新規開業を「軒数」で数えるのと「客室数」で数えるのとでは、まったく違う絵が出てくる。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で2026年に開業が確認できた宿泊施設は1,414軒あり、そのうち48.1%(680軒)は貸別荘、いわゆる一棟貸しである。ところが同じ1,414軒を客室数で数え直すと、貸別荘の占める割合は3.1%(1,111室)まで縮む。逆にビジネスホテル・シティホテル・リゾートホテルといったホテル系業態は軒数では22.5%(318軒)にすぎないが、客室数では85.0%(30,890室)を占める。本稿では、この「軒数と室数の入れ替わり」を業態別・都道府県別に集計し、既存ストックの構造と突き合わせたうえで、一棟貸しの掲載価格が高く出る理由まで整理する。
本記事における指標の定義
- 集計母集団:メトロエンジンリサーチが把握する国内47都道府県の宿泊施設マスター(OTA掲載確認ベース、N=77,802軒/延べ2,167,562室)。全数調査ではなく、OTA上で掲載が確認できた施設に限られる。本文で「既存ストック」と呼ぶのはこの母集団である。うちOTA上で稼働が確認できるのは約27,000施設・約126万室で、掲載休止中・季節営業中の施設も母集団に含む。
- 2026年開業:同じ母集団のうち開業年が2026年の施設(N=1,414軒/36,338室)。前年との比較は同一の抽出条件で再集計したものを用いる。
- 客室数:施設マスター上の客室数の合計。一棟貸しは建物1棟を1〜2室として登録するのが一般的で、実際の受け入れ人数は室数に比例しない。したがって本稿の客室数はいずれも下限値として提示する(2026年開業では客室数が未登録の施設は1,414軒中8軒=0.6%)。
- 掲載価格:OTA上で公開されている販売価格の全プラン平均。2名1室(一棟貸しは1棟)利用時の1室あたり料金・税込。
- ADR(推定成約ADR):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。エリア単位のADRは対象施設の中央値。検証済みの業態(ビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセル)のみ算出可能で、貸別荘には適用しないため、一棟貸しについては掲載価格のみを扱う。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)
- — 2026年に開業が確認できた1,414軒の48.1%(680軒)は貸別荘=一棟貸し。同じ母集団を客室数で数え直すと、貸別荘の比率は3.1%(1,111室)まで縮む。
- — ホテル系(ビジネス・シティ・リゾート等)は軒数では22.5%(318軒)にすぎないが、客室数では85.0%(30,890室)を占める。軒数と室数で供給の主役が入れ替わる。
- — 都道府県でも同じ逆転が起きる。大阪府は軒数12位(42軒)でも客室数では3,020室で首位。1軒あたり客室数は大阪府71.9室に対し大分県7.9室で9.1倍の開きがある。
- — 一棟貸しの掲載価格はビジネスホテルの2.7〜4.3倍に出るが、単位が「1棟」対「1室」で異なる。5名以上の予約に価格を出している施設は貸別荘80.3%対ビジネスホテル13.7%。
- — 一棟貸し供給が競合するのは客室在庫の総量ではなくグループ・多人数滞在の需要層。供給評価は軒数・室数・受け入れ人数の3つを分けて読む必要がある。
2026年開業1,414軒の48.1%は一棟貸し、客室数では3.1%
まず業態別に並べてみる。2026年に開業が確認できた1,414軒のうち最大カテゴリは貸別荘の680軒で、全体の48.1%にあたる。2位はビジネスホテルの186軒(13.2%)、3位はホステルの103軒(7.3%)と続く。軒数の並びだけを見れば、2026年の新規開業は一棟貸しが半分を占める市場である。
ところが客室数で並べ替えると順位は完全に入れ替わる。ビジネスホテルが18,927室(52.1%)で首位、リゾートホテルが6,763室(18.6%)、シティホテルが4,851室(13.3%)と続き、貸別荘は1,111室(3.1%)で6位相当まで下がる。1軒あたりの平均客室数はシティホテルが115.5室、ビジネスホテルが101.8室である一方、貸別荘は1.6室、町家は1.8室にとどまる。軒数と室数のどちらで数えるかで、供給の主役が入れ替わるということだ。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,414軒)
| 業態 | 軒数 | 軒数シェア | 客室数 | 室数シェア | 1軒あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 貸別荘 | 680 | 48.1% | 1,111 | 3.1% | 1.6室 |
| ビジネスホテル | 186 | 13.2% | 18,927 | 52.1% | 101.8室 |
| ホステル | 103 | 7.3% | 1,970 | 5.4% | 19.1室 |
| リゾートホテル | 82 | 5.8% | 6,763 | 18.6% | 82.5室 |
| ゲストハウス | 75 | 5.3% | 317 | 0.9% | 4.2室 |
| コテージ | 64 | 4.5% | 624 | 1.7% | 9.8室 |
| 旅館 | 49 | 3.5% | 731 | 2.0% | 14.9室 |
| 町家 | 43 | 3.0% | 79 | 0.2% | 1.8室 |
| シティホテル | 42 | 3.0% | 4,851 | 13.3% | 115.5室 |
| 民宿 | 23 | 1.6% | 116 | 0.3% | 5.0室 |
| 合計(全業態) | 1,414 | 100% | 36,338 | 100% | 25.7室 |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,414軒/36,338室・下限値)
業態を3つのグループにまとめると構造がさらに見やすくなる。ホテル系(ビジネス・シティ・リゾート・デラックス・カプセル)は318軒=22.5%で30,890室=85.0%。一棟貸し系を含む分散型(貸別荘・コテージ・町家・ゲストハウス・グランピング・ペンション・民宿・ロッジ・農家民宿・オーベルジュ)は924軒=65.3%で2,496室=6.9%。旅館・ホステルなど中間層が172軒=12.2%で2,952室=8.1%である。つまり軒数の3分の2は分散型、室数の8割超はホテル系という二層構造になっている。
この比率は前年からさらに一段進んだ。同一の抽出条件で2025年開業を再集計すると1,743軒/41,227室で、貸別荘は748軒=42.9%だった。軒数シェアは42.9%から48.1%へ5.2ポイント上がっている。ただし2026年は後述する観測リードタイムの影響で軒数・室数の絶対値がまだ増える途中にあるため、絶対値での前年比較は行わず、構成比の変化としてのみ読むのが妥当である。
数え方を替えると答えがどこまで動くか(感度)
| 問い | 軒数で答えると | 客室数で答えると | 開き |
|---|---|---|---|
| 2026年開業の最大カテゴリは | 貸別荘 48.1% | ビジネスホテル 52.1%(貸別荘は3.1%) | 貸別荘シェアが15.5倍の差 |
| ホテル系の比重は | 22.5% | 85.0% | 3.8倍 |
| 山梨県と大阪府ではどちらの供給が大きいか | 山梨県(51軒 > 42軒) | 大阪府(3,020室 > 434室) | 結論が逆転・室数で7.0倍 |
| 1軒あたり規模の最大と最小 | — | 大阪府71.9室/大分県7.9室 | 9.1倍 |
同一母集団(2026年開業 N=1,414軒/36,338室)を分母だけ替えて集計したもの。順位・シェアはいずれも本稿の集計範囲内での比較であり、全数調査ではない。
大阪は1軒あたり71.9室、大分は7.9室 — 県の順位も数え方で入れ替わる
同じ現象は都道府県別にも現れる。軒数で並べると首位は北海道の136軒(全体の9.6%)、次に沖縄県87軒(6.2%)、東京都83軒(5.9%)、静岡県83軒(5.9%)、京都府73軒(5.2%)と続く。ここに大阪府は42軒(3.0%)で12位に位置する。
しかし客室数で並べ替えると、大阪府は3,020室で全体の8.3%を占め、沖縄県(2,902室・8.0%)や北海道(2,703室・7.4%)を上回って首位に立つ。軒数シェア3.0%に対して室数シェア8.3%、その差は5.3ポイントである。大阪府の2026年開業は1軒あたり平均71.9室で、42軒のうち一棟貸し・コテージは7軒(17%)にとどまる。都市部の集合型ホテルが供給の主体だということだ。
逆方向に振れるのが静岡県と京都府である。静岡県は軒数シェア5.9%に対し室数シェア3.1%(差+2.8ポイント)、京都府は5.2%に対し2.4%(差+2.7ポイント)。山梨県は3.6%対1.2%(差+2.4ポイント)で、51軒のうち78%が一棟貸し・コテージである。1軒あたり平均客室数で見ると、最も大きい大阪府の71.9室と、最も小さい大分県の7.9室で9.1倍の開きがある。大分県の39軒のうち72%は一棟貸し・コテージだ。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2026年開業 軒数上位22県)
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2026年開業 軒数上位22県)
| 都道府県 | 軒数 | 軒数シェア | 客室数 | 室数シェア | 乖離 | 1軒あたり | 一棟貸し・コテージ比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 静岡県 | 83 | 5.9% | 1,118 | 3.1% | +2.8pt | 13.5室 | 69% |
| 京都府 | 73 | 5.2% | 888 | 2.4% | +2.7pt | 12.2室 | 21% |
| 山梨県 | 51 | 3.6% | 434 | 1.2% | +2.4pt | 8.5室 | 78% |
| 北海道 | 136 | 9.6% | 2,703 | 7.4% | +2.2pt | 19.9室 | 69% |
| 長野県 | 61 | 4.3% | 866 | 2.4% | +1.9pt | 14.2室 | 57% |
| 大分県 | 39 | 2.8% | 309 | 0.9% | +1.9pt | 7.9室 | 72% |
| 鹿児島県 | 39 | 2.8% | 363 | 1.0% | +1.8pt | 9.3室 | 77% |
| 神奈川県 | 38 | 2.7% | 1,444 | 4.0% | -1.3pt | 38.0室 | 61% |
| 沖縄県 | 87 | 6.2% | 2,902 | 8.0% | -1.8pt | 33.4室 | 60% |
| 大阪府 | 42 | 3.0% | 3,020 | 8.3% | -5.3pt | 71.9室 | 17% |
乖離=軒数シェア−室数シェア。プラスは軒数の方が目立つ県、マイナスは室数の方が大きい県。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,414軒)
ここで実務的な含意が出てくる。開業件数のプレスリリースを数えて「今年はこの県に○軒できた」と把握しても、それが自館の商圏にどれだけの客室在庫を追加したかは分からない。山梨県で51軒が増えたことと、大阪府で42軒が増えたことは、客室在庫という尺度では434室対3,020室、およそ7倍の差である。逆に、一棟貸しが多い県では1軒あたりの規模が小さいぶん、立地が細かく散る。同じ434室が1軒の大型ホテルに集まるのか、40軒以上の一棟貸しに分かれて別荘地・温泉地の各所に点在するのかで、需要をどう分け合うかの性質が変わる。供給を数える分母を替えると県の並びがどこまで動くかは、県別の宿泊供給は分母で入れ替わる — 簡易宿所44,901施設で京都21位→5位でも同じ論点を扱っている。
既存ストックにも同じ構造 — 軒数20.8%の旅館が室数では12.8%
この二層構造は2026年の新規開業に限った話ではない。既存ストック77,802軒/2,167,562室を同じように分解すると、軒数の最大カテゴリは旅館の16,196軒(20.8%)で、客室数では277,279室(12.8%)。ビジネスホテルは軒数11,059軒(14.2%)に対して客室数1,006,416室(46.4%)を占める。貸別荘は軒数で9,302軒=12.0%の第3位だが、客室数では15,303室=0.7%にすぎない。
3グループでまとめると、既存ストックはホテル系15,379軒=19.8%/1,481,568室=68.4%、分散型33,065軒=42.5%/165,275室=7.6%、中間層29,358軒=37.7%/520,719室=24.0%となる。2026年新規(ホテル系22.5%/85.0%、分散型65.3%/6.9%)と比べると、室数ベースの構成比はストックと新規でよく似ているのに対し、軒数ベースでは分散型が42.5%から65.3%へ大きく振れている。新規開業で増えているのは「軒数としての分散型」であり、「室数としてのホテル系」の比重はストックと大きく変わっていない、という読み方になる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、既存ストックN=77,802軒/2026年新規N=1,414軒)
一棟貸しの集積が既に厚い県も押さえておきたい。貸別荘・コテージの既存ストックを都道府県別に数えると、沖縄県1,921軒、北海道1,012軒、長野県743軒、静岡県651軒、京都府631軒、千葉県596軒、山梨県516軒という順になる。2026年の新規はこの上に積み上がる形で、北海道94軒、静岡県57軒、沖縄県52軒、山梨県40軒が加わった。山梨県は既存516軒に対して新規40軒で、既存比7.8%の追加である。同じ商圏内で一棟貸しの棟数が着実に増える県では、エリア単位での需給を軒数ではなく受け入れ人数の規模で把握する必要が出てくる。静岡県で何がどこに積み上がっているかは、静岡県に2026年開業67施設 — 伊豆・熱海に積み上がる小箱供給で伊豆・熱海の内訳まで分解している。
一棟貸しの掲載価格はビジネスホテルの2.7〜4.3倍 — ただし単位が違う
軒数と室数の話に価格を重ねると、もうひとつ注意すべき構造が見えてくる。一棟貸しが厚い県について、2026年7月の掲載価格(全プラン平均・税込)を業態別に取ると、貸別荘は長野県で¥69,900(N=302軒)、北海道で¥55,500(N=455軒)、静岡県で¥49,400(N=369軒)、山梨県で¥45,700(N=345軒)、沖縄県で¥44,900(N=768軒)である。同じ県のビジネスホテルの掲載価格は長野県¥16,100(N=171軒)、北海道¥20,400(N=417軒)、静岡県¥14,100(N=225軒)と、水準は2.7〜4.3倍の開きになる。
ただしこれを「一棟貸しの方が単価が高い」と読むのは早い。掲載価格の単位はビジネスホテルでは1室、一棟貸しでは1棟である。前述のとおり一棟貸しの登録客室数は平均1.6室で、建物1棟をまるごと販売する。したがって同じ「1室あたり料金」の欄に並んでいても、比べているものが違う。
| 都道府県 | 貸別荘 掲載価格 (1棟あたり・税込) |
ビジネスホテル 掲載価格 (1室あたり・税込) |
水準比 | 参考:ビジネスホテル 推定成約ADR |
|---|---|---|---|---|
| 長野県 | ¥69,900 N=302 | ¥16,100 N=171 | 4.3倍 | ¥8,100 N=167 |
| 静岡県 | ¥49,400 N=369 | ¥14,100 N=225 | 3.5倍 | ¥7,300 N=221 |
| 山梨県 | ¥45,700 N=345 | ¥15,900 N=78 | 2.9倍 | ¥8,000 N=73 |
| 大分県 | ¥36,800 N=168 | ¥13,000 N=86 | 2.8倍 | ¥6,100 N=91 |
| 北海道 | ¥55,500 N=455 | ¥20,400 N=417 | 2.7倍 | ¥11,200 N=432 |
| 沖縄県 | ¥44,900 N=768 | ¥16,700 N=209 | 2.7倍 | ¥9,500 N=195 |
| 大阪府 | ¥23,800 N=103 | ¥14,000 N=550 | 1.7倍 | ¥8,400 N=497 |
2026年7月。掲載価格は2名1室(貸別荘は1棟)利用時の全プラン平均・税込。推定成約ADRは検証済み業態のみ算出可能で、貸別荘には適用しない。出典:メトロエンジンリサーチ
出典:メトロエンジンリサーチ(2026年7月・掲載価格。貸別荘は1棟あたり、ビジネスホテルは1室あたり)
単位の違いを受け入れ人数の側から確かめてみる。長野県・岐阜県・静岡県の3県について、2026年9月19日〜21日チェックインで人数別に価格が提示されている施設を数えると、貸別荘は2名で665軒に価格が出ているのに対し、5名でも534軒(2名基準の80.3%)、8名でも105軒(15.8%)に価格が出ている。同じ条件でビジネスホテルは2名511軒に対し5名70軒(13.7%)、8名3軒(0.6%)。旅館は2名1,217軒に対し5名718軒(59.0%)、8名30軒(2.5%)である。
| 業態 | 2名で価格提示 | 5名でも提示 | 8名でも提示 |
|---|---|---|---|
| 貸別荘 | 665軒 | 534軒(80.3%) | 105軒(15.8%) |
| 旅館 | 1,217軒 | 718軒(59.0%) | 30軒(2.5%) |
| ビジネスホテル | 511軒 | 70軒(13.7%) | 3軒(0.6%) |
長野県・岐阜県・静岡県、2026年9月19日〜21日チェックイン。括弧内は2名で価格提示のある施設数に対する比率。出典:メトロエンジンリサーチ
一棟貸しは5名以上の予約に価格を出している施設が8割を占める。1棟あたりの掲載価格が高く出るのは、受け入れ人数がそのぶん大きいからであって、1人あたりで見た水準が高いことを意味しない。供給を室数で数えると小さく見え、価格を1室単位で見ると大きく見える — 一棟貸しはこの二重の見え方をする業態だということになる。
既存宿にとっての読み方 — 分け合う相手は「室」ではなく「グループ」
では既存の宿はこの構造をどう使えるだろうか。ここまでの数字が示しているのは、一棟貸し中心の供給増が、客室在庫の総量ではなく特定の需要層に集中して重なるということである。5名以上の価格提示率が80.3%という一棟貸しに対し、ビジネスホテルは13.7%。両者が直接同じ予約を取り合う場面は限られる。重なるのはファミリー・グループ・多人数での滞在需要であり、そこは旅館(5名以上で59.0%)が従来から強い領域だ。
したがって、一棟貸しの棟数が増えている県ほど、既存宿には「グループ需要で選ばれる理由」を明確にする余地が広がる。一棟貸しが提供しづらいものを持っているなら、そこが伸びしろになる。食事の提供、大浴場・温泉、送迎、複数世代での滞在に対応した部屋の組み合わせ、当日の細かなリクエストへの対応といった要素は、棟数が増えても自動的に増えるものではない。山梨県のように既存516軒の一棟貸しストックに年40軒が加わる商圏では、グループ向けプランの構成と、複数室を組み合わせた提案の設計が、そのまま収益機会になり得る。
もうひとつは、軒数の増加が需給の見積もりに与える影響である。一棟貸しは1軒あたり平均1.6室で、しかも大型施設と違って在庫の出方が読みにくい。エリアの需給を判断するときは、開業軒数のニュースをそのまま在庫増と受け取るのではなく、受け入れ人数の規模に換算してから読むのが実務的である。北海道の2026年開業136軒は客室数では2,703室で、これは大阪府の42軒=3,020室を下回る。ニュースの本数と商圏に入る在庫の量は、比例しない。追加された室数を既存ストックと突き合わせた供給圧の順位は、新規開業ホテルの供給圧ランキング2026-2027にまとめてある。
データの前提と限界 — 母集団・観測リードタイム・下限値
本稿の集計には3つの前提がある。読み違いを避けるため明示しておく。
第一に、母集団はOTA掲載確認ベースであり全数調査ではない。メトロエンジンリサーチが把握する国内47都道府県の宿泊施設マスターは77,802軒(延べ2,167,562室)で、うちOTA上で稼働が確認できるのは約27,000施設・約126万室である。OTAに掲載されていない旅館・民宿・簡易宿所は含まれない。したがってすべての軒数・室数は「メトロエンジンリサーチが把握する範囲で」の数字である。
第二に、2026年の月別開業数は観測リードタイムの影響を受ける。OTA掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の月は構造的に少なく出る。2026年の月別内訳は1月241軒、2月161軒、3月197軒、4月209軒、5月155軒、6月155軒、7月164軒、8月71軒だが、9月20軒、10月21軒、11月7軒、12月13軒と急に細る。これは供給が消えるのではなく、掲載がまだ出ていないだけである。実際、当媒体が同じデータを別の時点で集計した記事では2026年開業を556軒・のちに1,351軒として報じており、時間の経過とともに数字は増えてきた。今回の1,414軒も現時点での観測値であり、年内・来年にかけてさらに増える。年内の絶対値比較は避け、構成比で読むべき理由がここにある。
観測がどこまで埋まりうるか — 補正レンジ
「さらに増える」を幅として置いておく。2026年の1〜7月は合計1,282軒が観測できており、8〜12月は現時点で合計132軒にとどまる。同一条件で再集計した2025年は1〜7月1,096軒に対し8〜12月648軒(1〜7月比59.1%)で着地した。この2025年の月別分布を2026年の1〜7月実績に当てはめると通年で約2,040軒、1〜7月の月次平均183軒がそのまま続いた場合は約2,198軒となる。つまり現在の1,414軒は、最終的におよそ2,000〜2,200軒(現時点比 +45〜55%)へ埋まる位置にあると読むのが妥当である。
これは開業の予測ではなく、掲載の遅れによる観測の埋まり方を機械的に外挿した補正レンジである。実際の着地は掲載タイミングと母集団の更新に依存する。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、2026年 N=1,414軒/2025年 N=1,743軒)
第三に、客室数はいずれも下限値である。2026年開業1,414軒のうち客室数が未登録なのは8軒(0.6%)と少ないが、そもそも一棟貸しは建物1棟を1〜2室として登録するのが一般的で、受け入れ可能人数は室数に比例しない。客室数36,338室は「登録された室数の合計」であって、追加された宿泊キャパシティの上限ではない。前節の人数別価格提示率は、この差を補うための補助指標として置いた。
⚠ 将来日程の価格に関する注意:本記事の掲載価格・推定成約ADRのうち、2026年8月以降の水準は調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動する。本文の価格は原則として実績が確定している2026年7月の値を用いた。人数別の価格提示率は2026年9月19日〜21日チェックインの調査時点スナップショットである。
まとめ
2026年に開業が確認できた1,414軒のうち48.1%は一棟貸しだが、客室数では3.1%。ホテル系は軒数22.5%で室数85.0%。同じ供給を数え方を変えるだけで、主役が入れ替わる。都道府県でも同じことが起き、大阪府は軒数12位でも室数では首位、静岡県・京都府・山梨県は軒数の方が大きく見える。1軒あたり平均客室数は大阪府71.9室と大分県7.9室で9.1倍の開きがある。
既存ストックを同じ尺度で分解すると、室数構成はストックと新規で似通っており、変化しているのは軒数ベースの分散型比率(42.5%→65.3%)である。一棟貸しの掲載価格がビジネスホテルの2.7〜4.3倍に出るのは単位が1棟だからで、5名以上の価格提示率80.3%という受け入れ人数の差がその裏側にある。供給を評価するときは、軒数と室数と受け入れ人数の3つを分けて見る。それが本稿の実務的な結論である。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが保有する国内47都道府県の宿泊施設マスター(OTA掲載確認ベース、N=77,802軒/延べ2,167,562室)。うち開業年が2026年の施設 N=1,414軒/36,338室、2025年開業 N=1,743軒/41,227室を、同一の抽出条件で再集計して用いた。掲載価格は2026年7月時点のOTA公開販売価格(全プラン平均・2名1室/一棟貸しは1棟・税込)、人数別の価格提示状況は2026年9月19日〜21日チェックインのスナップショット。
■ 試算前提
軒数シェアは1,414軒、室数シェアは36,338室をそれぞれ分母とする。3グループ区分はホテル系(ビジネス・シティ・リゾート・デラックス・カプセル)、分散型(貸別荘・コテージ・町家・ゲストハウス・グランピング・ペンション・民宿・ロッジ・農家民宿・オーベルジュ)、中間層(旅館・ホステル等)。乖離は「軒数シェア−室数シェア」のポイント差。観測補正レンジは2025年の月別分布(1〜7月比で8〜12月59.1%)を2026年の1〜7月実績1,282軒に当てはめた中位値と、1〜7月の月次平均183軒を延長した上限値の2通りで算出した。推定成約ADRは最安プラン水準に業態別補正係数を適用した推定値で、上場ホテルREITの物件別開示(91施設・直近3ヶ月間)との照合で誤差中央値は約7%。
■ 限界・留意点
母集団はOTA掲載が確認できた施設に限られ、全数調査ではない。OTAに掲載されていない旅館・民宿・簡易宿所は含まれない。客室数はいずれも下限値であり、一棟貸しは建物1棟を1〜2室として登録するのが一般的なため、受け入れ可能人数は室数に比例しない。2026年の直近月は観測リードタイムにより構造的に少なく出るため、年内の絶対値比較は行わず構成比で読む。掲載価格の単位は業態によって1室と1棟が混在するため、水準比はそのまま単価差として読めない。推定成約ADRは検証済み業態のみ算出可能で、貸別荘には適用していない。
■ 供給・価格データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 宿泊施設マスター(OTA掲載確認ベース、国内47都道府県 N=77,802軒/2,167,562室)、2026年開業 N=1,414軒/36,338室、2025年開業 N=1,743軒/41,227室
- メトロエンジンリサーチ — 掲載価格(全プラン平均・税込)、推定成約ADR(上場ホテルREIT開示の物件別実績91施設・直近3ヶ月間との照合で誤差中央値約7%)、人数別価格提示状況(長野県・岐阜県・静岡県、2026年9月19日〜21日チェックイン)
■ 政府統計・公的データ
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年5月・第2次速報、2026年6月・第1次速報)」報道発表
- 観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年4月・第2次速報、2025年年間値 確定値)」報道発表
- 国土交通省「建築物着工統計調査」
■ 過去の集計時点との比較
