ホテル投資の出口戦略を語るとき、これまでの主軸は「将来人口の減少率」だった。だが減少率は、需要が縮むスピードを示すだけで、その立地が宿泊以外の用途で再生できるかまでは教えてくれない。本稿では、減少率ではなく商圏の年齢構成(高齢化率)を国土数値情報250mメッシュで定量化し、居住層の高齢化が客室需要(=外来需要)に与える影響と、保有出口(介護・サービス付き高齢者向け住宅・住宅転用)の成立条件を、熱海・高山を軸に逆算する。
本記事における指標の定義
- 商圏高齢化率:ホテル所在地を中心とした半径1.5km圏の250mメッシュ内における、65歳以上人口が総人口に占める割合(2025年推計)。国土交通省 国土数値情報「250mメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」に基づく居住人口ベースであり、滞在・通過人口は含みません。
- ADR(平均客室単価):OTAで公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(成約ADRより平均+25〜30%高い傾向)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きを含む)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
- 就業比率:商圏内従業者に占めるオフィス系職種の割合。ビジネス需要の厚みを示す代理指標。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 国土数値情報/総務省・経済産業省 経済センサス
- — 商圏高齢化率49.1%の熱海は地価が上昇(公示地価+11.1%)する一方、居住層の高齢化が最も進む。出口は「外来需要の厚み」が支える宿泊継続か、介護・住宅転用かに二分される。
- — 高山は高齢化38.8%(中位)×インバウンド成長。外来依存度が外来需要の厚みに置き換わり、稼働を伴う実需(稼働率の裏付け)が宿泊用途の出口価値を高める。
- — 出口は「年齢構成 × 外来需要」の交点で決まる。ADRの高さ(熱海¥61,700・箱根¥82,900)は出口の安泰を意味せず、商圏の年齢構成が転用余地を左右する。
- — 介護・サ高住・住宅転用の成立条件を需要・規制・物理条件の3面から逆算。高齢化極大かつ外来が薄いエリアほど転用が前面に出る。
- — 参考:星野リゾート・リート(3287)のポートフォリオ稼働率は79.3%(2026年4月時点)。上場リゾートREITの高稼働は「外来需要が厚いリゾートは宿泊用途の出口価値が高い」という本稿の構図と整合する。
エグゼクティブサマリー — 同じ温泉リゾートでも「出口」はまったく異なる
結論を先に述べる。熱海と高山はともに「商圏が高齢化し、就業比率が約11%と低い外来依存型の温泉リゾート」という点で共通する。しかし出口戦略の前提は正反対に近い。熱海は半径1.5km圏の高齢化率が49.1%(居住者の約半数が65歳以上)と極端に高く、需要の源泉が完全に外来(観光)に偏る一方で、地価は商業地で前年比+11.14%(2025年公示)と上昇を続けている。対する高山は高齢化率38.8%と熱海よりは緩やかで、年間442万人・外国人宿泊77万人(2024年・過去最高)というインバウンドが外来需要を厚く下支えしている。
つまり「商圏高齢化率×外来依存度」という2軸で読むと、熱海は外来依存度が極大で、出口の選択肢が宿泊か高齢者向け施設かに二極化するエリア、高山は外来需要(特にインバウンド)が分厚く、宿泊用途での継続保有が依然合理的なエリア、と整理できる。本稿では10エリアの商圏年齢構成を横並びにし、保有出口(介護・サ高住・住宅転用)が成立する条件を逆算していく。
10エリア比較 — 商圏高齢化率という「もう一つの地図」
まず、温泉・観光リゾートを中心に10エリアの半径1.5km商圏について、65歳以上比率(高齢化率)と生産年齢比率(15〜64歳)を国土数値情報250mメッシュから集計した。同じ「観光地」でも年齢構成は大きく割れる。
熱海の高齢化率49.1%は突出している。これは居住者のほぼ2人に1人が65歳以上という水準であり、軽井沢(42.3%)、草津温泉(41.5%)、白浜(41.2%)といった他のレジャー特化エリアをも上回る。逆に金沢(29.8%)・那覇(29.2%)・京都駅周辺(27.4%)は、都市機能と居住人口の厚みがあり、商圏年齢構成は全国平均(29.4%)に近い。高山(38.8%)はその中間に位置する。
ここで重要なのは、高齢化率が高いほど、居住者発の宿泊需要(帰省客の同伴、地元の会食・宴会、ビジネス出張など)は構造的に細るという点だ。両エリアとも就業比率は約11%と低く、業務需要の厚みもない。したがって客室稼働は、ほぼ全面的に「外来=観光客」に依存する。商圏高齢化率は、需要構造が「内需を失い外来一本足になる度合い」を測る代理指標として機能する。
高齢化率とADRの散布図を見ると、明確な相関はない。熱海(高齢化49.1%・ADR¥61,700)と箱根町(高齢化38.6%・ADR¥82,900)はいずれも高単価帯にありながら、商圏の年齢構成はまったく異なる。これは、高単価リゾートであっても出口リスクは地価や稼働だけでは測れず、商圏の年齢構成という独立した軸で評価する必要があることを示している。ADRが高い=出口が安泰、ではない。
エリア分析 — 熱海:地価は上がるが商圏は最も高齢化している
| 商圏人口(2025) | 11,718人 |
| 高齢化率(65歳以上) | 49.1% |
| 生産年齢比率 | 46.2% |
| 就業比率(office) | 11.1% |
| 2040年人口変化 | -25.6% |
| エリアADR | ¥61,700 |
| 2025年 平均 | 約20.3万円/㎡(+11.1%) |
| 2026年 平均 | 約19.3万円/㎡(+8.7%) |
出典:国土交通省 地価公示・都道府県地価調査(tochidai.info集計)
熱海の特異性は、商圏が全国屈指の高齢化(49.1%)にありながら、地価が二桁上昇を続けている点にある。これは、宿泊・コンドミニアム需要が外来から強く流入し、跡地の取り合いが起きているためだ。実際、旧熱海グランドホテル跡地のラビスタ熱海(全239室)、玉乃井本館跡のホテル計画(住友不動産系列)、東海岸町の長期滞在型コンドミニアム計画(日本エスコン、2029年竣工予定)など、廃業旅館跡の再開発は宿泊・コンドミニアム用途が主流となっている。
ここに出口戦略上の重要な含意がある。熱海では「商圏が高齢化しているから介護施設に転用する」というロジックは、必ずしも最適解にならない。外来需要が地価を押し上げているため、宿泊・コンドミニアムとしての継続価値(および売却価値)が高く維持されているからだ。商圏高齢化率は「内需が消えた」ことを示すが、熱海ではそれを外来需要が完全に補填している。出口は「宿泊継続 or 高単価住宅(コンドミニアム)」が軸となり、介護・サ高住転用は立地条件(駅近・平地・送迎導線)が揃う一部物件に限られる。熱海の宿泊市場そのものの構造(76軒・2,508室のADR推移)は熱海市の旅館を徹底分析で掘り下げている。
エリア分析 — 高山:インバウンドが外来依存度を「健全な厚み」に変える
高山の商圏高齢化率は38.8%。熱海より10ポイント以上低く、生産年齢比率も51.0%と過半を維持している。そして決定的に異なるのが外来需要の中身だ。2024年の総観光客数は442.2万人(前年比+8.6%)、うち外国人宿泊者数は約77万人と過去最高を更新した。コロナ前ピーク(2019年・約61万人)を大きく上回る回復であり、外来依存度は「内需消失の裏返し」ではなく「インバウンドという成長需要に支えられた厚み」へと質的に転換している。
この差は出口戦略を分ける。高山では客室需要が外国人を中心に拡大局面にあり、宿泊用途での継続保有・バリューアップ(インバウンド対応の客室改装、上位グレード化)が依然として第一の出口となる。ADR¥47,400は熱海より低いものの、稼働を伴う実需に裏打ちされている点で、需要の質はむしろ堅い。商圏高齢化率が中位(38.8%)であることは、地元従業員の確保余地や周辺生活機能の維持という観点でも、運営継続のハードルを下げる。高山を起点とした周遊圏(下呂・白川郷)まで含めた減室リブランドの採算については、飛騨高山周遊圏のホテル投資余地で詳しく試算している。
保有出口の逆算 — 介護・サ高住・住宅転用が成立する条件
では、商圏が高齢化したエリアで宿泊用途の継続が難しくなった場合、保有出口はどう成立するのか。介護施設・サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)・住宅(コンドミニアム)への転用について、需要・規制・物理条件の3面から成立条件を逆算する。
| 転用先 | 需要の根拠 | 立地・物理条件 | 熱海 | 高山 |
|---|---|---|---|---|
| 宿泊継続/改装 | 外来需要(観光・インバウンド) | 客室規模・眺望・温泉 | 条件付き○ | ◎ |
| コンドミニアム/住宅 | 移住・二地域居住・別荘 | 区分所有適性・眺望・駅距離 | ◎ | ○ |
| 介護付き有料老人ホーム | 商圏高齢者+広域からの入居 | 平地・送迎導線・医療近接 | 条件付き○ | 条件付き○ |
| サ高住 | 自立〜要支援層・補助金 | バリアフリー化費用・面積 | △ | 条件付き○ |
ポイントを3つに整理する。第一に、介護・サ高住の需要は「商圏高齢者数」だけでは成立しない。要介護認定率が高まるのは80歳以降(80〜84歳で26.2%、85歳以上で60.1%)であり、商圏高齢化率が高くても、広域からの入居者を集められる立地・医療連携・送迎導線がなければ稼働は埋まらない。全国のサ高住は2025年9月末で約29.1万戸(8,327件)まで積み上がり、供給過多による廃業・撤退も生じている。高齢化率の高さは「需要の存在」を示すが「事業の成立」を保証しない。
第二に、物理転用コストが収益性を縛る。温泉旅館・リゾートホテルは客室が宴会・眺望前提で設計され、廊下幅・段差・浴室仕様が介護用途と整合しないことが多い。バリアフリー改修・スプリンクラー・機械浴の導入には相応の投資が必要で、坪当たり改修費が新築サ高住の建築費に接近すると、転用の経済優位は消える。山がちで平地が限られる熱海・高山は、送迎・救急導線の確保という点でも条件が厳しい。ホテルへの転用と逆向きの論点だが、非住宅築古資産を客室へ転用する際の建設費・用途境界の考え方は、商業・物流施設のホテル転用投資境界線でも整理しており、転用採算の感覚をつかむ参考になる。
第三に、熱海では「外来需要が地価を支える限り、宿泊・住宅転用の出口価値が介護転用を上回る」。地価が二桁上昇する局面では、コンドミニアム・宿泊としての売却・継続が最も合理的な出口になりやすい。介護・サ高住への転用が前面に出るのは、外来需要が細り、かつ地価が下落に転じたエリア——つまり「商圏高齢化率が高い × 外来依存度も低下」という二重条件が揃ったときである。熱海・高山はいまだ外来需要が厚く、その段階には至っていない。
投資判断サマリー — 出口は「年齢構成 × 外来需要」の交点で決まる
熱海:高齢化極大 × 外来厚い
商圏高齢化49.1%だが地価+11%。出口は宿泊継続・コンドミニアム転用が軸。介護転用は駅近・平地の一部物件に限定。
高山:高齢化中位 × インバウンド成長
高齢化38.8%、外国人宿泊77万人で過去最高。宿泊用途の継続・バリューアップが第一の出口。需要の質が堅い。
転用が前面に出る条件
「高齢化率 高い × 外来依存度 低下」の二重条件が揃い、かつ地価が下落に転じたエリア。現状の熱海・高山は該当しない。
本稿の主張は単純だ。ホテル投資の出口を、将来人口の減少率だけで評価するのは粗い。同じ減少率でも、商圏の年齢構成と外来需要の質によって、宿泊継続・住宅転用・介護転用のどれが成立するかは大きく変わる。商圏高齢化率と外来依存度を掛け合わせた2軸でエリアを読むことで、「内需が消えても外来が支える熱海型」「成長インバウンドが厚みを作る高山型」「外来も細り転用が現実解になる将来型」を切り分けられる。出口戦略の解像度を一段上げる軸として、年齢構成の定量化は有効である。
参考として、リゾート比率の高い星野リゾート・リート投資法人(3287)の2026年4月時点のポートフォリオ全体の稼働率は79.3%、ADR¥21,600、RevPAR¥17,100(前年同月比 稼働率-2.0pt)であった。上場リゾートREITの運営実績は依然として高稼働を維持しており、本稿が示す「外来需要が厚いリゾートは宿泊用途の出口価値が高い」という構図と整合する。
⚠ 推計データに関する注意:本記事の商圏人口・高齢化率は国土数値情報の将来推計人口(居住人口ベース)であり、観光客・通勤者などの滞在・通過人口は含みません。地価・観光統計は調査時点の公表値です。転用シナリオの評価は一般的な成立条件の整理であり、個別物件の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
商圏高齢化率は国土交通省 国土数値情報「250mメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」の居住人口(2025年推計)。ADR・施設数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングのOTA公開価格データ(エリア別N=220〜297施設)。地価は地価公示・都道府県地価調査の集計。リゾートREIT実績は星野リゾート・リート投資法人(3287)の2026年4月時点開示。
■ 試算前提
商圏はホテル所在地を中心とした半径1.5km圏の250mメッシュ集計。ADRは2名1室・全プラン平均(税込)で成約値ではなくOTA掲載値(成約比+25〜30%高い傾向)。転用成立条件は需要(外来需要の厚み)・規制(用途地域・各種基準)・物理条件(客室規模・眺望・温泉)の3面で評価。
■ 限界・留意点
高齢化率は居住人口ベースで滞在・通過人口を含まない。ADRは掲載値推定で個別物件の成約・収益を保証しない。将来推計人口は推計値であり実績と乖離しうる。転用可否は個別の用途地域・建築基準・許認可で最終判断が必要。本稿は投資勧誘ではなく出口戦略の分析枠組みの提示を目的とする。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — OTA公開価格データ(エリア別ADR、N=220〜297施設/エリア)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 国土数値情報「250mメッシュ別将来推計人口(R6国政局推計)」
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(境界=国勢調査2020小地域)
- 熱海市公式ウェブサイト「熱海市の人口構造の変化」
- 高山市「外国人観光客宿泊統計」
- 熱海市の公示地価・基準地価(地価公示・都道府県地価調査の集計)
- 高齢者住宅協会「サービス付き高齢者向け住宅の最新動向」
■ REIT・業界レポート
■ ニュース・参考記事
- 熱海・玉乃井本館跡にホテル計画 住友不動産系列(熱海経済新聞)
- 外国人宿泊者数 去年は約77万人で過去最高 岐阜県高山市(ぎふチャン)
