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旅館の冬の熱源費は1室あたり月1.5万円 — 灯油140円/L時代の試算と感度分析

投稿日 : 2026.09.02

指定なし

旅館の冬の熱源費は1室あたり月1.5万円 — 灯油140円/L時代の試算と感度分析

2026年の冬は、ホテル・旅館の熱源費を読み直す価値のある冬になる。灯油の全国平均店頭価格は2026年8月17日調査時点で18リットルあたり2,532円(1リットル換算140.7円・税込)。前の冬(2025年12月〜2026年2月)の平均2,190円から15.6%高い水準にある。しかもこの140.7円という数字には、資源エネルギー庁が2026年3月19日出荷分から実施している緊急的激変緩和措置による1リットルあたり32.5円の支給が織り込まれている。

本稿では、灯油・LPガスの公表価格系列を起点に、100室のビジネスホテルと50室の温泉旅館という2つのモデルで11月〜3月の熱源費を1室あたり月額まで落とし込む。あわせて、旅館カテゴリの冬季単価がこのコスト水準をどこまで吸収できているかを、メトロエンジンリサーチの推定成約ADRと総務省の宿泊料CPIで検証する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 客室稼働率:本記事の試算で用いる稼働率は、観光庁「宿泊旅行統計調査」(2026年1月分・第2次速報)が公表する客室規模別の客室稼働率を前提値として採用したものです。当社の推定値ではありません。
  • 熱源費:給湯・浴場加温・暖房に用いる燃料および電力の費用。厨房・照明・動力・冷房は含みません。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ(ADR)/資源エネルギー庁「石油製品価格調査」(灯油)/石油情報センター「LPガス価格調査」/総務省「消費者物価指数」/観光庁「宿泊旅行統計調査」
Key Takeaways
  • — 灯油140.7円/L(2026年8月17日調査・店頭現金価格2,532円/18L)。前の冬の平均より15.6%高く、緊急的激変緩和措置の支給単価32.5円/Lを織り込んだ後の水準。
  • — 50室温泉旅館は1室あたり月15,202円(11月〜3月)。支給が外れる173.2円/L相当では18,710円。100室ビジネスホテルは3,794円で、1室あたり約4.0倍の開き。
  • — 熱1MJあたり単価は灯油4.53円・LPガス7.99円・ヒートポンプ2.11円。LPガスは灯油の1.76倍。旅館カテゴリの31.1%が町村立地で、導管網の外側ほど転換余地が大きい。
  • — 稼働率を40%から60%へ引き上げても熱源費は5.6%しか増えない。大浴場加温と館内暖房が固定的な熱需要のため、1室泊を追加販売したときの増分は約140円にとどまる。
  • — 冬季推定成約ADRは前年同期比 中央値+17.4%(対象18道府県すべてプラス)。売上増の中央値+35,000円台に対し、熱源費の増分は+2,053円(支給なし想定でも+5,564円)。

灯油は前の冬より15.6%高い — ただし支給単価32.5円/Lの上に乗った水準

まず価格の現在地を確認する。資源エネルギー庁「石油製品価格調査」(週次・月曜調査)の灯油店頭現金価格(全国平均・18リットル・税込)は、2025年秋から2026年2月にかけて2,170〜2,230円のレンジで極めて安定していた。この期間の最安値は2026年1月19日調査の2,173円である。

局面が変わったのは2026年3月だった。3月9日調査の2,267円から、3月16日調査では2,774円へと1週間で507円(22.4%)上昇している。背景には中東情勢を受けた原油価格の急騰があり、政府は2026年3月11日、緊急的激変緩和措置の実施を決定した。

灯油 店頭現金価格(全国平均・18リットル・税込、週次70時点)/出典:資源エネルギー庁「石油製品価格調査」

この措置の設計は、家計向けではなく事業者にとっても重要な意味を持つ。資源エネルギー庁の説明資料(令和8年3月11日)によれば、ガソリンの全国平均小売価格が170円程度を超える見込みとなった場合に、170円を超える部分について10分の10の補助を行い、軽油・重油・灯油についてもガソリンと同額の補助を行う、という枠組みである。灯油・重油については、それ以前の1リットルあたり5円の定額引下げ補助に代えて、この措置が適用されている。

2026年8月27日以降の支給単価は、ガソリン・軽油・灯油・重油がいずれも1リットルあたり32.5円、航空機燃料が13.0円である(調整単価は2026年8月分で6.0円/L)。つまり足元の灯油140.7円/Lは、支給単価を差し引く前の水準に換算すると173.2円/L相当ということになる。

制度面の整理(推測を含まない事実のみ)
・灯油には、ガソリンの揮発油税や軽油の軽油引取税に相当する暫定税率は課されていない。したがって2025年12月のガソリン暫定税率廃止による直接の値下がり効果は、灯油には及ばない。
・実際、2026年8月24日週のガソリン全国平均169.9円/Lと、8月17日調査の灯油140.7円/Lの差は29.2円で、暫定税率廃止後のガソリン税率水準とおおむね整合する。
・緊急的激変緩和措置について資源エネルギー庁は「事態が長期化した場合には、今後とも支援の在り方を柔軟に検討する」としており、公表資料に終期は明示されていない。本稿では終期を予断せず、支給あり・なしの両方を試算する。

LPガスは2026年5月から上昇局面 — 3か月で全国平均+5.4%

灯油と並ぶもう一つの冬季熱源がLPガスである。石油情報センターが調査するLPガス一般小売価格(全国平均・10立方メートル使用時・基本料金および消費税込み)は、2024年7月の9,096円から2026年4月の9,281円まで、2年近くにわたって月あたり数十円という緩やかな上昇にとどまっていた。

ところが2026年5月に9,489円、6月に9,697円、7月には9,785円と、3か月で5.4%上昇している。LPガスの小売価格はサウジアラムコが公表する契約価格(CP)と為替を反映して数か月遅れで動くため、2026年春の原油急騰が夏にかけて小売価格へ波及した形といえる。灯油が緊急的激変緩和措置で抑えられている一方、LPガスは同措置の対象外であり、価格変動がそのまま小売段階に現れる。

LPガス一般小売価格(全国平均・10立方メートル使用時、基本料金・税込)/出典:石油情報センター「LPガス価格調査」

2026年7月調査の地域別内訳を見ると、北海道が11,569円、東北が10,698円と寒冷地が高く、関東の9,227円とは1立方メートルあたりで大きな開きがある。使用量の大きい業務用は従量単価が下がる構造にあり、全国平均で50立方メートル使用時が37,197円、20立方メートル使用時が17,022円であることから、この区間の限界単価は1立方メートルあたり約672円と算出できる。本稿の試算ではこの672円を業務用の目安として用いる。

旅館の31%は町村立地 — 熱源構成を分けるのは地理条件

同じ「冬の熱源費」でも、ビジネスホテルと旅館では前提が大きく異なる。決定的なのは都市ガス導管網の届く範囲である。日本ガス協会の説明によれば、都市ガスの供給区域は国土面積のごく一部にとどまり、導管網の外側では熱源はLPガス・灯油・A重油・電気に限られる。

メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、運営中の宿泊施設を市区町村の種別で集計すると、この地理条件の差がはっきり出る。旅館カテゴリ7,753施設のうち町村に立地するのは2,415施設(31.1%)・51,304室(28.5%)である。これに対しビジネスホテルカテゴリ6,388施設では町村立地は301施設(4.7%)・15,532室(2.4%)にとどまる。

表1 市区町村種別でみた立地構成(運営中施設)
カテゴリ市・区の施設数町村の施設数町村比率町村の客室数
旅館5,3382,41531.1%51,304室
ビジネスホテル6,0873014.7%15,532室

出典:メトロエンジンリサーチ(運営中施設ベース、N=旅館7,753施設・ビジネスホテル6,388施設)

旅館カテゴリの施設数が多い市町村を並べると、この構図はさらに具体的になる。上位には箱根町・山ノ内町・草津町・みなかみ町・南小国町・九重町といった温泉地の町村が並び、市部でも由布市・高山市・京丹後市・加賀市など、市街地から離れた温泉集落を抱える自治体が上位に入る。いずれも導管網の中心部からは距離があり、LPガス・灯油・A重油への依存度が高くなりやすい立地である。気候条件そのものを立地評価の変数として扱う視点は、雪はコストか資産か — 冬RevPARが夏の53%の県と、冬ADR2.66倍の町でも冬季の需要とコストの両面から掘り下げている。

表2 旅館カテゴリ施設数が多い市町村(上位12)
市町村旅館施設数客室数1施設平均客室数
神奈川県 箱根町1584,206室26.6室
大分県 由布市1351,556室11.5室
岐阜県 高山市1202,086室17.4室
長野県 山ノ内町1002,687室26.9室
栃木県 日光市954,478室47.1室
兵庫県 豊岡市881,377室15.6室
三重県 鳥羽市852,048室24.1室
静岡県 伊東市821,615室19.7室
京都府 京丹後市76913室12.0室
静岡県 熱海市762,508室33.0室
大分県 別府市741,538室20.8室
群馬県 草津町721,626室22.6室

出典:メトロエンジンリサーチ(運営中の旅館カテゴリ施設、N=7,753施設のうち上位12市町村)

熱1メガジュールあたりの単価 — 灯油4.53円、LPガス7.99円、ヒートポンプ2.11円

熱源を比較するには、燃料の単価ではなく「実際に取り出せる熱1メガジュールあたりいくらか」に揃える必要がある。標準発熱量は資源エネルギー庁「エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数」および都市ガス事業者が定める13Aの標準熱量に基づき、機器効率を織り込んだ結果が下図である。

出典:資源エネルギー庁「石油製品価格調査」「エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数」「電力調査統計」、石油情報センター「LPガス価格調査」よりメトロエンジンリサーチ作成

読み取れる序列は明快である。空気熱源ヒートポンプ(冬季平均成績係数3.0を想定)が2.11円/MJで最も安く、灯油ボイラーが4.53円/MJ、都市ガスボイラーが4.71円/MJ、電気ヒーターによる直接加熱が6.33円/MJ、LPガスボイラーが7.99円/MJと続く。緊急的激変緩和措置の支給単価32.5円/Lを差し引いた灯油は5.58円/MJとなり、都市ガスを上回る位置に移る。

LPガスが灯油の1.76倍という差は、都市ガス導管網の外側に立地する施設にとって、そのまま熱源費の差として効いてくる。逆に言えば、ヒートポンプへの部分的な転換余地は灯油依存の施設よりもLPガス依存の施設のほうが大きく、投資回収の観点でのアップサイドもそこにある。

■ 試算前提

以下の2モデルで11月〜3月(151日)の熱源費を試算する。前提はすべて明示し、感度分析で幅を示す。

表3 試算の共通前提
項目前提値根拠・注記
対象期間11月〜3月・151日暖房・給湯負荷が高まる5か月
冬季平均給水温度10℃本州内陸部の冬季水道水温を想定
標準発熱量(総発熱量)灯油36.5MJ/L、都市ガス13A 45.0MJ/㎥、電力3.6MJ/kWh電力は資源エネルギー庁「エネルギー源別標準発熱量・炭素排出係数」。灯油36.5MJ/Lは同2013・2018年度改訂値(2023年度改訂値は36.60MJ/L)、都市ガス13A 45.0MJ/㎥はガス事業者が定める13Aの標準熱量
LPガス発熱量99MJ/㎥プロパン主体・標準状態換算の慣行値
温水ボイラー効率85%灯油・LPガス・都市ガス共通
ヒートポンプ成績係数3.0(冬季平均)空気熱源・外気温低下を織り込んだ保守値
灯油単価140.7円/L(税込)2026年8月17日調査・店頭現金価格2,532円/18L。支給単価32.5円/L込みの水準
LPガス単価672円/㎥(税込)2026年7月調査・全国平均の20〜50㎥区間の限界単価
業務用電力単価22.8円/kWh資源エネルギー庁「電力調査統計」高圧の平均単価水準
都市ガス業務用単価4.0円/MJ(180円/㎥相当)契約種別により幅が大きいため、参考値として設定
表4 2モデルの施設前提
項目モデルA:100室ビジネスホテルモデルB:50室温泉旅館
客室数・客室面積100室・18㎡(ユニットバス)50室・和室中心
延床面積3,600㎡4,000㎡(宴会場・大浴場を含む)
大浴場なし内湯+露天、浴槽容量計20㎥、加温循環方式
給湯温度使用点40℃(客室シャワー主体)浴槽42℃維持、客室・厨房給湯40℃
客室稼働率(中位)65%50%
稼働率の根拠観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年1月分・第2次速報の客室規模別客室稼働率。100〜199室・観光目的の宿泊者が50%未満の施設が66.1%、40〜99室・観光目的の宿泊者が50%以上の施設が49.8%(全国)。これを丸めて中位ケースとした
給湯熱需要26.5MJ/稼働室・泊(客室130L+貯湯循環ロス25%+共用部30%)30MJ/稼働室・泊(夕朝食提供・客室内風呂を含む)
大浴場熱需要—1,800MJ/日(浴槽放熱432MJ+補給湯5㎥加温670MJ+配管・洗い場約700MJ)
暖房熱需要32.5MJ/稼働室・泊(客室25.2MJ+共用部30%)3,000MJ/日(延床4,000㎡×0.75MJ/㎡・日)
基準熱源構成給湯=都市ガス、暖房=個別ヒートポンプ空調給湯・浴場・暖房すべて灯油ボイラー

※本試算は熱源費のみを対象とし、厨房・照明・動力・冷房および基本料金・保守費は含まない。実際の費用は建物の断熱性能、源泉温度、給湯方式、契約条件により大きく異なる。あくまで意思決定の出発点となる目安としてご参照いただきたい。

試算結果 — 温泉旅館は1室あたり月15,200円、ビジネスホテルは3,800円

前提を当てはめると、モデルBの温泉旅館は1日あたり5,550MJの熱需要となり、灯油ボイラー(140.7円/L)での熱源費は1日25,164円、11月〜3月の5か月合計で約380万円となる。総客室数50室で割り戻すと1室あたり月15,202円である。

一方モデルAのビジネスホテルは1日3,835MJ、基準構成(都市ガス給湯+ヒートポンプ暖房)で1日12,562円、シーズン計約190万円、1室あたり月3,794円にとどまる。1室あたりで見ると温泉旅館はビジネスホテルの約4.0倍という開きになる。

表5 熱源構成別の11月〜3月 熱源費(1室あたり月額・総客室数で除した値)
モデル・熱源構成熱需要(MJ/日)熱源費(円/日)1室あたり月額11〜3月合計
A:100室ビジネス/都市ガス給湯+HP暖房3,83512,5623,794円190万円
A:100室ビジネス/灯油給湯+HP暖房3,83512,2663,704円185万円
A:100室ビジネス/LPガス給湯+HP暖房3,83518,2215,503円275万円
B:50室旅館/灯油ボイラー(支給単価込み)5,55025,16415,202円380万円
B:50室旅館/灯油ボイラー(支給単価なし相当)5,55030,97718,710円468万円
B:50室旅館/LPガスボイラー5,55044,35426,790円670万円
B:50室旅館/ヒートポンプ主体に転換した場合5,55011,7067,071円177万円

出典:メトロエンジンリサーチ試算(表3・表4の前提による)

この表が示す3つの含意を整理しておきたい。第一に、大浴場の寄与は大きい。大浴場を持たない場合の旅館モデルは1室あたり月10,269円となり、大浴場は約4,930円/室・月、全体の32%を占める。第二に、LPガス依存の温泉旅館は灯油依存の1.76倍の熱源費となり、導管網の外側という立地条件がそのまま数字に表れる。第三に、ヒートポンプ主体へ転換した場合の理論値は1室あたり月7,071円で、灯油比で11〜3月のシーズン計で約200万円規模の削減余地がある。設備投資と源泉温度の制約を織り込む必要はあるが、転換の経済性を検討する価値は十分にある水準といえる。

感度分析 — 灯油±20円/L、稼働率±10ポイント

前提のうち不確実性が大きいのは灯油単価と稼働率である。この2軸で振ったときの1室あたり月額を示す。灯油単価の右端173.2円/Lは、緊急的激変緩和措置の支給単価32.5円/Lが適用されない場合に相当する水準である。

表6 感度分析:50室温泉旅館(灯油ボイラー)の1室あたり月額熱源費
稼働率\灯油単価120.7円/L140.7円/L(基準)160.7円/L173.2円/L(支給なし相当)
40%12,689円14,792円16,894円18,205円
50%(中位)13,041円15,202円17,363円18,710円
60%13,394円15,613円17,833円19,216円
表7 感度分析:100室ビジネスホテル(灯油給湯+ヒートポンプ暖房)の1室あたり月額熱源費
稼働率\灯油単価120.7円/L140.7円/L(基準)160.7円/L173.2円/L(支給なし相当)
55%2,851円3,135円3,419円3,595円
65%(中位)3,369円3,705円4,040円4,249円
75%3,888円4,275円4,662円4,903円

出典:メトロエンジンリサーチ試算(表3・表4の前提による)

注目したいのは稼働率に対する感応度の低さである。旅館モデルでは稼働率を40%から60%へ20ポイント引き上げても1室あたり月額は821円(5.6%)しか増えない。大浴場加温と館内暖房が稼働率にほぼ依存しない固定的な熱需要だからである。裏を返せば、冬季に稼働を積み増しても熱源費はほとんど増えない。増分の熱源費は1室泊あたり約140円にすぎず、冬季の販売を伸ばすほど熱源費の1室泊あたり負担は下がっていく構造になっている。

冬季単価はコスト増を上回って伸びている — 旅館の推定成約ADRは前年同月比+17.4%(中央値)

ではこのコスト水準を、冬季の単価はどこまで吸収できているのか。メトロエンジンリサーチの旅館カテゴリ推定成約ADRについて、2024年12月〜2025年2月と2025年12月〜2026年2月の3か月平均を都道府県別に比較した。

旅館カテゴリ 冬季(12〜2月)推定成約ADRの前年同期比/出典:メトロエンジンリサーチ(対象18道府県、月次サンプルはN=67〜554施設)

18道府県すべてでプラスとなり、中央値は+17.4%だった。上位は青森県+31.1%、北海道+28.0%、山形県+23.2%と北日本の伸びが目立つ。一方、ビジネスホテルカテゴリの同じ期間の前年同期比は中央値+5.7%で、旅館カテゴリの伸びとは水準が異なる。冬季に価格を動かす余地は、大浴場や食事といった付加価値を持つ旅館側に厚く残っているといえる。食事側のコスト上昇がどこまで単価に乗っているかは、二食付旅館の夕食原価率上昇とADR転嫁ギャップで業態別・地域別に検証している。

この単価上昇を1室あたり月額の売上に置き換えて、熱源費の増分と並べたのが次の表である。売上は「冬季推定成約ADR×稼働率×30.2日」で換算した。稼働率50%(2026年1月時点・観光庁「宿泊旅行統計調査」第2次速報で40〜99室・観光目的の宿泊者が50%以上の施設が49.8%)を前提値とした。

表8 冬季単価の上昇分と熱源費の上昇分(1室あたり月額、旅館カテゴリ)
道府県前冬ADR今冬ADR前年比売上増(円/室・月)熱源費率(現行)熱源費率(支給なし)
青森県¥8,162¥10,697+31.1%+¥38,2789.4%11.6%
北海道¥8,167¥10,452+28.0%+¥34,5049.6%11.9%
山形県¥13,056¥16,084+23.2%+¥45,7136.3%7.7%
福島県¥10,011¥12,284+22.7%+¥34,3228.2%10.1%
宮城県¥12,817¥15,539+21.2%+¥41,0976.5%8.0%
鹿児島県¥9,301¥11,205+20.5%+¥28,7509.0%11.1%
栃木県¥15,171¥18,256+20.3%+¥46,5945.5%6.8%
長野県¥12,410¥14,854+19.7%+¥36,9146.8%8.3%
岐阜県¥13,785¥16,206+17.6%+¥36,5576.2%7.6%
静岡県¥18,053¥21,155+17.2%+¥46,8404.8%5.9%
群馬県¥14,995¥17,199+14.7%+¥33,2805.9%7.2%
秋田県¥8,356¥9,535+14.1%+¥17,80310.6%13.0%
大分県¥18,101¥20,433+12.9%+¥35,2034.9%6.1%
新潟県¥13,715¥15,334+11.8%+¥24,4526.6%8.1%
神奈川県¥20,328¥22,711+11.7%+¥35,9884.4%5.5%
岩手県¥8,913¥9,881+10.9%+¥14,61210.2%12.5%
兵庫県¥25,477¥28,052+10.1%+¥38,8823.6%4.4%
石川県¥19,597¥21,371+9.1%+¥26,7924.7%5.8%

熱源費の増分は前冬の灯油実勢121.7円/Lからの差分で、現行140.7円/Lで+2,053円/室・月、支給なし相当173.2円/Lで+5,564円/室・月(全道府県共通)。出典:メトロエンジンリサーチ

灯油価格が前冬の121.7円/Lから現行の140.7円/Lへ上がったことによる熱源費の増分は、1室あたり月2,053円である。支給単価が適用されない173.2円/L相当まで想定しても+5,564円にとどまる。これに対し冬季単価の上昇による売上増は、最も小さい岩手県でも+14,612円、中央値では+35,000円台に達する。18道府県すべてで、単価上昇分が熱源費の増分を大きく上回っている。

売上に対する熱源費の比率で見ると、旅館カテゴリの中央値は現行水準で6.4%、支給単価が外れた想定でも7.8%である。ビジネスホテルカテゴリでは基準構成で2.9%、LPガス依存でも4.1%にとどまる。熱源費はGOPに効く固定費でありながら、冬季単価の上昇局面では相対的な重みがむしろ下がっている。同じ光熱費でも夏季は空調が主役になり、負荷の出方は冬とかなり異なる(詳細は2026年夏季 電気代高騰がホテルGOPを蝕むを参照)。

宿泊料CPIも同じ方向を指している

この動きは公的統計でも裏づけられる。総務省「消費者物価指数」の宿泊料(全国・2020年=100)を年別に重ねると、季節パターンを保ったまま水準が押し上がっていることがわかる。

宿泊料CPI(全国・2020年=100)/出典:総務省「消費者物価指数」(e-Stat統計表ID 0003427113)

冬季の3か月で見ると、2025年12月は167.9で前年同月の155.8から+7.8%、2026年1月は159.1で前年同月の150.2から+5.9%、2026年2月は164.7で前年同月の155.4から+6.0%だった。全国全業態の平均であるCPIが+6〜8%、旅館カテゴリの推定成約ADRが中央値+17.4%という関係は、冬季に価格を動かしているのが主として旅館・リゾート系であることと整合する。

熱源費を伸びしろに変える4つの打ち手

ここまでの数字を踏まえ、2026年冬に向けて検討する価値のある方向性を4つ挙げたい。いずれも収益機会として捉えられるものである。

1.熱源転換 — ヒートポンプと温泉熱の活用
表5のとおり、旅館モデルでヒートポンプ主体へ転換した場合の理論値は1室あたり月7,071円で、灯油ボイラー比で53%低い。5か月シーズンで約200万円、通年ベースではさらに大きな差になる。空気熱源ヒートポンプは外気温が下がると成績係数が落ちるため、寒冷地では温泉熱を熱源とする水熱源ヒートポンプや、源泉との熱交換による給湯予熱との組み合わせが現実的な選択肢となる。源泉温度が42℃を超える施設では、大浴場の加温需要そのものを縮小できる余地がある。灯油とLPガスの単価差が1.76倍あることを踏まえると、LPガス依存の施設ほど投資回収は速く見積もれる。

2.大浴場の運用時間設計
旅館モデルにおいて大浴場は熱源費の32%を占め、その大半は浴槽と配管からの放熱である。深夜帯の入浴需要が小さい時間帯に断熱カバーを掛ける、清掃時間帯の湯張りタイミングを最適化するといった運用面の調整は、設備投資を伴わずに効果が出る領域である。同時に、朝風呂の時間帯を明確に打ち出して滞在価値を高める設計も、冬季の宿泊単価を支える要素になる。

3.連泊時の清掃・リネン設計
給湯熱需要のうち相当部分はリネン・タオル類の洗濯とアメニティ給湯に紐づく。連泊時にリネン交換を任意選択とし、選択しない滞在に館内利用特典を付与する設計は、熱源費と人件費の両面で効くうえ、滞在体験としても訴求できる。冬季は洗濯物の乾燥にも熱を要するため、連泊比率の高い時期ほど効果が読みやすい。

4.冬季プランの値付け
感度分析が示したとおり、稼働率を40%から60%へ引き上げても1室あたり月額の熱源費は5.6%しか増えない。1室泊を追加販売したときの増分熱源費は約140円である。冬季は熱源費が固定費的に発生する期間であり、稼働を積み増すほど1室泊あたりの熱源費負担は下がる。旅館カテゴリの冬季単価が前年比中央値+17.4%で推移している現状は、段階的なプライシングを組み込む土台がすでにあることを示している。平日と週末、早期予約と直前、連泊と単泊で価格差を設計し、需要の厚い日程で単価を、薄い日程で稼働を取りにいく組み立てが、熱源費の固定的な性格と最もかみ合う。

まとめ

2026年冬の熱源費は、50室規模の温泉旅館で1室あたり月15,200円、100室規模のビジネスホテルで3,800円が目安となる。灯油の緊急的激変緩和措置による支給単価32.5円/Lが適用されない水準まで想定すると、旅館モデルは18,700円まで上がる。ただしその増分は前冬比で1室あたり月5,564円であり、冬季推定成約ADRの前年比中央値+17.4%がもたらす売上増(中央値で+35,000円台)に対しては十分に小さい。

熱源費の負担が重いのは、大浴場を持ち、都市ガス導管網の外側に立地する旅館である。同時にそこは、熱源転換・運用設計・値付けの3方向で伸びしろが最も大きい領域でもある。旅館カテゴリの31.1%が町村に立地しているという事実は、制約であると同時に、温泉熱という他業態にはない資源を持つということでもある。

よくある質問

Q1.灯油の緊急的激変緩和措置はいつまで続きますか。

資源エネルギー庁の公表資料には終期の明示がありません。2026年3月11日の説明資料では「中東情勢の動向やそれを受けた原油価格の水準も見極めながら、事態が長期化した場合には、今後とも支援の在り方を柔軟に検討する」と記載されています。支給単価は週次で更新されており、2026年8月27日以降はガソリン・軽油・灯油・重油がいずれも1リットルあたり32.5円です。本稿では終期を予断せず、支給あり・なしの両方で試算しています。

Q2.灯油に暫定税率はかかっていますか。

灯油には、ガソリンの揮発油税や軽油の軽油引取税に相当する暫定税率は課されていません。2025年12月のガソリン暫定税率廃止による直接の値下がり効果は灯油には及びません。2026年8月時点でガソリン全国平均169.9円/Lと灯油140.7円/Lの差は29.2円で、暫定税率廃止後のガソリン税率水準とおおむね整合しています。

Q3.大浴場は熱源費のどれくらいを占めますか。

本稿のモデルB(50室温泉旅館、浴槽容量計20立方メートル、加温循環方式)では、大浴場の熱需要は1日1,800MJで全体5,550MJの32%です。1室あたり月額に換算すると約4,930円に相当します。源泉温度が高く加温がほぼ不要な施設では、この部分は大きく縮小します。

Q4.LPガスと灯油ではどれくらい差がありますか。

機器効率85%を織り込んだ熱1メガジュールあたりの単価は、灯油が4.53円、LPガスが7.99円で、LPガスは灯油の1.76倍です。モデルBの温泉旅館では11月〜3月の熱源費が灯油380万円に対しLPガス670万円となります。ただしLPガスは契約条件による幅が大きく、実際の従量単価はこの試算前提と異なる場合があります。

Q5.冬季に稼働を伸ばすと熱源費はどれくらい増えますか。

モデルBでは稼働率を40%から60%へ20ポイント引き上げても1室あたり月額は12,689円から13,394円(灯油120.7円/L時)と5.6%の増加にとどまります。大浴場加温と館内暖房が稼働率にほぼ依存しない固定的な熱需要であるためで、1室泊を追加販売したときの増分熱源費は約120円です。

試算値の取り扱いについて:本稿の熱源費は表3・表4に明示した前提に基づく簡易試算であり、実際の費用は建物の断熱性能、源泉温度、給湯・暖房方式、契約条件、地域の気候条件により大きく異なります。個別施設の意思決定にあたっては、実測値に基づく詳細な検討をお願いいたします。また燃料価格・支給単価は週次で変動するため、最新値は各出典元でご確認ください。

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参考資料・出典一覧

■ 燃料価格・制度

■ 政府統計

■ 業界資料

■ データソース

燃料価格は資源エネルギー庁「石油製品価格調査」の灯油店頭現金価格(全国平均・18リットル・税込、2025年3月31日〜2026年8月17日の週次70時点)と、石油情報センター「LPガス一般小売価格」(全国平均・2024年7月〜2026年7月の月次)。支給単価は資源エネルギー庁「緊急的激変緩和措置」の公表値。単価水準は当社が把握する運営中施設の推定成約ADR(旅館カテゴリ 対象18道府県、月次サンプルはN=67〜554施設/ビジネスホテルカテゴリ)と、総務省「消費者物価指数」宿泊料(全国・2020年=100)。立地構成は運営中施設ベースで旅館7,753施設・ビジネスホテル6,388施設。稼働率の前提値は観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年1月分・第2次速報の客室規模別客室稼働率。

■ 限界・留意点

試算対象は給湯・浴場加温・暖房の熱源費のみで、厨房・照明・動力・冷房および基本料金・保守費は含まない。機器効率・成績係数・熱需要原単位は標準的な設計値であり、建物の断熱性能・源泉温度・給湯方式・契約条件によって実際の費用は大きく変わる。燃料価格と支給単価は週次で変動するため、本稿の数値は調査時点の断面である。ADRは推定値であり各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。都道府県別の比較は当社が把握する範囲の集計で、全施設を網羅したものではない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 旅館・ビジネスホテルカテゴリの推定成約ADR(都道府県別月次)、運営中施設の市区町村別立地構成

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