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雪国の宿の除雪・融雪・雪下ろし費は1室あたり年7.9万円 — 降雪3階層で冬季売上の4〜9%、休館の分岐点

投稿日 : 2026.10.23

北海道

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投資・開発

雪国の宿の除雪・融雪・雪下ろし費は1室あたり年7.9万円 — 降雪3階層で冬季売上の4〜9%、休館の分岐点

国土交通省が令和8年4月1日現在で指定する豪雪地帯は24道府県・532市町村、うち特別豪雪地帯は201市町村に及ぶ。その内側に立地する宿泊施設を主要予約サイトの掲載ベースで数えると、市町村の全域または大半が指定区域にあたる施設だけで7,323施設・270,263室になる。雪国の宿の冬には暖房・給湯の熱源費のほかに、駐車場の機械除雪、玄関前の融雪装置、そして屋根の雪下ろしという「雪そのものを動かす費用」が毎年かかる。本稿ではこの3費目に絞り、気象庁の降雪平年値から出動回数を推計したうえで、降雪量の3階層ごとに1室あたり年額を積み上げ、12〜2月の推定成約ADRと稼働率から冬季売上に対する比率を算出する。最後に、冬も営業を続ける宿と季節営業に切り替える宿の分岐点、融雪設備の投資回収を整理する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。本稿の冬季ADRは2025年12月〜2026年2月の3か月平均(確定した履歴基準)です。
  • 客室稼働率(OCC)=観光庁「宿泊旅行統計調査」の都道府県別・全施設タイプの客室稼働率(2025年の1月・2月・12月の平均)を用いています。当社推定値ではありません。
  • 降雪の深さ合計・最深積雪=気象庁の平年値(1991〜2020年)。年間の降雪の深さ合計(cm)と最深積雪(cm)。
  • 出動回数(推計)=駐車場・アプローチの機械除雪を業者に委託した場合の年間出動回数。本稿では「降雪の深さ合計÷20cm」で推計し、感度分析で15〜30cmの幅を示します。
  • 豪雪地帯/特別豪雪地帯=豪雪地帯対策特別措置法にもとづく指定区域(国土交通省、令和8年4月1日現在)。本稿の施設数・客室数は主要予約サイトに掲載されている施設ベースであり、全数調査ではありません。
  • データ出典=メトロエンジンリサーチ(ADR・施設数・客室数)、および本文中に明記した各公的資料。

Key Takeaways

  • 雪を動かす費用は1室あたり年7万9,100円(多雪・60室型)。機械除雪2万6,600円、融雪装置2万5,200円、屋根雪下ろし2万7,300円がほぼ3等分で並ぶ。中雪は3万8,300円、少雪は1万6,600円。
  • 冬季売上に対する比率は多雪8.6%・中雪5.6%・少雪4.3%(60室型、冬季ADRは客室加重)。30室型では多雪10.8%まで上がり、120室型では6.5%に下がる。敷地面積で決まる費目を客室数で割るためである。
  • 冬季営業の損益分岐稼働率は8〜14%。雪の費用に冬季熱源費を加えても、階層別の中央値ADRなら稼働率が1割台に乗れば冬を開ける意味がある。分岐点を動かすのは雪の量より単価の低さである。
  • 融雪設備は除雪費の節約では回収しにくく、回収の源泉は営業継続日数にある。屋根融雪(3,000万円)は多雪で年4.6日、ロードヒーティング(600万円)は年2.3日ぶんの冬季売上を守れれば採算が合う。
  • 費用を負担する母集団は指定区域の内側に7,323施設・27万室(主要予約サイト掲載ベース、令和8年4月1日現在の指定)。特別豪雪地帯に関わる客室は9.9万室で、長野県と新潟県が二大集積である。

指定区域の内側に27万室 — 全域指定の10道県に供給の6割

まずは費用を負担する母集団の大きさを押さえておきたい。豪雪地帯対策特別措置法にもとづく指定は市町村単位で行われ、北海道・青森・岩手・秋田・山形・新潟・富山・石川・福井・鳥取の10道県は全域が豪雪地帯、残る14府県は一部の市町村が指定されている。この指定区域と、メトロエンジンリサーチが追跡する範囲で主要予約サイトに掲載されている宿泊施設を市町村単位で突き合わせた結果が表1である。

市町村の全域または大半が指定区域にあたる施設は7,323施設・270,263室で、そのうち特別豪雪地帯に関わる施設が3,479施設・99,126室を占める。これとは別に、市町村の一部だけが指定されている自治体(仙台市・静岡市・福島市など)に1,689施設・74,095室があるが、これらは施設の所在が指定区域の内か外かを市町村単位では判別できないため、表1では参考値として別掲した(後段の階層別試算では、代表観測地点との対応がある福島市・大町市のみ含めている)。道県別に見ると、北海道の82,854室が突出し、新潟県28,040室、石川県18,641室、長野県18,250室、岩手県16,320室が続く。特別豪雪地帯に限れば長野県17,938室と新潟県17,282室が二大集積で、スキー場と温泉地が特別豪雪地帯の指定区域と重なる構図が浮かぶ。

表1:豪雪地帯の指定市町村と宿泊供給(24道府県)
道府県指定市町村数
(うち特豪)
全域・大半が指定
施設数
同 客室数うち特豪関係
客室数
一部指定(参考)
施設数/客室数
北海道179(86)1,43282,85413,786—
青森県40(13)24014,4268,581—
岩手県33(2)35416,3201,896—
宮城県8(1)1083,8492,542143/15,801
秋田県25(13)23810,8395,198—
山形県35(26)38913,9247,486—
福島県20(14)2906,9403,855133/8,124
栃木県3(0)1762,5900249/8,050
群馬県14(1)4328,7021,242117/5,445
新潟県30(18)75328,04017,282—
富山県15(6)25311,8848,075—
石川県19(2)41418,6413,933—
福井県17(4)3129,096701—
山梨県2(0)472012/373
長野県20(10)88218,25017,938389/10,975
岐阜県10(4)2575,6535,640139/3,344
静岡県2(0)000166/11,737
滋賀県4(1)29971971100/3,534
京都府8(0)1983,617028/798
兵庫県7(0)3305,421016/352
鳥取県19(0)2087,8930—
島根県8(0)10142040/1,029
岡山県8(0)333080/2,257
広島県6(0)11106077/2,276
計(24道府県)532(201)7,323270,26399,1261,689/74,095

指定市町村数は国土交通省「豪雪地帯・特別豪雪地帯の指定(令和8年4月1日現在)」。施設数・客室数はメトロエンジンリサーチ(主要予約サイト掲載・運営中の施設ベース、N=9,012施設・344,358室、政令指定都市は区を市に集約)。「全域・大半が指定」は市町村全域が豪雪地帯または特別豪雪地帯の自治体と、一部が特別豪雪地帯でそれ以外が豪雪地帯の自治体。「一部指定」は市町村の一部のみが豪雪地帯で大半が無指定の自治体。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

出動回数は降雪平年値から逆算する — 十日町48回、札幌24回、新潟7回

雪を動かす費用の大きさは、ほぼすべて「何回動かすか」で決まる。ここで便利なのが気象庁の平年値である。年間の降雪の深さ合計(cm)は、その冬に敷地へ降り積もる雪の総量を示す指標であり、一定の新雪ごとに除雪機械を出すと考えれば出動回数に換算できる。自治体の道路除雪では新雪10cm程度を出動基準とする例が多く、札幌市の施設駐車場の除雪業務仕様書では、積雪深が10cmを超えて車両の走行が困難になった時点で出動し、年間14回(12月3回・1月5回・2月5回・3月1回、1回あたり約1時間)を見込んでいる。札幌の降雪の深さ合計は平年479cmであるから、公共施設の運用では約34cmの降雪につき1回の出動という計算になる。

ただし宿泊施設は事情が異なる。宿泊客の到着と出発が朝夕にあり、玄関前と駐車場を毎朝使える状態にしておく必要があるため、公共施設より出動の閾値は低くなる。本稿では「降雪の深さ合計÷20cm」を出動回数の推計式として置き、札幌では24回と公共施設仕様の約1.7倍になる水準を基準にした。この係数は感度分析で15cm(出動多め)から30cm(公共施設並み)まで振る。表2は主要な気象観測地点の平年値と推計出動回数である。十日町967cmで48回、湯沢1,054cmで53回、肘折(大蔵村)1,469cmで73回となる一方、新潟139cmで7回、金沢157cmで8回にとどまる。同じ新潟県内でも、新潟市と十日町市では出動回数に7倍の差が開く。

図1:降雪の深さ合計(平年値、cm)と推計出動回数。出典:気象庁「平年値(1991〜2020年)」よりホテルバンク編集部作成。出動回数は降雪の深さ合計÷20cmの推計値

表2:降雪の3階層と代表地点の平年値・推計出動回数
階層(降雪の深さ合計)代表観測地点(主な立地市町村)降雪の深さ合計最深積雪推計出動回数
多雪(800cm以上)肘折(大蔵村)1,469cm321cm73回
津南(津南町)1,301cm271cm65回
湯沢(湯沢町・南魚沼市)1,054cm208cm53回
十日町(十日町市)967cm217cm48回
倶知安(倶知安町・ニセコ町)921cm183cm46回
中雪(300〜800cm)弘前(弘前市)679cm88cm34回
青森(青森市)567cm101cm28回
札幌(札幌市)479cm97cm24回
長岡(長岡市)477cm89cm24回
高山(高山市)305cm55cm15回
少雪(300cm未満)山形(山形市)285cm51cm14回
富山(富山市)253cm51cm13回
金沢(金沢市)157cm32cm8回
新潟(新潟市)139cm32cm7回

出典:気象庁「平年値(年・月ごとの値)」(1991〜2020年)。推計出動回数は降雪の深さ合計÷20cm(ホテルバンク編集部推計)。階層の代表値は多雪1,000cm・最深積雪200cm、中雪500cm・100cm、少雪150cm・35cmを試算に用いた

3費目の前提 — 単価はすべて公開資料から、回数は平年値から

試算のモデルは客室60室・駐車場とアプローチ1,500平方メートル・ロードヒーティング150平方メートル・屋根面積1,200平方メートルの宿とし、30室型(900/100/700平方メートル)と120室型(2,400/200/2,000平方メートル)を併せて示す。単価の前提は表3のとおりで、いずれも公開資料の数値を起点に置き、推計を含むものにはその旨を明記した。機械除雪の委託単価は、長野県の令和7年度実施設計単価で除雪ドーザ(ホイール型7t級)の時間単価が1,600円(機械管理費は別途1台77万9,000円)、運転手(特殊)が1人日26,711円、普通作業員が24,341円とされている水準に燃料・損料・待機や出動保証を含む民間委託の諸経費を乗せ、1時間15,000円の推計値とした。ロードヒーティングは電気式を想定し、北海道立工業試験場の報告にある200〜250W/平方メートルの供給熱量を採用、電力単価は資源エネルギー庁「電力調査統計」の高圧平均水準である22.8円/kWh(熱源費の記事と同じ前提)を使った。電気式は契約電力に応じた基本料金の負担も大きいため、本稿では電力量料金と同額の基本料金相当を上乗せしている(編集部の前提)。

屋根の雪下ろしは人力を基本とした。1人日あたり100平方メートル(積雪1m程度)の処理を推計の生産性とし、普通作業員の労務単価24,341円に安全装備・保険・監督の諸経費率1.3を掛けた約31,600円/人日を置く。回数は多雪4回・中雪1回・少雪0回とした。長岡市が2026年2月に公表した要援護世帯向けの屋根雪除雪費助成の拡充では、一冬あたりの助成回数を3回から5回へ引き上げており、多雪地での年3〜5回という前提は現実の運用と整合する。岩見沢市の雪下ろし助成が1回あたり2万円を上限に費用の2分の1を助成していることからも、一般住宅規模で1回あたり4万円前後が市中の水準であることが読み取れる。排雪は堆雪スペースが尽きた場合の運搬費で、多雪で年6回、中雪で年2回を見込んだ。

表3:試算の前提(単価・回数・出典)
費目前提値根拠・出典
a. 機械除雪 委託単価15,000円/時間(推計)長野県 令和7年度実施設計単価:除雪ドーザ7t級 1,600円/時間(機械管理費は779,000円/台)、運転手(特殊)26,711円/人日。燃料・損料・諸経費を加えた民間委託水準として推計
a. 1出動の作業時間駐車場1,000平方メートルあたり1時間札幌市 施設駐車場除雪業務仕様書(1回あたり約1時間)を参考に推計
a. 出動回数降雪の深さ合計÷20cm(多雪50回・中雪25回・少雪8回)気象庁 平年値。札幌市仕様の年14回(約34cm/回)を公共施設の下限として参照
a. 排雪1回78,000円(4tダンプ6台×8,000円+ローダー2時間)、多雪6回・中雪2回ダンプ単価は市中相場の推計
b. ロードヒーティング 消費電力250W/平方メートル、稼働 多雪650時間・中雪450時間・少雪250時間(推計)北海道立工業試験場報告 No.294(供給熱量200〜250W/平方メートル、冬期間12月1日〜3月31日の122日間)
b. 電力単価・基本料金22.8円/kWh、基本料金相当は電力量料金と同額資源エネルギー庁「電力調査統計」高圧平均水準。基本料金相当の比率は編集部の推計
b. 設備費・償却40,000円/平方メートル、15年定額(推計)住宅規模の市中水準を参考にした推計。豪雪地帯の原価記事と同じオーダー
c. 屋根雪下ろし 労務約31,600円/人日(24,341円×諸経費率1.3)、生産性100平方メートル/人日、1回あたり固定費約3万円(推計)長野県 令和7年度実施設計単価 普通作業員。諸経費率と生産性は推計
c. 回数多雪4回・中雪1回・少雪0回(推計)長岡市 要援護世帯除雪費助成(一冬3回→5回に拡充、2026年2月)、岩見沢市 雪下ろし助成(1回上限2万円・費用の1/2)
c. 屋根融雪(代替案)設備費25,000円/平方メートル・15年償却、150W/平方メートル、稼働 多雪300時間・中雪180時間(推計)電気ヒーター式の市中水準を参考にした推計

出典:本文および参考資料一覧に記載の各資料よりホテルバンク編集部作成。「推計」と記した値は公開資料の水準を起点に編集部が置いた前提であり、実際の契約単価・施工費は地域・業者・仕様により変動する

1室あたり年額は多雪7万9,100円・中雪3万8,300円・少雪1万6,600円 — 3費目がほぼ3等分

前提を当てはめた結果が図2と表4である。60室型の多雪では年間474万円、1室あたり7万9,100円となり、内訳は機械除雪(排雪を含む)2万6,600円、ロードヒーティング(運転費と償却)2万5,200円、屋根雪下ろし2万7,300円と、3費目がほぼ3等分で並ぶ。中雪では1室あたり3万8,300円で、屋根雪下ろしが年1回に減るぶん構成はロードヒーティング寄りになる。少雪では1万6,600円にとどまり、その8割以上をロードヒーティングが占める。少雪地では雪を動かす作業はわずかでも、アプローチの安全を確保する設備は冬のあいだ稼働し続けるからである。

客室規模の効き方も大きい。同じ多雪でも30室型は1室あたり9万9,000円、120室型は6万100円と、1.6倍の開きがある。駐車場・屋根・アプローチの面積は客室数に比例して増えるわけではなく、小規模な宿ほど1室が背負う面積が広い。これは豪雪地帯のホテル原価の記事で構造・暖房を含めた総額について指摘した構図と同じで、雪を動かす3費目に限っても再現される。

図2:雪を動かす費用の1室あたり年額(60室型、円)。出典:ホテルバンク編集部試算(表3の前提)

表4:3階層×客室規模別の1室あたり年額(円)
階層・規模a. 機械除雪・排雪b. ロードヒーティングc. 屋根雪下ろし合計(1室あたり年額)施設合計
多雪・30室31,90033,60033,50099,000297万円
多雪・60室26,60025,20027,30079,100474万円
多雪・120室21,20016,80022,10060,100722万円
中雪・30室14,40026,0008,40048,700146万円
中雪・60室12,00019,5006,80038,300230万円
中雪・120室9,60013,0005,50028,100337万円
少雪・30室3,40018,400021,80065万円
少雪・60室2,80013,800016,600100万円
少雪・120室2,3009,200011,400137万円

出典:ホテルバンク編集部試算(表3の前提)。各費目は百円単位に四捨五入しているため合計と一致しない場合がある。ロードヒーティングは運転費(電力量料金+基本料金相当)と設備償却の合計。熱源費(暖房・給湯)は含まない

前提の不確実性は感度分析で確かめておく。多雪・60室型の7万9,100円を基準に、出動の係数を15cmに縮めると8万5,300円、30cmに広げると7万2,800円になる。人工単価を3割振ると7万1,500円〜8万6,700円、電力単価を3割振ると7万3,500円〜8万4,600円、機械除雪の委託単価を3割振ると7万3,400円〜8万4,700円である。どの前提を動かしても1室あたり年額は7万〜8万7,000円の範囲に収まり、多雪で1室あたり年8万円前後という結論は揺るがない。

個別の前提を一つずつ動かすだけでなく、すべてを同じ方向に振った場合の上下限も確かめておく。表5は多雪・60室型について、出動の係数と三つの単価を同時に楽観側・悲観側へ振った3シナリオである。悲観シナリオでも1室あたり年10万6,000円、冬季売上(加重ADR)に対して11.5%にとどまり、中央値ADRで分母を置いた場合でも15.8%である。楽観シナリオでは5万5,900円・6.1%まで下がる。費用の上下幅は約1.9倍あるが、いずれのシナリオでも冬季売上の1〜2割に届かない水準に収まる。

表5:前提を同時に振った3シナリオ(多雪・60室型、1室あたり年額・円)
シナリオ前提の組み合わせa. 機械除雪・排雪b. ロードヒーティングc. 屋根雪下ろし合計冬季売上比 加重/中央値ADR
楽観出動係数30cm・委託単価/人工単価/電力単価をいずれも−30%16,60019,60019,70055,9006.1%/8.3%
中位(基準)表3の前提どおり(出動係数20cm)26,60025,20027,30079,1008.6%/11.8%
悲観出動係数15cm・委託単価/人工単価/電力単価をいずれも+30%40,30030,70034,900106,00011.5%/15.8%

出典:ホテルバンク編集部試算(表3の前提を同時に変化)。排雪・屋根雪下ろし回数・設備償却は全シナリオ共通。冬季売上は1室あたり加重ADR 22,151円・中央値ADR 16,146円×客室稼働率46.1%(観光庁、2025年1月・2月・12月平均)×90日。各費目は百円単位に四捨五入

冬季売上に対する比率は多雪8.6%・中雪5.6%・少雪4.3% — 分母を決めるのは単価

次に、この費用が冬の売上のどれだけを占めるかを見る。分母には、各階層に属する市町村の12〜2月の推定成約ADR(客室数で加重)と、観光庁「宿泊旅行統計調査」の都道府県別客室稼働率(2025年の1月・2月・12月の平均)を掛け、90日分の1室あたり冬季売上を置いた。多雪13市町村(N=754施設・15,473室)の冬季ADRは加重で2万2,200円、稼働率46.1%で、1室あたり冬季売上は91万9,000円になる。中雪20市町村(N=1,475施設・73,903室)は1万3,800円・54.8%で68万500円、少雪13市町村(N=983施設・55,483室)は9,700円・44.7%で38万9,500円である。

ここに表4の年額を当てると、冬季売上に対する比率は60室型で多雪8.6%、中雪5.6%、少雪4.3%となる。30室型では多雪10.8%、120室型では6.5%である。ただし多雪の加重ADRは倶知安町(5万3,700円)とニセコ町(3万8,600円)、湯沢町(2万1,800円)に引き上げられており、中央値で見た階層の標準的な市町村は1万6,100円にとどまる。中央値ADRで分母を置き直すと、多雪・60室型の比率は11.8%まで上がる。中雪も同様で、加重1万3,800円に対し中央値は8,700円であり、中央値ベースの比率は8.9%になる。雪を動かす費用そのものは降雪量で決まるが、その重さを決めるのは単価であることがここで確認できる。

図3:雪を動かす費用の冬季売上(12〜2月・1室あたり)に対する比率。出典:メトロエンジンリサーチ(推定成約ADR 2025年12月〜2026年2月、客室加重)、観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年1月・2月・12月の客室稼働率)、ホテルバンク編集部試算

表6:3階層の冬季ADR・稼働率と費用比率(60室型)
階層対象市町村(N)冬季ADR 加重/中央値客室稼働率1室あたり冬季売上費用比率 加重/中央値
多雪13市町村(754施設・15,473室):大蔵村・津南町・野沢温泉村・妙高市・湯沢町・南魚沼市・白川村・十日町市・尾花沢市・倶知安町・ニセコ町・魚沼市・飯山市¥22,151/¥16,14646.1%¥919,0008.6%/11.8%
中雪20市町村(1,475施設・73,903室):横手市・湯沢市(秋田)・弘前市・岩見沢市・小谷村・白馬村・山ノ内町・新庄市・富良野市・青森市・旭川市・留萌市・札幌市・長岡市・大野市・大町市・上越市・会津若松市・函館市・高山市¥13,798/¥8,69854.8%¥680,5005.6%/8.9%
少雪13市町村(983施設・55,483室):山形市・秋田市・富山市・盛岡市・豊岡市・福井市・長野市・金沢市・鳥取市・新潟市・福島市・米子市・長浜市¥9,683/¥8,34044.7%¥389,5004.3%/4.9%

階層は各市町村の代表観測地点の降雪の深さ合計(平年値)で区分(多雪800cm以上、中雪300〜800cm、少雪300cm未満)。冬季ADRは2025年12月〜2026年2月の推定成約ADR(確定履歴基準)を市町村の客室数で加重した値と市町村の中央値、推定成約ADRの算出対象は多雪228施設・中雪830施設・少雪725施設(3か月の最小値合計)。客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」の都道府県値を市町村に適用した近似。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

分母の二つの要素を同時に動かすと、費用の重さがどこで変わるかが見えやすい。表7は多雪・60室型の年額7万9,100円を固定し、冬季ADRと客室稼働率の組み合わせごとに冬季売上に対する比率を並べたものである。冬季ADRが1万2,000円・稼働率40%の宿では18.3%に達する一方、3万円・55%なら5.3%にとどまる。比率を1割未満に抑える目安は、稼働率46%前後ならADR1万6,000〜2万2,000円の間にあり、冬季ADRが8,000円の水準では稼働率65%(冬季の仮定値)でも16.9%となる。雪の費用への備えは、稼働率よりもまず冬の単価設計にかかっていることがここからも読み取れる。

表7:冬季ADR×客室稼働率別の費用比率(多雪・60室型、年額79,100円)
冬季ADR(12〜2月)\客室稼働率30%40%46.1%55%65%
¥8,00036.6%27.5%23.8%20.0%16.9%
¥12,00024.4%18.3%15.9%13.3%11.3%
¥16,146(多雪の中央値)18.1%13.6%11.8%9.9%8.4%
¥22,151(多雪の加重)13.2%9.9%8.6%7.2%6.1%
¥30,0009.8%7.3%6.4%5.3%4.5%
¥50,0005.9%4.4%3.8%3.2%2.7%

費用比率=雪を動かす費用(1室あたり年79,100円)÷(冬季ADR×客室稼働率×90日)。網掛けは多雪の基準ケース(加重ADR 22,151円・稼働率46.1%)。冬季ADRは推定成約ADR(2025年12月〜2026年2月)、稼働率46.1%は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年1月・2月・12月の階層加重平均。出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部試算

冬を開ける分岐点は稼働率8〜14% — 融雪Capexの回収は「営業継続日数」で測る

最後に、冬季も営業を続ける宿と季節営業に切り替える宿の分岐点を置いてみたい。冬に閉じれば、雪を動かす費用のうち設備の償却を除く部分と、暖房・給湯の熱源費は発生しない。逆に開ければ、販売した客室から変動費(リネン・アメニティ・販売手数料など、ここではADRの30%と置く)を差し引いた貢献利益でこれらを回収する必要がある。熱源費は灯油140円/L時代の試算にある旅館型の1室あたり月15,202円(12〜2月で45,600円)と、ビジネスホテル型の月3,794円(同11,400円)をそのまま使う。

この条件で冬季の損益分岐稼働率を求めると、表8のとおり60室型・中央値ADRでは多雪11.6%、中雪14.1%、少雪10.6%(いずれも旅館型の熱源費)となる。ビジネスホテル型の熱源費なら多雪8.2%、中雪7.8%、少雪4.1%まで下がる。各階層の実際の客室稼働率は44〜55%であるから、階層の標準的な単価が取れている宿にとって、雪の費用を理由に冬を閉じる計算上の根拠は薄い。分岐点が上がるのは雪が多い場合ではなく、単価が低い場合である。稼働率30%で損益分岐に届く冬季ADRは多雪で6,200円、中雪で4,100円であり、この水準を下回る単価でしか販売できない施設では、人手の確保と合わせて季節営業が選択肢に入る。なお、冬季に休館する宿がどの市町村に集中しているかは掲載数の季節変動の記事で県別に整理しており、本稿はその判断の費用側を補うものである。

表8:冬季営業の損益分岐稼働率と分岐ADR(60室型)
階層雪の費用(償却除く・1室)分岐稼働率 旅館型熱源費(中央値ADR/加重ADR)分岐稼働率 ビジネス型熱源費(中央値ADR)稼働率30%(冬季12〜2月の仮定値)での分岐ADR(旅館型)
多雪¥72,40011.6%/8.5%8.2%¥6,200
中雪¥31,60014.1%/8.9%7.8%¥4,100
少雪¥9,90010.6%/9.1%4.1%¥2,900

分岐稼働率=(雪の費用(償却除く)+冬季熱源費)÷(冬季ADR×貢献利益率70%×90日)。熱源費は旅館型45,600円・ビジネスホテル型11,400円(1室・12〜2月)。人件費など通年の固定費は含まない簡易試算。出典:ホテルバンク編集部試算

融雪設備の投資回収はどうか。屋根融雪を1,200平方メートルに入れると設備費は3,000万円、15年償却で年200万円、運転費は多雪で年246万円になる。これに対して代替される人力の雪下ろしは多雪で年164万円であり、償却と運転費の合計446万円を人力費が上回るには、人工単価が現在の2.7倍になる必要がある。つまり多雪であっても、屋根融雪は雪下ろし費の節約だけでは回収が成立しにくい。ロードヒーティングも同じで、150平方メートルの設備費600万円と年111万円の運転費に対し、代替される機械除雪は同じ面積ぶんのわずかな時間にすぎない。

そこで回収の尺度を「何日の営業を守れるか」に置き換える。多雪・60室型の1日あたり冬季売上は約61万3,000円(ADR2万2,151円×稼働率46.1%×60室)である。屋根融雪の年間純増費用282万円はこの4.6日分、ロードヒーティングの140万円は2.3日分に相当する。雪下ろしのための休館や、玄関前の凍結による到着客の取りこぼしを冬のあいだに合計5日分回避できるなら、屋根融雪は採算に乗る。中雪では1日あたり売上が45万4,000円に下がり、必要な日数は屋根融雪6.8日、ロードヒーティング2.5日になる。回収年数で言い換えれば、設備費3,000万円を年間の純増費用を上回る売上保全で回収する計算であり、守れる営業日数が年10日なら多雪で約9年、年15日なら約5年となる。融雪設備の価値はコスト削減ではなく、冬の営業を途切れさせない保険にある。

表9:融雪設備の年間純増費用と営業継続日数換算(60室型)
設備(設備費)階層償却+運転費代替される費用年間純増1日あたり冬季売上採算に必要な営業継続日数/年
屋根融雪 1,200平方メートル(3,000万円)多雪446万円164万円282万円61.3万円4.6日
中雪348万円41万円307万円45.4万円6.8日
ロードヒーティング 150平方メートル(600万円)多雪151万円11万円140万円61.3万円2.3日
中雪117万円6万円111万円45.4万円2.5日
少雪83万円2万円81万円26.0万円3.1日

屋根融雪の運転費は150W/平方メートル×稼働時間×22.8円/kWhに基本料金相当(同額)を加算。代替される費用は屋根融雪が人力雪下ろし(表4のc)、ロードヒーティングが同面積ぶんの機械除雪(機械除雪費の1割と仮定)。1日あたり冬季売上=冬季ADR(加重)×客室稼働率×60室。出典:ホテルバンク編集部試算

運営者への示唆 — 回数を減らす設計と、単価で吸収する設計

ここまでを整理すると、雪を動かす費用は多雪で1室あたり年8万円前後、冬季売上の1割弱という規模感になり、3費目がほぼ均等に並ぶ。この構造から導ける方向性は三つある。第一に、出動回数を減らす設計である。費用の大半が回数に比例するため、堆雪スペースを敷地内に確保して排雪の回数を抑える、駐車場を宿泊客の実需に合わせて冬季だけ縮小運用する、といった運用面の工夫がそのまま効く。第二に、人力の雪下ろしを前提にするなら労務単価の上昇を織り込んでおきたい。多雪で人工単価が3割上がると1室あたり年額は8万6,700円へ約1割増えるが、同時に屋根融雪との差は縮むため、次の大規模改修で雪止めや耐雪設計、部分的な融雪への切り替えを検討する価値が出てくる。

第三に、費用を単価で吸収する設計である。多雪13市町村の冬季ADRの中央値は1万6,100円だが、倶知安町は5万3,700円、尾花沢市(銀山温泉)は3万6,100円と、雪そのものが商品になっている市町村では比率が数%に収まる。雪を動かす費用は降雪量で決まるが、売上に対する重さは単価で決まる。冬季限定のプランや雪見の体験を単価に織り込める宿にとって、年8万円の費用は十分に吸収可能な水準といえる。逆に単価が1万円を下回る立地では、費用の削減よりも冬季の売り方を組み立て直す余地のほうが大きい。冬ADRが夏の2.66倍になる町があるように、雪は費用であると同時に単価の源泉にもなりうる。

試算の位置づけ:本稿の費用は公開資料の単価と気象庁平年値から組み立てた簡易試算であり、実際の除雪委託契約・融雪設備の施工費・電力契約は地域、業者、敷地条件、建物形状により大きく異なります。推定成約ADRは当社の推定値であり、各施設の実際の成約価格とは異なります。投資判断には個別の見積もりとフィージビリティ・スタディが必要です。

よくある質問

Q. 出動回数を「降雪の深さ合計÷20cm」で置く根拠は何ですか。
A. 自治体の道路除雪や札幌市の施設駐車場の仕様では新雪10cm程度が出動の目安とされており、札幌市の仕様では年14回(約34cmに1回)を見込んでいます。宿泊施設は毎朝の到着・出発に備えて公共施設より頻繁に除雪する必要があるため、その中間にあたる20cmを基準に置き、15〜30cmの幅で感度分析をしています。

Q. 冬季売上の分母に使った稼働率は当社の推定値ですか。
A. いいえ。観光庁「宿泊旅行統計調査」の都道府県別・全施設タイプの客室稼働率(2025年の1月・2月・12月の平均)を市町村に適用した近似値です。市町村単位の稼働率は公表されていないため、都道府県値を用いています。

Q. 屋根融雪は多雪地なら元が取れますか。
A. 雪下ろし費の節約だけでは回収しにくいというのが本稿の試算結果です。多雪・60室型で償却と運転費の合計は年446万円、代替される人力の雪下ろしは年164万円です。回収の源泉は、雪下ろしのための休館や到着客の取りこぼしをどれだけ防げるかにあり、年4.6日分の冬季売上を守れれば採算に乗ります。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

指定区域は国土交通省「豪雪地帯・特別豪雪地帯の指定」(令和8年4月1日現在・532市町村)。施設数・客室数と12〜2月の推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ(主要予約サイト掲載・運営中の施設ベース、2025年12月〜2026年2月の確定履歴)。降雪の深さ合計・最深積雪は気象庁の平年値(1991〜2020年)、客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年の都道府県値(1月・2月・12月平均)。

■ 試算前提

60室型(駐車場・アプローチ1,500平方メートル、ロードヒーティング150平方メートル、屋根1,200平方メートル)を基準に30室型・120室型を併記。出動回数=降雪の深さ合計÷20cm、機械除雪15,000円/時間、ロードヒーティング250W/平方メートル・22.8円/kWh+同額の基本料金相当、雪下ろし約31,600円/人日・100平方メートル/人日、設備は15年定額償却。冬季売上=ADR×客室稼働率×90日、損益分岐の貢献利益率は70%。

■ 限界・留意点

施設数・客室数は主要予約サイト掲載ベースで全数調査ではない。一部指定の自治体は施設の所在が指定区域の内か外かを判別できないため参考値として別掲した。単価のうち「推計」と記したものは公開資料の水準を起点にした編集部の前提で、実際の契約単価・施工費は地域・業者・敷地条件で変動する。稼働率は都道府県値を市町村に適用した近似で、推定成約ADRは各施設の実際の成約価格とは異なる。人件費など通年の固定費は損益分岐に含めていない。

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