北海道倶知安町の宿泊税収は2025年度に6億4,000万円へ伸び、税率を2%から3%に上げた2026年度は約8億円が見込まれている——倶知安観光協会の鈴木紀彦事務局長が講演でそう説明したと、トラベルボイスが10月13日に報じた。宿泊税を扱う記事の多くは税率と宿泊者の負担額に焦点を当てるが、本稿は視点を「集めた後」に移す。町が公表する年度別の決算書と、メトロエンジンリサーチが推定する倶知安町の月別成約単価を重ね、定率制の税収がいつ・どれだけ積み上がり、無料循環バスや町民優待といった使途にどう配分されているかを読み解く。
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
- — 6.4億円→約8億円 2025年度の宿泊税収6億4,000万円に対し、税率を2%から3%へ上げた2026年度は約8億円の見込み(総務省同意資料の平年度見込みは約7.5億円)
- — 12〜2月で49.3% 推定成約ADR(2025年4月〜2026年3月、N=20〜24施設)を各月の室泊数が等しいとして当てはめると、税収の約半分が冬3か月に積み上がる
- — 充当額の67%がDMO補助 2025年度決算の宿泊税充当額3億5,155万円のうち倶知安観光協会への補助が2億3,625万円。補助事業費の55%が冬・夏の二次交通
- — 道税は3%の内側 2026年4月導入の北海道宿泊税は「町道宿泊税」として3%に合算され、宿泊者の負担は宿泊料金の3%のまま
- — 定率制は広がる ニセコ町(2026年11月)、沖縄県(2027年2月予定)、東京都(2027年4月)が定率制へ。倶知安町の7年分の決算は数少ない実績データ
税収の規模 — 導入7年目で1.8億円から8億円へ
まずは規模感を町の一次資料で押さえたい。倶知安町は2019年11月、宿泊料金の2%を課す定率制の宿泊税を導入した。全国の宿泊税は1人1泊あたりの定額制が主流で、総務省の資料によれば町の協議段階から「部屋貸しのコンドミニアムが多い地域では宿泊人数の把握が難しく、宿泊料金に定率をかけた制度が導入できないか」という意見が出ていた。導入当初の平年度収入見込みは3億8,000万円だったが、町の「宿泊税を財源とした事業」ページに載る決算値は、初年度(2019年11月〜2020年3月の5か月分)が1億7,648万円、コロナ禍の2020年度が5,249万円と推移し、その後は北海道新聞の報道で2024年度が前年度比28.0%増の5億6,800万円と3年連続の最高を更新している。
そのうえで2025年度の6億4,000万円、2026年度の約8億円という数字が講演で示された。総務省が2025年7月に同意した税率3%への変更協議では平年度の収入見込みが約7.5億円とされており、約8億円の見込みはそれを上回る水準といえる。背景にあるのは単価の上昇である。定率制は課税標準が宿泊料金そのものなので、税率を据え置いても単価が上がれば税収が伸びるという構造を持つ。この点は後段で月別の単価から確かめる。
出典:倶知安町「宿泊税を財源とした事業」各年度決算・予算、北海道新聞(2024年度)、トラベルボイス(2025年度実績・2026年度見込み)よりホテルバンク編集部作成。2023年度は2024年度の前年度比28.0%増から逆算した参考値。2020年度の充当額は町ページに未掲載
税収と並べて見たいのが、同じページに載る「宿泊税の充当額」である。充当額は2021年度1億5,000万円、2022年度5,000万円、2023年度2億円、2024年度2億8,630万円、2025年度3億5,155万円と増え、2026年度当初予算では5億5,000万円に達する。税収との差は「倶知安町宿泊税基金」に積まれ、2019年度は税収の85%にあたる1億5,075万円が基金積立に回った。集めた年に使い切るのではなく、繁閑や需要変動に備える貯えを持ちながら事業規模を段階的に広げてきた、という設計が決算の並びから読み取れる。
規模感を住民と宿泊供給の単位に落とすと次の表になる。人口は町が公表する2026年9月末の住民基本台帳人口14,147人、ベッド数は講演で示された約2万7,000ベッドを用いた。
| 指標 | 2025年度(税収6.4億円) | 2026年度見込み(約8億円) |
|---|---|---|
| 住民1人あたり税収(人口14,147人) | 約45,200円 | 約56,500円 |
| 同(講演ベースの人口約1万5,000人) | 約42,700円 | 約53,300円 |
| 1ベッドあたり税収(約2万7,000ベッド) | 約23,700円 | 約29,600円 |
| 税収から逆算した課税宿泊料金(税率2%) | 約320億円 | 約267億円(税率3%) |
出典:倶知安町(人口・世帯数 2026年9月末)、トラベルボイス(税収・ベッド数)よりホテルバンク編集部作成
観光庁のサイトに掲載された倶知安観光協会の講演資料では、2024年度の税収5.6億円を人口1万5,000人で割った住民1人あたり3万7,333円が、京都市の3,741円、東京都の310円、福岡県の374円(いずれも令和5年度)と並べて示されている。本稿はこれを自治体の優劣としては読まない。人口1万人台の町に年間延べ135万人(2024年度、後志管内の訪日外国人延べ宿泊客数)規模の来訪が重なる場所では、住民1人あたりで見た税収の桁が都市部と自然に異なる、という構造の確認である。
定率制の税収は冬3か月に半分が積み上がる — 月別の推定成約ADRから
定率制のもう一つの特徴は、税収が単価の季節性をそのまま映すことである。メトロエンジンリサーチの推定成約ADR(倶知安町、2名1室・税抜相当、対象施設の中央値)を月別に見ると、2025年10月の13,100円に対し、12月は36,100円、2026年1月は61,600円、2月は63,500円まで上がり、3月は29,000円、4月は19,800円へ戻る(N=20〜24施設)。2月の単価は10月の4.9倍にあたる。前年同月比では1月が+28.4%(2025年1月48,000円)、2月が+19.1%(同53,300円)で、冬のピーク単価がさらに一段上がった年だった。倶知安町の冬単価が雪国98市町村の中でどの階層に位置するかは、雪国ホテルの冬単価2027年1月|倶知安4.9万円・白馬2.9万円、5道県98市町村の価格5階層と客室ストックで整理している。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(倶知安町・推定成約ADR・N=17〜24施設)。2026年10月〜2027年3月は調査時点(2026年10月下旬)の掲載水準に基づく推定で、確定月との前年比較には用いない
この単価に税率3%を掛けると、1室1泊あたりの宿泊税は2月に約1,900円、10月に約390円となる。ここから、税収が1年のどこで積み上がるかを概算で示したい。前提は次の3点である。①各月の室泊数が同じ(稼働の季節差を織り込まない)、②各月の課税宿泊料金を推定成約ADRで代表させる、③税率は年間を通じて一定。この前提で2025年度(2025年4月〜2026年3月)の12か月の単価を合計すると327,300円で、各月の単価がそのまま税収の月別構成比になる。結果は、12月〜2月の3か月で49.3%、12月〜3月の4か月では58.1%、4月〜11月の8か月で41.9%である。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(各月の室泊数が等しいと仮定した概算。推定成約ADR 2025年4月〜2026年3月、N=20〜24施設)
実際には冬の稼働が夏を上回るので、冬への集中はこの概算より強いと考えるのが自然である。町の月別税収は公表されていないため月単位の突き合わせはできないが、年額では整合を確かめられる。2025年度の税収6億4,000万円を税率2%で割り戻した課税宿泊料金は約320億円で、これを上記の年平均単価27,300円で割ると約117万室泊に相当する。1室2.5人の換算で約290万人泊、約2万7,000ベッドの年間供給(約985万ベッド泊)に対して3割前後の消化という水準で、桁として無理のない数字といえる。なお本稿のADRはホテル・旅館など検証済み区分の中央値で、コンドミニアムや貸別荘の高単価帯は中央値に反映されにくいため、実際の室泊数はこれより少なく、単価はより高い側に寄っている可能性がある。
ここまでを整理すると、税率を2%から3%へ1ポイント上げた効果は年間を均して効くのではなく、1〜2月の高単価月に集中して現れる。2026-27シーズンは定率3%で迎える最初の冬であり、2026年度見込み約8億円のうち半分前後が12月〜2月の3か月で確定するという見立てになる。自治体の予算編成の側から見れば、冬の実績が固まる3月の申告納入を待って翌年度の事業規模を決められるという意味で、季節性は読みやすさにもつながる。
使途の配分 — DMO補助が充当額の7割、その半分が二次交通
それでは集めた税はどこへ向かっているのか。町の2025年度決算(宿泊税を財源とした事業一覧)によれば、宿泊税を充当した事業費は3億9,109万円、うち宿泊税充当額は3億5,155万円である。最大の項目は地域DMOである倶知安観光協会への事業補助金で、事業費2億6,512万円に対して宿泊税から2億3,625万円を充てた。充当額全体の67%にあたる。講演で「補助金は税収の自動配分ではなく、事業を積み上げて予算要求する方式で、結果として税収の40〜55%程度で推移している」と説明された部分を町の決算で確かめると、2025年度は税収6.4億円に対して充当ベースで37%、補助金の事業費ベースで41%、2026年度当初予算では見込み8億円に対し補助金の事業費3億3,815万円で42%となる。年度と分母の取り方で幅はあるが、税収の4割前後がDMO経由で執行される構図は決算からも裏づけられる。
| 2025年度 決算(主な事業) | 事業費(千円) | うち宿泊税(千円) |
|---|---|---|
| 倶知安観光協会事業補助金(地域DMO支援) | 265,118 | 236,251 |
| 内訳:冬季二次交通・交通対策(ひらふ無料循環バスほか) | 128,431 | — |
| 内訳:夏季二次交通強化(スカイリゾートシャトル等) | 16,197 | — |
| 内訳:住民優待「Kutchan ID+」・KUTCHAN MAGICAL DINING | 11,050 | — |
| 内訳:DMO人件費・事務費・案内所運営 | 70,361 | — |
| ニセコHANAZONOリゾート連絡交通補助金 | 20,400 | 18,278 |
| ひらふ地区ロードヒーティング事業 | 15,328 | 15,328 |
| 宿泊税特別徴収義務者徴収奨励金 | 13,604 | 13,604 |
| 観光施設維持管理事業 | 12,221 | 10,950 |
| タクシードライバー派遣(ニセコモデル実証事業) | 11,220 | 10,053 |
| ひらふスキー場第1駐車場安全管理事業 | 10,885 | 9,753 |
| ニセコひらふエリアマネジメント交付金 | 9,210 | 8,252 |
| 合計(全事業) | 391,093 | 351,554 |
出典:倶知安町「令和7年度 宿泊税を財源とした事業一覧(決算)」よりホテルバンク編集部作成。DMO補助金の内訳は町から協会への補助金額で、宿泊税の内訳額は資料に区分がない
DMO補助金の中身を見ると、冬季二次交通・交通対策が1億2,843万円で補助金事業費の48%を占める。講演の「補助金の半分近くが二次交通」という説明はこの数字と一致する。夏季のシャトルを合わせた二次交通は1億4,463万円、補助金事業費の55%に達する。二次交通が最大の使途になっている理由は、町が2019年の協議書で「観光客の域内交通の不便さ」を導入理由の筆頭に挙げていたことと地続きである。2026年度当初予算でも二次交通・交通対策事業は1億6,840万円が計上され、DMO補助金3億3,815万円の50%を占める。
| ひらふ無料循環バス(12月〜3月) | 乗車人数 | 前年度比 |
|---|---|---|
| 2021年度 | 7,244人 | — |
| 2022年度 | 54,553人 | 750% |
| 2023年度 | 86,260人 | 160% |
出典:倶知安観光協会講演資料(観光庁サイト掲載)よりホテルバンク編集部作成。2025年度は赤色に統一した5台を約4か月間運行(トラベルボイス)
無料循環バスは2021年度の7,244人から2023年度には86,260人へ利用が広がり、2024-25シーズンからは市街地とリゾートを結ぶ「くっちゃんナイト号」も無料化された。講演では車両を赤色に統一した理由として使途の見える化が挙げられており、「宿泊税で走っているバス」が町内で目に見える形になっている点は、税の受け入れを支える設計として他地域にも応用できる。
もう一つの柱が住民還元である。住民優待「Kutchan ID+」はマイナンバーカードとスマートフォンで町民であることを認証し、加盟店で割引を受けられる仕組みで、ハワイの住民割引「カマアイナ・ディスカウント」が着想の元だという。講演時点で町内約7,000世帯に対し約2,500アカウント、およそ3分の1の世帯が利用し、子育て世帯では食費の割引が年間5〜6万円程度の給付に相当するケースもあると説明された。町が公表する2026年9月末の世帯数は8,246世帯(うち外国籍1,146世帯)で、この分母で見ても3割に届く。割引の多くは加盟店が負担し、行政支援への依存を抑える方針も示された。関連して、通常11,000円のスキー場1日券を町民が3,000円で購入できる町民割、1万円で2万円分のクーポンが買える「Kutchan Magical Experience」(差額を宿泊税で賄う)も展開され、これらの取り組みは2026年のジャパン・ツーリズム・アワードで経済産業大臣賞を受けている。2025年度決算で住民優待関連の事業費は1,105万円、2026年度予算では「地域理解促進事業」として2,600万円が計上されており、金額規模は二次交通の1〜2割にとどまるが、住民が税の受益者として可視化される役割を担う。
2026年度予算には性格の異なる項目も入る。全事業費8億6,339万円のうち宿泊税充当は5億5,000万円で、残りはひらふ高原中央公園駐車場整備事業(事業費2億5,524万円、宿泊税充当508万円、その他特定財源2億5,000万円)のように他の財源と組み合わせた整備が並ぶ。駅前通り歩道のロードヒーティング整備(3,251万円)やゴンドラ坂・さくら坂のロードヒーティング設計(1,338万円)も加わり、使途が運行型の事業から冬のインフラ整備へ広がり始めた年度と位置づけられる。
道税との関係 — 「町道宿泊税」として3%に合算
北海道は2026年4月1日から道の宿泊税を導入した。1人1泊あたり、宿泊料金2万円未満で100円、2万円以上5万円未満で200円、5万円以上で500円の定額制で、総務省への協議では平年度の収入見込みが約44.8億円とされている。倶知安町のページによれば、町は定率制を維持するため2025年6月に条例を改正し、町の宿泊税と北海道宿泊税を合算した「町道宿泊税」として宿泊料金の3%を徴収する。町税は「3%から北海道宿泊税を差し引いた残額」と定義され、道税分は町税務課が算定して北海道へ納付する。宿泊者の負担は合計で宿泊料金の3%であり、道税が別途上乗せされるわけではない。たとえば1泊15,000円なら税額450円(道税100円・町税350円)、6万円なら1,800円(道税500円・町税1,300円)となる。徴収事務を担う宿泊事業者への徴収奨励金は交付率が2.5%から3.5%へ引き上げられ、2026年4月申告分から2031年3月申告分まで適用される。2026年度見込みの約8億円は、この道税分を含む町道宿泊税ベースの数字として読む必要がある。
定率制を選ぶ自治体 — 公表値の整理
倶知安町が2019年に定率制を導入した時点では全国で唯一の方式だったが、2026年以降は同じ設計を選ぶ自治体が増える。隣接するニセコ町は2024年11月に導入した段階的定額制(1人1泊100〜2,000円)を宿泊料金の3%の定率制に改め、2026年3月27日に総務大臣の同意を得て11月1日に施行する予定で、平年度の収入見込みは約2.6億円(現行制度は1億6,200万円)である。定額制から定率制への変更は総務省によると全国初と報じられた(ニセコ町の実勢単価で見た1泊あたりの税額と定額制との境目は、ニセコ町の宿泊税は2026年11月1日から3%|冬ADR4.2万円で1室1,269円、定額制との境目は1人1万円を参照)。東京都は2026年6月30日に条例改正の同意を得て、2027年4月1日から宿泊料金の3%の定率制へ移行し、免税点は1人1泊1万円未満から1万3,000円未満に引き上げる。沖縄県も宿泊料金の2%の定率制で2027年2月の導入を予定している。
| 自治体 | 税率 | 施行 | 平年度収入見込み・備考 |
|---|---|---|---|
| 倶知安町 | 宿泊料金の3%(道税分を含む町道宿泊税) | 2026年4月1日(2019年11月に2%で導入) | 約7.5億円(総務省同意資料)。2026年度見込み約8億円(講演) |
| ニセコ町 | 宿泊料金の3% | 2026年11月1日(予定) | 約2.6億円。現行の段階的定額制は1億6,200万円 |
| 東京都 | 宿泊料金の3%(免税点1万3,000円未満) | 2027年4月1日 | 現行は1人1泊100円・200円の定額制。簡易宿所・民泊を課税対象に追加 |
| 沖縄県 | 宿泊料金の2% | 2027年2月(予定) | 2025年9月に条例可決 |
| 北海道(道税) | 1人1泊100円・200円・500円の定額制 | 2026年4月1日 | 約44.8億円。市町村税のある17市町村では市町村を通じて申告納入 |
出典:総務省(各自治体の同意資料)、東京都報道発表(2026年6月30日)、北海道、訪日ラボ、トラベルボイスよりホテルバンク編集部作成。優劣の比較ではなく公表値の整理
定率制の共通点は、税収が単価と連動して自動的に伸び縮みすることと、宿泊人数の把握に頼らずに済むことである。一方で、倶知安町のように単価の季節差が大きい地域では税収の入り方も季節に偏る。その偏りをどう受け止めるかが、基金の積み方や年度途中の補正といった「集めた後」の設計に直結する。観光庁によれば2026年1月13日時点で宿泊税を導入している自治体は19、総務省の同意を得た自治体は39に上り、各地の12月議会でも議論が続く。東京都・ニセコ町・大分県・長崎市の施行日と、定率化で負担が増える単価帯については宿泊税の改定一覧 2026-27が一覧にしている。倶知安町の7年分の決算は、定率制を検討する自治体にとって数少ない実績データになる。
宿泊事業者への示唆 — 冬の単価を支える土台としての使途
宿泊事業者の側から見ると、宿泊税は徴収事務を担うコストであると同時に、自らの商圏に再投資される財源でもある。倶知安町では宿泊税の4割前後がDMO経由で執行され、その半分近くが無料循環バスなどの二次交通に回る。1〜2月に推定成約ADRが6万円台に乗る商圏で、宿泊者が車なしでスキー場・宿・飲食店を回遊できる環境が税で維持されていることは、冬の高単価を受け入れてもらうための滞在体験の土台になっていると読める。鈴木氏は講演でDMOの「M」について「マーケティングよりも、マネジメント」と述べ、「声が上がってから行動するのでは遅い」と語ったと報じられている。ハワイでの勤務経験から海外の事例を地域に合わせて「ニセコモデル」に組み替える発想も紹介された。
住民優待の側面も事業者にとって無関係ではない。講演では、燃料や人件費、仕入れ値の上昇を価格に転嫁しつつ、町民には割引を適用して暮らしを守るという考え方が示されている。観光庁掲載の協会資料にはラーメン1杯の価格が令和3年の950円から令和5年の1,100円へ上がった例が載っており、観光客向けの価格水準と住民の生活価格を一つの町の中で両立させる仕組みとして住民優待が置かれている。高単価化が進むリゾート地ほど、住民の理解を得る設計が長期的な営業環境を左右する。この構図は、従業員の通勤車両を減らすパーク&バスライドが2026年度予算でも二次交通事業の一部として継続されていることにも表れている。
導入・検討中の自治体や、リゾート地への投資を検討する事業者が倶知安町の実績から持ち帰れる論点を3つに絞ると、①定率制の税収は単価のピーク月に集中するため、基金を介した平準化と翌年度への繰り越し設計が要る、②使途は目に見える形(車両の色、住民の認証ID)にすると受け入れが進む、③DMOへの配分は固定比率ではなく事業の積み上げで決め、決算を事業単位で公表する——の3点である。宿泊税収は町の決算では2019年度の1.8億円から2026年度の8億円見込みまで伸びてきたが、当事者の言葉を借りれば、集めた額よりも「何に使い、誰に還元したか」が問われる段階に入っている。
まとめ
倶知安町の宿泊税収は2025年度6億4,000万円、2026年度は税率3%への引き上げと単価上昇で約8億円が見込まれる。住民1人あたりでは約5万6,500円、1ベッドあたり約2万9,600円の規模である。メトロエンジンリサーチの推定成約ADRで季節性を当てはめると、各月の室泊数が等しいという控えめな前提でも税収の49%が12〜2月の3か月に積み上がり、2026-27シーズンは定率3%で迎える最初の冬になる。町の決算では充当額の7割がDMO補助金、その半分近くが無料循環バスなどの二次交通で、住民優待や町民割が住民への還元として並ぶ。北海道の道税は町道宿泊税として3%の内側に合算され、宿泊者の負担は3%のままである。ニセコ町(2026年11月)、沖縄県(2027年2月)、東京都(2027年4月)と定率制を選ぶ自治体が続く中で、倶知安町の7年分の決算は「集めた後」の設計例として参照価値を持つ。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のチャートに含む2026年10月〜2027年3月のADRは調査時点(2026年10月下旬)でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動する。確定月との前年比較や税収の見込み計算には用いていない。税収の月別構成比は2025年4月〜2026年3月の確定月のみで計算している。
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参考資料・出典一覧
- トラベルボイス「倶知安町、2026年度の宿泊税収は8億円の見込み」倶知安観光協会 鈴木紀彦事務局長の講演(第10回観光立国ミートアップ)報道(2026年10月13日)
- 倶知安町「宿泊税を財源とした事業」各年度の決算・予算一覧(令和元年度〜令和8年度)
- 倶知安町「倶知安町の宿泊税について」(税率3%・町道宿泊税・徴収奨励金)
- 倶知安町 人口・世帯数(住民基本台帳、2026年9月末現在)
- 総務省「北海道倶知安町『宿泊税』の変更」(2025年7月31日同意)
- 総務省「北海道倶知安町『宿泊税』の新設について」(税率2%・平年度3.8億円)
- 総務省「北海道ニセコ町『宿泊税』の変更」(2026年3月27日同意)
- 総務省「北海道ニセコ町『宿泊税』の新設」(2024年3月12日同意)
- 総務省「北海道『宿泊税』の新設について」(税率・平年度約44.8億円・道内市町村との税額)
- 北海道「北海道宿泊税」(税率・市町村宿泊税との関係・申告納入期限)
- 観光庁サイト掲載 倶知安観光協会講演資料(宿泊税の活用、無料循環バス乗車人数、住民優待)
- 北海道新聞「倶知安町の宿泊税、3年連続最高 24年度5億円突破」
- 北海道新聞「後志管内観光客3.5%増の2371万人 24年度 訪日宿泊客最多135万人」(2025年7月17日)
- 東京都「宿泊税条例の改正」報道発表(2026年6月30日)
- トラベルボイス(観光庁まとめ:2026年1月13日時点の宿泊税導入19自治体・同意39自治体)(2026年2月13日)
- 訪日ラボ「2025年〜2026年に宿泊税を導入・改定した自治体まとめ」(2026年6月1日)
- メトロエンジンリサーチ — 倶知安町の推定成約ADR(2024年7月〜2027年3月、N=17〜24施設)
