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冬に休む宿の町は全国12市町村|立山町13→5軒、半年営業に必要な1泊単価2万円

投稿日 : 2026.10.19

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エリア・施設分析

冬に休む宿の町は全国12市町村|立山町13→5軒、半年営業に必要な1泊単価2万円

山岳や離島の宿は、1年のうち半分しか客を迎えない。富山県立山町でOTA等に価格を出している宿泊施設は、2025年11月の13軒から12月に6軒、2026年1〜3月は5軒まで減り、4月に12軒へ戻った。本稿はこの「価格が観測できる施設数」の月次波形を全国879市町村ぶん作り、季節で営業する宿がどこに集まっているのかを機械的に抽出したうえで、営業月数と単価から年間売上をどう組み立てるか、通年化に手が届く条件は何かを読み解く。

本記事における指標の定義

  • 掲載稼働施設数:当該月のチェックイン日に対して、OTA等で販売価格が1日でも観測できた施設の数。休業中の施設に加え、通月で販売を止めている施設・完売で価格が出ない施設も数に入らない。メトロエンジンリサーチが追跡するうち、稼働が確認できる約27,000施設が母集団で、OTA未掲載の旅館・民宿・山小屋は含まれない。
  • 季節営業指数:判定窓(2025年8月〜2026年5月の確定済み10ヶ月)における掲載稼働施設数の「最小値÷最大値」。値が小さいほど季節による出入りが大きい。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。エリア単位のADRは対象施設の中央値で、算出対象はビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセルの5業態に限られるため、山小屋やゲストハウス中心の町では対象施設数(N)が小さくなる。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 冬季休業型は12市町村:879市町村の掲載稼働施設数の波形(判定窓2025年8月〜2026年5月)から抽出。北海道6・東北北陸甲信越4・四国2で、うち4つが離島。
  • — 立山町は13軒→5軒:アルペンルート上の施設は4〜11月だけ販売し、冬に残るのは麓の通年施設。推定成約ADR中央値は11月¥23,500(N=4)、12月¥7,500(N=1)。
  • — 積丹町・礼文町は指数0.18:最大11軒が冬に2軒まで減る。積丹町の営業期ADR¥22,200(N=6〜8)は12市町村で最も高い。
  • — 同じ「出入り」でも中身は三通り:ニセコ町は冬に施設数が減る一方でADRが営業期の2.4倍(¥38,300)に上がり、湯沢町は冬に施設数が増える冬型。
  • — 半年営業の必要単価は約¥19,900:通年・¥10,000・稼働率60%と同じ客室売上を183日で得る場合の試算。積丹町・小坂町の営業期ADRはこの水準にある。

判定手法 — 「価格が観測できる施設数」の波形で季節営業を抽出する

手法は単純である。市区町村ごとに、2025年8月から2026年8月までの13ヶ月について、各月に販売価格が観測できた施設数を並べ、その波形から季節性を読む。ただし判定に使うのは2025年8月〜2026年5月の10ヶ月に限った。理由は二つあり、第一に未来月の施設数はOTAへの掲載がまだ進んでいないだけで少なく出るため、2026年9月以降は一切使っていない。湯沢町のように確定済みの月では冬に施設数が増える冬型のエリアも、未来月(2026年12月〜2027年3月は73〜86軒)だけを見ると冬の上積みが表れず、未来月で季節性を判定すると向きを取り違える。第二に、2026年6月以降は集計対象の施設が全国で約14%広がっており(5月31,446軒→6月35,942軒)、母集団が揃う5月までを判定窓にしたほうが町どうしを同じ物差しで比べられる。6〜8月は参考値として図に残している。

判定の条件は次の4つである。①判定窓の最大施設数が6軒以上(2軒→1軒のような小さな振れを拾わない)、②最小値が最大値の60%未満、③60%未満の月が2ヶ月以上連続(単月の観測上の谷を除く)、④谷の前後で施設数が同じ水準に戻る(新規開業や掲載の増加による「段差」を季節性と区別する)。政令指定都市は区単位の集計しかなく季節性もないため対象から外した。この条件で879市町村を評価したところ、指数0.6未満の冬季休業型は12市町村に絞られた。同じ掲載数の振れを都道府県単位で見た季節で宿が出入りする県は新潟・北海道・山梨|掲載数の振れ14.5%と閑散月のADRでは新潟・北海道・山梨が上位に来ており、本稿はその県内のどの町が振れを生んでいるかを市町村まで下りて確かめるものである。

立山町の波形を見ると、2025年8月11軒・10月13軒から12月に6軒、1〜3月は5軒へ落ち、4月に12軒へ戻って8月に15軒となる。谷が4ヶ月続き、前後の水準が揃う典型的な「冬季休業型」である。同じ富山県でも黒部市は17軒→15軒、富山市は75軒→86軒とほぼ横ばいで、山岳側の町だけが冬に半分以下になる構図が読み取れる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

※棒=掲載稼働施設数、折れ線=推定成約ADR(中央値)。ADRの対象施設は4〜11月がN=4〜5、12〜3月はN=1。2026年6〜8月は判定窓の外(参考)。

立山町の中身 — 営業月数は標高で決まる

町内の施設を1軒ずつ見ると、谷の正体がはっきりする。立山黒部アルペンルートは2026年度、4月15日に全線開通し営業期間は11月30日までの予定と報じられており、室堂(標高約2,450m)や弥陀ヶ原に立地するホテル立山(85室)、弥陀ヶ原ホテル(52室)、みくりが池温泉(28室)は、この営業期間と重なる4〜11月だけ価格が観測できる。一方で立山駅周辺や吉峰の麓にあるグリーンビュー立山(32室)と立山グリーンパーク吉峰(10室)は13ヶ月すべてで販売が続いており、12〜3月に残る5軒はこの麓の施設群である。つまり立山町の「13→5」は、町内の供給が二層に分かれている姿そのものだ。麓から富山市街までを含めた受け皿の客室数は、立山黒部の紅葉期2026、宿の受け皿は富山市街8,519室 — 立山駅10km圏は542室で紅葉期を例に積み上げている。

単価もこの二層構造を映す。推定成約ADRの中央値は2025年11月に¥23,500(N=4)まで上がるが、これは閉山前の11月にアルペンルート上の高単価な施設だけが残り、中央値がそちらへ寄るためである。12月に¥7,500(N=1)へ下がるのは麓の施設の水準であり、同じ町でも「どの層が売っているか」で町の単価が3倍動く。2026年8月は¥11,600(N=5)で、山上と麓が混在する営業期の水準といえる。

表1 立山町で価格が観測できた主な14施設(2025年8月〜2026年8月)
施設名客室数立地価格が観測できた月区分
ホテル立山85室堂4〜11月季節
弥陀ヶ原ホテル52弥陀ヶ原4〜11月季節
みくりが池温泉28室堂4〜11月季節
天望 立山荘27弥陀ヶ原4〜10月季節
立山高原ホテル27天狗平4〜11月(断続)季節
立山 室堂山荘17室堂6〜7月に掲載季節
天狗平山荘16天狗平6〜8月に掲載季節
立山黒部アルペンルート 千寿荘12立山駅周辺4〜11月季節
立山館8立山駅周辺4〜11月季節
グリーンビュー立山32立山駅周辺13ヶ月すべて通年
立山グリーンパーク吉峰10吉峰(麓)13ヶ月すべて通年
The Bath & Bed Tateyama1麓13ヶ月すべて通年
The Hive1麓2025年10月以降 継続通年
土肥邸母屋1麓2025年11月以降 継続通年

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

※2025年8月〜2026年8月の13ヶ月に1ヶ月でも価格が観測できた施設は17で、表はうち主な14施設を掲載(客室数は当社収集の施設データ、地図は17施設すべてを表示)。山小屋のうちOTA等に掲載がない施設は含まれない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(円の大きさ=客室数、青=季節営業、灰=通年)

全国ランキング — 季節営業指数が0.6未満の12市町村

同じ物差しを全国に当てると、冬季休業型の12市町村は北海道に6、東北・北陸・甲信越に4、四国に2と分布し、そのうち4つが離島である。指数が最も小さいのは積丹町と礼文町の0.18で、どちらも最大11軒が冬に2軒まで減る。利尻富士町は12軒→3軒、利尻町は7軒→2軒と、稚内沖の礼文島・利尻島の3町はそろって11月から4月にかけて価格が消え、5〜6月に戻る。瀬戸内の上島町も11〜12月に2軒まで落ちる。山岳・高原では立山町のほか、尾瀬の玄関口である檜枝岐村(6軒→3軒)、十和田湖西岸の小坂町(7軒→3軒)、四国カルストを擁する久万高原町(7軒→3軒)が並ぶ。

表2 季節営業指数0.6未満の冬季休業型12市町村(判定窓2025年8月〜2026年5月)
順位市町村類型最大最小指数谷の月営業期ADR
1北海道 積丹町海浜(ウニ漁期)1120.1825/10・25/11・25/12・26/01・26/02・26/03¥22,187
2北海道 礼文町離島1120.1825/10・25/11・25/12・26/01・26/02・26/03・26/04¥11,222
3北海道 利尻富士町離島1230.2525/11・25/12・26/01・26/02・26/03¥8,912
4北海道 利尻町離島720.2925/11・25/12・26/01・26/02・26/03¥14,828
5愛媛県 上島町離島(瀬戸内)620.3325/11・25/12・26/01¥17,632
6富山県 立山町山岳(アルペンルート)1350.3925/12・26/01・26/02・26/03¥10,672
7秋田県 小坂町湖畔(十和田湖)730.4325/12・26/01・26/02・26/03¥19,824
8愛媛県 久万高原町高原730.4325/11・25/12・26/01・26/02・26/03¥4,444
9北海道 ニセコ町※国際スキーリゾート(特殊型)40190.4725/12・26/01¥16,156
10福島県 檜枝岐村山岳(尾瀬)630.5025/12・26/01・26/02・26/03¥8,781
11長野県 飯綱町高原1160.5525/12・26/01¥5,606
12北海道 中富良野町丘陵・花畑29170.5925/11・25/12¥10,437

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

※判定窓2025年8月〜2026年5月。最大・最小は掲載稼働施設数、指数=最小÷最大。営業期ADRは施設数が最大の80%以上ある月の推定成約ADR中央値。評価対象879市町村(最大4軒以下・政令市の区と東京23区を除く)。※ニセコ町は冬に施設数が減る一方で単価が営業期の2.4倍(¥38,300)に上がる特殊型(本文参照)。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(円の大きさ=最大施設数、色=類型。位置は各町の稼働施設の重心)

判定の境界付近には、0.6〜0.8の「中程度」に入る町が251ある。上富良野町(23軒→14軒、0.61)、弟子屈町(36軒→22軒、0.61)、山中湖村(181軒→129軒、0.71)、高野町(31軒→21軒、0.68)などで、冬に2〜4割の施設が販売を止めるものの過半は残る。ここは「一部の施設だけが季節営業」の層であり、12市町村のように町ぐるみで閉じる構造とは分けて読むべきだろう。

類型 — 離島・山岳・湖畔・海浜、そしてニセコ型と冬型

12市町村の波形を最大値100で揃えて重ねると、類型ごとの形が見える。離島型(礼文・利尻)は10月から下がり始めて11月に3割を切り、5〜6月に一気に戻る。フェリーが減便される冬季に観光需要そのものが途切れるため、谷が深く長い。山岳型(立山・檜枝岐)は交通路の閉鎖日に合わせて12月に段差が出て、4月下旬の開通で戻る。谷の深さは麓に通年施設があるかどうかで決まり、立山町は麓の5軒が指数を0.39に支えている。海浜型の積丹町は6〜8月のウニ漁期に需要が集中し、12月以降は2軒まで減るが、営業期のADRは¥22,200(N=6〜8)と12市町村のなかで最も高い。

ニセコ町と倶知安町は、形は冬季休業型と同じでも意味が逆である。ニセコ町は11月25軒・1月19軒と冬に施設数が減るが、同じ月の推定成約ADRは¥38,300と営業期(¥16,200)の2.4倍に上がる。倶知安町も10月138軒から1月42軒へ減る一方で1〜2月のADRは¥61,600〜¥63,500に達する。冬が繁忙期のエリアで国内OTA上の施設数が減るのは、海外向けチャネルや直販で先に売り切れ、国内OTAに価格が出ない施設が増えるためと考えられ、休業の指標としては読めない。本稿の指数が「販売価格の観測」に基づく以上、この2町は冬季休業型から切り分けて読む必要がある。ニセコ・白馬・湯沢で冬の予約がどれだけ早く入るかは、2026-27冬シーズン早期予約 — ニセコ・白馬・湯沢と豪州リピーター需要の先取りが豪州リピーター需要の面から追っている。

これらと対照的なのが冬型の湯沢町である。8〜11月は69〜78軒で推移し、12月に113軒、3月に139軒まで増えてから5月に96軒へ戻る。スキー場に近い貸別荘やコンドミニアムが冬だけ販売に出る構造で、冬が谷ではなく山になる。山ノ内町(112〜144軒)も同じ向きだが振れ幅は0.78にとどまる。白馬村(201〜262軒)と野沢温泉村(57〜76軒)は最小が1月にあり、冬に増える形にはなっていない。スキーエリアの宿は通年で売る形が主流といえる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

※各町の掲載稼働施設数を判定窓の最大値=100として指数化(2025年8月〜2026年5月)。

営業月数×単価 — 半年営業なら1泊いくら必要か

季節営業の宿の収益は、営業日数と単価と稼働率の掛け算で決まる。ここでは通年営業の宿が1泊¥10,000・稼働率60%で得る客室あたり年間売上(¥10,000×60%×365日=約219万円)を基準に、営業期間を短くしたときに同じ売上を保つために必要な単価を試算した。立山黒部アルペンルートと同じ4月15日〜11月30日(230日)の営業なら、稼働率60%で¥15,900、70%なら¥13,600が必要になる。6ヶ月(183日)なら60%で¥19,900、4ヶ月なら¥29,900であり、営業期間が半分になれば単価は2倍、3分の1になれば3倍が必要という単純な関係だ。

表3 営業期間×稼働率別 通年並みの客室売上に必要な1泊単価(試算)
営業期間稼働率50%稼働率60%稼働率70%
通年(365日)¥12,000¥10,000¥8,571
9ヶ月(275日)¥15,927¥13,273¥11,377
7.5ヶ月(230日・4/15〜11/30型)¥19,043¥15,870¥13,602
6ヶ月(183日)¥23,934¥19,945¥17,096
5ヶ月(153日)¥28,627¥23,856¥20,448
4ヶ月(122日)¥35,902¥29,918¥25,644
3ヶ月(92日)¥47,609¥39,674¥34,006

出典:ホテルバンク編集部試算(基準=通年・¥10,000・稼働率60%の客室あたり年間売上 約219万円と同額に必要な1泊単価)

出典:ホテルバンク編集部試算

実測値をこの表に当てると、季節営業の宿が単価で営業日数を取り返している様子が見える。立山町の営業期ADR中央値¥10,700(N=5)は、麓の通年施設を含む町の中央値であり、室堂・弥陀ヶ原の施設に限れば掲載価格は数万円台にある。積丹町の¥22,200、小坂町の¥19,800(N=5〜8)は「6ヶ月営業・稼働率60%」の必要単価¥19,900とほぼ一致し、上島町の¥17,600は7ヶ月営業の水準に近い。半面、久万高原町(¥4,400)や飯綱町(¥5,600)のように単価が低い高原エリアは、営業期間の短さを単価で埋める構造になっておらず、固定費を薄くする運営(家族経営・自己所有・兼業)が前提の収益構造だと読める。

この試算は客室売上だけを見た簡易なもので、人件費・光熱費・固定資産税・冬季の維持管理費は含めていない。季節営業には閉館中の固定費を削れる利点がある一方で、開閉に伴う準備・撤収と、営業期に短期で人員を確保する手当が乗る。実際の投資判断には個別の損益構造を踏まえた検討が必要である。

通年化に手が届く条件 — 温泉・スキー・冬季アクセス・除雪

12市町村のなかにも、冬に残る施設はある。その条件を波形と単価から整理すると、通年化の鍵は「冬の需要」と「冬のアクセス」の二つに集約される。第一に温泉である。立山町で冬に残る5軒の中心は麓の温泉付き施設で、12〜3月の推定成約ADRは¥7,300〜¥8,300(N=1)と営業期の7割前後を保つ。小坂町でも冬の3軒のADRは¥15,100(N=2〜3)と営業期の¥19,800に対して76%で、温泉を持つ湖畔のホテルが冬の需要を取れていることを示す。第二にスキーで、湯沢町や山ノ内町の冬型の波形が示すとおり、ゲレンデに近い立地は冬が山になる。檜枝岐村も村内にスキー場と温泉を持ち、6軒→3軒と谷が浅めなのはそのためと考えられる。

第三が冬季アクセスだ。離島型の町は宿側の努力だけでは冬の需要を作りにくく、フェリーの冬季減便と結びついている。礼文島観光協会が8〜9月に実施した観光キャンペーンで、前年同期の3倍近い申し込みを集めたものがあると報じられたように、営業期の肩の部分(夏の終わり)を厚くする方向に伸びしろがある。第四が除雪コストである。山岳道路の冬季閉鎖は、道路管理者が通年通行時の除雪費用と安全確保を勘案して決めるものであり、宿が単独で動かせる変数ではない。山形県議会の意見書では、雪寒法に基づく国費配分が自治体の除雪負担に対して限られ、単独費の投入が財政負担になっていると訴えており、冬季アクセスの維持は地域全体で担う構造だと分かる。

以上を踏まえると、季節営業の宿にとっての成長余地は三段階に整理できる。①営業期の両端(4月・11月、離島なら5月・10月)を1〜2週間ずつ延ばす。立山町では11月に13軒が残っており、閉山直前の単価が最も高い。②冬に残る麓の施設と連携し、山上の施設を冬の販売窓口にする。③温泉・スキー・冬の食(積丹の冬の魚介、湖畔の氷上体験など)のいずれかで冬の需要を作れる立地なら、通年化を検討する価値がある。逆に、冬に需要もアクセスもない立地で無理に通年化するより、営業期の単価を上の試算表に合わせて設計するほうが収益性は高い。

まとめ

価格が観測できる施設数の月次波形から季節営業を抽出すると、全国879市町村のうち町ぐるみで冬に閉じる冬季休業型は12市町村で、離島4・山岳高原4・湖畔1・海浜1・花畑1・特殊型(ニセコ)1に分かれる。立山町の13軒→5軒は、アルペンルートの営業期間と麓の通年施設という二層構造の表れであり、同じ町の単価が11月¥23,500と12月¥7,500の間で動くのは「どの層が売っているか」の違いである。ニセコ町・倶知安町は形が似ていても冬に単価が上がる特殊型(ニセコ町は営業期の2.4倍、倶知安町は1〜2月に¥61,600〜¥63,500)で、湯沢町は冬が山になる冬型と、同じ「出入り」でも中身は三通りある。半年営業で通年並みの客室売上を保つには稼働率60%で約¥19,900が必要で、積丹町や小坂町の営業期ADRはその水準にある。未来月の施設数は掲載が進んでいないだけで少なく出るため、季節性の判定は確定済みの過去月だけで行うべきだという点は、本稿の手法を再現する際の前提として強調しておきたい。

よくある質問

Q. 掲載稼働施設数が減った月は、宿が休業しているということですか。
A. 必ずしもそうではありません。OTA等で販売価格が観測できなかった施設を数えていないため、休業のほかに、通月で販売を止めている施設や完売で価格が出ない施設も含まれます。ニセコ町のように繁忙期に施設数が減るケースはその典型です。

Q. 未来月の施設数で季節性を判定してはいけないのはなぜですか。
A. OTAへの掲載は宿泊日の数ヶ月前から順次進むため、先の月ほど施設数が少なく出ます。湯沢町は未来月だけ見ると冬の増加が表れませんが、確定済みの月では冬に増える冬型です。判定には確定済みの過去月のみを使ってください。

Q. 半年営業の宿に必要な1泊単価はいくらですか。
A. 通年・¥10,000・稼働率60%の宿と同じ客室あたり年間売上を保つなら、183日営業・稼働率60%で約¥19,900、230日(4月中旬〜11月末)なら約¥15,900が目安です。固定費や人件費は含まない簡易試算です。

Q. 冬季休業型の12市町村はどこですか。
A. 北海道の積丹町・礼文町・利尻富士町・利尻町・ニセコ町・中富良野町、富山県立山町、秋田県小坂町、福島県檜枝岐村、長野県飯綱町、愛媛県の上島町・久万高原町です。判定窓(2025年8月〜2026年5月)の掲載稼働施設数で最小÷最大が0.6未満となった町で、ニセコ町は冬に単価が上がる特殊型として別に読みます。

Q. 季節営業の宿が通年化を検討できる条件は何ですか。
A. 冬の需要(温泉・スキー・冬の食)と冬のアクセス(道路・航路の通年運行と除雪)の両方がそろうことです。立山町や小坂町では温泉を持つ麓・湖畔の施設が冬も営業期の7割前後の単価を保っています。どちらかが欠ける立地では、通年化より営業期の単価設計を優先するほうが収益性は高いと考えられます。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチが追跡する約27,000施設の、市区町村別・月別の掲載稼働施設数(OTA等で販売価格が1日でも観測できた施設数)と推定成約ADR(対象施設の中央値)。対象期間は2025年8月〜2026年8月の13ヶ月で、季節性の判定は確定済みの2025年8月〜2026年5月の10ヶ月に限った。立山町の施設別の販売月は施設単位の月次データ、客室数は当社収集の施設データによる。

■ 試算前提

必要単価は「通年営業・1泊¥10,000・稼働率60%」の客室あたり年間売上(約219万円)を基準に、営業日数×稼働率で割り戻した客室売上のみの簡易計算。稼働率50〜70%と営業日数92〜365日は試算上の仮定値で、人件費・光熱費・固定資産税・冬季の維持管理費・開閉に伴う準備撤収のコストは含まない。

■ 限界・留意点

掲載稼働施設数は休業だけでなく、通月の販売停止や完売、海外チャネルでの先行販売でも減るため、施設数の減少を休業と同一視できない(ニセコ町・倶知安町)。OTA未掲載の山小屋・民宿は母集団に含まれず、ADRの対象施設数(N)が1〜5の町では1施設の出入りで中央値が大きく動く。推定成約ADRは推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。

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