相互住宅(第一ライフ丸紅リアルエステートのグループ会社)は2026年9月30日、広島市中区銀山町14番18号で既存のRC造5階建オフィスビルをホテルへ転用する既存棟34室と、隣接する機械式駐車場跡に新築するS造5階建の新棟20室を組み合わせた、合計54室・延床3,366.74㎡のアパートメントホテル開発に匿名組合出資したと発表した。同じ銀山町の相生通り沿いでは、丸紅都市開発と東急不動産が20階建・286室のホテルを2026年11月に着工する。本稿では「転用棟+新築棟」を1敷地で組み合わせる事業構造を工事費と床の使い方から分解し、敷地を中心とする半径1km圏の客室ストックと開業パイプライン、中区の推定成約ADR24か月、ブッキングカーブから、この2案件・340室を市場がどう受け止めるかを読む。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設が主要予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREIT(インヴィンシブル投資法人)が開示する物件別実績との照合(184物件月・2026年4〜5月)で誤差中央値は約7.5%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)で、N(対象施設数)を併記します。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本稿の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は、総客室の30%以上を主要予約サイトに掲載する施設で構成した固定コホートで算出しており、施設全体の実稼働率とは異なります。
- ブッキングカーブ/LT(リードタイム):チェックイン日に向けた残室数の推移。LT=チェックイン日までの日数で、本稿はLT45〜LT1の観測点のみを使います。
- 1km圏の客室ストック:銀山町14-18(国土地理院の住所検索による座標 北緯34.3912度・東経132.4674度)を中心とする半径1kmに立地し、各年末時点で開業済み・閉館前の施設の客室数合計。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース)、国土交通省 不動産情報ライブラリ、経済センサス、国土数値情報、各社プレスリリース
- — +3.1% 銀山町の2案件340室(転用34+新築20+新築286)は、銀山町14-18を中心とする半径1km圏のストック10,857室(106軒・2026年)に対する増分。54室単独なら+0.5%。
- — 1,936室以上(+17.8%) 同じ1km圏で客室数が判明している開業計画10件の合計。うち2028年竣工・開業分が1,136室で、広島駅南口側に大型が集中する。
- — 1室あたり工事費1,342万円と3,101万円 転用(改修費坪60万円)と新築S造(坪240.5万円)の試算。転用+新築の組み合わせは全新築より約36%少ない。
- — ¥12,274(N=64) 中区の2026年8月の推定成約ADRで、前年同月比-4.8%。直近12か月平均は¥10,046で、単価の伸びは一服している。
- — 必要ADR¥14,500 利回り5.0%・改修費坪60万円の基準ケース。中区平均の1.44倍だが、福岡市博多区の平均¥14,314とほぼ同水準で、ビジネスホテル2室分より低い。
エグゼクティブサマリー — 銀山町の2案件340室は1km圏ストックの+3.1%、54室単独なら+0.5%
結論を先に置く。銀山町の2案件が持ち込む340室は、敷地を中心とする半径1km圏の客室ストック10,857室(106軒・2026年)に対して+3.1%にあたり、相互住宅が出資した54室だけなら+0.5%にとどまる。1km圏のストックは2012年の6,861室から2026年の10,857室へ14年で+58%増えており、市場はすでに年平均+3%前後の供給を吸収してきた。銀山町の2案件が同時に開業しても、この圏域が経験してきた供給ペースの範囲に収まる。
一方で、案件の中身は対照的である。相互住宅案件は既存棟が1室あたり延床73.9㎡、新棟が42.6㎡と、中区のビジネスホテル(建築計画ベースで1室あたり22〜38㎡)の2〜3室分の床を1室に充てるアパートメント型で、286室案件は1室あたり48.2㎡のフルスペックなホテルである。中区の推定成約ADRは2026年8月が¥12,274(N=64)で前年同月の¥12,890から-4.8%、直近12か月(2025年9月〜2026年8月)の平均は¥10,046(N=56〜64)だった。単価の伸びが一服した局面での投資であり、床の広さを連泊・グループ需要の単価に変換できるかが、転用棟の勝負どころになる。
2案件の中身 — 転用34室+新築20室の54室と、相生通りの20階286室
まず一次情報を整理する。相互住宅のリリース(2026年9月30日)によると、合同会社が2026年9月30日に既存オフィスビルと隣接地の信託受益権を取得し、相互住宅が同29日に匿名組合出資を行った。アセットマネジメントは丸紅アセットマネジメントが担う。出資額と開業時期はリリースに記載がなく、本稿でも推定しない。286室の案件は2026年5月にAND BUILD HIROSHIMAが建築計画のお知らせを、中国新聞が開発概要を報じており、2026年11月着工・2028年12月竣工、2028年末から2029年初めの開業を目指すとされる。
| 項目 | (仮称)広島銀山町ホテル開発プロジェクト 既存棟 | 同 新棟 | (仮称)広島市中区銀山町HOTEL PROJECT |
|---|---|---|---|
| 所在地 | 中区銀山町14番18号(銀山町電停 徒歩約4分) | 中区銀山町4-17(相生通り沿い) | |
| 事業形態 | 既存RC造5階オフィスをホテルへ転用 | 機械式駐車場跡地にS造5階を新築 | 新築(S造・地上20階・高さ71.5m) |
| 客室数 | 34室 | 20室 | 286室 |
| 延床面積 | 2,514.21㎡ | 852.53㎡ | 13,775.45㎡ |
| 1室あたり延床 | 73.9㎡ | 42.6㎡ | 48.2㎡ |
| 敷地面積 | 1,041.57㎡(合計54室・延床3,366.74㎡) | 1,184.70㎡ | |
| 事業主体 | 合同会社(信託受益権を2026年9月30日取得)/相互住宅が匿名組合出資/AM:丸紅アセットマネジメント | 丸紅都市開発・東急不動産/運営:SHRホテルズ | |
| 時期 | 開業時期・出資額は非公表 | 2026年11月着工・2028年12月竣工予定 | |
数字で目を引くのは1室あたり延床の差である。既存棟は73.9㎡で、オフィスの階高と柱スパンをそのまま使って大きめの客室を割り付ける構成が読み取れる。新棟は42.6㎡で、こちらも中区のビジネスホテルの水準(後述)を上回る。同じ町の286室案件は48.2㎡と、ロビーやレストラン、宴会・会議機能を含む20階建の標準的なフルスペックホテルの値に近い。つまり、片方は「床を広く使うアパートメント型」、片方は「客室数で規模を取るホテル」であり、同じ銀山町でも狙う需要が重ならない。
なぜ「転用棟+新築棟」か — 1室あたり工事費は転用1,342万円・新築3,101万円の試算
転用と新築を同じ敷地で組み合わせる理由は、工事費の算術に表れる。オフィスからホテルへの転用工事は、既存躯体を残すため躯体・基礎の費用が発生せず、内装・設備・避難区画の改修が中心になる。当サイトのオフィス転用の分岐点ADRと用途変更の成立条件の記事では改修費を坪40〜80万円のレンジで置き、基準を坪60万円としている。一方、新築の建築費は建築着工統計を集計した公開資料(archi-book 2026年版・2025年データ)でS造が坪240.5万円と構造別で最も高く、全国のホテル建築費は2024年から2年連続の上昇で過去最高水準にある。
この単価を銀山町案件の床に当てると、既存棟2,514.21㎡(761坪)の改修費は坪60万円で4.56億円、1室あたり1,342万円になる。新棟852.53㎡(258坪)はS造坪240.5万円で6.20億円、1室あたり3,101万円である。もし54室すべてを新棟と同じ床効率(42.6㎡/室)で新築すると延床は約2,302㎡・16.75億円が必要で、1室あたり3,101万円。転用棟と新築棟の組み合わせ(工事費計10.77億円・1室あたり1,994万円)は、全新築の約36%減で、しかも既存棟の客室は74㎡と広い。土地と既存建物の取得価格は非公表のため、ここでは工事費だけを比べている。新築の1室あたり建設費が宿泊特化・シティ・上級型の3層に分かれる構造は、ホテル建設費は1室870万〜7,140万円で12商圏の成立ADRとともに整理している。
工期の面でも組み合わせは合理的である。既存棟は解体を伴わないため、確認申請(用途変更)から内装工事へ直接進める。新棟は敷地の一部(機械式駐車場跡)に限られ、既存棟の工事と並行できる。当社の建築計画データベースには、銀山町14-13・S造5階・延床852㎡・20室の新築計画が竣工予定2027年10月として登録されており、新棟に相当するとみられる。ただし開業時期はリリースで非公表であり、本稿はこの登録値を開業予定として扱わない。
非新築の供給が増えていること自体は全国的な流れである。当サイトが着工統計5,707件を分解した非新築比率の記事では、ホテル供給の16.7%が増築・改築だった。ただし転用(用途変更)は着工統計の新築にも改築にも表れにくく、統計上の供給には出てこない客室が市場に加わる点は、供給を数える側が意識しておく必要がある。
1km圏の客室ストックとパイプライン — 10,857室に対し、登録済み計画は11件・1,936室以上
供給の受け皿を測る。銀山町14-18を中心とする半径1kmは、東は広島駅南口の的場町・松原町、西は八丁堀を含み紙屋町の手前、南は平和大通りの南側までを含む。この圏域の客室ストックは2012年の6,861室(68軒)から2026年の10,857室(106軒)へ増えた。2018〜2020年に3年で1,637室(年平均約550室)の増加が続き、2021〜2024年はほぼ横ばい、2025〜2026年に再び増えている。銀山町の2案件340室は、2019年1年分の増加量(+339室)に相当する。
ここに今後の開業計画を重ねる。当社の建築計画データベースから、同じ1km圏で竣工または開業予定が2026年10月以降の計画を抽出し、同一敷地の重複を除いたものが次の表である。客室数が判明している10件で1,936室、現在ストックの+17.8%にあたる。銀山町の2案件はこのうち306室で、パイプライン全体の16%を占める。
| 計画名 | 所在 | 規模 | 客室 | 時期 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| (仮称)広島銀山町ホテル開発プロジェクト 新棟 | 銀山町14-18(約23m) | S造5階 | 20室 | 2027年10月(建築計画DB登録値) | 既存棟34室は転用のため着工統計上の新築には計上されない。開業時期は非公表 |
| (仮称)広島市中区銀山町HOTEL PROJECT | 銀山町4-17(相生通り)(約201m) | S造20階 | 286室 | 2028年12月竣工予定 | 丸紅都市開発・東急不動産、運営SHRホテルズ。2026年11月着工予定 |
| リーガグラン広島 | 東平塚町4-7(約387m) | 17階 | 168室 | 2028年6月末開業予定 | ロイヤルホテル運営。ツイン24〜30㎡中心 |
| (仮称)HOTEL 平和 GRIT | 三川町9-5(約498m) | 14階・延床2,051㎡ | 未登録 | 2027年6月(建築計画DB登録値) | 客室数は未登録 |
| コートヤード・バイ・マリオット広島 | 三川町(約529m) | 17階 | 183室 | 2027年開業予定 | マリオット・インターナショナル。開業月は非公表 |
| (仮称)PIECE 広島 | 八丁堀6(約646m) | 12階・延床2,688㎡ | 46室 | 2026年11月(建築計画DB登録値) | |
| voco広島 | 南区的場町1-1(約687m) | 18階 | 301室 | 2028年開業予定 | IHG・サムティ。旧ホテルセンチュリー21広島跡地。当初の2027年下半期から変更(山下PMC、2026年1月15日) |
| (仮称)広島朝日ビル跡地ビル(KAMIHACHI X)内 アンダーズ 広島 | 基町13-1(約708m) | 31階(ホテルは21〜31階) | 235室 | 2027年開業予定 | ハイアットのラグジュアリーブランド。オフィス・駐車場との複合。全235室(2025年10月27日の事業者発表) |
| アパホテル〈広島駅前通〉 | 南区的場町1-2-24(約723m) | 19階・延床6,570㎡ | 316室 | 2027年11月開業予定 | アパグループ発表(2026年9月29日)で全316室 |
| EN HOTEL Hiroshima Ekimae(アパホテル〈広島駅前〉建替) | 南区松原町10-17(約800m) | 14階・延床約3,834㎡ | 201室 | 2028年3月開業予定 | 当初253室からツイン中心201室へ計画変更 |
| (仮称)変なホテル広島駅南口 | 南区松原町10-13(約833m) | 14階 | 180室 | 2028年11月(建築計画DB登録値) | |
| 合計(客室数判明分) | 1,936室 | 現在ストック10,857室の+17.8% | |||
パイプラインの分布には偏りがある。広島駅南口側(的場町・松原町)に301室・316室・201室・180室と大型が並び、平和大通り側に168室、銀山町に286室と20室、八丁堀に46室が加わる。当サイトの広島ホテル供給二極化で描いた「八丁堀×広島駅前」の構図は、銀山町の2案件が加わっても変わらない。むしろ、その中間に位置する銀山町で転用型のアパートメントホテルが出てくることは、大型のビジネス・シティ供給と客室タイプで重ならない受け皿が増える意味を持つ。
中区の推定成約ADR 24か月 — 2026年8月¥12,274(N=64)、前年同月比-4.8%
受け皿となる需要の価格水準を、中区の推定成約ADRで24か月(2024年10月〜2026年9月)たどる。確定月(2026年8月まで)で見ると、2025年は8月の¥12,890をピークに11月¥12,550、翌1月¥7,593と季節の山谷が大きく、2026年は5月¥11,147、8月¥12,274と推移した。前年同月比では6月-13.1%、7月+0.3%、8月-4.8%で、夏場の単価は前年並みからやや下の水準にある。直近12か月平均は¥10,046(N=56〜64)である。
2026年9月は¥11,471(現時点の掲載水準からの推定、N=62)で、10月は¥14,076、11月は¥14,012と秋の行楽期に向けて掲載水準が上がっているが、これらは確定月と同じ基準では比較できないため、チャートでは9月を別の点として示すにとどめる。
| 区分 | 2025年8月 | 2026年8月 | 前年同月比 | 直近12か月平均 | N |
|---|---|---|---|---|---|
| 中区 全業態 | ¥12,890 | ¥12,274 | -4.8% | ¥10,046 | 56〜64 |
| ビジネスホテル | ¥12,500 | ¥12,273 | -1.8% | ¥9,843 | 48〜53 |
| シティホテル | ¥17,628 | ¥15,477 | -12.2% | ¥14,340 | 7 |
ビジネスホテルの直近12か月平均は1万円前後、シティホテルは1万5千円前後で、中区の単価は業態でおよそ1.5倍の差がある。アパートメント型の転用棟が74㎡の客室を売る場合、比べる相手はビジネスホテル1室ではなく「ビジネスホテル2室分」の価格(2名2室で2万円台)であり、そこに家族・グループの連泊需要が乗るかどうかが、後述の必要ADRの成否を分ける。なお、掲載価格ベースの施設数は2026年6月に全国的な母集団拡大で段差があるため、施設数の増減を需要や供給の変化として読まないでほしい。
ブッキングカーブ LT45→1 — 中区は45日前65.9%から直前90.8%へ、ビジネスは直前91.4%
需要の厚みは、チェックイン日に向けて在庫がどう消化されるかで測れる。2026年9月の宿泊日を対象に、中区の全施設(対象59施設/客室5,256室・主要予約サイト掲載ベース)とビジネスホテル(対象32施設/客室4,517室)の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)をLT45からLT1まで並べると、全施設は45日前65.9%、30日前71.3%、14日前80.4%、7日前84.6%、直前90.8%と、直前2週間で約10pt積み上がる形をしている。ビジネスホテルは45日前65.4%から直前91.4%で、全施設とほぼ同じ軌道である。8月(全施設 対象57施設/5,168室)も45日前64.8%・直前89.6%と大差はない。
このカーブには2つの含意がある。第一に、45日前の時点で在庫の3分の1がまだ残っており、直前で埋まる市場である。ビジネス出張と週末の観光・イベント需要が短いリードタイムで入る構造で、当サイトが広島のブッキングカーブ定点分析で示した形と整合する。第二に、アパートメント型が狙う連泊・グループ需要はリードタイムが長い傾向にあるため、直前型の市場に「早く決まる客室」を持ち込むことになる。既存の54室が直前まで残る在庫と競合する場面は限られる。
連泊・グループ需要の手掛かりとして、中区の宿泊者口コミを見ておく。ホテルバンク編集部が直近24か月の口コミをNLP解析した結果では、中区で「連泊・長期滞在」の言及が最も多い施設で言及率3.6%(N=110件)、「友人・グループ旅行」は同0.9%(N=32件)と、いずれも全体に占める比率は小さい(出典:ホテルバンク編集部調べ、NLP解析)。既存の中区市場では連泊・グループの受け皿が薄く、74㎡の客室はこの空白に入る。
客室規模×推定ADRのポジション — 20〜60室帯は8軒・中央値¥9,415、54室案件はこの帯に入る
1km圏の既存施設を客室数と推定成約ADR(直近12か月平均)で散布すると、市場の構造が見える。価格が観測できた48軒(8,338室)の中央値は¥11,180で、150室超の25軒の中央値は¥11,502、20〜60室帯の8軒の中央値は¥9,415である。小規模帯には¥6,000〜9,700の宿泊特化型と、¥15,700〜24,200のデザイン系・上位ビジネスが混在し、その間の¥10,000〜15,000に施設が少ない。54室の転用棟+新棟がこの帯で、しかも「1室で2〜4名」の単価を取りにいく構図である。
散布図の右上にはフルサービス型が並ぶ。ヒルトン広島(420室・2022年開業)が最も高く、ホテルグランヴィア広島サウスゲート、ANAクラウンプラザホテル広島が続く。右下には駅前の大型宿泊特化型が集まり、単価は¥8,000〜12,000に収まる。銀山町の286室案件は、規模ではこの右側の集団に入り、単価は運営のSHRホテルズが展開するブランドのポジションで決まる。54室案件は左側の小規模帯で、既存の小規模施設とは客室の広さで差別化される。
立地:半径1kmに従業者97,794人・居住34,000人 — 業務地と歓楽街の境目
銀山町は八丁堀・胡町の商業地と流川・薬研堀の歓楽街、そして広島駅へ向かう業務地の境目にある。経済センサス(2021年活動調査)を国勢調査2020の小地域で集計すると、銀山町14-18から半径1kmには事業所8,568か所・従業者97,794人が立地し、うち事務所系(情報通信・金融保険・不動産・学術専門技術・その他サービス)の従業者は25,263人で全体の25.8%を占める。平日の出張需要が単価の土台にあり、ビジネスホテルの直前型ブッキングカーブと整合する。
居住人口は国土数値情報の250mメッシュ将来推計で見ると、半径1km・48メッシュに2020年34,000人が住み、2025年推計34,391人、2040年推計33,812人(2020年比-0.6%)とほぼ横ばいである。生産年齢人口比率は67.0%、高齢比率は22.6%で、都心居住が続く商圏である。居住人口は国勢調査ベースの夜間人口であり、滞在人口や通過人口ではない。
地図で見ると、銀山町の南(薬研堀・田中町)と北東(幟町・上幟町)に居住人口の厚いメッシュがあり、銀山町そのものは業務・商業の床が支配的である。ホテルの周辺に夜間人口が残っていることは、飲食・小売が夜も営業し続ける条件であり、連泊客が街で過ごす前提になる。
用途地域・容積率・浸水想定 — 2敷地とも商業地域、容積率は500%と900%、想定最大規模で浸水深3〜5m
| 項目 | 銀山町14-18(54室案件) | 銀山町4-17(286室案件) |
|---|---|---|
| 用途地域 | 商業地域 | 商業地域 |
| 指定容積率/建蔽率 | 500%/80% | 900%/80% |
| 防火指定 | 防火地域(近隣の地価公示標準地の記載による) | |
| 洪水浸水想定(想定最大規模) | 太田川・旧太田川・元安川の浸水想定区域内、浸水深ランク3(3.0m以上5.0m未満) | |
| 最寄りの地価公示(2026年1月1日) | 弥生町3-1:505,000円/㎡(前年比+9.1%、約100m) | 胡町3-12:1,410,000円/㎡(+8.5%、約270m) |
| 最寄りの基準地(2026年7月1日) | 幟町14-8:2,940,000円/㎡(+6.1%、約270m) | |
2敷地はいずれも商業地域で、ホテル用途に制約はない。容積率は54室案件の敷地が500%、286室案件の相生通り沿いが900%で、この差が5階建と20階建という建物の高さの差にそのまま表れている。既存棟を転用する54室案件は容積を使い切る必要がなく、既存の床をどう割り付けるかに設計の重心がある。
浸水想定は共通の確認事項である。太田川デルタの都心部は想定最大規模の洪水で浸水深3.0〜5.0m未満の区域に入り、これは2敷地に限らず八丁堀・紙屋町・広島駅周辺の多くの商業地に共通する。1階の受付・機械室の配置、非常用電源の設置階、BCPの観点で、既存棟の1階をどう使うかは転用計画の設計項目になる。地価は弥生町の標準地が前年比+9.1%、胡町が+8.5%、幟町の基準地が+6.1%と、都心商業地の上昇が続いている。
開発シナリオ試算 — 工事費ベースの必要ADRは¥13,100〜16,000、中区ビジネス2室分より低い
出資額と取得価格が非公表のため、ここでは公開情報で置ける前提だけで簡易試算を行う。土地は最寄りの地価公示(弥生町3-1、505,000円/㎡)に敷地1,041.57㎡を掛けた5.26億円を参考値とし、既存建物の取得価格はゼロと置く(実際の取引価格は公示地価と異なり、既存建物にも対価が生じるため、必要ADRはこれより上振れする)。工事費は前述の改修費坪40・60・80万円と新築S造坪240.5万円、期待利回りは4.5〜5.5%、稼働率80%(通年・試算上の仮定値)、NOI率35%(アパートメント型の省人員運営を想定)、54室・年間365日で計算した。
| 期待利回り\改修費 | 坪40万円(総投資14.5億円) | 坪60万円(同16.0億円) | 坪80万円(同17.5億円) |
|---|---|---|---|
| 4.5% | ¥11,800 | ¥13,100 | ¥14,300 |
| 5.0% | ¥13,100 | ¥14,500 | ¥15,900 |
| 5.5% | ¥14,500 | ¥16,000 | ¥17,500 |
基準ケース(利回り5.0%・改修費坪60万円)の必要ADRは¥14,500で、中区全業態の直近12か月平均¥10,046の1.44倍、ビジネスホテルの平均¥9,843の1.47倍にあたる。1室あたりで見れば市場より高いが、既存棟の客室は74㎡で、ビジネスホテルの2〜3室分の床を持つ。2名2室で¥20,000前後になるビジネスホテルの価格と比べれば、1室¥14,500は家族・グループにとって割安に映る水準であり、アパートメント型がこの帯を取りにいく余地は十分にある。新棟の建築費を2027年半ばのインフレ(2026年+5.3%、2027年+5.0%の半年分)で織り込むと坪259.6万円・6.69億円となり、基準ケースの必要ADRは¥15,000へ約¥500上がる。
感度で効くのは改修費よりも土地・既存建物の取得価格である。改修費が坪20万円動いても必要ADRは¥1,400前後しか動かないが、取得価格が公示地価の1.5倍なら必要ADRは¥2,400程度上がる。転用型の投資で出資者が最も注視すべきは、既存ビルをどの価格で仕入れたかという入口の条件であり、これは銀行店舗跡の転用で示した構造と同じである。本稿は土地を公示地価で置いたが、商業地の実際の取引価格は公示地価の中央値0.86倍・上位25%で1.19倍と幅があり、用地単価をどのデータで置くかは商業地の取引価格と公示地価の照合(10商圏394件)で検証している。
他都市との比較 — 必要ADR¥14,500は博多区の平均並み、中国・四国の県都では1.5〜1.8倍
基準ケースの必要ADR¥14,500が市場にとってどの程度の水準かを、西日本の主要都市・区の推定成約ADRと並べて確かめる。直近12か月(2025年9月〜2026年8月)の平均で見ると、中区の¥10,046に対し、福岡市博多区は¥14,314で、必要ADRとの倍率は1.01倍とほぼ同水準である。一方、同じ広島市の南区(広島駅南口側)は¥9,412で1.54倍、岡山市北区・北九州市小倉北区・高松市は¥7,900〜8,300で1.76〜1.83倍、松山市は1.46倍となる。中区は中国・四国の県都のなかでは単価が高い側にあるが、博多区の水準には届いていない。
| 都市・区 | 直近12か月平均 | 2026年8月 | N(施設数) | 必要ADR¥14,500との倍率 |
|---|---|---|---|---|
| 広島市中区(本稿の対象) | ¥10,046 | ¥12,274 | 56〜64 | 1.44倍 |
| 広島市南区 | ¥9,412 | ¥11,944 | 23〜24 | 1.54倍 |
| 岡山市北区 | ¥7,939 | ¥9,226 | 46〜50 | 1.83倍 |
| 福岡市博多区 | ¥14,314 | ¥13,520 | 142〜150 | 1.01倍 |
| 北九州市小倉北区 | ¥8,220 | ¥8,223 | 29〜30 | 1.76倍 |
| 松山市 | ¥9,963 | ¥11,114 | 85〜90 | 1.46倍 |
| 高松市 | ¥8,188 | ¥9,014 | 67〜73 | 1.77倍 |
この比較から読めるのは、1室¥14,500という水準が「広島では高いが、九州最大の出張・観光市場では平均的」という位置にあることである。54室案件が74㎡の客室を2〜4名で売る前提なら、1名あたりでは中区のビジネスホテルを下回る。単価の上振れ余地を博多区並みに見るか、広島駅南口側の南区並みに見るかで、基準ケースの達成難度は大きく変わる。
出資者・ビルオーナーのチェックポイント — 供給集中、単価の一服、浸水想定
| 項目 | 現状 | 読み方 |
|---|---|---|
| 1km圏の供給 | ストック10,857室に対し登録済み計画1,936室以上(+17.8%)、うち2028年竣工が1,136室 | 2018〜2020年の年平均約550室増を吸収した市場だが、2027〜2028年は駅前と平和大通りに大型が重なる。アパートメント型は客室タイプで棲み分けられる |
| 推定成約ADR | 中区 2026年8月¥12,274(前年同月比-4.8%)、直近12か月平均¥10,046 | 単価の伸びは一服。連泊・グループの単価設計で1室あたりの取り分を確保する余地がある |
| ブッキングカーブ | 45日前65.9%→直前90.8%(9月、対象59施設/5,256室) | 直前型の市場。リードタイムの長い連泊需要は既存在庫と競合しにくい |
| 浸水想定 | 想定最大規模で3.0〜5.0m未満(太田川・旧太田川・元安川) | 都心商業地に共通。既存棟1階の用途と非常用電源の設置階を設計で織り込む |
| 取得条件 | 出資額・取得価格・開業時期は非公表 | 必要ADRの感度は工事費より取得価格に大きく効く |
まとめ — 転用と新築を1敷地で組む構造は、床の広さと工事費の両方で合理的
銀山町の2案件は、同じ町で同じ時期に動く計画でありながら、供給としての意味が異なる。286室案件は1km圏ストックの+2.6%を規模で持ち込み、54室案件は+0.5%にすぎないが、1室あたり延床74㎡と43㎡という床の使い方で、既存市場に薄い連泊・グループの受け皿を作る。転用棟と新築棟の組み合わせは、工事費ベースで全新築の約36%減、工期は並行施工で圧縮でき、既存躯体の階高がそのまま客室の広さになる。
受け皿の側は、1km圏10,857室が14年で+58%の供給を吸収し、中区の推定成約ADRは直近12か月平均¥10,046、8月は前年同月比-4.8%と単価の伸びが一服した局面にある。基準ケースの必要ADR¥14,500は市場平均の1.44倍だが、ビジネスホテル2室分より低い。開発型エクイティの出し手にとって、転用型のリターンは工事費より入口の取得価格で決まり、ビルオーナーにとっては、容積を使い切らない5階建のオフィスでも、階高と立地があればホテルの床に変わることを、この案件は示している。
よくある質問
Q. 銀山町の2案件で1km圏の客室はどれくらい増えますか?
銀山町14-18を中心とする半径1kmの客室ストックは2026年時点で10,857室(106軒)です。相互住宅が出資した54室と相生通りの286室を合わせた340室は+3.1%、54室だけなら+0.5%にあたります。1km圏で登録されている開業計画全体では1,936室以上(+17.8%)です。
Q. オフィスの転用と新築を組み合わせる利点は何ですか?
既存躯体を残す転用は躯体・基礎の費用が不要で、改修費坪60万円なら1室あたり約1,342万円、新築S造は坪240.5万円で1室あたり約3,101万円という試算になります。54室を全て新築した場合と比べ、工事費は約36%少なく、既存棟は1室あたり延床74㎡の広い客室になります。
Q. 開業時期や出資額は分かりますか?
相互住宅のリリースには開業時期と出資額の記載がなく、本稿では推定していません。286室案件は2026年11月着工・2028年12月竣工予定で、2028年末から2029年初めの開業を目指すと報じられています。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADR・ブッキングカーブ・1km圏客室ストック・価格観測施設は、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが主要予約サイトの掲載価格・在庫から集計したデータ(2026年9月30日時点)。開業パイプラインは建築物動態統計調査ほかの建築計画情報と各社リリース、用途地域・浸水想定・地価は国土交通省 不動産情報ライブラリ、従業者数は経済センサス-活動調査(2021年)、居住人口は国土数値情報の250mメッシュ将来推計による。
■ 試算前提
1km圏は銀山町14-18(北緯34.391159度・東経132.467361度)を中心とする半径1km。必要ADR=期待利回り(4.5〜5.5%)×総投資額÷(54室×365日×稼働率80%〈通年仮定〉×NOI率35%)。総投資額は土地(地価公示 弥生町3-1 505,000円/㎡×敷地1,041.57㎡)+改修費(坪40・60・80万円×既存棟761坪)+新築費(S造坪240.5万円×新棟258坪)。既存建物の取得価格はゼロ、FF&E・設計監理費・開業費は含まない。他都市比較は各都市・区の全業態の直近12か月平均。
■ 限界・留意点
出資額・取得価格・開業時期は非公表で、本稿は推定していない。推定成約ADRは掲載価格に業態別の補正を加えた推定値で、実際の成約価格とは異なる。稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は施設全体の実稼働率ではない。パイプラインの「建築計画DB登録値」の時期は調査時点の登録値で、今後変わり得る。2026年9月以降のADRは掲載水準からの推定で、確定月とは基準が異なる。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(広島市中区、N=56〜64施設)、1km圏客室ストック(106軒・10,857室)、ブッキングカーブ・稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)、建築計画データベース(2026年9月30日時点)
- ホテルバンク編集部調べ(NLP解析) — 広島市中区の宿泊者口コミ、直近24か月
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 用途地域、洪水浸水想定区域(想定最大規模)、地価公示(令和8年1月1日)・都道府県地価調査(令和8年7月1日)
- 国土交通省 国土数値情報 — 250mメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)、洪水浸水想定区域データ(浸水深ランク定義)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)、境界=国勢調査2020小地域(e-Stat統計GIS)
- 国土交通省「建築物動態統計調査」ほか建築計画情報(建築計画データベース)
- 国土地理院 住所検索 — 銀山町14番18号の座標
■ 業界レポート・建設費
■ ニュース・プレスリリース
- 相互住宅「広島ホテル案件への開発型エクイティ投資について」(PR TIMES、2026年9月30日)
- AND BUILD HIROSHIMA「(仮称)広島市中区銀山町HOTEL PROJECT 2026.05(Vol.1)」
- 中国新聞デジタル「広島市都心に20階建て新ホテル、東京の丸紅都市開発が開業へ」
- 建設通信新聞「【広島市】相生通り沿いにホテル1.3万㎡を計画/丸紅都市開発」
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⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事で2026年9月以降として示した推定成約ADRは、調査時点で主要予約サイトに公開されている販売価格の水準に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。確定月(2026年8月まで)の値とは基準が異なるため、両者を直接比較しないでください。
