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豪雪地帯のホテル原価は1室年11.5万円 — 5道県18万室を指定区分別に集計

投稿日 : 2026.09.10

北海道

青森県

新潟県

富山県

長野県

投資・開発

豪雪地帯のホテル原価は1室年11.5万円 — 5道県18万室を指定区分別に集計

雪は、ホテルの原価に建物の設計段階から入り込む。屋根が支える設計荷重、玄関前の融雪設備、毎冬の除雪委託、そして暖房。いずれも立地が決まった時点でほぼ固定される費目であり、後から運営努力で削るのが難しい。国土交通省は豪雪地帯対策特別措置法にもとづき全国532市町村を豪雪地帯、うち201市町村を特別豪雪地帯に指定しているが、この指定区域の内側にどれだけの客室が建っているのか、そして雪の原価が1室あたりいくらになるのかは、あまり整理されてこなかった。

本稿では、北海道・青森県・新潟県・富山県・長野県の5道県について、指定区域と宿泊供給を市区町村単位で突き合わせ、4,570施設・182,492室を指定区分別に集計した。そのうえで、積雪荷重に対応した構造・屋根の割増、融雪設備の初期費用、除雪委託費と冬季暖房費の年額を1室あたりに割り戻し、成立に必要なADR(推定成約単価)の上乗せ幅を逆算する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。本稿でADRと記す数値はすべて推定成約ADRであり、掲載価格とは別の指標です。
  • 豪雪地帯/特別豪雪地帯=豪雪地帯対策特別措置法にもとづく指定区域。本稿では市区町村を、①特別豪雪地帯(全域指定)、②特別豪雪地帯を含む(一部指定)、③豪雪地帯(特別豪雪の指定なし)、④一部のみ豪雪地帯・大半が無指定、⑤無指定 の5区分に整理しています。
  • 垂直積雪量=建築基準法施行令第86条にもとづき特定行政庁が定める、構造計算上の設計積雪深。1m以上の区域が多雪区域に指定されます。
  • 暖房度日(D18-18)=日平均気温が18℃を下回る期間について、18℃との差を積算した寒冷度の指標。本稿では気象庁の月平均気温平年値(1991〜2020年)から近似算出しています。
集計対象(5道県)
4,570施設
182,492室・運営中
特別豪雪地帯に関わる客室
65,311
5道県の35.8%
雪の原価(80室型・特豪)
¥114,900
1室あたり年額
必要ADR上乗せ(通年配分)
¥450
1泊・OCC70%前提
屋根の設計積雪荷重
11.5
倶知安町 対 東京23区
Key Takeaways
  • 特別豪雪地帯に関わる客室は65,311室、5道県18万2,492室の35.8%。富山県67.9%・新潟県61.6%・青森県57.0%に対し、全道が豪雪地帯の北海道は16.6%にとどまる。
  • 雪の原価は1室あたり年11万4,900円(80室型・特別豪雪地帯)。30室型では27万2,800円と2.4倍に開く。除雪・融雪が敷地面積で決まる費目だからである。
  • 必要なADR上乗せは通年配分で1泊450円(エリアADRの3.4%)。冬季4ヶ月に集中回収する設計なら1,360円、30室型・冬季集中では3,220円と6倍以上動く。
  • 単価前提と稼働率を振っても380円〜540円のレンジ。結論を動かすのは単価の不確実性ではなく、客室規模と冬の需要である。
  • 倶知安町は冬季ADRが通年の1.68倍(28,000円→47,000円)で原価を吸収できる一方、青森市0.81倍・函館市0.85倍のエリアでは通年価格に薄く織り込む設計になる。

5道県18万2,492室を指定区分別に分解する

まず供給の所在を押さえたい。豪雪地帯の指定は道県単位ではなく市区町村単位で行われており、北海道・青森県・新潟県・富山県は全域が豪雪地帯、長野県は77市町村のうち20市町村のみが指定されている(国土交通省、令和8年4月1日現在)。この指定区域と、メトロエンジンリサーチが追跡する範囲で運営中として登録されている宿泊施設を市区町村単位で突き合わせた結果が以下である。

表1:5道県の宿泊供給 — 豪雪地帯の指定区分別 施設数・客室数(N=4,570施設・182,492室)
道県特別豪雪
(全域)
特別豪雪
(一部)
豪雪地帯一部豪雪
(大半無指定)
無指定合計
北海道451施設
11,415室
42施設
2,377室
940施設
69,068室
1,433施設
82,860室
青森県60施設
4,343室
69施設
3,882室
111施設
6,201室
240施設
14,426室
新潟県424施設
10,608室
149施設
6,673室
180施設
10,758室
753施設
28,039室
富山県15施設
428室
143施設
7,647室
95施設
3,809室
253施設
11,884室
長野県764施設
13,805室
103施設
4,133室
15施設
312室
389施設
10,975室
620施設
16,058室
1,891施設
45,283室
5道県計1,714施設
40,599室
506施設
24,712室
1,341施設
90,148室
389施設
10,975室
620施設
16,058室
4,570施設
182,492室

出典:国土交通省「豪雪地帯(特別豪雪地帯)指定地域」(令和8年4月1日現在)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(運営中施設ベース、N=4,570施設・182,492室)

出典:国土交通省「豪雪地帯(特別豪雪地帯)指定地域」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=4,570施設)

特別豪雪地帯に関わる客室(全域指定+一部指定)の比率は道県によって大きく異なる。富山県67.9%、新潟県61.6%、青森県57.0%と、日本海側の3県では客室の6割前後が特別豪雪地帯に関わる区域に立地している。一方、北海道は全道が豪雪地帯でありながら、特別豪雪地帯に関わる客室は16.6%にとどまる。札幌市・函館市・千歳市といった主要都市が特別豪雪地帯の指定から外れており、客室の大半がそちらに集中しているためだ。

長野県は5道県のなかで唯一、指定区域と無指定区域が県内で拮抗している。特別豪雪地帯(全域指定)に764施設・13,805室、無指定区域に620施設・16,058室と、施設数・客室数とも同じオーダーで並んでいる。同一県内で原価構造を比較する材料としては、この長野県がもっとも扱いやすい。

市区町村単位の分布を地図に落とすと、供給の集積と指定区分の関係が見える。

出典:国土交通省「豪雪地帯(特別豪雪地帯)指定地域」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(客室数300室以上の90市区町村、計164,264室)

屋根の設計荷重は東京の11.5倍 — 積雪荷重が構造費に効く経路

雪の原価のうち、もっとも早い段階で確定するのが積雪荷重への対応である。建築基準法施行令第86条は、積雪の単位荷重を一般の区域で積雪1cmあたり20N/m²以上、多雪区域では30N/m²以上と定めている(新潟県は29.4N/m²以上を運用)。多雪区域の指定基準は、垂直積雪量が1m以上の区域、または積雪の初終間日数の平年値が30日以上の区域である(平成12年建設省告示第1455号)。

北海道が公表する垂直積雪量の値を使って、屋根が支える設計積雪荷重を比較すると次のようになる。

出典:北海道「垂直積雪量」(建築基準法施行令第86条第3項)、建築基準法施行令第86条よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

表2:垂直積雪量と屋根の設計積雪荷重 — 北海道の主要地点と東京23区の比較
地点垂直積雪量単位荷重屋根の設計積雪荷重東京比
東京23区(非多雪区域・参考)30cm20N/m²・cm600 N/m²(61kgf/m²)1.0倍
函館市70cm30N/m²・cm2,100 N/m²(214kgf/m²)3.5倍
旭川市(大部分)130cm30N/m²・cm3,900 N/m²(398kgf/m²)6.5倍
札幌市(大部分)140cm30N/m²・cm4,200 N/m²(429kgf/m²)7.0倍
倶知安町・ニセコ町230cm30N/m²・cm6,900 N/m²(704kgf/m²)11.5倍

出典:北海道「垂直積雪量」(建設部住宅局建築指導課)/建築基準法施行令第86条よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

倶知安町・ニセコ町の6,900N/m²は、平方メートルあたり約700kgに相当する。ホテルの居室1層分の設計荷重(固定荷重+積載荷重)がおおむね9,000N/m²前後であることを踏まえると、屋根に0.7層分を追加で載せるのに近い。5階建てのRC造で試算すると、柱・基礎が負担する鉛直荷重の総量は無指定地域比で約15%増える計算になる。躯体工事費が建築費の4分の1程度を占めるとすれば、これは建築費に対して約3.7%の押し上げに相当する。ここに雪止め・雪庇対策・軒先の耐荷重・落雪離隔をとるための外構調整を加え、本稿では特別豪雪地帯で建築費の+4.5%、豪雪地帯(特別豪雪の指定なし)で+2.6%を構造・屋根の割増として置いた。ベースとなる1室あたりの建築費そのものがどの水準にあるかは、ホテル1室の建築費は2,067万円 — 計画31件の客室原単位35.0㎡から逆算で計画案件から逆算している。

試算の位置づけ:構造割増率は積雪荷重の増分と躯体費比率から組み立てた簡易試算であり、実際の割増は構造形式・階数・スパン割り・屋根形状によって変動します。投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要です。

除雪・融雪・暖房 — 雪の原価は敷地面積で決まり、客室数で割られる

建物が建った後は、毎年の運営費として雪の原価が発生し続ける。ここで重要なのは、除雪も融雪設備も敷地面積で規模が決まるという点だ。駐車場2,000m²の除雪費は、その上に建つのが80室のホテルでも30室の旅館でも大きくは変わらない。つまり1室あたりに割り戻したときの負担は、客室数に反比例する。

単価の前提は次のとおり置いた。機械除雪はタイヤショベル等で1時間あたり2万円、排雪は4tダンプ1台あたり8,000円という市中相場を採用している。ロードヒーティングの施工費は住宅規模(20m²前後)で1m²あたり4万〜4.5万円とされるところ、ホテル規模では単価が逓減することを見込んで3.5万円/m²とした。運転費は札幌市の平均稼働時間(1シーズン650時間)・温水循環式で25m²あたり6万5,000円という実績水準から、1m²あたり2,600円/シーズンで置いている。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(単価根拠は本文および参考資料一覧に記載)

表3:雪の原価の内訳 — 1室あたり年額(80室型・30室型 × 特別豪雪/豪雪)
費目(1室あたり・年額)80室型
特別豪雪
80室型
豪雪
30室型
特別豪雪
30室型
豪雪
積雪荷重対応(構造・屋根)の償却/39年¥15,000¥8,700¥28,800¥16,600
融雪設備(ロードヒーティング・融雪槽・屋根融雪)の償却/15年¥12,700¥5,800¥33,900¥15,300
除雪委託費(機械除雪・排雪・屋根雪処理)¥49,000¥17,000¥130,700¥45,300
融雪設備の運転費¥8,100¥3,900¥21,700¥10,400
冬季暖房費の増分(対東京)¥30,100¥9,500¥57,800¥18,200
合計¥114,900¥44,800¥272,800¥105,900
初期費用(構造割増+融雪設備)1室あたり¥774,600¥423,700¥1,631,400¥878,900

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。建築費の基準単価は国土交通省「建築着工統計」の構造別坪単価(2024年:RC造173.6万円/坪、S造164.8万円/坪)を踏まえ165万円/坪を採用。暖房増分は気象庁「気象庁平年値(1991〜2020年)」の暖房度日比による

80室型で年11万4,900円、30室型では年27万2,800円。同じ特別豪雪地帯でも、1室あたりの雪の原価は規模で2.4倍の開きが出る。内訳を見ると差の大半は除雪委託費(4万9,000円対13万700円)と融雪設備の償却(1万2,700円対3万3,900円)から生じており、いずれも敷地面積で決まる費目だ。雪国では、通常の立地よりも規模の経済が強く効くという構造がここに表れている。

なお暖房費だけは指定区分ではなく寒冷度で決まる。指定区分と暖房度日は別の軸であることを、次節で確認したい。

積雪と寒さは別の軸 — 青森市と八戸市は暖房度日がほぼ同じ

気象庁の平年値(1991〜2020年)から、年最深積雪と暖房度日を同じ平面に置くと、雪の深さと寒さが独立に決まっていることが分かる。

出典:気象庁「平年値(統計期間1991〜2020年)」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。暖房度日は月平均気温平年値からの近似値

もっとも分かりやすいのが青森県内の対比である。青森市の暖房度日は2,981、八戸市は2,978とほぼ同値でありながら、年最深積雪の平年値は青森市101cm、八戸市27cmと3.7倍の開きがある。青森市は特別豪雪地帯(全域指定)、八戸市は豪雪地帯だが特別豪雪の指定はない。暖房の負担は同じでも、除雪・融雪・積雪荷重の負担はまったく別物になる。

逆方向の例もある。新潟県の高田(上越市)は年最深積雪96cmと札幌(97cm)に並ぶ雪深さでありながら、暖房度日は2,175と札幌の3,420より4割近く低い。日本海側の多雪地域は「雪は深いが極端には冷えない」タイプ、内陸の北海道は「雪はそこまで深くないが暖房度日が大きい」タイプに分かれる。両者の原価構成は同じ「豪雪地帯」でも中身が違う。

表4:年最深積雪と暖房度日 — 積雪の深さと寒冷度が別の軸であることの確認
地点年最深積雪(平年値)暖房度日 D18-18最寒月平均気温指定区分
旭川89cm4,101-7.0℃豪雪地帯(特別豪雪の指定なし)
札幌97cm3,420-3.2℃豪雪地帯(特別豪雪の指定なし)
青森101cm2,981-0.9℃特別豪雪地帯(全域)
八戸27cm2,978-0.9℃豪雪地帯(特別豪雪の指定なし)
長野33cm2,661-0.4℃一部が特別豪雪地帯(長野市)
高田(上越)96cm2,1752.5℃一部が特別豪雪地帯(上越市)
新潟32cm2,1642.5℃豪雪地帯(特別豪雪の指定なし)
富山51cm2,0213.0℃一部が特別豪雪地帯(富山市)
東京(参考)6cm1,5865.4℃無指定

出典:気象庁「平年値(統計期間1991〜2020年)」/国土交通省「豪雪地帯(特別豪雪地帯)指定地域」

成立に必要なADR上乗せは1泊450円〜3,220円 — 回収期間の置き方で6倍変わる

ここまでの年間原価を、必要なADR上乗せ幅に換算する。稼働率70%を前提とすると年間の販売室数は1室あたり255.5泊となり、これで割れば通年に薄く配分した場合の必要上乗せが出る。一方、雪の原価が実際に発生するのは冬季であり、需要が冬に集中するエリアでは12月〜3月の121日で回収する設計もありうる。

表5:必要ADR上乗せ — 通年配分と冬季集中回収の比較(稼働率70%前提)
モデル雪の原価
(1室・年額)
通年配分での
必要ADR上乗せ
冬季(12〜3月)集中
回収での必要上乗せ
エリアADRに
対する比率(通年)
80室型・特別豪雪地帯¥114,900¥450¥1,3603.4%
80室型・豪雪地帯¥44,800¥175¥5301.6%
30室型・特別豪雪地帯¥272,800¥1,070¥3,2208.2%
30室型・豪雪地帯¥105,900¥415¥1,2503.7%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(通年配分・稼働率70%前提、2025年9月〜2026年7月)。エリアADR比率は5道県の特別豪雪地帯(全域指定)市区町村の推定成約ADR中央値 ¥13,300(北海道)〜¥9,800(青森県)の水準に対する概算

単価前提と稼働率を振ったときのレンジ

ここまでの必要上乗せは、単価前提を市中相場の中央値、稼働率を70%に置いた1本の値である。実際には除雪の委託単価もロードヒーティングの施工単価も幅を持ち、稼働率は立地と季節性で動く。80室型・特別豪雪地帯のケースについて、本文で採用した前提を中位に置き、上下に振ったときの原価と必要上乗せを並べる。

表6:単価前提を振った3シナリオ — 80室型・特別豪雪地帯の1室あたり年額原価と必要ADR上乗せ
費目(1室あたり・年額)楽観中位
(本文の前提)
悲観
積雪荷重対応(構造・屋根)の償却¥15,000¥15,000¥15,000
融雪設備の償却¥12,700¥12,700¥16,300
除雪委託費¥39,200¥49,000¥58,800
融雪設備の運転費¥8,100¥8,100¥8,100
冬季暖房費の増分¥30,100¥30,100¥30,100
雪の原価 合計¥105,100¥114,900¥128,300
前提とした通年稼働率75%70%65%
通年配分での必要ADR上乗せ¥380¥450¥540
冬季(12〜3月)集中回収での必要上乗せ¥1,160¥1,360¥1,630

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。楽観は除雪委託費を相場下限(中位比−20%)・通年稼働率75%、悲観は除雪委託費を相場上限(同+20%)・ロードヒーティング施工費を住宅規模の上限4.5万円/m²・通年稼働率65%として置いた。構造償却・融雪運転費・暖房増分は3ケースとも同一前提

幅を持たせても、80室型・特別豪雪地帯の必要上乗せは1泊380円〜540円のレンジに収まる。前節で見た通年ADR13,000円前後の水準に対して2.9%〜4.2%であり、単価前提の置き方が結論を変えるほどの感度は持たない。結論を動かすのは単価の不確実性ではなく、客室規模と稼働率であることが、次の表で確認できる。

表7:稼働率×モデル別の必要ADR上乗せ(通年配分・1泊あたり)
前提80室型
特別豪雪
80室型
豪雪
30室型
特別豪雪
30室型
豪雪
通年稼働率 60%¥525¥205¥1,245¥485
通年稼働率 65%¥485¥190¥1,150¥445
通年稼働率 70%(本文の前提)¥450¥175¥1,070¥415
通年稼働率 75%¥420¥165¥995¥385
通年稼働率 80%¥395¥155¥935¥365

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。各モデルの雪の原価(1室・年額)を365日×通年稼働率で除して算出

通年稼働率を60%から80%まで20ポイント動かしても、80室型・特別豪雪地帯の必要上乗せは525円から395円へ130円動くにとどまる。同じ通年稼働率70%の行で横に見れば、80室型の450円に対して30室型は1,070円と2.4倍である。感度は縦(稼働率)より横(客室規模)に大きい。雪国の宿泊投資で先に決めるべきは、稼働率の想定ではなく、除雪・融雪の対象面積を何室で割るのかという規模の設計になる。

80室規模であれば、雪の原価は1泊あたり450円、ADRの3%台に収まる。5道県の特別豪雪地帯(全域指定)における推定成約ADRは北海道13,300円、長野県13,100円、新潟県12,600円という水準にあるから、この程度の上乗せは価格設定の誤差の範囲に近い。雪そのものは、規模がある施設にとっては決定的な原価要因ではないというのが、数字から出てくる素直な読み方である。

問題設定を変えるのは規模と回収期間だ。30室型で冬季集中回収を前提にすると必要上乗せは1泊3,220円に跳ね上がる。通年配分の450円と比べれば7倍を超える。つまり雪国の宿泊投資で効くのは雪の絶対量ではなく、「どれだけの室数で割れるか」と「冬に売れるか」の2点ということになる。

冬に単価が上がるエリアと、通年で薄く回収するエリア

では実際に、指定区域内のホテルは冬にどれだけの単価を得ているのか。5道県の市区町村について、推定成約ADRの通年水準(2025年9月〜2026年7月の11ヶ月)と冬季4ヶ月(2025年12月〜2026年3月)の水準を比較した。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR、2025年9月〜2026年7月、延べ観測施設数の多い上位70市区町村)

特別豪雪地帯(全域指定)の市区町村は、冬季ADRが通年比で明確に二極化する。冬に需要が集まるエリアでは、倶知安町が通年28,000円に対して冬季47,000円(1.68倍)、ニセコ町が22,700円に対して34,600円(1.52倍)、湯沢町が15,600円に対して20,400円(1.30倍)、白馬村が14,600円に対して19,000円(1.30倍)と、冬季の上乗せは数千円から2万円規模に達する。前節で算出した必要上乗せ(80室型で1,360円、30室型で3,220円)を大きく超える水準であり、雪の原価は冬季単価のなかで十分に吸収されている。こうした冬季の単価形成をスキー場からの距離という別の切り口で捉えた分析は、スキー場3km圏の客室は4.0万室、上位3か所で39%にまとめている。

一方、冬季が需要の谷になるエリアでは回収の設計が変わる。青森市は通年9,400円に対して冬季7,600円(0.81倍)、函館市は8,300円に対して7,100円(0.85倍)、立山町は11,600円に対して7,700円(0.66倍)と、冬季の単価は通年を下回る。これらのエリアでは、雪の原価は冬季単価ではなく通年の価格水準のなかに薄く織り込まれる構造になる。80室規模なら1泊450円、ADRの3%台という前節の数字が、そのまま通年の設計値として意味を持つ。

表8:市区町村別の通年ADRと冬季ADR — 冬季/通年比の高い順
市区町村指定区分通年ADR冬季ADR冬季/通年延べ観測
施設数
倶知安町(北海道)特別豪雪(全域)¥28,000¥47,0001.68237
ニセコ町(北海道)特別豪雪(全域)¥22,700¥34,6001.52103
湯沢町(新潟県)特別豪雪(全域)¥15,600¥20,4001.30467
白馬村(長野県)特別豪雪(全域)¥14,600¥19,0001.30462
飯山市(長野県)特別豪雪(全域)¥10,300¥13,2001.28126
野沢温泉村(長野県)特別豪雪(全域)¥13,000¥15,7001.21244
妙高市(新潟県)特別豪雪(全域)¥10,300¥12,4001.21443
山ノ内町(長野県)特別豪雪(全域)¥12,800¥14,8001.161,139
札幌市中央区(北海道)豪雪地帯¥14,300¥15,7001.101,474
長野市(長野県)特別豪雪(一部)¥11,000¥11,2001.02820
八戸市(青森県)豪雪地帯¥6,500¥6,2000.94351
富山市(富山県)特別豪雪(一部)¥6,900¥6,2000.91625
函館市(北海道)豪雪地帯¥8,300¥7,1000.85932
青森市(青森県)特別豪雪(全域)¥9,400¥7,6000.81428

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR、通年=2025年9月〜2026年7月、冬季=2025年12月〜2026年3月)。延べ観測施設数は月次の推定成約ADR算出対象施設数の合計

長野県で見る指定・非指定の原価差

同一県内での比較がもっとも明瞭なのは長野県である。特別豪雪地帯(全域指定)に764施設・13,805室、無指定区域に620施設・16,058室と供給が拮抗しており、気候以外の条件(県内の需要基盤、アクセス、観光資源の性格)はある程度そろっている。

表9:長野県内の指定区分別 供給とADR — 同一県内での指定・非指定の比較
長野県内の区分施設数客室数通年ADR冬季ADR冬季/通年延べ観測
施設数
特別豪雪地帯(全域指定)76413,805¥13,100¥15,6001.192,319
特別豪雪地帯を含む(長野市)1034,133¥11,000¥11,2001.02820
豪雪地帯(特別豪雪の指定なし)15312¥10,300¥11,1001.0760
一部のみ豪雪地帯(大半が無指定)38910,975¥11,500¥11,0000.962,323
無指定62016,058¥13,700¥14,0001.023,414

出典:国土交通省「豪雪地帯(特別豪雪地帯)指定地域」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR、2025年9月〜2026年7月、N=1,891施設・45,283室)

通年ADRは特別豪雪地帯13,100円、無指定13,700円とほぼ並ぶ。ところが冬季になると特別豪雪地帯は15,600円(通年比1.19倍)へ動くのに対し、無指定区域は14,000円(同1.02倍)とほとんど動かない。無指定区域には軽井沢町(通年22,200円)のような通年型の高単価エリアが含まれており、こちらは季節を通じて安定した単価で回収する設計になっている。

原価側で見ると、長野県の特別豪雪地帯に立地する80室規模の施設は年11万4,900円、無指定区域の同規模施設に対して1室あたり年間で11万円前後の追加原価を負う。1泊あたり450円、冬季4ヶ月に寄せれば1,360円。特別豪雪地帯の冬季ADR上乗せ(15,600円−13,100円=2,500円)はこれを上回っており、冬季需要のあるエリアでは原価が価格に織り込まれていることが確認できる。

集計上の留意点:「一部のみ豪雪地帯(大半が無指定)」に分類した松本市・上田市・須坂市・大町市・飯田市・安曇野市は、市域の一部だけが豪雪地帯に指定され、市街地の大半は無指定です。国土交通省が人口集計の際に一部指定市(仙台市・郡山市・静岡市・大津市)を豪雪地帯に含めない扱いをしていることに倣い、本稿でも指定区域の集計からは分離しています。

まとめ — 雪の原価は「室数」と「冬の需要」で意味が変わる

北海道・青森県・新潟県・富山県・長野県の4,570施設・182,492室を国土交通省の指定区域と突き合わせた結果、特別豪雪地帯に関わる客室は65,311室、5道県全体の35.8%を占めることが分かった。県別では富山県67.9%、新潟県61.6%、青森県57.0%と日本海側で高く、全道が豪雪地帯である北海道は16.6%と低い。主要都市が特別豪雪地帯の指定外にあるためだ。

積雪荷重・融雪設備・除雪委託・冬季暖房の4費目を1室あたりに割り戻すと、特別豪雪地帯の80室型で年11万4,900円、30室型で年27万2,800円。必要なADR上乗せは通年配分で1泊450円〜1,070円、冬季4ヶ月に集中回収する設計なら1,360円〜3,220円となる。

ここから導かれる示唆は3つある。第一に、雪の原価は客室規模で2.4倍動く。除雪と融雪は敷地面積で決まる費目なので、雪国では通常以上に規模の経済が効く。第二に、積雪と寒冷は別の軸で原価に効く。青森市と八戸市は暖房度日がほぼ同じでありながら年最深積雪は3.7倍違い、高田(上越)と札幌は積雪がほぼ同じでも暖房度日が4割違う。指定区分だけ、あるいは気温だけを見ても原価は組み立てられない。第三に、回収の設計はエリアの季節性で決まる。倶知安町・ニセコ町・湯沢町・白馬村のように冬季ADRが通年比1.3〜1.7倍になるエリアでは冬季単価で吸収でき、青森市・函館市のように冬季が需要の谷になるエリアでは通年の価格水準に薄く織り込む設計になる。雪を原価としてではなく収益源として扱えるかどうかの境界については、雪はコストか資産か — 冬RevPARが夏の53%の県と、冬ADR2.66倍の町が立地評価の軸として整理している。

豪雪地帯での宿泊投資を検討する際は、指定区分の有無だけでなく、①想定する客室規模、②敷地内で除雪・融雪の対象となる面積、③冬季の需要季節性、の3点をセットで見ることで、原価と回収の関係を早い段階で見通すことができる。

試算に関する注意:本稿の原価試算は公開されている単価水準・公的統計・設計基準から組み立てた簡易試算であり、実際の建設費・運営費は構造形式、敷地条件、施工時期、委託先との契約内容によって大きく変動します。投資判断にあたっては個別のフィージビリティ・スタディをご検討ください。また推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

宿泊施設数・客室数は運営中施設ベースの自社集計(5道県299市区町村、N=4,570施設・182,492室)。推定成約ADRは2025年9月〜2026年7月の月次値、冬季は2025年12月〜2026年3月の4ヶ月。豪雪地帯・特別豪雪地帯の区分は国土交通省の市町村別指定一覧(令和8年4月1日現在)、垂直積雪量は北海道の公表値、気象は気象庁平年値(1991〜2020年)、建設単価は国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計ID: 0003114490)による。

■ 試算前提

通年稼働率70%(年間販売室数255.5泊/室)を基準とし、感度分析では60〜80%を併記。構造・屋根の割増は特別豪雪地帯+4.5%、豪雪地帯+2.6%。償却年数は構造39年・融雪設備15年。単価は機械除雪2万円/時間、排雪8,000円/4tダンプ1台、ロードヒーティング施工3.5万円/m²・運転2,600円/m²シーズン、建築費165万円/坪。冬季集中回収は12月〜3月の121日で配分している。

■ 限界・留意点

本稿の原価試算は公開単価・公的統計・設計基準から組み立てた簡易試算であり、実際の建設費・運営費は構造形式・敷地条件・施工時期・委託契約によって変動する。推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。暖房度日は月平均気温平年値からの近似値。市域の一部のみが指定される市は、国土交通省の人口集計の扱いに倣い指定区域の集計から分離している。投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要である。

■ 市場データ

■ 指定区域・法令

■ 建築基準・積雪荷重

■ 気象・建設費

■ 除雪・融雪の単価根拠

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