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温泉地の客室の51%を持つ221室が減築へ — 鶯宿2km圏11軒434室と全国188軒の200室超旅館・リゾート

投稿日 : 2026.10.08

岩手県

投資・開発

温泉地の客室の51%を持つ221室が減築へ — 鶯宿2km圏11軒434室と全国188軒の200室超旅館・リゾート

日本ハウスホールディングスは2026年8月6日に提出した臨時報告書で、岩手県雫石町の鶯宿(おうしゅく)温泉で運営する「ホテル森の風鶯宿」について、建物の一部を減築すると公表した。目的は「ホテル事業の収益性向上及び施設運営の効率化」とされ、2027年4月期に固定資産除却損約800百万円を計上する予定である。減築する範囲や減築後の客室数、工期は開示に記載がない。

同ホテルは221室で、メトロエンジンリサーチが半径2km圏で販売を確認できた11軒434室の51%を1施設で占める。温泉地の客室の半分を持つ建物が床を減らすという判断は、団体旅行期に建った大型の旅館・リゾートホテルを抱えるオーナーや金融機関にとって、建て替えでも閉館でもない選択肢を具体的に示すものといえる。本稿では、減築の制度上の位置づけ、全国188軒ある200室以上の旅館・リゾートホテルの分布と開業年代、客室数帯別のADR、そして221室規模で2割・4割を減らした場合の分岐稼働率を順に読み解く。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。本稿の客室数帯別の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は、OTA等で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。個別施設の稼働率は算出していません。
  • 鶯宿2km圏の客室ストック:北緯39.638度・東経140.934度から半径2km圏で、2026年7〜10月の宿泊日について主要予約サイトで販売価格を確認できた施設の客室数。客室数は各社の公表資料、確認できない施設はメトロエンジンリサーチの施設情報による。
  • 全国の集計対象:業態が旅館またはリゾートホテルで、2026年7〜9月の宿泊日に販売価格を確認できた9,050施設・306,255室(主要予約サイト掲載ベース)。予約サイトに掲載のない施設は含みません。
  • 減築:建物の一部を除却して床面積や階数を減らす工事の通称。客室を広げる改装(減室)と異なり、建物そのものの規模が小さくなります。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
鶯宿2km圏の客室ストック
11軒・434室
主要予約サイト掲載ベース
最大施設のシェア
51%
221室÷434室
全国の200室以上
188軒
62,986室=客室の20.6%
固定資産除却損(開示)
約8億円
2027年4月期に計上予定
2割減築の分岐稼働率
58〜68%
221室モデル・本稿試算
Key Takeaways
  • — 221室が減築へ:日本ハウスホールディングスは2026年8月6日提出の臨時報告書で「ホテル森の風鶯宿」の建物の一部減築を開示。2027年4月期に固定資産除却損約800百万円を計上予定で、範囲・減築後の客室数・工期は記載がない
  • — 1施設が温泉地の51%:鶯宿2km圏で販売を確認できた11軒434室のうち221室を1施設が持ち、残る10軒の合計213室を上回る。2割減なら圏内は390室、4割減なら346室になる
  • — 200室以上は全国188軒・62,986室:旅館・リゾートホテル9,050施設の2.1%が客室の20.6%を持ち、96軒(51%)は1970〜1990年代の開業。1981年以前の開業も42軒・13,294室ある
  • — 規模による単価差は小さい:2025年9月〜2026年8月のADR中央値は客室数帯別に1.5万〜1.8万円で差は2,800円。差が出るのは分布の上側と、延床1㎡あたりGOP(大規模10.9千円・小規模19.1千円)である
  • — 分岐稼働率は2割減築で58〜68%、4割で42〜56%:221室モデルの試算。解体費は9万円/㎡で1.98億〜10.45億円、保有コスト減だけでの回収は9〜18年。残した客室の単価を数%上げられるかが成否を分ける

開示の中身 — 「収益性向上と運営効率化」を目的に建物の一部を減らす

まずは一次情報を確認しておきたい。臨時報告書は金融商品取引法にもとづく法定開示で、今回は「固定資産の譲渡」と「固定資産の除却」の2件が同時に報告された。鶯宿に関する記載は後者にあたり、取締役会の決議日は2026年7月30日となっている。

項目開示内容
提出書類臨時報告書(2026年8月6日提出、関東財務局長宛)
決議日2026年7月30日(取締役会)
対象ホテル森の風鶯宿(岩手県岩手郡雫石町)に関する固定資産の一部
内容ホテル建物の一部について減築
目的ホテル事業の収益性向上及び施設運営の効率化
業績への影響2027年4月期の連結・個別決算で固定資産除却損 約800百万円を計上予定
開示に記載のない事項減築する範囲、減築後の客室数、工期、工事費

出典:株式会社日本ハウスホールディングス「臨時報告書」(2026年8月6日提出)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

同じ報告書では、那須と箱根の4施設を信託受益権化したうえで譲渡し、固定資産売却益約4,500百万円を計上する予定も示された。物件の引渡しは2026年10月1日の予定で、譲渡で得る資金は住宅事業の成長投資、継続保有するホテルへの設備投資、借入金の返済に充てると説明されている。つまり鶯宿の減築は、保有を続けるホテルに経営資源を振り向ける「ホテルポートフォリオの最適化」の一部として位置づけられたものと読める。

ただし、約800百万円という金額の読み方には注意したい。固定資産除却損は帳簿上の資産を落とす会計処理に伴う金額であり、解体工事費そのものを示す数字ではない。内訳は開示されておらず、本稿でも減築の規模を逆算することはしない。以下では、同ホテルの221室という規模を起点に、同じ規模の施設一般に当てはまる構造を整理していく。

鶯宿2km圏は11軒434室 — 1施設が残り10軒の合計を上回る

鶯宿温泉は盛岡市の西隣、雫石町の南部に位置する温泉地である。メトロエンジンリサーチが半径2km圏で2026年7〜10月の宿泊日について販売を確認できた施設は11軒・434室だった。このうち221室が1施設に集まっており、残る10軒の合計213室を上回る。2番目に大きい施設は57室、3番目は37室で、100室を超える建物はほかにない。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=11施設・434室、主要予約サイト掲載ベース、2026年10月2日時点)。円の大きさは客室数、破線は半径2km

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=11施設・434室)。客室数は各社公表資料およびメトロエンジンリサーチの施設情報

施設業態客室数圏内シェア2026年の動き
ホテル森の風 鶯宿リゾートホテル22150.9%建物の一部を減築(8月開示)
源泉一途 岩手雫石旅館5713.1%7月1日にリニューアル開業
竹あかりの宿 加賀助旅館378.5%—
鶯宿温泉 ゆとりろ雫石旅館358.1%10月にリブランド開業
ホテルレムナント鶯宿旅館173.9%—
ホテル鶯旅館163.7%—
川長/清光荘旅館各12各2.8%—
温泉民宿 栄弥/小枝旅館/温泉民宿 あけぼの荘民宿・旅館10/9/8計6.2%—
合計11軒434100%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=11施設・434室)、各社プレスリリース。このほか予約サイトで販売を確認できない小規模旅館が施設情報上7軒・50室あり、含めた場合は18軒・484室(221室は46%)

ここで目を引くのは、2026年に入ってからの動きの多さである。7月には無加水・無加温の源泉を前面に出した57室の旅館「源泉一途 岩手雫石」がリニューアル開業し、10月には「鶯宿温泉の宿 赤い風車」が愛犬同伴客室を備えた35室の「鶯宿温泉 ゆとりろ雫石」としてリブランド開業した。この2軒だけで圏内客室の21%にあたる。そこへ最大施設の減築が重なるため、温泉街の客室の7割強が1年のうちに何らかの再投資の対象になった計算になる。

一方で、1施設が客室の半分を持つ温泉地では、その施設の規模の決め方がそのまま温泉地全体の受け入れ能力を決める。221室が仮に2割減れば圏内の客室は434室から390室へ、4割減れば346室へと変わる。規模の適正化は個社の投資判断であると同時に、温泉地の需給を組み替える判断でもあるといえる。

雫石町のADRは12か月平均で約1万円 — 全国の大型施設の56%、単価に伸びしろ

次に、町全体の単価水準を見ておきたい。雫石町には鶯宿のほか、スキー場周辺や小岩井方面の施設が含まれる。町全体の推定成約ADR(全業態・施設中央値)は、2025年9月〜2026年8月の12か月平均で10,000円と、前年同期の10,100円に対して−1.8%のほぼ横ばいだった。月別では2026年8月が10,800円(N=13)で前年同月の13,700円から−21.4%、年間の底にあたる6月は8,000円(N=12、前年同月比−16.9%)となっている。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(雫石町・全業態、N=11〜14施設)。2026年9〜12月は調査時点の掲載水準に基づく推定

ただし、対象が13施設前後と少ないため、月ごとの中央値は1施設の動きで入れ替わりやすい。実際、旅館だけを取り出すと2026年8月は10,700円(N=10)で、前年同月の8,500円から+26.4%と逆方向に動いている。単月の増減よりも、直近2年は8,000円〜1万3,000円台の範囲に収まっているという水準そのものに注目したい。後述する全国の200室以上の旅館・リゾートホテルは12か月平均の中央値が17,700円であり、雫石町はその56%にあたる。裏を返せば、単価には引き上げの余地が残る市場だと読める。

減築とは何か — 法令に定義はなく、手続きは「何を残すか」で決まる

それでは、減築は制度上どのように扱われるのか。建築基準法には「減築」という用語の定義がない。同法が確認申請を求めるのは、建築(新築・増築・改築・移転)と、大規模の修繕・大規模の模様替、一定の用途変更である。建物の一部を取り壊して床を減らすだけの工事は、このいずれにも直接は当たらない。

区分内容建築確認などの扱い(一般論)
増築既存の建物の床面積を増やす確認申請が必要(防火・準防火地域外の10㎡以内を除く)
改築全部または一部を除却し、用途・規模・構造が大きく変わらないものを建て直す確認申請が必要
大規模の修繕・模様替壁・柱・床・はり・屋根・階段のいずれかを過半にわたって改修する床面積200㎡超の旅館・ホテルは確認申請が必要
除却建物を取り壊す確認申請は不要。床面積10㎡超は建築物除却届が必要
減築建物の一部を除却して床面積や階数を減らす(通称)一部の除却にとどまれば確認申請の対象外。残す部分の主要構造部を過半にわたって改修する場合や、増築を伴う場合は確認申請が必要

出典:建築基準法(第2条・第6条・第15条)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。一般的な整理であり、個別案件の扱いは特定行政庁・指定確認検査機関の判断による

実務では、客室棟を切り離したあとの外壁を新設したり、エレベーターや設備配管の系統を組み直したりする工事が伴う。このため「残す側の建物にどこまで手を入れるか」が手続きの分かれ目になる。加えて、解体部分の床面積が80㎡以上であれば建設リサイクル法の事前届出と石綿の事前調査結果の報告が必要になり、旅館業の営業許可や消防用設備についても構造設備の変更として届出を行うことになる。

税と登記の面では、床面積が減ると保有コストが直接下がる。不動産登記法は、建物の床面積などに変更があった日から1か月以内に表題部の変更登記を申請するよう定めている。固定資産税は毎年1月1日時点の現況で課税されるため、年内に除却と登記を終えれば、翌年度から残った部分だけが家屋の課税対象になる。減価償却費、火災保険料、設備の保守点検費、空調や給湯の基本負荷といった費用も、多くが床面積に比例して動く。

背景にあるのは、政策面での後押しである。観光庁は令和8年度予算で「廃屋撤去・再生による地方温泉地等のまちづくり支援事業」(10億円、補助率3分の2)を設け、温泉街の中心地などにある廃旅館等の撤去・減築費を補助対象とした。事業資料は「個人旅行者向けにダウンスケールした旅館等であれば十分に事業性が成立しうる」と記しており、規模を小さくして再生するという考え方が国の事業に明記された形になる。対象は廃業した旅館等の再生だが、営業中の施設が自ら減築を選ぶ今回の事例は、同じ発想を運営継続のまま実行するものといえる。

耐震の観点も見逃せない。耐震改修促進法は、階数3以上かつ床面積5,000㎡以上の旅館・ホテルのうち旧耐震基準で建てられたものに耐震診断を義務づけている。上層階を減らして建物の重量を軽くする減築は、耐震改修の手法として用いられることもあり、床を減らす工事が安全性の向上と保有コストの圧縮を同時に満たす場合がある。旧耐震基準の施設が全国にどれだけ残り、改修と建替えのどちらに向かうかは、旧耐震ホテル23.6万室・全客室の19.1% — 改修か建替えか、588棟の分岐点で詳しく分析している。

200室以上の旅館・リゾートホテルは全国188軒 — 施設の2.1%が客室の20.6%を持つ

では、221室という規模は全国でどのくらい珍しいのか。業態が旅館またはリゾートホテルで、2026年7〜9月に販売を確認できた9,050施設・306,255室を客室数で区切ると、200室以上は188軒・62,986室だった。施設数では全体の2.1%にすぎないが、客室数では20.6%を占める。内訳はリゾートホテルが164軒・56,775室、旅館が24軒・6,211室で、1軒あたりの平均は335室、中央値は約270室である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=188施設・62,986室、主要予約サイト掲載ベース、2026年10月2日時点)

都道府県別では沖縄県が49軒・16,107室、北海道が39軒・12,145室で、この2道県だけで188軒の47%を占める。以下、千葉県10軒、新潟県7軒、長野県と静岡県が各6軒、福島県と群馬県が各5軒と続き、200室以上の施設がある都道府県は39にのぼる。岩手県は4軒・1,117室で、東北6県の合計は15軒・3,934室だった。なお、業態区分上のリゾートホテルには湾岸部や都市部の大型施設も含まれるため、千葉県や沖縄県の数値には温泉地以外の立地が相当数入っている。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=188施設、開業年はメトロエンジンリサーチの施設情報による)

開業年代で見ると、団体旅行が宿泊需要の中心だった1970〜1990年代に開業した施設が96軒・30,899室あり、軒数の51%、客室数の49%にあたる。1980年代が36軒、1990年代が43軒と、この20年に山が集中している。耐震基準が切り替わる1981年以前の開業に限っても42軒・13,294室が現役で販売を続けている。リブランドや再開業に合わせて開業年が新しくなった施設は新しい年代に数えているため、団体旅行期に建った建物は実際にはこれより多いと考えられる。

つまり、200室以上の旅館・リゾートホテルの半数は開業から27〜56年が経ち、設備更新と大規模修繕の時期を迎えている。宴会場や大浴場を含めた延床面積をそのまま更新するのか、床を減らしてから更新するのかは、今後10年でこの188軒の多くが向き合う論点になるだろう(築年帯ごとに重なる設備更新の規模は築25〜35年のホテル・旅館は21.4万室 — 設備更新が重なる10年を参照)。

規模と単価の関係 — ADR中央値は1.5万〜1.8万円で、客室数帯による差は小さい

規模を小さくすれば単価は上がるのか。この問いに答えるため、9,050施設を客室数で4つの帯に分け、2025年9月〜2026年8月の推定成約ADR(12か月平均)の中央値を比べた。結果は49室以下が15,200円、50〜99室が16,200円、100〜199室が18,000円、200室以上が17,700円で、帯による差は2,800円にとどまる。規模が大きいから単価が低い、という関係は中央値では確認できない。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=8,322施設、2025年9月〜2026年8月の推定成約ADR・12か月平均。帯は中央50%の範囲、点は中央値)

客室数帯施設数客室数ADR中央値中央50%の範囲上位10%の境界2026年8月の前年同月比稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)
49室以下7,518123,355¥15,157¥8,338〜¥25,080¥37,825−1.9%73.5%
N=61・1,107室
50〜99室94665,514¥16,244¥10,836〜¥22,685¥32,020−4.9%79.4%
N=85・5,718室
100〜199室39854,400¥17,966¥12,639〜¥24,854¥34,607−7.7%82.0%
N=80・10,414室
200室以上18862,986¥17,738¥12,523〜¥25,793¥32,350−11.0%86.0%
N=173・57,605室

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。ADRは12か月平均が算出できた8,322施設、前年同月比は2025年8月・2026年8月の両方を確認できた7,775施設の中央値どうしの比較。稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は2026年6〜8月の平均で、200室以上は販売在庫を確認できた173施設、ほかの帯は無作為に抽出して確認できた施設(61〜85施設)を客室数で加重(対象 計399施設/客室74,844室、主要予約サイト掲載ベース)。OTA等で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります

差が出るのは中央値ではなく、分布の上側である。上位10%の境界は49室以下で37,800円に達するのに対し、200室以上では32,400円にとどまる。小さな施設は単価の天井が高く、大きな施設は中央に集まりやすい。加えて、2026年8月の前年同月比は49室以下が−1.9%、50〜99室が−4.9%、100〜199室が−7.7%、200室以上が−11.0%と、規模が大きい帯ほど下げ幅が大きかった。客室数が多い施設ほど、需要が緩む局面で単価を譲って客室を埋める動きになりやすいことを示す結果といえる。

稼働の側はどうか。2026年6〜8月の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)を同じ帯で集計すると、49室以下が73.5%(対象61施設/客室1,107室)、50〜99室が79.4%(85施設/5,718室)、100〜199室が82.0%(80施設/10,414室)、200室以上が86.0%(173施設/57,605室)と、規模が大きい帯ほど高く出た(いずれも主要予約サイト掲載ベース)。ただし、この指標は予約サイトに出された在庫の消化状況から推定するもので、帯の間の差をそのまま実際の稼働の差と読むことはできない。大型の施設ほど旅行会社や自社予約など予約サイト以外の販路を持ち、宿泊日が近づいてから在庫を追加する運用や、予約サイトへの割当そのものを絞る契約も考えられるためである。日本旅館協会の調査でも、旅行会社経由の宿泊人員の比率は大規模が38.0%、小規模が18.3%と開きがある。

決算にもとづく稼働率は、業界団体の調査で確認できる。日本旅館協会の令和7年度営業状況等統計調査(令和6年度決算、有効回答151軒)によると、客室稼働率は大規模(100室以上)が61.1%、中規模が62.4%、小規模(30室以下)が59.2%とほぼ並ぶ一方、1室あたりの売上と利益は小規模が大きく上回る。

指標(令和6年度決算)大規模
100室以上
中規模
31〜99室
小規模
30室以下
有効回答数/平均客室数28軒/180室68軒/59室55軒/17室
客室稼働率(前年度比)61.1%(+9.1pt)62.4%(+1.4pt)59.2%(−4.7pt)
1日1室あたり単価(前年度比)51,001円(−19.0%)58,984円(+4.7%)82,700円(+20.8%)
1室あたり年間売上高11,002千円12,438千円15,435千円
1室あたりGOP1,431.9千円1,333.1千円2,579.7千円
延床1㎡あたりGOP10.9千円8.4千円19.1千円
1室あたり延べ面積132㎡159㎡133㎡
1室あたり就業者数0.80人1.20人1.50人

出典:一般社団法人日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査(令和6年度財務諸表等より)」。単価は総売上を販売客室数で割った値で、本稿の推定成約ADRとは集計の基準が異なる

この表で押さえたいのは、1室あたり延べ面積が規模を問わず130〜160㎡あるという点である。客室そのものが30〜50㎡だとすれば、宴会場・大浴場・ロビー・厨房・従業員動線を合わせて、旅館は1室につきその3〜4倍の床を抱えていることになる。延床1㎡あたりのGOPは大規模が10.9千円、小規模が19.1千円と開いており、床の広さに対してどれだけ稼げているかという尺度では、規模の小さい施設に分がある。減築は、この「床あたりの収益」を引き上げる方向の投資と位置づけられる。

試算 — 221室を2割・4割減らすと、分岐稼働率は58〜68%と42〜56%

ここからは、221室のモデル施設で減築の損得を試算する。特定の施設の実績ではなく、業界統計の平均値を当てはめた一般モデルである。考え方は単純で、床を減らすことで毎年浮く保有コストと、客室が減ることで繁忙日に取りこぼす売上の利益分を比べ、両者が釣り合う年間平均稼働率を「分岐稼働率」と呼ぶ。実際の稼働率が分岐稼働率を下回っていれば、減築によって年間の収支は改善する。

前提設定値根拠
モデル施設221室本稿の起点とした規模
1室1泊あたり売上51,001円日本旅館協会調査・大規模の1日1室あたり単価(食事・付帯売上を含む総売上ベース)
売上に連動する費用の比率50%同調査・大規模の原価率23.9%、営業費率12.7%などから、取りこぼした売上の半分が利益減になると仮定
日ごとの稼働の振れ年間平均±30ポイント平日と週末・繁忙日の差を単純化(範囲内に均等に分布すると仮定)
除却1室あたりの床面積A 50㎡/B 90㎡/C 132㎡Aは客室と廊下のみ、Cは同調査の1室あたり延べ面積(宴会場など付帯部分も比例して減らす)、Bはその中間
床面積に連動する保有コストA 5,000円/B 7,500円/C 10,000円(1㎡・年)家屋の固定資産税500〜1,100円、光熱の基本部分1,500〜2,900円、修繕・保守1,000〜3,000円、設備更新の年割り2,000〜3,000円の合計
解体費単価9万円(5.1万〜14.7万円)/㎡自治体が公表した解体工事契約5件の実額(税込)

出典:一般社団法人日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査」、各自治体公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。保有コストの内訳は編集部の設定値

保有コストの設定には幅を持たせた。設備更新の年割りは、宿泊業の設備投資が1室あたり年31万〜43万円という法人企業統計ベースの水準を、1室132㎡で割り戻した2,300〜3,300円を目安にしている。光熱と修繕・保守の合計は2,500〜5,900円で、協会調査の大規模旅館の業務費(延床1㎡あたり約1万3,700円)の18〜43%にあたる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。参照線は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報)の旅館38.4%と、日本旅館協会調査の大規模61.1%

シナリオ減築の規模除却床面積年間の保有コスト減分岐稼働率解体費(9万円/㎡)単純回収年数
A 客室棟のみ・低コスト2割(221→177室)2,200㎡1,100万円58.1%1.98億円18.0年
4割(221→133室)4,400㎡2,200万円41.5%3.96億円
B 標準2割(221→177室)3,960㎡2,970万円63.3%3.56億円12.0年
4割(221→133室)7,920㎡5,940万円48.8%7.13億円
C 付帯部分も比例縮小・高コスト2割(221→177室)5,808㎡5,808万円68.5%5.23億円9.0年
4割(221→133室)11,616㎡1億1,616万円56.2%10.45億円

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。単純回収年数は解体費÷年間の保有コスト減(売上の取りこぼしがない場合)。切り離し面の外壁新設や設備系統の再構築、工事中の休業による影響は含まない

結果を整理すると、2割の減築で分岐稼働率は58.1〜68.5%、4割では41.5〜56.2%になる。2割減築の分岐点が高いのは、客室が177室に減っても、取りこぼしが生じるのは稼働が80%を超える日に限られるためである。年間平均が6割の施設でも、8割を超える日はモデル上、年間の約6分の1にとどまる。対して4割減築では、稼働が60%を超える日のすべてで満室になるため、平均稼働が5割を超える施設では取りこぼしが一気に膨らむ。

この分岐点を公的統計と重ねると、位置づけがはっきりする。観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、2025年の客室稼働率は全体が61.8%(前年比+2.2ポイント)であるのに対し、旅館は38.4%だった。年間平均が38.4%の施設であれば、2割の減築では取りこぼしがまったく生じず、4割の減築でも取りこぼしによる利益減は年1,160万円にとどまり、3つのシナリオすべてで保有コスト減のほうが大きい。一方、日本旅館協会調査の大規模平均である61.1%の施設では、2割減築はシナリオAで年980万円の持ち出し、BとCではプラスになる。4割減築は3シナリオとも保有コスト減だけでは届かず、差額は年4,770万〜1億4,190万円になる。

ただし、この差額は単価で埋められる範囲にある。稼働61.1%の施設が4割減築した場合、残した133室の単価を2.2〜6.5%引き上げれば収支は釣り合う(単価上昇分がそのまま利益になると仮定)。同調査の東北・大規模の平均稼働54.5%で置き直すと、2割減築は全シナリオでプラス、4割減築はAで3.9%、Bで2.1%の単価引き上げが分岐点になり、Cでは単価据え置きでもプラスに転じる。客室が減れば繁忙日の希少性は高まり、浮いた保守費を残した客室の改装に回す余地も生まれる。減築の成否を分けるのは、保有コスト減そのものより、残した客室の単価を数%上げられるかどうかだといえる。

初期費用の重さも押さえておきたい。解体費は自治体が公表した契約実額で延床1㎡あたり5.1万〜14.7万円と幅があり、中央の9万円を置くと、シナリオBの2割減築で3.56億円、4割減築で7.13億円になる。保有コスト減だけで回収するには9〜18年かかる計算で、短期の回収を見込む投資ではない。更新時期を迎えた設備を「更新せずに済む」効果や、耐震改修費の圧縮、単価の引き上げを合わせて初めて成立する、長期の資産戦略と捉えるのが妥当だろう。解体費の実額レンジと建て替え時に床が減る側の原価については、ホテル建替えの解体費は㎡5.1万〜14.7万円 — 容積30%減で1室原価+12%が背景を掘り下げている。なお、売上の単価を本稿モデルの半分(2万5,500円)に置くと、分岐稼働率は2割減築で61.4〜77.1%、4割減築で46.2〜67.0%まで上がる。単価が低い施設ほど、客室を減らすことによる取りこぼしの痛みは小さく、減築が成立しやすい。

立地の確認 — 用途地域の指定なし、川沿いと斜面に警戒区域、人口は2040年にほぼ半減

最後に、鶯宿温泉の立地条件を公的データで確認する。国土交通省の不動産情報ライブラリによると、温泉街は雫石町の都市計画区域内にあり、用途地域は指定されていない。用途の制限が緩い一方で、建蔽率や容積率は特定行政庁が区域ごとに定める値に従うことになる。

項目鶯宿温泉2km圏の状況
都市計画都市計画区域内・用途地域の指定なし
洪水浸水想定区域鶯宿川と南川の想定最大規模の浸水想定区域が圏内にかかる(浸水深の区分は0.5m未満から5〜10mまで)
土砂災害警戒区域警戒区域16・特別警戒区域14(種類別では土石流17、急傾斜地の崩壊12、地すべり1)
液状化山地・丘陵・谷底低地が中心で、液状化の発生傾向は「しにくい」〜「ややしにくい」
地価(雫石駅周辺)地価公示(2026年1月1日):商業地22,400円/㎡(前年比−2.6%)、住宅地14,900円/㎡(同−0.7%)。地価調査(同7月1日):商業地17,000円/㎡(同−1.7%)、住宅地12,500円/㎡(同−0.8%)
居住人口2020年775人 → 2040年399人(−48.5%)。2025年の高齢比率は56.0%

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(都市計画区域・用途地域・洪水浸水想定区域・土砂災害警戒区域・液状化・地価公示・都道府県地価調査)、国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。地価の地点は温泉街から約6.5〜7.5km離れた雫石駅周辺で、公示と調査は別地点

川沿いの谷に開けた温泉地らしく、鶯宿川と南川の浸水想定区域が圏内を通り、背後の斜面には土石流や急傾斜地の警戒区域が並ぶ。山あいの温泉地の多くに共通する条件であり、建物配置を見直す際の前提として押さえておきたい。床を減らす工事は、どの棟を残すかを選び直す機会でもあるため、避難動線や敷地内の配置を合わせて検討できる。

地価は町内でもっとも高い雫石駅周辺の商業地で1㎡あたり2万円台前半である。土地の評価額が小さい立地では、保有コストの大半が建物の側に乗る。固定資産税、修繕、設備更新のいずれも床面積に連動するため、建物を小さくする効果が相対的に出やすい立地といえる。

出典: 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)。居住人口(国勢調査ベース)であり、滞在・通過人口ではない

人口の面では、半径2km圏の居住人口が2020年の775人から2040年には399人へと48.5%減る推計になっている。2025年時点で65歳以上が56.0%を占め、15〜64歳は230人にとどまる。総務省・経済産業省の経済センサス(2021年)では同じ圏内の従業者数が737人と居住人口に近い規模で、働き手の多くを圏外からの通勤に頼っていることがうかがえる(地方部は就業データが小さめに出る傾向がある)。協会調査の大規模旅館は1室あたり0.80人の就業者を抱えており、221室規模なら約180人が必要になる計算である。開示が目的に挙げた「施設運営の効率化」は、こうした労働力の見通しと重ねると理解しやすい。

運営者・金融機関・設計施工への示唆 — 「何室売れているか」を棟ごとに数える

大型施設のオーナーにとって、検討の出発点は棟ごと・フロアごとの販売実績を数えることにある。試算が示すように、2割の減築で取りこぼしが生じるのは稼働が8割を超える日だけである。直近1年で8割を超えた日が何日あり、その日に何室が動いたかを数えれば、減らせる客室数の上限はおのずと見えてくる。年間数十泊しか動かない客室棟を持ち続ける費用と、その棟が繁忙日に生む利益を並べて比べたい。

金融機関にとっては、除却損と返済原資を分けて見ることが有効といえる。除却損のうち帳簿価額を落とす部分は現金の流出を伴わず、現金が出ていくのは解体費と残す側の改修費である。減築後は固定資産税や保守費が恒常的に下がり、設備更新の対象面積も小さくなる。返済計画を減築後の客室数と保有コストで組み直せば、同じ売上でも返済余力は厚くなる。更新投資の融資と減築を一体で設計することで、資金使途の説明もしやすくなるだろう。

設計・施工会社にとっては、切り離し面の処理と営業を続けながらの工程が提案の中心になる。客室棟を外したあとの外壁、エレベーターや配管の系統、消防用設備の区画をどう再構成するかで、確認申請の要否と工事費が変わる。延べ面積が減ることで適用される設備基準の区分が変わる場合もあるため、消防・建築の両面で早い段階から所管行政庁と協議しておきたい。観光庁の新事業が廃旅館の減築を補助対象に加えたことで、温泉地での減築工事の実績は今後増えていくと考えられる。

まとめ

ここまでを整理すると、要点は4つある。第一に、鶯宿温泉では2km圏11軒434室のうち221室を1施設が持ち、その施設が建物の一部を減築すると開示した。第二に、200室以上の旅館・リゾートホテルは全国に188軒・62,986室あり、その51%が1970〜1990年代の開業である。第三に、客室数帯別のADR中央値は1.5万〜1.8万円で規模による差は小さく、差が出るのは分布の上側と、床あたりの収益である。第四に、221室モデルの分岐稼働率は2割減築で58〜68%、4割減築で42〜56%となり、旅館の全国平均38.4%の水準であればどちらも保有コスト減が上回る。

減築は、売れている客室を削る施策ではない。繁忙日にしか動かない床を持ち続ける費用を止め、残した客室に投資を集める判断である。建て替えるには需要が読みにくく、閉じるには温泉地への影響が大きい。その間にある選択肢として、建物の規模を需要に合わせ直すという投資判断が、上場企業の開示という形で示された意味は大きい。更新時期を迎える188軒にとって、床面積そのものを経営指標として見直す契機になるだろう。

よくある質問

Q. 減築に建築確認は必要ですか。

A. 建物の一部を取り壊すだけであれば、原則として確認申請の対象にはなりません。ただし、残す部分の壁・柱・床などを過半にわたって改修する場合や、増築を伴う場合は必要です。床面積10㎡を超える除却には建築物除却届が求められます。個別の扱いは特定行政庁や指定確認検査機関にご確認ください。

Q. 減築すると固定資産税はいつから下がりますか。

A. 固定資産税は毎年1月1日時点の現況で課税されます。年内に除却を終え、床面積の変更から1か月以内に表題部の変更登記を済ませれば、翌年度から残った部分が課税対象になります。

Q. 何室まで減らすのが妥当ですか。

A. 本稿の221室モデルでは、年間平均稼働率が58〜68%を下回る施設なら2割、42〜56%を下回る施設なら4割の減築で年間収支が改善する試算になりました。実際には、稼働が高い日に何室売れているかを棟ごとに確認して決めることになります。

将来日程のADRに関する注意:本記事のグラフに含まれる2026年9〜12月のADRは、調査時点(2026年10月2日)でOTA等に公開されている販売価格にもとづく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。試算は公表統計の平均値と編集部の設定値による簡易なもので、実際の投資判断には個別施設の実績にもとづく詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

鶯宿2km圏の客室ストックと全国の旅館・リゾートホテル(9,050施設・306,255室)の施設数・客室数・開業年、推定成約ADR、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(主要予約サイト掲載ベース、2026年10月2日時点)。減築の開示内容は日本ハウスホールディングスの臨時報告書、規模別の経営指標は日本旅館協会「令和7年度 営業状況等統計調査」、客室稼働率の全国値は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報)、立地条件は国土交通省 不動産情報ライブラリと国土数値情報による。

■ 試算前提

221室のモデル施設に業界統計の平均値を当てはめた一般モデルで、特定施設の実績ではない。1室1泊あたり売上51,001円、売上に連動する費用の比率50%、日ごとの稼働は年間平均±30ポイントの範囲に均等に分布すると仮定。除却1室あたりの床面積は50㎡/90㎡/132㎡、床面積に連動する保有コストは1㎡あたり年5,000円/7,500円/10,000円の3シナリオ、解体費は9万円/㎡(5.1万〜14.7万円)。分岐稼働率は、年間の保有コスト減と、客室減により繁忙日に取りこぼす売上の利益分が釣り合う年間平均稼働率を指す。

■ 限界・留意点

臨時報告書は減築の範囲・減築後の客室数・工期・工事費を開示しておらず、本稿は減築の規模を推定していない。推定成約ADRは公開されている販売価格にもとづく推定値で、雫石町は対象が11〜14施設と少なく、月次の中央値は1施設の動きで変わりやすい。稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は予約サイト以外の販路を反映せず、客室数帯の間の差を実際の稼働の差とは読めない。試算には切り離し面の外壁新設、設備系統の再構築、工事中の休業、減築後の単価・稼働の変化を含めていない。保有コストの内訳は編集部の設定値である。

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