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国民宿舎・休暇村136施設マップ2026|冬の単価は近隣旅館より16%低い

投稿日 : 2026.09.11

指定なし

投資・開発

国民宿舎・休暇村136施設マップ2026|冬の単価は近隣旅館より16%低い

全国の市町村や公的団体が保有してきた宿泊施設 ——「休暇村」「国民宿舎」、そして旧年金・雇用関連の保養施設を出自とする「サンピア」「グリーンピア」「保養センター」—— は、いまも観光地の一等地にまとまった客室を抱えている。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが施設名から抽出したところ、稼働が確認できる登録は136施設・5,297室(客室数は下限値)。本稿では、この公的宿ストックを都道府県別にマッピングしたうえで、各施設の推定成約ADRを同一市町村の旅館カテゴリ中央値と突き合わせ、運営移管・リブランドで開く単価のアップサイドを、前提をすべて開示したうえで控えめに試算する。

Key Takeaways
  • 136施設・5,297室が41都道府県に分散。兵庫345室・岩手319室・静岡279室が上位で、東京は八丈島の10室のみ。景勝地立地に偏るストック構造。
  • — 推定成約ADRの中央値は¥10,700(78施設)。同一市町村の旅館中央値と比べ、直近12ヶ月のうち10ヶ月で下回った。
  • — 季節で非対称。11〜4月は平均−16.5%、盛夏(7〜8月)は+2.4%。更新余地は冬季と端境期の価格設計に集中する。
  • — 改修投資を受けた施設は市場を大きく上回る。休暇村紀州加太は市町村中央値の2.7倍、国民宿舎大城は2.1倍
  • — 単価ポジションの改善だけで年間1.7億〜4.9億円(1室あたり4.7万〜13.5万円)。稼働改善・宿泊外収益は含まない控えめな試算。
全国の公的宿ストック
136施設
5,297室・名称抽出ベース
直近3ヶ月に掲載確認
95施設
4,136室
推定成約ADR算出可
78施設
3,595室・価格分析の母集団
11〜4月の単価ポジション
−16.5%
同一市町村の旅館中央値比
7〜8月の単価ポジション
+2.4%
同一市町村の旅館中央値比

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格=OTA等に公開されている全プランの平均(2名1室利用時の1室あたり料金・税込)。素泊まりから食事付きまでを含むため、推定成約ADRより高い水準になります。
  • OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本記事の試算では観光庁「宿泊旅行統計調査」の旅館の全国客室稼働率を前提値として用いています。
  • データ出典=メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/観光庁「宿泊旅行統計調査」/各自治体・運営団体の公表資料。

この記事が数えたもの — 136施設・5,297室という母集団の作り方

公的宿ストックには全国を横断する単一の名簿が存在しない。休暇村は一般財団法人休暇村協会、公営国民宿舎は各自治体と一般社団法人国民宿舎協会、旧サンピア・グリーンピアは自治体や民間の承継先へと、管理主体が分かれているためだ。そこで本稿では、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが追跡する国内約168,000施設のマスターから、施設名に「休暇村」「国民宿舎」「サンピア」「グリーンピア」「保養センター」を含み、稼働扱いで登録されている記録を抽出した。

公的宿ストックのグループ別 施設数・客室数・推定成約ADR中央値(N=136施設)
グループ施設数客室数(下限値)うち直近3ヶ月に掲載確認推定成約ADR中央値
休暇村372,194室35施設 / 2,130室¥13,900
国民宿舎731,936室45施設 / 1,252室¥8,900
サンピア・グリーンピア・保養センター等261,167室15施設 / 754室¥9,800
合計1365,297室95施設 / 4,136室¥10,700

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(名称抽出ベース、N=136施設)。推定成約ADRは直近12ヶ月(2025年9月〜2026年8月)の施設別平均の中央値、N=78施設

この数え方には、読者が結果を再現できるように開示しておくべき前提が4つある。

母集団に関する4つの前提
名称抽出であるため、表記ゆれ・別館・同名の別施設を含みうる。「休暇村」を含む37件のうち、一般財団法人休暇村協会が運営するのは公式サイト上35施設であり、抽出結果には富士緑の休暇村(山梨県鳴沢村)、中札内農村休暇村フェーリエンドルフ(北海道中札内村)、おんたけ休暇村セントラルロッジ(長野県王滝村)、ホタルの里休暇村(宮崎県延岡市)といった、協会運営ではない「〜休暇村」名称の施設が含まれる。
公式情報で閉館が確認できた記録は除外した。抽出時点では休暇村雲仙(長崎県雲仙市)が名称データとして残っていたが、休暇村協会の公表どおり2021年3月31日で営業を終えているため、上表の136施設からは外している。
客室数は下限値である。マスター上の客室数が未更新の施設があり、たとえば国民宿舎松代荘(長野市)は2021年2月の全館リニューアルで新館を増築し、長野市の公表では総44室だが、当社マスターには改修前の35室が残っている。合計5,297室は「少なくともこれだけはある」という下限として読んでいただきたい。
公営国民宿舎と民営国民宿舎が混在する。一般社団法人国民宿舎協会のガイドブック2025年度版に掲載された公営国民宿舎は42軒(2023年時点は51軒)であり、当社抽出の73件には、かつて公的施設だったものが民間に承継されて名称だけを残しているケースが相当数含まれる。本稿はこの両方を「公的宿ストックの現在地」として一体で扱う。

全国マップ — 兵庫・岩手・静岡・広島に集中、41都道府県に分散するストック

136施設は41都道府県に分布する。客室数でみると兵庫県345室(7施設)、岩手県319室(6施設)、静岡県279室(6施設)が上位に並び、広島県245室(7施設)、新潟県245室(4施設)が続く。それでは大都市圏に厚いのかというとそうではなく、東京都は八丈島の10室のみ、大阪府・京都府・神奈川県・愛知県の都心部には該当がない。国民休暇村制度も国民宿舎制度も、自然公園や海岸・湖沼といった景勝地に国民の保養拠点を置くという発想で整備されてきたためで、その立地方針が半世紀を経た現在のストック分布にそのまま刻まれている。

休暇村 国民宿舎 サンピア・グリーンピア・保養センター等 円の大きさ=客室数

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=136施設)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(名称抽出ベース、N=136施設・5,297室)

グループごとに性格が違う点も押さえておきたい。休暇村は1施設あたり平均59室と規模が大きく、37施設で2,194室を占める。国民宿舎は73施設で1,936室、1施設あたり27室と小ぶりで、市町村単位の小規模施設が全国に薄く広がる構造だ。サンピア・グリーンピア系は26施設で1,167室、1施設あたり45室。全国2,839か所の温泉地に13,425軒の温泉宿が分布することを踏まえれば、公的宿ストックの5,297室は量として支配的ではない。しかし温泉地・国立公園内の限られた立地に、まとまった客室と大浴場・食堂という設備を持つ物件が確保されている点に、このストック固有の価値がある。

単価のポジション — 直近12ヶ月のうち10ヶ月で近隣旅館の中央値を下回る

ここからが本題である。公的宿ストックの単価は、いま市場のどこに位置しているのか。比較の基準には同一市町村・旅館カテゴリの推定成約ADR中央値を用いた。都道府県平均では有名温泉地に引きずられるため、施設が実際に競合している市町村単位まで降ろし、さらに業態を旅館にそろえることで、2食付きが標準という食事条件の差も揃えている。集計対象は、当社が推定成約ADRを算出でき、かつ同一市町村に旅館カテゴリの施設が3軒以上ある78施設・3,595室である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(公的宿ストック N=74〜78施設/同一市町村の旅館 N=40〜42市町村・月次)

季節の輪郭がはっきり出る。2026年は1月−18.4%、2月−16.7%、3月−17.4%、4月−15.0%と、冬から春にかけて近隣旅館の中央値を15〜18%下回る一方、8月は+9.3%と市場を上回った。2025年も7月+7.6%、8月+4.6%と同じ形で、盛夏(7〜8月)は平均+2.4%、11〜4月は平均−16.5%という明確な非対称がある。公的宿ストックは、家族連れの夏休み需要が集中する繁忙期には近隣旅館と同等以上の単価を取れており、集客力そのものは実証されている。伸びしろがあるのは、市場全体が値を上げていく冬季と端境期の価格設計のほうだ。

断面でも同じ傾向が確認できる。直近12ヶ月の施設別平均で見ると、44施設のうち26施設が同一市町村の旅館中央値を下回り、全体の中央値は−5.5%。グループ別では休暇村−3.0%(N=17)、国民宿舎−12.1%(N=18)、サンピア・グリーンピア系+6.6%(N=9)だった。月次でみれば、直近12ヶ月のうち10ヶ月で下回っており、下回った月の平均差額は1室・1泊あたり約1,600円である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=78施設、円の大きさは口コミ件数)

客室規模と単価の散布図を見ると、公的宿ストックの大半が20〜80室・推定成約ADR ¥5,000〜15,000のレンジに密集している。この帯は、投資家の目線でいえば「規模の経済が効きはじめる客室数を持ちながら、単価が市場の中位以下にとどまっている」領域にあたる。一方、¥18,000を超える位置には休暇村乳頭温泉郷(秋田県仙北市・38室)、休暇村紀州加太(和歌山市・72室)、国民宿舎ホテル高千穂(宮崎県高千穂町・39室)といった施設が抜け出しており、同じ制度出自でも単価のレンジが3倍以上に開いている。この差が何によって生まれているのかが、次章の論点になる。

なお、宿泊者からの評価という点では、このストックは市場と遜色ない水準にある。口コミ50件以上の113施設の総合評価中央値は4.05、国民宿舎に限れば4.12で、当社が集計する旅館カテゴリの都道府県別平均(3.92〜4.36)のレンジに収まる。設備と接客の満足度は確保されており、単価との間に開きがあるという構図だ。
出典:ホテルバンク編集部調べ(口コミ50件以上の113施設)

市場を上回る施設に共通するもの — 改修投資から10年、単価は近隣の2倍超へ

同一市町村の水準を大きく上回っている施設を並べると、共通項が見えてくる。上位に立つのは、いずれも過去10年以内にまとまった改修投資を受けた施設である。改修で残すか建て替えるかという判断の枠組みそのものは、旧耐震ホテル23.6万室の分岐点で整理している。

同一市町村の推定成約ADR中央値を上回る施設 上位10件(直近12ヶ月)
施設(所在地・客室数)推定成約ADR同一市町村の中央値口コミ評価直近の投資・特徴
休暇村 紀州加太(和歌山市・72室)¥20,200¥7,500+170.7%4.57(N=4,567)2016年7月リニューアル。展望露天風呂・シルキー湯を新設し2浴場体制へ
国民宿舎 大城(山口県下松市・37室)¥13,200¥6,300+110.5%4.44(N=2,298)2016年リニューアル。笠戸島の全室オーシャンビュー
国民宿舎 千畳苑(島根県浜田市・31室)¥14,000¥7,100+97.1%4.53(N=1,828)日本海を望む高台立地
国民宿舎サンライズ九十九里(千葉県九十九里町・94室)¥17,400¥9,200+89.0%4.21(N=3,456)海岸沿いの大規模ストック
休暇村 乳頭温泉郷(秋田県仙北市・38室)¥21,200¥12,800+66.0%4.47(N=3,288)乳頭温泉郷の一角。露天風呂・泉質の言及が多い
休暇村 大久野島(広島県竹原市・65室)¥12,200¥7,600+60.2%4.19(N=6,399)島全体が観光資源。口コミ件数はストック内最多
国民宿舎ホテル高千穂(宮崎県高千穂町・39室)¥24,900¥16,200+54.2%4.35(N=2,084)高千穂峡観光の中心立地
国民宿舎 サンロード吉備路(岡山県総社市・39室)¥12,900¥8,500+53.1%4.31(N=3,383)飲み放題プランへの言及が21.6%と高い
国民宿舎 松代荘(長野市・35室※)¥14,600¥11,200+30.5%4.52(N=2,214)2021年2月全館リニューアル。事業費7,958万7千円、新館増築・浴場拡張
ニュー・グリーンピア津南(新潟県津南町・146室)¥16,300¥13,800+17.8%2.60(N=2,959)ストック内最大規模。2025年に民間譲渡の基本協定を締結

※松代荘の客室数は当社マスター値。長野市の公表では改修後44室。ADRは直近12ヶ月(2025年9月〜2026年8月)の平均、100円単位で丸め。比較基準は同一市町村・全業態の推定成約ADR中央値(施設数3以上)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、口コミ評価はホテルバンク編集部調べ

休暇村紀州加太は2026年7月にリニューアル10周年を迎えた。改修では屋外に展望露天風呂とシルキー湯を新設し、「紀淡」「天守」の2浴場を男女日替わりで運用する体制に切り替えている。宿泊者口コミ780件(直近24ヶ月)を解析すると、食事への言及が41.8%(うち肯定300件/326件)、客室からの眺望が30.6%(肯定239件/239件)、浴場からの眺望が20.3%(肯定158件/158件)と、改修で作り込んだ要素がそのまま評価の軸になっている。和歌山市全体の推定成約ADR中央値が¥7,500(N=44施設)であるのに対し、この施設は¥20,200。同じ市場のなかで2.7倍の位置を取れている。

国民宿舎大城も2016年のリニューアルから10周年を迎え、2026年は記念企画を展開している。全室オーシャンビューという構成を活かし、下松市の中央値¥6,300に対して¥13,200と2.1倍。長野市の松代荘は、2018年11月から2021年3月にかけて総事業費7,958万7千円の改修事業を実施し、宿泊用客室の新館増築と日帰り温泉浴場の拡張を行った。改修後の推定成約ADRは¥14,600で、長野市の旅館中央値¥13,200を10.6%上回る。口コミでは温泉の泉質への言及が22.0%を占め、「黄金の湯」という商品軸が明確に立っている。

つまり、公的宿ストックの単価レンジが3倍に開いている主因は立地の優劣ではなく、設備更新の有無と、更新で作った商品軸を価格に翻訳できているかどうかにある。上場ホテルREIT5社のIR開示から集計した資本的支出は1室あたり年13万〜62万円で、松代荘の事業費を客室数で割った水準(44室で約181万円/室)は、REITの大規模修繕サイクル1回分に相当する。改修投資と単価ポジションの対応関係は、投資判断のうえで再現性のある指標として使える。

運営移管の実例5件 — 掲載が止まった施設は、次の姿を準備している

本稿の抽出136施設のうち、直近3ヶ月(2026年6月以降のチェックイン日)にOTA等での掲載が確認できたのは95施設だった。残る41施設について、掲載が確認できないことを営業状態の証拠として扱うことはできない。公式サイト中心の直販運用に切り替えている場合もあれば、改修のための休館、あるいは運営移管の手続き期間にあたる場合もあるためだ。実際に公表資料を追うと、掲載が途絶えた時期と、自治体が民間活用の手続きに入った時期が重なる例が繰り返し確認できる。企業が保有してきた保養所についても取得原価の優位が利回りにどこまで乗るかは、企業保養所コンバージョンの投資経済性で温泉・高原5エリアを対象に試算している。

公的宿ストックの運営移管・再投資の実例5件(公表資料ベース)
施設(自治体・規模)公表されている経緯当社データでの掲載最終確認
国民宿舎サンホテル衣川荘
岩手県奥州市・48室
2020年9月に市営施設としての営業を終了。2022年7月に公募型プロポーザルで民間へ譲渡され、約3年の改修を経て2025年4月25日に「奥州・平泉温泉旅館 ITSUMU(衣紡)」として42室で開業。宿泊料は1名1泊2食付き税抜26,000〜35,000円2020年11月
国民宿舎虹の松原ホテル
佐賀県唐津市・58室
2023年から静岡県の民間事業者ヴィレッジインクが「虹の松原ホテル The Beach」として運営し、2024年度は単年度収支が黒字に。唐津市は2025年8月まで民間譲渡に向けたサウンディング型市場調査を実施し、同年秋以降の公募を予定2023年3月
ニュー・グリーンピア津南
新潟県津南町・146室
2025年5月に土地・建物の売却方針を公表。入札に2社が応札し、7月にイントランス(東京都渋谷区)へ優先交渉権を付与。町民説明会を経て10月10日に再生に向けた基本協定を締結掲載継続中
国民宿舎赤とんぼ荘
兵庫県たつの市・18室
宿泊休止中の施設について、指定管理者制度・建物売却・Park-PFIの導入まで含めた民間活力導入のサウンディング型市場調査を実施。事業期間は最長20年間を想定2021年3月
休暇村那須
栃木県那須町・56室
1972年に那須国民休暇村として開業。52年の営業を経て2025年6月30日で一旦営業を終了し、7月1日から建替え工事に着手。2027年秋頃のリニューアルオープンを予定(休暇村協会による自主再投資)2025年6月

出典:各自治体・運営団体の公表資料および報道(詳細は記事末尾の出典一覧)/掲載最終確認はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング

5件を並べると、公的宿ストックの更新には少なくとも3つの型があることが分かる。第一に、所有権ごと民間へ移す譲渡型(奥州市・津南町)。第二に、所有は自治体に残したまま運営を民間に委ねる指定管理・運営委託型で、そこから譲渡へ進む段階的な移行(唐津市)。第三に、運営団体自身による建替え・再投資型(休暇村那須)である。たつの市のように、指定管理・売却・Park-PFIを並べて市場に意見を求める段階から始めるケースもあり、Park-PFIの20年許可を前提とした必要ADRの水準と突き合わせて検討する余地は広い。

単価の面で示唆的なのが奥州市のITSUMUだ。旧衣川荘48室を42室に減らしたうえで、1名1泊2食付き税抜26,000〜35,000円という価格帯で再出発している。2名1室に換算すれば1室あたり税抜52,000〜70,000円で、当社が集計する公的宿ストックの推定成約ADR中央値(¥10,700)とは異なるレンジの商品だ。もっとも、これは3年をかけた全面改修と客室数の絞り込み、ブランドの作り直しをすべて行った結果であり、既存ストックにそのまま当てはめられる数字ではない。新規開業ホテルのADRが安定するまでの期間は中央値2ヶ月という実測もあるが、リブランド案件では商品設計の作り込み度合いによって立ち上がり方が変わる点に留意したい。

アップサイド試算 — 年間1.7億〜4.9億円、1室あたり4.7万〜13.5万円

最後に、運営移管や設備更新によって単価ポジションが動いた場合のアップサイドを試算する。恣意性を避けるため、前提はすべて開示し、控えめなレンジで示す。

アップサイド試算の前提一覧(対象78施設・3,595室)
前提項目設定値根拠
対象施設78施設・3,595室推定成約ADRが算出できた施設。名称抽出136施設のうち、掲載・価格の両方が観測できる範囲に限定
単価の基準同一市町村・旅館カテゴリの推定成約ADR中央値都道府県平均では有名温泉地の影響を受けるため市町村単位に限定。業態を旅館にそろえ食事条件の差を吸収
対象月直近12ヶ月のうち基準を下回った10ヶ月2025年9月〜2026年8月。基準を上回った2ヶ月(2025年10月・2026年8月)は加算しない
差額下回った月の平均で1室・1泊あたり約1,600円月次中央値どうしの差。11〜4月は−16.5%、7〜8月は+2.4%
差額の消化率25% / 33% / 50%基準に完全に追いつく前提は置かず、部分的な接近のみを見込む
稼働率38.4% / 45% / 55%38.4%は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報)の旅館・全国客室稼働率。45%・55%は改修後の想定として付記

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年年間値・速報値)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(対象78施設・3,595室、稼働率は観光庁統計に基づく前提値)

アップサイド試算 差額消化率 × 稼働率 の3×3感度(年間増収額)
シナリオ2025年通年 稼働率38.4%
観光庁・速報値/2026年2月公表
通年 稼働率45%
改修後の想定
通年 稼働率55%
改修後の想定
差額の25%を消化+1.70億円+1.99億円+2.43億円
差額の33%を消化+2.24億円+2.63億円+3.21億円
差額の50%を消化+3.40億円+3.98億円+4.87億円

78施設・3,595室の合計。年間ベース。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

最も控えめな組み合わせ(観光庁2025年通年・速報値〈2026年2月公表〉の稼働率38.4%、差額の25%のみ消化)でも年間1.70億円、中位の組み合わせ(改修後の想定である通年の稼働率45%、33%消化)で2.63億円、上限側で4.87億円。1室あたりに直すと年間4.7万円〜13.5万円のレンジになる。前章で見たREITの資本的支出(1室あたり年13万〜62万円)と並べると、単価ポジションの改善だけで、更新投資の年間負担のうち軽い側は概ねまかなえる計算になる。

この試算が含んでいないもの
・稼働率の改善効果(単価のみを動かした前提であり、リブランドによる稼働の上昇は加算していない)
・日帰り入浴・宴会・レストランなど宿泊外収益(公的宿ストックは大浴場と食堂を備える施設が多く、実務上は無視できない収益源)
・改修費用、運営体制の切替コスト、休館期間中の機会損失
・掲載が確認できなかった41施設(このうち稼働可能なストックが再稼働すれば母数は増える)
いずれも上振れ・下振れの両方向に効くため、実際の投資判断では個別のフィージビリティ・スタディが必要になる。

まとめ — 更新余地は「冬の価格設計」と「商品軸の再定義」にある

全国136施設・5,297室の公的宿ストックを、都道府県別の分布と単価ポジションの両面から見てきた。要点は3つに整理できる。

第一に、集客力はすでに実証されている。盛夏(7〜8月)の推定成約ADRは同一市町村の旅館中央値を平均+2.4%上回り、口コミ総合評価の中央値は4.05と市場水準に並ぶ。景勝地の一等地にまとまった客室と大浴場を持つという立地・設備の優位は、いまも機能している。

第二に、更新余地は冬季と端境期の価格設計に集中している。11〜4月の単価ポジションは平均−16.5%で、市場全体が値を上げていく局面での追随が穏やかだ。裏を返せば、需要期を軸にした年間の価格カーブを引き直すだけで、設備投資を伴わない改善余地が残っている。客層ミックスから値決めを組み直すアプローチは、ファミリー比率の高い公的宿ストックとの相性がよい。

第三に、設備更新を受けた施設は単価が2倍以上に開く。休暇村紀州加太(2016年改修)は市町村中央値の2.7倍、国民宿舎大城(2016年改修)は2.1倍、国民宿舎松代荘(2021年改修・事業費約8,000万円)は近隣旅館を10.6%上回る。改修で作った商品軸——展望露天風呂、全室オーシャンビュー、泉質——がそのまま口コミの言及軸になり、価格に翻訳されている。国内ホテル客室の64.5%が2006年以前の開業という築年構成のなかで、公的宿ストックの更新は業界全体の設備更新テーマの一部として位置づけられる。

運営移管の実務は、譲渡型(奥州市・津南町)、運営委託から段階的に移行する型(唐津市)、運営団体による自主再投資型(休暇村那須)と多様化しており、Park-PFIを含めた選択肢の提示から始める自治体も出てきている。掲載が途絶えた41施設は「消えたストック」ではなく、多くが次の姿を準備している段階にある。景勝地の一等地に確保された5,297室は、これから数年をかけて市場に戻ってくる供給として、投資・開発の側から追う価値がある。

⚠ データの観測時点について:本記事の推定成約ADRは2026年8月時点で確定している月次データに基づく推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。また、施設の掲載状況は各施設の販売方針により日々変動します。掲載が確認できないことは営業状態を示すものではなく、個別施設の営業状況は必ず各施設の公式発表をご確認ください。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが追跡する国内約168,000施設の宿泊施設マスターから、施設名に「休暇村」「国民宿舎」「サンピア」「グリーンピア」「保養センター」を含み稼働扱いで登録されている記録を抽出(N=136施設・5,297室)。価格は各施設のOTA公開価格の履歴(2024年1月〜2026年8月)から推定成約ADRを算出(N=78施設)。比較基準となる市町村別・業態別の推定成約ADR中央値は同一期間の市町村単位集計(旅館カテゴリ N=40〜42市町村)。稼働率の前提値は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年通年・速報値。口コミは直近24ヶ月の宿泊者評価および言及タグ解析(ホテルバンク編集部調べ)。運営移管の事例は各自治体・運営団体の公表資料および報道による。

■ 試算前提

対象は推定成約ADRを算出できた78施設・3,595室。差額は直近12ヶ月(2025年9月〜2026年8月)のうち同一市町村の旅館中央値を下回った10ヶ月の平均(1室1泊あたり約1,600円)で、上回った2ヶ月(2025年10月・2026年8月)は加算しない。差額の消化率25%/33%/50%と、観光庁2025年通年・速報値(2026年2月公表)の稼働率38.4%、および改修後の想定である通年の稼働率45%・55%を掛け合わせた3×3で年間増収額を算出。単価のみを動かした前提であり、リブランドによる稼働の上昇は加算していない。

■ 限界・留意点

母集団は施設名からの抽出であるため、表記ゆれ・別館・同名の別施設を含みうる。マスター上の客室数が未更新の施設があるため、合計5,297室は下限値。公営国民宿舎と民営国民宿舎が混在する。推定成約ADRはOTA公開価格からの推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%)。掲載が確認できないことは営業状態を示すものではない。試算には改修費用・運営体制の切替コスト・休館期間中の機会損失・日帰り入浴や宴会などの宿泊外収益を含まず、いずれも上振れ・下振れの両方向に効く。個別の投資判断にはフィージビリティ・スタディが必要。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 施設マスター(名称抽出 N=136施設・5,297室)、推定成約ADR(N=78施設)、掲載価格、市町村別・業態別ADR中央値
  • ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミの総合評価および言及タグ解析(直近24ヶ月)

■ 政府統計・公的データ

■ 運営団体・施設公式

■ ニュース・報道

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