観光庁は2026年3月、2025年通年の宿泊旅行統計(速報値)を公表し、全国の客室稼働率は61.8%、延べ宿泊者数は6億5,348万人泊(前年比-0.8%)となった。この速報値は2026年6月30日に「確定値」として再公表される見込みである。本稿では、過去5年間(2020〜2024年)の速報→確定の修正幅履歴を体系的に整理し、2025年確定値の予測レンジを提示する。あわせて、2026年1〜5月の主要都市ADR実勢(メトロエンジンリサーチ)と上場REIT月次運営実績を重ね合わせ、確定値公表後にどのような市場ナラティブが続くかを検討する。
本記事における指標の定義
- 速報値・第1次速報・確定値:観光庁宿泊旅行統計の3段階公表サイクル。速報値は翌年2月末、確定値は6月末に公表される。確定値は調査票回収率の上昇と事業所マスター更新を反映する。
- 客室稼働率(OCC):観光庁公表値は調査対象事業所の販売可能客室数に対する販売客室数の割合。本記事のADR・実勢OCC比較はOTA上の販売在庫に基づく推定値(REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt程度の精度を確認済)。
- ADR(平均客室単価):メトロエンジンリサーチが追跡する約27,000施設のOTA公開価格平均値であり、実際の成約価格とは異なります(REIT開示データとの照合では成約ADRより平均+25〜30%高い傾向)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均。
- データ出典:観光庁宿泊旅行統計、メトロエンジンリサーチ、各REIT月次運営実績
- — 速報→確定の修正幅は過去5年(2020〜2024年)で-0.4〜-2.7ptの下方修正で推移し、「確定値は上方修正される」は誤通説。
- — 2025年全体OCCは速報61.8%から確定60.6〜61.1%帯への下方修正を予測。旅館は38.4%→37.5〜37.9%帯がベースケース。
- — 2026年4月主要6地域ADRは京都+17.2%・北海道+11.0%と二桁伸長、東京は±0%と頭打ち。価格転嫁余地に地域差。
- — 上場REIT 7社のOCCは77.6〜88.6%帯に集中、観光庁速報61.8%との20pt超の乖離は母集団差(小規模事業所の混入有無)に起因。
- — 2026年上半期ナラティブは「量横ばい・価格上昇」。6/30確定値公表後の市場議論は地域別ADR伸長と業態別稼働率格差が主軸。
論点1:過去5年間の速報→確定の修正幅 — 「上方修正」は常識ではない
観光庁宿泊旅行統計は、毎年2月末に「年間値(速報値)」、6月末に「年間値(確定値)」を公表する3段階サイクルで運用されている。確定値公表時には調査票回収率の上昇と事業所マスター更新が反映されるため、市場関係者の間では「確定値は上方修正されやすい」という見方が広く共有されてきた。しかしながら、過去5年間(2020〜2024年通年)の客室稼働率について実際の修正幅を確認すると、この通説は単純化されすぎている。
出典:観光庁宿泊旅行統計(各年・速報値および確定値)、ホテルバンク編集部より作成
2020年は速報34.5%→確定33.3%(-1.2pt)、2022年は51.8%→49.1%(-2.7pt)、2023年は57.4%→57.0%(-0.4pt)、2024年は60.5%→59.6%(-0.9pt)と、いずれも下方修正で推移している。コロナ禍前のサンプルは過去の調査票回収プロセスが安定していたため修正幅は小さかったが、2020年以降は休業・閉鎖事業所の整理が確定値時点で進むため、稼働率分子は事業所数の精緻化により下方寄りに調整される傾向が確認できる。
つまり、客室稼働率の確定値は「延べ宿泊者数の上方修正」と「対象事業所数の上方修正」が同時に起こることで、母数の伸びが分子を上回り、結果として稼働率自体は若干下方に振れるという構造を持つ。延べ宿泊者数(量)は確かに2024年で6億5,028万人泊(速報)→6億5,906万人泊(確定)と+1.4%上方修正されているが、稼働率(率)は逆方向に動く点が見落とされやすい。
論点2:業態別の修正パターン — 旅館・リゾートが大きく動く
2024年の速報→確定の修正幅を業態別に分解すると、施設タイプによって動き方が異なることが見えてくる。シティホテルは-0.1pt、ビジネスホテルは-0.2pt、リゾートホテルは-0.5pt、旅館は-0.7pt、全体では-0.9ptという階段構造である。都市型ホテル(シティ・ビジネス)は調査票回収率が比較的高く速報段階で母集団に近い数値が出るため修正幅が小さい一方、旅館とリゾートホテルは小規模事業所の比率が高く、確定値段階で休業・廃業先の精緻化が大きな影響を与える構造になっている。
出典:観光庁宿泊旅行統計2024年・年間値(速報値および確定値)、ホテルバンク編集部より作成
この階段構造を2025年確定値に当てはめると、業態別の予測レンジは以下のように整理できる。あくまで過去パターンを延長した試算値であり、確定値の実際の修正幅は調査票回収状況と事業所マスター更新の進捗により変動する。とくに、2026年1月分調査から層化基準が「従業者数」から「客室数」へ変更された影響が確定値の集計プロセスにも波及する可能性がある点には留意が必要である。
| 業態 | 2025年速報 | 2024年実績修正幅 | 2025年確定値予測レンジ |
|---|---|---|---|
| 全体 | 61.8% | -0.9pt | 60.6 – 61.1% |
| 旅館 | 38.4% | -0.7pt | 37.5 – 37.9% |
| リゾートホテル | 56.9% | -0.5pt | 56.2 – 56.6% |
| ビジネスホテル | 75.3% | -0.2pt | 74.9 – 75.2% |
| シティホテル | 74.2% | -0.1pt | 73.9 – 74.2% |
出典:観光庁宿泊旅行統計、ホテルバンク編集部による予測試算
2025年速報61.8%という数値は、2024年速報60.5%から+1.3pt伸びている。確定値ベースでも2024年59.6%→2025年予測60.6〜61.1%という、おおむね+1pt前後の伸びが見込まれる構図である。延べ宿泊者数の方向と稼働率の方向が一致しており、量的にはインバウンドの底堅さが量ベースで支えていることが読み取れる。
論点3:2026年上半期実勢 — 1〜3月の月次稼働率は前年並み〜やや軟調
確定値公表のタイミングで重要なのは、2026年上半期の月次実勢がすでに速報ベースで公開されていることである。観光庁発表によれば、2026年1月は全体53.1%、2月59.0%、3月60.3%(速報)と推移しており、3月は前年(61.3%)から-1.0ptと、わずかながら軟調な動きが確認できる。業態別では、ビジネスホテルが3月74.2%、リゾートホテル58.0%、旅館41.5%と、業態間の格差は速報レベルでも明瞭である。
出典:観光庁宿泊旅行統計(第1次速報・第2次速報)、ホテルバンク編集部より作成
一方、メトロエンジンリサーチが追跡する約7,900〜8,400施設のOTA公開ADR(販売価格平均)を月次で集計すると、全国の単純加重ADRは2025年4月の¥31,100から2026年4月の¥33,700へ+8.3%上昇している。この+8.3%は前年同月比であり、稼働率がほぼ横ばいの中で価格指標が伸びている点は、量から価格への需要シフトを示唆する重要なポイントである。日本人ゲスト数が前年比減を続けながらも単価が上昇するという2026年の市場構造については、3月OCC 60.3%(2026年4月時点・メトロエンジンリサーチ集計)・日本人15ヶ月連続減でも単価は上昇する「量より質」転換で詳しく分析している。
出典:メトロエンジンリサーチ(N=約7,900〜8,400施設)、ホテルバンク編集部より作成
論点4:地域別ADR — 京都の独走と東京の頭打ちが鮮明
2026年4月時点の主要6地域ADRを前年同月比で並べると、地域差が極めて大きいことが分かる。京都府が¥49,700(前年比+17.2%)と独走、続いて北海道+11.0%、大阪府+5.9%、沖縄県+5.9%、福岡県+4.8%、東京都はほぼ横ばい(前年比0.0%)という構図である。京都は紅葉期と春シーズン双方で前年比2桁の上昇を維持しており、需要が量ではなく価格に転嫁されているエリアの典型である。一方、東京は¥36,200と前年と同水準にとどまっており、供給回復(新規開業のパイプライン)と需要の頭打ちが価格の上値を抑えている可能性が示唆される。
出典:メトロエンジンリサーチ(N=約7,900施設)、ホテルバンク編集部より作成
東京都内の業態別ADRを見ると、デラックスホテルが¥105,600(n=43)、シティホテル¥42,700(n=99)、ビジネスホテル¥20,600(n=819)と、価格レンジが明確に分かれている。とりわけビジネスホテル帯は供給数が圧倒的に多く(819施設)、ADRの上値が抑えられやすい構造を持つ。シティホテル帯では一定の価格余地が残っており、デラックス帯は¥10万を超える価格設定で稼働を維持している。なお東京の頭打ちと地方の上昇が並存するADR構造の背景には、人件費上昇分の転嫁余地が価格帯ごとに異なるという論点があり、人件費転嫁型ADR上昇の正体|OCC×ADR乖離で読み解く2026年ホテル価格の構造変化がOCC×ADRの観点から掘り下げている。
論点5:上場REIT月次実績との接続 — 統計値とのギャップ
確定値の妥当性を補強する材料として、上場ホテルREIT各社の月次運営実績との照合は有効である。2026年3〜4月の主要REIT実績を整理すると、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)はOCC85.8%・ADR¥21,100(前年比+4.6%)、インヴィンシブル投資法人(8963)はOCC85.2%・ADR¥13,900、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)はOCC88.6%(2026年4月時点・メトロエンジンリサーチ集計)・ADR¥25,400、いちごホテルリート投資法人(3463)はOCC82.8%(2026年4月時点・メトロエンジンリサーチ集計)・ADR¥10,400、星野リゾート・リート投資法人(3287)はOCC78.7%(2026年4月時点・メトロエンジンリサーチ集計)・ADR¥21,300、森トラストリート投資法人(8961)はOCC81.8%(2026年4月時点・メトロエンジンリサーチ集計)・ADR¥41,600(変動賃料3物件のみ)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A)はOCC77.6%(2026年4月時点・メトロエンジンリサーチ集計)・ADR¥27,700となっている。
出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成(2026年3〜4月、ポートフォリオ全体)
REIT各社の稼働率はおおむね80〜90%帯に集中しており、観光庁速報61.8%と比較すると20pt以上の乖離がある。これは観光庁統計が全国の小規模事業所(旅館・簡易宿所を含む)を母集団とする一方、REITポートフォリオは都市部の中〜大規模シティ/ビジネスホテルに集中していることが主因である。確定値公表後、もし全体稼働率が60.6〜61.1%レンジに収まれば、業態間の格差(旅館37%台 vs 都市型70%台)と統計値全体の構造が改めて確認される。この観光庁速報と業界団体集計のあいだに生じる10〜20ptクラスの乖離が何を意味するかは、観光庁OCC 53.1%(2026年4月時点・メトロエンジンリサーチ集計) vs 全日本ホテル連盟70.1% 17ポイント乖離が示す統計の見方が母集団差の観点から整理している。
ADR側では、霞ヶ関ホテルリート投資法人の¥27,700、JHRの¥21,100、星野リゾート・リートの¥21,300などが上場REITの中位レンジを形成している。これらREITの成約ベースADR水準と、メトロエンジンリサーチのOTA公開価格ベースADR(全国平均¥33,700)との差は約+25〜30%である。これは「販売中の高価格プランがOTA上に残り続けるため、公開価格の平均が成約価格より上振れする」という構造的特性によるものであり、両者の絶対値ではなく前年同月比の方向を読むことが実務上は重要となる。
論点6:6/30公表時の3つの注目ポイント
6月30日公表予定の確定値については、以下の3点を確認すべき要素として整理できる。
| 注目点 | 確認したい数値 | 想定される論点 |
|---|---|---|
| ①全体稼働率の修正幅 | 速報61.8% → 確定60.6〜61.1%帯 | 下方修正が0.7pt前後で着地するか、より大きく振れるか |
| ②旅館の修正幅 | 速報38.4% → 確定37.5〜37.9%帯 | 小規模事業所マスター更新の影響度 |
| ③都道府県別の動向 | 大阪府78.8%(速報トップ)の維持 | 関西万博後の反動を確定値が捉えるか |
とくに②の旅館の修正幅は、2026年1月分調査から層化基準が「従業者数」から「客室数」へ変更された影響と相まって、確定値公表後の比較分析を複雑化する可能性がある。観光庁は2026年1月以降の集計について、前年同月比との比較に注意するよう呼びかけており、確定値公表時の解説資料を待つ必要がある。
論点7:2026年上半期の業界ナラティブ — 「量より価格」への転換
2026年上半期の市場ナラティブを整理すると、「稼働率は前年と同水準、ADRは+5〜+17%の地域差で上昇」という構図に集約される。京都府+17.2%・北海道+11.0%という二桁伸長地域が市場全体を引き上げ、東京都・大阪府は供給回復と需要平準化の中で価格は前年比横ばい〜+6%程度に落ち着いている。確定値が速報から-0.7〜-0.9pt下方修正されたとしても、量の伸長と価格の伸長が並存する構造は変わらない見通しである。
レベニューマネジメント観点では、京都府の+17.2%は早期予約段階での価格引き上げ余地を示唆するシグナルとなる。地域別ADRの伸長率と業態別稼働率の格差が、各エリアで異なる戦略を要求する局面になっている。とくに、シティホテル帯(東京都内ADR平均¥42,700)と旅館帯(東京都内¥32,200)の中間に位置するブティックホテル/中規模デラックス帯は、価格余地と需要の伸長余地が重なる成長機会が残されているといえる。
本予測の前提について:本記事の2025年確定値予測レンジは過去5年間(2020〜2024年)の修正幅履歴を延長した試算値であり、観光庁公式予測ではありません。確定値の実際の修正幅は調査票回収状況と事業所マスター更新の進捗、ならびに2026年1月分から導入された層化基準変更(従業者数→客室数)の影響により変動する可能性があります。6月30日の確定値公表後、本予測値との乖離をあらためて検証する予定です。
まとめ — 6/30確定値の見方と2026後半への接続
観光庁宿泊旅行統計の速報→確定の修正幅は、2020〜2024年の5年間で-0.4〜-2.7ptの下方修正で推移しており、「確定値は必ず上方修正される」という通説は実態と異なる。2025年確定値は全体で60.6〜61.1%帯への下方修正、旅館は37.5〜37.9%帯への下方修正がベースケースとなる。延べ宿泊者数(量)は上方修正されつつ稼働率(率)は下方修正される構造的特性は今後も続く見通しである。
一方、2026年上半期の市場実勢は、量的には前年並みの稼働率、価格的には京都+17.2%・北海道+11.0%を筆頭に主要地域で+5〜+17%のADR上昇という二極化構造を示している。確定値公表後は、この「量横ばい・価格上昇」のシグナルが2026年後半(夏期・秋期)にどう接続するか、地域別・業態別の差を追跡することが市場分析の主軸となる。確定値とOTA実勢、REIT月次のトライアングルで構造を読むことが、2026年下半期の事業計画策定における基礎作業として求められる。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
観光庁宿泊旅行統計(年間値・速報値および確定値、2020〜2025年通年、第1次速報2026年1〜3月)。メトロエンジンリサーチ全国OTA公開価格データ(N=約7,900〜8,400施設、2025年1月〜2026年5月の月次集計、税込・2名1室・全プラン平均)。上場ホテルREIT月次運営実績(JHR・インヴィンシブル・いちごホテル・日本ホテル&レジデンシャル・星野リゾート・リート・森トラストリート・霞ヶ関ホテルリートの2026年3〜4月開示分)。
■ 試算前提
2025年確定値の予測レンジは、2020〜2024年5年分の速報→確定の修正幅(全体-0.4〜-2.7pt、業態別-0.1〜-0.7pt)を単純平均および中央値で外挿した試算値。2026年1月分調査からの層化基準変更(従業者数→客室数)の影響は中立として扱い、感応度は本稿レンジに含めていない。地域別ADR比較は税込・全プラン平均・OTA公開価格ベース。
■ 限界・留意点
本予測は観光庁公式予測ではなく過去パターン外挿の試算値。確定値の実際の修正幅は調査票回収率の変動、事業所マスター更新の進捗、層化基準変更の集計上の影響により変動しうる。OTA公開価格ベースADRは成約価格より平均+25〜30%高い傾向があり、絶対値ではなく前年同月比トレンドの方向性を読む指標として扱う。REIT各社のOCC/ADRはポートフォリオ構成(都市型偏重)の影響を受けるため、観光庁統計(全業態混在)との直接比較ではなく構造的乖離の文脈で参照すべき。
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」公式ページ(速報・確定値の全データ)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(速報値))」報道発表 2026年3月
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年2月・第1次速報)」報道発表
- 観光庁「2025年通年(速報値)報道発表資料PDF」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2024年・年間値(確定値))」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2023年・年間値(確定値))」
- トラベルボイス「2025年の延べ宿泊者数、客室稼働率の都道府県トップは大阪府の79%」2026年3月2日
- 観光経済新聞「最多の6.6億人泊 日本人は1%減 観光庁宿泊旅行統計調査2024年確定値」
- ビジネスブレーン「2026年2月 宿泊旅行統計【観光庁速報】解説」
- e-Stat「宿泊旅行統計調査」(統計ID: 00601020)
- メトロエンジンリサーチ — 全国OTA公開価格データ(N=約7,900〜8,400施設、2025年1月〜2026年5月)
- 各REIT月次運営実績(ジャパン・ホテル・リート8985/インヴィンシブル8963/いちごホテル3463/日本ホテル&レジデンシャル3472/星野リゾート・リート3287/森トラストリート8961/霞ヶ関ホテルリート401A、2026年3〜4月分)
