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ホテル浦島の40億円改装は1室1,096万円 — 那智勝浦の推定成約1.29万円と再生投資の採算

投稿日 : 2026.10.22

和歌山県

投資・開発

ホテル浦島の40億円改装は1室1,096万円 — 那智勝浦の推定成約1.29万円と再生投資の採算

日本共創プラットフォーム(JPiX)が2023年12月に創業家から全株式を取得したホテル浦島(和歌山県那智勝浦町・4館365室)は、2026年12月の開業70周年に向けて約40億円の複数年改装を進め、8月1日に第1期となる日昇館を再開した。約40億円を365室で割ると1室あたり1,096万円になり、上場ホテルREIT6社が1室あたり年6.2万〜63.6万円を投じる日常の再投資とも、1室2,441万円が中央値となる取得単価とも違う位置にある。本稿では、この投資額を既存の物差しに並べたうえで、那智勝浦町の推定成約ADR(12か月平均¥12,900・対象15施設)と季節性、「定員を減らして単価を上げる」客室設計の感度、勝浦港周辺の客室ストックと商圏、2025年に11万人泊を超えた町の外国人宿泊から、大型温泉ホテル再生投資の採算を読み解く。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)で、本稿の12か月平均は2025年10月〜2026年9月の月次値の単純平均です。2026年10〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定です。
  • 掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)、素泊まりから食事付きまで全プランの平均。本稿で「掲載価格」と明記した箇所のみ。
  • 1室あたり投資額:公表された投資額を客室数で割った値。改装の対象客室数は公表されていないため、「全室で割った場合」の目安として示します。
  • 客室ストック:ホテル浦島を中心とする半径3km圏で、名寄せ後に直近3か月(2026年7〜9月)に販売価格の観測がある施設の客室数合計。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA上で稼働が確認できる国内約27,000施設・約126万室を分析対象)、国土交通省 国土数値情報、総務省・経済産業省 経済センサス、和歌山県「令和7年観光客動態調査(速報値)」、トラベルボイス、内閣官房 中堅企業ビジョン検討会資料。
改装投資額
約40億円
複数年・経産省補助金を活用
1室あたり(全室換算)
1,096万円
365室で割った場合
那智勝浦町 推定成約ADR
¥12,928
12か月平均・対象15施設
同 2026年8月
¥16,819
前年同月比+26.6%
3km圏 客室ストック
1,036室
32施設・浦島が35.2%
町の外国人宿泊 2025年
114,821人泊
前年比+42.3%
Key Takeaways
  • — 1室1,096万円:約40億円を現在の365室で割った全室換算値(取得時の391室なら1,023万円)。REIT6社の年間Capex(1室6.2万〜63.6万円)とは桁が違い、取得単価中央値2,441万円の45%、新築建築費(1室3,953万〜5,271万円)の2〜3割にあたる。
  • — 那智勝浦町の推定成約ADRは¥12,900(2025年10月〜2026年9月の12か月平均・対象15施設、前年比+6.4%)。2026年8月は¥16,800で6月の1.77倍、旅館9施設に限ると¥17,100(+20.2%)。
  • — ホテル浦島自身は¥21,200と町の1.6倍で、前の12か月から+37%。客室数は取得時から26室(6.6%)減っており、定員を4〜5名から約3名に絞っても平均利用人数2.3名は新定員の内側に収まる。
  • — 回収は6.0年が目安:RevPAR+¥10,000・営業利益への転換率50%の簡易試算(転換率40〜60%で7.5〜5.0年、+¥5,000なら10〜15年)。税・金利・補助金・休館中の逸失売上は含まない。
  • — 3km圏1,036室の35%を1館で持ち、町の外国人宿泊は2025年に114,821人泊(+42.3%)。半径1.5km圏の居住人口は2040年に2025年比−29.1%で、域外需要に依存する立地である。

承継と再生のスキーム — 投資会社が株式を取得し、複数年で器を更新する

まずは、この改装がどのような器の上で進んでいるかを整理したい。トラベルボイスの2023年12月4日の報道によれば、投資・事業経営会社のJPiXは浦島観光ホテルの全株式を既存株主から譲り受ける契約を結び、同時にグループ会社の経営共創基盤から南紀白浜エアポートの株式93.3%も承継した。譲渡対象の宿泊施設はホテル浦島(当時391室)、万清楼(30室)、山水館川湯みどりや(90室)、川湯まつや(78室)の4施設で、那智勝浦エリア2館と熊野エリア2館を合わせて500室超の運営会社を、空港会社と同じ資本の下に置いた形になる。内閣官房の中堅企業ビジョン検討会(2024年12月)に提出されたJPiXの資料では、同社の売上高は38億円(2024年9月期)、従業員は約230名とされている。

承継後の2年半は、資料の言葉を借りれば「経営の土台作り」から「攻めの投資」への移行期だった。最初の3か月で組織再編と決裁規定の改定、電子稟議の導入を済ませ、1年目にはビュッフェの刷新(2024年7月の「熊野キュイジーヌ」グランドメニュー改定)と標準原価管理、購買システムの導入を進め、その先に「付加価値投資計画の実行」としてフロントDXと基幹システムの刷新、大規模リニューアルを位置づけている。賃上げは2024年10月に全従業員平均7%、非管理職では10%(労働新聞 2024年11月)を実施し、3年で20%を目標に掲げる。トラベルボイスの取材に対し、社長の松下哲也氏は就任後約2年半で施設全体のRevPARが約1万円上昇したと語っており、改装はその収益改善を前提に、メインバンクの紀陽銀行の伴走と経済産業省の成長投資補助金を組み合わせて踏み切った投資だといえる。

ここで注目したいのは、客室数が取得時点の391室から現在の365室へ26室(6.6%)減っている点だろう。日昇館の改装では和室の一部にベッドを入れ、定員4〜5名の客室を約3名の設計に改めている。客室数と定員を同時に絞りながら単価を厚くする、という方向性が数字の上でも確認できる。

1室あたり1,096万円 — REITの年間再投資額・取得単価・新築費と並べる

約40億円を現在の365室で割ると1室あたり1,096万円、取得時点の391室で割れば1,023万円になる。改装の対象客室数は公表されていないため、これは「全室で割った場合」の目安に過ぎないが、他の物差しと並べると投資の位置がはっきりする。上場ホテルREIT6社がIRで開示する直近12か月の資本的支出は、1室あたり年6.2万〜63.6万円(既報)で、取得価格に対する比率は1.48〜1.70%だった。仮にホテル浦島の40億円が3年で執行されるとすれば年365万円/室となり、REITの上限値の5.7倍に相当する。一方で、ホテル特化型7投資法人が国内に保有する300物件の1室あたり取得単価の中央値は約2,441万円(既報)であり、1,096万円はその44.9%にあたる。

新築と比べるとどうか。国土交通省「建築着工統計」の2025年計で、全国の「ホテル又は旅館」の工事費予定額は床面積1㎡あたり約65.9万円(坪あたり約217.8万円)である。温泉ホテルは大浴場や宴会場、送迎船の桟橋のような共用部が厚いため、延床を1室あたり60〜80㎡と置くと、建築費だけで1室3,953万〜5,271万円になる(土地・設備・設計監理を除く本稿の試算)。1,096万円はこの20.8〜27.7%で、「建て替えの2〜3割の資金で器を更新し、客室数は6.6%減らす」のが今回の投資の輪郭だと読める。

出典:トラベルボイス(2026年8月28日)、各REIT決算短信・資産運用報告、国土交通省「建築着工統計」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(新築は延床60〜80㎡/室の本稿試算)

表1 1室あたり投資額の物差し比較
物差し1室あたり備考
上場ホテルREIT6社の年間資本的支出6.2万〜63.6万円/年直近12か月実績、取得価格比1.48〜1.70%
ホテル浦島 約40億円改装(365室で割った場合)1,096万円複数年合計。対象客室数は非公表
同(取得時点の391室で割った場合)1,023万円2023年12月報道の客室数
ホテル特化型7投資法人 国内300物件の取得単価 中央値2,441万円土地・建物・付帯施設を含む
新築の建築費(延床60〜80㎡/室)3,953万〜5,271万円2025年 建築着工統計 217.8万円/坪 × 本稿試算

那智勝浦町の単価と季節性 — 12か月平均1.29万円、8月は1.68万円

投資の回収を支えるのは町の単価水準である。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(対象15施設)で那智勝浦町を見ると、2025年10月〜2026年9月の12か月平均は¥12,900で、前の12か月(¥12,200)から+6.4%伸びた。月別では2026年8月が¥16,800(前年同月比+26.6%)と最も高く、6月の¥9,500が最も低い。8月と6月の比は1.77倍で、海と温泉のリゾートらしい夏型の山を持つ。2026年1〜9月の平均は¥13,100と、2025年同期の¥12,000に対して+9.0%で推移している。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(那智勝浦町・推定成約ADR・対象15施設、2026年10〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定)

業態で切ると、那智勝浦町の旅館(対象9施設)は12か月平均¥17,100で、前年の¥14,200から+20.2%と町全体を上回る伸びを示した。県内の他エリアと並べると、白浜町(対象54〜59施設)が¥15,000(+10.1%)、田辺市(対象28〜30施設)が¥12,000(+1.1%)、和歌山県全体(対象210〜227施設)が¥9,700(+5.4%)となり、那智勝浦町の旅館は白浜町の全体値を上回る水準にある。ホテル浦島自身の推定成約ADRは同じ12か月の平均で¥21,200と、町の全体値の1.6倍、2026年8月単月でも¥20,900と町の¥16,800を24%上回っており、前の12か月(¥15,400)からの伸びは+37%に達する。推定成約ADRの上昇幅は1室あたり約¥5,800で、RevPARが約1万円上がったという社長の発言と方向として整合する動きが、公開価格ベースの推定でも確認できる(RevPARの上昇には稼働の改善も含まれるとみられ、ADRの差だけでは説明しきれない)。県内の秋の価格差で熊野側が白浜を上回る構図は、和歌山の宿泊料金2026秋、熊野側が白浜を上回るで詳しく分析している。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR 2025年10月〜2026年9月の12か月平均、対象施設数は凡例に併記)

定員を減らして単価を上げる — 4〜5名定員を約3名にする設計を数字で読む

日昇館の改装では、和室の一部にベッドを入れた客室の定員が4〜5名から約3名となり、対象客室の定員合計は約24%減った。一方で、トラベルボイスによれば実際の1室あたり利用人数は平均約2.3名である。つまり定員を3名に絞っても、現行の平均利用人数は新しい定員の内側に収まる。旅館型の料金体系では1室の売上は「利用人数 × 1人あたり単価」で決まるため、定員の削減が売上に効くのは満室に近い日の4〜5名利用に限られ、平日の2名利用には影響しない。そのうえで、ベッド化と床面積の余裕が1人あたり単価を押し上げれば、1室あたりの売上は定員を減らしても増える、というのがこの設計の論理だろう。

下の表は1室あたりの売上を利用人数と1人あたり単価の2軸で置いたものである。ホテル浦島の推定成約ADR(12か月平均¥21,200・2名1室基準)を1人あたりに換算すると約¥10,600になり、表の左上の帯がおおむね現在地にあたる。2.3名のまま1人あたり単価を¥12,000から¥14,000へ動かすと1室売上は¥27,600から¥32,200へ+17%、人数が2.6名に増えれば¥36,400となる。ベッド化が狙うシニア層は、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが集計した宿泊者口コミのうち年齢の記載がある941件で50代以上が約7割を占め、1室2名で泊まる層が厚い。定員を削っても取りこぼしが小さい客層構成だと読める。和室にベッドを入れる和洋室化が単価に与える効果の幅については、旅館の和洋室改装、単価差は町の価格帯で+10.8%〜−33.9%も参考になる。

表2 1室売上の感度(利用人数×1人あたり単価)
1室あたり利用人数 \ 1人あたり単価¥10,000¥12,000¥14,000¥16,000¥18,000
2.0人¥20,000¥24,000¥28,000¥32,000¥36,000
2.3人(現行平均)¥23,000¥27,600¥32,200¥36,800¥41,400
2.6人¥26,000¥31,200¥36,400¥41,600¥46,800
3.0人(新定員)¥30,000¥36,000¥42,000¥48,000¥54,000

本稿による試算(1室売上=利用人数×1人あたり単価)。利用人数2.3名はトラベルボイス(2026年8月28日)の報道値。

回収年数の目安 — RevPAR上昇幅と営業利益への転換率

投資の回収を単純化して置いてみる。365室が年間365日稼働できるとして、RevPARが1室1日あたり¥10,000上がれば年間の客室売上は約13.3億円増える。このうち営業利益へ転換する割合を50%と置けば、約40億円の回収は6.0年になる。転換率40%なら7.5年、60%なら5.0年である。社長が語った「就任後約2年半でRevPAR約1万円上昇」は改装前の運営改善で得た分であり、改装後にさらに同程度の上乗せが乗れば、この表の中段が目安になる。もちろん税や借入金利、補助金の効果は織り込んでいない簡易試算で、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要になる。工事期間中の休館による逸失売上を工事費に上乗せして考える実質Capexの見方は、ホテル改装の逸失売上は工事費の32.6% — 実質Capexは1室300万円→398万円が掘り下げている。

表3 回収年数の感度(RevPAR上昇幅×営業利益への転換率)
RevPAR上昇幅(1室1日) \ 営業利益への転換率40%50%60%
+¥5,000(年間客室売上 +6.7億円)15.0年12.0年10.0年
+¥10,000(年間客室売上 +13.3億円)7.5年6.0年5.0年
+¥15,000(年間客室売上 +20.0億円)5.0年4.0年3.3年

本稿による試算(365室×365日×RevPAR上昇幅×転換率で年間の営業利益増加額を置き、40億円÷増加額で回収年数を算出)。

勝浦港周辺の客室ストックと商圏 — 3km圏32施設1,036室、浦島が35%

次に、供給の中での位置を確かめる。ホテル浦島を中心とする半径3km圏に登録のある51施設のうち、同じ所在地で旧名称と新名称が重複している1件を名寄せし、直近3か月(2026年7〜9月)に販売価格の観測がある施設に絞ると、32施設・1,036室が現役の客室ストックになる。このうちホテル浦島の365室は35.2%を占め、2位の亀の井ホテル 那智勝浦(102室)、3位のTAOYA那智勝浦(85室・2025年6月に越之湯からリブランド)とホテルなぎさや(85室)を合わせても浦島1館に届かない。業態別では旅館が658室(63.5%)で、ビジネスホテル144室、リゾートホテル126室、民宿70室が続く。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ホテル浦島中心・半径3km、名寄せ後に2026年7〜9月の価格観測がある32施設)

表4 ホテル浦島中心・半径3km圏の客室数上位12施設
順位施設名客室数業態
1ホテル浦島365旅館
2亀の井ホテル 那智勝浦102旅館
3南紀勝浦温泉 ホテルなぎさや85旅館
4TAOYA那智勝浦85リゾートホテル
5碧き島の宿 熊野別邸 中の島44旅館
6花いろどりの宿 花游41リゾートホテル
7ホテル&レンタカー66041ビジネスホテル
8ビジネスホテル ブルーハーバー37ビジネスホテル
9料理旅館 万清楼30旅館
10パルスイン勝浦29ビジネスホテル
11サンライズ勝浦22ビジネスホテル
12南紀勝浦温泉 海のホテル一の滝21旅館

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(半径3km圏・客室数上位12施設、客室数は施設マスター登録値)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(円の大きさ=客室数、濃色=ホテル浦島、破線=半径1.5km/3km)

商圏の居住人口は小さく、しかも縮む。国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)でホテル浦島を中心とする半径1.5km圏を集計すると、居住人口は2020年の3,791人から2025年に3,434人、2040年には2,435人(2025年比−29.1%)となり、2025年時点の高齢化率は46.1%である。同じ半径の事業所は443か所・従業者2,359人で、オフィス系の従業者は5.2%にとどまる(総務省・経済産業省 経済センサス)。居住人口や業務需要に頼らず、域外からの観光客で365室を埋める立地だという前提が、数字の上でも裏づけられる。これは国勢調査ベースの居住人口であり、滞在人口や通過人口ではない。

出典: 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)(ホテル浦島中心・半径1.5km、居住人口であり滞在人口ではない)

熊野古道・インバウンド需要と70周年以降の投資余地

域外需要の中で伸びているのが外国人宿泊である。和歌山県「令和7年観光客動態調査(速報値)」によれば、2025年の県内宿泊客数は約547万人泊(前年比108.0%)、うち外国人宿泊客数は713,562人泊(同139.8%)で過去最高を更新した。那智勝浦町は114,821人泊(前年比142.3%)で、白浜町(147,547人泊)、和歌山市(144,106人泊)、高野町(117,512人泊)に次ぐ県内4位にあり、伸び率でも主要7市町のうち、みなべ町(383.3%)、和歌山市(151.4%)に次ぐ3番目に高い。内訳は中国52,132人泊、台湾13,235人泊、米国7,825人泊、オーストラリア5,363人泊の順で、アジアが77,848人泊、欧米豪が23,943人泊を占める。熊野那智大社と那智の滝、熊野古道大門坂を抱える町の外国人宿泊が、2024年の80,693人泊から1年で3.4万人泊増えた計算になる。

出典:和歌山県「令和7年観光客動態調査(速報値)」主要市町村別の外国人宿泊客数(国・地域別)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

ホテル浦島のインバウンド比率は2〜3割(社長談)で、町全体の伸びを取り込む余地が大きい。宿泊者の評価に目を移すと、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが集計した直近24か月(2024年10月〜2026年9月)の口コミ3,122件のうち、温泉に言及した口コミは39.7%(1,238件)にのぼり、そのうち肯定的な評価が1,162件と9割を超える。「温泉はピカイチ」「洞窟風呂は圧倒されました」といった声が目立ち、眺望への言及も16.9%と高い。カテゴリ別のスコアでも、浴場(バスルーム)は4.70と和歌山県の同業態平均を0.41上回り、県内で上位1割に入る。洞窟温泉「忘帰洞」という唯一無二の資産に、改装後の客室とレストラン、本館と日昇館・なぎさ館を結ぶ90mの「うみのトンネル」が加わる構図である。

70周年以降の投資余地としては、3つの方向が考えられる。第一に連泊商品で、現状は1泊が大半だとされるが、1泊目と2泊目で異なるレストランを使う連泊パッケージの計画が報じられており、熊野古道の中辺路・大辺路を歩く欧米豪の長期滞在客と相性が良い。第二に平日と閑散期の単価で、町の6月は8月の57%の水準にあり、定員を絞った客室のシニア向け平日需要はこの谷を埋める材料になる。第三に、4館のうち日昇館以外の山上館・なぎさ館・本館の改装で、本稿の1,096万円という全室換算の値は、対象客室が確定するにつれて1室あたりの実額に置き換わっていくだろう。

まとめ — 大型温泉ホテル再生投資の読み方

ここまでを整理すると、ホテル浦島の約40億円は、全室換算で1室1,096万円、REITの年間再投資額(1室あたり年6.2万〜63.6万円)の約17〜177年分にあたる一方、取得単価中央値の45%、新築建築費の2〜3割で器を更新する投資だと位置づけられる。回収を支えるのは、12か月平均¥12,900で前年比+6.4%、8月に¥16,800まで上がる那智勝浦町の単価と、前年比+42.3%で11.5万人泊に達した町の外国人宿泊、そして3km圏の客室ストックの35%を1館で持つ供給上の位置である。定員を4〜5名から約3名に絞る設計は、平均2.3名という実際の利用人数を考えれば取りこぼしが小さく、1人あたり単価の上昇がそのまま1室売上に乗る構造になる。

同じ構図の温泉ホテルを持つ運営者にとって示唆的なのは、改装の前に運営改善でRevPARを積み上げ、その実績を投資の根拠にした順序だろう。賃上げと補助金、地域金融機関の伴走を組み合わせた資金調達も含めて、昭和期に建った大型温泉ホテルの再生モデルとして、70周年を迎える12月以降の単価と稼働の推移を追う価値がある。

よくある質問

Q. ホテル浦島の改装投資は1室あたりいくらですか。
公表された約40億円を現在の365室で割ると1室あたり約1,096万円、取得時点の391室で割ると約1,023万円です。改装の対象客室数は公表されていないため、全室で割った場合の目安になります。

Q. 那智勝浦町のホテル・旅館の推定成約ADRはどの程度ですか。
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(対象15施設)では、2025年10月〜2026年9月の12か月平均が¥12,900、2026年8月が¥16,800です。旅館に限ると12か月平均は¥17,100(対象9施設)でした。

Q. 定員を減らすと売上は下がりませんか。
旅館型の料金では1室の売上は利用人数×1人あたり単価で決まります。報道によれば実際の平均利用人数は約2.3名で、新しい定員の約3名の内側に収まるため、影響が出るのは満室日の4〜5名利用に限られます。1人あたり単価が上がれば1室売上は増えます。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年10〜12月のADRは調査時点でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前の値下げで下落する可能性がある点にご留意ください。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

単価はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(OTA等で公開される最安プラン水準・2名1室・1室あたりに業態別補正を適用した税抜相当の推定値)。那智勝浦町は対象15施設、2025年10月〜2026年9月の月次値の単純平均。客室ストックはホテル浦島中心・半径3km圏で名寄せ後、2026年7〜9月に価格観測がある32施設の登録客室数。口コミは直近24か月の3,122件。投資額・客室数・定員・利用人数・RevPAR上昇幅はトラベルボイス(2026年8月28日)の報道と社長談、外国人宿泊は和歌山県「令和7年観光客動態調査(速報値)」。

■ 試算前提

1室あたり投資額は約40億円を全室(365室、比較として取得時391室)で割った値。改装の年間額は3年均等執行と仮定。新築費は2025年建築着工統計の「ホテル又は旅館」工事費予定額(1㎡約65.9万円)に延床60〜80㎡/室を掛けた建築費のみ。回収年数は365室×365日×RevPAR上昇幅×営業利益への転換率(40〜60%)で年間増益を置き、40億円をそれで割った単純回収年数。1室売上の感度は利用人数×1人あたり単価。

■ 限界・留意点

改装対象の客室数・工期・補助金額は非公表のため、1室あたり投資額は全室換算の目安であり実額ではない。回収試算は税・借入金利・補助金・減価償却・休館中の逸失売上を含まない簡易試算で、RevPAR上昇幅は社長談を参考にした仮定値。推定成約ADRは公開価格からの推定で実際の成約価格・会計数値とは異なり、ホテル浦島のADR上昇とRevPAR上昇(稼働の変化を含む)は同一指標ではない。2026年10〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(那智勝浦町 対象15施設、同旅館9施設、白浜町54〜59施設、田辺市28〜30施設、和歌山県210〜227施設)、半径3km圏の客室ストック(32施設・1,036室)、宿泊者口コミ分析(3,122件・直近24か月)

■ 政府統計・公的データ

■ 既報・業界レポート

■ ニュース・プレスリリース

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