リニア中央新幹線の品川〜名古屋間には、神奈川県・山梨県・長野県・岐阜県の4つの中間駅(いずれも仮称)ができる。4駅のうち橋本を除く3駅は既存の市街地から離れた場所に新しく設けられ、駅前の用地は駅前広場の整備、土地区画整理事業、官民連携ゾーンの公募といった「公的主体が用地を出す」手続きを通じて供給される。本稿では、中間4駅それぞれの駅周辺の就業・居住、既存の宿泊供給と推定成約ADR、用地が民間に出てくる時期を整理し、駅前100室の宿泊特化型ホテルを想定した開発シナリオで、開業時期の違いが必要ADRにどう効くかを試算する。
本稿の対象範囲:終着駅の名古屋は既刊の『名古屋リニア前夜の開発パイプライン2026-2033』で扱ったため、本稿では神奈川県駅(相模原市緑区橋本)、山梨県駅(甲府市大津町)、長野県駅(飯田市上郷飯沼)、岐阜県駅(中津川市千旦林)の中間4駅だけを取り上げる。既存駅前の客室と開業時期のずれを主題にした『北海道新幹線2038年度末へ』とは違い、本稿の焦点は既存の市街地から離れた新設駅という立地と、公的主体が用地を出すルートである。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設が主要予約サイト上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。市単位のADRは対象施設の中央値を月別に求め、2025年9月〜2026年8月の12ヶ月を日数で加重平均した。駅5km圏のADRは、各施設の同じ12ヶ月の平均値の中央値。
- 必要ADR:本稿の開発シナリオで、想定した総事業費に対して目標とするGOP利回りを確保するために必要な客室単価(税抜相当)。前提は本文の試算の節に示す。
- 居住人口:国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)による駅から半径3km圏の合計。居住者の数であり、滞在人口や通過人口ではない。
- 就業者数:総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)による駅から半径5km圏の従業者数。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース)。駅の位置は各駅の公表された所在地に基づく。
先に結論を述べる。第一に、4駅の駅5km圏の推定成約ADRは中央値で¥6,800〜7,800に収まり、立地の性格は大きく違っても、価格帯はビジネスホテル中心の地方都市の水準に並んでいる。第二に、駅前に100室の宿泊特化型を建てる場合、2025年の建設費でも周辺水準の1.1〜1.5倍のADRが必要になり、この差がリニア開業で埋めていく伸びしろになる。第三に、開業時期を3年後ろにずらした場合の必要ADRの上振れは約¥1,700〜1,900で、その大半は建設費の上昇から来ている。地価の低い甲府・飯田・中津川では、用地を2年長く持つコストはADR換算で1室あたり¥10未満にとどまる。用地の確保よりも、どの年度に着工するかを決めることのほうが事業性を大きく左右する。
- — 46施設・3,943室:中間4駅の駅5km圏の宿泊供給(主要予約サイト掲載ベース)。推定成約ADRの中央値は¥6,800〜7,800(2025年9月〜2026年8月)で、地方都市のビジネスホテル水準に並ぶ。
- — 最短2036年:静岡工区の着工容認(2026年7月7日)を受けた報道ベースの品川〜名古屋開業見通し。JR東海は開業時期を年内に示す意向。
- — 周辺の1.1〜1.5倍:駅前100室・宿泊特化型の必要ADR(2025年の建設費)。甲府・飯田・中津川¥8,500、橋本¥11,400で、この差がリニア開業で埋めていく伸びしろになる。
- — +¥1,700〜1,900:開業を2036年から2039年へ3年遅らせた場合の必要ADRの上振れ。用地保有期間の差による分は¥200未満で、大半は建設費の上昇から来る。
- — 2029年3月:岐阜県駅の区画整理の完了予定で、4駅のうち用地が最も早く出てくる。山梨県駅は2026年度に官民連携ゾーンの検討パートナー公募へ進む。
開業時期の現在地 — 静岡工区の着工容認で「最短2036年」との見通し
静岡県の鈴木康友知事は2026年7月7日、リニア中央新幹線の静岡工区について着工容認を表明し、県とJR東海は7月18日に本体工事に必要な自然環境保全協定を結んだ。報道によれば、静岡県内の工事には10年以上かかる見通しで、年内に着工しても品川〜名古屋間の開業は最短で2036年になる(nippon.com、2026年7月16日)。JR東海の丹羽俊介社長は7月24日、金子恭之国土交通相との面会で、開業時期を「年内に示したい」と述べた(中日新聞、2026年7月24日)。JR東海が正式な開業時期を公表するまでは、本稿でも「最短2036年との見通し」として扱う。
中間駅の工事はすでに具体的な段階に入っている。山梨県駅は2026年3月11日に起工し、完成予定は2031年12月10日である。延長1,200m、最大幅46m・高さ32mで、ホーム2面4線の全体を屋根で覆う構造となる(日刊建設工業新聞)。岐阜県駅は、用地取得の遅れと高架橋の設計変更を理由に、工事完了予定が2025年3月から2031年12月へ6年9か月延期された(中日新聞、2024年12月23日)。JR東海の公表では、2026年3月末時点で品川〜名古屋間の契約済み工区の延長は約9割、用地取得率は約85%に達している(JR東海 リニア中央新幹線)。中間駅の駅舎は2031年ごろにそろって姿を現し、その後5年ほど開業を待つことになりそうだ。
開業が後ろにずれたときの一般的な影響、つまり用地を持ち続けるコストと建設費の上昇のどちらが大きいかは、北海道新幹線の沿線4駅で検証した既刊記事で詳しく扱った。本稿ではこの論点を一般論として繰り返さず、中間4駅の地価と用地が出てくる時期に当てはめて、後半の試算で数値として示す。
中間4駅の立地タイプ — 就業地の橋本、IC直結の甲府、段丘上の飯田、区画整理の中津川
4駅は同じ「中間駅」でも立地の性格がまったく違う。神奈川県駅は、JR横浜線・相模線・京王相模原線が乗り入れる橋本駅の南側、2019年に移転した県立相原高校の跡地に地下駅として建設されている。既存のターミナルに接続する、4駅のなかで唯一の立地である。山梨県駅は甲府市南部の大津町に置かれ、在来線の駅とは接続しない。代わりに、駅の北側に計画されている甲府中央スマートIC(仮称)とメイン通りで結ばれ、新幹線・リニアの駅が都市間高速道路のICと直接つながる国内初の例になる。長野県駅は飯田市上郷飯沼、天竜川西岸の段丘上に高架駅として整備され、JR飯田線の元善光寺駅から約1km、飯田駅周辺の中心市街地から約3kmの位置にある。岐阜県駅はJR中央本線 美乃坂本駅の西側、中津川市千旦林にあり、駅周辺約21.6haを中津川市が土地区画整理事業で整備している。
| 駅(仮称) | 所在地 | 駅構造 | 既存交通との関係 | 立地タイプ | 駅周辺整備の手法 |
|---|---|---|---|---|---|
| 神奈川県駅 | 相模原市緑区橋本 | 地下駅 | JR横浜線・相模線、京王相模原線の橋本駅に隣接 | 既存ターミナル接続・就業地 | UR施行の土地区画整理(約13.7ha) |
| 山梨県駅 | 甲府市大津町 | 地上駅(2面4線・全体上屋) | 甲府中央スマートIC(仮称)とメイン通りで接続 | 高速IC直結・広域ゲート | 駅前エリア約24.5haの基盤整備と官民連携ゾーン |
| 長野県駅 | 飯田市上郷飯沼 | 高架駅 | JR飯田線 元善光寺駅から約1km | 段丘上の新拠点・広域周遊の起点 | 市施行の駅前広場(約6.5ha・木造大屋根) |
| 岐阜県駅 | 中津川市千旦林 | 高架駅 | JR中央本線 美乃坂本駅の西側 | 区画整理による新市街地 | 市施行の土地区画整理(約21.6ha) |
出典:JR東海、相模原市、都市再生機構、甲府市、飯田市、中津川市の公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
駅周辺の就業と居住 — 橋本は就業16.8万人、飯田・中津川は2040年に1〜2割減
ホテルの需要の厚みを測る手がかりとして、駅から半径5km圏の就業者数と、半径3km圏の居住人口の将来推計を並べた(表2)。就業者数は、新設駅が既存の中心市街地から離れていることを踏まえ、通勤圏を含む5km圏で比べている。
| 駅(仮称) | 5km圏 就業者数 | 5km圏 事業所数 | 3km圏 居住人口 2020年 | 2025年 | 2040年 | 2040年変化(2020年比) | 高齢比率(2025年) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 神奈川県駅(橋本) | 167,822人 | 13,220 | 191,673人 | 191,942人 | 186,058人 | -2.9% | 23.5% |
| 山梨県駅(甲府市大津町) | 73,632人 | 6,493 | 45,166人 | 45,436人 | 44,289人 | -1.9% | 23.2% |
| 長野県駅(飯田市上郷飯沼) | 35,593人 | 4,532 | 34,817人 | 33,439人 | 29,019人 | -16.7% | 33.0% |
| 岐阜県駅(中津川市千旦林) | 25,296人 | 2,040 | 15,132人 | 14,733人 | 13,213人 | -12.7% | 28.4% |
出典:総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)、国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
橋本は5km圏の就業者数が167,822人と、ほかの3駅を大きく引き離している。3km圏の居住人口も19万人を超え、2040年までの減少は2.9%にとどまる。首都圏の業務・居住の厚みの上に新駅ができる形で、ビジネス需要を基礎にした宿泊機能が組み立てやすい。甲府は5km圏で73,632人の就業があり、3km圏の居住人口は2040年でも1.9%減と安定している。周辺は甲府昭和IC・甲府南ICの周りにロードサイド型の商業・業務が集まる地域で、駅前の用途は、この業務需要と高速道路からの広域の流入をどう組み合わせるかで決まる。
飯田と中津川は性格が異なる。飯田の3km圏の居住人口は2020年の34,817人から2040年に29,019人へ16.7%減り、高齢比率も2025年時点で33.0%と4駅で最も高い。中津川も12.7%の減少が見込まれる。地元の人口に頼る需要は細っていくため、宿泊需要は南信州・東濃の観光地やリニア沿線の企業立地など、域外から訪れる人をどれだけ取り込めるかにかかる。一方で就業者数の規模は飯田35,593人、中津川25,296人と一定の水準があり、駅前に大きな業務街区がなくても、長期滞在の出張や工事・研修の需要は見込める。
居住人口の減り方は、駅の周りでも場所によってばらつきがある。図3は長野県駅予定地から半径3km圏の250mメッシュ別の居住人口で、飯田駅側の段丘上の市街地と、駅予定地周辺の農地まじりの住宅地とで人口密度に差があることがわかる。駅前広場の外側で宿泊用地を探す場合、既存の住宅地から少し離れた幹線道路沿いの区画が現実的な候補になる。
周辺市の推定成約ADRと既存客室 — 4駅とも¥7,000前後、笛吹の温泉地は¥14,300
駅周辺の市の推定成約ADRを見ると、甲府市が¥7,800(N=35〜38施設)、飯田市が¥8,000(N=19〜23施設)、恵那市が¥8,100(N=12〜14施設)、八王子市が¥8,200(N=12〜13施設)と、中間駅の周辺の都市は¥8,000前後に集まる(図4)。中津川市の¥10,900(N=9〜12施設)は、馬籠宿の旅館など観光地の宿を含むため高めに出ており、月によって¥7,500〜15,400と振れ幅が大きい。山梨県駅から北東へ約8kmの笛吹市は、石和温泉を中心に¥14,300(N=47〜52施設)で、甲府盆地のなかにも2倍近い価格帯の市場が並んでいる。
各駅から半径5km圏で見ると、宿泊施設は4駅合計で46施設・3,943室(主要予約サイト掲載ベース、レジャーホテル等を除くホテル・旅館)で、推定成約ADRの中央値は¥6,800〜7,800に収まる(表3)。橋本の5km圏は11施設・1,530室がすべてビジネスホテルで、客室の厚みは4駅で最も大きい。2025年9月にアパホテル〈相模原橋本駅東〉(117室、既存ホテルからのブランド転換)、同年12月にKOKO STAY 相模原(130室)が加わり、開業を前に供給が先に動き出している。甲府の5km圏でも2024年6月に甲斐のホテル(150室)、同年8月にHOTEL R9 The Yard 山梨中央(42室)が開業している。中津川の5km圏では2024年11月にABホテル中津川(121室)、2025年12月にスーパーホテル岐阜・中津川天然温泉(142室)が開業し、中央道 中津川ICの周辺と駅予定地の近くに新しい客室が加わっている。飯田は13施設・603室と4駅で最も小さく、飯田駅周辺の既存市街地に施設が集中している。
| 駅(仮称) | 施設数 | 客室数 | うちビジネス | うち旅館 | 推定成約ADR 中央値 | N(ADR算出施設) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 神奈川県駅(橋本) | 11施設 | 1,530室 | 11施設・1,530室 | — | ¥7,400 | N=10 |
| 山梨県駅(甲府市大津町) | 13施設 | 1,041室 | 11施設・987室 | 2施設・54室 | ¥7,400 | N=13 |
| 長野県駅(飯田市上郷飯沼) | 13施設 | 603室 | 7施設・352室 | 4施設・93室 | ¥6,800 | N=13 |
| 岐阜県駅(中津川市千旦林) | 9施設 | 769室 | 6施設・614室 | 3施設・155室 | ¥7,800 | N=9 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース)。ホテル・旅館を集計し、レジャーホテル・キャンプ場・民泊型の一棟貸し等は除く。中津川の5km圏は恵那市側を含む。開業時期は予約サイト掲載確認ベース。
地価の水準も駅ごとに大きく違う。2026年地価公示で、神奈川県駅に近い橋本3丁目の商業地は1㎡あたり715,000円(前年比+9.8%)と、1割前後上がっている。対して、山梨県駅から約0.7kmの大津町の工業地は22,600円(同+3.7%)、長野県駅から約1.6kmの上郷黒田の商業地は37,300円(横ばい)、岐阜県駅から約0.5kmの千旦林の住宅地は30,600円(同+1.0%)である。橋本と地方3駅の差は20倍前後に達し、この差が後半の試算で用地費の重さとして表れる。
| 駅(仮称) | 地点 | 用途 | 駅からの距離 | 価格(円/㎡) | 前年比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 神奈川県駅 | 相模原市緑区橋本3丁目 | 商業地 | 約0.4km | 715,000 | +9.8% |
| 山梨県駅 | 甲府市大津町 | 工業地 | 約0.7km | 22,600 | +3.7% |
| 山梨県駅 | 甲府市東下条町 | 商業地 | 約1.2km | 41,500 | 0.0% |
| 長野県駅 | 飯田市上郷飯沼 | 住宅地 | 約0.8km | 29,300 | 0.0% |
| 長野県駅 | 飯田市上郷黒田 | 商業地 | 約1.6km | 37,300 | 0.0% |
| 岐阜県駅 | 中津川市千旦林 | 住宅地 | 約0.5km | 30,600 | +1.0% |
出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。距離は各駅の公表位置からの直線距離。
建築計画の側から見ると、当社が収録している国土交通省「建築物動態統計調査」ベースの宿泊施設の計画は、山梨県で富士吉田市の54室、長野県で小谷村の159室、岐阜県で美濃加茂市の120室、神奈川県で横浜市・箱根町の5件で、中間4駅の周辺に該当する計画は含まれていない。ただしこれは当社の収録範囲の話で、計画がないことを示すものではない。確認申請は通常、開業の1〜2年前に出されるため、2036年ごろの開業をめざす駅前の宿泊計画が申請に現れるのは早くても2030年代の前半になる。
用地の出方 — 保留地・官民連携ゾーン・駅前広場、民間に出てくる時期
中間4駅の駅前用地は、民間どうしの売買より先に、公的主体が主導する事業を通じて整理される。デベロッパーや事業会社にとっての入口は、区画整理の保留地や換地、官民連携ゾーンのパートナー公募、駅前広場まわりの民間活力の導入で、それぞれ公表の時期が異なる(表5・図5)。
| 駅(仮称) | 事業・主体・規模 | 期間・工程 | 宿泊用途の扱い(公表資料) | 民間参画の入口と時期 |
|---|---|---|---|---|
| 神奈川県駅 | 橋本駅南口地区土地区画整理事業(都市再生機構施行、約13.7ha、事業費約290億円) | 2025年9月25日に事業計画認可、清算期間を含め2035年度まで | 相模原市リニア駅周辺まちづくりガイドラインで、宿泊施設を集積を図る都市機能の例に挙げている | 換地後の街区での開発。土地処分の時期は公表資料では未掲載 |
| 山梨県駅 | 駅前エリア約24.5ha(甲府市、基盤整備の概算事業費約40億円)。スマートIC・交通広場・P&R駐車場・官民連携ゾーンなど7事業 | 2025年2月に基盤整備方針を策定。2026年度にコンセプトブック・検討パートナー公募、2027年度以降に基本計画・都市計画決定・事業認可、2034年度以降に基盤整備完了 | 官民連携ゾーンは「産業・生活・観光が融合」するまちの核と位置付け。宿泊の具体的な記載は今後のコンセプトブックで固まる見込み | 官民連携ゾーンの検討パートナー公募(2026年度以降)→事業者決定 |
| 長野県駅 | リニア駅前広場(飯田市、約6.5ha、木造大屋根)と交流施設 | 交流施設は2026年度に実施設計、2027年度に建設、2028年度に供用。駅前広場は2028年度に一部供用 | 駅前広場は公共空間と交流施設が中心。機能の配置は広場の周辺も含めて検討 | 駅前広場の周辺の民有地での開発、広場の管理運営を担う事業体 |
| 岐阜県駅 | リニア岐阜県駅周辺土地区画整理事業(中津川市施行、約21.6ha、総事業費91億5千万円) | 2017年10月17日〜2029年3月31日。仮換地指定は2021年12月22日 | 市のまちづくり構想(2019年7月)で区域内に「ホテル(低層)」「マンション、ホテルなど」を配置。先行取得した市有地や民間集合用地(短冊換地)をまちづくり用地とする | 保留地の販売(2026年2月2日時点では工事中のため販売なし。販売時は市のホームページで告知) |
出典:都市再生機構、相模原市、甲府市、日経BP「新・公民連携最前線」、飯田市、中日新聞、中津川市の公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
時系列で並べると、用地が民間に出てくる順番が見えてくる。最も早いのは岐阜県駅で、区画整理は2029年3月に完了する予定で、駅の工事完了予定(2031年12月)より2年以上早い。保留地の販売が始まれば、市有地や短冊換地で集めた「まちづくり用地」とあわせて、駅の開業前に用地を確保できる可能性がある。山梨県駅は、2026年度中にコンセプトブックがまとまり検討パートナーの公募に進む。甲府市は駅前エリアの3D都市モデルとVRを使ってまちづくりを支援する業務で森ビルを優先交渉権者に選んでおり(甲府市)、複数の事業者や地元との協議の場が整いつつある。官民連携ゾーンに参画するなら、2026〜2027年度の検討パートナーの段階から加わっておくことが、宿泊用途を計画に組み込む近道になる。
神奈川県駅は区画整理が2035年度まで続く長期の事業で、換地後の街区で商業・業務・住宅と組み合わせた複合開発になる可能性が高い。ガイドラインへのパブリックコメントでは、宿泊機能を確保すべきだという意見や、ビジネスホテルより上のクラスのホテルを誘致すべきだという意見が寄せられ、市はオフィス、商業施設、観光関連施設とともに宿泊施設を集積を図る都市機能の例に挙げている。長野県駅は、駅前広場そのものが公共空間として整備されるため、宿泊用途は広場の周辺の民有地で組み立てることになる。2028年度に広場の一部と交流施設が先に使えるようになるので、交流施設の稼働とあわせて小規模な宿泊を試せる余地がある。
開発シナリオ試算 — 開業を3年遅らせると必要ADRは約¥1,700〜1,900上がり、大半は建設費から
ここでは、各駅の駅前に100室の宿泊特化型ホテルを建てる想定で、目標とする利回りを確保するために必要なADRを逆算する。比べるのは、2031年に用地を確保して2036年に開業するシナリオAと、2036年に用地を確保して2039年に開業するシナリオBの2本である。Aは用地を5年、Bは3年持つ。Bは用地を持つ期間が短い代わりに、建設の時期が3年後ろにずれる。
試算の前提
- 客室100室、延床面積2,800㎡(1室あたり28㎡・約847坪)、敷地1,000㎡。
- 建設単価は1坪あたり200万円(2025年価格)で、建設費は16.9億円(1室1,694万円)。国土交通省「建築着工統計」の工事費予定額の水準を参考に、宿泊特化型のバジェット帯の下限として設定した。設計・FF&E・開業準備費として建設費の15%を加える。
- 用地費は各駅に最も近い2026年地価公示の地点価格×1,000㎡(橋本715,000円/㎡、甲府41,500円/㎡、飯田37,300円/㎡、中津川30,600円/㎡)。将来の地価上昇は見込まない。
- 保有コストは年2.5%(単利)。用地は取得から開業まで、建設費は工期2年の平均残高として1年分を見込む。
- 建設費の上昇率は2026年+5.3%、2027年+5.0%、2028年以降+4.5%(Turner & Townsendの予測を2028年以降も同じ率で延長)。工期の中間時点(A=2035年、B=2038年)まで複利で織り込む。感度分析として、2028年以降の上昇率を年2.0%としたケースも示す。
- 稼働率75%(開業後の通年平均の想定)、GOP率50%、客室売上の比率90%(総売上に占める客室売上の割合)、総事業費に対する目標GOP利回り6.5%。必要ADRは「総事業費×6.5%÷GOP率50%×客室売上の比率90%÷年間販売室数(100室×365日×75%)」で求めた。GOP率はインヴィンシブル投資法人のMHM運営ホテル91物件の実績38.9%(2024年12月期)と、宿泊特化型の業界目安50〜60%の間から採用した。
| 項目 | 神奈川県駅(橋本) | 山梨県駅(甲府) | 長野県駅(飯田) | 岐阜県駅(中津川) |
|---|---|---|---|---|
| 用地費(敷地1,000㎡・2026年地価公示) | 7.2億円 | 0.4億円 | 0.4億円 | 0.3億円 |
| 総事業費(2025年価格) | 26.6億円 | 19.9億円 | 19.9億円 | 19.8億円 |
| 必要ADR(2025年価格) | ¥11,400 | ¥8,500 | ¥8,500 | ¥8,500 |
| A:2031年用地確保・2036年開業 総事業費 | 39.4億円 | 31.9億円 | 31.8億円 | 31.7億円 |
| A 必要ADR | ¥16,900 | ¥13,600 | ¥13,600 | ¥13,600 |
| B:2036年用地確保・2039年開業 総事業費 | 43.5億円 | 36.3億円 | 36.2億円 | 36.2億円 |
| B 必要ADR | ¥18,600 | ¥15,500 | ¥15,500 | ¥15,500 |
| 感度:2028年以降の建設費上昇 年2.0%の場合 A / B | ¥14,500 / ¥15,000 | ¥11,300 / ¥11,900 | ¥11,200 / ¥11,900 | ¥11,200 / ¥11,900 |
| 駅5km圏 推定成約ADR 中央値(参考) | ¥7,400 | ¥7,400 | ¥6,800 | ¥7,800 |
| 必要ADR÷周辺中央値(2025年価格 / A / B) | 1.5倍 / 2.3倍 / 2.5倍 | 1.1倍 / 1.8倍 / 2.1倍 | 1.3倍 / 2.0倍 / 2.3倍 | 1.1倍 / 1.7倍 / 2.0倍 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。建設単価は国土交通省「建築着工統計」、建設費上昇率はTurner & Townsend、地価は国土交通省 地価公示、GOP率はインヴィンシブル投資法人の開示を参照。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要。
試算から読み取れることは3つある。1つめに、2025年の建設費のままでも、必要ADRは甲府・飯田・中津川で¥8,500、橋本で¥11,400となり、駅5km圏の中央値の1.1〜1.5倍にあたる。周辺の推定成約ADR ¥8,000で支えられる総事業費は1室あたり約1,870万円で、地方3駅の2025年価格の総事業費(1室あたり約1,980万〜1,990万円)にまだ届かない。この差をリニア開業による単価の上振れと、業態・規模の工夫で埋めていくことが、中間駅の宿泊開発の出発点になる。
2つめに、AとBの差はほぼ建設費で決まる。Bの必要ADRはAより¥1,700〜1,900高い。用地を持つ期間の違い(Aのほうが2年長い)による差は、甲府・飯田・中津川で¥10未満、橋本でも¥150にとどまる。2028年以降の建設費の上昇率を年2.0%に抑えた感度ケースでも差は¥520〜670残る。地価の低い地方の中間駅では、用地を早めに押さえておくことの負担は小さく、着工の時期を早く確定させることのほうが事業性に効く。
3つめに、橋本だけは用地費の比重が大きい。敷地1,000㎡の用地費は7.2億円で、2025年価格の総事業費26.6億円の約27%を占める。地方3駅では2%前後にすぎない。橋本では区画整理の換地による土地の出し方や、複合棟のなかにホテルを組み込んで土地の持ち分を抑える方法、定期借地の活用といった、用地費を軽くする設計が必要ADRを引き下げる主な手段になる。
なお、シナリオAの2036年開業はリニア開業の最短の見通しにあわせた想定で、開業時期が後ろにずれれば、Aの建物はリニア開業の前から既存の業務・観光需要で稼働することになる。工期は、当社が計画67件から実測した着工〜竣工の期間(単独の宿泊施設で平均1.96年、複合開発で4.00年)を参考に2年と置いた(ホテル工期の実測)。金利水準から成立ADRを逆算する考え方は政策金利1.00%とホテル開発で、建設費の上昇が供給に与える影響は2027-2029年ホテル新規開業マップで扱っている。
結論 — 駅ごとに成り立ちやすい業態は「業務型・観光ゲート型・広域周遊型」に分かれる
神奈川県駅(橋本)— 業務型
5km圏の就業167,822人、ビジネスホテル1,530室の厚みがあり、2040年の居住人口の減少も2.9%にとどまる。地価は1年で約1割上がっており、用地費が必要ADRの約3割を占める。区画整理の換地街区で、商業・業務と組み合わせた複合棟のなかに宿泊機能を置く形が成り立ちやすい。ガイドラインへの意見にもあった、ビジネスホテルより上のクラスが入る余地がある。
山梨県駅(甲府)— 観光ゲート型
スマートIC直結で、リニアと高速道路の両方から人が入る唯一の駅になる。5km圏の中央値は¥7,400だが、約8km先の笛吹市は¥14,300で、観光需要を取り込めれば一段上の価格帯を狙える。2026年度の検討パートナー公募から官民連携ゾーンに加わり、宿泊用途をコンセプトの段階から組み込むことが投資機会の入口になる。
長野県駅(飯田)— 広域周遊型
3km圏の居住人口は2040年に16.7%減る見込みで、需要の中心は南信州を周遊する観光客と、域外からの出張・長期滞在になる。5km圏の既存客室は603室と4駅で最も少なく、新しい客室が入る余白は大きい。2028年度に駅前広場の一部と交流施設が先に使えるようになるため、周辺の民有地で小規模な宿泊から段階的に立ち上げる形が向いている。
岐阜県駅(中津川)— 広域周遊・観光ゲート型
区画整理は2029年3月に完了し、市の構想では区域内に低層のホテルを想定している。馬籠宿・恵那峡に向かう観光の起点で、中津川市の推定成約ADRは観光地を含めて¥10,900。中央道のIC周辺ではすでに新しい客室の供給が始まっている。保留地の販売が告知された段階で、駅の完成(2031年12月)より前に用地を確保でき、4駅のなかで最も早く動ける。
中間4駅に共通して言えるのは、用地は公的主体の事業を通じて段階的に出てきて、その時期は駅によって2029年から2035年度まで幅があるということだ。一方で、事業性を最も大きく左右するのは建設費の上昇である。駅の開業を待ってから動くよりも、公募や保留地の販売に早めに応じて着工の時期を確定させ、既存の業務・観光需要で開業後の数年を稼働させながらリニア開業を迎える形が、2036年以降の開業見通しのもとでは事業性を組み立てやすい。JR東海が年内に示す予定の開業時期と、甲府市のコンセプトブック、中津川市の保留地の告知が、次に確認すべき3つの節目になる。
注記:リニア中央新幹線の開業時期は、JR東海が正式に公表していないため報道ベースの見通し(最短2036年)で記載した。開発シナリオは公表データと一般的な業界目安を組み合わせた簡易試算で、個別の用地条件、容積率、補助制度、借入条件によって結果は大きく変わる。建築計画のデータは調査時点での確認申請ベースで、今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みであり、現時点で確定しているパイプラインの下限値として参照されたい。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADR、宿泊施設の所在・客室数、建築計画はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング(主要予約サイト掲載ベース。駅5km圏N=46施設、市単位N=9〜52施設、2025年9月〜2026年8月)。就業者数は総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年、駅5km圏)、居住人口は国土交通省 国土数値情報の250mメッシュ別将来推計人口(駅3km圏)、地価は2026年地価公示。駅周辺整備の工程はJR東海、都市再生機構、相模原市、甲府市、飯田市、中津川市の公表資料による。
■ 試算前提
客室100室・延床2,800㎡・敷地1,000㎡の宿泊特化型。建設単価1坪200万円(2025年価格)に設計・FF&E・開業準備費15%を加算。用地費は駅に最も近い2026年地価公示の地点価格×1,000㎡で、将来の地価上昇は見込まない。保有コスト年2.5%(単利)。建設費上昇率は2026年+5.3%、2027年+5.0%、2028年以降+4.5%(感度ケースは2028年以降+2.0%)で、工期の中間時点(A=2035年、B=2038年)まで複利。稼働率75%(通年平均の想定)、GOP率50%、客室売上の比率90%、目標GOP利回り6.5%。必要ADR=総事業費×6.5%÷GOP率×客室売上の比率÷(100室×365日×75%)。
■ 限界・留意点
リニアの開業時期はJR東海の正式公表前のため、報道ベースの見通し(最短2036年)で扱った。推定成約ADRは公開プラン価格からの推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。駅の就業・居住は駅の公表位置を中心とした半径集計で、位置の置き方により値は変わる。開発シナリオは公表データと業界目安を組み合わせた簡易試算で、個別の用地条件、容積率、補助制度、借入条件、運営方式によって結果は大きく変わる。建築計画は当社の収録範囲の集計で、計画がないことを示すものではない。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(市単位・駅5km圏、主要予約サイト掲載ベース)、宿泊施設の所在・客室数、建築計画データ
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示 2025年・2026年)
- 国土交通省「建築着工統計」、国土交通省「建築物動態統計調査」
■ 事業者・自治体の公表資料
- JR東海「リニア中央新幹線」(工事の進捗、2026年3月末時点)
- 都市再生機構「橋本駅南口地区」
- 相模原市「橋本駅南口のまちづくりガイドライン」/同ガイドライン(案)パブリックコメント結果
- 山梨県 リニア駅周辺整備課/甲府市「リニア山梨県駅前・駅周辺のまちづくりについて」/甲府市「リニア山梨県駅前エリア等におけるVRを活用したまちづくり支援業務」公募型プロポーザル審査結果
- 飯田市「リニア駅周辺整備基本計画」/飯田市「2026年度版リニア推進ロードマップ」
- 中津川市「リニア岐阜県駅周辺土地区画整理事業の概要」/中津川市「リニアを活用したまちづくり構想」(2019年7月)
- インヴィンシブル投資法人 ホテルポートフォリオ(MHM運営ホテルGOP実績)
■ ニュース・報道
- nippon.com(2026年7月16日)静岡工区の着工容認と開業見通し
- 日本経済新聞「リニア全線着工へ、静岡知事が容認 品川―名古屋の開業は2036年以降」
- 中日新聞(2026年7月24日)「リニア開業時期『年内に示したい』 JR東海の丹羽社長、金子国交相との面会で」
- 日刊建設工業新聞 リニア山梨県駅の起工
- 中日新聞(2024年12月23日)リニア岐阜県駅の工事完了、6年9カ月延期
- 中日新聞(2025年12月15日)リニア長野県駅前広場に交流施設
- 日経BP 新・公民連携最前線(2025年3月24日)甲府市のリニア駅前エリア整備方針
- タウンニュース さがみはら緑区版(2025年10月16日)橋本駅南口の土地区画整理事業に認可
- 国土交通省 新規事業採択時評価(甲府中央スマートICアクセス)
