ホテル開発の意思決定で最初に決まる変数は、立地でも価格帯でもなく客室数であることが多い。土地の規模と容積が先に決まり、そこから逆算して「何室の箱にするか」が決まる。ところが、その客室数が実際の単価と需要消化にどう効くのかを、全国の稼働中ストックで横断的に測った資料は多くない。本稿では分析単位を客室数帯(施設規模)に置き、規模と単価・在庫消化の関係を実測で結ぶ。
既刊との線引きを先に示す。価格帯(ADRバンド)で市場を割る分析やエリアで割る分析は、いずれも「どの価格帯・どの立地が空いているか」を問うものだった。規模別の在庫消化スピードを検証した既刊は7都道府県のお盆断面で消化率の序列を明らかにしている。本稿はそこに単価(推定成約ADR)と資本市場側の保有構成という2つの軸を重ね、全国47都道府県・稼働中ストックを対象に「何室で建てるか」を組み立て直す。新規開業の規模分布を扱った既刊が供給側の話であるのに対し、本稿は既存の稼働ストックが実際にいくらで売れ、どう消化されているかを見る。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。規模帯単位のADRは対象施設の中央値(その規模帯の標準的な施設の水準)。
- LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT0が当日。本稿ではLT90以内の観測のみを用いる。
- 残室率:各施設の総客室数に対して、OTA等の販売在庫として残っている客室数の割合(室ベースの推定値)。規模帯ごとの中央値のみを用い、個別施設の値は開示しない。OTA等で販売される在庫の状況に基づく推定であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- 早期完売率:残室数が初めて0室に到達したリードタイムがLT14以上だった施設の割合。
- OTA公開枠:観測期間中にOTA等で確認できた在庫の最大値が総客室数に占める割合。本稿では公開枠が総客室数の30%以上の施設のみを集計対象とした。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/REIT保有関係マスター(2026年8月31日時点)
- — ビジネスホテルの推定成約ADR中央値は30〜59室の¥6,900が底、250室以上は¥10,500で+52%。規模と単価の関係は、業態を揃えて初めて向きが見える。
- — シティホテルは60〜99室¥9,500→250室以上¥19,700で2.07倍に開く一方、旅館は¥14,800〜16,600に収まり規模とほぼ無関係。効き方は業態で大きく違う。
- — 在庫消化はどのリードタイム断面でも大箱が速い。LT60時点の残室率中央値は1〜9室66.7%に対し250室以上41.7%(2026年8月15日着)。
- — 規模帯内のばらつきは小箱ほど大きい。LT7残室率の四分位範囲は1〜9室66.7ptに対し250室以上21.0pt。小規模ほど結果の予見性が低い。
- — 上場ホテルREIT7社の保有客室の86.3%は100室以上、73.1%は150室以上。出口の買い手が厚い規模帯は限られる(国内301物件・52,362室、2026年8月31日時点)。
全国ストックは「軒数は小箱、客室数は大箱」に割れている
まず母集団の姿を押さえる。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、稼働が確認できる全国の宿泊施設は27,162軒・1,266,919室である。これを客室数帯で割ると、軒数と客室数でまったく違う絵が出る。
軒数では1〜9室が9,055軒(33.3%)、10〜29室が8,424軒(31.0%)で、全体の64.3%が30室未満である。ところが客室数で見ると、この30室未満の層が持つのは全体の14.7%にすぎない。逆に150室以上はわずか2,275軒(8.4%)でありながら、客室数では559,405室・全体の44.1%を占める。市場を「軒数」で数えるか「室数」で数えるかで、見えるものが正反対になるということだ。
この非対称は開発判断にそのまま効いてくる。事業計画に載る競合軒数はほとんどが小箱であり、実際に稼働する客室の半分近くは大箱が供給している。同じ「軒数で数えるか室数で数えるか」の分岐は新規供給側でも起きており、2026年の新規開業を件数と客室数の両面から分解した既刊が対比の材料になる。以下では、この規模帯ごとに単価と在庫消化を測っていく。
推定成約ADRは規模に対してU字を描く — 底は100室前後
次に単価である。2026年5月〜7月の3ヶ月について、推定成約ADRを算出できた6,856施設を規模帯別に集計した。全業態を合わせた中央値は、1〜9室の¥15,900から100〜149室の¥8,900まで単調に下がり、そこから250室以上の¥12,700へ反転する。きれいなU字である。
ただしこのU字は、そのまま「100室前後は単価が取りにくい」と読んではいけない。規模帯ごとに業態構成がまったく違うからだ。1〜9室帯の上位業態は貸別荘・旅館・ペンションであり、100室以上になるとビジネスホテルとシティホテルが中心になる。小規模側の高い数字は「小さいから高い」のではなく「小さい施設に旅館とリゾートが集中しているから高い」という構成効果を多分に含んでいる。
業態を揃えると、ビジネス系は「30〜59室が底、大きいほど高い」に変わる
そこで業態を固定して見直す。ビジネスホテルだけを取り出すと、中央値の底は30〜59室の¥6,900(n=441)にあり、そこから60〜99室¥7,400、100〜149室¥8,100、150〜249室¥9,300、250室以上¥10,500と単調に上昇する。底から最大帯までの差は+52%である。全業態で見えたU字の左側は構成効果だったが、右側の上昇は業態を揃えても消えない。
シティホテルではこの傾きがさらに急になる。60〜99室の¥9,500に対し250室以上は¥19,700で、2.07倍の開きがある。一方で旅館は規模とほとんど無関係だった。10〜29室¥14,800、30〜59室¥15,900、150〜249室¥16,600と、どの帯も¥14,800〜16,600のレンジに収まっている。規模が単価を押し上げる力は業態によって大きく違う、というのがここでの含意である。
| 業態 | 1-9室 | 10-29室 | 30-59室 | 60-99室 | 100-149室 | 150-249室 | 250室以上 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ビジネスホテル | ¥9,480 n=56 | ¥7,311 n=360 | ¥6,896 n=441 | ¥7,392 n=380 | ¥8,092 n=442 | ¥9,334 n=467 | ¥10,462 n=106 |
| シティホテル | — | ¥9,942 n=41 | ¥11,304 n=61 | ¥9,540 n=82 | ¥11,362 n=90 | ¥14,062 n=111 | ¥19,702 n=63 |
| リゾートホテル | ¥26,526 n=103 | ¥14,500 n=283 | ¥14,054 n=202 | ¥15,251 n=126 | ¥17,027 n=49 | ¥13,943 n=66 | ¥14,688 n=30 |
| 旅館 | ¥15,406 n=872 | ¥14,835 n=1581 | ¥15,893 n=521 | ¥15,108 n=167 | ¥14,955 n=74 | ¥16,565 n=34 | — |
ビジネスホテルの上昇は都市圏に限った現象ではない。三大都市圏(東京・大阪・愛知・神奈川・京都・兵庫・埼玉・千葉)では30〜59室の¥8,400から250室以上の¥12,400へ+48%、それ以外の地方では30〜59室の¥6,600から250室以上の¥9,100へ+38%と、水準は違っても向きは同じである。規模の大きい箱ほど駅前・中心市街地の一等地に立地し、グレードとブランドも上位に寄るため、この差は立地とプロダクトの差を含んだ複合的なものだが、少なくとも「大きくすると単価が下がる」という関係は全国どちらの市場でも観測されない。
在庫消化は大箱ほど速く、ばらつきは小箱ほど大きい
単価の次は需要の消化である。2026年8月15日着(お盆ピークの土曜)を対象に、OTA公開枠が総客室数の30%以上ある11,914施設について、LT60からLT3までの残室率中央値を規模帯別に追った。母集団は全国47都道府県、在庫データが得られた20,223施設のうち公開枠条件を満たしたものである。施設がそもそも総客室の何割を外部販売に出しているかについては、12,941施設で在庫配分率を実測した既刊が分布を示している。
LT60時点の残室率中央値は1〜9室で66.7%、250室以上で41.7%。25.0ポイントの差がある。この序列はLT30(50.0%対33.6%)、LT7(33.3%対21.6%)と、どの断面でも保たれる。8月15日は年間で最も需要が集中する日のひとつだが、7月11日(通常の土曜)でも同じ向きが再現された。7月11日のLT7では1〜9室33.3%に対し250室以上11.9%と、むしろ差は広がる。
ここで注意が必要なのは、消化の速さと「完売のしやすさ」が逆を向くことである。残室数が初めて0室に到達したのがLT14以上だった施設の割合、すなわち早期完売率は1〜9室で42.0%、10〜29室で30.0%と小規模ほど高く、250室以上では6.0%にとどまる。これは需要の強さの差というより在庫粒度の問題である。公開枠が数室しかない施設は、数件の予約で分母が尽きる。完売の頻度を規模の異なる施設間で比較しても、需要の強さを測ったことにはならない。
開発判断にとってより重要なのは、結果のばらつきである。LT7時点の残室率について規模帯内の四分位範囲を取ると、1〜9室は66.7ポイントに達するのに対し、250室以上は21.0ポイントにとどまる。同じ規模帯のなかで、ほぼ売り切っている施設と半分以上空いている施設が同居する度合いが、小規模ほど大きい。実際、LT7時点で残室が総客室の50%以上あった施設の割合は1〜9室で38.3%、250室以上では8.3%だった。
| 客室数帯 | 集計施設 | 中央客室数 | 主要業態 | ADR中央値 | LT30残室率 | LT7残室率 | 早期完売率 | LT7ばらつき |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1-9室 | 4,726 | 5室 | 貸別荘・旅館 | ¥15,887 | 50.0% | 33.3% | 42.0% | 66.7pt |
| 10-29室 | 3,358 | 15室 | 旅館・ビジネスホテル | ¥12,932 | 42.1% | 28.6% | 30.0% | 38.0pt |
| 30-59室 | 1,397 | 40室 | 旅館・ビジネスホテル | ¥11,191 | 37.8% | 26.2% | 20.8% | 29.6pt |
| 60-99室 | 819 | 79室 | ビジネスホテル・旅館 | ¥9,167 | 36.2% | 25.8% | 17.3% | 26.4pt |
| 100-149室 | 686 | 120室 | ビジネスホテル・シティホテル | ¥8,904 | 37.0% | 24.0% | 12.8% | 23.5pt |
| 150-249室 | 711 | 188室 | ビジネスホテル・シティホテル | ¥10,270 | 36.5% | 24.6% | 11.1% | 24.5pt |
| 250室以上 | 217 | 322室 | ビジネスホテル・シティホテル | ¥12,748 | 33.6% | 21.6% | 6.0% | 21.0pt |
出口から逆算すると、機関投資家の需要は150室以上に集中している
規模を決めるもう一つの制約が出口である。上場ホテルREIT7社(いちごホテルリート投資法人、インヴィンシブル投資法人、日本ホテル&レジデンシャル投資法人、ジャパン・ホテル・リート投資法人、星野リゾート・リート投資法人、森トラストリート投資法人、霞ヶ関ホテルリート投資法人)の保有関係マスターから、客室数が判明する国内301物件・52,362室を規模帯別に集計した(2026年8月31日時点)。
結果は明快で、保有物件の中央客室数は140室、客室数ベースでは73.1%が150室以上、86.3%が100室以上に集中する。1〜9室の保有はゼロ、10〜29室は6物件(客室数シェア0.3%)にとどまる。全国ストックでは客室数の14.7%を占める30室未満の層が、上場REITのポートフォリオではほぼ存在しない。
取得価格の1室あたり中央値も規模とともに上がる。60〜99室が¥14.4百万、100〜149室が¥18.4百万、150〜249室が¥22.8百万、250室以上が¥32.9百万である(30〜59室帯の¥50.8百万は高価格帯の旅館・リゾートが含まれるためレンジが異なる)。上場REITだけが出口ではないが、機関投資家の買い需要が厚い規模帯を外して計画すると、売却時の買い手候補が事業会社と私募ファンドに絞られるという含意は押さえておきたい。取得後に必要となる資本的支出の水準はREIT5社のIR開示から1室あたりで整理した既刊にまとめている。
| 客室数帯 | 全国施設数 | 全国客室シェア | REIT物件数 | REIT客室シェア | 取得価格/室(中央値) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1-9室 | 9,055 | 3.5% | 0 | 0.0% | — |
| 10-29室 | 8,424 | 11.2% | 6 | 0.3% | — |
| 30-59室 | 3,548 | 11.7% | 35 | 3.0% | ¥50.8百万 |
| 60-99室 | 2,200 | 13.5% | 66 | 10.5% | ¥14.4百万 |
| 100-149室 | 1,660 | 15.9% | 55 | 13.2% | ¥18.4百万 |
| 150-249室 | 1,626 | 24.3% | 86 | 31.0% | ¥22.8百万 |
| 250室以上 | 649 | 19.8% | 53 | 42.0% | ¥32.9百万 |
大箱が集まる県、小箱が支える県 — 立地選択と規模はセットで決まる
規模の選択は立地から切り離せない。都道府県別に、客室数のうち100室以上の施設が占める割合を見ると、東京都80.1%、大阪府77.5%、福岡県73.9%、千葉県73.5%、愛知県72.4%と大都市圏で高い。逆に長野県25.4%、山梨県29.9%、徳島県35.9%、奈良県36.7%と、小規模施設が客室供給の大半を担う県もある。
大箱比率の低い県で大規模開発を計画する場合、競合が少ないという読み方と、その規模を吸収する需要の厚みが確認されていないという読み方の両方が成り立つ。規模帯別ADRの傾きが業態で違ったのと同じで、ここでも「大きいほど有利」を全国一律に適用することはできない。
何室で建てるか — 単価差を年間の客室収入に置き直す
ここまでの実測を、事業計画に載る形に置き直しておく。地方のビジネスホテルで30〜59室(¥6,600)を選ぶか150〜249室(¥8,800)を選ぶかの単価差は1室1泊あたり約¥2,200である。稼働率80%(試算前提・通年)・年365日を前提に置けば、1室あたり年間で約¥65万の客室収入差になる。三大都市圏では30〜59室(¥8,400)と150〜249室(¥10,800)の差が約¥2,400で、1室あたり年間約¥71万に相当する。
この置き換えは単一の前提に乗った点推計であり、ADR差も稼働率も計画段階では幅を持つ。そこで地方のビジネスホテルで30〜59室から150〜249室へ規模帯を1段上げる想定について、観測されたADR差(¥2,200)を中位に置き、その±30%と稼働率70〜90%(いずれも通年・試算前提)で振り直した。
| シナリオ | ADR差(1室1泊) | 稼働率(通年) | 1室あたり年間差 | 100室規模での年間差 |
|---|---|---|---|---|
| 悲観 | ¥1,600 | 72% | ¥42.0万 | ¥4,205万 |
| 中位 | ¥2,200 | 80% | ¥64.2万 | ¥6,424万 |
| 楽観 | ¥2,800 | 88% | ¥89.9万 | ¥8,994万 |
2軸で見ると幅はさらに明確になる。下表はADR差と稼働率を振ったときの1室あたり年間客室収入差(万円)である。網掛けが中位ケースにあたる。最も慎重な組み合わせでも年間¥40万台に届き、規模帯を1段上げる判断の効果が前提の置き方だけで消える範囲にはないことが確認できる。
| ADR差 \ 稼働率(通年・試算前提) | 70% | 75% | 80% | 85% | 90% |
|---|---|---|---|---|---|
| ¥1,600 | 40.9 | 43.8 | 46.7 | 49.6 | 52.6 |
| ¥1,900 | 48.5 | 52.0 | 55.5 | 58.9 | 62.4 |
| ¥2,200 | 56.2 | 60.2 | 64.2 | 68.3 | 72.3 |
| ¥2,500 | 63.9 | 68.4 | 73.0 | 77.6 | 82.1 |
| ¥2,800 | 71.5 | 76.7 | 81.8 | 86.9 | 92.0 |
これは客室収入ベースの粗い置き換えであり、実際には人件費・光熱費の規模の経済、朝食提供の有無、ブランド費用がここに乗る。それでも、規模帯を1段上げることの効果が「単価の数百円」ではなく「1室あたり年間数十万円」のオーダーで効くことは押さえておく価値がある。
一方で、建設費の側では規模を上げるコストが上がり続けている。国土交通省「建築着工統計調査」によれば、ホテル建築費の坪単価は2022年の138.3万円から2024年に195.0万円へ、2年で41%上昇した。計画データから客室原単位を逆算した既刊では、1室あたり建築費は2,067万円と試算されている。上で見たREITの取得価格1室あたり中央値(150〜249室で¥22.8百万)と近い水準であり、新築と取得の経済性が接近している局面だということでもある。
30室未満 — 単価は高いが結果の幅が広い
ADR中央値は高位だが、これは旅館・貸別荘・リゾートが集中する構成効果を含む。LT7残室率の四分位範囲は38.0〜66.7ポイントと大きく、同じ規模帯のなかで結果が大きく割れる。少額から始められる一方、収益の予見性は最も低い層である。
30〜99室 — ビジネス系の単価が最も低い帯
ビジネスホテルの推定成約ADR中央値は30〜59室¥6,900、60〜99室¥7,400と底を形成する。フルサービスを載せにくく、大箱の立地優位も取りにくい規模である。この帯を選ぶなら、単価ではなく建築費・運営費側で優位を作る設計が要る。
100室以上 — 単価・消化・出口が揃う帯
ビジネス系ADRは100〜149室¥8,100から250室以上¥10,500へ単調上昇。LT7残室率も低く、規模帯内のばらつきは21.0〜23.5ポイントと最小。REIT保有客室の86.3%がこの帯に集中しており、出口の買い手候補も最も厚い。
本稿の限界
3点を明示しておく。第一に、規模とADRの関係は因果ではない。大規模施設は駅前・中心市街地の一等地に立地し、上位グレードのブランドが入る傾向があるため、観測された単価差には立地とプロダクトの差が織り込まれている。同じ土地に規模だけ変えて建てた場合の差を示すものではない。
第二に、残室率はOTA等の公開在庫に基づく推定であり、施設全体の実稼働率とは異なる。直販・法人契約・団体の比率が高い施設ほど、公開枠の消化と実際の稼働の乖離が大きくなる。本稿では公開枠が総客室数の30%以上ある施設に限定してこの影響を抑えたが、完全には除去できない。
第三に、在庫の断面は2026年8月15日着と7月11日着の2日である。両日で同じ向きが再現されたことは確認したが、平日需要・冬季需要を含めた通年の姿を示すものではない。
まとめ
規模は、単価・消化・ばらつき・出口という4つの軸すべてに効いていた。業態を揃えると、ビジネスホテルの推定成約ADRは30〜59室の¥6,900を底に250室以上の¥10,500まで+52%上昇し、シティホテルでは60〜99室から250室以上で2.07倍に開く。一方で旅館は¥14,800〜16,600のレンジに収まり、規模と単価がほとんど連動しない。
在庫消化はどのリードタイム断面でも大箱が速く、規模帯内のばらつきは小箱ほど大きい。完売の頻度だけを見ると逆の像が出るが、それは公開枠の分母の小ささが生む見かけである。そして出口では、上場REITの保有客室の86.3%が100室以上に集中している。
「何室で建てるか」に単一の正解はない。ただし、規模を1段上げる判断が単価と予見性と出口の厚みを同時に押し上げること、そしてその効果の大きさが業態によって大きく違うことは、全国の実測から確認できる。事業計画の客室数は、土地の容積からの逆算だけでなく、この3つの軸から検証する余地がある。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
在庫は全国47都道府県のOTA等公開在庫の観測(2026年8月15日着 n=11,914施設/2026年7月11日着 n=13,266施設、公開枠が総客室数の30%以上ある施設に限定)。単価は推定成約ADR(2026年5〜7月、n=6,856施設)。施設・客室ストックは稼働確認ベースで27,162軒・1,266,919室。出口側は上場ホテルREIT7社の保有関係マスター(2026年8月31日時点スナップショット、国内301物件・52,362室)。
■ 試算前提
規模帯別の数値はいずれも中央値であり平均ではない。年間客室収入差の試算は稼働率80%(通年)・年365日・1室あたりの客室収入ベースで置いた粗い置き換えであり、人件費・光熱費の規模の経済、朝食提供の有無、ブランド費用は含まない。感度分析ではADR差を観測値の±30%、稼働率を70〜90%(通年)の範囲で振っている。業態別の集計は各セルn≧20の帯のみ表示した。
■ 限界・留意点
規模とADRの関係は因果ではなく、立地・グレード・ブランドの差を含んだ複合的な観測である。残室率はOTA等の公開在庫に基づく推定であり、施設全体の実稼働率とは異なる。在庫の断面は2026年8月15日着と2026年7月11日着の2日に限られ、平日需要・冬季需要を含む通年の姿ではない。REIT保有関係マスターについては、霞ヶ関ホテルリート投資法人(15物件)の原典客室数欄に桁ずれが確認されたため、本稿では同投資法人の物件別実客室数(合計726室)に置き換えて再集計し、取得価格1室あたりの中央値算出からは同投資法人を除外している。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(n=6,856施設、2026年5〜7月)、室ベース残室推移(n=11,914施設・2026年8月15日着/n=13,266施設・2026年7月11日着)、稼働確認ベースの施設・客室ストック(27,162軒・1,266,919室)
- REIT保有関係マスター — 上場ホテルREIT7社の国内保有物件301件・52,362室(2026年8月31日時点スナップショット)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省「建築着工統計調査」 — ホテル建築費坪単価(2022年138.3万円→2024年195.0万円)
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ
■ REIT・業界レポート
- JLL「日本のホテル投資市場」(建設費高騰による新規供給の限定、2026年アジア太平洋ホテル投資額予測133億米ドル)
- トラベルボイス「日本のホテル市場の最新動向、世界比較で割安感、建設費高騰で新規ホテル供給は限定的に ―米JLL社」(2025年12月8日)
- HotelBank「ホテル建設費はいくら?坪単価の目安と工法別コスト比較」
