋駅から1km圏の客室数は2012年の7,909室から2026年には14,920室(主要予約サイト掲載ベース・181施設)へ約1.9倍に増えており、那覇市の推定成約ADRは直近12ヶ月平均で¥10,300(N=136〜144施設)だった。本稿では、この2件が圏域のストックと価格帯のどこに入るのか、そして築40年の建物を改修する費用感が新築とどれだけ違うのかを、供給推移・価格帯分布・推定稼働率・公表統計の建築工事費から定量的に読み解く。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- 施設数・客室数:メトロエンジンリサーチが追跡するうち、主要予約サイトに掲載があり稼働が確認できる施設を集計した「主要予約サイト掲載ベース」の値。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まれません。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省、総務省・経済産業省、沖縄県、各社プレスリリース
- — 旭橋駅1km圏の客室は14,920室(181施設・2026年)で2012年の約1.9倍。改装型2件の342室は約2.3%、閉館分を除く純増は215室にとどまる。
- — 那覇市の推定成約ADRは2025年10月〜2026年9月平均¥10,262(N=136〜144施設)で、前年同期間比+16.3%。
- — 1km圏の客室の8割超が1.5万円未満に集まり、1.5万〜2万円の帯は4施設・654室と最も薄い。
- — 宿泊業用建築の工事費予定額は2024年59.1万円/㎡。同規模の新築は1室約2,515万円で、改修3水準(仮置き)の工事費ベースGOP利回り9.7〜14.9%に対し新築は6.9%。
- — 那覇市の推定稼働は2026年9月に87.8%(179施設)。採算を分けるのは稼働より、改修後に入る価格帯と投資額の組み合わせである。
エグゼクティブサマリー — 1km圏14,920室の2.3%を、新築ではなく改装で足す
結論を先に述べると、旭橋の2件は圏域の供給を押し上げる案件というより、既存ストックの中身を入れ替える案件である。1km圏の客室は2022年に1,368室増えたあと2023〜2024年はほぼ横ばいで推移し、2025年に788室、2026年に313室が加わった。ここに2027年春の215室が純増として乗り、2028年春には2026年3月に閉館した135室の跡地が127室として戻る。両者を合わせた342室は1km圏の約2.3%で、閉館分を差し引いた純増は215室分にとどまる。
価格面では、那覇市の推定成約ADRが直近12ヶ月平均で¥10,300と前年同期間(¥8,800)から+16.3%上がり、推定OCCは2026年9月に87.8%と高い水準を保っている。旭橋1km圏で推定成約ADRが取れる69施設・9,648室の分布を見ると、客室の45%が1万円未満、38%が1万〜1.5万円に集中し、1.5万〜2万円の帯は4施設・654室しかない。中価格帯の国際ブランドと、スパ・サウナを備えた改修型ライフスタイルホテルが狙う価格帯は、まさにこの薄い帯の前後に位置する。
2件の事実整理 — 215室の国際ブランドと、築40年を127室に組み替える全館改修
まずは公表情報を一次資料に沿って整理しておきたい。シティエクスプレス by マリオット沖縄那覇は、マリオット・インターナショナルがラサール不動産投資顧問の組成したファンドおよびEastGateホスピタリティーと開業契約を結んだ案件で、那覇市中心部の既存物件を改装して2027年春に開業する予定である。客室は215室で、バルコニーまたはパティオ付きの家族向け2段ベッド客室を含む。ゆいレール旭橋駅から約300m(徒歩約5分)、那覇空港から約4km、国際通りまで約1kmという立地が公表されており、同ブランドの沖縄初進出となる。所在地の番地、建物の階数、契約形態(フランチャイズか運営受託か)はリリースに記載がなく、本稿でも推測しない。
一方の旧琉球サンロイヤルホテル(那覇市東町6-20)は、1986年6月竣工のSRC造・地上10階地下1階、敷地1,140.12㎡(約345坪)、延床5,403.64㎡(約1,635坪)の建物である。旭橋駅から徒歩2分の立地で2026年3月6日に閉館したのち、コロンビア・ワークスが取得し、既存建物の躯体と外壁を活かして一棟全体をリノベーションする。客室は135室から127室に絞り、運営は全国12施設を手がけるアマネクが担う。「RYUKYU CHAMPLOO Style」をコンセプトに、ローカルショップ、ラウンジ&ダイニング、文化体験スペース、琉球ハーブを使ったスパ・サウナを計画し、2028年春の開業を予定する。取得額は公表されていない。
| 時期 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 1986年6月 | 琉球サンロイヤルホテル竣工(同年7月開業、135室) | コロンビア・ワークス発表、estie |
| 2026年3月6日 | 琉球サンロイヤルホテル閉館 | estie |
| 2026年8月24日 | マリオットが「シティエクスプレス by マリオット沖縄那覇」(215室)の開業契約を発表。既存物件の改装、旭橋駅から約300m | マリオット発表(PR TIMES)、トラベルボイス |
| 2026年9月15日 | コロンビア・ワークスが旧琉球サンロイヤルホテルの取得と一棟リノベーション(127室)を公表。運営はアマネク | コロンビア・ワークス発表(PR TIMES) |
| 2027年2月1日 | 沖縄県宿泊税の課税開始(定率2%・上限2,000円) | 沖縄県 |
| 2027年春(予定) | シティエクスプレス by マリオット沖縄那覇 開業 | マリオット発表 |
| 2028年春(予定) | 旧琉球サンロイヤルホテル跡が127室で開業 | コロンビア・ワークス発表 |
公表スケジュールから読み取れるのは、改装型の工期の短さである。契約公表から開業までが約8ヶ月(シティエクスプレス)、取得公表から開業までが約1年半(旧琉球サンロイヤル)と、解体・設計・建築確認を経る新築とは別の時間軸で動いている。コロンビア・ワークスのリリースも、躯体と外壁を残す理由として工期の短縮を明示している。
旭橋1km圏・2km圏の客室推移 — 14年で1.9倍、2023〜2024年の踊り場を経て再加速
旭橋駅(北緯26.2120度・東経127.6757度)を中心とする1km圏の客室数は、2012年の70施設・7,909室から2019年には136施設・11,281室へ増え、2026年には181施設・14,920室に達した(いずれも主要予約サイト掲載ベース)。2km圏では134施設・11,553室から380施設・23,307室へと、同じ期間で2.0倍である。増え方は一様ではなく、2022年に1km圏で1,368室が一気に加わったあと、2023年は+54室、2024年は−41室とほぼ止まった。2025年に+788室、2026年に+313室と再び動き出した局面に、今回の2件が公表された格好になる。
2025年以降に1km圏で掲載が確認された主な開業を並べると、ラ・ジェント・ホテル沖縄那覇(257室・2025年5月)、THE NEST那覇(366室・2025年7月)、ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 那覇(257室・2026年1月)、ホテルモントレ ラ・スール那覇(223室・2026年4月)と、200室超の中大型が続いた。これに40〜50室台の宿泊特化型やコンドミニアム型の小規模施設が加わり、2025年の純増788室の内訳をほぼ説明できる。2026年は545室分の新規掲載に対して純増が313室にとどまっており、旧琉球サンロイヤルの135室を含む閉館・掲載終了が差し引かれている。那覇市全体の供給構造とADRの階層は、首里城復元で高まる那覇・首里の宿泊需要でも整理している。
| 年 | 1km圏 施設数 | 1km圏 客室数 | 前年差 | 2km圏 施設数 | 2km圏 客室数 | 前年差 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 2018年 | 114 | 10,016 | +757 | 237 | 15,891 | +991 |
| 2019年 | 136 | 11,281 | +1,265 | 274 | 17,472 | +1,581 |
| 2020年 | 150 | 11,868 | +587 | 307 | 19,219 | +1,747 |
| 2021年 | 161 | 12,438 | +570 | 340 | 20,332 | +1,113 |
| 2022年 | 169 | 13,806 | +1,368 | 353 | 21,597 | +1,265 |
| 2023年 | 170 | 13,860 | +54 | 359 | 21,681 | +84 |
| 2024年 | 170 | 13,819 | -41 | 359 | 21,640 | -41 |
| 2025年 | 178 | 14,607 | +788 | 372 | 22,782 | +1,142 |
| 2026年 | 181 | 14,920 | +313 | 380 | 23,307 | +525 |
先行きの供給については2つの観測値を併記しておく。沖縄県全体で主要予約サイトへの掲載が確認された新規開業は2024年が137施設・1,328室、2025年が129施設・2,077室、2026年は10月時点で96施設・2,932室である(OTA掲載確認ベース)。掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の月は今後の掲載で増加する可能性がある。もう一つの国土交通省「建築物動態統計調査」の確認申請ベースでは、沖縄県内で把握できる計画は浦添市西原の200室(17階・2026年7月完成予定)が中心で、調査時点での確認申請ベースの下限値にすぎず、今後の申請追加で件数・客室数は増加する見込みである。いずれにせよ、那覇中心部で新築の大型計画が目白押しという状況ではなく、旭橋の2件のような既存建物の転用が供給の一角を担う局面に入っている。着工統計で非新築ルートが宿泊供給のどれだけを占めるかは、ホテル供給の16.7%が非新築 — 着工統計5,707件の分解で数えている。
立地評価 — 就業者4.1万人のオフィス街と、居住人口2万人の生活圏が重なる旭橋
旭橋駅は那覇バスターミナルと直結し、県庁・市役所の官庁街と国際通りの観光動線の結節点にあたる。総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021年)」を小地域単位で集計すると、駅から1km圏の事業所数は3,439、従業者数は40,599人で、うちオフィス系業種の従業者は12,273人(30.2%)である。平日のビジネス需要を支える厚みがある一方、国土交通省の250mメッシュ別将来推計人口によると同じ1km圏の居住人口は2025年に20,304人で、2040年には18,889人(2020年国勢調査の21,064人比で−10.3%)へ減少する見込み、65歳以上比率は28.9%である。居住人口は国勢調査ベースの定住人口であり、滞在人口や通過人口ではない点に注意が必要だが、観光・ビジネスの来訪需要に対して周辺の住宅地化圧力が弱い立地と読める。
地図で見ると、1km圏の宿泊施設は旭橋駅の北側(久米・松山・東町)と東側(泉崎・県庁前)に密集し、南側の那覇港・奥武山方面は薄い。旧琉球サンロイヤルホテルは駅西側の東町にあり、徒歩2分の至近である。シティエクスプレスの所在地は番地が公表されていないため地図上では「駅から約300m」の円で示すにとどめた。改装型の2件が立地するのは、既に宿泊施設が集積し来訪者の動線が確立している側であり、新たに需要を掘り起こす立地ではなく、既存の需要の中で価格帯とブランドで差をつける立地といえる。
那覇市の価格帯分布 — 1万円未満が45%、1.5万〜2万円の帯は4施設・654室
那覇市の推定成約ADR(市内の対象施設の中央値)は、2025年10月〜2026年9月の12ヶ月平均で¥10,300(N=136〜144施設)だった。前年同期間の¥8,800に対して+16.3%で、確定月どうしの比較である。月別に見ると、2026年2月は¥14,200とプロ野球キャンプ期に跳ね、2026年9月は¥9,700で前年同月(¥8,900)比+8.6%だった。沖縄県全体の12ヶ月平均は¥11,900(N=482〜515施設)で、リゾート地を含む県平均より那覇市は約14%低い。
業態別に分けると差ははっきりする。那覇市のビジネスホテルの推定成約ADRは12ヶ月平均で¥9,500(N=103〜106施設)、リゾートホテルは¥13,700(N=18〜21施設)、シティホテルは¥19,500(N=10〜14施設)である。ビジネスとシティの間には約1万円の開きがあり、その中間にリゾート区分の施設が入る構図になっている。シティホテルはサンプルが14施設以下と少ないため、水準は幅を持って読む必要がある。
次に旭橋駅1km圏に絞り、直近12ヶ月のうち6ヶ月以上で推定成約ADRが算出できた69施設・9,648室を価格帯ごとに並べた。個別施設名は示さず、エリア集計として扱う。1万円未満の帯に37施設・4,376室(客室の45%)、1万〜1.5万円の帯に22施設・3,669室(38%)が入り、ここまでで客室の8割を超える。1.5万〜2万円の帯は4施設・654室、2万〜3万円は5施設・861室、3万円以上は1施設・88室で、中央値は¥9,700だった。
密集帯:1万円未満 × 宿泊特化
37施設・4,376室。1km圏の客室の45%がここに入り、ビジネス区分の中央値¥9,500もこの帯の上端にある。新規参入が価格で差をつけにくい領域である。
想定帯① 1万〜1.5万円 × 国際ブランドの標準化
22施設・3,669室。2025〜2026年開業の中大型が多く入る帯で、コストパフォーマンスを掲げるミッドスケールの国際ブランドが那覇で狙う水準はこの帯と重なるとみられる。会員基盤と家族向け客室で密集帯の上に位置取る形になる。
想定帯② 1.5万〜2万円 × 改修型ライフスタイル
4施設・654室と最も薄い帯。スパ・サウナ、ラウンジ、文化体験といった付帯機能を持つ改修型ライフスタイルホテルは、シティ区分(¥19,500)の下、リゾート区分(¥13,700)の上に入る余地がある。
どちらの帯も本稿の仮説であり、両案件の料金は公表されていない。ただ、1km圏の客室の8割超が1.5万円未満に集まる構造の中で、国際ブランドの標準化されたミッドスケールと、付帯機能で差をつける改修型ライフスタイルが同じ帯で競合する可能性は低い。前者は密集帯の上端を押し上げ、後者は薄い帯を埋める、という役割分担が自然な読み筋になる。
開発シナリオ試算 — 築40年の全館改修は1室800万〜1,800万円の仮置き、新築躯体費は1室2,515万円
改修と新築の費用差を、公表統計を起点に置いてみたい。国土交通省「建築着工統計調査」によると、2024年に全国で着工した宿泊業用建築物は2,836棟・床面積175.6万㎡・工事費予定額1兆384億円で、1㎡あたりの工事費予定額は59.1万円(坪あたり約195万円)である。2015年の27.8万円/㎡、2019年の36.4万円/㎡から大きく上がり、2023年の41.7万円/㎡から1年で4割以上の上昇となった。工事費予定額は建築主が確認申請時に見込む建築工事費で、土地・解体・設計監理・家具什器は含まれない。
旧琉球サンロイヤルホテルの延床5,403.64㎡を127室で割ると1室あたり約42.5㎡の延床になる。同じ床面積を2024年の全国平均単価で新築すると建築工事費だけで約31.9億円、1室あたり約2,515万円という計算になる。これに対し、躯体と外壁を残す全館改修の費用は案件ごとの差が大きく、公表統計に該当する系列がない。そこで本稿では、内装中心の改修を1室800万円、設備更新を含む全館改修を1,200万円、用途再編を伴う全面改修を1,800万円と仮置きした。新築躯体費のそれぞれ約3割・5割・7割に相当する水準で、実際の見積りはアスベスト調査、昇降機更新、給排水・空調の更新範囲、スプリンクラーの要否で大きく動く。あくまで比較のための物差しとして読んでいただきたい。
| シナリオ(127室) | 1室あたり工事費 | 工事費合計 | 想定ADR | 年間売上 | GOP(35%) | 工事費に対するGOP利回り |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A. 内装中心の改修 | 800万円(仮置き) | 10.2億円 | ¥11,000 | 4.3億円 | 1.52億円 | 14.9% |
| B. 設備更新を含む全館改修 比較基準 | 1,200万円(仮置き) | 15.2億円 | ¥13,500 | 5.3億円 | 1.86億円 | 12.2% |
| C. 用途再編を伴う全面改修 | 1,800万円(仮置き) | 22.9億円 | ¥16,000 | 6.3億円 | 2.21億円 | 9.7% |
| 参考:同規模を新築(建築工事費のみ) | 2,515万円 | 31.9億円 | ¥16,000 | 6.3億円 | 2.21億円 | 6.9% |
表の利回りは「工事費だけを分母にした」数値である点を強調しておく。取得価格が公表されていないため建物取得分を含められず、実際の総投資額に対する利回りはこれより低くなる。それでも、新築躯体費を分母にした場合の6.9%に対し、改修案は想定ADRを低めに置いても9.7〜14.9%と、投資額の小ささがそのまま利回りの差になって表れる。工期の差(新築の解体・設計・確認申請の前段工程が不要)も含めれば、建設費が高止まりする局面で既存建物の再生が選ばれる理由は数字の上で説明がつく。改装投資が新築を上回る境界線については、建設費高騰時代の新セオリー:改装投資が新築を凌駕する境界線が公表5案件のADRリフトから検証している。
| 感度分析(シナリオB・工事費15.2億円) | 想定ADR | 稼働 | 年間売上 | GOP | 工事費に対するGOP利回り |
|---|---|---|---|---|---|
| ベース | ¥13,500 | 85% | 5.32億円 | 1.86億円 | 12.2% |
| ADR −10% | ¥12,150 | 85% | 4.79億円 | 1.68億円 | 11.0% |
| 稼働 −5pt | ¥13,500 | 80% | 5.01億円 | 1.75億円 | 11.5% |
| 両方 | ¥12,150 | 80% | 4.51億円 | 1.58億円 | 10.3% |
感度を見ると、ADRが1割下がるケースと稼働が5pt下がるケースで利回りの低下幅はほぼ同じ1pt前後で、両方が同時に起きても10.3%にとどまる。那覇市の推定OCCが86〜88%で推移している現状では、稼働よりもADRの着地が採算の分かれ目になる。既存建物のオーナーにとっては、改修後にどの価格帯に入れるかを先に決め、その帯に見合う投資額に抑えることが、計画段階で最も効く判断といえるだろう。
工事費と想定ADRの2軸感度 — 価格帯を先に決めると許容できる工事費が決まる
シナリオ表は工事費と想定ADRを組で動かしているため、どちらが利回りを決めているのかが見えにくい。そこで1室あたり工事費(6水準)と想定ADR(5水準)を独立に振り、工事費に対するGOP利回りを並べた。想定ADRの列は、那覇市の推定成約ADR(¥10,000前後)、シナリオAの¥11,000、シナリオBの¥13,500、シナリオCの¥16,000、シティ区分の¥19,500(いずれも2025年10月〜2026年9月の水準を参照)に対応する。
| 1室あたり工事費 | ¥10,000 | ¥11,000 | ¥13,500 | ¥16,000 | ¥19,500 |
|---|---|---|---|---|---|
| 800万円 | 13.6% | 14.9% | 18.3% | 21.7% | 26.5% |
| 1,000万円 | 10.9% | 11.9% | 14.7% | 17.4% | 21.2% |
| 1,200万円 | 9.0% | 10.0% | 12.2% | 14.5% | 17.6% |
| 1,500万円 | 7.2% | 8.0% | 9.8% | 11.6% | 14.1% |
| 1,800万円 | 6.0% | 6.6% | 8.1% | 9.7% | 11.8% |
| 2,515万円(新築・参考) | 4.3% | 4.7% | 5.8% | 6.9% | 8.4% |
表を縦に読むと、同じ想定ADRでも工事費が800万円から1,800万円に上がるだけで利回りは半分以下になる。横に読むと、全面改修(1,800万円)で10%前後を確保するには¥16,000以上の価格帯に入る必要があり、1,200万円の全館改修なら那覇市の標準的な水準に近い¥11,000でも10.0%に届く。新築の建築工事費(1室約2,515万円)を分母にすると、シティ区分並みの¥19,500を置いても8.4%で、¥11,000で成立する1,200万円の改修を下回る。改修後に入れる価格帯を先に決め、その帯で成立する工事費の上限を逆算する、という本稿の結論は、この2軸で見ても変わらない。
那覇市の業態別 推定OCC — 2026年9月は全体87.8%、リゾート89.6%
需要側の確認として、直近の確定月である2026年9月の推定OCC(OTA掲載在庫ベース・推定)を業態別に示す。那覇市全体は87.8%(対象179施設/客室15,059室・主要予約サイト掲載ベース)、ビジネスホテルは87.7%(76施設/9,421室)、リゾートホテルは89.6%(17施設/2,298室)だった。2026年8月は全体86.0%(176施設/15,261室)で、夏の繁忙期から9月にかけても水準を保っている。シティホテル区分は対象が7施設と少なく推定値を表示していない。沖縄県全体の9月は86.7%(708施設/36,220室)で、那覇市は県平均を1pt上回る。
| エリア・業態 | 対象施設数 | 対象客室数 | 2026年9月 推定OCC | 2026年8月 推定OCC |
|---|---|---|---|---|
| 那覇市 全体 | 179 | 15,059 | 87.8% | 86.0% |
| 那覇市 ビジネスホテル | 76 | 9,421 | 87.7% | 85.9% |
| 那覇市 リゾートホテル | 17 | 2,298 | 89.6% | 87.8% |
| 那覇市 シティホテル | 7 | 1,530 | 対象施設数が少ないため非表示 | — |
| 沖縄県 全体 | 708 | 36,220 | 86.7% | — |
推定OCCが9割近い状態は、供給が増えた2025〜2026年を通じても那覇中心部の需要が吸収力を保っていることを示す。ここに2027年春の215室が加わる影響は1km圏の1.4%にあたり、2025年の純増788室(5.7%)を消化した実績と比べれば、需給を大きく動かす規模ではない。むしろ注目すべきは、高い稼働を背景に価格帯の上側へ移る動きが続くかどうかで、業態別ADRの推移をみる限り、ビジネス区分の¥9,500とシティ区分の¥19,500の間を埋める施設が増える余地は残っている。
沖縄県宿泊税の開始 — 2027年2月1日から定率2%、1万円の客室で1人1泊100円
沖縄県は2027年2月1日から宿泊税を導入する。税率は宿泊料金(食事等を除く、1,000円未満切り捨て)に対する定率2%で、1人1泊あたり2,000円が上限、修学旅行など学校教育活動での宿泊は課税免除となる。市町村が独自に課税する場合は県税0.8%・市町村税1.2%に分かれるが、県が市町村分の導入予定として挙げるのは本部町・恩納村・北谷町・宮古島市・石垣市・名護市で、那覇市は含まれていない。那覇市の推定成約ADR約1万円を2名で利用する場合、1人あたりの宿泊料金は5,000円前後となり、税額は1人1泊100円程度である。シティエクスプレスの開業予定(2027年春)は課税開始の直後にあたり、改修型2件とも宿泊税を織り込んだ料金設計で立ち上がることになる。詳細は沖縄県宿泊税の税率・上限と宿の準備で整理している。
まとめ — 旭橋の2件は「供給を足す」より「ストックの中身を入れ替える」案件
本稿で確認できた点を整理する。第一に、旭橋駅1km圏の客室は14年で約1.9倍の14,920室に達し、2025〜2026年に再び増加局面に入ったが、改装型2件の342室は圏域の2.3%、閉館分を除いた純増は215室で、需給を揺らす規模ではない。第二に、那覇市の推定成約ADRは直近12ヶ月平均¥10,300で前年同期間比+16.3%、推定OCCは87.8%と、価格・稼働ともに上向きの地合いにある。第三に、1km圏の客室の8割超が1.5万円未満に集まり、1.5万〜2万円の帯は4施設・654室と薄く、国際ブランドのミッドスケールと改修型ライフスタイルが入る余地がそれぞれ別の帯にある。第四に、宿泊業用建築の工事費が59.1万円/㎡(2024年)まで上がった局面では、躯体を残す改修は工事費ベースの利回りで新築を上回りやすく、工期の短さも含めて既存建物の再生が選ばれる合理性がある。
那覇で築古のホテルやオフィスを保有するオーナーにとって、今回の2件は参照しやすい先行例になる。ポイントは、改修後に入る価格帯を先に決め、その帯で成立する投資額に工事範囲を合わせることである。那覇市の価格帯分布と業態別ADRは、その判断の出発点として使える。本稿の試算値はいずれも公表統計と推定値に基づく簡易なもので、個別案件の建物調査・見積り・資金計画に代わるものではない。
よくある質問
Q. 旭橋の改装型2件は、那覇の供給過剰につながりますか。
A. 2件合計の342室は旭橋駅1km圏14,920室の約2.3%で、旧琉球サンロイヤルホテルの127室は2026年3月に閉館した135室の再開業にあたります。純増は215室分にとどまり、2025年に1km圏で消化された純増788室と比べても小さい規模です。
Q. 那覇市のホテル単価はどの程度ですか。
A. 本稿の推定成約ADR(2名1室利用時の1室あたり・税抜相当の推定値)で、那覇市は2025年10月〜2026年9月の12ヶ月平均が10,300円(N=136〜144施設)です。業態別ではビジネスホテル9,500円、リゾートホテル13,700円、シティホテル19,500円でした。
Q. 築40年のホテルを改修する費用はいくらかかりますか。
A. 改修費には公表統計の系列がなく、本稿では1室あたり800万円・1,200万円・1,800万円の3水準を仮置きしました。比較対象として、国土交通省「建築着工統計調査」の2024年の宿泊業用1㎡あたり工事費予定額59.1万円を同規模(1室あたり延床42.5㎡)に当てはめると、新築の建築工事費は1室あたり約2,515万円になります。
Q. 沖縄県の宿泊税はいつから、いくらですか。
A. 2027年2月1日から、宿泊料金(食事等を除く)に対して定率2%、1人1泊あたり上限2,000円です。那覇市は市町村独自課税の予定自治体に含まれておらず、1室1万円を2名で利用する場合の税額は1人1泊100円程度になります。
関連記事
- 沖縄 宿泊税は2027年2月1日から2%|1名1泊100〜320円、上限2,000円が効く価格帯と宿の準備
- 旧JR九州本社ビルのホテル転用、取得は9,306万円・改修は30億円超 — 門司区ADR7,428円で読む採算
- 改装の前に石綿調査 — 1975年・2006年の2本線と、1室1万〜57万円の上乗せ試算
- マリオット高知210室、既存5,551室に+3.8% — 四国初のコートヤード、ADR7,900円と浸水1〜2mの敷地
- 沖縄の食事プレミアム、ビジネス朝食+12.9%・リゾート+7.4%
あわせて読みたい
- 沖縄のホテル客室数ランキング2026|1位826室、300室超34軒を圏域別に
- ホテル供給の16.7%が非新築 — 着工統計5,707件を新築・増築・改築で分解
- 建設費高騰時代の新セオリー:改装投資が新築を凌駕する境界線 — 2026年大規模リニューアル5案件で読み解く投資単価とADRリフト
- 首里城復元で高まる那覇・首里の宿泊需要 — 供給とADR階層の成長余地
- 沖縄の新規供給2,842室を業態別に割り戻す — 在庫比はビジネス0.6%・シティ22.1%、推定成約ADRは7月確定で+7.6%〜+9.9%
- ホテル改装の逸失売上は工事費の32.6% — 実質Capexは1室300万円→398万円
- 既存ホテルの外資ブランド転換、1室原価は新築の7分の1 — 札幌15施設の実測ADR
- ホテル1室の建築費は2,067万円 — 計画31件の客室原単位35.0㎡から逆算
参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADR・推定稼働・施設数・客室数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(主要予約サイト掲載ベース)。圏域は旭橋駅(北緯26.2120度・東経127.6757度)から半径1km・2kmで集計し、那覇市・沖縄県の値は市・県単位の集計を用いた。工事費は国土交通省「建築着工統計調査」(宿泊業用・全国)、就業者は総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021年)」、居住人口は国土交通省 国土数値情報、案件情報は各社プレスリリースと報道による。
■ 試算前提
客室127室、年間稼働85%(通年)、GOP率35%、売上は客室売上のみ。改修工事費は1室800万円・1,200万円・1,800万円の仮置き、新築は延床5,403.64㎡に2024年の宿泊業用1㎡あたり工事費予定額59.1万円を乗じた建築工事費。利回りの分母は工事費のみで、建物取得価格・土地・解体・設計監理・家具什器・金利を含まない。
■ 限界・留意点
推定成約ADR・推定稼働はOTAの公開データに基づく推定値で、各施設の実績値とは異なる。2026年の施設数・客室数は調査時点(2026年10月)までの掲載確認分。旭橋1km圏の価格帯分布は推定成約ADRが6ヶ月以上算出できた69施設・9,648室に限る。両案件の料金・取得額・改修費は公表されておらず、価格帯の位置づけと試算は比較のための仮説である。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(那覇市N=136〜144施設、沖縄県N=482〜515施設)、旭橋駅1km圏・2km圏の施設数・客室数推移(主要予約サイト掲載ベース)、業態別推定OCC(那覇市179施設/15,059室)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計表ID 0003114490、用途別・建築主別の建築物の数・床面積・工事費予定額)
- 国土交通省「建築物動態統計調査」(確認申請ベースの計画情報)
- 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021年)」(e-Stat 統計GIS 小地域集計)
- 沖縄県「沖縄県宿泊税について」
■ REIT・業界レポート
■ ニュース・プレスリリース
