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リゾートマンション宿泊転用の採算2026|越後湯沢79泊・熱海48泊が分岐点

投稿日 : 2026.09.13

新潟県

静岡県

投資・開発

リゾートマンション宿泊転用の採算2026|越後湯沢79泊・熱海48泊が分岐点

バブル期に大量供給された区分所有リゾートマンションは、いま10万円台から流通している。取得のハードルが低い一方で、所有した瞬間から管理費・修繕積立金・固定資産税が毎月出ていく。この構造を「宿泊施設として稼働させる」側から見ると、投資判断は取得価格ではなく年間で何泊売れば固定費と回収を賄えるかという一点に収束する。本稿では越後湯沢(新潟県湯沢町)と熱海(静岡県熱海市)を対象に、①取得価格帯 ②年間固定費 ③許認可と無人運用コスト ④成立に必要な年間販売泊数、の4段階でモデルを分解する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設が公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
  • 掲載価格(全プラン平均・税込):素泊まりから食事付きまで全プランを平均した公開価格。推定成約ADRとは別指標であり、本記事では明示的に区別して表記します。
  • 年間販売泊数:1住戸を1つの販売単位として、年間に販売できた延べ泊数。365で除した値を稼働率として併記します。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
越後湯沢 推定成約ADR
¥15,200
直近12ヶ月平均・N=34〜53施設
熱海 推定成約ADR
¥24,600
直近12ヶ月平均・N=99〜106施設
固定費(湯沢・年)
約55万円
稼働ゼロでも発生
損益分岐 年間販売泊数
79泊
湯沢・固定費のみ/熱海は48泊
全国 簡易宿所 稼働率
29.6%
2025年=年108泊相当
Key Takeaways
  • — 固定費だけを賄う損益分岐は越後湯沢で年79泊(稼働21.8%)、熱海で年48泊(稼働13.0%)。判断軸は取得価格ではなく年間販売泊数にある。
  • — 全国の簡易宿所の平均稼働(2025年29.6%=年108泊)で15年回収できる投資総額の上限は、越後湯沢で約300万円、熱海で約1,270万円
  • — 推定成約ADRは湯沢¥15,200/熱海¥24,600(2025年8月〜2026年7月)。掲載価格は熱海で推定成約ADRの2.04倍あり、事業計画に用いると収益を約2倍に見積もる。
  • — 感度が最も大きいのは運営代行の利用有無。売上の15%を委託すると湯沢の必要泊数は108泊から162泊へ増え、全国平均稼働では届かなくなる。
  • — 最大の制約は価格ではなく管理規約。湯沢で管理組合が宿泊事業を承認した棟は2018年3月が最初で母集団は限られる。選定順序は「規約→固定費→価格」。

結論:15年回収で成立する投資総額の上限は湯沢で約300万円、熱海で約1,270万円

先に結論を置く。管理費・修繕積立金・固定資産税といった稼働ゼロでも出ていく固定費だけを賄うラインは、越後湯沢で年79泊(稼働21.8%)、熱海で年48泊(稼働13.0%)だった。ここまでは、いずれのエリアでも十分に射程に入る水準である。

ところが取得原価の回収を条件に加えると景色が変わる。観光庁「宿泊旅行統計調査」によれば2025年の全国の簡易宿所の客室稼働率は29.6%、年間に直すと108泊にあたる。この108泊を15年間続けて投資総額を回収しきれる上限を逆算すると、越後湯沢で約300万円、熱海で約1,270万円となった。取得価格に加えて家具・家電・消防設備・許認可取得などの初期投資が200万円前後かかることを踏まえると、湯沢は物件価格100万円前後、熱海は1,000万円前後が「平均的な稼働で回る」上限ということになる。

逆に言えば、この水準を超える物件を宿泊転用で成立させるには、全国平均を大きく上回る販売泊数か、平均を上回る単価が要る。越後湯沢の場合、それは通年ではなく冬季に販売を集中させる設計で取りに行くことになる。以下、4段階で数字を積み上げていく。

① 取得価格帯 — 湯沢は平均585万円だが下限は10万円台、熱海は築年で4層に分かれる

越後湯沢のリゾートマンションは1985〜1991年の6年間で約1万戸が販売され、現在の総ストックは約57〜58棟・約1万4,000戸とされる(新潟日報/LIFULL HOME’S PRESS)。流通価格は幅が非常に大きい。2025年9月時点の平均売却価格は585万円(平均築35年・平均50㎡)で、前年比+34.5%と上昇局面にあるが、同時に10万〜100万円台の物件も市場に存在する。リノベーション済みの上位帯は1,880万〜1,980万円まで開く。

熱海は築年数で明確に4層に分かれる。1970年代の物件が500万〜1,500万円、1980〜90年代が1,000万〜2,500万円、2000年代が2,000万〜4,500万円、2010年代以降の築浅が4,000万円以上という構造である。海と温泉という通年需要の裏付けがある分、湯沢より一段高い水準で取引されている。

表1:越後湯沢・熱海の区分所有リゾートマンション 流通価格帯(公表されている流通情報ベース・2025年9月時点)
エリア価格帯区分取得価格レンジ備考
越後湯沢
(新潟県湯沢町)
下限帯10万〜100万円築古・小面積・共用施設の負担が重い物件
中位帯585万円(平均)2025年9月時点・平均築35年・平均50㎡/前年比+34.5%
上位帯1,880万〜1,980万円リノベーション済み物件
熱海
(静岡県熱海市)
築50年前後500万〜1,500万円1970年代竣工
築30〜40年1,000万〜2,500万円1980〜90年代竣工
築20年前後2,000万〜4,500万円2000年代竣工
築浅4,000万円〜2010年代以降竣工
出典:各不動産流通事業者の公表レンジ、LIFULL HOME’S PRESS、新潟日報よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング整理

ここで押さえておきたいのは、取得価格の安さは投資の容易さを意味しないという点である。10万円で買える住戸は、そのまま10万円で売れる住戸でもある。出口が薄いという意味では、価格の低さは流動性の低さと表裏一体で、投資判断の重心は次の②に移る。

② 年間固定費 — 稼働ゼロでも湯沢で年30万〜50万円、熱海で年42万円前後

区分所有リゾートマンションの特徴は、共用部に温泉大浴場・プール・テニスコートなどを抱えることが多く、そのぶん管理費が一般的な住宅系マンションより高いことにある。管理費は面積あたりで586円/㎡、修繕積立金は213円/㎡程度という水準が報じられている。

表2:1住戸あたり年間固定費の内訳(管理費・修繕積立金・固定資産税・別荘等所有税/月額および年額)
費目越後湯沢(月額)熱海(月額)内容
管理費22,000〜29,000円15,000〜25,000円共用部管理、温泉大浴場・プール等の維持
修繕積立金3,000〜11,000円10,000〜15,000円大規模修繕原資
温泉運営費管理費に内包が多い0〜5,000円別建て徴収の物件あり
小計25,000〜40,000円約30,000円
固定資産税・都市計画税年30,000〜50,000円年80,000円前後(想定)湯沢町の固定資産税率は標準税率
別荘等所有税年650円/㎡熱海市独自税。課税面積50㎡なら年32,500円、115㎡なら年74,750円
年間合計約33万〜53万円約42万〜52万円稼働ゼロでも発生
出典:熱海市「別荘等所有税」、湯沢町「固定資産税について」、各不動産流通事業者の公表水準よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング整理

この固定費は物件によってさらに開く。共用施設の充実した大規模物件では、管理費と修繕積立金の合計が月53,200円(年63.8万円)という事例も報じられている。年間の固定費が60万円を超えるということは、それだけで年40泊分の粗利に相当する負担が先に載っているという意味になる。宿泊転用の投資判断では、取得価格の見積もり以上に、管理組合の総会資料と長期修繕計画を読む作業の比重が高い。

熱海市の別荘等所有税について:課税客体は「主として保養の用に供する家屋又はその部分等」であり、税率は延面積1㎡につき年額650円。課税期間は令和8年度から令和12年度まで更新されています。同市のQ&Aによれば共用部分も按分して課税されるため、課税面積は登記面積より大きくなる点に留意が必要です(共用施設の充実したリゾートマンションほど按分面積が増えます)。本稿の収支モデルでは課税面積115㎡相当・年74,750円を前提としました。また、通年で宿泊事業に供する住戸の取扱いは個別判断となるため、取得前に熱海市税務課へ照会することが前提になります。

③ 許認可と管理規約 — 湯沢では「宿泊転用できる棟」がそもそも限られる

ここが本テーマで最も見落とされやすい段である。区分所有マンションの一室を宿泊施設として運営する経路は2つある。

表3:区分所有1住戸を宿泊施設として運営する2つの制度経路(旅館業法・簡易宿所営業/住宅宿泊事業法)の比較
項目旅館業法・簡易宿所営業住宅宿泊事業法・住宅宿泊事業
手続都道府県知事等の許可都道府県知事等への届出
営業日数上限なし(通年営業可)年間180日以内
フロント(玄関帳場)2016年3月の改正で「設けることが望ましい」に緩和。代替機能を有する設備と緊急時対応体制があれば設置を要しない不要(管理業者への委託等が要件)
本人確認ICT設備(顔認証等)による代替が認められる同左
消防設備自動火災報知設備、誘導灯、防炎物品等。所轄消防への事前相談と「防火対象物使用開始届」「消防法令適合通知書交付申請」が必要(熱海市の案内)
管理規約申請時に管理規約の提出を求められることがある。規約で禁止されていれば実施できない
出典:厚生労働省・内閣府規制改革推進会議資料、熱海市「民泊・簡易宿所について」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング整理

制度上は、フロント無人化とICT本人確認が認められたことで、1住戸単位の運営はかなり現実的になっている。実際、2026年に開業した宿泊施設1,412軒(OTA掲載確認ベース。2026年分は今後の掲載で増加します)のうち680軒(48.2%)が貸別荘で、コテージ64軒、民宿23軒、ペンション14軒を合わせると小規模・1棟貸し型が供給の主流を占める。1室規模での旅館業許可は制度としてすでに定着している。

制約は制度側ではなく管理規約側にある。越後湯沢では、リゾートマンションの管理組合で住宅宿泊事業の導入議案が可決されたのは2018年3月14日のエンゼルリゾート湯沢の臨時総会が最初で、同管理組合は株式会社エンゼルを住宅宿泊管理業者に指定した(同社リリース)。市場情報では、約58棟のうち規約上明確に宿泊事業が可能な棟は現時点でごく少数にとどまるとされている。規約変更には区分所有者の総会決議が要り、一般に4分の3以上の賛成が必要になる。

したがって越後湯沢での物件選定は、価格・面積・眺望よりも先に「その棟が宿泊事業を許容しているか」で母集団が絞られる。この順序を逆にすると、取得後に運営できない住戸を抱えることになる。熱海についても、市の案内は住宅宿泊事業法と旅館業法の双方の経路を示す一方、管理規約による制限がありうる旨に触れている。

④ 供給側の文脈 — 両エリアとも小規模施設が半数を占める市場になっている

宿泊転用の採算を考えるうえで、競合環境の実態を押さえておきたい。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する範囲で、越後湯沢(湯沢町中心から半径6km、N=365施設・5,787室)と熱海(熱海駅周辺から半径4km、N=269施設・6,240室)の客室規模別の構成を集計した。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(越後湯沢 N=365施設/熱海 N=269施設)

越後湯沢は10室以下が133施設(36.4%)、11〜30室が156施設(42.7%)で、中小規模が圧倒的である。熱海はさらに極端で、5室以下だけで105施設(39.0%)を占める。1住戸を宿泊施設化した場合、そこは「ホテルの隣にできた新しい客室」ではなく、すでに厚く形成された小規模在庫の一員として競争するという位置づけになる。

熱海の開業ペースは2023年20施設・2024年15施設・2025年14施設・2026年16施設と安定的に推移しており、この小規模在庫は今も積み上がっている。伊豆・熱海に小箱が積み上がる供給側の動きについては、静岡県の2026年開業67施設の内訳がより広い範囲を押さえている。単価も在庫も、この構造を前提に見る必要がある。

※ データに関する注記
本稿の開業軒数はOTA掲載確認ベースの集計です。OTAへの事前掲載は全体の約19%にとどまり、半数以上が開業後の掲載であるため、直近以降の月・年(本稿では2026年)は今後の掲載で軒数が増加する可能性があります。将来の供給量を見る際は、確認申請ベースの建築計画パイプライン(国土交通省「建築物動態統計調査」)と併せて参照することを推奨します。

越後湯沢 半径6km圏の宿泊施設分布(円=客室数規模)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=365施設)

熱海 半径4km圏の宿泊施設分布(円=客室数規模)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=269施設)

⑤ ADRアンカー — 湯沢は季節差2.38倍、熱海は1.56倍

収益側のアンカーを置く。両エリアの推定成約ADRの月次推移は以下のとおりである。

湯沢町 推定成約ADR 月次(2025年 vs 2026年)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR算出対象 N=34〜53施設/月)

熱海市 推定成約ADR 月次(2025年 vs 2026年)

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR算出対象 N=99〜106施設/月)
表4:推定成約ADRと掲載価格の比較(2025年8月〜2026年7月・湯沢町 N=34〜53施設/月、熱海市 N=99〜106施設/月)
指標(2025年8月〜2026年7月)越後湯沢(湯沢町)熱海(熱海市)
推定成約ADR・12ヶ月平均¥15,200¥24,600
最高月¥23,200(2026年1月)¥30,300(2025年12月)
最低月¥9,700(2026年6月)¥19,400(2026年6月)
季節差(最高÷最低)2.38倍1.56倍
冬季4ヶ月平均(12〜3月)¥20,500¥26,900
夏季3ヶ月平均(6〜8月)¥13,300¥23,600
掲載価格(全プラン平均・税込)¥25,300¥50,400
掲載価格÷推定成約ADR1.67倍2.04倍
参考:11〜30室規模の推定成約ADR中央値¥16,100(N=19施設)¥24,700(N=29施設)
参考:10室以下規模の推定成約ADR中央値¥12,500(N=4施設)¥21,400(N=14施設)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

注意すべきは掲載価格と推定成約ADRの乖離である。熱海の掲載価格(全プラン平均・税込)は¥50,400だが、これは食事付きプランや売れ残った高価格帯プランを含む公開価格の単純平均であり、推定成約ADRの2.04倍にあたる。事業計画のADR前提に掲載価格を使うと、収益を約2倍に見積もることになる。本稿ではすべて推定成約ADR(税抜相当)を用いる。

季節性の差も設計に直結する。越後湯沢は1月と6月で2.38倍の開きがあり、単価が取れるのは冬季4ヶ月に集中する。熱海は最低月でも¥19,400を維持し、通年で平準化されている。湯沢は「冬に集中して売る」、熱海は「通年で薄く広く売る」という、そもそも異なる事業設計を要求する市場である。

⑥ 成立に必要な年間販売泊数 — 固定費だけなら79泊/48泊、回収込みで108〜193泊

ここまでの数字を1住戸あたりの損益に落とし込む。変動費は清掃・リネン(1組あたり湯沢1万円・熱海1.2万円、平均滞在1.8泊として按分)、販売チャネル手数料10%、光熱費・消耗品で構成した。

表5:1住戸あたりの損益モデルと損益分岐 年間販売泊数(推定成約ADRベース)
項目越後湯沢熱海
推定成約ADR(1泊)¥15,200¥24,600
清掃・リネン(1泊あたり按分)−¥5,600−¥6,700
販売チャネル手数料(10%)−¥1,500−¥2,500
光熱費・消耗品−¥1,200−¥1,500
貢献利益(1泊)¥6,900¥14,000
年間固定費(管理費・修繕積立金・税)¥400,000¥515,000
保険・通信・無人チェックイン運用¥150,000¥150,000
年間固定費 合計¥550,000¥665,000
損益分岐 年間販売泊数79泊(稼働21.8%)48泊(稼働13.0%)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ADRは推定成約ADRの直近12ヶ月平均、その他前提は本文記載)

固定費の回収だけを見れば、熱海は年48泊、湯沢は年79泊で足りる。次に、取得価格と初期投資(家具・家電・消防設備・許認可取得を200万円と想定)の回収を条件に加える。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(試算値)
表6:投資総額別の必要年間販売泊数と必要稼働率(15年回収前提)
シナリオ投資総額回収年数必要年間販売泊数必要稼働率
湯沢:固定費のみ79泊21.8%
湯沢:下限帯取得(100万円)+初期200万円300万円15年108泊29.7%
湯沢:下限帯取得(100万円)+初期200万円300万円10年123泊33.6%
湯沢:平均価格取得(585万円)+初期200万円785万円15年155泊42.5%
湯沢:平均価格取得(585万円)+初期200万円785万円10年193泊52.8%
熱海:固定費のみ48泊13.0%
熱海:築古帯取得(800万円)+初期200万円1,000万円15年95泊26.1%
熱海:築古帯取得(800万円)+初期200万円1,000万円10年119泊32.6%
熱海:中位帯取得(1,500万円)+初期200万円1,700万円15年128泊35.2%
熱海:中位帯取得(1,500万円)+初期200万円1,700万円10年169泊46.3%
ベンチマーク:全国 簡易宿所 客室稼働率(2025年)108泊相当29.6%
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算

この表の読み方はシンプルである。右端の必要稼働率が29.6%を下回るシナリオだけが、平均的な運営で成立する。湯沢は300万円・15年でちょうど29.7%と境界線上、熱海は1,000万円・15年で26.1%と余裕がある。一方、湯沢で平均価格帯(585万円)の住戸を取得すると15年回収でも42.5%が必要になり、全国平均を13ポイント上回る運営力が前提になる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(15年回収・試算値)

投資総額を横軸にとって必要泊数を引いたのが上のグラフである。全国平均の108泊と交わる点が、それぞれのエリアで「平均的な稼働で回る投資総額の上限」にあたる。越後湯沢で約300万円、熱海で約1,270万円。この差の大半は、貢献利益が1泊あたり¥6,900と¥14,000で2倍開いていることから来ている。単価が倍あれば、同じ泊数で倍の投資を支えられるという、きわめて素直な構造である。

⑦ 越後湯沢で採算を広げる設計 — 冬季集中運用というアップサイド

ここまでの通年モデルは、越後湯沢にとって保守的な見方でもある。同エリアの推定成約ADRは冬季4ヶ月(12〜3月)平均で¥20,500と、年平均を35%上回る。この期間に販売を集中させた場合、1泊あたりの貢献利益は¥11,700まで上がる。

通年・平準運用

ADR ¥15,200/貢献利益 ¥6,900
固定費550,000円の回収に79泊。投資300万円の15年回収込みで108泊を年間に分散して確保する設計。

冬季集中運用

冬季ADR ¥20,500/貢献利益 ¥11,700
固定費のみなら47泊、投資300万円の15年回収込みで約64泊。冬季121日のうち約53%を売れば到達する。

組み合わせ運用

冬季60泊+オフ期30泊なら年間の貢献利益は約86万円。固定費55万円と投資300万円の15年償却20万円(計75万円)を賄い、なお余力が残る。単価の高い期間に販売資源を寄せるほど成立幅は広がる。

越後湯沢はスキー需要という明確な季節ピークを持つ市場であり、スキー場周辺の客室ストックという観点でも供給の集中が確認できる。上越新幹線で東京から約80分という到達時間は、週末2泊を軸にした運用と相性がよい。冬季の稼働を厚く積み、オフ期は無理に薄利で売らないという設計は、通年平準を目指すより現実的な伸びしろがある。

熱海はこの逆で、最低月でも¥19,400を維持する通年型市場である。年間を通じて安定して販売できる分、稼働率の目標値を低く置いても成立し、運用の難易度は湯沢より低い。そのぶん取得価格が高いという交換条件になっている。

⑧ 感度分析 — ADRと清掃費が動いたときの必要泊数

前提を動かしたときの必要年間販売泊数を示す。基準は投資総額300万円(湯沢)/1,000万円(熱海)、15年回収である。

表7:前提変動に対する必要年間販売泊数の感度(1次元・投資総額 湯沢300万円/熱海1,000万円・15年回収)
前提の変動湯沢 必要泊数湯沢 稼働率熱海 必要泊数熱海 稼働率
ベースケース108泊29.7%95泊26.1%
ADR −10%135泊37.0%113泊31.0%
ADR +10%90泊24.8%82泊22.5%
清掃費 +20%129泊35.3%105泊28.8%
平均滞在 1.8泊 → 2.5泊88泊24.2%84泊23.0%
運営代行を利用(売上の15%)162泊44.2%129泊35.4%
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(試算値)

感度が最も大きいのは運営代行の利用有無である。売上の15%を委託手数料とすると、湯沢の必要泊数は108泊から162泊へ増え、全国平均稼働では届かなくなる。逆に、平均滞在日数を1.8泊から2.5泊へ伸ばすだけで必要泊数は88泊まで下がる。清掃費が1組あたりの固定額であるため、連泊が増えるほど1泊あたりの変動費が薄まる構造である。

ADR × 年間販売泊数の2軸グリッド — 投資上限がどこで反転するか

上の1次元の感度に加えて、単価と販売泊数を同時に動かしたときに15年で回収できる投資総額の上限がどう変わるかを2軸で置く。網掛けが濃いほど支えられる投資額が大きい。「成立せず」は年間の貢献利益が固定費に届かず、投資額をゼロに置いても回収できない領域である。基準行(年108泊)と基準列(ADR 基準)の交点は湯沢290万円・熱海1,270万円で、本文で「約300万円」「約1,270万円」としたのはこの値を丸めたものである。

表8:越後湯沢 — 推定成約ADR × 年間販売泊数 別の「15年で回収できる投資総額の上限」(万円)
年間販売泊数ADR −20%ADR −10%ADR 基準ADR +10%ADR +20%
60泊(稼働16.4%)成立せず成立せず成立せず成立せず40
80泊(稼働21.9%)成立せず成立せず10未満170330
108泊(稼働29.6%=全国平均)成立せず70290510740
130泊(稼働35.6%)成立せず2505207901,050
160泊(稼働43.8%)1705008301,1601,490
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(試算値)
表9:熱海 — 推定成約ADR × 年間販売泊数 別の「15年で回収できる投資総額の上限」(万円)
年間販売泊数ADR −20%ADR −10%ADR 基準ADR +10%ADR +20%
60泊(稼働16.4%)成立せず60260460660
80泊(稼働21.9%)1504206809501,210
108泊(稼働29.6%=全国平均)5509101,2701,6301,990
130泊(稼働35.6%)8701,3001,7302,1602,600
160泊(稼働43.8%)1,3001,8302,3602,8903,430
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(試算値)

読み取れるのは2点である。第一に、越後湯沢はADRが−20%振れると年108泊でも成立しない。単価が¥12,160まで落ちると1泊あたりの貢献利益は¥4,164となり、年間固定費55万円を賄うだけで133泊が要るためである。湯沢の投資判断は単価の下振れ耐性がきわめて薄い。第二に、熱海は同じ−20%でも年108泊で約553万円の投資を支えられる。貢献利益の絶対額が大きいぶん、同じ変動率でも吸収できる余地が広い。湯沢は単価を守る設計、熱海は泊数を積む設計が、それぞれ効きやすい構造だといえる。

この2点は運営設計の優先順位を示している。区分所有1住戸という単位では、①自主運営を前提に無人チェックイン体制を組めるか、②連泊需要を取りにいく商品設計ができるか、の2つが採算を決める。単価の引き上げよりも、この2つのレバーのほうが感度が高い。

⑨ 投資判断のチェックリスト

取得前に確認する3点

①管理規約で宿泊事業が可能か(総会議事録まで遡る)②管理費・修繕積立金の直近改定履歴と長期修繕計画③固定資産税・別荘等所有税を含む年間固定費の実額。この3点で年間固定費が確定し、損益分岐泊数が決まる。

許認可の前提

所轄消防への事前相談が起点。自動火災報知設備等の設置可否は建物全体の設備構成に依存するため、管理組合との調整が必要になる。旅館業法の簡易宿所なら営業日数の上限はなく、住宅宿泊事業なら年180日以内。

成立の目安

15年回収・全国平均稼働(年108泊)を前提とすると、投資総額の上限は湯沢で約300万円、熱海で約1,270万円。これを超える場合は、冬季集中や連泊設計で平均を上回る運営が前提になる。

まとめ

区分所有リゾートマンションの宿泊転用は、「安く買えるから利回りが高い」という単純な構図ではない。取得価格がゼロに近づいても、管理費・修繕積立金・税で年30万〜60万円の固定費が先に載る。この固定費を賄うだけで越後湯沢は年79泊、熱海は年48泊が必要になる。

そのうえで取得原価の回収を条件に加えると、全国の簡易宿所の平均稼働(2025年29.6%=年108泊)で15年回収できる投資総額の上限は、越後湯沢で約300万円、熱海で約1,270万円という水準に落ち着いた。この差は貢献利益(1泊あたり¥6,900と¥14,000)の差にほぼ比例している。

そして最大の前提条件は金額ではなく管理規約である。越後湯沢では管理組合が宿泊事業を承認した棟が2018年に初めて出たところで、母集団はまだ限られている。物件を探す順序は「価格→立地→規約」ではなく「規約→固定費→価格」であり、この順序を守ることが、この投資モデルで最も効く意思決定になる。伸びしろが大きいのは、冬季の単価ピークを取りに行ける設計と、連泊で清掃費を薄める商品設計の2点である。

⚠ 試算に関する注意:本記事の収支モデルは公表されている流通価格レンジ・維持費水準と、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADRを組み合わせた簡易試算です。実際の投資判断には、対象住戸ごとの管理規約・長期修繕計画・許認可要件・消防設備の実地確認を含む詳細な検討が必要です。推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

推定成約ADR・客室規模別の施設分布・2026年開業施設の業態別内訳は、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(湯沢町 N=34〜53施設/月、熱海市 N=99〜106施設/月、対象期間 2025年8月〜2026年7月)。稼働率のベンチマークは観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)。流通価格・維持費の水準は下記の公表資料に記載されたレンジを用いた。

■ 試算前提

1住戸を1つの販売単位とする。変動費は清掃・リネン(1組あたり湯沢1万円・熱海1.2万円を平均滞在1.8泊で按分)、販売チャネル手数料10%、光熱費・消耗品で構成した。年間固定費は管理費・修繕積立金・固定資産税・別荘等所有税に、保険・通信・無人チェックイン運用15万円を加えた額とした。回収年数は15年、割引率を置かない単純累計で計算し、売却による回収は算入していない。

■ 限界・留意点

推定成約ADRは各施設の公開最安プラン水準に業態別の補正係数を適用した推定値であり、実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%)。エリア単位の値は対象施設の中央値であって、個別住戸の実力を示すものではない。管理費・修繕積立金・許認可要件・消防設備の設置可否は住戸および建物ごとに異なる。本モデルは投資判断の代替ではなく、対象住戸ごとの実地確認を前提とした初期検討のための枠組みである。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(湯沢町 推定成約ADR算出対象 N=34〜53施設/月、熱海市 推定成約ADR算出対象 N=99〜106施設/月)、宿泊施設の客室規模別分布(越後湯沢 N=365施設、熱海 N=269施設)、2026年開業施設の業態別内訳(OTA掲載確認ベース、N=1,412軒)

■ 政府統計・自治体資料

■ 流通価格・維持費に関する公表情報

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