観光庁は2026年7月6日、宿泊旅行統計調査の「2025年(令和7年)・年間値(確定値)」を公表した。2026年2月27日に示された速報値では全体の客室稼働率は61.8%だったが、確定値では61.6%へと0.2ポイント下方修正された。本稿では速報値と確定値を業態別に対比して修正幅を整理し、過去3年の「速報→確定は下方修正が定常」という履歴を踏まえて確定値の連続性と信頼性を読み解く。あわせて、自社が把握するOTA公開価格から2026年上半期のADR実勢を補足する。公表前に速報からの修正幅を予測した内容については、観光庁2025年確定値6/30公表直前 — 速報61.8%の修正幅予測と2026上半期実勢で事前に整理している。
本記事における指標の定義
- 客室稼働率(OCC):観光庁「宿泊旅行統計調査」の公式値。年間の客室提供数に対する販売済み客室数の割合。速報値は2月公表、確定値は約4ヶ月後に回収した調査票を反映して再集計した値。
- ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(REIT開示データとの照合では、成約ADRより平均+25〜30%高い傾向。売れ残った高価格帯プランがOTA上に残り続けること、および1名利用の予約も2名料金で集計されることから、公開価格の平均が成約価格より上振れする構造による)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
- データ出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」/メトロエンジンリサーチ
確定値は61.6% — 速報から全体で-0.2ポイント
まず確定値の全体像を押さえる。2025年通年の客室稼働率は、速報値61.8%に対して確定値61.6%。全体では0.2ポイントの下方修正にとどまった。業態別に見ると、旅館が38.4%→38.2%(-0.2pt)、シティホテルが74.2%→74.1%(-0.1pt)と小幅に下がった一方、リゾートホテル(56.9%)、ビジネスホテル(75.3%)、簡易宿所(29.6%)は速報値と確定値が一致し、修正されなかった。
数値の水準そのものは、宿泊需要の業態間格差をあらためて浮き彫りにする。ビジネスホテルが75.3%と最も高く、シティホテル74.1%が続く。両者は都市部のインバウンド需要と国内出張需要を取り込み、7割台の高稼働を維持している。対して旅館は38.2%、簡易宿所は29.6%と3〜4割の水準にとどまり、リゾートホテルの56.9%を含めて業態間の開きは依然として大きい。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりホテルバンク編集部作成
この対比を表で整理すると次のようになる。全体の修正幅-0.2ポイントは、業態のうち下方修正された旅館とシティホテルが牽引した格好であり、稼働率の高いビジネスホテルとリゾートホテルが据え置かれたことで、全体の下振れは限定的に抑えられている。
| 業態 | 速報値 | 確定値 | 修正幅 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 61.8% | 61.6% | -0.2pt |
| 旅館 | 38.4% | 38.2% | -0.2pt |
| リゾートホテル | 56.9% | 56.9% | ±0.0pt |
| ビジネスホテル | 75.3% | 75.3% | ±0.0pt |
| シティホテル | 74.2% | 74.1% | -0.1pt |
| 簡易宿所 | 29.6% | 29.6% | ±0.0pt |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりホテルバンク編集部作成
稼働率は下方修正、宿泊者数は上方修正という非対称
今回の確定値で興味深いのは、客室稼働率が下方修正された一方で、延べ宿泊者数は上方修正された点である。延べ宿泊者数は速報値6億5,348万人泊(前年比-0.8%)から、確定値6億6,111万人泊(前年比+0.3%)へと763万人泊上振れした。前年比の符号がマイナスからプラスへ反転している。
この非対称は、確定値の作成プロセスに由来する。確定値は速報公表後に回収された調査票を追加で取り込んで再集計するため、遅れて回収された施設の宿泊実績が延べ宿泊者数に加算される。一方で稼働率は「販売済み客室数÷提供客室数」であり、追加で反映される施設には稼働の低い小規模施設も含まれるため、分子の宿泊が積み上がっても稼働率の平均はわずかに下がる、という構図になりやすい。つまり量(宿泊者数)は増え、率(稼働率)は微減するという方向性は、統計の性質上むしろ自然といえる。この観光庁OCCが業界団体の実感値と乖離しやすい構造的背景については、観光庁OCC53.1% vs 全日本ホテル連盟70.1% 17ポイント乖離が示す統計の見方が掘り下げている。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりホテルバンク編集部作成
外国人延べ宿泊者数は確定値で1億7,992万人泊(前年比+9.4%)、2019年比では+55.6%に達した。延べ宿泊者全体に占める外国人比率は27.2%まで高まっている。国籍別では中国(19.7%)、台湾(12.9%)、韓国(11.5%)、米国(11.2%)、香港(4.3%)の上位5ヵ国・地域で約59.6%を占める。三大都市圏の外国人宿泊が前年比+5.1%だったのに対し、地方部は+19.1%と伸びが大きく、インバウンドの地方分散が数値として確認できる。この日本人と外国人で符号が分かれる構造変化の全体像は、観光庁2025年通年統計の深掘り分析:日本人-3.8%、外国人+8.2%の構造変化で詳しく分析している。
過去3年の履歴 — 全体稼働率は3年連続で下方修正
速報から確定への下方修正は、今年に限った現象ではない。過去3年の全体稼働率の速報値と確定値を並べると、いずれの年も確定値が速報値を下回っている。修正幅は2023年が-0.4ポイント、2024年が-0.9ポイント、2025年が-0.2ポイントであり、方向性は一貫して下方修正である。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各年・年間値(速報値・確定値)よりホテルバンク編集部作成
ここで注目したいのは、2025年の修正幅-0.2ポイントが3年で最も小さかったことである。前年2024年の-0.9ポイントと比べると修正は4分の1程度に縮小しており、速報値の精度が相対的に高かったことを示唆する。速報段階で確定に近い水準を捉えられていれば、市場関係者は速報値をより早い段階から実勢に近い前提として扱える。この点で2025年の確定値は、速報値との整合性という観点で連続性が高い年だったといえる。
業態別に3年分の修正幅を見ても、下方修正の中心は旅館とシティホテルに集まる傾向がある。2023年はシティホテルが-0.5ポイント、2024年は旅館が-0.7ポイント、2025年は旅館とシティホテルがそれぞれ-0.2/-0.1ポイントと、修正の主因は毎年これらの業態に寄っている。ビジネスホテルは3年連続で-0.2ポイント以内の小幅修正にとどまり、確定値の安定度が高い。稼働率の高い業態ほど速報段階での捕捉が安定し、稼働率の低い業態ほど遅れて回収される調査票の影響を受けやすい、という構造が読み取れる。
| 年(全体稼働率) | 速報値 | 確定値 | 修正幅 |
|---|---|---|---|
| 2023年 | 57.4% | 57.0% | -0.4pt |
| 2024年 | 60.5% | 59.6% | -0.9pt |
| 2025年 | 61.8% | 61.6% | -0.2pt |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」各年・年間値(速報値・確定値)よりホテルバンク編集部作成
2026年1月からの層化基準変更 — 連続性に注意
確定値の連続性を語るうえで、もう一つ押さえておくべき転換点がある。宿泊旅行統計調査は、施設を層に分ける際の基準(層化基準)を2026年(令和8年)1月分より「従業者数」から「客室数」へと変更した。これは調査設計上の非連続点であり、2025年までの数値と2026年以降の数値を単純に接続して比較する際には注意が必要になる。
つまり、今回公表された2025年確定値は「従業者数基準」の最終年の確定値という位置づけになる。2026年以降に公表される稼働率や宿泊者数は客室数基準で集計されるため、業態別・都道府県別の水準に基準変更由来の段差が生じる可能性がある。過去との比較で稼働率の増減を論じる際には、2025年までと2026年以降で母集団の抽出設計が異なる点を明示的に区別して読む必要がある。統計の連続性という観点では、2025年確定値は「一つの区切り」として記憶しておく価値がある。
2026年上半期のADR実勢 — 公開価格は前年比プラス圏で推移
公式統計の稼働率が業態間で分化する一方、価格面はどう動いているか。自社が把握するOTA公開価格から、2026年上半期(1〜6月)の全国ADRを月次でみると、いずれの月も前年同月比でプラス圏を維持している。全国の客室数加重平均ADR(2名1室・全プラン平均)は、1月が約33,600円(前年同月比+18.0%)、5月が約33,600円(同+12.1%)、6月が約31,900円(同+12.2%)で、上半期を通じて前年を明確に上回った。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(全国・客室数加重平均、N=約8,000施設)
業態別にADRの前年同月比をみると、公式統計の稼働率区分に対応する動きが確認できる。2026年5月時点で、旅館は+5.1%、ビジネスホテルは+3.9%、リゾートホテルは+7.3%と、いずれも前年を上回る。高価格帯のデラックスホテル(+15.7%)やオーベルジュ(+17.9%)の伸びが特に大きく、単価上昇がラグジュアリー・高付加価値層で顕著であることがうかがえる。稼働率が7割台と高いビジネスホテルは、稼働の高止まりを背景に価格も緩やかに押し上げられている構図といえる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5月・全国、カテゴリ別ADR前年同月比)
業態トレンドの補足として、上場REITの月次運営実績も同方向を示している。ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)の2025年5月実績はADRが前年同月比+6.6%、稼働率が+1.0ポイントと、成約ベースでも単価上昇と稼働改善が両立している。これは公開価格ベースのADRが前年比プラス圏で推移している自社データと整合的であり、価格の上昇が販売価格だけでなく成約価格の水準でも進んでいることを裏づける補足材料となる。なお、これは業態トレンドの参照であり、個別REITの投資分析を意図するものではない。
⚠ ADRデータに関する注意:本記事のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、実際の成約価格とは異なります。REIT開示の成約ADRとは水準(絶対値)が異なるため、比較は前年同月比の変化率で行っています。また、2026年6月のADRは観測途中の月を含むため、今後の掲載追加で数値が変動する可能性があります。
まとめ — 確定値61.6%が示す実勢の読み方
2025年確定値は、速報61.8%から61.6%への-0.2ポイントの下方修正で着地した。過去3年連続で全体稼働率が下方修正されているという履歴を踏まえれば、今回の修正は「定常的な速報→確定の下方調整」の範囲内であり、しかも修正幅は3年で最小だった。速報段階での捕捉精度が相対的に高かったことを意味し、市場関係者は速報値を早い段階から実勢に近い前提として扱えたといえる。
業態別には、ビジネスホテル75.3%・シティホテル74.1%の都市型高稼働と、旅館38.2%・簡易宿所29.6%の中低稼働という二極が続く。延べ宿泊者数の上方修正(+763万人泊)と稼働率の微減という非対称は、確定値の作成プロセスに由来する自然な方向性である。そして2026年上半期のADRは全国・全業態でおおむね前年比プラス圏を維持しており、量(宿泊者数)と率(稼働率)に加えて価格(ADR)も上向くという実勢が、公式統計と自社データの双方から読み取れる。2026年1月からの客室数基準への移行という非連続点を意識しつつ、確定値61.6%を実勢の一つの基準点として次年度以降の数値を読み進めたい。
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参考資料・出典一覧
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」(2026年7月6日公表)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))~速報値からの変更点(概要)~」PDF
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2024年・年間値(確定値))」(2025年6月27日公表)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(速報値))」(2026年2月27日公表)
- e-Stat「宿泊旅行統計調査」(政府統計の総合窓口)
- メトロエンジンリサーチ — OTA公開価格データ(全国・客室数加重平均ADR、N=約8,000施設)
- 各社REIT月次運営実績(ジャパン・ホテル・リート投資法人 2025年5月実績、業態トレンドの補足参照)
