旅館業法は、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業を許可制のもとに置く法律である。1948年(昭和23年)の制定以来、宿泊事業の入口を規定してきたが、2018年6月と2023年12月の二度の改正で、許可の要件も営業者の義務も大きく書き換わった。とりわけ2018年の改正でホテル営業と旅館営業が「旅館・ホテル営業」へ一本化され、ホテル10室・旅館5室という最低客室数の基準が撤廃されたことは、その後の小規模宿の供給構造を変えている。本稿では、条文と施行令・施行規則にあたりながら、3つの営業区分の許可要件、二度の改正で何がどう変わったか、そして民泊(住宅宿泊事業・特区民泊)との制度的な違いを整理する。
本記事の用語と参照した法令
- 旅館業:旅館・ホテル営業、簡易宿所営業および下宿営業の3つをいう(旅館業法第2条第1項)。
- 宿泊:寝具を使用して施設を利用すること(同法第2条第5項)。寝具を使わない利用は「宿泊」に当たらない。
- 民泊:本稿では、住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業と、国家戦略特別区域法に基づく外国人滞在施設経営事業(特区民泊)という2つの法制度を指す。掲載件数などの在庫データは本稿では扱わない。
- 参照法令:旅館業法(昭和23年法律第138号)/旅館業法施行令(昭和32年政令第152号)/旅館業法施行規則(昭和23年厚生省令第28号)/住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)/国家戦略特別区域法施行令(平成26年政令第99号)/建築基準法(昭和25年法律第201号)。条文はいずれもデジタル庁「e-Gov法令検索」の現行版により確認した。
- 施設数の出典:厚生労働省「衛生行政報告例」(各年度末現在)。
- 新規開業データの出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)。
- — 旅館業への該当性は「宿泊料(名目を問わない)・寝具の使用・反復継続性」の3要素で決まる。休憩料や清掃費などの名目に変えても、実質が部屋・寝具の使用料なら該当する。
- — 2018年6月15日施行の改正でホテル営業と旅館営業が「旅館・ホテル営業」へ一本化され、ホテル10室・旅館5室の最低客室数が撤廃。玄関帳場も代替設備で足りることになった。
- — 区分の選択は面積基準の当て方で決まる。旅館・ホテル営業は1客室7㎡以上(寝台設置は9㎡以上)、簡易宿所営業は客室延床33㎡以上で1室ごとの要件がない。
- — 2026年開業1,213施設のうち9室以下が835軒・68.8%(当社集計、N=1,213施設)。旧制度の下限だった10室に届かない施設が新規開業の約7割を占める。
- — 民泊との違いは営業日数と用途地域の2軸。住宅宿泊事業は年間180日上限と引き換えに住居専用地域で実施でき、特区民泊は日数上限がない代わりに区域が限られる(大阪市は2026年5月29日で新規認定受付を終了)。
旅館業とは何か — 「宿泊料」「寝具」「反復継続」の3つで決まる
旅館業法第2条第1項は、旅館業を「旅館・ホテル営業、簡易宿所営業及び下宿営業」と定義する。3区分に共通する骨格は、「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」という一文である。ここには3つの要素が畳み込まれている。
第一に「宿泊料を受けて」。厚生労働省の「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」は、宿泊料は名目を問わないという解釈を示している。すなわち、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費といった名目で徴収していても、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるものは宿泊料に該当する。無償で泊めるのであれば旅館業には当たらないが、名目を変えて対価を取る運用は該当性を免れる根拠にならない。
第二に「宿泊させる」。同法第2条第5項は、宿泊を「寝具を使用して前各項の施設を利用すること」と定義する。寝具の使用が要件であるため、椅子席のみの仮眠施設のように寝具を提供しない形態は、この定義上の宿泊に当たらない場合がある。
第三に「営業」。前掲Q&Aは、営業を「社会性をもって継続反復されているもの」と説明し、個人生活上の行為の範囲を超えるかどうかで判断するとしている。「知人」「友人」と称していても、事実上広く宿泊者の募集を行い、繰り返し人を宿泊させる場合には許可が必要になる、という整理である。
| 論点 | 旅館業に当たる側 | 当たらない/別制度になる側 |
|---|---|---|
| 対価の名目 | 休憩料・寝具賃貸料・クリーニング代・光熱水道費・室内清掃費など、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるもの | 対価を一切受けない場合 |
| 寝具 | 寝具を使用して施設を利用させる(法第2条第5項) | 寝具を提供せず利用させる形態 |
| 反復継続性・社会性 | 広く募集し、繰り返し宿泊させる | 個人生活上の行為の範囲にとどまるもの |
| 日数の上限 | 上限なし(通年営業が可能) | 住宅宿泊事業は年間180日以内(同法第2条第3項) |
出典:旅館業法、住宅宿泊事業法、厚生労働省「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」よりホテルバンク編集部作成
許可権者は都道府県知事である。ただし保健所を設置する市または特別区の区域では、市長または区長が許可権者となる(法第3条第1項)。同条第2項は、構造設備が政令の基準に適合しないとき、設置場所が公衆衛生上不適当と認めるとき、あるいは申請者が破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない、暴力団員に該当するなどの欠格事由に当たるときは、許可を与えないことができると定める。さらに第3項では、学校・児童福祉施設・社会教育施設などの敷地の周囲おおむね100メートルの区域内に設置する場合、清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるときは許可しないことができるとされ、第4項でこれらの施設の所管庁への意見聴取が義務づけられている。立地の選定段階で確認すべき論点である。
3区分の比較 — 旅館・ホテル営業/簡易宿所営業/下宿営業
3区分を分けるのは、施設の使われ方と料金の単位である。簡易宿所営業は「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設」(法第2条第3項)、下宿営業は「一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」(同条第4項)と定義され、旅館・ホテル営業はそのいずれにも当たらない残余のカテゴリー(同条第2項)として位置づけられている。つまり、まず簡易宿所と下宿に当たるかを判定し、当たらなければ旅館・ホテル営業になるという順序で読む条文構成になっている。
構造設備の基準は旅館業法施行令第1条が定める。以下は現行の政令の内容である。
| 項目 | 旅館・ホテル営業 | 簡易宿所営業 | 下宿営業 |
|---|---|---|---|
| 想定される形態 | ホテル、旅館、町家・一棟貸しなど、個室を単位に貸す施設全般 | ホステル、ゲストハウス、山小屋、カプセルなど多数人で共用する施設 | 1か月単位で宿泊料を受ける施設 |
| 最低客室数 | 定めなし(2018年6月15日に撤廃) | 定めなし | 定めなし |
| 床面積 | 1客室7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上) | 客室の延床面積33㎡以上。ただし申請時に宿泊者数を10人未満とする場合は「3.3㎡×宿泊者数」以上 | 定めなし |
| 玄関帳場(フロント) | 面接に適する玄関帳場、または確認を適切に行うための設備として厚生労働省令で定める基準に適合するもの | 政令に規定なし(自治体の条例で求められる場合がある) | 政令に規定なし |
| その他の共通基準 | 適当な換気・採光・照明・防湿・排水の設備/近接して公衆浴場があるなど支障がない場合を除き入浴設備/適当な規模の洗面設備/適当な数の便所/都道府県等が条例で定める基準への適合。旅館・ホテル営業にはこれに加え、学校等の敷地の周囲おおむね100m以内に設置する場合の遮蔽設備の基準がある。簡易宿所で階層式寝台を用いる場合は上段と下段の間隔をおおむね1m以上とする。 | ||
| 許可権者 | 都道府県知事(保健所を設置する市または特別区にあっては市長または区長) | ||
| FY2024の施設数 | 52,946施設(53.8%) | 44,901施設(45.7%) | 491施設(0.5%) |
出典:旅館業法施行令第1条、旅館業法施行規則第4条の3/施設数は厚生労働省「衛生行政報告例」令和6年度(2024年度末現在、旅館業計98,338施設)よりホテルバンク編集部作成
実務上の分岐点は、簡易宿所営業に客室の床面積基準がないことである。簡易宿所は客室の延床面積で33㎡以上(10人未満なら1人あたり3.3㎡)を満たせばよく、1室ごとの面積要件がかからない。一方の旅館・ホテル営業は1客室7㎡以上(寝台を置く場合は9㎡以上)を各室が満たす必要がある。小さな部屋が並ぶ既存建物を転用する場合、この一点で選ぶ区分が変わる。
下宿営業は「1か月以上の期間を単位とする宿泊料」という料金体系で切り分けられており、構造設備の基準も換気・入浴・洗面・便所という最小限にとどまる。ただし旅館業法第3条第1項ただし書は、旅館・ホテル営業または簡易宿所営業の許可を受けた者が同じ施設で下宿営業を営む場合は改めて許可を要しないと定めている。FY2024で491施設と、3区分のなかでは最も小さい。
出典:厚生労働省「衛生行政報告例」(各年度末現在)よりホテルバンク編集部作成。FY2017以前は旧区分の「ホテル営業」と「旅館営業」の合計値
施設数の推移を追うと、区分ごとの動きの違いがはっきりする。旅館・ホテル営業(FY2017以前は旧ホテル営業と旧旅館営業の合計)は、FY2012の54,540施設からFY2017の49,024施設まで、5年で10.1%減っていた。ところがFY2018を境に反転し、FY2024には52,946施設と、FY2017比で8.0%(3,922施設)増えている。同じ期間に簡易宿所営業は25,071施設から44,901施設へ79.1%増と、一貫して伸び続けた。下宿営業は801施設から491施設へ38.7%減少している。区分ごとの施設数がエリア別の供給の見え方をどこまで変えるかについては、県別の宿泊供給は分母で入れ替わる — 簡易宿所44,901施設で京都21位→5位が、旅館・ホテル営業・簡易宿所営業・届出住宅の3層で数え直している。
2018年6月15日施行の改正 — 営業種別の一本化と最低客室数の撤廃
旅館業法の一部を改正する法律(平成29年法律第84号)は2017年12月8日に成立し、同月15日に公布された。施行日は「公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日」とされ、平成30年政令第20号によって2018年6月15日と定められた。同日、施行令の改正(平成30年政令第21号)と施行規則の改正(平成30年厚生労働省令第9号)も施行されている。
法律本体の改正点は3つである。第一に、ホテル営業と旅館営業という2つの営業種別を統合して「旅館・ホテル営業」とした。改正法附則第3条により、施行の際に旧ホテル営業または旧旅館営業の許可を受けて経営していた者は、新法の旅館・ホテル営業の許可を受けた者とみなされた。第二に、無許可営業者に対する都道府県知事等の報告徴収・立入検査の権限が新設され、無許可営業者等への罰金上限が3万円から100万円へ、その他の違反に対する罰金上限が2万円から50万円へ引き上げられた。第三に、欠格要件に暴力団排除規定が追加された。
もっとも、宿の作り方に直接効いたのは政令・省令の改正である。改正前後で構造設備の基準がどう変わったかを並べると、次のようになる。
| 項目 | 〜2018年6月14日(旧ホテル営業/旧旅館営業) | 2018年6月15日〜(旅館・ホテル営業) |
|---|---|---|
| 最低客室数 | ホテル営業は10室以上、旅館営業は5室以上 | 規定なし(1室から許可の対象) |
| 客室の床面積 | ホテル営業の洋式客室は1室9㎡以上、旅館営業の和式客室はそれぞれ7㎡以上 | 1客室7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上)に一本化 |
| 和洋の区別 | 「洋式の構造設備による客室」「和式の構造設備による客室」を区別。ホテル営業では寝具は洋式のものであることが要件 | 和洋の区別を廃止 |
| 玄関帳場 | 「面接に適する玄関帳場その他これに類する設備」の設置が必須 | 玄関帳場または厚生労働省令で定める基準に適合する代替設備 |
| 浴室・暖房・便所 | ホテル営業は「適当な数の洋式浴室又はシャワー室」「施設の規模に応じた適当な暖房設備」「水洗式かつ座便式で共同用は男女別の便所」を個別に要求 | 入浴設備・洗面設備・便所について、需要を満たす適当な規模・数という包括的な基準に整理 |
出典:旅館業法施行令第1条(2018年6月1日時点の版および現行版)、厚生労働省「旅館業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令等の公布について」(生食発0131第3号、平成30年1月31日)よりホテルバンク編集部作成
玄関帳場の代替設備の中身は、旅館業法施行規則第4条の3が定める。求められるのは2点で、①事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応を可能とする設備を備えていること、②宿泊者名簿の正確な記載、宿泊者との間の客室の鍵の適切な受渡し、および宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備を備えていること、である。フロントに常時人を置く代わりに、ビデオカメラや通信機器で同等の機能を確保する道が開かれた。
この一連の緩和は、「10室そろえられなければ、旅館・ホテル営業の許可は取れない」という前提を外した。町家1棟、古民家1棟、小規模なヴィラといった形態が、簡易宿所営業だけでなく旅館・ホテル営業でも成立するようになったわけである。前掲のとおり、FY2017まで減り続けていた旅館・ホテル営業の施設数がFY2018以降に増加へ転じたことは、この変更と時期が重なる。この「1室営業解禁」以降にどの業態が実際に立ち上がったかは、改正旅館業法6/15施行『1室営業解禁』— 小規模町家・古民家・ヴィラ業態への構造シフトが新規開業データから追っている。
小規模化はどこまで進んだか — 2026年開業1,213施設の客室規模
制度側の説明を、供給の実態と突き合わせておきたい。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングがOTA等への掲載を確認できた範囲で、2026年に開業した宿泊施設は1,213施設である。この母集団の客室規模を分布させると、次のようになる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,213施設)
1〜4室の施設が715軒で全体の58.9%を占め、5〜9室の120軒(9.9%)を合わせると、9室以下が835軒・68.8%に達する。旧制度でホテル営業の下限だった10室に届かない施設が、新規開業の約7割を占めている計算である。平均客室数は27.7室だが、これは100室以上の114施設(総客室数22,558室)に引き上げられた値であり、施設数のボリュームゾーンは一桁室にある。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,213施設)
業態別に見ると、この分布の中身がわかる。最も多いのは貸別荘の577施設で、平均客室数は2室、うち545施設が1〜4室である。町家33施設も平均2室、ゲストハウス62施設は平均4室と続く。他方でビジネスホテルは139施設・平均103室、シティホテル32施設・平均136室、リゾートホテル54施設・平均99室と、まったく異なる規模帯を形成している。施設数では小規模業態が多数を占め、客室数では大規模業態が総量を担うという二層構造である。
ここで一点、留保が必要である。この1,213施設がそれぞれどの許可・届出に基づいて営業しているかは、OTA等の掲載情報からは判別できない。一棟貸しや町家の多くは簡易宿所営業として許可を得ている可能性があり、簡易宿所営業にはもともと最低客室数の定めがなかった。したがって、小規模施設の増加をすべて2018年改正の効果として説明することはできない。実際、簡易宿所営業はFY2012からFY2017にかけても25,071施設から32,451施設へ29.4%増えており、改正前から小規模在庫の受け皿として機能していた。2018年改正が加えたのは、その受け皿に旅館・ホテル営業という選択肢を並べたこと、そして玄関帳場の代替を認めて運営体制の設計自由度を広げたことである。
新規開業データの読み方について:開業件数はOTA等への掲載が確認できた時点で計上している。掲載は開業の数か月前から出ることが多い一方、開業後しばらくしてから掲載されるケースもあるため、直近以降の月は今後の掲載確認によって件数が増加する。2026年の月別内訳でも、1月239件に対し9月以降は月10件前後と少なく、これは供給の減速ではなく観測のリードタイムによるものである。年間の件数・構成比は現時点での下限値として参照されたい。
2023年12月13日施行の改正 — 感染症対応、宿泊拒否事由、差別防止
2度目の大きな改正は、旅館業法の一部を改正する法律(令和5年法律第52号)による。2023年6月14日に公布され、2023年12月13日に施行された。厚生労働省はこの改正を「宿泊拒否事由の追加」「感染防止対策の充実」「差別防止の更なる徹底」の3点で説明している。旅館業法第5条の宿泊拒否をめぐる規律が、これで大きく組み替わった。
(1)特定感染症流行時の対応。新設された第4条の2は、営業者が「特定感染症のまん延の防止に必要な限度において、特定感染症国内発生期間に限り」、宿泊しようとする者に協力を求めることができると定める。特定感染症とは、感染症法上の一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、一定の指定感染症、新感染症を指す(法第2条第6項)。求められる協力の内容は相手方の区分によって異なり、症状を呈している者等には医師の診断結果等の報告や客室から出ないことの協力を、それ以外の者には体温その他の健康状態の確認への協力を求めることができる。宿泊しようとする者は、正当な理由がない限りこの求めに応じなければならない(同条第4項)。なお国内に常在する感染症については施行令第7条が結核を指定し、その発生期間は厚生労働大臣の告示によって画されるという仕組みになっている。
(2)宿泊拒否事由の追加。改正後の第5条第1項は、営業者が宿泊を拒めない原則を維持したうえで、拒める場合を4号に整理した。1号は宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき、2号は賭博その他の違法行為または風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき、4号は宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。ここに新設されたのが3号で、「その実施に伴う負担が過重であって他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき」である。いわゆるカスタマーハラスメントへの対応を法律に位置づけたものといえる。宿泊拒否事由としての整理と、事業主に求められるカスタマーハラスメント対策の現場運用をどうつなぐかについては、10月1日、カスハラ対応が全事業主の義務にで扱っている。
この3号の具体的な中身は、旅館業法施行規則第5条の6が定める。同条は、他の宿泊者へのサービス提供を著しく阻害するおそれのあるものとして、①宿泊料の減額その他その内容の実現が容易でない事項の要求、②粗野または乱暴な言動その他従業者の心身に負担を与える言動を交えた要求であって、その者の接遇に通常必要とされる以上の労力を要することとなるもの、の2類型を挙げる。
重要なのは、この規則が同時に除外を書き込んでいる点である。①については、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第2条第2号に規定する社会的障壁の除去を求める場合を除くとされる。②についても、営業者が同法第8条第1項の不当な差別的取扱いを行ったことに起因するものなど、合理的な理由があるものは除かれる。合理的配慮の求めは「過重な要求」に当たらないという構造が、規則のレベルで明示されている。
(3)差別防止の徹底。改正後の第5条第2項は、営業者に対し、旅館業の公共性を踏まえ、宿泊しようとする者の状況等に配慮して、みだりに宿泊を拒むことがないようにするとともに、拒む場合には第1項各号のいずれかに該当するかどうかを客観的な事実に基づいて判断し、求めに応じてその理由を丁寧に説明できるようにするものとする、と定める。あわせて厚生労働省は、感染症のまん延防止対策の適切な実施や特に配慮を要する宿泊者への適切な宿泊サービスの提供のため、従業者に対して必要な研修の機会を与える努力義務が営業者に課されたと説明している。また改正法附則第3条第2項により、当分の間、第5条第1項第1号または第3号を理由に宿泊を拒んだときは、厚生労働省令で定める方法によりその理由等を記録しておくものとされている。
改正法附則第2条第2項は、過去に旅館業の施設においてハンセン病の患者であった者等に対して不当な差別的取扱いがされたことを踏まえ、政府が第5条第1項の施行の状況について検討を加えるものと定めている。拒否事由の追加と差別防止の徹底が同時に法文へ書き込まれたことは、この改正の性格をよく示している。
民泊との違い — 旅館業許可・住宅宿泊事業・特区民泊の3制度比較
宿泊料を受けて人を泊める行為は、原則として旅館業法の許可を要する。その例外として法律が用意しているのが、住宅宿泊事業法に基づく届出と、国家戦略特別区域法に基づく特区民泊の認定である。住宅宿泊事業法第3条第1項は、届出をした者は「旅館業法第3条第1項の規定にかかわらず」住宅宿泊事業を営むことができると定めており、条文の構造そのものが例外であることを示している。
| 項目 | 旅館業許可 | 住宅宿泊事業(民泊新法) | 特区民泊 |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | 旅館業法第3条 | 住宅宿泊事業法第3条 | 国家戦略特別区域法第13条(外国人滞在施設経営事業) |
| 手続 | 許可制 | 届出制 | 認定制(特定認定) |
| 営業日数 | 上限なし | 人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないこと(法第2条第3項) | 上限なし |
| 最低滞在期間 | 定めなし(下宿営業のみ1か月以上) | 定めなし | 3日から10日までの範囲内で条例が定める期間以上(施行令第13条第2号) |
| 面積等の要件 | 旅館・ホテル営業は1客室7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上)、簡易宿所営業は客室延床面積33㎡以上(10人未満は3.3㎡×人数) | 台所・浴室・便所・洗面設備を備えた「住宅」であること(法第2条第1項) | 一居室の床面積25㎡以上、台所・浴室・便所・洗面設備、寝具・調理器具等の備付け(施行令第13条第3号) |
| 用途地域(建築基準法) | 「ホテル又は旅館」として、第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、田園住居地域、工業地域、工業専用地域では建築できない。第一種住居地域は当該用途の床面積3,000㎡以下に限る(別表第二) | 届出住宅は「住宅」「長屋」「共同住宅」「寄宿舎」に含まれる(住宅宿泊事業法第21条)ため、住居専用地域でも用途制限にかからない | 事業の一部が旅館業に該当するものであることが要件(施行令第13条第9号)。施設の所在地は国家戦略特別区域内に限られる |
| 地域による制限 | 学校等の敷地の周囲おおむね100m以内は意見聴取の対象(法第3条第3項・第4項) | 生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、条例で区域を定めて実施期間を制限できる(法第18条) | 申請前に施設周辺地域の住民への適切な説明が必要(施行令第13条第7号) |
出典:旅館業法、旅館業法施行令、住宅宿泊事業法、国家戦略特別区域法施行令、建築基準法別表第二よりホテルバンク編集部作成
3制度の性格の違いは、営業日数と用途地域の2軸でほぼ説明できる。住宅宿泊事業は年間180日という上限と引き換えに、建築基準法上の用途制限を受けずに住居専用地域でも実施できる。旅館業許可は日数の上限がない代わりに、用途地域の制限と構造設備の基準を通過する必要がある。特区民泊は日数上限がなく最低滞在期間で切り分ける設計だが、区域が特区に限定される。
特区民泊については、区域の側で動きがある点にも触れておきたい。大阪市は、特区民泊の新規認定申請の受付を2026年5月29日をもって終了すると公表している。大阪府内では八尾市・寝屋川市が2025年11月28日で新規認定の受付を終えており、2026年5月30日以降に新規認定を受けられるのは、泉佐野市の市街化区域全域(工業専用地域を除く)、貝塚市・羽曳野市のホテル・旅館が建築可能な市街化区域、河内長野市の第一種住居地域を除くホテル・旅館建築可能地域に限られる。特区民泊は制度として全国一律ではなく、区域計画に依存する。営業日数の上限がないという一点だけを取り出して他地域と同じ枠で比較すると、実際に使えるかどうかを見誤る。特区民泊の受付が終了した区域で実務がどこへ収斂するかは、簡易宿所×空き家活用2026:京都・大阪・那覇1棟貸しIRR分解 — 特区民泊終了後の制度収斂と3都市投資ポテンシャルが3都市の事例で検討している。
よくある質問(FAQ)
Q1. 民泊(住宅宿泊事業)と旅館業許可は、どちらを選ぶべきですか。
判断の軸は、年間の稼働日数と物件の用途地域です。住宅宿泊事業は人を宿泊させる日数が1年間で180日を超えられません(住宅宿泊事業法第2条第3項)。通年で満室に近い運用を前提とする事業計画であれば、日数上限のない旅館業許可か特区民泊の認定が必要になります。一方、物件が第一種低層住居専用地域など「ホテル又は旅館」を建築できない用途地域にある場合、旅館業許可の取得は困難です。届出住宅は建築基準法上「住宅」「長屋」「共同住宅」「寄宿舎」に含まれる扱いとなるため(同法第21条)、住居専用地域でも実施できます。ただし同法第18条により、都道府県または保健所設置市等は条例で区域を定めて実施期間を制限できるため、対象自治体の条例を必ず確認してください。
Q2. 無人フロント・自動チェックイン機は認められますか。
旅館・ホテル営業では、玄関帳場に代えて、旅館業法施行規則第4条の3の基準に適合する設備を備えることが認められています。基準は、①緊急時における迅速な対応を可能とする設備、②宿泊者名簿の正確な記載・客室の鍵の適切な受渡し・宿泊者以外の出入りの状況の確認を可能とする設備、の2点です。さらに厚生労働省は「旅館業における衛生等管理要領」を改正し、2025年4月1日から本人確認の方法に新類型を追加しました。従来はビデオカメラ等による従業員の面接が前提でしたが、改正後は自動チェックイン機器等を通じた本人情報(氏名・住所・連絡先等)の確認・照合という方法を選択でき、この場合は従業員との面接が不要になります。ただし、自動チェックインの状況を顔を判別できる角度で録画すること、本人確認を受けた者に交付した鍵がなければ宿泊者専用区域に出入りできない構造とすることなどが求められます。あわせて、緊急時に通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけられる体制の整備が想定されています。自治体によっては条例等の改正が必要な場合があるため、所管の保健所への確認が前提となります。
Q3. 既存の住宅を宿にする場合、用途変更の手続きはどうなりますか。
一戸建て住宅や共同住宅からホテル・旅館(簡易宿所を含む)へ用途変更する場合、用途変更する床面積の合計が200㎡を超えるときは建築確認手続きが必要です(建築基準法第87条第1項、第6条第1項第1号)。200㎡以下であれば建築確認手続きは不要ですが、用途変更後の建築基準関係規定への適合そのものは必要です。この点について厚生労働省健康・生活衛生局生活衛生課長と国土交通省住宅局建築指導課長は、2026年5月28日付の通知「旅館業の許可時における建築基準法への適合確認の徹底について」(健生衛発0528第1号・国住指第164号)で、衛生主管部局が許可時に確認する書類を明示しました。200㎡を超える場合は用途変更に係る確認済証、200㎡以下の場合は建築基準関係規定に適合している旨の建築士による証明書です。200㎡以下だから建築の検討が不要、とはならない点に注意が必要です。
Q4. 1室だけでも旅館・ホテル営業の許可は取れますか。
現行の旅館業法施行令第1条第1項に最低客室数の規定はありません。ホテル営業10室以上・旅館営業5室以上という基準は、2018年6月15日施行の改正で撤廃されています。ただし1客室あたり7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上)という床面積の基準、玄関帳場またはその代替設備、換気・採光・照明・防湿・排水、入浴設備、洗面設備、便所の各基準は満たす必要があります。加えて施行令第1条第1項第8号は「その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること」と定めており、自治体ごとの上乗せ基準が適用されます。
Q5. 「宿泊料」という名目で受け取らなければ、許可は不要ですか。
名目は問われません。厚生労働省の「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」は、休憩料、寝具賃貸料、寝具等のクリーニング代、光熱水道費、室内清掃費といった名目であっても、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるものは宿泊料に該当するとしています。また「知人」「友人」と称していても、事実上広く宿泊者の募集を行い、繰り返し人を宿泊させる場合は営業に当たると整理されています。対価の名称を変えることで旅館業法の適用を外すという設計は成り立ちません。
Q6. 簡易宿所営業と旅館・ホテル営業は、どちらを選ぶのが実務的ですか。
面積基準の当て方が違うため、建物の形に応じて決まります。旅館・ホテル営業は1客室ごとに7㎡以上(寝台を置く客室は9㎡以上)を求めます。簡易宿所営業は客室の延床面積で33㎡以上、申請時に宿泊者数を10人未満とする場合は3.3㎡×宿泊者数以上であればよく、1室ごとの面積要件がかかりません。小さな部屋が並ぶ既存建物では簡易宿所営業のほうが適合しやすい一方、簡易宿所営業は「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設」という定義(法第2条第3項)に当てはまる必要があります。なお簡易宿所営業について、施行令は玄関帳場の設置を求めていません。条例で設置を義務づけている自治体向けには、厚生労働省が2017年12月15日付通知で、複数の簡易宿所が共同で一つの玄関帳場を設置して機能させることは、緊急時に適切に対応できる体制が整備されていれば差し支えないとの考え方を示しています。同通知は、その体制として宿泊客の求めに応じ通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけられることを想定していると説明しています。
Q7. 下宿営業はどのような場合に使う区分ですか。
下宿営業は「施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」と定義されます(法第2条第4項)。日単位・泊単位ではなく月単位で料金を受け取る点が他の2区分との違いです。構造設備の基準は換気・採光・照明・防湿・排水、入浴設備、洗面設備、便所、条例の基準という最小限にとどまり、客室数や面積の定めはありません。なお法第3条第1項ただし書により、旅館・ホテル営業または簡易宿所営業の許可を受けた者が同一の施設で下宿営業を営む場合は、改めて許可を受ける必要はありません。厚生労働省「衛生行政報告例」によれば、FY2024の下宿営業は491施設で、旅館業全体98,338施設の0.5%です。
まとめ — 制度の骨格と、確認すべき順序
旅館業法の全体像は、3つの層で捉えると整理しやすい。第一の層は該当性の判定で、宿泊料(名目を問わない)、寝具の使用、反復継続性という3要素で旅館業に当たるかを見る。第二の層は区分の選択で、簡易宿所営業か下宿営業の定義に当てはまるかを先に判定し、当てはまらなければ旅館・ホテル営業となる。第三の層は要件の充足で、施行令第1条の構造設備基準、施行規則の詳細、そして各自治体の条例による上乗せ基準を確認する。
この骨格は制定以来変わっていないが、要件の中身は2018年6月15日と2023年12月13日の二度の改正で書き換わった。前者は入口の緩和であり、営業種別の一本化、最低客室数の撤廃、玄関帳場の代替容認によって、小規模・一棟型の施設が旅館・ホテル営業として成立する道を開いた。後者は運営時の規律の整備であり、特定感染症流行時の協力要請、カスタマーハラスメントに対応する宿泊拒否事由、そして差別的取扱いを防ぐための客観的判断と理由説明の規律を同時に定めた。厚生労働省「衛生行政報告例」でFY2024の旅館業が98,338施設と前年度比5.2%増えていることは、この制度環境のもとで宿泊供給が量的に拡大している事実を示している。
実務としては、要件が政令・省令・通知・条例という4つのレイヤーに分散している点に注意したい。本稿で扱った玄関帳場の代替設備は施行規則、本人確認の新類型は衛生等管理要領(通知)、建築基準法への適合確認は2026年5月28日付の厚生労働省・国土交通省通知、そして構造設備の上乗せ基準は各自治体の条例に置かれている。法律と政令だけを読んでも要件は揃わない。計画段階で所管の保健所と建築部局の双方に当たることが、結局は最短の経路になる。
集計方法と出典
- 条文:デジタル庁「e-Gov法令検索」の現行版により確認した。2018年6月14日以前の旅館業法施行令については、同サービスの2018年6月1日時点の版を参照した。
- 施設数:厚生労働省「衛生行政報告例」。FY2020〜FY2024は令和6年度の概況(生活衛生関係)、FY2012〜FY2019は同統計の付表「旅館業数、年次別」による。FY2017以前は旧区分の「ホテル営業」と「旅館営業」の合計値であり、FY2018以降の「旅館・ホテル営業」とは集計区分が異なる。改正法附則第3条により旧2区分の許可はいずれも旅館・ホテル営業とみなされたため、系列としては接続する。
- 新規開業:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=1,213施設)。2026年に開業が確認できた施設を集計。各施設がどの許可・届出に基づいて営業しているかは判別していない。
- 本稿は制度の概要を解説するものであり、個別案件の適法性を判断するものではありません。許可・届出の要否および具体的な要件は、施設所在地を所管する保健所および建築部局にご確認ください。
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参考資料・出典一覧
■ 法令(e-Gov法令検索)
- 旅館業法(昭和23年法律第138号)
- 旅館業法施行令(昭和32年政令第152号)
- 旅館業法施行規則(昭和23年厚生省令第28号)
- 住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)
- 国家戦略特別区域法施行令(平成26年政令第99号)
- 建築基準法(昭和25年法律第201号)別表第二
■ 厚生労働省
- 旅館業のページ/旅館業法の概要
- 平成29年旅館業法の改正について(改正法の概要/関係政令の整備に関する政令等の公布について(生食発0131第3号、平成30年1月31日))
- 令和5年旅館業法の改正について
- 民泊サービスと旅館業法に関するQ&A
- フロント要件の見直しに係るリーフレット(令和7年4月1日から適用)
- 簡易宿所営業における玄関帳場等の設置について(生食発1215第3号、平成29年12月15日)
- 令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況(3 生活衛生関係)
- e-Stat「衛生行政報告例」付表 旅館業数、年次別 平成9年度以降(統計表ID: 0004048085)
■ 厚生労働省・国土交通省/自治体
- 旅館業の許可時における建築基準法への適合確認の徹底について(健生衛発0528第1号・国住指第164号、令和8年5月28日)(広島市が掲載する通知本文)
- 観光庁 民泊制度ポータルサイト「住宅宿泊事業法の概要」
- 大阪市「大阪市国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業の新規受付終了について」
- 大阪府「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業(いわゆる「特区民泊」)について」
■ データソース
条文はデジタル庁「e-Gov法令検索」の現行版(2018年6月14日以前の施行令は2018年6月1日時点の版)。施設数は厚生労働省「衛生行政報告例」の各年度末現在値。新規開業の客室規模・業態別内訳はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングがOTA等への掲載を確認した2026年開業施設(N=1,213施設)。
■ 試算前提
施設数の構成比は各年度末の許可施設数を分母とし、FY2017以前は旧「ホテル営業」と旧「旅館営業」の合計を「旅館・ホテル営業」の系列として接続した(改正法附則第3条により旧2区分の許可は旅館・ホテル営業とみなされるため)。新規開業の客室規模区分は施設ごとの公表客室数を1〜4室・5〜9室・10室以上で階級化し、平均客室数は施設単位の単純平均として算出した。
■ 限界・留意点
本稿は制度の概要を整理するものであり、個別案件の適法性を判断するものではない。新規開業データはOTA等への掲載を確認できた施設に限られ、各施設がどの許可・届出に基づいて営業しているかは判別していない。構造設備の要件は政令・省令・通知に加えて各自治体の条例による上乗せがあるため、本稿の記載は最低限の骨格にとどまる。許可・届出の要否および具体的な要件は、施設所在地を所管する保健所および建築部局への確認を要する。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 2026年の新規開業施設(OTA掲載確認ベース、N=1,213施設)の客室規模・業態別内訳
