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8月の旅館稼働率47.4%、1〜8月すべて前年超え — 延べ宿泊−6.7%の夏、10県の旅館ADRは8県下落

投稿日 : 2026.10.30

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2026年8月の旅館稼働率47.4%、1〜8月すべて前年超え — 延べ宿泊−6.7%の夏、10県の旅館ADRは8県下落

観光庁が2026年9月30日に公表した「宿泊旅行統計調査(2026年8月・第1次速報、2026年7月・第2次速報)」によると、8月の延べ宿泊者数は6,268万人泊(前年同月比−6.7%)、客室稼働率は全体で64.4%(前年同月差−1.3pt)だった。その中で旅館だけが47.4%(+1.7pt)と前年を上回り、7月の40.2%(+3.0pt)に続く形になった。本稿では、この国の稼働率に、メトロエンジンリサーチが推定する主要10県の旅館の推定成約ADR(8月は10県中8県が前年割れ、群馬+3.3%・長野+1.1%)を重ね、「単価を譲って稼働を取った」県と「単価も上げた」県の2類型として読み解く。

本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
Key Takeaways
  • — 旅館47.4%:2026年8月の旅館の客室稼働率は前年同月差+1.7pt(第1次速報)。全体64.4%(−1.3pt)の中で唯一の前年超えだった。
  • — 1〜8月すべて前年超え:2026年の旅館は8か月とも前年同月を上回り、全体は8か月とも前年割れ。2026年1月分からの層化基準変更の影響を含む可能性がある。
  • — 10県中8県が前年割れ:2026年8月の旅館の推定成約ADRは石川−12.0%・栃木−7.4%・兵庫−7.0%。上昇は群馬+3.3%・長野+1.1%の2県だけだった。
  • — 9月は7県が前年超え:栃木+7.7%・京都+6.1%・長野+4.7%。夏に単価を譲った県も秋に戻しており、2類型は月ごとに入れ替わる局面の違いと読める。
  • — 単価−4%の相殺に+1.9pt:前年の稼働水準が45%なら、客室売上を前年並みに保つには単価−4%で稼働+1.9pt、−7%で+3.4ptが要る(算術上の目安、表5)。

8月の全国像 — 延べ宿泊−6.7%の月に、旅館の稼働率だけが前年を上回った

まずは一次資料の数字を確認しておきたい。2026年8月の延べ宿泊者数は6,268万人泊で前年同月比−6.7%、うち日本人が5,004万人泊(−5.8%)、外国人が1,264万人泊(−10.3%)となった。客室稼働率は全体で64.4%と前年同月から1.3pt下がり、施設タイプ別ではビジネスホテル75.7%(−0.7pt)、シティホテル72.3%(−3.0pt)、リゾートホテル66.9%(−0.6pt)、簡易宿所36.2%(−2.9pt)といずれも前年を下回ったのに対し、旅館は47.4%で+1.7ptと唯一の前年超えだった。観光庁自身も資料の中で「旅館の客室稼働率が対前年同月比で改善した」と明記している。

表1 施設タイプ別の客室稼働率(2026年8月・第1次速報/2026年7月・第2次速報)
施設タイプ2026年8月(第1次速報)前年同月差2026年7月(第2次速報)前年同月差
全体64.4%−1.3pt61.0%−0.2pt
旅館47.4%+1.7pt40.2%+3.0pt
リゾートホテル66.9%−0.6pt59.0%+2.1pt
ビジネスホテル75.7%−0.7pt74.6%−0.1pt
シティホテル72.3%−3.0pt71.9%+0.3pt
簡易宿所36.2%−2.9pt30.0%−2.8pt

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年8月・第1次速報、2026年7月・第2次速報)」2026年9月30日公表よりホテルバンク編集部作成

この8月の値は第1次速報であり、2026年9月14日までに回収された調査票(有効回収率36.5%)に基づく推計である。2026年10月30日公表予定の第2次速報で改定される可能性がある点は、数字を引用するうえで最初に押さえておきたい。参考までに、7月は第1次速報(有効回収率32.9%)から第2次速報(同45.1%)への改定を経て全体61.0%・旅館40.2%に落ち着いており、8月も同程度の回収率の上積みが見込まれる。速報から確定までの改定幅が実際にどの程度かは、宿泊旅行統計調査の速報値はどれだけ改定されるかで過去15か月分を実測している。

もう一つ、前年比の読み方に関わる重要な注記がある。観光庁は統計精度の向上を目的に、2026年1月分調査から層化基準を「従業者数」から「客室数」へ変更した。客室数20室以上の事業所は全数調査、1〜19室はサンプル調査という設計で、前年(同月)比・前年(同月)差には「見直しの影響が含まれている可能性がある」と資料冒頭に明記されている。旅館の稼働率が前年を上回っている事実と、この設計変更が同じ2026年1月から始まっている事実は、切り離さずに読む必要がある。

旅館の稼働率は2026年に入って1〜8月すべてが前年超え — 全体は8か月連続の前年割れ

速報資料の推移表を月別に並べ直すと、旅館の前年超えは7月・8月の2か月に限った話ではないことが分かる。2026年の旅館の客室稼働率は1月33.7%(前年同月差+0.7pt)、2月40.1%(+3.5pt)、3月39.7%(+1.5pt)、4月37.7%(+2.4pt)、5月41.5%(+3.0pt)、6月36.7%(+1.7pt)、7月40.2%(+3.0pt)、8月47.4%(+1.7pt)と、8か月すべてで前年同月を上回っている。一方で全体の客室稼働率は1月−1.9pt、2月−0.8pt、3月−1.7pt、4月−2.3pt、5月−0.7pt、6月−1.6pt、7月−0.2pt、8月−1.3ptと、8か月すべてで前年を下回った。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2024年・2025年は確定値、2026年1〜7月は第2次速報値、8月は第1次速報値)よりホテルバンク編集部作成

旅館が全タイプの中で一貫して上向き、全体が一貫して下向きという対照は、2026年1月を境に突然現れている。2025年の旅館は1月33.0%・8月45.7%、2024年は1月29.1%・8月43.1%と、年ごとの水準差は緩やかだった。つまり2026年の「旅館だけが上がる」構図には、旅館の需要が強まった分と、層化基準の変更で旅館を含む小規模施設の推計の重みが変わった分が混ざっている可能性があり、どちらがどれだけかは速報資料からは切り分けられない。本稿はこの点を前提に、国の稼働率を「方向感」として扱い、価格の動きは当社データで別の物差しから見ていく。

7月の都道府県別 — 旅館の稼働率は北海道59.1%・静岡48.7%・群馬47.4%が上位

都道府県別・施設タイプ別の客室稼働率は第2次速報から公表されるため、現時点で県別に読めるのは7月分である。本稿で取り上げる旅館主要10県を並べると、旅館の客室稼働率は北海道59.1%(全国2位)、静岡48.7%(6位)、群馬47.4%(7位)、神奈川44.3%(13位)、石川41.3%(18位)、栃木39.1%(23位)、兵庫38.6%(24位)、長野34.0%(34位)、大分33.9%(35位)、京都33.4%(38位)と、上位から下位まで25pt超の幅がある。なお速報資料が県別に前年同月差を示しているのは「全体」のみで、旅館の県別前年差は公表されていない。

表2 旅館主要10県の客室稼働率(観光庁)と旅館の推定成約ADR前年比(当社)— 2026年7月
都道府県旅館 客室稼働率旅館の全国順位全体 客室稼働率全体 前年同月差旅館 推定成約ADR 7月前年比(当社)
群馬県47.4%7位48.4%−0.5pt−3.9%
長野県34.0%34位43.3%+0.5pt−2.8%
神奈川県44.3%13位66.4%+2.1pt−2.1%
北海道59.1%2位69.4%−0.4pt−3.3%
大分県33.9%35位46.4%+0.4pt−6.4%
静岡県48.7%6位57.3%+1.2pt−4.4%
京都府33.4%38位63.3%+1.4pt−2.1%
兵庫県38.6%24位61.0%+1.0pt−11.5%
栃木県39.1%23位54.7%−1.6pt−6.7%
石川県41.3%18位58.7%+4.4pt−13.8%

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年7月・第2次速報)」、推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ(旅館の都道府県中央値、2026年7月の前年同月比、N=各県110〜519施設)、ホテルバンク編集部より作成

7月の全体稼働率の前年同月差を見ると、石川+4.4pt、神奈川+2.1pt、京都+1.4pt、静岡+1.2pt、兵庫+1.0ptが上昇組、北海道−0.4pt、群馬−0.5pt、栃木−1.6ptが下落組だった。ここに当社の旅館の推定成約ADR(7月)を右端の列として置くと、石川は全体の稼働が+4.4ptと10県で最も上がった月に旅館ADRが−13.8%、兵庫は+1.0ptに対して−11.5%と、稼働の上昇と単価の下落が同じ月に並ぶ県が見えてくる。ただし左の稼働率は宿泊施設全体の値、右の単価は旅館のみの推定値で、母集団も定義も異なる。同じ物差しで「稼働を取るために単価を下げた」と因果づけることはできず、ここでは同じ月に観測された2つの事実として並べるにとどめたい。

主要10県の旅館ADR — 8月は8県が前年割れ、群馬+3.3%・長野+1.1%だけが上昇

次に当社データに移る。メトロエンジンリサーチが推定する旅館の推定成約ADR(都道府県中央値・税抜相当)を、旅館の客室数が多い主要10県について前年同月と比べると、2026年8月は群馬が¥17,500→¥18,100(+3.3%)、長野が¥14,400→¥14,500(+1.1%)と上昇した一方、残る8県は前年を下回った。下落幅が最も大きいのは石川の¥20,700→¥18,200(−12.0%)で、栃木−7.4%、兵庫−7.0%、京都−6.3%が続く。静岡−4.0%、大分−3.9%、北海道−3.7%は中位、神奈川は−1.0%とほぼ横ばいだった。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(旅館の推定成約ADR・都道府県中央値の前年同月比、N=各県111〜515施設)

7月分も同じ方法で取ると、10県すべてが前年割れだった。群馬−3.9%、長野−2.8%と、8月に上昇した2県も7月は下がっており、石川−13.8%、兵庫−11.5%、大分−6.4%は8月より7月の方が下落幅が大きい。国の統計で旅館の稼働率が+3.0ptと8月(+1.7pt)を上回って伸びた7月に、主要10県の旅館の単価が揃って前年を下回っていたという組み合わせは、夏の旅館が全体として「単価より稼働」に寄っていたことと整合する。

表3 旅館主要10県の推定成約ADR(2025年8月→2026年8月)と7月・9月・全業態の前年比
都道府県2025年8月2026年8月8月 前年比7月 前年比9月 前年比全業態 8月 前年比対象施設数(25年/26年)
群馬県¥17,517¥18,102+3.3%−3.9%+4.2%+1.8%268/278
長野県¥14,363¥14,521+1.1%−2.8%+4.7%−0.3%511/515
神奈川県¥22,867¥22,646−1.0%−2.1%+2.4%−7.5%268/269
北海道¥11,274¥10,862−3.7%−3.3%−0.2%−5.1%280/293
大分県¥18,666¥17,946−3.9%−6.4%+4.5%−4.1%307/317
静岡県¥22,428¥21,542−4.0%−4.4%+2.7%−1.6%439/463
京都府¥21,007¥19,682−6.3%−2.1%+6.1%−8.4%195/202
兵庫県¥21,684¥20,172−7.0%−11.5%−2.2%−2.9%275/277
栃木県¥19,554¥18,107−7.4%−6.7%+7.7%−4.6%205/211
石川県¥20,691¥18,201−12.0%−13.8%−0.7%−8.8%111/115

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(旅館の推定成約ADR・都道府県中央値、2026年10月22日取得)

表の右から2列目には、旅館に限らない全業態の推定成約ADR前年比も添えた。群馬は全業態でも+1.8%と上がっており、旅館の上昇は県全体の価格環境と同じ向きにある。長野は全業態が−0.3%とほぼ横ばいの中で旅館だけが+1.1%となった。逆に神奈川は全業態が−7.5%と下がる中で旅館は−1.0%にとどまり、京都は全業態−8.4%・旅館−6.3%と両方が下がっている。東京のシティホテルが8月に−20.6%、北海道のシティホテルが8月に−11.3%となった夏に、旅館の単価の下げ幅は多くの県でそれより浅かった、というのが10県を横断した印象である。

2類型で読む — 「単価を譲って稼働を取った」県と「単価も上げた」群馬・長野

ここまでを整理すると、2026年夏の旅館は2つの型に分けて読める。第1の型は、国の統計で旅館の稼働率が上がった月に、当社の推定成約ADRが前年を下回った県である。石川(8月−12.0%)、栃木(−7.4%)、兵庫(−7.0%)、京都(−6.3%)がその典型で、7月も含めて2か月とも単価が前年より低い。石川は2025年8月の旅館ADRが¥20,700と10県の中でも高い水準にあったため、比較の起点が高かったことも下落率を大きく見せている。第2の型は群馬と長野で、7月は前年割れだったものの、8月は旅館の単価が前年を上回った。群馬は8月¥18,100(+3.3%)、長野は¥14,500(+1.1%)で、9月はそれぞれ+4.2%、+4.7%と上昇幅を広げている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(旅館の推定成約ADR・前年同月比、6〜9月)

月別の推移を見ると、4県とも9月に前年比が8月から大きく改善している点が共通している(石川−12.0%→−0.7%、栃木−7.4%→+7.7%、兵庫−7.0%→−2.2%、京都−6.3%→+6.1%)。9月は5連休(9月19〜23日)を含む月でビジネスホテルの推定成約ADRが44都道府県で前年超えとなった月でもあり、栃木の旅館は9月に+7.7%、石川も−0.7%まで戻した。したがって第1の型の県も「夏の2か月は単価を譲った」のであって、秋に入ると同じ県の旅館が単価を戻している。2類型は固定した性格ではなく、月ごとに入れ替わる局面の違いと見るのが実態に近い。

この2類型を「稼働」の側から補強するために、当社が主要予約サイトの掲載在庫から推定した8月の旅館の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)も参考として示す。この値はOTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。掲載外の客室を消化済み側に数えるため国の客室稼働率より高く出る構造で、観光庁の47.4%と水準を比べる指標ではない。また当社のデータは2026年3月から蓄積を始めたため前年比は算出できず、ここで読めるのは県間と業態間の相対的な位置だけである。国の客室稼働率とOTA在庫ベースの値がなぜ20pt超も離れるかは、7月分の全国値で差22.7ptを4要因に分解した記事が整理している。

表4 旅館主要10県のOTA掲載在庫ベース稼働率(推定・2026年8月)
都道府県旅館 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)旅館 対象全業態 稼働率(同)全業態 対象
群馬県87.6%162施設/4,996室84.9%306施設/13,223室
長野県90.1%237施設/5,588室92.5%557施設/19,508室
神奈川県84.1%160施設/4,211室84.3%412施設/31,449室
北海道86.4%165施設/7,213室89.6%671施設/52,816室
大分県81.1%215施設/3,519室79.8%380施設/10,364室
静岡県87.4%283施設/7,998室87.4%711施設/29,451室
京都府82.5%101施設/1,941室80.7%575施設/31,489室
兵庫県86.3%147施設/3,293室88.2%396施設/18,766室
栃木県87.4%135施設/5,488室85.4%329施設/13,520室
石川県82.8%78施設/3,424室83.5%204施設/14,631室

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年8月・月間平均。対象は総客室の30%以上を主要予約サイトに掲載する施設の固定集合で、日によって対象数は変動)

この物差しでは、8月の旅館は長野90.1%(対象237施設/客室5,588室・主要予約サイト掲載ベース)、群馬87.6%(対象162施設/客室4,996室)、静岡87.4%(対象283施設/客室7,998室)、栃木87.4%(対象135施設/客室5,488室)が高く、大分81.1%(対象215施設/客室3,519室)、京都82.5%(対象101施設/客室1,941室)、石川82.8%(対象78施設/客室3,424室)が相対的に低い。群馬と栃木は同じ県の全業態より旅館の方が高く、旅館の在庫消化が県平均を引っ張っている。単価を上げた群馬・長野がこの物差しでも旅館の在庫消化で上位にあることは、8月の2県が「単価も稼働も」という第2の型に近いことを、別の角度から支える材料といえる。

読み方の注意 — 国の稼働率と当社の推定ADRは同じ物差しではない

本稿で並べた数字は3つの異なる物差しに乗っている。第1に観光庁の客室稼働率は、全国のホテル・旅館・簡易宿所等への調査票(客室数20室以上は全数、20室未満はサンプル)から推計した施設全体の稼働率であり、8月分は有効回収率36.5%の第1次速報である。第2に当社の推定成約ADRは、各施設が主要予約サイトに公開する最安プラン水準に業態別の補正係数を適用した推定値で、対象は稼働が確認できる施設に限られ、予約サイトに掲載しない旅館は含まれない。第3にOTA掲載在庫ベースの稼働率は、掲載在庫の消化率であって実稼働率ではない。

したがって「稼働率が上がったからADRが下がった」「単価を下げたから稼働が取れた」という因果は、この3つを突き合わせただけでは成立しない。層化基準の変更が前年比に与えた影響、旅館のうち予約サイトに出していない施設の動き、そして延べ宿泊者数が−6.7%と減る中で外国人が−10.3%と大きく減った需要側の変化(7月の第2次速報では三大都市圏を除く地方部のシェアが58.4%と前年比+1.9pt)が、いずれも背景として同時に動いている(旅館は宿泊に占める外国人比率が業態別で最も低く、2025年通年では12.9%だった)。本稿が示せるのは、国の統計が旅館の稼働の上向きを示した月に、主要10県の旅館の推定成約単価がどう動いたかという同時観測であり、7月分を47都道府県の量×単価で4象限に分けた前稿と同じ姿勢で読んでいただきたい。

旅館経営者・投資家への示唆 — 稼働が上向いた夏に、単価を戻せる月を見極める

旅館の経営者にとって、2026年夏のデータから読み取れる機会は「稼働が付いてきた月に、どこまで単価を戻せるか」の見極めにある。群馬と長野の旅館は7月に前年を下回った単価を8月に前年超えへ戻し、9月にさらに広げた。栃木の旅館は9月に+7.7%と前年を上回り、石川も−0.7%と前年水準近くまで戻している。稼働が上向く局面では、ピーク日の価格だけでなく、ピークを挟む前後の平日の価格帯を段階的に見直す余地がある。特に8月は旅館の客室稼働率が年間で最も高い月(2025年45.7%、2026年47.4%)であり、ここで単価を譲る必然性は年間の他の月より小さい。

この「単価を戻す」判断の手がかりとして、客室売上=単価×稼働率という恒等式から、単価が前年比で変わったときに客室売上を前年並みに保つには稼働率が何pt動けばよいかを、前年の稼働水準別に示したのが表5である。単価−4%なら前年の稼働水準45%の施設で+1.9pt、−7%なら+3.4ptの上積みが必要になり、逆に単価を+3%戻せば稼働が1.3pt下がっても客室売上は前年並みを保てる。旅館の全国の8月の客室稼働率は2025年45.7%、2026年47.4%(観光庁、2026年8月は第1次速報)なので、45%の列が8月の目安に近い。ただし観光庁の稼働率と当社の推定成約ADRは母集団も定義も異なるため、この表を特定の県の客室売上の実績として読むことはできない。あくまで自館の単価と稼働の組み合わせを点検するための算術上の目安である。

表5 単価の前年比 × 前年の稼働水準 — 客室売上を前年並みに保つ稼働率の変化幅(pt)
単価の前年比前年の稼働水準 35%前年の稼働水準 40%前年の稼働水準 45%前年の稼働水準 50%
−12%+4.8pt+5.5pt+6.1pt+6.8pt
−7%+2.6pt+3.0pt+3.4pt+3.8pt
−4%+1.5pt+1.7pt+1.9pt+2.1pt
−1%+0.4pt+0.4pt+0.5pt+0.5pt
+1%−0.3pt−0.4pt−0.4pt−0.5pt
+3%−1.0pt−1.2pt−1.3pt−1.5pt

ホテルバンク編集部試算(必要な変化幅=前年の稼働水準×(1÷(1+単価の前年比)−1)、小数第2位を四捨五入)。プラスは必要な上積み、マイナスは許容できる低下幅

投資家・アナリストの視点では、旅館の稼働率の前年超えが1〜8月すべてで続いている点を、層化基準の変更と切り離して評価することが前提になる。10月30日の第2次速報で8月の値がどう改定されるか、そして都道府県別・施設タイプ別の8月の客室稼働率が公表されたときに、群馬・長野・静岡・北海道といった旅館の稼働率上位県で旅館の値が前年からどう動いたかが、2類型の仮説を検証する次の材料になる。当社の推定成約ADRは月次で更新されるため、9月分の旅館の単価が10県中7県で前年超えに転じたこと(群馬+4.2%、長野+4.7%、栃木+7.7%、京都+6.1%、大分+4.5%、静岡+2.7%、神奈川+2.4%)も含めて、秋の単価回復が冬まで続くかを追っていきたい。

10月30日の第2次速報で見るべき3点

第1は2026年8月の旅館の客室稼働率47.4%・+1.7ptが改定後も前年超えを保つかどうかである。7月は第1次速報から第2次速報にかけて有効回収率が32.9%から45.1%へ上がっており、8月も同程度の上積みが見込まれる。第2は都道府県別・施設タイプ別の8月の客室稼働率で、旅館の県別の値が初めて読めるようになる。第3は国籍別の外国人延べ宿泊者数で、7月は台湾+24.7%・韓国+28.4%・香港+49.3%が伸びる一方で中国が−44.7%と減っており、この構成が旅館の多い地方県の需要にどう及んだかを県別の延べ宿泊者数と合わせて確認したい。

よくある質問

Q. 2026年8月の旅館の客室稼働率47.4%は確定値ですか。

A. 第1次速報値です。2026年9月14日までに回収された調査票(有効回収率36.5%)に基づく推計で、2026年10月30日公表予定の第2次速報で改定される可能性があります。

Q. 観光庁の客室稼働率と本記事のADRや推定稼働率は比べられますか。

A. 比べられません。観光庁の客室稼働率は調査票に基づく施設全体の稼働率、本記事のADRは主要予約サイトの公開価格に補正係数を適用した推定成約単価、OTA掲載在庫ベースの稼働率は掲載在庫の消化率で、母集団も定義も異なります。本記事では同じ月に観測された事実として並べています。

Q. 前年同月比に層化基準の変更はどう影響しますか。

A. 観光庁は2026年1月分調査から層化基準を従業者数から客室数へ変更しており、前年(同月)比・前年(同月)差には見直しの影響が含まれている可能性があると資料に明記しています。影響の大きさは公表されていません。

Q. 2026年8月に旅館の推定成約ADRが前年を上回ったのはどの県ですか。

A. 主要10県では群馬(¥17,517→¥18,102、+3.3%)と長野(¥14,363→¥14,521、+1.1%)の2県です。残る8県は前年を下回り、下落幅は石川−12.0%、栃木−7.4%、兵庫−7.0%の順でした(メトロエンジンリサーチの旅館の都道府県中央値、2026年10月22日取得)。

Q. 都道府県別の旅館の8月の客室稼働率はいつ分かりますか。

A. 都道府県別・施設タイプ別の客室稼働率は第2次速報から公表されるため、8月分は2026年10月30日公表予定の第2次速報で確認できます。現時点で読めるのは2026年7月分で、主要10県では北海道の59.1%が最も高く、京都の33.4%が最も低い水準でした。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年8月第1次速報・2026年7月第2次速報(2026年9月30日公表)の延べ宿泊者数、施設タイプ別・都道府県別の客室稼働率。メトロエンジンリサーチの旅館(業態区分)および全業態の推定成約ADR(都道府県中央値、2025年6月〜2026年9月、N=各県110〜519施設、2026年10月22日取得)と、2026年8月のOTA掲載在庫ベース稼働率(推定、総客室の30%以上を主要予約サイトに掲載する施設の固定集合)。

■ 試算前提

前年比は同じ月の都道府県中央値どうしの比で、小数第1位に四捨五入した。表5は客室売上=単価×稼働率の恒等式から、単価の前年比dに対して客室売上を前年並みに保つ稼働率の変化幅を「前年の稼働水準×(1÷(1+d)−1)」で求めた算術上の目安で、特定の県や施設の実績値ではない。

■ 限界・留意点

2026年8月の客室稼働率は有効回収率36.5%の第1次速報で、2026年10月30日の第2次速報で改定され得る。2026年1月分から層化基準が従業者数から客室数に変わっており、前年比には見直しの影響が含まれ得る。推定成約ADRは主要予約サイトに掲載する施設に限られ、予約サイトに出していない旅館は含まない。観光庁の客室稼働率、当社の推定成約ADR、OTA掲載在庫ベース稼働率は母集団も定義も異なり、本稿はそれらの間の因果関係を示すものではない。

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