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二地域居住の指定28市町村、長期滞在型の客室は6.0%|1,363施設27,123室を集計

投稿日 : 2026.09.05

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投資・開発

二地域居住の指定28市町村、長期滞在型の客室は6.0%|1,363施設27,123室を集計

地方への人の流れをつくる制度として、二地域居住促進法(広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律、令和6年11月1日施行)が動き出して1年半が過ぎた。市町村が「特定居住促進計画」を定め、民間法人を「特定居住支援法人」に指定することで、住まい・なりわい・コミュニティを制度的に後押しする仕組みである。国土交通省が令和8年2月に公表した資料によれば、計画を作成した市町村は28、支援法人は51法人(いずれも令和7年12月31日時点の同省把握分)。制度は「ここに人を呼ぶ」と地理的に宣言したことになる。

では、その28市町村に人が数週間から数か月とどまれる床はどれだけあるのか。本稿では、制度が指定した市町村を地理スクリーニングとして使い、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する宿泊供給を全数集計したうえで、長期滞在型宿泊(マンスリー・1棟貸し・サービスアパート型)の投資余地を、地価・実取引価格・建設費まで含めて定量化する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格=OTA上で公開されている全プラン平均の販売価格(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)。ADRとは基準が異なるため、本文では別の指標として区別して表記します。
  • 長期滞在型(棟貸し・自炊系)=本稿では貸別荘・コテージ・ロッジ・町家・ゲストハウス・ホステル・ドミトリーの区分を指します。1棟または1区画を占有でき、食事提供を前提としないため、数週間以上の滞在に転用しやすい在庫として扱います。
  • データ出典=メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。国内約168,000施設を追跡し、うちOTA上で稼働が確認できる約27,000施設・約126万室を分析対象としています。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まれません。
特定居住促進計画
28
市町村・R7.12.31時点
対象エリア宿泊供給
27,123
室/1,363施設
長期滞在型の客室比率
6.0%
1,631室/棟貸し・自炊系
連泊プラン保有率
11.5%
81/706施設
用宗の戸建て実取引
¥11.0M
中央値・n=24件
Key Takeaways
  • — 28市町村・51法人が特定居住促進計画・特定居住支援法人の指定を受けた(令和7年12月31日時点)。国の5年600件というKPIに対する到達率は4.7%にとどまる。
  • — 指定28市町村の宿泊供給は1,363施設27,123室。当社がOTA上で稼働を確認している全国約27,000施設・約126万室に対し、客室ベースで2.2%にあたる。
  • — 数週間以上の滞在に転用しやすい棟貸し・自炊型は客室の6.0%(1,631室)。連泊・長期滞在を明示したプランを持つのは掲載706施設中81施設(11.5%)で、制度が呼ぶ滞在様式と現在の床の形には距離がある。
  • — 静岡市用宗・蒲原の試算では、既存住宅を取得・改修した1棟のGOP利回りは7.7〜8.7%、新築(木造)は4.1%。単価-10%かつ稼働-5ptの同時ストレス下でも6.4%を保つ(いずれも設定値に基づく簡易試算)。
  • — 客室1,000室超でありながら長期滞在型が2%未満の市町村は北見市・焼津市・大館市・気仙沼市・鳥羽市・白浜町・京丹後市の7つ。供給構成の空白は制度の線引きと重ねると絞り込める。

制度が地図に線を引いた — 28市町村・51法人、5年目標600件への到達率は4.7%

改正法が市町村に用意した道具は2つある。ひとつは特定居住促進計画で、区域を定め、二地域居住者向けの拠点施設整備について建築基準法の用途特例などを適用できる。もうひとつは特定居住支援法人の指定で、NPOや民間事業者が市町村から空き家情報・仕事情報の提供を受け、公的な立場でマッチングを担える。国はこの2つについて、施行後5年間でそれぞれ累計600件というKPIを掲げている。

国土交通省「二地域居住等の促進について(令和8年2月)」に掲載された一覧を月次で積み上げると、令和7年(2025年)の1年間で計画は0件から28件、支援法人は0法人から51法人へ増えた。到達率は計画が4.7%、法人が8.5%である。数としてはまだ小さいが、初年度としては立ち上がりが速いのは支援法人のほうで、7月から9月にかけて毎月8法人ずつ指定されている。

特定居住促進計画・特定居住支援法人の累計推移(2025年)
出典: 国土交通省「二地域居住等の促進について(令和8年2月)」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。計画28件・法人51法人はいずれも令和7年12月31日時点の同省把握分。

注意しておきたいのは、この2つの制度が必ずしも同じ自治体で重なっていないことである。51法人の指定元を市町村別にほどくと、計画をまだ作成していない自治体が12ある。北海道浦河町、宮城県東松島市、山形県新庄市・鮭川村、新潟県妙高市、長野県東御市、静岡県三島市・下田市・長泉町・森町、鳥取県智頭町、鹿児島県奄美市がそれにあたる。つまり制度が届いた自治体は実質40で、計画(区域を切る)と法人(人を配置する)のどちらが先に来るかは地域ごとに違う。

さらに、上記は令和7年12月末の断面である。その後も指定は続いており、本稿で公式資料を確認できた範囲では、丹波篠山市が令和8年2月16日に計画を公表、静岡市が令和8年6月4日に計画を策定(政令指定都市として初)、大分県日出町が令和8年8月1日付で支援法人1社を指定している。制度の対象地図は、いま進行形で広がっている。

指定28市町村の宿泊供給は1,363施設27,123室 — 全国の客室の2.2%

次に、その28市町村の宿泊供給を見る。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングがOTA掲載を確認している施設で集計すると、28市町村(うち掲載施設が確認できたのは27市町村)に1,363施設・27,123室が存在する。当社が稼働を確認している全国約27,000施設・約126万室に対して、施設ベースで5.0%、客室ベースで2.2%にあたる。

構成を見ると、この床は観光宿に強く寄っている。客室数シェアで旅館が38.2%(529施設10,356室)、リゾートホテルが13.6%(77施設3,700室)、ペンションが7.7%(250施設2,078室)、民宿が4.0%(135施設1,074室)。これら食事提供を前提とする観光宿型を合計すると客室の63.4%(17,208室)を占める。ビジネスホテルとシティホテルを合わせたホテル型は27.0%(108施設7,313室)で、その大半は北見市・焼津市・大館市・気仙沼市といった、もともと業務需要のある中核市に集中している。

宿泊区分別の客室数シェア(28市町村計)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,363施設27,123室)
主要12市町村の客室数と長期滞在型比率
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。棒=総客室数、折れ線=棟貸し・自炊系が客室に占める比率。
特定居住促進計画を作成した28市町村の宿泊供給と価格水準(客室数降順)
都道府県市町村施設数客室数長期滞在型客室比率ADR(12ヶ月平均)ADR算出施設数連泊プラン保有
長野県白馬村3194,28795622.3%¥14,386426/77
和歌山県白浜町1102,863541.9%¥14,8545613/53
三重県鳥羽市1172,79080.3%¥21,094782/82
栃木県那須町1762,5902138.2%¥20,1925015/96
北海道北見市302,33400.0%¥6,640288/23
大分県由布市1841,910753.9%¥23,82013615/120
京都府京丹後市1111,658181.1%¥27,782805/81
新潟県佐渡市491,250373.0%¥10,348255/31
和歌山県田辺市701,233544.4%¥12,084292/32
宮城県気仙沼市281,192221.8%¥9,454161/20
静岡県焼津市191,12900.0%¥7,039141/15
秋田県大館市181,11500.0%¥6,318167/15
長野県塩尻市11771455.8%¥8,319122/8
長崎県五島市24481408.3%¥7,496192/13
富山県南砺市32344319.0%¥11,370130/10
広島県庄原市113154012.7%¥10,42771/4
福島県磐梯町1524500.0%¥14,84210/6
鳥取県北栄町115000.0%———
北海道上士幌町512243.3%¥10,19440/5
三重県南伊勢町119888.2%¥11,04750/4
和歌山県すさみ町5751418.7%¥22,04450/2
鳥取県江府町35900.0%¥13,85910/1
香川県三豊市848510.4%¥7,54340/5
北海道厚真町22800.0%¥12,93720/1
高知県馬路村11800.0%¥14,34910/1
長野県小布施町211763.6%¥22,05120/1
山梨県丹波山村1700.0%———
高知県大川村0000.0%———
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。ADRは2025年8月〜2026年7月の推定成約ADR12ヶ月平均。「ADR算出施設数」は同期間の月次中央施設数で、この値が小さい市町村の水準は少数施設に左右される点にご留意ください。「連泊プラン保有」は直近6ヶ月にOTA掲載が確認できた施設のうち、プラン名に連泊・長期・マンスリー・ウィークリー・ロングステイを含む施設数/掲載確認施設数。「—」は該当データが確認できなかったもの。高知県大川村は掲載施設が確認できませんでした。

長期滞在型は客室の6.0% — 連泊プランを掲げる施設は706軒中81軒

本稿の主題である長期滞在型の床に絞る。貸別荘・コテージ・ロッジ・町家・ゲストハウス・ホステル・ドミトリーという、1棟または1区画を占有でき食事提供を前提としない区分を合計すると、221施設1,631室。28市町村の客室総数に占める比率は6.0%である(施設数ベースでは16.2%)。二地域居住が想定する「月に数日から数週間、生活拠点として使う」滞在に、そのまま転用しやすい在庫はここまで絞られる。

販売面から見ると差はさらに大きい。直近6ヶ月にOTA掲載が確認できた706施設のうち、プラン名で連泊・長期滞在を明示しているのは81施設(11.5%)にとどまる。一方、素泊まりプランを掲げる施設は475施設(67.3%)あり、食事なしで泊まれる床そのものは存在している。「素泊まりはできるが、連泊向けの売り方をしていない」という状態が広く見られ、ここは既存施設にとって在庫を作り直さずに取り込める伸びしろにあたる。

対照的なのが都市部である。同じ集計を静岡市(葵区・駿河区・清水区)に適用すると、掲載確認56施設のうち19施設(33.9%)が連泊・長期滞在プランを持つ。業務需要の厚い都市では、長期滞在は既に商品として成立している。制度が指定した地方部との差は需要の有無というより、商品設計が追いついていない領域が残っていると読むほうが実態に近い。

市町村単位で見ると、長期滞在型の比率が高いのは長野県白馬村(22.3%、956室)、和歌山県すさみ町(18.7%)、広島県庄原市(12.7%)、香川県三豊市(10.4%)。白馬村はスキー客向けのロッジ・コンドミニアム文化が長期滞在型の床を厚くしており、28市町村のなかでは例外的に受け皿が先にできているエリアといえる。逆に三重県鳥羽市(0.3%)、京都府京丹後市(1.1%)、和歌山県白浜町(1.9%)のように、客室数は2,000室級ありながら旅館・リゾート主体で構成される観光地では、長期滞在型はほぼ白地である。

ADR×客室規模で見るポジショニング — 単価1万円台・客室千室級に空きがある

投資判断のためには、供給量だけでなく価格水準を重ねる必要がある。横軸に客室数、縦軸に推定成約ADR(2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均)、円の大きさに長期滞在型比率をとってプロットした。ADR算出施設数が3施設未満の市町村(福島県磐梯町、鳥取県江府町、高知県馬路村、長野県小布施町、北海道厚真町、山梨県丹波山村、鳥取県北栄町、高知県大川村)は、少数施設の影響が大きいため図から除外している(20市町村を作図)。

客室規模 × 推定成約ADR ポジショニング(円の大きさ=長期滞在型比率)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=20市町村、ADRは2025年8月〜2026年7月の推定成約ADR12ヶ月平均)

既存 観光高単価ゾーン

ADR ¥18,000〜28,000 × 客室1,500〜2,900室
由布市・京丹後市・鳥羽市・那須町。旅館とリゾートで厚みがあり、週末2泊の観光需要で埋まる。長期滞在型比率は0.3〜8.2%と低く、既存事業者にとっては平日在庫を長期滞在で埋めるアップサイドが残る。

余地1 業務都市・自炊型の空白

ADR ¥6,300〜9,500 × 客室1,000〜2,400室
北見市・焼津市・大館市・気仙沼市。ホテル型の床は厚いが長期滞在型は0.0〜1.8%。単価が低い分、月極換算での価格競争力は高く、自炊・洗濯を備えた滞在型商品の投入余地が大きい。

余地2 小規模高単価エリア

ADR ¥11,000〜22,000 × 客室100室未満
すさみ町・南伊勢町・上士幌町。床の絶対数が小さいため1棟の追加が市場構造を変える。制度側の拠点施設整備支援と組み合わせやすい規模帯。

静岡市の事例 — 用宗・蒲原、政令市初の採択エリアに立つ床は63室と5室

制度と床のギャップがもっとも具体的に見えるのが静岡市である。静岡市は「静岡市特定居住促進計画」を令和8年6月4日に策定し(計画期間は令和8〜10年度)、区域として用宗エリアと蒲原エリアを指定した。いずれもJR東海道線の駅を核とし、首都圏から新幹線でおよそ1時間という交通利便性を前提に置く。市が代表を務める「静岡市二地域居住促進コンソーシアム」(代表者:株式会社静岡銀行、構成員:株式会社アドレス、静岡市、静岡県)は、国土交通省「二地域居住先導的プロジェクト実装事業」に政令指定都市として全国で初めて採択されている。特定居住支援法人としては、株式会社アドレスと株式会社静岡銀行の2社が令和8年5月26日付で指定された。

用宗・蒲原エリアの宿泊施設分布(円の大きさ=客室数)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。破線は各エリア中心から半径2km。大人専用区分の施設は本図から除いています。
用宗エリア(駿河区)
宿泊施設:半径2km圏に10施設63室
うち長期滞在型:貸別荘2・ゲストハウス3
公示地価(2026年):¥41,600/㎡(前年比+0.5%)、¥41,400/㎡(同0.0%)/いずれも住宅地・最寄駅 用宗
用途地域:第1種・第2種中高層住居専用地域、第1種・第2種住居地域、近隣商業地域(容積300%・建蔽80%)、準工業・工業地域(200%・60%)
蒲原エリア(清水区)
宿泊施設:半径2km圏に3施設5室
公示地価(2026年):住宅地 ¥49,200/㎡(前年比-2.8%)、商業地 ¥59,500/㎡(同-1.8%)/最寄駅 由比
用途地域:第1種住居地域、近隣商業地域、準工業地域
用宗2km圏の受け入れ基盤
居住人口:2020年 20,256人 → 2025年 19,687人 → 2040年 17,366人(-14.3%)
高齢化率:34.2%(2025年推計)
事業所・従業者(半径1.5km):502事業所・4,585人、うちオフィス系 4.1%
出典: 国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・都市計画 用途地域)/国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査(2021)・境界は国勢調査2020小地域

数字を並べるとギャップははっきりする。用宗エリアは半径2km圏に10施設63室、蒲原エリアは3施設5室。用宗の63室のうち36室(3施設)は大人専用区分で、二地域居住者の滞在先として想定しづらい。残る7施設27室が実質的な受け皿である。政令市として全国初の採択を受けたエリアが、いま提供できる床はこの規模ということになる。

受け入れ側の性格も押さえておきたい。用宗2km圏の居住人口は2020年20,256人から2040年に17,366人へ14.3%減る推計で、2025年推計の高齢化率は34.2%。半径1.5kmの事業所は502、従業者4,585人だがオフィス系は4.1%にとどまる。業務地ではなく生活地であり、平日のビジネス需要で床を埋める立地ではない。逆にいえば、二地域居住が求める「暮らすように滞在する」需要と地域の性格は合っている。

用宗エリア 半径2km圏の居住人口分布(250mメッシュ)
出典: 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)。国勢調査ベースの居住人口であり、滞在人口・通過人口ではありません。
用宗2km圏 居住人口の推移と将来推計
出典: 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)
用宗・蒲原の宿泊施設 掲載価格(2026年3〜8月)
用宗・蒲原エリアの宿泊施設と掲載価格(2026年3月1日〜8月31日チェックイン・全プラン平均)
施設区分客室掲載価格
日本色 NIHON IRO貸別荘6¥76,100
The Villa & Barrel Lounge貸別荘5¥59,400
まち泊456ゲストハウス1¥53,700
素空庵町家1¥31,400
柳家旅館旅館5¥26,600
PORTOゲストハウス6¥14,000
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。2026年3月1日〜8月31日チェックインの全プラン平均(2名1室・1室あたり・税込)。棟貸し型は1棟あたりの料金です。

先行事例の価格水準も参考になる。用宗の海沿いに立つ貸別荘型2施設の掲載価格は1棟あたり平均¥59,400〜¥76,100と高く、週末の観光需要をしっかり取り込んでいる。町家を活かした蒲原の1棟貸しも¥31,400〜¥53,700の水準にある。用宗・蒲原は既に「高単価の1棟貸しが成立する市場」であることが実証されているということだ。一方で、ゲストハウス型は¥14,000前後、旅館は¥26,600(推定成約ADRでは2026年7月に¥13,600)と価格帯に幅があり、月単位の滞在を狙う商品はまだ厚みを持っていない。ここが商品設計として空いている。

短期滞在在庫を掲載ベースで見ると、用宗の貸別荘「日本色 NIHON IRO」を中心とする半径2km圏の照会では、同照会の対象ホテル2施設11室に対し、民泊掲載は12件・総定員61人であった。ホテル客室100室あたりの民泊定員に換算すると554.5人となり、掲載ベースでは住宅を転用した短期滞在在庫のほうが規模で上回る。定員帯は3〜4人が6件、5〜6人が4件で、建物類型は古民家4件・コテージ2件・一軒家2件が中心である。すなわち家族・グループが自炊しながら数日以上とどまる需要は、既に住宅ストック側で受け止められている。なお本稿の「民泊」は住宅宿泊事業法上の民泊に限定せず、旅館業法・特区民泊の物件を含む掲載ベースの短期滞在在庫を指す。掲載件数は行政の届出件数と一致しない。

投資シナリオ試算 — 新築と既存ストック改修で利回りは2倍の開き

ここまでの材料で、用宗・蒲原に長期滞在型を1棟置く場合の経済性を試算する。前提はすべて公表データに置き、根拠を明示する。

■ 試算前提

  • 建物規模:延床120㎡(36.3坪)、定員6名の1棟貸し/サービスアパート型を想定。
  • 土地:150㎡×¥41,500/㎡=¥6,225,000(2026年地価公示・用宗の住宅地2地点 ¥41,400・¥41,600の水準)。
  • 新築建設費:国土交通省 建築着工統計に基づく2025年の木造坪単価138.2万円を採用。2022年の全構造平均138万円から2024年195万円へ2年で41%上昇し、2025年も全構造平均195.2万円・S造240.5万円と高水準が続く局面にある。開業を2028年と置き、施工中間時点までのインフレを2026年+5.3%・2027年+5.0%(Turner & Townsend建設費予測)で織り込む。
  • 取得費(改修ケース):国土交通省 不動産情報ライブラリの実取引価格(2024〜2025年)。用宗・広野・用宗巴町の宅地(土地と建物)中央値¥11,000,000(n=24)、蒲原地区の同中央値¥7,250,000(n=22)。
  • 改修費:坪60万円×36.3坪=¥21,780,000。
  • 運用:①観光短期特化=1棟¥45,000×稼働40%、②ハイブリッド(平日長期+週末観光)=1棟平均¥22,000×稼働70%、③長期滞在特化=月額¥220,000×年11ヶ月。GOP率はそれぞれ40%・45%・60%(清掃頻度と販売手数料の差を反映)。
投資ケース別の総投資額(運用パターン②ハイブリッドで比較)
項目A. 新築(木造)B. 用宗・既存住宅改修 推奨C. 蒲原・既存住宅改修
土地・建物取得¥6,225,000¥11,000,000¥7,250,000
建設/改修(2025年単価)¥50,166,600¥21,780,000¥21,780,000
小計(名目)¥56,391,600¥32,780,000¥29,030,000
建設費インフレ織込み後(2028年開業想定)¥61,694,000——
総投資額¥61,694,000¥32,780,000¥29,030,000
年間売上(②ハイブリッド)¥5,621,000¥5,621,000¥5,621,000
GOP(45%)¥2,529,000¥2,529,000¥2,529,000
GOP利回り4.1%7.7%8.7%
単純回収年数24.4年13.0年11.5年
出典: 国土交通省 建築着工統計/国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示・不動産取引価格情報)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
投資ケース × 運用パターン別のGOP利回りマトリクス
運用パターン年間GOPA. 新築(¥61.7M)B. 用宗改修(¥32.8M)C. 蒲原改修(¥29.0M)
① 観光短期特化(¥45,000×稼働40%)¥2,628,0004.3%8.0%9.1%
② ハイブリッド(¥22,000×稼働70%)¥2,529,0004.1%7.7%8.7%
③ 長期滞在特化(月¥220,000×11ヶ月)¥1,452,0002.4%4.4%5.0%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。GOP率は運用パターン別に40%・45%・60%を適用。

結果ははっきりしている。取得原価が低いことは、それだけでは投資を成立させない。用宗の住宅地地価は¥41,400〜41,600/㎡で、150㎡でも土地代は622万円にすぎない。それでも新築(木造)の利回りは4.1%にとどまる。建設費が2022年から2年で41%上昇し、2025年も木造138.2万円/坪・S造240.5万円/坪という水準にあるため、床をゼロから作る限り分母が重くなるからだ。

一方、既存住宅を取得して改修すれば同じ収益で利回りは7.7〜8.7%に乗る。用宗・広野・用宗巴町では2024〜2025年に宅地(土地と建物)が中央値1,100万円(n=24)、蒲原地区では725万円(n=22)で実際に取引されている。制度が指定した区域には、床の在庫ではなく住宅の在庫が眠っているという構図であり、投資の入口は新築ではなく転用にある。

運用面では、③長期滞在特化だけを狙うと利回りは4.4〜5.0%まで下がる。二地域居住の実需は月あたり数日から2週間程度であることが多く、丹波篠山市が計画に掲げた目標も「特定居住拠点施設の利用者数25世帯/年」という規模感である。したがって平日を長期滞在、週末を観光需要で埋めるハイブリッド運用が、収益と制度目的の両方に整合する。用宗の貸別荘型が1棟¥59,400〜¥76,100で成立している実績は、週末側の単価を支える裏づけになる。

推奨ケース(B. 用宗・既存住宅改修 × ②ハイブリッド)の感度分析
項目ベースケース単価 -10%稼働 -5pt両方
1棟あたり平均単価¥22,000¥19,800¥22,000¥19,800
稼働率70%70%65%65%
年間売上¥5,621,000¥5,059,000¥5,220,000¥4,698,000
GOP(45%)¥2,529,000¥2,277,000¥2,349,000¥2,114,000
GOP利回り7.7%6.9%7.2%6.4%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。総投資額¥32,780,000に対するGOP利回り。

感度は緩やかである。単価が1割下がり稼働が5pt落ちる同時ストレスでも利回りは6.4%を保つ。分母が小さいことが、そのままダウンサイド耐性になっている。

制度側の後押しと、投資判断のリスク整理

制度を使う側から見ると、改正法と関連予算には転用型の投資と噛み合う仕掛けがある。第一に、特定居住促進計画に位置づけた拠点施設については建築基準法の用途特例が使え、住居専用地域でも二地域居住者向けのコワーキングスペースを開設しやすくなる。用宗エリアには第1種・第2種中高層住居専用地域が含まれており、この特例が実際に効く区域である。第二に、令和8年度当初予算案では空き家対策総合支援事業・空き家再生等推進事業に5,900百万円、特定居住促進計画区域内のコワーキングスペース等整備を対象とする地方移住促進テレワーク拠点施設整備支援事業に45百万円が計上されている。第三に、経済産業省の地域の人事部支援事業(289百万円)は、支援要件のひとつに特定居住支援法人の取組であることが追加されている。

丹波篠山市の計画は、この使い方の具体例として参考になる。同市が特定居住拠点施設として位置づけた6施設は、ハートピアセンター、お試し住宅「福住 わだ家」(築100年の古民家)、泊まれる学校 おくも村、お試し住宅「黒岡」、滞在型市民農園「ハートピア農園」、コワーキングスペースで、すべて整備済み=既存ストックの活用である。新築はひとつもない。制度が想定している床のつくり方が、ここに端的に表れている。

長期滞在型宿泊への投資におけるリスク整理
区分内容評価対応の方向性
需要二地域居住の実需は月数日〜2週間規模。長期滞在特化では稼働が積み上がりにくい高平日長期+週末観光のハイブリッド設計。週末単価は既存の1棟貸し実績が裏づけ
建設・改修費2022年→2024年で坪単価+41%、2025年も高水準が継続高新築を避け既存住宅の転用へ。改修費のインフレ織込みも前提に置く
取得原価用宗中央値1,100万円・蒲原725万円と低位。地価も用宗は横ばい〜微増低分母の小ささがダウンサイド耐性に直結。取得は競争が緩い今が有利
商圏人口用宗2km圏は2040年に-14.3%、高齢化率34.2%中地元需要ではなく首都圏からの往来需要を前提に設計。出口は住宅転用も含めて確保
制度計画期間は令和8〜10年度。支援メニューは単年度予算に依存中補助前提の収支にしない。補助はアップサイドとして扱う
競合掲載ベースの短期滞在在庫が既に一定量存在(用宗2km圏で12件・定員61人)中3〜4人帯が中心。6名以上の受け入れや長期契約で差別化する余地がある
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 建築着工統計/国土交通省 不動産情報ライブラリ/国土交通省 国土数値情報

関連する分析として、既存ストックの転用経済性を扱った企業保養所コンバージョンの投資経済性、商圏人口の高齢化が保有出口に与える影響を扱った商圏高齢化率がホテル投資の出口を縛る、共同型の供給余地を扱ったホステル・ゲストハウス2026年96軒の供給ギャップも併せて参照されたい。

よくある質問

Q. 二地域居住促進法とは何ですか。

A. 正式には「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律の一部を改正する法律」で、令和6年11月1日に施行されました。都道府県が二地域居住に関する事項を含む広域的地域活性化基盤整備計画を作成すると、市町村は特定居住促進計画を作成でき、計画に定めた拠点施設の整備について建築基準法の用途特例などが適用されます。あわせて、市町村長がNPOや民間事業者を特定居住支援法人として指定する制度、関係者による協議会制度が創設されました。国は施行後5年間で計画600件・支援法人600法人というKPIを掲げています。

Q. 特定居住促進計画を作成した市町村はどこですか。

A. 国土交通省が令和8年2月に公表した資料では、令和7年12月31日時点で28市町村です。北見市・厚真町・上士幌町(北海道)、気仙沼市(宮城)、大館市(秋田)、磐梯町(福島)、那須町(栃木)、佐渡市(新潟)、南砺市(富山)、丹波山村(山梨)、塩尻市・白馬村・小布施町(長野)、焼津市(静岡)、鳥羽市・南伊勢町(三重)、京丹後市(京都)、田辺市・白浜町・すさみ町(和歌山)、北栄町・江府町(鳥取)、庄原市(広島)、三豊市(香川)、馬路村・大川村(高知)、五島市(長崎)、由布市(大分)。その後、丹波篠山市(令和8年2月16日公表)、静岡市(令和8年6月4日策定)などが加わっています。

Q. 指定エリアに長期滞在向けの宿泊施設はどれくらいありますか。

A. 28市町村の宿泊供給は1,363施設27,123室で、このうち貸別荘・コテージ・ロッジ・町家・ゲストハウス・ホステル・ドミトリーといった棟貸し・自炊系は221施設1,631室、客室ベースで6.0%です。直近6ヶ月にOTA掲載が確認できた706施設のうち、連泊・長期滞在を明示したプラン名を持つのは81施設(11.5%)でした。

Q. 長期滞在型の宿泊施設への投資はどの程度の利回りが見込めますか。

A. 本稿の試算では、静岡市用宗エリアで既存住宅(2024〜2025年の実取引中央値1,100万円)を取得し坪60万円で改修した延床120㎡・定員6名の1棟について、平日長期+週末観光のハイブリッド運用でGOP利回り7.7%、蒲原エリアでは8.7%となりました。同条件の新築(木造)では4.1%です。単価-10%かつ稼働-5ptの同時ストレス下でも6.4%を維持します。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

Q. 特定居住支援法人に指定されるとどのような支援が受けられますか。

A. 市町村長から空き家等の不動産情報(本人同意が必要)、仕事情報、イベント情報などの提供を受けられるほか、市町村長に対して特定居住促進計画の作成・変更を提案できます。予算面では、令和8年度当初予算案において、特定居住促進計画区域内のコワーキングスペース等の整備を対象とする地方移住促進テレワーク拠点施設整備支援事業(45百万円)や、支援要件に特定居住支援法人の取組であることが追加された地域の人事部支援事業(289百万円)などが用意されています。

まとめ

制度は28の市町村に線を引き、51の法人に役割を与えた。だがその線の内側にある宿泊供給1,363施設27,123室のうち、数週間以上の滞在にそのまま転用できる棟貸し・自炊型は6.0%であり、連泊を明示して売っている施設は706軒中81軒である。制度が呼ぼうとしている人の滞在様式と、いまそこにある床の形にはまだ距離がある。

その距離は、投資機会そのものでもある。静岡市用宗・蒲原では、宅地(土地と建物)が中央値1,100万円・725万円で実際に取引され、地価も¥41,400〜49,200/㎡の水準にある。新築で床を作れば建設費の高騰が分母を押し上げて利回りは4.1%にとどまるが、既存住宅を転用すれば7.7〜8.7%に届く。制度側も、建築基準法の用途特例と空き家関連の予算という形で転用を後押ししている。丹波篠山市が拠点施設として並べた6件がすべて既存ストックの活用であったことは、この方向性を裏づけている。

28市町村のうち、客室数が1,000室を超えながら長期滞在型が2%未満という市町村は北見市・焼津市・大館市・気仙沼市・鳥羽市・白浜町・京丹後市の7つある。制度の線引きと供給構成を重ねれば、どこに床を置くべきかは絞り込める。次に見るべきは、これらのエリアで実際に住宅ストックがどの価格で動いているかである。

参考資料・出典一覧

■ データソース

本稿の宿泊供給・価格データは、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングがOTA掲載を確認できた施設を対象に集計したものです(国内約168,000施設を追跡し、うち稼働を確認できる約27,000施設・約126万室が分析対象)。集計範囲は特定居住促進計画を作成した28市町村(うち掲載施設を確認できたのは27市町村)で、1,363施設27,123室。推定成約ADRは2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均です。制度・件数は国土交通省および各自治体の公表資料、地価・実取引価格・用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリ、将来推計人口は国土数値情報によります。

■ 試算前提

投資試算は延床120㎡(36.3坪)・定員6名の1棟を想定しています。土地は150㎡×¥41,500/㎡、新築は2025年の木造坪単価138.2万円を基準に2026年+5.3%・2027年+5.0%の建設費上昇を織り込み2028年開業と設定しました。改修ケースは2024〜2025年の実取引価格中央値(用宗・広野・用宗巴町 ¥11,000,000/n=24、蒲原地区 ¥7,250,000/n=22)に坪60万円の改修費を加算しています。運用は①観光短期特化②ハイブリッド③長期滞在特化の3パターンで、単価・稼働・GOP率(40%・45%・60%)はいずれも本稿が置いた設定値であり、特定施設の実績値ではありません。

■ 限界・留意点

推定成約ADRはOTA公開価格に業態別の補正係数を適用した推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は集計に含まれません。算出対象が3施設未満の8市町村はポジショニング図から除外しています。掲載を確認できた在庫の件数は行政の届出件数とは一致せず、その差から営業の適法性を判断することはできません。試算は費用側を簡略化した簡易試算であり、投資成果を保証するものではありません。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ 自治体一次情報

■ 業界レポート

  • Turner & Townsend「International Construction Market Survey」 — 日本の建設費上昇率予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)

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