トップ > 投資・開発 > スキー場のリフト更新は1本30億円、宿の負担は1室泊348円 — 索道投資の二重構造

スキー場のリフト更新は1本30億円、宿の負担は1室泊348円 — 索道投資の二重構造

投稿日 : 2026.09.08

長野県

北海道

新潟県

山形県

岩手県

投資・開発

スキー場の索道(ゴンドラ・リフト)更新投資と周辺宿泊施設のADRの二重構造

スキー場の宿泊単価を動かしているのは、宿の外にある。リフトとゴンドラ——制度上は「索道」と呼ばれる輸送設備が、そのスノーリゾートの集客力と価格決定力の土台になっている。ところがこの資産は、宿泊施設とはまったく別の事業者が保有し、まったく別の会計で更新費用を負担している。本稿ではこの資産の二重構造を、公開された索道の設備投資額と、当社が集計する周辺エリアの宿泊単価データの両方から定量化する。

既刊との線引きを先に示す。『スキー場3km圏の客室は4.0万室、上位3か所で39%』は、スキー場を需要の発生源として扱い、その周囲にどれだけの客室ストックが積み上がっているかを数えた記事である。『ニセコの高価格帯は2施設75室のみ』など個別リゾートの記事も、運営会社と客室数の整理が主題で、索道側の資本支出には踏み込んでいない。本稿は分析対象を客室から索道そのものへ移し、その更新投資の金額・周期・回収年限を主題に据える。客室ストックの数え直しは、償還計算の分母として最小限にとどめた。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設が公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(そのエリアの標準的な施設の水準)です。
  • 客室数:各スキー場の索道山麓駅を中心とする半径5km圏に所在する宿泊施設の客室数合計(当社ホテルマスター掲載ベース。稼働確認の有無を問わないため、実際に販売されている客室数の上限側の値)。
  • 索道更新負担率:本稿の独自指標。標準的な索道更新1件を30億円と置き、それを商圏の宿泊室泊数で割り戻した「1室泊あたりの負担額」が、そのエリアのADRに占める割合。算式は 30億円 ÷(客室数 × 冬季100泊 × 稼働率60%(2026年1月時点のADRに対する冬季シーズンの仮定値。実測稼働率ではない) × 償還15年)÷ ADR。
  • 索道:鉄道事業法・索道規則上の用語で、リフト・ゴンドラ・ロープウェイの総称。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(宿泊側)/各社公表資料・観光庁・長野県(索道側)
索道更新1件の公表額
8.5〜100億円
リフト1基〜複数年ゴンドラ計画
全国索道の平均築年数
27.8
21年超が8割(観光庁調査)
30億円の1室泊負担(白馬)
¥360
ADRの1.67%(15年償還)
同(商圏が小さいエリア)
¥2,227
ADRの13.47%・6.2倍の重さ
国の補助上限
3億円
補助率1/2・1事業あたり
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/観光庁「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」公募要領(令和8年度)ほか
Key Takeaways
  • 索道更新1件は8.5億〜100億円超 — リフト1基でも8.5億円、ゴンドラ架け替えは30億円級。地方の中規模ホテル1棟の建設費に匹敵する設備である。
  • 平均築年数27.8年・21年超が8割 — 更新の山はすでに始まっている。資産寿命30年に対し金融機関の返済年限は10〜15年で、構造的なギャップがある。
  • 索道更新負担率は0.70%〜13.47%と19倍の開き — 同じ30億円でも、商圏の宿泊収入プールの厚みで1室泊¥430(ニセコ)から¥2,227(安比高原)まで振れる。
  • 白馬では単価上昇1年分が32億円の86% — 2025年1月→2026年1月のADR上昇 +¥4,954が商圏に生んだ増収は約27.5億円。索道が30年で返す設備に相当する。
  • 払えない金額ではなく、払う主体と受け取る主体がずれた金額 — 索道の与信は索道単体のP/Lではなく、その索道が支える商圏の宿泊収入プールで捉え直す必要がある。

索道は「宿の外にある、宿より重い」設備資産

まず金額感を確定させる。長野県白馬村の白馬八方尾根スキー場では、白馬観光開発と八方尾根開発が共同で、山麓から中腹「うさぎ平」を結ぶ新ゴンドラとセンターハウス、駐車場を整備している。線路長2,180m・高低差652m、速度は毎秒4mから6mへ、輸送力は1,350人/時から2,400人/時へ引き上げられる。総投資額は32億円で、2024年11月着工、2027年12月の開業予定である。

長野県野沢温泉村の長坂ゴンドラは、線路長3,129m・高低差789m、10人乗りキャビン80台という規模で、村が2017年度から約30億円の事業費をかけて架け替え、2020年11月に竣工した。北海道の倶知安町では、東急不動産・ニセコ東急リゾート・東急リゾーツ&ステイが「エースゴンドラ」の刷新を皮切りに100億円超規模の複数年投資を進めており、2024年11月に新ゴンドラが運行を開始、2026-27シーズンにはリフトの更新が続く。

単体のリフトでも桁は変わらない。北海道美唄市の美唄国設スキー場では固定式4人乗りリフトの新設が8.5億円(税別)、新潟県上越市のキューピットバレイでは既存の約1,000mクワッドを撤去して約1,600mへ延伸する更新の落札価格が14億円と報じられている。つまり索道は、地方の中規模ホテル1棟の建設費に匹敵するか、それを上回る単価の設備なのである。

公表された索道の設備投資額(1件あたり)
出典:各社公表資料・報道(信濃毎日新聞/日本経済新聞/東急不動産/スキー凸凹研究所)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
公表された索道の設備投資額(案件別・投資額と時期)
案件所在内容投資額時期
白馬八方尾根 新ゴンドラ+センターハウス+駐車場長野県 白馬村線路長2,180m・高低差652m/輸送力1,350→2,400人・時32.0億円2024年11月着工/2027年12月開業予定
野沢温泉 長坂ゴンドラ架け替え長野県 野沢温泉村線路長3,129m・高低差789m/10人乗り80台30.0億円2017年度着手/2020年11月竣工
ニセコ東急 グラン・ヒラフ「エースゴンドラ」ほか複数年計画北海道 倶知安町最も輸送実績のあるリフトをゴンドラ化、以降もリフト更新が続く100.0億円2024年11月運行開始/2026-27シーズンまで段階実施
キューピットバレイ 新第2クワッドリフト新潟県 上越市既存約1,000mを撤去し約1,600mへ延伸更新14.0億円
美唄国設スキー場 固定式4人乗りリフト北海道 美唄市支柱を含むリフト全体の新設8.5億円
出典:各社公表資料・報道よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。「投資額」は公表または報道ベースで、ゴンドラ本体以外(センターハウス・駐車場等)を含む案件がある。

更新は「これから」ではなく「もう遅れている」— 平均築年数27.8年

この金額の重さを決めているのは、更新周期である。観光庁が実施したスキー場事業者向けアンケート調査によれば、全国の索道施設の平均築年数は27.8年で、設置から21年以上が経過している施設は8割を超える。長野県索道事業者協議会の資料(令和4年度時点)では、県内索道施設の9割が設置後20年を経過している。設備寿命を30〜40年とみれば、更新の山はすでに始まっている。

長野県が2024年3月にまとめた「今後のスキー場振興に関する方針」は、更新投資が進まない理由を、事業者ヒアリング(26社・団体)に基づいて整理している。既存設備のメンテナンスと部品交換だけで年間数千万円から数億円を要するため更新費用の積立が難しいこと、索道と降雪機の製造・施工業者が限られ寡占状態にあることで新設・修繕の経費が高止まりしていること、そして市町村が所有するスキー場では数億〜数十億円を要する更新に対し、財政規模の制約から過疎対策事業債・辺地対策事業債の活用を検討せざるを得ないことが挙げられている。

ここで、本稿の読者にとって最も重要な一行が同方針に含まれている。「索道施設への投資は30年以上の回収計画であり、10〜15年での返済を求める金融機関とは事業計画のスパンが合わない」——これは事業者側から出た声だが、貸し手側から読み替えれば、索道単体のキャッシュフローで15年返済を組もうとすると計画が成立しにくい、という意味になる。索道の資産寿命と、通常の設備資金の返済年限のあいだに、15年前後のギャップが構造的に存在している。

公的支援の規模も、この差を埋めるには足りない。観光庁の「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」(令和8年度公募要領、2026年3月23日公表)は、スキー場インフラの整備について補助率1/2以内、補助上限額は個別事業計画1事業につき3億円と定めている。事業期間は原則として交付決定日から令和9年2月12日までの単年度である。32億円のゴンドラに対して上限3億円は、総額の1割弱にあたる。

宿泊側では何が起きたか — 主要11エリアの冬季単価

索道側の負担がこれだけ重いのに対し、その受益を実際に価格へ転嫁できているのは宿泊側である。当社が集計する主要スノーリゾート11エリアについて、各市町村の1月の推定成約ADRを2023年と2026年で比較した。対象は各市町村内の施設で、2026年1月時点の集計対象は合計437施設(N=437)、2023年1月は合計574施設である。

主要スノーリゾート11エリアの1月推定成約ADR(2023年 vs 2026年)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(市区町村単位・1月・推定成約ADR、N=437施設/2026年1月)

3年間の伸びは一様ではない。ニセコ(倶知安町ベース)は¥27,979から¥61,574へ+120.1%、白馬村は¥11,180から¥21,490へ+92.2%と倍前後に達した一方、多くのエリアは+30〜40%台に収まっている。ここで注意が必要なのは、この差を索道投資が「引き起こした」と読むことはできない点である。訪日需要の集中、円安、豪州・アジアからのリピーター比率など、価格を押し上げた要因は複数あり、単一の因果には還元できない。この豪州リピーター層が今冬どのタイミングで予約を入れているかは、2026-27冬シーズン早期予約 — ニセコ・白馬・湯沢と豪州リピーター需要の先取りで時系列に追っている。

ただし、事実として指摘できることが一つある。公表ベースで大型の索道更新が進んでいるエリアと、単価が最も伸びたエリアは重なっている。100億円超の投資が進むニセコ、32億円のゴンドラが2027年開業を控える白馬、いずれも上位2エリアである。投資が単価を生んだのか、単価が投資を可能にしたのか——順序はデータからは決められないが、両者が同じ場所に集まっていることは、資本配分の判断材料になる。

資産の二重構造を1つの数字にする — 索道更新負担率

索道の更新費用と、その受益者である宿泊側の収入を、直接つなぐ指標を置く。標準的な索道更新1件を30億円と固定し、それを各エリアの商圏(半径5km圏)の宿泊室泊数で割り戻す。冬季を100泊、稼働率を60%(仮定値・冬季シーズン)、償還年数を15年と置いた場合の「1室泊あたり負担額」と、それがそのエリアのADRに占める割合が索道更新負担率である。

索道更新負担率 — 30億円を商圏の宿泊室泊で15年償還した場合のADR比(%)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。客室数は各索道山麓駅から半径5km圏のホテルマスター掲載ベース、ADRは各市町村の2026年1月推定成約ADR。
主要スノーリゾート11エリアの5km圏客室ストック・冬季ADR・索道更新負担率(2023年1月/2026年1月)
エリア市町村5km圏 施設数客室数2023年1月ADR2026年1月ADR3年変化1室泊負担負担率
ニセコ(ひらふ/ビレッジ)北海道 倶知安町・ニセコ町6847,747¥27,979¥61,574+120.1%¥4300.7%
白馬八方尾根長野県 白馬村1,0209,263¥11,180¥21,490+92.2%¥3601.67%
栂池高原長野県 小谷村3464,267¥9,984¥13,744+37.7%¥7815.68%
苗場新潟県 湯沢町852,606¥16,330¥23,164+41.8%¥1,2795.52%
野沢温泉長野県 野沢温泉村3473,073¥13,591¥16,582+22.0%¥1,0856.54%
志賀高原長野県 山ノ内町663,099¥11,340¥15,048+32.7%¥1,0767.15%
赤倉・妙高新潟県 妙高市2993,448¥9,842¥13,162+33.7%¥9677.34%
富良野北海道 富良野市1642,319¥11,861¥16,025+35.1%¥1,4378.97%
蔵王温泉山形県 山形市1221,842¥9,873¥17,042+72.6%¥1,81010.62%
菅平高原長野県 上田市1822,959¥7,613¥10,242+34.5%¥1,12711.0%
安比高原岩手県 八幡平市661,497¥11,104¥16,529+48.9%¥2,22713.47%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ADRはN=437施設/2026年1月、N=574施設/2023年1月)。ニセコ行は倶知安町のADR、客室数はひらふ・ビレッジ両山麓の5km圏を重複排除して合算した値。

結果は0.70%から13.47%まで、19倍の開きになった。ニセコは1室泊あたり¥430の負担でADRの0.70%、白馬は¥360で1.67%。一方、商圏の客室数が1,500〜2,000室規模のエリアでは、同じ30億円が1室泊あたり¥1,800〜¥2,200、ADRの10%超に相当する。索道の値段は全国どこでもほぼ同じなのに、それを支える宿泊収入プールの大きさが10倍以上違う——これが資産の二重構造の正体である。

この指標には二つの留保を付けておく。第一に、半径5kmという物差しは全エリア共通にしたため、志賀高原や安比高原のように宿泊施設が広い範囲に分散するエリアでは商圏を実際より小さく捉えており、負担率は上限側に振れている。第二に、稼働率60%(冬季シーズンの仮定値)は共通の前提であり、実勢が高いエリアでは負担率はさらに下がる。したがって本指標は絶対値の精度よりも、エリア間の相対的な重さの違いを読むためのものである。

主要スノーリゾートの分布(円の大きさ=索道更新負担率、濃色=大型索道投資の公表あり)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

投資シナリオ — 32億円のゴンドラは、誰の収入から返るのか

白馬八方尾根の32億円を具体的に割り戻す。5km圏の客室数は9,263室(1,020施設)、冬季100泊・稼働率60%で1シーズンの室泊数は555,780室泊になる。2026年1月の推定成約ADR ¥21,490を掛けると、この商圏の1シーズンの宿泊売上プールは約119.4億円と試算される。32億円は、その26.8%にあたる。

さらに踏み込むと、より示唆的な数字が出てくる。白馬村の1月ADRは2025年の¥16,536から2026年の¥21,490へ、1室泊あたり+¥4,954上昇した。この上昇分だけを商圏の室泊数に掛けると約27.5億円——直近1年の単価上昇が生んだ増収は、32億円のゴンドラ1本の86%に相当する。索道側が30年かけて返す設備を、宿泊側は1シーズンの値上げでほぼ賄える規模の増収を得ている計算になる。

白馬八方尾根:索道capex 32億円と、商圏の宿泊収入の関係(億円)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。宿泊売上プールは 客室数9,263室 × 冬季100泊 × 稼働率60%(仮定値・冬季シーズン) × 2026年1月推定成約ADR による試算値(N=201施設)。

同じ計算をニセコ(ひらふ・ビレッジ5km圏、7,747室)で行うと、1シーズンの宿泊売上プールは約286.2億円、100億円超の複数年投資はその34.9%にあたる。前年からの単価上昇分(+¥13,623)が生んだ増収は約63.3億円で、100億円の投資は1.6シーズン分の増収に相当する。一方、野沢温泉(3,073室)ではプールが約30.6億円で、30億円のゴンドラは1シーズンの宿泊売上とほぼ同額になる。同じ「ゴンドラ1本」でも、商圏の厚みでこれだけ意味が変わる。

3つの償還シナリオ

A 索道単独償還

15年・OCC60%(仮定値・冬季シーズン)で1室泊¥348相当
補助3億円を控除した29億円を索道事業者が単独で15年償還する場合、年1.93億円の元本返済が必要(金利別)。商圏の延べ宿泊者を2名1室換算で111万人泊とすると、1人1泊あたり¥174の索道収入増で足りる計算になる。索道側の価格改定余地は実際に動いており、あるリゾートでは大人1日券が2021年の¥6,200から2025年に¥14,500へと約2.4倍になっている。

B 受益者負担(宿泊側)

宿泊税の想定税収で12.8年
白馬村は2026年6月1日に宿泊税を導入し、年間で2億5,000万円余りの税収を見込む。仮に全額を索道更新に充てられれば32億円を約12.8年で回収できる規模である(実際の使途は観光振興・環境保全等で、索道更新に充当する制度ではない)。宿泊単価に対する必要負担は1室泊¥348=ADRの1.62%であり、既存の宿泊税水準とほぼ同じ桁に収まる。

C 補助+長期化ブレンド

30年償還で1室泊¥174・ADRの0.81%
補助3億円(総額の9.4%)を充当し、残る29億円を資産寿命に合わせた30年で償還する場合、1室泊あたりの負担は¥174まで下がる。索道の物理的寿命(平均築年数27.8年が示す実績)と返済年限を一致させることが、最も負担を軽くする。長期・低利の資金をどう組成するかが、このシナリオの実務上の論点になる。

感度分析 — 稼働率と償還年数

白馬・29億円(補助控除後)の1室泊負担 — 稼働率×償還年数の感度分析(稼働率はいずれも冬季シーズンの仮定値)
白馬・29億円(補助控除後)の1室泊負担15年償還20年償還30年償還
稼働率45%(下振れ)¥464(2.16%)¥348(1.62%)¥232(1.08%)
稼働率60%(基準)¥348(1.62%)¥261(1.21%)¥174(0.81%)
稼働率75%(上振れ)¥278(1.29%)¥209(0.97%)¥139(0.65%)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。カッコ内は2026年1月推定成約ADR ¥21,490に対する比率。金利・維持管理費は含まない元本ベースの簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

感度分析から読める幅は狭い。最も厳しい組み合わせ(稼働率45%・仮定値/15年償還)でも1室泊¥464、ADRの2.16%にとどまり、最も緩い条件では0.65%まで下がる。32億円という金額の絶対値は大きいが、商圏の宿泊収入に対する比率としては1〜2%の世界である。問題は金額そのものではなく、その1〜2%を索道事業者が受け取る仕組みが存在しないことにある。

投資判断サマリーとリスク要因

ファンド・事業会社の立場から整理すると、スノーリゾート取得の実質的な検討軸は次の3点に収れんする。

スノーリゾート取得の検討軸と本稿データからの示唆
検討軸着眼点本稿のデータからの示唆
索道の残存寿命主要索道の設置年と、今後10年の更新必要額全国平均築年数27.8年・21年超が8割。取得価格とは別に、1本30億円級の更新枠を保守的に見込む
商圏の宿泊収入プール索道更新負担率(本稿指標)が何%か0.70%〜13.47%と19倍の幅。5%を下回るエリアは索道capexを商圏の価格上昇で吸収しやすい
受益の回収経路索道と宿泊の資本関係、宿泊税・エリアマネジメントの制度設計索道と宿泊を同一の資本傘下に置くか、地域の受益者負担スキームを設計できるかが分岐点
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

地銀・貸し手の視点では、審査の焦点が変わる。索道事業者単体のP/Lで15年返済を組むのは、長野県の方針が事業者の声として記録したとおりスパンが合いにくい。一方で、索道の更新は商圏の宿泊収入プールに対して1〜2%規模の負担でしかない。索道の与信を索道単体で見るのではなく、その索道が支えている商圏全体の宿泊収入を返済原資として捉え直せるかが、実務上の分岐点になる。倶知安町が宿泊税を財源とした事業に令和6年度で2億8,630万円を充当し、ニセコひらふ地区のロードヒーティング整備等に振り向けている事例は、宿泊側の収入を地域インフラへ還流させる仕組みがすでに動いていることを示している。

リスク要因

本稿の試算に対するリスク要因と影響
区分内容本稿の試算への影響
気候年最深積雪と降雪日数の減少傾向(長野の年平均気温は100年あたり約1.3℃上昇)営業日数の短縮は「冬季100泊」の前提を直撃する。降雪機投資が追加capexとして乗る
需要構成単価上昇の主因が訪日需要である場合、為替・国際線動向への感応度が高いADRが下振れすると負担率は比例して上昇。稼働率45%(冬季シーズンの仮定値)シナリオを併読する必要
調達価格索道・降雪機の製造施工が寡占状態で経費が高止まり(長野県方針の事業者ヒアリング)30億円という前提自体が上振れうる。複数年・複数基の一括発注による交渉余地
制度国庫補助は補助率1/2・上限3億円・単年度事業が原則大型索道では総額の1割前後にとどまる。補助前提の資金計画は成立しにくい
商圏サイズ客室数2,000室未満のエリアでは負担率が10%を超える単独更新より、広域連携・索道の統廃合・通年営業化による分母拡大が現実的な選択肢
出典:長野県「今後のスキー場振興に関する方針」(令和6年3月)、観光庁公募要領ほかよりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

まとめ

スノーリゾートは、索道という資本集約的な設備資産と、その周囲に張り付く宿泊資産という、まったく別の会計に属する二層で成り立っている。索道の更新は1本30億円級、平均築年数27.8年で更新の山はすでに始まっており、資産寿命30年に対して金融機関の返済年限は10〜15年、国の補助上限は1事業3億円である。索道側だけを見れば、この投資は明らかに重い。

ところが同じ金額を、その索道が支えている商圏の宿泊収入で割り戻すと、1室泊あたり¥360〜¥2,227、ADRの0.70%〜13.47%という数字になる。白馬では、直近1年の単価上昇が生んだ増収だけで32億円のゴンドラの86%に達する。索道capexは「払えない金額」ではなく、「払う主体と受け取る主体がずれている金額」である——これが本稿の結論であり、同時に投資機会の所在でもある。

したがって取得・融資・運営受託のいずれの立場でも、検討の起点は索道単体のP/Lではなく、索道更新負担率で測った商圏の厚みに置くべきだろう。負担率が5%を下回るエリアでは、索道更新は宿泊側の価格上昇で十分に吸収できる範囲にある。負担率が10%を超えるエリアでは、索道と宿泊を同一資本の下に統合するか、宿泊税・エリアマネジメント等の受益者負担スキームを地域で設計するか、あるいは通年営業化で分母そのものを厚くするか——いずれにせよ、宿の外にある設備投資を宿の収益計画に取り込む発想が要る。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

宿泊側は当社が収集するOTA公開価格・在庫データに基づく市区町村単位の推定成約ADR(2023年1月 N=574施設/2025年1月/2026年1月 N=437施設、いずれも1月・中央値)と、当社ホテルマスターに基づく索道山麓駅から半径5km圏の施設数・客室数。索道側は各事業者・自治体の公表資料および報道による設備投資額、観光庁および長野県の公表資料による築年数・制度情報。

■ 試算前提

索道更新負担率は「標準的な索道更新1件=30億円」を固定し、冬季営業100泊・稼働率60%(2026年1月時点のADRに対する冬季シーズンの仮定値。実測稼働率ではない)・償還15年・金利および維持管理費を含まない元本ベースで、商圏(半径5km圏)の宿泊室泊数に配賦して算出。宿泊売上プールは 客室数 × 冬季100泊 × 稼働率60% × 当該年1月の推定成約ADR。感度分析は稼働率45/60/75%(いずれも冬季シーズンの仮定値)× 償還15/20/30年の3×3で振っている。白馬の個別シナリオは国庫補助3億円を控除した29億円を対象額とした。

■ 限界・留意点

(1) ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。(2) 商圏を半径5km共通としたため、志賀高原・安比高原のように宿泊施設が広域に分散するエリアでは商圏を小さく捉えており、負担率は上限側に振れる。(3) 稼働率は全エリア共通の仮定値であり、実勢の稼働率統計に基づくものではない。(4) 索道投資額は公表・報道ベースで、センターハウスや駐車場など索道本体以外を含む案件がある。(5) 単価上昇と索道投資の同時性は相関の指摘にとどまり、因果関係を示すものではない。本稿は絶対値の精度ではなくエリア間の相対的な重さの比較を目的とする。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 市区町村別の推定成約ADR(2023年1月/2026年1月、N=437施設・574施設)、ホテルマスターに基づく半径5km圏の施設数・客室数

■ 政府・自治体資料

■ 索道投資の一次情報・報道

関連記事