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盛土1m超で知事許可 — 盛土規制法が変えた傾斜地リゾートの造成コストと開業時期2026

投稿日 : 2026.09.03

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投資・開発

盛土1m超で知事許可 — 盛土規制法が変えた傾斜地リゾートの造成コストと開業時期2026

2025年5月26日、盛土規制法(宅地造成及び特定盛土等規制法)の2年間の経過措置が終わった。この日を境に、全国の大半の地域で「土を動かす行為」そのものが知事等の許可対象になった。国土交通省の集計では、経過措置が終わった直後の令和7年6月1日時点で指定済みの規制区域は合計27,034,076ヘクタール、日本の国土面積(約37.8万平方キロメートル)の71.5%にあたり、直近の令和8年4月1日時点では30,900,126ヘクタール(同81.8%)まで広がっている。ホテル開発の文脈でこの変化がもっとも重く効くのは、平地ではなく傾斜地である。本稿では、メトロエンジンリサーチの施設マスターと国土交通省 不動産情報ライブラリの地形分類データを重ね合わせ、主要リゾート13エリア・2,673施設がどのような地形の上に立っているかを定量化したうえで、造成コストと許可プロセスが開発の採算と工程にどう効くかを試算する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 地形分類=国土交通省 不動産情報ライブラリが公開する250mメッシュ単位の地形分類。本稿では「山地・丘陵・火山地系(山地・山麓地・丘陵・火山地・火山山麓地・火山性丘陵)」「台地・段丘・扇状地系(砂礫質台地・ローム台地・扇状地・傾斜のある谷底低地)」「低地・埋立地系(三角州・海岸低地・後背湿地・自然堤防・砂州・埋立地など)」の3区分に整理しています。
  • データ出典:施設・客室数・ADRはメトロエンジンリサーチ、地形分類・大規模盛土造成地・土砂災害警戒区域・都市計画区域は国土交通省 不動産情報ライブラリ。
Key Takeaways
  • — 国土の81.8%(30,900,126ヘクタール・令和8年4月1日時点)が盛土規制法の規制区域。都市計画区域の内外を問わず「土を動かす行為」そのものが許可対象になった。
  • — リゾート13エリア2,673施設の65.7%(1,755施設)が山地・丘陵・火山地系の地形上にあり、22.0%(588施設)は土砂災害警戒区域内に立地する。
  • — 造成関連費は急傾斜地で平坦地の約10倍(770万円→7,870万円)に膨らむが、総投資額に占める割合が小さく、GOP利回りの差は0.4ポイントにとどまる。
  • — 山地系立地の推定成約ADR中央値は¥22,100(N=224施設)で台地系より約9.9%高く、コスト不利の0.4ポイントを0.49ポイント分で打ち返す。
  • — 効くのは時間。開業が2年ずれた場合の建設費上昇も0.4ポイントで、傾斜が生む差と同じ幅。倶知安町・ニセコ町は基礎調査段階、沖縄県は令和8年10月1日運用開始予定。

エグゼクティブサマリー — 国土の81.8%が規制区域に入り、リゾート13エリアの65.7%が山地系地形の上にある

規制区域の国土カバー率
81.8%
30,900,126ha/令和8年4月1日現在
許可の起点(宅造区域)
1m / 500㎡
崖を生ずる盛土/盛土・切土の面積
山地・丘陵系立地の比率
65.7%
リゾート13エリア N=2,673施設
大規模盛土造成地
101箇所
13エリア圏内/谷埋め型86・腹付け型14
宿泊業の工事費単価
¥591,300/㎡
2024年・1㎡あたり(195.5万円/坪)

結論を先に述べる。第一に、盛土規制法の規制区域は都市計画区域の内外を問わず指定される。用途地域も容積率も存在しない山中のリゾート用地でも、盛土によって高さ1メートルを超える崖が生じる、あるいは盛土・切土の面積が500平方メートルを超えれば、知事等の許可が要る。第二に、主要リゾート13エリア・2,673施設・46,684室を地形分類に重ねると、1,755施設(65.7%)が山地・丘陵・火山地系の上に立っている。台地・段丘・扇状地系を足すと94.4%に達する。第三に、造成コストの差そのものは利回りに0.4ポイント程度しか効かない。傾斜地立地の推定成約ADRが台地系より約9.9%高く、この単価差が造成コスト差をほぼ相殺するためである。効いてくるのはコストではなく、許可プロセスに追加される工程と、区域指定のタイミングのほうだ。

なぜ「盛土」なのか — 用途地域でも開発許可でもない、第三の規制軸

ホテル開発の立地規制を語るとき、これまで軸は二つだった。ひとつは都市計画法の用途地域・容積率で、これは「その土地に何をどれだけ建てられるか」を決める。もうひとつは都市計画法29条の開発許可と農地法の農地転用で、これは「その区域・その地目で開発行為に着手できるか」を決める。本稿が扱う盛土規制法は、そのどちらとも異なる第三の軸である。規制対象は建物でも地目でもなく、土を動かす行為そのものだ。

決定的な違いは適用範囲にある。用途地域は都市計画区域内にしか存在しない。開発許可も規模要件が区域によって大きく変わり、都市計画区域および準都市計画区域の外では1ヘクタール(10,000平方メートル)以上でなければ許可の対象にならない。これに対して盛土規制法の規制区域は、宅地・農地・森林といった土地の用途にかかわらず、災害のおそれがある区域として指定される。都市計画区域の内外は関係がない。

ここで実務上重要な整理をしておきたい。盛土規制法には、都市計画法29条の開発許可を受けたときは盛土規制法の許可・届出を受けたものとみなす規定がある(法15条・27条・34条)。つまり開発許可を取れば、盛土規制法の許可を二重に取得する必要はない。しかし、これは開発許可の対象になる工事に限った話である。次の三つのケースでは、開発許可の網に掛からないまま盛土規制法の許可だけが単独で必要になる。

第一に、規模が開発許可の要件に届かない造成。都市計画区域外で5,000平方メートルの敷地を造成する場合、1ヘクタール未満なので開発許可は不要だが、盛土・切土の面積が500平方メートルを超えれば盛土規制法の許可は要る。第二に、建築物の建築を目的としない造成。開発行為の定義は「建築物の建築等を目的とする土地の区画形質の変更」であるため、駐車場整備、資材置場、残土の一時堆積などは開発許可の対象外だが、盛土規制法では規模要件に該当すれば許可対象となる。第三に、みなし許可が成立した場合でも、周辺住民への周知(説明会等)、施工中の中間検査、完了検査、定期報告といった手続きは盛土規制法の規定にしたがって発生する。工程管理の観点では、みなし規定があっても実務負荷が消えるわけではない。

都道府県別 規制区域 指定面積(上位12・令和7年6月1日現在)
出典: 国土交通省「宅地造成及び特定盛土等規制法に基づく規制区域の指定状況(令和7年6月1日現在)」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。単位は万ヘクタール。都道府県・指定都市・中核市の指定面積を都道府県ブロックで合算。

指定面積の内訳は、宅地造成等工事規制区域が10,979,573ヘクタール、特定盛土等規制区域が16,054,504ヘクタールである。前者は市街地や集落とその周辺、後者は市街地から離れているものの地形条件から被害を及ぼしうるエリアが対象で、リゾート用地の多くは後者に含まれる。指定主体は129団体(都道府県47・指定都市20・中核市62)で、令和7年6月1日時点の指定済みは111団体。都道府県では47のうち38が指定を終えていた。その後も指定は進み、令和8年4月1日時点では指定済みが127団体(都道府県46・指定都市20・中核市61)に達している。

表1: 許可の対象となる盛土等の規模(政令3条・4条・28条)。括弧内は特定盛土等規制区域の基準。
行為宅地造成等工事規制区域特定盛土等規制区域
崖を生ずる盛土高さ1m超高さ2m超
崖を生ずる切土高さ2m超高さ5m超
崖を生ずる盛土と切土(同時)高さ2m超高さ5m超
崖を生じない盛土高さ2m超高さ5m超
盛土または切土の面積500㎡超3,000㎡超
土石の堆積(高さ+面積)高さ2m超かつ300㎡超高さ5m超かつ1,500㎡超
土石の堆積(面積のみ)500㎡超3,000㎡超
出典: 国土交通省「盛土規制法の体系図」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。特定盛土等規制区域の対象規模は、条例でこれより小さい規模に引き下げることができる(法32条)。

表1の数字は、リゾート開発の実感からするとかなり小さい。30室規模のヴィラを1棟建てるだけでも、敷地の平場をつくれば盛土・切土の面積は容易に500平方メートルを超える。傾斜地であれば高さ1メートルの崖を生じないほうが難しい。つまり傾斜地でホテルを建てるという行為は、規制区域内では原則として許可案件になったと考えたほうが実態に近い。

リゾート13エリアの地形実態 — 2,673施設のうち65.7%が山地・丘陵・火山地系の上にある

では、日本のリゾート宿泊施設は実際にどのような地形の上に立っているのか。メトロエンジンリサーチの施設マスターから主要リゾート13エリア(各エリアの中心座標から半径3キロメートル圏)の宿泊施設を抽出し、国土交通省 不動産情報ライブラリが公開する250mメッシュの地形分類を各施設の座標に重ねた。対象はN=2,673施設・46,684室である。

エリア別 施設の地形分類構成(施設数・N=2,673)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設・客室数)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(地形分類250mメッシュ)。各エリアの中心座標から半径3km圏、客室数1室以上の施設が対象。

結果は明快だった。山地・丘陵・火山地系が1,755施設で65.7%、台地・段丘・扇状地系が769施設、低地・埋立地系は149施設にとどまる。上位2区分を合わせると94.4%が、程度の差はあれ傾斜または段丘の上に立地している。客室数ベースでも山地・丘陵系が26,959室で57.7%を占める。

エリア間の差も大きい。草津温泉と蔵王温泉は圏内の施設が100%火山山麓地に立地し、伊豆高原が99.7%、倶知安・ニセコが96.5%と続く。一方で鬼怒川温泉は0%、下呂温泉が7.2%、軽井沢が8.7%と低い。ただしこれは平坦という意味ではなく、これらのエリアはローム台地や砂礫質台地の上にあり、台地面そのものは緩やかでも縁辺部には段丘崖が走る。造成の実務では、台地の平坦面を使えるか、段丘崖に掛かるかで工事内容が大きく変わる点に注意が必要だ。

表2: リゾート13エリアの立地条件(各エリア中心から半径3km圏、N=2,673施設)
エリア施設数客室数山地・丘陵系比率土砂災害警戒区域内大規模盛土造成地都市計画区域外
草津温泉(群馬県)2113,831100.0%5.7%21.4%
蔵王温泉(山形県)971,685100.0%88.7%143.3%
伊豆高原(静岡県)3743,20299.7%5.3%00.0%
倶知安・ニセコ(北海道)4335,33196.5%2.5%44100.0%
箱根(神奈川県)1042,04695.2%37.5%150.0%
別府(大分県)1856,36683.2%5.4%40.0%
熱海(静岡県)2215,93076.5%35.7%140.0%
由布院(大分県)2151,79369.8%57.7%00.0%
越後湯沢(新潟県)1132,69915.9%59.3%110.0%
白馬(長野県)4865,26310.7%13.6%10.0%
軽井沢(長野県)1032,8468.7%3.9%80.0%
下呂温泉(岐阜県)692,3147.2%65.2%113.0%
鬼怒川温泉(栃木県)623,3780.0%40.3%00.0%
13エリア計2,67346,68465.7%22.0%101箇所18.2%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設・客室数)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(地形分類・土砂災害警戒区域・大規模盛土造成地・都市計画区域)。大規模盛土造成地は圏内の該当箇所数。

あわせて災害関連区域との重なりも見た。13エリア2,673施設のうち588施設(22.0%)が土砂災害警戒区域内に位置し、うち29施設は土砂災害特別警戒区域にかかる。エリア別では蔵王温泉が88.7%、下呂温泉が65.2%、越後湯沢が59.3%と高い。温泉地が谷筋や山裾に形成された歴史的経緯を反映した数字であり、既存施設の立地が不適切だという意味ではない。ただし、これらの区域内で新たに造成を伴う建替えや増築を行う場合、盛土規制法の許可基準は地形・地質に応じて厳しく設定される。立地が抱える災害リスクを投資判断の軸としてどう定量化するかについては、ホテル立地評価の第4軸「災害リスク」を定量化するが全国8商圏のハザード×ADR×防災Capexで整理している。

ケーススタディ:倶知安・ニセコ — 都市計画区域の外にある5,331室と、44箇所の大規模盛土造成地

13エリアのなかで、規制構造がもっとも特徴的なのが倶知安・ニセコである。ひらふ地区を中心とする半径3キロメートル圏には433施設・5,331室が集積しているが、国土交通省の都市計画区域データと突き合わせると、この433施設はすべて都市計画区域の外にあった。倶知安町にも都市計画区域は存在するが、それは町の中心市街地を覆うもので、スキー場麓のコンドミニアム集積地には掛かっていない。用途地域データを照会しても該当なしと返る。

倶知安・ニセコ ひらふ地区 — 大規模盛土造成地と宿泊施設の分布
出典: 国土交通省 不動産情報ライブラリ(大規模盛土造成地)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(宿泊施設位置・客室数)。円の大きさは客室数。大規模盛土造成地マップは危険箇所を示したものではなく、地図上の区域が必ずしも危険であることを意味しません。
エリア概要
所在地: 北海道虻田郡倶知安町 ひらふ地区周辺
中心座標: 42.8617, 140.6874(半径3km圏)
施設数: 433施設 / 5,331室
地形: 火山山麓地 96.5%
都市計画区域: 圏内は区域外(用途地域の指定なし)
大規模盛土造成地
圏内箇所数: 44箇所
谷埋め型: 42箇所
腹付け型: 2箇所
区域内に立地する施設: 34施設 / 509室
出典: 国土交通省 不動産情報ライブラリ
規制区域の指定状況
北海道は令和7年4月1日に規制区域の指定を開始し、道が所管する対象は176市町村(札幌市・旭川市・函館市を除く)。一部の市町村は令和8年7月1日からの規制開始とされている。倶知安町・ニセコ町は北海道の公表資料上、令和7年度の基礎調査を実施中の段階にある。
出典: 北海道建設部まちづくり局都市計画課

この構造が意味するところは大きい。都市計画区域外で開発許可が必要になるのは1ヘクタール以上の開発行為である。ひらふ地区で典型的な5,000平方メートル前後の敷地にヴィラやコンドミニアムを建てる計画は、開発許可の規模要件に届かない。つまり従来、この規模の造成は都市計画法の許可審査を経ずに進められてきた。ここに盛土規制法が入ると、500平方メートル超の盛土・切土、あるいは高さ1メートル超の崖を生ずる盛土という基準で、はじめて行政の許可審査が掛かることになる。規制の空白が埋まる、という言い方が実態に近い。

もうひとつ注目すべきは、圏内に44箇所の大規模盛土造成地が確認される点だ。これは過去に谷や斜面を埋めて造成された土地の分布図で、うち42箇所が谷埋め型である。倶知安町の公表資料によれば、町内の大規模盛土造成地は令和元年度の国の調査で12箇所、令和2年度の町独自調査で26箇所が確認されている。既存の造成地を再開発する場合、既存盛土の性状把握が設計の前提作業に加わる。なお倶知安町が明記しているとおり、これらのマップは危険箇所を示すものではなく、地図上に示された区域が必ずしも危険であることを意味しない。

そして、この地域はまだ規制区域が指定されていない。北海道全体では令和7年4月1日から運用が始まり道所管の176市町村が対象とされているが、倶知安町とニセコ町は基礎調査の段階にある。同じ状況は沖縄県にも当てはまる。沖縄県は令和8年10月1日に那覇市を除く県内ほぼ全域を規制区域に指定し、運用を開始する予定と公表している。国内で最も開発圧力の高い二つのリゾート市場が、いずれも規制区域指定の直前という位置にある。なおニセコ市場そのものの供給構造については、ニセコの高価格帯は2施設75室のみで価格帯別の空白を詳しく見ている。

造成コストと許可の時間 — 傾斜が利回りに与える影響は0.4ポイント

ここからは、傾斜がプロジェクトの採算にどう効くかを試算する。敷地5,000平方メートル、客室30室、延床1,500平方メートルのリゾート型宿泊施設を想定し、地形の傾斜だけを変えた3シナリオを比較した。

■ 試算前提:敷地は正方形に近い形状(一辺約71メートル)とし、平場は敷地全体を単一レベルに均すものとする。切土量と盛土量は場内バランスするものとし、傾斜勾配sの敷地を平均高さで均した場合の切土量を「敷地面積×勾配×一辺長÷8」で近似した。単価は掘削1,500円/立方メートル、盛土の敷均し・締固め・品質管理3,000円/立方メートル、鉄筋コンクリート擁壁40,000円/平方メートル(壁面積)とし、排水施設・のり面保護として15%を加算した。建物工事費は1平方メートルあたり591,279円(2024年・宿泊業用建築物の全国平均、195.5万円/坪)、土地は1平方メートルあたり15,000円と置いた。売上は30室×ADR22,100円×稼働率65%(通年ベースの試算前提。2025年7月〜2026年6月のリゾート立地施設の水準を参照した想定値であり、実績値ではない)×365日を客室売上とし、付帯収入を20%上乗せ、GOP率30%とした。いずれも簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

表3: 傾斜条件別の開発シナリオ比較(敷地5,000㎡・30室・延床1,500㎡)
項目A. 平坦地(勾配2%以下)B. 緩傾斜(勾配10%)C. 急傾斜(勾配20%)
切土量・盛土量(場内バランス)約900㎥約4,400㎥約8,800㎥
擁壁 壁面積—約250㎡約500㎡
造成工事費約470万円約3,440万円約6,870万円
盛土規制法の該当区分(宅造区域内)面積500㎡超で許可崖1m超+面積で許可崖1m超+面積で許可
許可対応費(調査・設計・申請・検査対応)約300万円約600万円約1,000万円
造成関連 計約770万円約4,040万円約7,870万円
建物工事費(延床1,500㎡)8.87億円8.87億円8.87億円
土地(5,000㎡)0.75億円0.75億円0.75億円
総投資額9.70億円10.02億円10.41億円
総売上(付帯収入込み)1.89億円1.89億円1.89億円
GOP(率30%)5,663万円5,663万円5,663万円
GOP利回り5.8%5.7%5.4%
建設期間インフレ織込み後 総投資額11.66億円12.06億円12.53億円
同 GOP利回り4.9%4.7%4.5%
出典: 建物工事費は国土交通省「建築着工統計調査」(宿泊業用建築物・全国・2024年)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング算出。ADRはメトロエンジンリサーチ(山地・丘陵・火山地系立地の中央値、N=224施設)。造成単価は民間造成工事の一般的な相場レンジに基づく試算値。インフレ織込みは2029年開業を想定し、2025年+5.6%・2026年+5.3%・2027年+5.0%・2028年+4.5%の建設費上昇率で複利計算(累積+22.0%)。

結果は、事前の直感とはやや異なるものになった。平坦地と急傾斜地の総投資額の差は約7,100万円、GOP利回りの差は0.4ポイントにとどまる。造成コストは急傾斜地で平坦地の約10倍に膨らむが、総投資額に占める割合が小さいため、利回りへの影響は限定的なのである。

さらに重要なのは、この0.4ポイントを打ち返す要素が需要側にあることだ。13エリアの施設別推定成約ADRを地形区分ごとに集計すると、山地・丘陵・火山地系の中央値が¥22,100(N=224施設)、台地・段丘・扇状地系が¥20,100(N=130施設)、低地・埋立地系が¥19,700(N=39施設)となった。山地系は台地系より約9.9%高い。同じ30室・稼働率65%(通年ベースの試算前提)で計算すると、この単価差は年間で客室売上1,416万円、GOPで510万円の差になる。総投資額10.41億円に対して0.49ポイント。傾斜地はコストで不利、単価で有利であり、両者はほぼ相殺する。

地形区分別 推定成約ADR(13エリア・15室以上の施設)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。2025年7月〜2026年6月の推定成約ADRの施設別平均を地形区分ごとに集計した中央値。細線は第1四分位〜第3四分位。
宿泊業用建築物 1㎡あたり工事費予定額の推移(全国)
出典: 国土交通省「建築着工統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング算出(工事費予定額÷床面積合計)。棟数は右軸。

建設費そのものの動きは、造成コストの議論を上回る規模で採算を左右している。宿泊業用建築物の1平方メートルあたり工事費予定額は、2011年の¥211,500/㎡から2024年には¥591,300/㎡へと2.8倍になった。2021年から2024年までの3年間だけでも¥377,500/㎡から¥591,300/㎡へ56.6%上昇している。2024年の水準は坪単価に換算すると195.5万円で、傾斜地の造成費全体(急傾斜シナリオで約6,870万円)は、延床1,500平方メートルの建物工事費が1割上振れした場合の増加額(約8,870万円)より小さい。傾斜地開発の可否を建設費全体の変動から切り離して論じることには、あまり意味がない。建設費の高止まりが供給計画そのものをどこまで押し戻しているかは、建設費+41%と人材難で消える供給が2027-2029年の開業マップから追っている。

では何が効くのか。時間である。盛土規制法の許可には、地形・地質に応じた技術基準への適合審査に加えて、土地所有者等の全員同意(法12条・30条)、周辺地域の住民への周知(説明会等、法11条・29条)が前提として必要になる。着工後も施工状況の定期報告(法19条・38条)、施工中の中間検査(法18条・37条)、工事完了時の完了検査(法17条・36条)が課される。傾斜地であればボーリング調査や安定計算の負荷が平坦地より重く、擁壁の構造計算も加わる。これらは費用としては数百万円規模でも、工程上はクリティカルパスに乗る。区域指定の直後に着工したい案件ほど、事前調整の期間を確保できているかどうかが成否を分ける。

この0.4ポイントという差は、開業時期が動いた場合の建設費上昇と比べると小さい。本文の試算前提のまま、開業年と単価・稼働の振れだけを変えて整理すると次のようになる。

表6: 開業時期シナリオ(急傾斜シナリオC・区域指定と事前調整の所要期間で開業年が動く場合)
シナリオ開業時期建設費上昇の織込み総投資額GOP利回り悲観比
楽観2027年開業2年分(累積+11.2%)11.49億円4.9%+0.4pt
中位2028年開業3年分(累積+16.8%)12.03億円4.7%+0.2pt
悲観2029年開業4年分(累積+22.0%)12.53億円4.5%+0.0pt
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。本文の表3と同じ前提(急傾斜シナリオC・建物工事費8.87億円+造成関連7,870万円・土地0.75億円・GOP 5,663万円)に、本文記載の建設費上昇率(2025年+5.6%・2026年+5.3%・2027年+5.0%・2028年+4.5%)を開業年までの年数分だけ複利で乗じたもの。上昇率は建物工事費と造成関連費にのみ乗じ、土地は据え置いた(表3と同じ扱い)。悲観=2029年開業は表3の「建設期間インフレ織込み後」と一致する。新規の前提は置いていない。
表7: ADR×稼働率の2軸感度グリッド — GOP利回り(急傾斜シナリオC・インフレ織込み前、総投資額10.41億円)
稼働率\ADR¥19,900¥21,000¥22,100¥23,200¥24,300
55%4.1%4.4%4.6%4.8%5.1%
60%4.5%4.8%5.0%5.3%5.5%
65%(前提)4.9%5.2%5.4%5.7%6.0%
70%5.3%5.6%5.9%6.1%6.4%
75%5.7%6.0%6.3%6.6%6.9%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。各セルは本文の試算式(30室×ADR×稼働率×365日×付帯収入1.2×GOP率30%÷総投資額10.41億円)をそのまま計算したもので、新規の前提は置いていない。網掛けが本文のベースケース(ADR¥22,100=山地・丘陵・火山地系立地の推定成約ADR中央値・N=224施設/稼働率65%=通年ベースの試算前提)。ADR軸の振れ幅は表4と同じ±10%の刻み、稼働率軸は±5pt刻み。台地・段丘・扇状地系の中央値¥20,100、低地・埋立地系の¥19,700は左側2列の帯にあたる。

開業が2027年から2029年へ2年ずれるだけで、GOP利回りは4.9%から4.5%へ0.4ポイント下がる。傾斜そのものが生む0.4ポイントと同じ幅である。傾斜地開発で管理すべき変数は勾配ではなく、区域指定と事前調整に要する時間である。

供給パイプラインへの含意 — 新規開業の53.5%は、開発許可の網に掛からない小規模施設

この規制変更がもっとも広く効くのは、大型リゾートホテルではない。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、2025年に新規開業(OTA掲載確認ベース)が確認された宿泊施設は1,739軒。うち貸別荘745軒、コテージ113軒、ペンション20軒、グランピング22軒、ロッジ14軒、キャンプ場16軒を合計すると930軒で、全体の53.5%を占める。この構成比は2022年49.8%、2023年54.1%、2024年55.6%と4年連続で5割前後を維持している。

新規開業の業態構成 — 貸別荘・コテージ・グランピング系とそれ以外
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。貸別荘・コテージ・ペンション・グランピング・ロッジ・キャンプ場の合計を「貸別荘・コテージ系」とした。※OTA掲載は開業の数ヶ月前から出るため、2026年は今後の掲載で件数が増加する見込み。

貸別荘やグランピング施設は、1棟あたりの延床面積が小さく、敷地も1ヘクタールに満たないことがほとんどだ。都市計画区域外であれば開発許可の対象にならず、市街化区域内でも1,000平方メートル未満なら同様である。一方で、傾斜地に平場をつくり基礎を据える工事は、盛土・切土の面積500平方メートル超という基準に容易に触れる。過去4年間、日本の宿泊供給の量的な牽引役だったカテゴリーが、そっくりそのまま新しい許可制度の対象領域に入ったというのが、この統計から読める構図である。

建設計画側からも見ておきたい。国土交通省「建築動態統計調査」に基づく計画中・建設中のホテル案件を集計すると、完了予定年別では2026年27件、2027年22件、2028年9件、2029年1件、2031年1件となっている。ただしこれは確認申請ベースであり、確認申請は通常開業の1〜2年前に行われるため、2028年以降の件数は今後の申請追加により増加する見込みである。現時点での確定パイプラインの下限値として参照されたい。ここに含まれるのは主に大規模案件で、貸別荘規模の造成は捕捉されない。前段の開業統計と合わせて読む必要がある。

投資判断サマリー — 規制区域指定のタイミングが最大の変数

コストは想定より効かない

急傾斜地の造成関連費は平坦地の約10倍だが、総投資額に占める割合が小さく、GOP利回りへの影響は0.4ポイント。同時に山地系立地の推定成約ADRは台地系より約9.9%高く、この単価差が0.49ポイント分を戻す。コストと単価はほぼ相殺する。

効くのは工程と不確実性

土地所有者の全員同意、周辺住民への周知(説明会等)、中間検査・完了検査・定期報告が工程に加わる。傾斜地では地質調査と安定計算の負荷も重い。費用よりも、事前調整に要する期間の読みが投資判断を左右する。

未指定エリアは残り時間の勝負

倶知安町・ニセコ町は基礎調査段階、沖縄県は令和8年10月1日に運用開始予定。国内で最も開発圧力が高い二つの市場が指定直前にある。経過措置の届出は指定日から21日以内という法定期限がある点に留意したい。

表4: 感度分析(急傾斜シナリオC・インフレ織込み前、総投資額10.41億円)
ケース総売上GOPGOP利回りベース比
ベースケース(ADR22,100円・稼働率65%=通年ベースの試算前提)1.89億円5,663万円5.4%—
ADR −10%1.70億円5,096万円4.9%−0.5pt
稼働率 −5pt(60%)1.74億円5,227万円5.0%−0.4pt
建設費 +10%1.89億円5,663万円5.0%−0.4pt
ADR −10% & 稼働率 −5pt1.57億円4,706万円4.5%−0.9pt
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
表5: 傾斜地リゾート開発のリスク要因
区分内容影響度対応の方向性
規制規制区域の指定時期が自治体ごとに異なり、指定前後で手続きが変わる。特定盛土等規制区域の対象規模は条例で引き下げ可能(法32条)高用地取得前に当該市町村の指定状況と条例の有無を確認する
工程土地所有者の全員同意、周辺住民への周知、中間・完了検査、定期報告が工程に追加される高設計着手前に同意取得と説明会の期間をスケジュールに織り込む
建設市況宿泊業用建築物の工事費単価は2021年から2024年で56.6%上昇。造成費より建設費の変動幅が大きい高建設期間中の物価上昇を織り込んだ予算組みと、早期の請負契約締結
地盤大規模盛土造成地の再開発では既存盛土の性状把握が設計の前提作業に加わる中デューデリジェンス段階でのボーリング調査と既存資料の照会
需要傾斜地立地は単価面で優位だが、稼働率は季節性の影響を受けやすい中オフピーク需要の商品設計と、通年営業を前提とした事業計画
造成コスト勾配が20%を超えると擁壁規模が増大し、造成費は平坦地の10倍規模になる低総投資額に占める割合は小さい。平場配置の工夫で吸収可能な範囲
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。

傾斜地にリゾートを造るという行為は、これまで用途地域や開発許可の規模要件をすり抜けられる領域が広かった。盛土規制法の全国運用開始は、その領域を塞いだ。ただし本稿の試算が示すとおり、塞がれたことによる直接の経済的負担は、利回りにして0.4ポイント程度である。むしろ意味を持つのは、これまで事業者の自主判断に委ねられていた造成の品質が、許可基準と検査という形で外部から確認されるようになったことだ。既存施設にとっては、自らの敷地がどの地形区分にあり、どの規制区域に入るのかを把握しておくことが、増築や建替えの検討における出発点になる。開発を検討する側にとっては、用地取得のデューデリジェンスに「土を動かす許可」の一項目を追加する必要がある。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

施設数・客室数・推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの施設マスターおよびOTA掲載価格の集計(リゾート13エリアの中心座標から半径3km圏、N=2,673施設・46,684室/ADRは2025年7月〜2026年6月の施設別平均を地形区分ごとに集計した中央値)。地形分類250mメッシュ・大規模盛土造成地・土砂災害警戒区域・都市計画区域は国土交通省 不動産情報ライブラリ。規制区域の指定状況は国土交通省の公表資料(令和7年6月1日現在および令和8年4月1日現在)。建築物1平方メートルあたり工事費予定額は国土交通省「建築着工統計調査」(宿泊業用建築物・全国)。新規開業件数はOTA掲載確認ベースの自社集計。

■ 試算前提

開発シナリオは敷地5,000平方メートル・客室30室・延床1,500平方メートルのリゾート型宿泊施設を想定し、地形の傾斜だけを変えて比較した。売上は30室×ADR22,100円×稼働率65%(通年ベースの試算前提)×365日を客室売上とし、付帯収入を20%上乗せ、GOP率30%とした。建物工事費は1平方メートルあたり591,279円、土地は1平方メートルあたり15,000円。切土量は「敷地面積×勾配×一辺長÷8」で近似し、掘削1,500円/立方メートル、盛土3,000円/立方メートル、鉄筋コンクリート擁壁40,000円/平方メートル、排水・のり面保護として15%を加算した。建設費上昇は2025年+5.6%・2026年+5.3%・2027年+5.0%・2028年+4.5%を開業年までの年数分だけ複利で乗じ、建物工事費と造成関連費にのみ適用した(土地は据え置き)。開業時期シナリオと2軸感度グリッドは、この前提の範囲内での算術のみで作成しており、新規の前提は置いていない。

■ 限界・留意点

推定成約ADRはOTA公開価格に業態別の補正係数を適用した推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。地形分類は250mメッシュ単位のため、個別敷地の実勢勾配とは一致しない。造成単価は民間造成工事の一般的な相場レンジに基づく試算値で、地質・搬出入条件・残土処分費により大きく変動する。許可対応費は調査・設計・申請・検査対応の概算であり、自治体の運用や条例による上乗せ基準(法32条)を反映していない。規制区域の指定状況は時点情報であり、未指定エリアの指定時期・範囲は確定していない。新規開業件数はOTA掲載確認ベースのため、掲載のない施設は捕捉されず、直近年は今後の掲載で増加する。いずれも簡易試算であり、実際の投資判断には個別の詳細調査が必要です。

■ 市場データ

■ 法令・制度

■ 政府統計・地理空間データ

  • 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地形分類(250mメッシュ)、大規模盛土造成地、土砂災害警戒区域、急傾斜地崩壊危険区域、都市計画区域、用途地域
  • e-Stat「建築着工統計調査」(統計ID: 0003114490/宿泊業用建築物・棟数・床面積・工事費予定額)

■ 自治体公表資料

■ 建設費ベンチマーク

  • 国土交通省 建築着工統計(宿泊業用建築物 2024年 全国平均 195.5万円/坪)
  • 建設費インフレ率想定:2025年+5.6%、2026年+5.3%、2027年+5.0%、2028年以降+4.5%

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