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ホテル建設費は1室870万〜7,140万円|業態別3層と12商圏の成立ADR

投稿日 : 2026.09.10

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投資・開発

ホテル建設費の業態別3層と12商圏の成立ADR

ホテルの建設費は「1室あたりいくら」なのか。国土交通省「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」の宿泊業用建築物データと、建築計画52件の客室原単位から算出すると、答えは業態によって3つの水準に分かれる。宿泊特化型で1室あたり約870万円、シティ・アッパーミッド型で約2,480万円、リゾート・上級型で約7,140万円(いずれも2024年のRC造㎡単価ベース・土地代を含まない建物本体費用)。1室あたりの延床面積が16.5㎡・47.1㎡・135.8㎡と大きく異なるため、同じ坪単価でも1室あたりの金額は8倍以上に開く。本稿では、この3層構造を提示したうえで、地価・金利・稼働率を置いて「その建設費を回収できるADR」を全国12商圏で逆算する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 成立ADR:土地・建設費・ソフトコストの合計に対して、目標とする純収益(NOI)利回りを満たすために必要な平均客室単価。本稿の試算値であり、特定事業の採算を保証するものではありません。
  • NOI(純収益):GOP(営業粗利益)からFF&E(什器備品)積立を控除した額。減価償却前・支払利息前の水準として扱います。
  • 稼働率:本稿では試算の前提値として82%(感度分析で77〜87%)を置いています。実測値ではありません。
  • 1室あたり延床面積(客室原単位):建築計画上の延床面積 ÷ 計画客室数。客室そのものの面積ではなく、廊下・ロビー・バックヤードを含む建物全体を客室数で割った値です。
  • データ出典:国土交通省「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」、国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
宿泊特化型
870万円
1室あたり建設費・RC造2024
シティ型
2,480万円
1室あたり・47.1㎡想定
リゾート・上級型
7,140万円
1室あたり・135.8㎡想定
全国平均 坪単価
195.5万円
2024年・全構造・2,836棟
成立ADR 余裕度
+25.0%
12商圏中央値・基準ケース
Key Takeaways
  • 1室あたり建設費は3層:宿泊特化型 約870万円/シティ・アッパーミッド 約2,480万円/リゾート・上級 約7,140万円(2024年RC造単価・土地代を含まない建物本体)。
  • 差を作るのは坪単価ではなく客室原単位。1室あたり延床16.5㎡・47.1㎡・135.8㎡の8.2倍差が、そのまま1室単価の差になる。
  • 全国坪単価は195.5万円(2024年・2,836棟)で2022年比+41%。構造別は木造123.4万円〜SRC造325.1万円と2.6倍の開き。
  • 12商圏の成立ADRは6,600〜14,900円。実勢ADRに対する余裕度は中央値+25.0%で、京都+93.5%・札幌+77.2%が厚く、東京千代田+8.0%が最も薄い。
  • 感度は建設費が支配的。建設費±20%は金利±0.5ptの約2.5倍効き、建設費+20%×金利2.75%では成立商圏が12から7へ減る。

結論 — 「1室いくら」は坪単価ではなく客室原単位で決まる

先に結論を述べる。ホテル建設費を語るとき、実務でよく使われるのは「坪単価」である。しかし坪単価は建物1坪あたりの金額であり、事業計画で必要になるのは「1室あたりいくらか」だ。両者をつなぐのが客室原単位(1室あたり延床面積)であり、この値が業態によって8倍以上開くために、同じ坪単価でも1室あたりの建設費はまったく違う数字になる。

メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する建築計画のうち、用途がホテル単独で客室数と延床面積の両方が確認できる52件を集計すると、客室原単位は3つのまとまりに分かれた。都市部の宿泊特化型が中央値16.5㎡(N=16)、シティ・アッパーミッド型が47.1㎡(N=18)、リゾート・上級型が135.8㎡(N=18)である。ここに2024年のRC造の工事費単価52.6万円/㎡を掛けると、1室あたり建設費はそれぞれ約870万円、約2,480万円、約7,140万円となる。

この3層を1つの平均値にまとめてしまうと、どの業態にも当てはまらない数字が出る。52件全体の客室原単位の中央値は48.9㎡で、1室あたり約2,570万円となるが、これは3つの峰の中間にあるだけで「典型的なホテル」を表してはいない。客室原単位を35.0㎡と置いた既報の試算(ホテル1室の建築費は2,067万円 — 計画31件の客室原単位35.0㎡から逆算)とも、対象計画の母集団と業態構成の違いで幅が出る。まず自社の企画がどの層にあるかを決めてから単価を当てる、という順序が要る。

① 宿泊特化型 870万円/室

客室原単位16.5㎡(13.1〜22.1㎡)、計画客室数の中央値は234室。廊下・ロビーを絞り客室を積み上げる設計。土地代を含まない建物本体だけなら、1室1,000万円を切る水準で計画されている案件が多数を占める。

② シティ・アッパーミッド 2,480万円/室

客室原単位47.1㎡(25.7〜65.0㎡)、計画客室数の中央値は165室。宴会場・レストラン・大浴場などの共用部を持つ分、原単位が宿泊特化型の約2.9倍になる。

③ リゾート・上級型 7,140万円/室

客室原単位135.8㎡(80.6〜244.6㎡)、計画客室数の中央値は65室。客室そのものが広く、加えてスパ・レストラン・パブリックスペースの比率が高い。1室あたりでは宿泊特化型の8.2倍になる。

ホテル建設費の基礎 — 坪単価は構造で2.6倍、2022年からの2年で+41%

まず単価の側を押さえる。国土交通省「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」は、用途別・構造別に着工した建築物の棟数・床面積・工事費予定額を公表している。用途「52 宿泊業用」の工事費予定額を床面積で割ると、ホテル・旅館用建築物の㎡単価が得られる。2024年の全国値は59.1万円/㎡、坪換算で195.5万円だった(2,836棟・床面積約176万㎡)。

これを構造別に分けると、木造123.4万円/坪、S造(鉄骨造)165.0万円/坪、RC造(鉄筋コンクリート造)173.8万円/坪、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)325.1万円/坪となり、最も安い木造と最も高いSRC造で2.6倍の開きがある。宿泊特化型の新築で主流となるS造・RC造は165〜174万円/坪のレンジに収まる。全構造平均の195.5万円/坪は、棟数こそ17棟にすぎないが1棟あたりの規模が大きいSRC造の大型案件に引き上げられた混合値であり、宿泊特化型の企画にそのまま当てると建設費を厚めに見積もることになる。

表1|構造別の建設単価(2024年・宿泊業用着工ベース)— 木造からSRC造まで2.6倍の開き
構造2024年 ㎡単価2024年 坪単価2023年 坪単価前年からの変化棟数(2024年)
木造37.3万円123.4万円100.4万円+22.9%1,365
S造(鉄骨造)49.9万円165.0万円133.9万円+23.2%1,088
RC造(鉄筋コンクリート造)52.6万円173.8万円153.9万円+12.9%267
SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)98.3万円325.1万円135.3万円+140.3%17
全構造59.1万円195.5万円137.7万円+42.0%2,836
出典: e-Stat「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」統計ID 0003114547、用途「52宿泊業用」全国・構造別よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。SRC造は2024年の着工が17棟と少数のため、大型案件1件の影響を強く受ける点に留意。

年次の推移を見ると、宿泊業用建築物の坪単価は2019年120.3万円、2020年117.2万円、2021年124.8万円、2022年138.6万円、2023年137.7万円、2024年195.5万円と動いてきた。2022年から2024年の2年で+41.1%である。一直線に上がったのではなく、2022年から2023年はほぼ横ばいで、2024年に大きく水準が切り上がった形だ。この供給側への波及については建設費+41%と人材難で消える供給 — 2027-2029年ホテル新規開業マップで扱っている。

構造別 工事費坪単価(2023年 / 2024年)
出典: e-Stat「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」統計ID 0003114547 よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
宿泊業用建築物 坪単価の推移(2019〜2024年)
出典: e-Stat「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」統計ID 0003114547(全国・全構造)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

1室あたり建設費 — 客室原単位16.5㎡・47.1㎡・135.8㎡の3層

次に「1室あたり」に落とす。1室あたり建設費は、㎡単価 × 客室原単位で求まる。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する建築計画のうち、主用途がホテル単独で客室数と延床面積の双方が記載されている52件を集計した。分布は連続的ではなく、3つのまとまりに割れる。

計画客室数 × 客室原単位(1室あたり延床面積)— 建築計画52件
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(建築計画ベース、N=52件)。主用途がホテル単独の計画に限定し、事務所・共同住宅などとの複合用途は延床面積にホテル以外の部分が含まれるため除外した。
表2|業態3層別の客室原単位と1室あたり建設費(RC造・S造、建築計画N=52件)
業態層客室原単位
中央値
同・レンジ計画数
N
計画客室数
中央値
1室あたり建設費
RC造
同・S造
① 宿泊特化型16.5㎡13.1〜22.1㎡16234室約870万円約820万円
② シティ・アッパーミッド47.1㎡25.7〜65.0㎡18165室約2,480万円約2,350万円
③ リゾート・上級135.8㎡80.6〜244.6㎡1865室約7,140万円約6,780万円
全体(参考)48.9㎡13.1〜244.6㎡52168室約2,570万円約2,440万円
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(建築計画ベース、N=52件)/e-Stat「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」統計ID 0003114547(2024年・全国・構造別㎡単価)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。1室あたり建設費は土地代・設計監理費・什器備品費・開業前費用を含まない建物本体の工事費相当。

具体例で確認する。宇都宮市池上町の計画は300室・延床13,000㎡で客室原単位43.3㎡(2028年10月竣工予定・改築)、②の層にあたる。岐阜県美濃加茂市の計画は120室・8階建(2028年12月竣工予定)で、延床面積は現時点の計画情報に記載がない。岡山市北区野田屋町の300室・延床40,400㎡(2028年12月竣工予定)は住宅・店舗との複合用途で、延床にホテル以外の部分が含まれるため、この集計からは除外している。複合用途の計画では公表延床をそのまま客室数で割ると原単位が過大になるため、注意が要る。

注意点をもう一つ。①の層の客室原単位13.1〜22.1㎡は、客室そのものの面積ではなく、廊下・ロビー・バックヤードまで含めた建物全体を客室数で割った値である。都心の宿泊特化型では11〜13㎡級の客室を高密度に積み上げる設計が採られており、この水準が実際の計画値として観測される。逆に③の層では、客室が広いことに加えて、レストラン・スパ・パブリックスペースの床が客室数に対して厚くなるため、原単位が3桁㎡まで伸びる。

地域差 — 都道府県別の坪単価は60万円台から260万円台まで4.5倍

単価は地域によっても動く。宿泊特化型の主流であるS造・RC造に限り、サンプルの薄さを避けるため2022〜2024年の3年を合算し、着工棟数20棟以上の37都道府県を対象にすると、坪単価は宮崎県60.3万円から神奈川県268.7万円まで4.46倍の幅がある。中央値は133.7万円/坪、対象は合計2,903棟である。

都道府県別 工事費坪単価(S造・RC造、2022-2024年合算、着工20棟以上の37県)
出典: e-Stat「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」統計ID 0003114547(用途「52宿泊業用」、構造「鉄筋コンクリート造」「鉄骨造」)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。上位8県・下位8県を表示。着工棟数が20棟未満の10県は除外。

ただしこの差を「その県で建てると必ず高い/安い」と読むのは早い。着工統計は棟数ベースの集計であり、その年にどんな規模・グレードの案件が着工したかで水準が動く。神奈川県(57棟)や香川県(68棟)が上位に来ているのは、大型かつ高グレードの案件が期間中に含まれた影響が大きい。地域差の構造そのものを掘り下げた分析はホテル建設費はいくら?坪単価の目安と工法別コスト比較で工法別に整理している。実務では、県平均を出発点に置きつつ、同規模・同グレードの直近実績で補正するのが妥当だ。

あわせて先行きも押さえておく。建設物価調査会の建築費指数(東京・2015年平均=100)は2026年3月時点で集合住宅(RC造)143.3・前年同月比+5.5%、事務所(S造)141.2・同+3.4%と上昇が続いている。ターナー・アンド・タウンゼントの予測も、日本の建設インフレを2025年+5.6%、2026年+5.3%、2027年+5.0%としている。着工から開業まで数年を要する開発案件では、2024年の実績単価をそのまま使うと施工期間中の上昇分を取りこぼす。以下の試算では、2029年開業(施工期間の中間時点を2028年)を想定し、2024年比+22.0%を織り込んだ。

逆算 — 12商圏の「成立ADR」は6,600円から14,900円

ここからが本題である。建設費を知りたい理由は、それを回収できるかどうかを判断するためだ。そこで、宿泊特化型を新築する前提を置き、土地・建設・金利から「必要なADR」を逆算する。

前提は次のとおり。客室原単位は25.0㎡とした。観測された宿泊特化型の中央値16.5㎡より厚めに置いた保守側の設定である。建設費はRC造2024年の52.6万円/㎡に建設インフレ+22.0%を織り込み64.1万円/㎡、1室あたり1,603万円。設計監理費・什器備品費・開業前費用を建設費の20%(321万円/室)として加える。土地は各商圏の中心から半径約1.2km以内にある商業地の公示地価(2025年1月1日時点)の中央値を用い、同範囲の指定容積率の中央値で割って1室あたりの敷地負担を出した。

資金調達側は、日本銀行の政策金利1.00%に連動する変動金利2.25%、LTV60%、DSCR1.3倍を置いた。25年元利均等のローンコンスタントは5.23%となり、必要NOI利回りは4.08%となる。同じ枠組みを金利3ケースで検証した政策金利1.00%とホテル開発 — 主要8商圏の「成立ADR」を逆算するとあわせて読むと、金利前提の置き方による振れ幅がつかみやすい。運営側はGOP率45%、FF&E積立を売上の3%、稼働率82%(本稿の試算前提値。2025年9月〜2026年8月の実勢ADRに対する逆算に用いた想定値であり、実測値ではない。感度分析で77〜87%を検証)とした。GOP率は宿泊特化型の業界目安50〜60%より控えめな設定である。

表3|12商圏の地価・総投資・成立ADRと実勢ADRに対する余裕度(基準ケース)
商圏商業地公示地価
中央値(円/㎡)
前年比容積率
中央値
土地費
万円/室
総投資
万円/室
成立ADR実勢ADR余裕度
東京・千代田(東京駅周辺)8,510,000+8.2%800%2,6594,583¥14,900¥16,100+8.0%
宇都宮・宇都宮駅153,000+0.9%400%962,020¥6,600¥7,200+9.8%
岡山・岡山駅(北区)295,000+6.1%500%1482,072¥6,700¥7,800+15.6%
大阪・梅田(北区)2,045,000+15.3%600%8522,776¥9,000¥10,600+17.3%
仙台・仙台駅(青葉区)884,000+8.3%500%4422,366¥7,700¥9,000+17.7%
広島・紙屋町(中区)885,000+5.1%500%4422,367¥7,700¥9,600+24.6%
名古屋・名駅(中村区)1,310,000+5.6%600%5462,470¥8,000¥10,100+25.5%
那覇・県庁前579,500+6.2%400%3622,286¥7,400¥9,400+26.8%
金沢・金沢駅277,000+3.6%400%1732,097¥6,800¥8,800+28.9%
福岡・博多駅(博多区)1,790,000+12.6%500%8952,819¥9,200¥14,000+52.6%
札幌・大通(中央区)1,050,000+10.4%600%4382,362¥7,700¥13,600+77.2%
京都・京都駅(下京区)959,500+11.8%600%4002,324¥7,500¥14,600+93.5%
出典: 国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示 2025年1月1日時点、各商圏中心から半径約1.2km以内の商業地。地点数は千代田61・大阪北42・京都下京28・名古屋中村47・博多17・札幌中央21・仙台青葉44・広島中区33・那覇8・金沢13・岡山北20・宇都宮19)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ビジネスホテルの推定成約ADR、2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均。対象施設数は千代田64・大阪北54・京都下京113・名古屋中村64・博多132・札幌中央101・仙台青葉55・広島中区50・那覇105・金沢82・岡山北41・宇都宮41)。成立ADRは本稿の前提に基づく試算値。
12商圏の成立ADR と 実勢ADR(余裕度の小さい順)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)/e-Stat「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」

12商圏すべてで実勢ADRが成立ADRを上回った。ただし余裕度は+8.0%から+93.5%まで、およそ12倍の開きがある。京都・京都駅(+93.5%)、札幌・大通(+77.2%)、福岡・博多駅(+52.6%)は、現在の単価水準に対して建設費・土地代がまだ低く、厚い余裕を持つ。反対に東京・千代田(+8.0%)と宇都宮・宇都宮駅(+9.8%)は成立ラインとの距離が1割前後にとどまり、前提が少し動くと計算が変わる位置にある。

東京・千代田の余裕度が薄いのは、単価が低いからではない。実勢ADR16,100円は12商圏で最も高い。一方で商業地公示地価の中央値が851万円/㎡と突出しており、容積率800%を織り込んでも土地費が1室2,659万円と建設費(1,603万円)を上回る。都心では「どの街を選ぶか」より「同じ街の中でどの用地を選ぶか」が事業性を決める構図になる。宇都宮のケースは逆で、土地費は1室96万円と極めて軽いが、建設費と実勢ADRの水準差が小さい。いずれも成立圏内にはあるが、余裕の作られ方がまったく異なる。

感度分析 — 建設費±20%は金利±0.5ptの約2.5倍効く

前提を動かして頑健性を見る。建設費を±20%、借入金利を±0.5ポイント(1.75%/2.25%/2.75%)動かし、12商圏のうち何商圏が成立圏にとどまるか、また余裕度の中央値がどう変わるかを2軸で示す。

表4|感度分析① 建設費 × 借入金利 — 必要NOI利回りと成立商圏数への影響
建設費 \ 借入金利1.75%
必要NOI利回り3.85%
2.25%(基準)
同4.08%
2.75%
同4.32%
建設費 −20%12商圏成立
余裕度中央値 +57.5%
12商圏成立
+48.7%
12商圏成立
+40.6%
建設費 基準12商圏成立
+32.4%
12商圏成立
+25.0%
12商圏成立
+18.2%
建設費 +20%11商圏成立
+14.2%
9商圏成立
+7.8%
7商圏成立
+1.9%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。ローンコンスタントは償還25年・元利均等、必要NOI利回り=ローンコンスタント×DSCR1.3×LTV60%で算出。

読み取れることは明快だ。基準ケースから金利を0.5ポイント上げると余裕度の中央値は+25.0%から+18.2%へ6.8ポイント下がるのに対し、建設費を20%上げると+25.0%から+7.8%へ17.2ポイント下がる。建設費の振れは金利0.5ポイントの約2.5倍の重みを持つ。建設インフレが年5%前後で続く局面では、金利の見通しよりも施工単価の固め方が事業性を左右する。

建設費+20%・金利2.75%という最も厳しい組み合わせでは、7商圏が成立圏にとどまり、5商圏が成立ラインを下回る。下回るのは東京・千代田(−5.8%)、大阪・梅田(−2.6%)、仙台・仙台駅(−4.3%)、岡山・岡山駅(−7.8%)、宇都宮・宇都宮駅(−12.8%)である。いずれも距離は1割前後にとどまり、後述する打ち手で埋められるレンジにある。

表5|感度分析② 建設費 × 稼働率前提 — 成立商圏数への影響
建設費 \ 稼働率前提77%82%(基準)87%
建設費 −20%12商圏成立12商圏成立12商圏成立
建設費 基準12商圏成立12商圏成立12商圏成立
建設費 +20%7商圏成立9商圏成立11商圏成立
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。稼働率は試算の前提値であり実測値ではない。

3シナリオでの通し評価

建設費・金利・稼働率はそれぞれ単独で動くわけではない。3つを同じ方向に振り切った場合の成立ADRと成立商圏数を、上と同じ試算モデルで通して置くと次のようになる。悲観ケースでは成立商圏が12から3へ落ち、成立ADRの中央値は基準の7,700円から10,100円へ約31%上がる。楽観ケースでは中央値5,700円まで下がり、12商圏すべてで実勢ADRが成立ADRを上回る。

表6|3シナリオ(悲観・中位・楽観)での成立ADRと成立商圏数
シナリオ前提の置き方必要NOI利回り総投資中央値
(万円/室)
成立ADR
中央値
同・12商圏レンジ成立商圏
悲観建設費 +20%/金利 2.75%/稼働率 77%(2026年時点の試算前提値)4.32%2,749万円¥10,100¥8,800〜¥18,2003/12
中位(基準)建設費 ±0/金利 2.25%/稼働率 82%(2026年時点の試算前提値)4.08%2,364万円¥7,700¥6,600〜¥14,90012/12
楽観建設費 −20%/金利 1.75%/稼働率 87%(2026年時点の試算前提値)3.85%1,979万円¥5,700¥4,700〜¥12,10012/12
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。上の感度分析と同一の試算モデル(ローンコンスタント×DSCR1.3×LTV60%で必要NOI利回りを算出し、成立ADR=総投資額×必要NOI利回り÷(稼働率×365日×0.42))による。建設費・金利・稼働率はいずれも試算前提値であり実測値ではない。成立商圏は成立ADRが2025年9月〜2026年8月の実勢ADR(推定成約ADR12ヶ月平均)以下となる商圏数。

実務上の意味は、悲観ケースに耐えるかどうかで用地の絞り込みが決まるという点にある。余裕度が+50%を超える京都・札幌・福岡は悲観ケースでも成立側に残る一方、余裕度が一桁の東京千代田は中位ケースでようやく成立する水準で、建設費と金利のどちらかが振れた時点で計画の組み直しが必要になる。

稼働率も効く。建設費が20%上振れした状態でも、稼働率の前提を82%から87%へ5ポイント引き上げると成立商圏は9から11に戻る。成立ADRの中央値で見ると、稼働率77%で8,175円、82%で7,676円、87%で7,235円(いずれも建設費±0・借入金利2.25%の基準ケース、2025年9月〜2026年8月の実勢ADRとの比較。稼働率は3水準とも試算前提値)となり、5ポイントあたり約450〜500円の差が出る。建設費が固まってしまった後でも、開業初期の立ち上がり速度を高めることは残された打ち手になる。新規開業の単価回復ペースについては新規開業ホテルのADR回復は中央値2ヶ月|182軒実測と事業計画への織り込み方で実測している。

商圏マップ — 余裕度の厚い街と、立地選定が効く街

12商圏の成立余裕度(円のサイズ=余裕度)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)
余裕度 +50%以上(3商圏)
京都・京都駅 +93.5%/札幌・大通 +77.2%/福岡・博多駅 +52.6%。実勢ADRが13,600〜14,600円と高い一方、土地費が1室400〜900万円に収まる。建設費が20%上振れし金利が2.75%になっても成立圏を維持する。
余裕度 +20〜50%(4商圏)
金沢 +28.9%/那覇 +26.8%/名古屋・名駅 +25.5%/広島・紙屋町 +24.6%。地価水準が中位で、単価も相応に取れている中庸ゾーン。前提が1段階厳しくなっても成立ラインを保つ。
余裕度 +20%未満(5商圏)
仙台 +17.7%/大阪・梅田 +17.3%/岡山 +15.6%/宇都宮 +9.8%/東京・千代田 +8.0%。新築の標準前提では余裕が薄い。用地の選び方、既存建物の活用、客室原単位の設計で距離を詰める領域。

成立ADRまでの距離を詰める3つの打ち手

余裕度が薄い商圏に対しては、単価が上がるのを待つ以外にも取れる方向がある。試算の構造からそのまま導ける打ち手が3つある。

① 同一商圏内での用地選定

東京・千代田では土地費が総投資の58%を占める。商圏中央値851万円/㎡ではなく、同じ商圏内の下位帯(同範囲の最低地点は172万円/㎡)に近い用地であれば、1室あたり土地費は2,659万円から大きく下がる。都心では商圏の選択より用地の選択のほうが効き方が大きい。

② 客室原単位の設計

客室原単位を25.0㎡から20.0㎡へ絞ると、建設費とソフトコスト、そして容積率経由で土地費も同時に20%下がる。宿泊特化型の観測中央値が16.5㎡であることを踏まえれば、設計段階でまだ調整余地がある。逆に上級化を狙うなら、原単位の増加分を単価で回収できるかを先に検証しておく。

③ 改装・コンバージョンという別解

新築の建設費が坪195万円まで上がった局面では、既存建物を活かす選択肢の相対的な有利さが増している。宇都宮市池上町の300室・延床13,000㎡の計画も改築として届け出られている。躯体を再利用できれば建設費側の負担が軽くなり、成立ADRは大きく下がる。

改装と新築の分岐点については建設費高騰時代の新セオリー:改装投資が新築を凌駕する境界線で投資単価の比較を行っている。また、建設費の上昇は事業計画上の負担であると同時に、新規参入を抑制する要因でもある。既存ストックの側から見れば、参入コストの上昇は中期的な需給の引き締まりにつながるアップサイド要因として読める。

まとめ — 数字を持ち帰るための4点

表7|本稿の主要数値サマリー
論点数字
1室あたり建設費宿泊特化型 約870万円/シティ・アッパーミッド 約2,480万円/リゾート・上級 約7,140万円(2024年RC造単価・土地代を含まない建物本体)
坪単価2024年 全国全構造 195.5万円/坪(2,836棟)。木造123.4/S造165.0/RC造173.8/SRC造325.1。2022年比+41.1%
客室原単位宿泊特化型16.5㎡(N=16)/シティ47.1㎡(N=18)/リゾート135.8㎡(N=18)。全52件の中央値は48.9㎡
成立ADR12商圏で6,600〜14,900円。実勢ADRとの余裕度中央値は+25.0%。建設費+20%かつ金利2.75%では7商圏が成立圏

ホテル建設費を1つの数字で語ろうとすると、必ずどこかで実態から外れる。坪単価は構造で2.6倍、地域で4.5倍動き、1室あたりに直すと業態で8.2倍動く。事業計画に落とすときは、①どの業態か(客室原単位)、②どの構造か(㎡単価)、③どの地域・どの用地か(地価と容積率)の3つを順に固めてから、金利と稼働率で感度を見る。この順序を踏めば、「1室いくら」という問いには十分な精度で答えが出る。

試算の性質について:本稿の成立ADRは、公表統計と公開価格データに一定の前提を置いて算出した簡易試算です。実際の投資判断には、対象用地の個別条件を踏まえた詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。また建設費・地価・金利はいずれも調査時点の値であり、今後変動します。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

国土交通省「建築動態統計調査(建築着工統計調査)」統計ID 0003114547(用途「52宿泊業用」/2019〜2024年/全国・都道府県別・構造別、2024年は2,836棟)。建築計画データ52件(主用途がホテル単独で、計画客室数と延床面積の双方が判明するものに限定)。12商圏のビジネスホテル推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均、対象施設N=41〜134)。国土交通省 不動産情報ライブラリ 地価公示(2025年1月1日時点・商業地、各商圏中心から半径約1.2km以内、地点数8〜61)。

■ 試算前提

1室あたり延床面積25.0㎡、建設単価は2024年RC造㎡単価に建設インフレ想定+22%を乗じた水準、ソフトコスト(設計監理・開業前費用等)を建設費の20%。運営側はGOP率45%、FF&E積立を売上の3%、稼働率82%(2026年時点の試算前提値、感度分析77〜87%)。資金調達は借入金利2.25%(同1.75〜2.75%)・償還25年元利均等・LTV60%・DSCR1.3。必要NOI利回り=ローンコンスタント×DSCR×LTVで基準ケース4.08%(金利1.75%で3.85%、2.75%で4.32%)。成立ADR=総投資額×必要NOI利回り÷(稼働率×365日×0.42)。余裕度=実勢ADR÷成立ADR−1。

■ 限界・留意点

建設費は着工統計の工事費予定額ベースであり、実際の請負金額や竣工時の精算額とは異なる。客室原単位は計画時点の延床面積÷計画客室数で、客室そのものの面積ではなく廊下・ロビー・バックヤードを含む。稼働率・GOP率・金利はいずれも本稿の試算前提値であり実測値ではなく、個別案件の採算を保証するものではない。実勢ADRはOTA公開価格に業態別補正を適用した推定成約単価(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値約7%)で、会計上の実績ADRとは異なる。地価は公示地価であり実際の取得価格ではないため、用地の希少性や競合状況によって上下する。

■ 政府統計・公的データ

■ 市場データ

■ 建設コスト・市場レポート

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