トップ > 投資・開発 > 佐久平駅前ホテル投資|2km圏850室・佐久市ADR7,900円、駅前150室の必要ADRは1.7万円

佐久平駅前ホテル投資|2km圏850室・佐久市ADR7,900円、駅前150室の必要ADRは1.7万円

投稿日 : 2026.10.20

長野県

投資・開発

佐久平駅前ホテル投資|2km圏850室・佐久市ADR7,900円、駅前150室の必要ADRは1.7万円

北陸新幹線の佐久平駅2km圏では、2026年6月に194室の宿泊特化型ホテルが開業し、主要予約サイトで価格が観測できる客室は8施設850室になった。メトロエンジンリサーチの推定成約ADRで見ると、2026年9月の佐久市は7,900円(前年同月比+19.4%)だが、既存7施設だけを並べた同一施設比較の中央値は+3.7%にとどまり、伸びの大半は新規開業による構成変化が占める。本稿では、佐久・小諸・上田・軽井沢の4市町の月次ADR、3つの新幹線・しなの鉄道駅の2km圏客室の10年推移、駅前の就業・居住人口、用途地域・地価・浸水想定、そしてお盆と9月5連休の完売速度を重ね、東信で空いている価格帯と、駅前に100〜200室の宿泊特化上位を建てた場合の必要ADRを試算する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本稿の事業試算で置く稼働率は通年の前提値であり、観測値ではありません。
  • LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。早期完売LT=残室数が初めて0室に到達したリードタイム(値が大きいほど早く完売)。完売の判定は残室数(室ベース)のみで行い、宿泊日の45日より前の到達は「45日以上前から完売」と表記します。
  • 掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース)、国土交通省 不動産情報ライブラリ、国土数値情報、総務省・経済産業省 経済センサス、長野県・佐久市公表資料。
Key Takeaways
  • — 佐久平駅2km圏の客室は8施設850室。2017年の6施設522室から+63%で、増えたのは2023年の134室と2026年6月の194室という中規模2施設。
  • — 佐久市の推定成約ADRは2026年9月7,917円(前年同月比+19.4%、N=13)だが、既存7施設の同一施設比較は中央値+3.7%。伸びの大半は新規開業による構成変化。
  • — 駅1.5km圏の居住人口は2040年まで+1.4%と横ばい(小諸駅−17.4%、上田駅−10.9%)。駅東の公示地価は91,500円/㎡で5年間ほぼ動いていない。
  • — 9月5連休は佐久・小諸・上田のホテル7施設すべてが9,500円以下の価格帯で、早期完売LTは29〜54日。9月に1万〜1.5万円帯に入る宿泊特化型は3市で2施設に限られる。
  • — 駅前150室の必要ADRはRC造・利回り7%で17,100円(通年稼働80%・GOP率45%の前提)。土地代ゼロでも16,600円で、佐久市のビジネスホテル9月中央値7,100円の2倍を超える。

エグゼクティブサマリー — 客室は10年で+63%、単価の伸びは構成変化が主因

佐久平駅2km圏 客室
850室
8施設・2017年は6施設522室
佐久市 推定成約ADR
¥7,917
2026年9月・前年同月比+19.4%(N=13)
同一施設比較(既存7施設)
+3.7%
9月の前年同月比・中央値
駅前 公示地価
¥91,500
/㎡・佐久平駅東15番3(2026年、±0.0%)
駅1.5km圏 居住人口 2040年
+1.4%
14,534人→14,738人

結論を先に述べる。佐久平駅前は、東信の新幹線駅で唯一「居住人口が2040年まで減らない」商圏であり、駅を中心に容積率400%の商業地域が約500m四方で指定されている。地価は公示で9万円台/㎡と、軽井沢駅周辺の近隣商業地(25万〜43.5万円/㎡)の2〜4割の水準にとどまる。一方で宿泊単価は佐久市全体で8千円前後、9月の5連休でも佐久・小諸・上田の宿泊特化型ホテルは9,500円以下の価格帯で完売しており、9月に1万〜1.5万円帯に入る宿泊特化型ホテルは、上田駅前の200室(約11,200円)と2026年6月開業の194室(約12,900円)の2施設に限られる。駅前に150室の宿泊特化上位を新築した場合の必要ADRは、利回り6〜8%の前提で約14,700円〜23,100円と、現在の佐久市のビジネスホテル水準(9月7,100円)の2倍以上になる。したがって東信での新規開発は「土地の安さ」ではなく「1万円台前半の価格帯をどれだけ通年で埋められるか」で成否が決まる、というのが本稿の読みである。

4市町の月次ADR — 軽井沢の夏は小諸に届き、佐久には届かない

まずは単価の季節の形を確かめる。図1は4市町の推定成約ADRを1〜12月の軸に重ね、2026年を実線、2025年を破線で描いたものである(対数軸)。軽井沢町は8月に38,100円と6月(20,600円)の1.85倍まで跳ね、9月には27,000円へ戻る。小諸市も8月は14,900円と6月の1.75倍で、山の形は軽井沢と相似している。小諸の夏は旅館が牽引しており、旅館に限った8月の推定成約ADRは18,600円(N=6)と、ビジネスホテル(7,600円、N=5)の2倍を超える。

一方で佐久市の8月は8,500円と6月比+25.2%にとどまり、上田市(8月10,700円、6月比+37.5%)よりも山が低い。軽井沢の夏需要は、しなの鉄道で5駅の小諸までは単価として届いているが、新幹線で1駅の佐久平には価格の形として現れていない、と読める。佐久の需要が通年の業務・医療・帰省で構成され、夏の観光客は軽井沢か小諸・蓼科側に泊まる構図が、ADRの季節性にそのまま出ている。同じ長野県でも中信・南信の価格階層は構図が異なり、松本のホテル単価13,400円・駅前上限18,300円 — 中信南信7市町の価格階層と222室の吸収余地が整理している。

図1 4市町の月次推定成約ADR(1〜12月重ね描き・2026年実線/2025年破線・対数軸)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・各市町の月次中央値。対象施設数は佐久市13・小諸市13・上田市42・軽井沢町53、2026年9月時点)
市町2026年9月 ADR前年同月比2026年8月 ADR前年同月比直近12ヶ月中央値対象施設数
佐久市¥7,917+19.4%¥8,472+3.6%¥6,96413
小諸市¥13,441+43.4%¥14,933+25.9%¥10,08313
上田市¥9,168+7.8%¥10,698-0.7%¥9,08742
軽井沢町¥26,975+8.7%¥38,124+3.1%¥22,20653
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR)。小諸市は対象13施設の中央値のため、1施設の価格帯移動で月次値が大きく動く点に留意。

表の前年同月比で目を引くのは佐久市9月の+19.4%と小諸市の+43.4%だが、この2つは意味が異なる。小諸市は旅館(9月+9.3%)とビジネスホテル(同+11.5%)の両方が上がった上で、N=13の中央値が高い側の施設へ移った結果である。佐久市は構成変化の寄与が大きい。それを確かめるために、2025年9月と2026年9月の両方で推定成約ADRが算出できる佐久市内の既存7施設を取り出し、施設ごとの前年同月比を図2に並べた。

図2 佐久市 既存7施設の推定成約ADR 前年同月比(2026年9月/施設名は匿名化)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設別推定成約ADR、2025年9月・2026年9月の両月で算出可能な佐久市内7施設)

7施設の中央値は9月+3.7%、8月+5.1%である。市全体の+19.4%との差は、6月に加わった194室が9月に12,900円、8月に15,900円という、市内の既存ビジネスホテルの水準(9月中央値7,100円)を大きく上回る価格帯で販売していることで説明がつく。新規供給が市場単価を押し上げたというより、これまで佐久市に存在しなかった価格帯の商品が加わり、中央値がその分だけ上に動いた、というのが実態に近い。既存施設にとっては、同じ駅前で1.3万〜1.6万円の販売実績が積み上がること自体が、上位帯の需要の存在を示す材料になる。

3駅2km圏の客室10年推移 — 佐久平だけが増え、上田は2016年で止まっている

次に供給を駅単位で確かめる。各施設の開業・閉館日から各年末時点の客室数を再集計し、リブランド前後の名称で登録された同一建物(上田駅前のステーションホテル系1組)は1施設として数えた。佐久平駅2km圏は、2017年6施設522室→2023年7施設656室→2026年8施設850室で、10年の増加率は+63%になる。増えた2施設はいずれも130室超の中規模ホテルで、2023年の134室はアッパーミドル寄り、2026年の194室は天然温泉大浴場付きの宿泊特化上位という、既存にはなかった商品類型である。

図3 新幹線・しなの鉄道3駅の2km圏客室数(年末時点・価格観測のある施設)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース。各施設の開業・閉館日から年末時点の客室数を再集計し、閉館済・価格観測のない施設は対象外、リブランド前後の同一建物は1施設として集計)
佐久平駅2km圏の8施設(2026年10月時点)
施設客室開業用途地域
ホテルルートインGrand佐久-佐久平駅南-1942026年6月準工業地域(200%)
東横INN佐久平駅浅間口1432006年商業地域(400%)
アクアホテルアネックス1392005年近隣商業地域(200%)
アクアホテルプレミアム1342023年9月商業地域(400%)
佐久平プラザ21981998年商業地域(400%)
HOTEL AZ 長野佐久IC店922011年用途地域の指定なし
ホテル AtoZ佐久30—用途地域の指定なし
佐久ホテル20—用途地域の指定なし
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)。開業年は各施設の登録情報および運営会社リリース。

小諸駅2km圏は2017年6施設336室から2026年11施設363室へ、増えたのは20室未満の町家宿やホステルばかりで、ホテル・旅館の客室はこの10年ほぼ動いていない。上田駅2km圏は2016年3月の200室開業で1,130室に達して以降、2026年の1,198室まで+68室しか増えておらず、2016年以降の新規はいずれも小規模か既存建物の転用である。東信3駅のうち、新幹線開業後に本格的なホテル用地として市街地が形成され、いまも中規模の新築が成立しているのは佐久平だけ、という構図がここから読み取れる。

なお当社が参照する建築計画データ(国土交通省「建築物動態統計調査」ベース)では、2026年10月時点で東信4市町に100室超のホテル計画は確認できない。ただし確認申請は通常開業の1〜2年前に出されるため、この件数は現時点での下限値であり、今後の申請追加で増える前提で読む必要がある。

駅前の就業・居住人口 — 佐久平1.5km圏は2040年まで横ばい、小諸・上田は1〜2割減る

宿泊特化型の通年需要は、駅前の就業人口と、その背後にある居住人口の厚みで決まる。国土数値情報の250mメッシュ将来推計人口で佐久平駅1.5km圏(103メッシュ)を集計すると、2025年14,534人に対して2040年は14,738人(+1.4%)と横ばいで、高齢比率は22.3%にとどまる。同じ半径で小諸駅は9,037人→7,466人(-17.4%、高齢比率38.3%)、上田駅は19,303人→17,198人(-10.9%、同31.4%)であり、駅前の居住人口が維持されるのは佐久平だけである。図4のメッシュ地図を見ると、人口の塊は駅の北東(岩村田側)と南(佐久平駅南の区画整理地)に分かれており、駅直近は商業・業務地として人口が薄い。

図4 佐久平駅1.5km圏の居住人口(250mメッシュ・2020年国勢調査ベース)
出典: 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)。居住人口(国勢調査ベース)であり滞在・通過人口ではない。
駅(半径)居住人口 2025年2040年推計増減高齢比率事業所数(1km)従業者数(1km)事務所系比率
佐久平駅(1.5km/1km)14,53414,738+1.4%22.3%2722,9556.9%
小諸駅(1.5km/1km)9,0377,466-17.4%38.3%5943,96514.4%
上田駅(1.5km/1km)19,30317,198-10.9%31.4%1,0889,46016.3%
出典:国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)、総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査(2021)/境界=国勢調査2020小地域。就業データは小地域単位のため半径1kmの値は概算。

就業の側は様相が違う。佐久平駅1km圏の事業所は272、従業者は2,955人で、上田駅1km圏(1,088事業所・9,460人)の3分の1にとどまり、事務所系比率も6.9%と低い。半径を1.5kmに広げると1,133事業所・9,819人まで増えるが、事務所系は8.0%で、駅前の就業は商業施設と医療・サービスが中心である。つまり佐久平駅前のビジネス需要は「駅前オフィスへの出張」ではなく、市域に分散する製造業と医療機関への訪問が新幹線駅前に集まる形で生まれている。

その背後にある佐久市の産業基盤を一次統計で確かめておく。佐久市「統計のしおり2024」によれば、佐久市の製造業は事業所293・従業者9,284人・製造品出荷額等2,443億円(令和5年6月1日現在の調査)で、長野県佐久地域振興局の管内概況では佐久地域の出荷額は県内6番目(令和4年)にあたる。医療では、JA長野厚生連の佐久総合病院佐久医療センター(2014年開設、許可病床450床)と佐久市立国保浅間総合病院(2024年4月時点238床)がいずれも市内にあり、佐久総合病院の初期研修医募集要項には職員構成として合計2,512名が記載されている。人口は2020年国勢調査で98,199人(県内4位)、長野県の毎月人口異動調査では2026年8月1日時点で96,336人と緩やかな減少局面にあるが、佐久市の人口ビジョン(令和7年度改訂版素案)は「2020年以降、自然減は拡大傾向にある一方、社会増も概ね拡大傾向にある」と整理している。直近の2026年7月中の異動も転入236人に対し転出210人の社会増であり、新幹線通勤圏の移住需要が駅周辺の居住人口を支える構図は統計上も確認できる。佐久平駅のJR東日本の1日平均乗車人員は2024年度3,409人(定期外2,135人)で、定期外が6割を占める点に新幹線駅としての性格が出ている。

用途地域・地価・浸水想定 — 駅前は容積率400%の商業地域、地価は5年横ばい

開発余地を規制と地価の面から見る。国土交通省 不動産情報ライブラリの用途地域データでは、佐久平駅を中心に東西約500m・南北約650mの範囲が商業地域(容積率400%・建蔽率80%)に指定され、その東側(駅東公示地点を含む)と南西側に近隣商業地域(200%・80%)が続く。既存8施設のうち3施設はこの商業地域、1施設は近隣商業地域の内側に立地し、2026年6月開業の194室は駅南の準工業地域(200%・60%)に建つ。図5に商業・近隣商業の区域と8施設の位置を重ねた。

図5 佐久平駅2km圏のホテル分布と商業系用途地域(円の大きさ=客室数)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設位置・客室数)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(用途地域)。
公示地価・基準地価(2026年、佐久平駅周辺)
佐久平駅東15番3(公示・近隣商業200%)
¥91,500/㎡
前年比±0.0%・2021年は¥91,600
岩村田字塚本1307番14(基準・第一種住居)
¥59,400/㎡
前年比+3.3%・駅850m
岩村田字下塚本1346番25外(基準・第一種住居)
¥52,600/㎡
前年比+5.0%・駅1,200m
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都道府県地価調査、2026年)。駅東地点は2021年¥91,600(−0.2%)→2026年¥91,500(±0.0%)。

地価の動きは住宅地と商業地で分かれる。駅から850m・1,200mの住宅地は+3.3%・+5.0%と移住需要を映して上がっているのに対し、駅東の商業地点は2021年の91,600円/㎡から2026年の91,500円/㎡まで5年間ほぼ横ばいである。比較のために他駅を並べると、上田駅前(中央1丁目・商業地域500%)は109,000円/㎡(+0.9%)、小諸駅前(相生町・商業地域400%)は37,500円/㎡(+1.1%)、軽井沢駅から880mの近隣商業地(容積率200%)は250,000円/㎡(+20.2%)、1,600mの地点は435,000円/㎡(+16.0%)である。佐久平の商業地は軽井沢の2〜4割の水準で、しかも商業地域の容積率は2倍あるため、延床1㎡あたりの土地コストでは5分の1〜10分の1程度まで差が開く。この差が宿泊単価の差(軽井沢町の年間中央値22,200円に対して佐久市7,000円)をどこまで埋めるかが、後段の試算の論点になる。軽井沢と隣町の御代田で単価と地価の比がどう開いているかは、軽井沢の宿泊単価は御代田の3.1倍・地価は3.3倍 — 別荘地で用地を探す投資家の分岐点で詳しく分析している。

地点用途地域・容積率2026年地価(円/㎡)前年比駅からの距離
佐久平駅東15番3(佐久市)近隣商業地域・200%91,500±0.0%佐久平駅350m
中央1-4-5(上田市)商業地域・500%109,000+0.9%上田駅210m
相生町2-2-6(小諸市)商業地域・400%37,500+1.1%小諸駅230m
軽井沢字東野沢原1151番14(軽井沢町)近隣商業地域・200%250,000+20.2%軽井沢駅880m
軽井沢字屋敷東側下786番2(軽井沢町)近隣商業地域・200%435,000+16.0%軽井沢駅1,600m
出典:国土交通省 地価公示・都道府県地価調査(2026年)。軽井沢町・上田市・小諸市の地点は地価公示ポータル掲載値を土地代データ(tochidai.info)経由で確認。

水害リスクは駅前の中心と西側で分かれる。想定最大規模降雨による洪水浸水想定区域(国土数値情報)を駅周辺の9タイルで確認すると、佐久平駅と商業地域の大半、駅北東の既存3施設は区域外にある。一方、商業地域の西端にあたる既存ホテル1施設の地点は濁川の想定で浸水深0.5〜3m、駅南の194室の地点は同0.5m未満の区域に含まれる。千曲川本流の想定(3〜5mを含む)は駅から2km以上西の低地に限られ、駅前には及ばない。長野県佐久建設事務所は千曲川を除く市内29河川について2022年3月に想定最大規模(48時間850mm)の区域図を公表しており、佐久市のハザードマップでは湯川・濁川が浅間地区版として示されている。駅前での用地選定では、商業地域の中でも濁川側の西端を避けるか、1階を駐車場・ピロティとする設計で対応できる範囲である。

価格帯×完売速度 — 9月5連休、佐久・小諸・上田のホテルは9,500円以下で完売した

ここまでの供給・立地・地価の条件に、需要の強さを重ねる。使うのは施設別の残室推移から得た「早期完売LT」で、2026年のお盆(8月13日・木)と9月5連休の2日目(9月20日・日)という確定済みのピーク日について、4市町の施設のうちOTA公開枠が総客室の30%以上ある施設を集計した(対象:9月20日は79施設、8月13日は71施設。4市町の掲載施設1,089のうち在庫推移の観測がある施設は209、公開枠30%未満を除いた後の数)。佐久市は公開枠30%以上の施設が9月20日は0、8月13日は3施設(いずれも12室以下)にとどまり、駅前の大型施設は集計に入っていない。その理由は公開データだけでは特定できず、OTA以外の販路が中心である可能性、在庫を小出しに追加する運用、OTAへの割当そのものが小さい契約など複数が考えられる。したがって本節の数字は小諸・上田・軽井沢の施設が中心である。

図6 推定成約ADR × 早期完売LT(2026年9月20日チェックイン・東信4市町のホテル18施設と旅館20施設、円の大きさ=客室数)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設別残室推移・2026年9月の推定成約ADR)。OTA公開枠が総客室の30%以上の施設のみ、ADRが算出できない小規模宿(ペンション・民宿・ヴィラ等38施設)は図から除外。

図6の横軸はその施設の9月の推定成約ADR、縦軸は9月20日の宿泊に対して残室が初めて0になったリードタイムである。佐久・小諸・上田の宿泊特化型・シティホテルは7施設・568室がすべて9,500円以下の価格帯に並び、早期完売LTは29〜54日、うち3施設は45日以上前から完売していた。9,000円台の施設でも29〜40日前に売り切れる一方で、1万〜1.5万円帯・1.5万〜2万円帯のホテルは軽井沢町の3施設しかなく、3市には1施設も現れない。旅館は1万〜1.5万円帯の6施設の中央値が52日と早く、2万〜3万円帯になると28日まで落ちる。価格帯別の集計を表にまとめる。

業態推定成約ADR帯(9月)施設数客室数早期完売LT中央値45日以上前から完売うち軽井沢町
ホテル〜8千円314248日2施設0施設
ホテル8千〜1万円543740日1施設1施設
ホテル1万〜1.5万円29931日0施設2施設
ホテル1.5万〜2万円112228日0施設1施設
ホテル2万〜3万円36840日0施設3施設
ホテル3万円〜553338日2施設5施設
旅館〜8千円45055日4施設0施設
旅館8千〜1万円32730日0施設0施設
旅館1万〜1.5万円68252日4施設2施設
旅館1.5万〜2万円11425日0施設0施設
旅館2万〜3万円510728日0施設0施設
旅館3万円〜12362日1施設0施設
小規模宿(ペンション・民宿・ヴィラ等)ADR算出外3831042日18施設28施設
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年9月20日チェックイン、対象79施設のうち業態区分が上記に当たらない2施設を除く77施設。早期完売LTは残室が初めて0室に到達したリードタイムで、その後の在庫戻りを含む。完売に至らなかった2施設は中央値の計算に含めない)。

お盆(8月13日)は構図が少し変わる。軽井沢町の3万円以上のリゾートホテル13施設・882室は早期完売LTの中央値が19日と直前まで在庫を持ち、小諸市の宿泊特化型1施設(53室・8月の推定成約ADR約7,600円)は45日以上前から完売していた。夏の高単価帯は軽井沢で供給が厚く直前まで売れる一方、1万円未満の宿泊特化型は小諸でも早く埋まる。これを東信の価格帯の地図に落とすと、空白は次の2つに絞れる。

密集埋まっている領域

5千〜9.5千円 × 40〜200室
佐久・小諸・上田の宿泊特化型が集中。9月5連休は29〜54日前に完売しており需要は強いが、単価の天井が低く新築コストに届かない。

WS①1万〜1.5万円帯の宿泊特化上位

¥10,000〜15,000 × 100〜200室
温泉大浴場・朝食・駐車場を備えた上位帯。3市の宿泊特化型で9月にこの帯に入るのは上田駅前の200室と2026年6月開業の194室の2施設。後者は開業直後の夏に1.3万〜1.6万円で販売。通年で埋められるかが論点。

WS②2万円前後の小規模高単価

¥18,000〜25,000 × 20〜40室
小諸・上田の温泉旅館がこの帯で25〜44日前に完売。軽井沢の夏需要を駅前で受ける小規模高単価は佐久平に存在しない。

駅前150室の必要ADR試算 — 土地は安いが、必要ADRは現行の2倍

最後に、商業地域内の敷地1,500㎡(約454坪)に150室の宿泊特化上位(1室あたり延床40㎡、延床6,000㎡=容積率400%の上限)を建てる場合の必要ADRを試算する。土地は駅東の公示地価91,500円/㎡を用いて約1.4億円、建設費は国土交通省 建築着工統計の2025年ホテル坪単価(S造240.5万円、RC造202.6万円)を基準に、2028年開業を想定して2026年+5.3%・2027年+5.0%の建設費上昇(Turner & Townsend予測)を複利で織り込んだ。設計・FF&E・諸経費は建設費の15%を置く。GOP率はインヴィンシブル投資法人の運営91物件実績38.9%(2024年12月期)をやや上回る45%を当社前提とし、稼働率は通年80%の前提値とした。必要ADR=(総投資額×目標利回り÷GOP率)÷(150室×365日×80%)である。

項目RC造S造
土地(1,500㎡×91,500円/㎡)1.4億円1.4億円
建設費(2025年単価×1,815坪)36.8億円43.7億円
建設費(2028年開業・インフレ織込み ×1.106)40.7億円48.3億円
設計・FF&E・諸経費(建設費の15%)6.1億円7.2億円
総投資額48.1億円56.9億円
1室あたり投資額3,209万円3,792万円
必要ADR(利回り6%)14,700円17,300円
必要ADR(利回り7%)基準17,100円20,200円
必要ADR(利回り8%)19,500円23,100円
土地を持ち込む場合の必要ADR(利回り7%・土地代ゼロ)16,600円19,700円
出典:国土交通省 建築着工統計(2025年・archi-book集計)、Turner & Townsend 建設費予測、インヴィンシブル投資法人 IR(運営物件GOP実績)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
図7 必要ADRと現行市場水準の比較(利回り別・構造別)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。参照線は2026年9月の推定成約ADR(佐久市ビジネスホテル中央値・軽井沢町ビジネスホテル中央値)。

結果は明快である。RC造でも利回り7%に必要なADRは17,100円、S造では20,200円で、佐久市のビジネスホテルの9月中央値7,100円の2倍を超える。土地を持ち込んでも必要ADRは16,600円前後までしか下がらない。1室あたり投資額3,209万円のうち土地は92万円にすぎず、総額の3%しか占めないからである。軽井沢駅880mの近隣商業地(25万円/㎡・容積率200%)に同じ1,500㎡を求めると、建てられるのは延床3,000㎡=75室で、1室あたりの土地代は500万円と佐久平の5.5倍になるが、それでも必要ADRの差は19,300円対17,100円と2,000円強にとどまる。軽井沢町のビジネスホテルの推定成約ADRは9月17,900円・8月24,100円だが、2〜3月は9,000円前後まで下がり年間中央値は12,500円である。土地の安い佐久平と、単価の高い軽井沢のどちらを選んでも、宿泊特化上位の新築が通年で1.5万円前後を取れる設計と運営になっているかが成否を分ける、という同じ問いに行き着く。

感度を確認しておく。RC造・利回り7%のケースで稼働率を80%から75%に下げると必要ADRは18,200円、GOP率を45%から40%に下げると19,200円、両方なら20,500円まで上がる。逆にGOP率を55%まで高められれば14,000円で、WS①の価格帯(1万〜1.5万円)の上端に入る。東信の駅前で成立する新築は、客室を絞って大浴場・朝食の付加価値で1.3万〜1.5万円を通年で取り、人員を抑えた運営でGOP率を50%台に乗せる設計に限られる、というのが試算の含意である。

感度(RC造・利回り7%)稼働80%稼働75%稼働70%
GOP率55%14,000円14,900円16,000円
GOP率45%(基準)17,100円18,200円19,500円
GOP率40%19,200円20,500円22,000円
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(必要ADR=総投資額×利回り÷GOP率÷年間販売客室数)。稼働率は前提値。

投資判断の整理 — 佐久平で成立する商品と、残るリスク

リスク要因観測された事実投資判断への含意
需要の季節性佐久市の8月ADRは6月比+25.2%。軽井沢(+85.4%)・小諸(+74.5%)の夏の山は佐久平に届いていない夏季のアップサイドに依存しない通年設計が前提。業務・医療・帰省の平日需要を基礎にする
供給の追加2km圏は2023年+134室、2026年+194室。建築計画データでは100室超の追加計画は現時点で確認できない(下限値)2件の新規は9月に約9,500円と約12,900円で販売しており、上位帯の価格形成は進行中。追加計画は申請追加で増え得る
販売チャネル佐久市でOTA公開枠30%以上の施設は9月20日時点で0。駅前施設の在庫消化は公開データで追いにくい直販・法人契約の比率を事業計画の前提として個別に確認する必要がある
水害駅前中心と北東側は想定最大規模の区域外。商業地域の西端は濁川の想定で0.5〜3m、駅南は0.5m未満用地は商業地域の中央〜東側を優先。西端では1階の用途と設備配置で対応
建設費2025年ホテル坪単価はS造240.5万円・RC造202.6万円。2028年開業で約+10.6%を見込む必要ADRの8割は建設費で決まる。構造・規模より客室単価の設計が効く

ここまでを整理すると、佐久平駅前は「用地が安く、容積率が高く、居住人口が減らず、水害リスクが読める」という、地方の新幹線駅前として条件の揃った商圏である。ただし宿泊単価の天井は低く、9月5連休でさえ3市の宿泊特化型は9,500円以下で売り切れていた。この市場で新築が成立する商品は、WS①の1万〜1.5万円帯を温泉大浴場・朝食・無料駐車場の組み合わせで通年確保する100〜150室の宿泊特化上位か、WS②の2万円前後を小諸・上田の温泉旅館と同じ早さで売り切る20〜40室の小規模高単価のどちらかに絞られる。2026年6月の194室がこの夏に1.3万〜1.6万円で販売を始めたことは、前者の価格帯に需要があることを示す佐久平で最初の実績であり、東信で用地を持つ事業会社や地主、新幹線駅前に融資する地銀にとっては、この施設の通年の販売価格の推移が次の判断材料になるだろう。

土地を持ち込める事業者にとっての意味も付け加えておく。必要ADRは土地代ゼロでも16,600円前後までしか下がらないため、「自社地だから採算が合う」とは言いにくい。土地を借地で確保した場合に必要ADRがどこまで下がるかは、事業用定期借地でホテルの必要ADRは最大1.4万円低下 — 駅前商業地15都市を試算で試算している。むしろ土地を持つ強みは、建物の規模を市場に合わせて小さくできる自由度にある。150室で必要ADR1.7万円を狙うより、80〜100室で客室面積を広げ、1.3万〜1.5万円を安定して取る設計の方が、佐久平の需要の形には合っている。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの月次集計(2024年8月〜2026年9月、市町別は対象施設の中央値。2026年9月の対象は佐久市13・小諸市13・上田市42・軽井沢町53施設)。駅2km圏の客室数は各施設の開業・閉館日から年末時点で再集計し、閉館済みと価格観測のない施設は対象外とした。完売速度は2026年8月13日・9月20日チェックインの施設別残室推移(OTA公開枠が総客室の30%以上の71施設・79施設)。人口は国土数値情報の250mメッシュ将来推計、就業は経済センサス-活動調査(2021年)、用途地域・地価・浸水想定は国土交通省 不動産情報ライブラリによる。

■ 試算前提

必要ADR=総投資額×目標利回り÷GOP率÷年間販売客室数。敷地1,500㎡・延床6,000㎡(容積率400%の上限)・150室、土地は駅東の公示地価91,500円/㎡、建設費は2025年のホテル坪単価(RC造202.6万円・S造240.5万円)に2026年+5.3%・2027年+5.0%の上昇を複利で織り込み、設計・FF&E・諸経費は建設費の15%。GOP率45%と通年稼働80%は当社の前提値であり、観測値ではない。目標利回りは6〜8%の3水準、感度は稼働70〜80%×GOP率40〜55%の9通りを示した。

■ 限界・留意点

推定成約ADRは掲載価格からの推定値で、各施設の実際の成約単価・会計数値とは異なる。対象施設が13程度の市町では1施設の価格帯の移動で月次の中央値が大きく動く。佐久市は公開枠30%以上の施設が少なく、完売速度の集計は小諸・上田・軽井沢の施設が中心になる。駅東の公示地点は近隣商業地域(容積率200%)にあり、商業地域(400%)内の実際の取得単価はこれと異なり得る。建築計画データは確認申請ベースの下限値である。簡易試算であり、実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(佐久市・小諸市・上田市・軽井沢町の月次中央値、施設別)、駅2km圏の施設・客室再集計、施設別残室推移(2026年8月13日・9月20日チェックイン、対象71施設・79施設)

■ 政府統計・公的データ

■ 企業公表資料・業界レポート

関連記事