名古屋市交通局が2026年10月2日、名城線の車両工場だった旧名城工場跡地(中区三の丸四丁目)の借受予定者にABホテル株式会社(安城市、証券コード6565)を選んだと発表した。提案は地上9階・延べ約4,802㎡・179室のホテルと飲食店の複合施設で、事業用定期借地の期間は49年11か月、賃料は年額6,600万円(非課税)。2027年に設計・建設に着手し、2029年の開業を目指す。本稿では、この地代が1室あたりいくらの負担になるのかを「土地を買う場合」と比べ、三の丸1km圏の客室ストックを施設単位で棚卸しし、中区の推定成約ADRから必要ADRを試算したうえで、官庁街という立地に宿泊需要があるのかを就業・居住・曜日別稼働のデータで検証する。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- 客室ストック:2026年7〜9月の3か月間に主要予約サイトで価格観測のあった宿泊施設の客室数合計(名寄せ済み、カプセル・民泊・簡易宿所を除く)。
- 掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(価格・在庫)、国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価・用途地域・駅乗降客数・災害)、国土数値情報(居住人口)、経済センサス(就業)。
- — 1室あたり地代は年36.9万円(1日約1,010円)。年6,600万円・49年11か月の事業用定期借地で、ベースケース売上に対する比率は約8%にとどまる。
- — 累計地代32.9億円は周辺地価水準で評価した取得費11.5億〜39.1億円の中間。損益分岐は約71.6万円/㎡で、評価がこれを上回れば借地の方が割安になる。
- — 三の丸1km圏の現役ストックは5施設603室(2026年7〜9月)。新築179室は圏内を+30%押し上げるが、2km圏67施設12,476室に対しては+1.4%。
- — 利回り8%の必要ADRは¥14,200〜¥16,100。中区の推定成約ADR12か月平均¥10,200を4〜6割上回るが、ABホテル名古屋栄の¥16,000は帯の上限に近い。
- — 中区ビジネスホテルの推定OCCは火〜土で86〜91%(2026年6〜8月平均)。日曜74.1%・月曜78.4%の谷を名古屋城観光と大浴場・ジムの外部開放で埋められるかが焦点。
エグゼクティブサマリー — 地代は1室1日約1,000円、必要ADRは1.4万〜1.6万円
結論を先に述べる。年6,600万円の地代は179室で割ると1室あたり年36.9万円、1日あたり約1,010円に相当し、売上に対する比率は後述のベースケースで約8%にとどまる。土地を取得する場合と比べると、周辺の地価公示水準(25万〜85万円/㎡)で敷地を評価した取得費は11億〜39億円で、49年11か月の累計地代(名目32.9億円)はその中間に収まる。一方で、三の丸1km圏の宿泊施設は5施設603室しかなく、新築179室は圏内ストックを約3割押し上げる規模になる。中区の推定成約ADRは12か月平均で¥10,200(アジア競技大会の2026年9月を除くと¥9,600)であり、利回り8%を狙う必要ADR1.4万〜1.6万円はこれを上回る。ただし、同社が2013年から運営するABホテル名古屋栄の推定成約ADRは12か月平均¥16,000と、すでに中区の中央値を5割以上上回る水準で推移しており、大浴場付き・朝食付きの宿泊特化型という同社の型が名古屋中心部で単価面の支持を得ていることが読み取れる。
公募の結果と貸付条件 — 容積200%のうち使うのは104%、建築面積は敷地の13%
まずは公募の経過を整理したい。名古屋市交通局は2026年4月27日に「旧名城工場跡地活用提案募集」を公表し、5月1日〜6月11日に参加申込み、6月26日〜8月3日に応募書類を受け付けた。9月15日のヒアリングを経て、評価委員5名(不動産鑑定士、大学教授2名、弁護士、税理士)が「計画提案」と「提案賃料価額」の評価点を合計し、最高得点の提案者を借受予定者に選定している。募集の目的として交通局は「資産の有効活用にかかる利益の最大化」と「名古屋城周辺のにぎわいづくりへの寄与」の両立を掲げており、賃料だけでなく、まちへの波及も採点対象になっていた点が公有地活用らしい。基本協定は2026年11月頃を目途に締結される予定だ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 名古屋市中区三の丸四丁目2番1、2番2、2番5の一部(旧名城工場跡地) |
| 敷地面積 | 4,597.87㎡ |
| 用途地域・容積率・建蔽率 | 第二種住居地域・200%・60% |
| 賃貸方式 | 借地借家法第23条に基づく事業用定期借地権(賃借権) |
| 借地期間 | 49年11か月(募集条件は10年以上50年未満で提案) |
| 賃料 | 年額66,000,000円(非課税) |
| 借受予定者 | ABホテル株式会社(愛知県安城市) |
| 提案施設 | 地上9階・延べ約4,802㎡・建築面積約582㎡、ホテル179室とカフェ・飲食店。大浴場とジムは宿泊者以外も利用可 |
| スケジュール | 2026年11月頃 基本協定、2027年 設計・建設着手、2029年 開業目標 |
出典:名古屋市交通局「旧名城工場跡地活用提案募集」「旧名城工場跡地の借受予定者選定について」、建設通信新聞、中日新聞よりホテルバンク編集部作成
提案の規模を敷地条件と照らすと、この計画の余白が見えてくる。容積率200%の敷地に対して延べ床面積4,802㎡は敷地面積比で約104%、つまり法定容積の半分程度しか使っていない。建築面積582㎡は敷地の約13%で、建蔽率60%の上限2,759㎡に対しても小さい。9階建てで塔状にまとめ、残りの敷地を駐車場や外構、にぎわい空間に充てる構成と読める。第二種住居地域は商業地域と違って高さや日影の制約を受けやすいが、名古屋城と官庁街に挟まれた立地で周辺が低層のため、9階という高さは周辺環境との調和を意識した水準といえる。跡地はもともと地下鉄名城線の車両工場だった。
地代の1室あたり負担 — 「土地を買う」場合と比べる
年額6,600万円を179室で割ると、1室あたり年36.9万円、1日あたり約1,010円。敷地面積あたりでは年約14,400円/㎡となる。49年11か月の契約期間で単純合計すると名目で32.9億円に達し、これが「土地を買わずに借りる」対価の総額だ。それでは、同じ敷地を取得した場合はいくらになるのか。国土交通省 不動産情報ライブラリの2026年地価公示・地価調査から、対象地の周辺1.1km以内にある標準地を拾うと、第一種住居地域の清水3丁目が25.4万円/㎡(前年比+2.4%、対象地から約740m)、商業地域の白壁3丁目が49.0万円/㎡(+3.8%)、対象地と同じ第二種住居地域の白壁4丁目が84.5万円/㎡(+5.6%)だった。対象地そのものの公示地点はないため、この3水準で敷地4,597.87㎡を評価したのが次の表である。
| 評価水準 | 単価 | 敷地取得費 | 1室あたり | 地代利回り(6,600万円÷取得費) |
|---|---|---|---|---|
| 清水3丁目(第一種住居地域・公示25.4万円/㎡)水準 | ¥250,000/㎡ | 11.5億円 | ¥6,421,606 | 5.7% |
| 白壁3丁目(商業地域・公示49万円/㎡)水準 | ¥500,000/㎡ | 23.0億円 | ¥12,843,212 | 2.9% |
| 白壁4丁目(第二種住居地域・公示84.5万円/㎡)水準 | ¥850,000/㎡ | 39.1億円 | ¥21,833,461 | 1.7% |
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(2026年地価公示)よりホテルバンク編集部試算。敷地の公示地点はなく、周辺標準地の単価を機械的に適用した参考値
出典:名古屋市交通局、国土交通省 不動産情報ライブラリよりホテルバンク編集部試算
地代利回りは1.7〜5.7%のレンジに入る。公有地の事業用定期借地で地代が土地評価額の数%になるのは一般的で、借り手から見ると取得費の初期負担を避けながら50年近い事業期間を確保できる。1室あたりで見れば、取得なら642万〜2,183万円の土地コストを建設費に上乗せするところを、年36.9万円の地代に置き換える構図といえる。累計地代32.9億円は、白壁4丁目水準の取得費39.1億円には届かず、清水3丁目水準の11.5億円は大きく上回る。つまり、地代と取得費の損益分岐は単価にして約71.6万円/㎡で、対象地の評価がこれを上回る白壁4丁目水準(84.5万円/㎡)なら借地の方が割安、清水3丁目・白壁3丁目水準(25.4万〜49.0万円/㎡)なら名目では取得の方が割安という計算になる。公有地は売却の選択肢がそもそもないため、この比較は「借地条件が市場並みか」を見る目安として読んでほしい。
三の丸1km圏の客室ストック棚卸し — 5施設603室、新築179室で+30%
次に、新築が入る商圏の供給を施設単位で数える。対象地から半径2km以内にある宿泊施設を地理検索で抽出し、2026年7〜9月に主要予約サイトで価格観測があった施設だけを現役として残した。閉館済みの旧ホテルナゴヤキャッスル(跡地にエスパシオ ナゴヤキャッスルが2025年10月開業)やリブランドで重複する登録は名寄せし、カプセルホテル・民泊・簡易宿所は客室の性格が異なるため除外している。その結果、2km圏の現役ストックは67施設12,476室。ただし、その大半は1.5km以遠の錦・栄・伏見に集中しており、対象地から1km以内に限ると5施設603室しかない。
| 距離帯 | 施設数 | 客室数 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 0〜1.0km(三の丸・名古屋城・市役所周辺) | 5 | 603 | 官公庁街。公共系宿泊施設と新旧のキャッスル系が中心 |
| 1.0〜1.5km(丸の内・久屋大通北) | 21 | 3,815 | オフィス街の宿泊特化型が集積 |
| 1.5〜2.0km(錦・栄・伏見) | 41 | 8,058 | 名古屋最大の繁華街。ラグジュアリーから宿泊特化型まで |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年7〜9月に価格観測のある施設、N=67施設)
1km圏の内訳は次の表のとおりで、公共系の宿泊施設と、名古屋城西側のキャッスル系が主役である。宿泊特化型のビジネスホテルはくれたけイン名古屋久屋大通(217室)とホテル・アンドルームス名古屋栄(108室)の2施設にとどまり、どちらも久屋大通寄りの南端に位置する。三の丸の官庁街そのものに宿泊施設はない。新築179室は1km圏ストックに対して+30%の上乗せとなり、商圏の中では存在感のある規模だが、2km圏全体に対しては+1.4%にすぎない。
| 施設名 | 客室数 | 対象地から | 区分 | 開業 |
|---|---|---|---|---|
| ホテル・アンドルームス名古屋栄 | 108 | 820m | ビジネス | 2018年 |
| くれたけイン名古屋久屋大通 | 217 | 888m | ビジネス | 2018年 |
| KKRホテル名古屋 | 106 | 956m | 公共系宿泊 | 1962年 |
| アイリス愛知 | 72 | 972m | シティ | 1994年 |
| エスパシオ ナゴヤキャッスル | 100 | 989m | デラックス | 2025年 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(1km圏・2026年7〜9月に価格観測のある施設)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省 不動産情報ライブラリ(駅別乗降客数2023年度)。円の大きさは客室数、青=対象地、濃紺=1km圏、灰=1〜2km圏
2km圏で開業予定として掲載を確認できる計画は3件287室で、いずれも錦・栄・丸の内側にある。中区錦には2026年6月にコンラッド名古屋(170室)も開業済みで、栄の供給は上位帯・宿泊特化型ともに厚みを増している。一方、三の丸の北側は名古屋城と官庁街、住宅地が続き、1km圏に把握できる開業予定はない。栄・錦の商圏とは、客層も価格帯も分けて考えるべき立地といえる。
| 開業予定(2km圏) | 客室数 | 対象地から | 時期 |
|---|---|---|---|
| ELE Hotel 名古屋栄駅前 | 142 | 1,349m | 2026年10月(掲載確認ベース) |
| BASE LAYER HOTEL UNION NAGOYA SAKAE | 86 | 1,494m | 2027年01月(掲載確認ベース) |
| FAV LUX 名古屋丸の内 | 59 | 1,357m | 2027年04月(掲載確認ベース) |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=3施設)。掲載は開業の数ヶ月前から出るため、今後の掲載で件数は増加する可能性がある
中区ADRと必要ADRの試算 — 12か月平均¥10,200に対し、利回り8%なら1.4万〜1.6万円
中区の推定成約ADRは、2025年10月〜2026年9月の12か月平均で¥10,200(対象87〜89施設)。2026年9月はアジア競技大会の開催で¥16,900まで跳ねているが、これは特殊要因であり、9月を除く11か月平均は¥9,600である。前年同月比では2026年6月が-0.2%、7月が-7.3%、8月が-11.0%と、夏場は前年を下回って推移した。ビジネスホテル区分に絞ると12か月平均¥10,100(対象75〜77施設)、9月を除くと¥9,500で、全体とほぼ同じ水準になる。愛知県全体の12か月平均は¥9,100であり、中区は県平均より1割強高い。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(対象84〜92施設。2026年10〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定)
ここで、同社の既存店が名古屋でどの水準にあるかを確認しておきたい。2013年開業のABホテル名古屋栄(130室)の推定成約ADRは12か月平均¥16,000、9月を除いても¥15,700と、中区中央値を5割以上上回る。愛知県内の既存店も一宮・小牧・岡崎・東海太田川で1.2万〜1.7万円の帯にあり、県平均¥9,100を上回る施設が多い。同社の有価証券報告書(2026年3月期)によれば、全店舗に大浴場を備え、無料朝食(一部店舗は有料)を提供し、既存34店舗の平均稼働率は84.7%、営業利益率は39.8%に達する。駅前や主要インターチェンジ近くのビジネス需要地に絞って出店し、観光特化地域を避けて季節変動を抑える方針も明記されており、三の丸はこの出店基準を官庁街で実践する立地といえる。
| ABホテル既存店(愛知県) | 客室数 | 推定成約ADR 12か月平均 | 9月を除く11か月平均 |
|---|---|---|---|
| ABホテル名古屋栄 | 130 | ¥16,000 | ¥15,700 |
| ABホテル一宮 | 126 | ¥13,400 | ¥13,000 |
| ABホテル小牧 | 128 | ¥12,500 | ¥12,100 |
| ABホテル岡崎 | 132 | ¥16,500 | ¥15,800 |
| ABホテル東海太田川 | 128 | ¥14,500 | ¥14,000 |
| ABホテル豊橋 | 148 | ¥11,100 | ¥10,600 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2025年10月〜2026年9月、各施設の月次推定値の平均)
必要ADRの試算に移る。延べ4,802㎡は約1,453坪に相当し、2025年の建築費水準(RC造202.6万円/坪、S造240.5万円/坪)を当てると建設費は29.4億円〜34.9億円。着工が2027年、工事の中間点を2028年前半と置き、建設費が今後も年5%前後上昇すると仮定し(本稿の想定)、2025年比約13%の上昇を織り込むと33.3億円〜39.5億円となり、1室あたり1,859万〜2,206万円。これにFF&E(家具・什器・備品)を1室150万円で加え、総投資額を36.0億円〜42.2億円と置いた。土地は借地のため取得費はかからず、代わりに年6,600万円の地代が営業費用に乗る。稼働率は同社既存店実績に近い85%、GOP率は本稿の仮定として45%とした(業界一般のGOP率は「30〜40%前後が一つの基準」とされ〈リロホテルソリューションズ〉、45%はそれを上回る前提である)。
| 前提 | 目標NOI | 必要GOP(NOI+地代) | 必要売上 | 必要RevPAR | 必要ADR(通年OCC85%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 目標利回り 6% | 2.2億円〜2.5億円 | 2.8億円〜3.2億円 | 6.3億円〜7.1億円 | ¥9,600〜¥10,900 | ¥11,300〜¥12,800 |
| 目標利回り 8% | 2.9億円〜3.4億円 | 3.5億円〜4.0億円 | 7.9億円〜9.0億円 | ¥12,000〜¥13,700 | ¥14,200〜¥16,100 |
| 目標利回り 10% | 3.6億円〜4.2億円 | 4.3億円〜4.9億円 | 9.5億円〜10.8億円 | ¥14,500〜¥16,600 | ¥17,000〜¥19,500 |
出典:ホテルバンク編集部試算(総投資額36.0億円〜42.2億円、GOP率45%、地代6,600万円/年)。建設費は国土交通省 建築着工統計・archi-book 2025年版、上昇率は本稿の仮定(年5%前後)
利回り8%を狙う必要ADRは¥14,200〜¥16,100。中区の12か月平均¥10,200を基準にすると4〜6割高い水準だが、ABホテル名古屋栄の実績¥16,000はこの帯の上限に近い。つまり、同社の既存店が栄で獲得している単価を三の丸でも再現できれば、建設費高騰後の水準でも8%前後の利回りが視野に入る計算になる。利回り6%で足りると考えるなら必要ADRは¥11,300〜¥12,800まで下がり、中区ビジネスホテルの平常月水準に近づく。感度を確認しておくと、ADR15,000円・通年OCC85%のベースケース(総投資39.1億円)では利回り7.9%、ADRが1割下がると6.9%、OCCが5pt下がると7.3%、両方なら6.4%である。地代は売上比7.9%で、固定費としての重さは限定的だ。
| 感度分析(総投資39.1億円) | 売上 | GOP | NOI(GOP−地代) | 利回り |
|---|---|---|---|---|
| ベースケース(ADR 15,000円・通年OCC 85%) | 8.3億円 | 3.7億円 | 3.1億円 | 7.9% |
| ADR −10%(13,500円) | 7.5億円 | 3.4億円 | 2.7億円 | 6.9% |
| OCC −5pt(80%) | 7.8億円 | 3.5億円 | 2.9億円 | 7.3% |
| 両方 | 7.1億円 | 3.2億円 | 2.5億円 | 6.4% |
出典:ホテルバンク編集部試算。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です
感度を2軸で広げたのが次の表である。ADRを1.3万〜1.7万円、通年OCCを70〜90%で動かし、総投資39.1億円・GOP率45%・地代6,600万円を固定して利回りを算出した。利回り8%に届くのは、通年OCC85%ならADR約1.52万円以上、OCC80%なら約1.61万円以上、OCC90%なら約1.43万円以上の組み合わせである。ABホテル名古屋栄の推定成約ADR¥16,000をそのまま当てはめると、通年OCC80%で7.9%、85%で8.5%となり、既存34店舗の平均稼働率84.7%(2026年3月期)に近い稼働を確保できるかが8%の分かれ目になる。
| ADR \ 通年OCC | 70% | 75% | 80% | 85% | 90% |
|---|---|---|---|---|---|
| ADR 13,000円 | 5.2% | 5.6% | 6.1% | 6.6% | 7.1% |
| ADR 14,000円 | 5.7% | 6.2% | 6.7% | 7.3% | 7.8% |
| ADR 15,000円 | 6.2% | 6.8% | 7.3% | 7.9% | 8.5% |
| ADR 16,000円 | 6.7% | 7.3% | 7.9% | 8.5% | 9.1% |
| ADR 17,000円 | 7.3% | 7.9% | 8.5% | 9.2% | 9.8% |
出典:ホテルバンク編集部試算(売上は客室売上のみ・179室×365日。太字=利回り8%以上、枠=ベースケース)。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADRが算出できる64施設。濃紺=1km圏、青=1〜1.5km、灰=1.5〜2km。枠=新築179室の必要ADR帯・利回り8%)
ポジショニングマップでは、2km圏の中央値が¥8,600で、1万円未満に施設が密集する。1.2万〜1.7万円の帯にあるのは、西鉄ホテル クルーム名古屋やドーミーインPREMIUM名古屋栄、グレイスイン名古屋など大浴場や朝食で付加価値を付けた施設が中心で、新築179室の必要ADR帯はこの「付加価値型の宿泊特化」のゾーンと重なる。1km圏ではホテル・アンドルームス名古屋栄が¥12,600でこの帯に入っており、三の丸でもデザイン性や大浴場を備えた宿泊特化型が単価面で受け入れられる余地があることを示している。
官庁街に宿泊需要はあるか — 就業3.7万人、名古屋城238万人、火〜金の稼働86〜91%
最後に、立地の需要構造を数字で確かめる。対象地から半径1km圏の民営事業所は3,225か所、従業者は37,395人で、うちオフィス系の比率は29.5%(経済センサス2021)。なお経済センサスは国・地方公共団体の官公署を対象としないため、県庁・市役所・裁判所など三の丸に集まる公務員はこの数字に含まれていない。実際の就業人口はこれを上回るとみてよい。鉄道は名城線の名古屋城駅(対象地から約280m)が1日乗降42,618人(2023年度)、名鉄瀬戸線の東大手駅(約190m)が4,415人、名城公園駅(約650m)が12,302人で、栄から名城線で2駅の距離にある。
居住人口は1km圏で21,934人(2025年)、生産年齢人口が68.5%、高齢者比率は20.1%で、2040年には22,162人(+3.4%)まで微増が見込まれる。都心部としては人口が減らないエリアで、白壁など名古屋城東側の住宅地が圏内に入る。ホテルにとって居住人口は直接の宿泊需要ではないが、大浴場とジムを宿泊者以外に開放する今回の計画では、地元住民の日常利用が稼働の底を支える要素になる。
出典: 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)。居住人口(国勢調査ベース)であり、滞在・通過人口ではない
観光面では、名古屋城の2025年度(令和7年度)入場者数が2,387,217人(うち外国人664,833人)と、世界デザイン博覧会があった1989年度に次ぐ史上2位を記録した。前年度の2,234,976人から15万人増え、2023年度以降は3年連続で200万人を超えている。愛知県の2025年の延べ宿泊者数は2,275万人泊(前年比+6.7%)、うち外国人は486万人泊(+24.4%)で、客室稼働率はビジネスホテルが75.4%(全国11位)、全体で69.2%(全国4位)だった(観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値)。
では、官庁街の宿泊需要は平日型なのか。中区のビジネスホテルの推定OCC(OTA掲載在庫ベース・対象44〜46施設・8,362〜8,550室)を2026年6〜8月の平常月で曜日別に平均すると(愛知県全体の9月の曜日別分析も参照)、木曜が91.1%で最も高く、水曜89.2%、金曜88.6%、土曜88.0%、火曜86.3%と続き、月曜78.4%、日曜74.1%が谷になる。火曜から土曜までが86〜91%で平坦なのに対し、日曜と月曜だけが10pt以上低い形で、出張需要と週末のレジャー需要が両方乗る都心型の曲線といえる。三の丸はこのうち出張需要に近い立地であり、同社が得意とする平日の業務客に加えて、名古屋城観光の週末需要と、大浴場・ジム・飲食の外部開放によるナイトタイムエコノミーが日曜・月曜の谷を埋める候補になる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(対象44〜46施設・8,362〜8,550室。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります)
まとめ — 公有地借地×宿泊特化型の成立条件
ここまでを整理すると、旧名城工場跡地の計画は「取得費ゼロ・地代は売上比約8%」という借地条件と、「1km圏に603室しかない」供給の薄さを土台に、同社の既存店が栄で実現している1.5万円前後の単価を官庁街で再現できるかに事業性がかかっている。必要ADR1.4万〜1.6万円(利回り8%)は中区中央値より高いが、大浴場付き・朝食付きの宿泊特化型が2km圏で1.2万〜1.7万円の帯を形成している事実は、この価格帯に需要があることの傍証になる。ナイトタイムエコノミーを掲げて大浴場とジムを開放する提案は、官庁街の夜間人口の薄さを逆手に取り、周辺住民と出張客の両方から収益機会を取りに行く設計といえる。
| リスク要因 | 評価 | 根拠 |
|---|---|---|
| 災害リスク | 限定的 | 対象地は洪水浸水想定区域(想定最大規模)の対象外、地形分類は「液状化しにくい」台地(国土交通省 不動産情報ライブラリ) |
| 規制 | 限定的 | 第二種住居地域はホテル建築が可能。容積消化率は約104%で建築計画に余裕がある |
| 建設費 | 中 | 2027年着工時点で2025年比+13%前後の上昇を織り込み済み。上振れすれば必要ADRは比例して上がる。一方で建設費の高止まりは周辺の新規供給を抑える要因でもある |
| 需要 | 中 | 平日は出張需要が厚い一方、日曜・月曜に10pt超の谷。名古屋城観光と施設開放で平準化できるかが焦点 |
| 競合供給 | 限定的 | 1km圏に開業予定の掲載なし。2km圏の計画3件287室は錦・栄・丸の内側 |
出典:ホテルバンク編集部作成
開業は2029年と3年先であり、建設費・金利・名古屋中心部の供給動向によって前提は動く。ただ、年6,600万円の地代が1室1日1,000円程度に収まるという事実は変わらず、公有地の事業用定期借地が宿泊特化型のホテル開発と相性のよい枠組みであることを、この案件は改めて示している。同じ公有地活用でも、神戸市役所2号館の上層にコンラッド神戸が入る案件とは、取得対象(床か土地か)も価格帯も異なる。両者を並べて読むと、自治体が「にぎわい」を条件に土地や床を貸す際に、宿泊特化型と上位ブランドのどちらが応募しやすいかの輪郭が見えてくる。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年10〜12月のADRは調査時点でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前に下落する可能性がある点にご留意ください。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
価格・在庫はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(推定成約ADR:中区87〜89施設・ビジネスホテル75〜77施設・愛知県495〜512施設、2025年10月〜2026年9月/推定OCC:中区ビジネスホテル44〜46施設、2026年6〜8月/客室ストック:対象地2km圏で2026年7〜9月に価格観測のあった67施設)。地価・用途地域・駅乗降客数・災害は国土交通省 不動産情報ライブラリ、居住人口は国土数値情報、就業は経済センサス-活動調査(2021年)、貸付条件は名古屋市交通局の公表資料による。
■ 試算前提
延べ4,802㎡(約1,453坪)に2025年の構造別坪単価(RC造202.6万円・S造240.5万円)を当て、建設費の上昇を年5%前後(本稿の仮定、2025年比約13%)として織り込み、FF&E 1室150万円を加えた総投資36.0億円〜42.2億円。稼働率は通年85%、GOP率45%(本稿の仮定)、売上は客室売上のみ(179室×365日)、地代6,600万円/年を営業費用として控除し、NOI÷総投資を利回りとした。
■ 限界・留意点
推定成約ADR・推定OCCはOTA公開情報に基づく推定値で、各施設の実績とは異なる。敷地取得費は対象地に公示地点がないため周辺標準地の単価を機械的に適用した参考値。税金・保険・修繕積立・金利・付帯収入は考慮しておらず、開業は2029年のため建設費・金利・周辺供給の変化で前提は動く。
■ 公募・選定資料
- 名古屋市交通局「旧名城工場跡地の借受予定者選定について」(2026年10月2日)
- 名古屋市交通局「旧名城工場跡地活用提案募集」(2026年4月27日)
- 名古屋市交通局 お知らせ「旧名城工場跡地の借受予定者選定について」(賃料価額 年額66,000,000円・非課税)
- 中日新聞Web「名城線車両基地だった旧名城工場跡地にホテル建設へ 2029年開業目指す」(2026年10月7日)
- 建設通信新聞「【名古屋市】ABホテルが複合施設提案、旧名城工場跡地借受予定者」
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(中区・愛知県・施設別)、推定OCC(OTA掲載在庫ベース)、客室ストック(2km圏67施設)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 2026年地価公示・地価調査、用途地域、駅別乗降客数(2023年度)、洪水浸水想定区域、地形分類(液状化傾向)
- 国土交通省 国土数値情報「250mメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査(2021年)」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)
- 名古屋市「名古屋城 令和7年度 年間入場者数(確定値)」(2026年4月30日)
- 国土交通省「建築着工統計」/archi-book 2025年版 構造別坪単価
■ 企業情報・業界レポート
- ABホテル株式会社 有価証券報告書(2026年3月期)事業の内容・経営方針
- リロホテルソリューションズ「GOPPAR」(GOP率の業界一般水準)
- ヒルトン「会社概要」(2026年8月25日更新・報道資料) — コンラッド名古屋(170室・2026年開業)、コンラッド神戸(136室・2030年開業予定)
