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駅の乗降客1万人あたり客室数、中央値20室 — 出店余地が残る全国20駅【2026】

投稿日 : 2026.09.11

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投資・開発

駅の乗降客1万人あたり客室数、中央値20室 — 出店余地が残る全国20駅【2026】

ホテル用地の一次スクリーニングでは、いまも「駅から徒歩何分か」が最初の物差しになる。だが同じ徒歩5分でも、1日3万人が使う駅と66万人が使う駅では背後にある人の量がまったく違う。本稿は距離をいったん脇に置き、駅そのものの大きさ(乗降客数)を分母にした供給密度=「乗降客1万人あたり客室数」という原単位で、全国の鉄道結節点を横断的にスクリーニングした。国土交通省 不動産情報ライブラリの駅別乗降客数(令和5年度)と、OTA上で販売が確認できる全国24,518施設・1,408,537室の在庫を突き合わせている。

既刊との線引きを先に示す。駅からの距離と単価の関係を測った既刊は駅からの距離とADRの関係を扱ったもので、本稿は距離を一切使わない。「スマートIC事業中50箇所、10km圏の客室は中央値1,130室」は高速道路インターチェンジを結節点として扱った。同じ「乗降客あたり客室ストック」を扱った「1日10万人の駅に客室は何室あるか — 主要43駅」は対象を大規模ターミナルに絞ったもので、本稿は乗降客2万人以上の全国1,033結節点まで母集団を広げ、昼夜比という機能軸を加えている。「立川・八王子・町田のホテル37軒4,160室」は多摩という特定サブリージョンの深掘りである。本稿はそのいずれでもなく、全国の鉄道駅を同一の原単位で並べる横断スクリーニングにあたる。

本記事における指標の定義

  • 乗降客1万人あたり客室数(本稿の原単位):ある鉄道結節点の半径1km圏にある客室数 ÷(1日あたり乗降客数 ÷ 10,000)。値が小さいほど、鉄道の需要規模に対して客室ストックが薄いことを示す。乗降客数は国土交通省 不動産情報ライブラリ「駅別乗降客数(令和5年度)」の値。
  • 従業者1万人あたり客室数:同じ半径1km圏の客室数を、圏内の従業者数(経済センサス)で正規化したもの。乗降客数に含まれる通過・通勤の影響を受けにくい第二の軸として併用する。
  • 昼夜比:半径1km圏の従業者数 ÷ 同圏の居住人口(250mメッシュ推計、2025年)。1.0以上を「来訪型(人を受け入れる駅)」、1.0未満を「通勤送出型(人を送り出す駅)」として扱う。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査/国土交通省 国土数値情報
対象結節点
1,033
乗降客2万人以上の駅を500m以内で統合
原単位の全国中央値
20.4
乗降客1万人あたり・半径1km
来訪型の中央値
410.2
昼夜比1.0以上・N=174
通勤送出型の中央値
25.2
昼夜比1.0未満・N=234
受け皿余地の抽出
20
二軸とも中央値を下回る結節点
Key Takeaways
  • 全国1,033結節点の中央値は20.4室/乗降客1万人。四分位は0.0室〜129.1室と極端に散らばり、都市規模帯ではこの散らばりを説明できない。
  • 効いているのは駅の機能。昼夜比1.0で切ると来訪型410.2室・通勤送出型25.2室と16.3倍の差が生じ、その差は4つの都市規模帯すべてで成立する。
  • 二軸とも中央値を下回る来訪型は20結節点。うち18は半径を1.5kmに広げても薄いままで、横浜(16.8室)・高田馬場(7.9室)・新木場(9.6室)が代表例。
  • 供給の薄さは需要の弱さではない。抽出20結節点の所在18市区は2026年7月の推定稼働率が98.3〜99.5%で、既存客室は売れ残っていない。
  • スクリーンの強度で候補数は15〜86結節点に動く。単一軸では86、二軸では20まで絞られるため、原単位は単独の判定基準ではなく候補リストに足す一列として使う。

なぜ距離ではなく需要規模で切るのか — 原単位の作り方と母集団

やり方はきわめて素朴である。まず不動産情報ライブラリの駅別乗降客数(令和5年度)を全国から取得した。同データは事業者・路線ごとにレコードが分かれており、共同使用駅では同じ人数が複数事業者に重複計上される。そこで駅グループコード単位に束ね、重複コードが付いたレコードを除いたうえで事業者ごとの実数を合算した。全国9,075駅グループのうち、令和5年度の乗降客数が記載されているのは7,628駅である。

このうち1日あたり乗降客数2万人以上を1,163駅抽出し、中心が500m以内にある駅どうしを一つの「結節点」として統合した。梅田のように事業者ごとに駅名が分かれているケースを1点にまとめるためで、結果として1,033結節点になる。乗降客数は統合後の合算値、座標は乗降客数で加重した重心を用いた。

分子となる客室ストックは、OTA上で直近に販売が観測されている施設に限った。所在地情報のある24,518施設・1,408,537室が対象で、客室数が未登録の19施設は施設数には数えるが客室数には加えていない。旅館業の許可施設数(全国98,338施設)との差は、OTAに掲載されていない簡易宿所や休止中の施設が含まれないことによる。半径1kmを主指標、1.5kmを感度確認として、各結節点の中心からの直線距離で客室を集計した。1km圏に入った施設は延べで数えると重複するため、ユニークでは5,307施設・676,042室が本稿の分子に登場している。

この原単位が答えられること・答えられないこと。乗降客数は鉄道利用の規模であって、宿泊需要そのものではない。したがって原単位が低い=ただちに出店余地がある、とは読めない。以下では、就業データと居住人口を使って駅の機能を切り分けたうえで、価格と稼働の面からも余地が裏づくかを確認していく。

都市規模帯で切ると、順序が直感と逆になる

まず定石どおり、三大都市圏中枢(東京23区・大阪市・名古屋市)/政令指定都市/県庁所在地/その他の4帯に分けて中央値と四分位を出した。ここでいう政令指定都市は三大都市圏中枢を除く18市、県庁所在地はそれ以外の県庁所在地31市を指す。

都市規模帯別 — 乗降客1万人あたり客室数(第1四分位〜第3四分位のレンジと中央値)
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(駅別乗降客数・令和5年度)(N=1,033結節点)
都市規模帯別の乗降客1万人あたり客室数。三大都市圏中枢・政令指定都市・県庁所在地・その他の4帯について、1km圏の施設数・客室数と四分位、1.5km圏の中央値、1km圏に客室を持たない結節点数を示す。
都市規模帯結節点数1km圏
施設数(延べ)
1km圏
客室数(延べ)
Q1中央値Q31.5km圏
中央値
1km圏に
客室ゼロ
三大都市圏中枢3745,417838,7250.057.5295.9132.896
政令指定都市2573,397392,5390.04.6104.022.6108
県庁所在地2543546,848135.9568.2827.0653.63
その他377994113,4700.011.359.521.9156
Q1・中央値・Q3はいずれも「乗降客1万人あたり客室数(室)」。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(駅別乗降客数・令和5年度)

結果は直感と逆になる。もっとも原単位が高い、つまり鉄道の需要規模に対して客室が厚いのは県庁所在地(中央値568.2室)であり、もっとも薄いのは政令指定都市(同4.6室)だった。三大都市圏中枢は57.5室、その他は11.3室である。都市が大きいほど客室が厚い、という関係はまったく成立していない。

四分位の幅を見ると理由が見えてくる。三大都市圏中枢はQ1が0.0室、Q3が295.9室と、同じ帯のなかで両極に散らばっている。政令指定都市も同様にQ1は0.0室で、257結節点のうち108が半径1km圏に客室を持たない。一方の県庁所在地は25結節点のうち客室ゼロが3にとどまり、Q1でも135.9室ある。つまり都市規模帯は、駅の性格がばらつく容れ物にすぎない。大都市圏には中心業務地の駅と住宅地の駅が同居しており、両者を同じ帯で平均すると打ち消し合ってしまう。県庁所在地には比較対象となる住宅地の大駅がそもそも少ないため、中心駅だけが残って高い値が出る。

効いているのは駅の機能 — 昼夜比で切ると16倍の差が出る

そこで、駅の機能で切り直す。半径1km圏の従業者数(経済センサス)を同じ圏の居住人口(250mメッシュ推計・2025年)で割った昼夜比を使い、1.0以上を「来訪型(人を受け入れる駅)」、1.0未満を「通勤送出型(人を送り出す駅)」とした。就業データの収録がない結節点は判定から外し、鉄道・就業の両面で一定規模のある結節点(乗降客3万人以上かつ圏内従業者1.5万人以上)に絞ると、来訪型174・通勤送出型234が残る。

昼夜比(従業者数÷居住人口) × 乗降客1万人あたり客室数 — 対数目盛・N=363結節点
1km圏の客室数がゼロの45結節点(来訪型1・通勤送出型44)は対数目盛のため非表示。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査/国土交通省 国土数値情報

中央値は来訪型410.2室に対し通勤送出型25.2室で、16.3倍の開きがある。都市規模帯で出た4.6室〜568.2室という散らばりは、帯そのものの差ではなく、帯のなかに含まれる来訪型と通勤送出型の混ざり方の差だったことになる。実際、機能で切った差はすべての帯で成立している。

都市規模帯ごとに来訪型・通勤送出型へ切り分けたときの乗降客1万人あたり客室数の中央値と倍率。乗降客3万人以上かつ1km圏従業者1.5万人以上の結節点に限定。
都市規模帯来訪型
結節点数
来訪型
中央値
通勤送出型
結節点数
通勤送出型
中央値
倍率
三大都市圏中枢105347.712639.38.8倍
政令指定都市40451.24012.137.3倍
県庁所在地8649.54469.41.4倍
その他21204.26424.48.4倍
中央値は「乗降客1万人あたり客室数(室)」。乗降客3万人以上かつ1km圏従業者1.5万人以上の結節点に限定(N=408、うち就業データ収録あり)。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査

もう一つ、分布の上端にも意味がある。原単位が最も高いのは札幌のすすきの(5,531.8室)、大阪の長堀橋(4,178.9室)、福岡の中洲川端(3,764.5室)、名古屋の丸の内(3,422.0室)といった繁華街の地下鉄駅である。いずれも乗降客数は3万〜5万人台と中規模だが、1km圏には1万室前後が集まる。宿は鉄道の結節点ではなく歓楽・飲食の集積に寄って立地しており、鉄道規模を分母にすると極端に高い値が出る。原単位を横並びで読むときは、この繁華街型が上端に来る構造をあらかじめ織り込んでおきたい。

受け皿余地が残る20結節点 — 二軸とも中央値を下回る駅

来訪型174結節点のうち、乗降客1万人あたり客室数(中央値410.2室)と従業者1万人あたり客室数(中央値416.7室)の両方が中央値を下回る結節点を抽出した。乗降客数だけで見ると、通過・乗換の多い巨大ターミナルが機械的に上位へ来てしまう。そこで昼間の業務需要を直接測る従業者数を第二の分母に置き、両軸で薄い結節点だけを残している。両軸の相対値の合計が小さい順に、三大都市圏中枢とそれ以外に分けて上位10ずつを示す。

表A:三大都市圏中枢(東京23区・大阪市・名古屋市)

三大都市圏中枢(東京23区・大阪市・名古屋市)で二軸とも中央値を下回った上位10結節点。乗降客数・従業者数・昼夜比・客室数と、所在市区の推定成約ADR・推定稼働率を併記。
#結節点1日あたり
乗降客数
1km圏
従業者数
昼夜比1km圏
客室数
乗降客1万人
あたり客室数
従業者1万人
あたり客室数
1.5km圏の
原単位
推定成約ADR
2026年7月
推定OCC
2026年7月
1鶴舞
名古屋市中区
67,62444,9711.247
2施設
7.010.5626.8
解消
¥8,534
N=87
98.4%
2中目黒
目黒区
363,72463,6991.14386
6施設
10.660.662.8
維持
¥16,024
N=10
99.5%
3豊洲
江東区
235,98786,2431.35553
3施設
23.464.182.4
維持
¥12,201
N=39
99.0%
4表参道
港区
168,791188,9386.34843
7施設
49.944.6211.6
維持
¥15,138
N=132
98.7%
5目黒
品川区
636,63285,6151.35762
5施設
12.089.038.1
維持
¥11,535
N=35
99.5%
6高田馬場
新宿区
783,54363,4571.04620
5施設
7.997.717.7
維持
¥13,259
N=99
99.1%
7市ヶ谷
千代田区
311,646149,6413.261,172
9施設
37.678.3158.5
維持
¥13,860
N=80
99.3%
8恵比寿
渋谷区
340,535106,7781.91,068
8施設
31.4100.069.5
維持
¥22,030
N=34
99.1%
9外苑前
港区
72,412107,8394.47567
4施設
78.352.6364.2
維持
¥15,138
N=132
98.7%
10新木場
江東区
282,48121,61648.68272
3施設
9.6125.89.6
維持
¥12,201
N=39
99.0%
乗降客数=国土交通省 不動産情報ライブラリ「駅別乗降客数(令和5年度)」。従業者数=総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査。昼夜比=1km圏従業者数÷同圏居住人口(国土交通省 国土数値情報 250mメッシュ別将来推計人口・2025年推計)。ADRおよびOCCはメトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定値、Nは推定成約ADRの算出対象施設数)。ADR・OCCは駅ではなく所在市区単位の値。

表B:政令指定都市・県庁所在地・その他

政令指定都市・県庁所在地・その他で二軸とも中央値を下回った上位10結節点。列の定義は表Aと同じ。
#結節点1日あたり
乗降客数
1km圏
従業者数
昼夜比1km圏
客室数
乗降客1万人
あたり客室数
従業者1万人
あたり客室数
1.5km圏の
原単位
推定成約ADR
2026年7月
推定OCC
2026年7月
1南船橋
千葉県船橋市
43,35622,2301.020
0施設
0.00.023.1
維持
¥9,283
N=13
99.5%
2横川
広島市西区
30,65432,5391.0494
4施設
30.728.946.6
維持
¥6,707
N=5
98.3%
3横浜
横浜市西区
1,961,481158,6713.633,288
17施設
16.8207.221.3
維持
¥20,257
N=17
98.5%
4立川
立川市
373,57662,2331.671,436
14施設
38.4230.738.4
維持
¥9,919
N=17
99.1%
5刈谷
愛知県刈谷市
79,66041,9203.69773
7施設
97.0184.497.0
維持
¥5,880
N=8
98.8%
6千葉みなと
千葉市中央区
49,56653,3572.23769
5施設
155.1144.1467.9
解消
¥8,878
N=35
98.3%
7大宮
さいたま市大宮区/新幹線停車
660,53798,0092.792,659
13施設
40.3271.347.1
維持
¥8,601
N=17
98.8%
8小田原
神奈川県小田原市/新幹線停車
168,78323,1171.34721
13施設
42.7311.942.8
維持
¥8,040
N=15
99.3%
9江坂
大阪府吹田市
98,85154,2771.071,393
8施設
140.9256.6140.9
維持
¥7,934
N=9
99.4%
10八王子
八王子市
199,41748,2761.171,612
12施設
80.8333.980.8
維持
¥8,304
N=12
99.1%
同上。「維持」「解消」は半径を1.5kmに広げても原単位が来訪型中央値(410.2室)を下回るかどうか。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査/国土交通省 国土数値情報
抽出20結節点 — 半径1km と 1.5km の原単位比較(乗降客1万人あたり客室数)
破線は来訪型174結節点の中央値410.2室。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(駅別乗降客数・令和5年度)

1.5kmまで広げても薄いのはどこか — 感度確認

半径1kmという切り方は、隣接する集積を切り落とす。そこで1.5kmでも同じ計算を行い、来訪型中央値を上回るまで回復するかを確認した。20結節点のうち18が1.5kmでも中央値を下回ったままで、回復したのは名古屋市の鶴舞(7.0室→626.8室)と千葉市の千葉みなと(155.1室→467.9室)の2つだけである。鶴舞は1.5km圏に栄の客室集積が入り、千葉みなとは千葉駅周辺の集積が入るため、1km圏の薄さは「隣に厚い集積がある」ことの裏返しだった。

1km・1.5kmとも薄い(受け皿余地が明確)

横浜(16.8室→21.3室)大宮(40.3室→47.1室)高田馬場(7.9室→17.7室)新木場(9.6室→9.6室)など。半径を広げても供給が積み上がらず、鉄道規模に対する受け皿余地が構造的に残っている。

徒歩圏だけが薄い(隣接集積が受け止めている)

鶴舞(7.0室→626.8室)千葉みなと(155.1室→467.9室)。1.5km圏で中央値を大きく超えるため、駅前立地の希少性はあっても商圏全体としては供給が行き渡っている。

就業集積が突出するタイプ

表参道(昼夜比6.34)外苑前(同4.47)市ヶ谷(同3.26)。乗降客数はさほど大きくないが昼間人口が厚く、従業者を分母にした原単位で薄さが出る。出張・業務需要の受け皿という読み筋になる。

横浜の内訳は象徴的である。1日196万人という国内屈指の乗降客数を持ちながら、半径1km圏の客室は17施設3,288室にとどまる。1.5kmまで広げても4,171室で、原単位は21.3室と来訪型中央値の20分の1程度である。みなとみらい方面の大型施設は駅の重心から1.5kmを超えて分布しており、横浜駅そのものの徒歩圏は、鉄道規模から想定される水準に対してまだ受け皿の余地が大きいと読める。大宮も同様で、新幹線が停車し1日66万人が使う結節点でありながら1km圏は13施設2,659室、1.5kmでも3,109室である。

スクリーンの強度で候補は何結節点になるか — 二軸の感度

ここまでの抽出は「昼夜比1.0以上」かつ「乗降客・従業者の二軸とも中央値未満」という一組のしきい値で行っている。しきい値の置き方で候補の数と顔ぶれがどれだけ動くかを、来訪型と判定した173結節点(客室ゼロの1結節点は対数集計から除外)で確認した。以下はいずれも本稿の集計値からの再計算であり、新たな需要予測を置いたものではない。

スクリーン強度別の候補ポートフォリオ

来訪型173結節点を対象に、昼夜比と乗降客1万人あたり客室数の二つのしきい値を動かしたときの候補群の規模。加重原単位は候補群の合計客室数を合計乗降客数(万人)で割った値。
スクリーン昼夜比乗降客1万人あたり
客室数
候補
結節点数
合計
乗降客数
合計
客室数
候補群の
加重原単位
悲観(絞り込み重視)1km圏の昼夜比3.0以上102.5室未満1515,279,40478,84351.6室
中位(本稿の基準に近い)同1.5以上205.1室未満4027,959,918206,52873.9室
楽観(幅広く拾う)同1.0以上410.2室未満8637,530,959366,79397.7室
しきい値の102.5室・205.1室・307.6室・410.2室は来訪型中央値410.2室の25%・50%・75%・100%にあたる水準。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(駅別乗降客数・令和5年度)/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査(N=173結節点)

絞り込みを強めると候補は15結節点まで減り、候補群の加重原単位も51.6室と低くなる。逆に幅広く拾うと86結節点・36万室規模の母集団になるが、加重原単位は97.7室まで上がって「薄さ」の切れ味は鈍る。本稿が20結節点まで絞れているのは、乗降客だけでなく従業者を第二の分母に置いた二軸のAND条件を使っているためで、乗降客の一軸だけで中央値未満を取ると86結節点が残る。原単位は単独で候補を確定させる指標ではない。

二軸しきい値マトリクス — 該当する来訪型結節点数

縦軸に乗降客1万人あたり客室数の上限、横軸に昼夜比の下限を置いたときに両条件を満たす来訪型結節点の数。右下ほど条件が厳しい。
乗降客1万人あたり客室数\昼夜比1.0以上
母数173
1.5以上
母数135
2.0以上
母数110
3.0以上
母数75
5.0以上
母数40
20.5室未満73332
102.5室未満372219158
205.1室未満6440352816
307.6室未満7549413217
410.2室未満8659503720
来訪型と判定した174結節点のうち、1km圏の客室数がゼロで対数集計から外れる1結節点を除いた173結節点が母数。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査/国土交通省 国土数値情報

マトリクスを縦に読むと、昼夜比のしきい値を1.0から3.0へ上げても、原単位が20.5室未満の極端に薄い結節点は7から3にしか減らない。最も薄い層は昼間人口の厚い駅にそのまま残るということで、この層は就業需要の受け皿としての読み筋がぶれにくい。一方、原単位205.1室未満の層は64から28へ半減以下になり、しきい値の置き方に敏感である。用地の一次スクリーニングとして使うなら、極端に薄い層はしきい値を問わず候補に残し、中間層は昼夜比とセットで扱うのが実務的だろう。

価格と稼働から余地は裏づくか — 推定成約ADRと推定稼働率

供給が薄いことは、それだけでは投資機会を意味しない。需要が弱いために供給が積み上がっていない可能性があるからだ。そこで抽出20結節点の所在市区について、2026年7月の推定成約ADRと推定稼働率を確認した。

抽出20結節点の所在市区 — 推定成約ADR(2026年7月・18市区)
推定成約ADRは各施設のOTA公開最安プラン水準に業態別補正係数を適用した推定値(税抜相当)。破線は18市区の中央値。出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

推定稼働率は18市区すべてが98.3〜99.5%のレンジに収まった。OTA上に出された在庫が7月時点でほぼ消化されている状態で、市区間の差はほとんどつかない。過去月の推定稼働率は在庫の取り下げも含めて上振れするため、この指標は市区の優劣を測る物差しとしては使えない。一方で、抽出したどの市区でも既存の客室が売れ残ってはいないことは確認できる。供給が薄いのは需要が弱いからではない、という点は押さえられる。

価格面では市区によって水準がはっきり分かれる。渋谷区22,000円(N=34施設)、横浜市西区20,300円(N=17施設)、目黒区16,000円(N=10施設)が上位で、刈谷市5,900円(N=8施設)、広島市西区6,700円(N=5施設)が下位にあたる。前年同月比では横浜市西区が+12.3%、目黒区が+18.9%、船橋市が+15.6%と伸びており、薄い供給と上昇する単価が重なっている市区が存在する。逆にさいたま市大宮区は−17.4%、吹田市は−16.3%と前年から水準を下げており、同じ「原単位が低い」でも価格の追い風の有無は分かれる。用地取得の優先順位を付けるなら、原単位・従業者密度に加えてこの単価トレンドを重ねるのが実務的だろう。

来訪型174結節点の地理的な広がり

来訪型と判定した174結節点を、原単位の水準で色分けして地図に落とした。円の大きさは1日あたり乗降客数、色は乗降客1万人あたり客室数の水準を示す。濃い青ほど原単位が低く、鉄道規模に対する受け皿余地が大きい結節点である。

出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(駅別乗降客数・令和5年度)/総務省・経済産業省 経済センサス-活動調査

分布を見ると、原単位が低い結節点は首都圏の環状方向と臨海部、および中京圏の工業都市に集まりやすい。逆に札幌・仙台・広島・福岡・那覇といった地方中枢都市の中心駅は、鉄道規模が中規模であるぶん原単位が高く出る。国際会議の開催が伸びている地方都市で客室ストックが議論になる局面でも、鉄道規模を分母にした原単位では地方中枢はむしろ厚い側に位置する、という点は覚えておきたい。

読み解く際の6つの注意

本稿の読み方について、指標の性格・データの限界・集計ルールに関する6つの論点と本稿での扱い。
論点本稿での扱い
乗降客数は宿泊需要ではない鉄道利用の規模を示すにすぎない。通勤主体の駅は原単位が低くて当然であり、そのままでは出店余地と読めない。本稿では昼夜比で来訪型・通勤送出型を切り分け、来訪型のみを抽出対象にしている。
乗換専用駅・新幹線単独駅の定義差駅別乗降客数は事業者ごとの計上であり、新幹線と在来線が別事業者の駅(東京・品川・大宮など)では新幹線分が別レコードになる。本稿は駅グループ単位で重複コードを除いて合算しているが、他社線への乗換のみで改札を出ない利用は事業者によって扱いが異なる。表A・表Bでは新幹線停車の有無を注記した。
就業データの未収録経済センサスの町丁字境界データは一部エリアが未収録で、事業所数ゼロが返る場合がある。これは就業ゼロではなくデータの欠損であるため、収録のない17結節点は機能判定と抽出から除外した(1,033結節点中1,016が判定可能)。なお、収録状況は結節点ごとに個別確認しており、京都市中心部については四条・京都河原町・三条を含めて収録が確認できた。
客室ストックの母集団OTA上で直近に販売が観測できる施設に限っており、OTAに掲載していない旅館・簡易宿所、社員寮・保養所は含まない。客室数が未登録の施設は客室数の集計から除外している。
半径1kmという切り方徒歩圏の目安として置いたもので、隣接する集積を切り落とす。1.5kmでの感度確認を必ず併記し、半径を広げると解消する結節点(鶴舞・千葉みなと)は明示した。
結節点の統合ルール中心が500m以内の駅を一つの結節点として統合した。都心部では日本橋・神田・御茶ノ水のように連鎖して広がる塊が生じるため、統合後の重心と実際の駅位置がずれる場合がある。

まとめ — 用地スクリーニングに原単位を一列足す

全国1,033結節点で見ると、乗降客1万人あたり客室数の中央値は20.4室、四分位は0.0室〜129.1室と極端に散らばる。この散らばりは都市規模帯では説明できず、駅の機能(昼夜比)で切ると来訪型410.2室・通勤送出型25.2室と16.3倍の差が現れ、しかもその差は4つの帯すべてで成立していた。用地の一次スクリーニングで乗降客数を使うなら、都市規模ではなく昼間人口の受け入れ量とセットで見るべき、というのが本稿の結論である。

そのうえで、乗降客数と従業者数の両方を分母にして薄い結節点を抽出すると20が残り、うち18は半径を1.5kmに広げても薄いままだった。横浜・大宮・高田馬場・新木場・立川・小田原・八王子・刈谷といった結節点は、鉄道と昼間就業の規模に対して受け皿の余地が構造的に残っている。既存の客室はOTA掲載在庫ベースで7月時点ほぼ消化されており、需要が弱いために供給が薄いわけではない。あとは用地の出方と単価トレンドを重ねて、どこから当たるかを決める段階になる。

本稿の原単位は、駅距離やエリアADRといった既存の物差しを置き換えるものではない。むしろ価格帯のホワイトスペース分析圏内客室ストックの積み上げと組み合わせて、候補地リストに一列足す使い方が向いている。

⚠ 推定値の取り扱いについて:本記事の客室数は調査時点でOTA上に掲載が確認できる施設の登録客室数を合計したものであり、掲載状況の更新により変動します。推定成約ADRおよび推定稼働率はいずれも推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。とくに過去月の推定稼働率は在庫の取り下げを含むため上振れする傾向があり、市区間の優劣の判定には用いていません。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

乗降客数は国土交通省 不動産情報ライブラリの駅別乗降客数(令和5年度)。全国9,075駅グループのうち乗降客数の記載がある7,628駅から1日2万人以上の1,163駅を抽出し、中心が500m以内の駅を統合して1,033結節点とした。客室ストックはOTA上で直近に販売が観測できる24,518施設・1,408,537室(所在地情報のあるもの)で、1km圏に入るユニークは5,307施設・676,042室。従業者数は経済センサス-活動調査、居住人口は国土数値情報 250mメッシュ別将来推計人口(2025年推計)。推定成約ADR・推定稼働率は所在市区単位・2026年7月時点の当社推計値。

■ 試算前提

乗降客1万人あたり客室数=半径1km圏の客室数÷(1日あたり乗降客数÷10,000)。半径は結節点重心からの直線距離で、1kmを主指標、1.5kmを感度確認とした。昼夜比=1km圏従業者数÷同圏居住人口とし、1.0以上を来訪型、1.0未満を通勤送出型とする。抽出は来訪型のうち乗降客・従業者の二軸とも中央値未満を満たす結節点で、両軸の相対値の合計が小さい順に並べた。感度分析の候補結節点数・合計値は同じ173結節点の実測値をしきい値ごとに再集計したもので、需要予測や新規開発計画を置いたものではない。

■ 限界・留意点

乗降客数は鉄道利用の規模であって宿泊需要そのものではなく、原単位の低さは単独では出店余地を意味しない。乗換のみで改札を出ない利用の扱いは事業者により異なり、新幹線と在来線が別事業者の駅では計上が分かれる。経済センサスの町丁字境界は一部エリアが未収録で、収録のない17結節点は機能判定と抽出から除外した(1,033中1,016が判定可能)。客室ストックはOTA非掲載の旅館・簡易宿所、社員寮・保養所を含まない。推定成約ADR・推定稼働率は推定値であり実際の成約価格・会計数値とは異なる。とくに過去月の推定稼働率は在庫の取り下げを含むため上振れし、市区間の優劣判定には用いていない。ADR・OCCは駅ではなく所在市区単位の値である。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — OTA掲載確認ベースの客室ストック(N=24,518施設・1,408,537室)、推定成約ADR、推定稼働率

■ 政府統計・公的データ

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