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70代旅行控え×60代『家計・ペット・介護』 — 二極化2024-2026で国内宿泊が変わる4つの構造

投稿日 : 2026.06.22

客層・セグメント分析

70代旅行控え×60代『家計・ペット・介護』 — 二極化2024-2026で国内宿泊が変わる4つの構造

日本の国内宿泊市場は、コロナ後の回復局面から「シニアの旅行控え」と「富裕シニアの高頻度旅行」という二極化のフェーズに入っている。公益財団法人日本交通公社(JTBF)が公表した「JTBF旅行意識調査」(2025年10月発表)によれば、60代で過去1年間に旅行をしなかった人が挙げる阻害要因の上位3つは、家計に余裕がない(27%)、ペットの世話(25%)、家族の介護(22%)と、いずれも生活の制約要因が並ぶ。一方で、令和7年版観光白書(2025年5月公表)は、70代以上の国内宿泊旅行経験率が2019年38.6%から2024年30.7%へ約8ポイント減少したと指摘している。本稿では、メトロエンジンリサーチが追跡する稼働中OTAホテル約27,000施設のADR・OCC構造と、宿泊者口コミ約140万件(直近12ヶ月)のタグ言及率を用いて、シニア需要の構造変化を4つの軸で読み解き、機会を整理する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):調査対象施設が公開している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります(REIT開示の成約ADRより平均+25〜30%高い傾向)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本記事では都道府県・カテゴリ単位の集計値のみ使用。
  • タグ言及率:宿泊者口コミの本文から自動抽出した79の意味タグについて、各期間の総レビュー件数に対する言及件数の比率。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ/JTBF旅行意識調査/観光庁「令和7年版観光白書」
Key Takeaways
  • — 60代の旅行阻害要因は家計27%・ペット25%・介護22%で上位3要因が約74%を占め、価格訴求では解消できない構造的制約となっている(JTBF 2025年10月公表)。
  • — 70代以上の国内宿泊旅行経験率は2019年38.6%→2024年30.7%へ約8ポイント減少(5年で2割減)と他世代を大きく上回る落ち込み(観光庁 令和7年版観光白書)。
  • — 旅館ADRはYoY+12.1%(¥38,047)、リゾートホテル+10.2%、貸別荘+15.4%と二桁上昇継続、一方シティホテルは-1.8%で二極化(2026年8月、N=旅館5,493ほか)。
  • — 口コミタグではprice_value(コスパ)+2.23pt と room_private_onsen(客室露天)約5倍が同時に伸び、価格志向と高単価志向の二層需要が定量確認された(直近12ヶ月N=140万件)。
  • — 機会は「行けない理由の除去」と「行く人の体験単価アップ」の二方向に分けて設計:ペット同伴・介護中の柔軟予約・客室露天やプレミアム食・3世代旅行の4施策が有効。

構造1:60代の旅行阻害要因は「家計・ペット・介護」で4分の3を占める

JTBFのJTBF旅行意識調査が示す60代の旅行阻害要因は、「家計に余裕がない」27%、「ペットの世話」25%、「家族の介護」22%の3項目だけで合計約74%に達する。これは20代・30代の若年層が挙げる「忙しくて時間がない」「面倒くさい」といった時間・志向の問題とは性質が異なり、生活基盤に組み込まれた構造的な制約と言える。同調査は2014年から2024年までの10年間で60代・70代の旅行実施率が大きく減少したと指摘しており、減少の主因は時間や意欲ではなく、世帯収支とライフステージの変化にある。

出典:JTBF「JTBF旅行意識調査」2024年実施分(2025年10月公表)よりホテルバンク編集部作成

注目すべきは、ペット飼育を阻害要因に挙げる60代が25%に達する点である。日本のペット飼育世帯は緩やかに高齢化しており、60代以降の飼育率は若年層を上回る。家族の一員としてのペットを預けることへの抵抗感は強く、これが宿泊旅行に対する物理的・心理的なハードルとして機能している。同時に、家族の介護を理由とする22%は団塊の世代の親世代(80代後半〜90代)が要介護期に入った構造変化の影響を直接受けている。家計制約・ペット・介護のいずれも、価格訴求や行先選定では解決できない「行けない理由」である。

構造2:70代以上の国内宿泊旅行経験率は5年で2割減少

令和7年版観光白書は、70代以上の国内宿泊旅行経験率がコロナ前の2019年38.6%から2024年30.7%へ約8ポイント減少したと公表している。30代〜60代の減少幅が数ポイントの微減に留まる中、70代以上だけが2割減少という顕著な落ち込みを示した。観光白書は減少の主因として「自分の健康上の理由」を挙げており、人口構造の高齢化により70代以上の中でも平均年齢が上昇し、80代・90代の身体的に旅行が困難な層の比率が拡大した影響が大きいと分析する。地方部の延べ宿泊者では国内客が9割弱を占める実態と合わせると、シニア旅行の縮小は地方の宿泊市場に対して構造的な圧力となる。

出典:観光庁「令和7年版観光白書」(2025年5月公表)よりホテルバンク編集部作成

つまり、シニア層の宿泊需要を構成する要素は「価格」だけでなく、「移動の負荷」「医療アクセス」「ペット同伴可否」「介護中の柔軟予約」といった生活制約への対応に拡張する必要がある。「シニア=価格訴求」という従来の図式は半分しか正しくなく、もう半分は「物理的・社会的バリアの除去」が需要創出の鍵となる。

構造3:シニア需要は分裂 — 旅館・リゾートホテルADRはYoY+10〜12%で上昇継続

シニア層が縮小したと言っても、宿泊単価ベースで見れば旅館・リゾート市場は堅調である。メトロエンジンリサーチが集計する全国カテゴリ別ADRを見ると、2026年8月の旅館は¥38,000(前年同月¥33,900、YoY+12.1%)、リゾートホテルは¥54,800(前年¥49,800、YoY+10.2%)、貸別荘は¥61,300(前年¥53,100、YoY+15.4%)と、シニア層の比率が相対的に高いカテゴリで二桁の上昇率を維持している。一方、若年層の比率が高いとされるシティホテルは¥28,200(前年¥28,700、YoY-1.8%)と、ほぼ横ばいで需要の伸びが鈍化している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年8月チェックイン、全プラン平均、N=旅館5,493/リゾート1,471/貸別荘3,607/シティ1,080)

この構造を補強するのが、星野リゾート・リート投資法人(3287)の運営データである。同社の2026年4月期実績はOCC79.3%、ADR¥21,600、RevPAR¥17,100で、前年同月比はOCC-2.0pt、ADR+0.3%、RevPAR-1.7%と微減傾向を示している。これは星野系運営の旅館・リゾート群が、コロナ後の高水準から一段の積み増しではなく「水準維持」のフェーズに入ったことを示唆する。一方、ビジネス・ミドル系のインヴィンシブル投資法人(8963)はOCC85.2%、ADR¥14,600、YoYでADR-3.1%、RevPAR-2.7%と、低単価帯で需給が緩む兆候が出ている。ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)はADR¥21,100、YoY+4.6%と外資ブランド主体で堅調を維持しており、業態別の分岐は鮮明である。

出典:各社REIT月次運営データ(2026年4月)よりホテルバンク編集部作成

つまり、シニア層全体の旅行頻度が下がっても、行く人は「これまでより高単価の旅館・リゾート」を選ぶ傾向が強まっており、消費単価の上昇が頻度減少を補っている。これは「アクティブシニアの減少」と「富裕シニアの単価アップ」が同時進行している現象であり、二極化はマクロ統計と業態別ADRの両面で確認できる。

構造4:口コミタグから読む — 「コスパ」「温泉」「露天風呂」「親孝行」が同時に伸びる二層需要

需要の二層化は、宿泊者口コミの言及内容にも現れている。メトロエンジンリサーチが集計した宿泊者口コミの意味タグ分析(直近12ヶ月N=140万件、前年同期N=200万件と比較)によると、「価格に対する満足」を表すprice_valueの言及率は前年13.97%から16.20%へ+2.23ポイント上昇し、価格意識の高まりが定量的に確認できる。同時に、ラグジュアリー旅館の代表指標である「客室内の露天風呂」を示すroom_private_onsenは0.09%→0.43%へ約5倍に拡大し、「温泉」を示すbath_onsenは11.65%→13.06%へ+1.40ポイント、「露天風呂」を示すbath_open_airは5.03%→5.81%へ+0.79ポイント上昇している。コスパ志向と高単価志向が同じ期間に伸びることは、別々のセグメントが同時拡大していることを示唆する。

出典:メトロエンジンリサーチ(宿泊者口コミ意味タグ解析、直近12ヶ月N=1,402,086/前年同期N=2,006,735)

ペット同伴の需要も具体的な数値として現れる。例えば栃木県の那須白河を拠点とするエンゼルフォレスト那須白河ではfacility_petの言及件数が383件・全レビュー中59.5%、千葉県九十九里のドゥカーレ ガーデンホテル 九十九里では379件・32.6%、静岡県浜名湖のわんわんパラダイス 浜名湖では345件・72.2%に達している。ペット可施設では飼い主層の旅行意欲が強く、稼働率を支える明確な顧客基盤が確認できる。60代の阻害要因2位「ペットの世話」に対する直接的な解として、ペット同伴受入は需要創出のレバーになっている。市場規模とADRプレミアムの定量分析はペット同伴可ホテル市場分析:1.9兆円市場が動かす平日リゾート需要とADR+14.8%プレミアムで詳しく取り上げている。

また、occasion_solo(一人旅)が前年3.32%から3.44%へ+0.12ポイント、occasion_family(家族)が5.71%から5.98%へ+0.27ポイント、occasion_long_stay(長期滞在)が4.12%から4.31%へ+0.19ポイントと、いずれもプラスで推移している。シニア層の「介護で長く家を空けられない一人旅」と、ファミリー世代の「親孝行旅行」が並行して伸びている可能性が高い。実際、occasion_elder_filial(親孝行)言及で上位の施設としては、栃木県・鬼怒川温泉のあさやホテル(31件、1.8%)、岐阜県・下呂温泉の水明館(29件、1.1%)、伊豆のアンダの森(25件、1.6%)といった老舗温泉旅館が並び、複数世代が同時に来訪する旅館型施設の需要が確認できる。親孝行旅行の予約パターンと高単価温泉旅館の関係については、母の日5/10×父の日6/21|親孝行旅行ニーズで読む高単価温泉旅館の予約パターンが背景を掘り下げている。

機会の整理 — 二極化を踏まえた4つの提案

以上の構造から、シニア需要の機会は次の4方向に整理できる。第一に、ペット同伴対応の拡張である。60代の25%がペットを阻害要因に挙げる中、施設側の対応は需要を直接創出する。第二に、介護中の柔軟予約への対応で、急な変更・キャンセル・短期前倒し予約への対応を緩めることで「行けない理由」を1つ消せる。第三に、富裕シニア向けの単価アップ余地である。客室内の露天風呂・特別食・送迎付きパッケージなど、口コミタグで急成長中のラグジュアリー要素を組み合わせ、旅館・リゾート系のADRをさらに伸ばす機会がある。第四に、ファミリー世代と同行する複世代型の旅行プランで、子・孫世代との3世代旅行を組成しやすい客室構成や食事メニューが鍵になる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

一方、シティホテル・ビジネスホテルなど都市型・低単価帯のカテゴリは、シニア需要に頼らず若年・インバウンドのほうへ販売構造をシフトすることが現実的である。シニア層を狙う意思があるなら、移動負荷の軽減(駅近・送迎・ワンフロア客室・バリアフリー客室)と医療アクセスの明示が必要になる。

まとめ — 二極化は「縮小」ではなく「分岐」

シニア層の旅行控えは、マクロ統計上の宿泊者数では確かに減少として現れる。しかし、その内部では「行けない人」と「より深く行く人」への分岐が進んでおり、行ける人の単価・頻度・体験志向はむしろ高まっている。旅館・リゾート・貸別荘のADRが2桁で伸び、客室内露天風呂や親孝行旅行が拡大している事実は、シニア需要が消えたのではなく、特定の体験軸に再集中していることを示す。客室規模と単価のもう一つの二極化軸については、2026年開業582軒で読み解く最適規模戦略|30室高ADRと300室規模効率の二極化も参考になる。施設側の取り組みは「価格を下げてシニアを呼ぶ」のではなく、「行けない理由を取り除く」「行く人の体験単価を上げる」の二方向に分けて設計するのが現実的だろう。家計・ペット・介護を抱えながらも旅行を諦めたくない60代と、健康と余裕の両方を保持する60代・70代の前半層、この2つの異なる需要に対して別々の商品設計が求められる時代に入っている。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年6〜8月のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で公開されている価格が直前値下げで下落する可能性、または完売による高価格残存で上振れる可能性のいずれもあります。

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参考資料・出典一覧

■ 市場データ(一次集計)

  • メトロエンジンリサーチ — 全国稼働中OTAホテル約27,000施設のADR集計(2026年5月〜8月、全プラン平均・2名1室・税込)、宿泊者口コミ意味タグ解析(直近12ヶ月N=1,402,086/前年同期N=2,006,735、79タグ・15言語対応)

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・業界データ

  • 星野リゾート・リート投資法人(3287)月次運営状況 2026年4月 — OCC79.3%、ADR¥21,600、RevPAR¥17,100(前年同月比YoY OCC-2.0pt、ADR+0.3%、RevPAR-1.7%)
  • インヴィンシブル投資法人(8963)月次運営状況 2026年4月 — OCC85.2%、ADR¥14,600、RevPAR¥12,500(YoY OCC+0.5pt、ADR-3.1%、RevPAR-2.7%)
  • ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)月次運営状況 2026年4月 — OCC85.8%、ADR¥21,100、RevPAR¥18,100(YoY OCC-0.4pt、ADR+4.6%、RevPAR+4.1%)

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