福岡県大牟田市の臨海部に2025年12月26日、328室の「ホテルルートイン大牟田」が開業した。大牟田駅から半径3kmの客室ストックは、メトロエンジンリサーチの集計で2024年末の455室から2025年末には841室へと1年で1.8倍になり、その増加分の85%をこの1棟が占める。開業後9か月(2025年12月〜2026年8月)の大牟田市の推定成約ADRは前年同期比+17.2%だったが、開業前から掲載のある同一11施設に絞ると+7.8%にとどまり、差の約9ポイントは新規施設が加わったことによる構成の変化だった。本稿では、既存ストックの7割に相当する供給が1棟で加わった地方都市で、単価と稼働に何が起きたかを分解し、地価が横ばいの都市で大型1棟が成立する条件を整理する。
本記事における指標の定義
※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(184物件月・2026年4〜5月)で誤差中央値は約7.5%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。データ出典:メトロエンジンリサーチ。数値は2026年10月3日の調査時点。
- — 455→841室:大牟田駅3km圏の客室は2024年末から2025年末の1年で1.8倍に。増加分386室の85%を328室のホテルルートイン大牟田1棟が占める。
- — +17.2%のうち約9.4ポイントは構成の変化:開業後9か月の市の推定成約ADRは前年同期比+17.2%だが、開業前から掲載のある同一11施設では+7.8%。
- — 同一施設の伸びは12〜3月に集中:12〜3月+20.3%に対し4〜8月は−1.7%。隣接の荒尾市(+0.4%)や近隣の久留米市(+1.7%)は9か月で前年並み。
- — GOP利回り13.1%→9.3%:公表投資額(約610万円/室)ベースの簡易GOP利回りは、現在の建築費水準(約860万円/室)で9.3%、建設期間の上昇込みで8.0%。
- — 既存の中央値単価では成立しにくい:ADRを同一11施設の中央値水準(約5,600円)に置くと、9.3%の確保には通年で稼働率98%近くが必要になる。
開業の事実 — それまで圏内最大だった138室の2.4倍が1棟で加わった
まずは開業の規模を確かめておきたい。ルートインジャパンの公式サイトによると、ホテルルートイン大牟田は福岡県大牟田市岬町6番地67に立地し、総客室数は328室、開業日は2025年12月26日である。有明海沿岸道路の大牟田ICから車で約2分、西鉄・JRの大牟田駅からは車で約5分の位置にあり、大浴場と無料駐車場を備える。トラベル Watchの開業記事(2026年1月5日)は、建物が地上10階建てで、男女別の大浴場に露天風呂とサウナが付くこと、敷地内に海鮮・焼肉のレストラン棟が併設されることを伝えている。
客室数には公表時点による差がある。ふくおか経済が2023年2月に報じた計画段階の数字は333室で、総工費は約20億円(土地代を除く)、敷地面積は1万㎡、開業目標は2025年秋だった。本稿では公式サイトが現在掲げる328室を採用し、投資額だけを計画時点の報道値として引用する。
この328室が市場に対してどれほどの大きさかは、周辺のストックと比べるとはっきりする。大牟田駅(北緯33.0303度・東経130.4459度)を中心とする半径3kmの宿泊施設は、2019年から2024年まで16軒・455室で動かなかった。それが2025年末には19軒・841室となり、1年で386室(+84.8%)増えた計算になる。増加分のうち328室、すなわち85%が今回の1棟によるもので、2025年末の3km圏ストックに占める比率は39.0%に達する。半径を5kmに広げても、2024年の23軒・841室から2025年は26軒・1,227室へと+45.9%の増加だった。新規開業の客室数を既存ストックに対する比率で測る見方は、全国の市区町村を既存ストック比で並べた記事で詳しく扱っている。
規模の構成にも目を向けたい。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、3km圏にそれまで100室以上の施設は138室のシティホテル1軒だけで、残りは数室から50室弱の駅前ビジネスホテルと旅館が中心だった。328室はその最大施設の約2.4倍にあたり、団体や工事関係者、スポーツ遠征といった「まとまった室数を一度に押さえたい」需要の受け皿が、この開業で初めて市内に生まれたことになる。
立地 — 駅前商業地は4年間横ばい、臨海の工業地は+22%
次に、この1棟がどのような土地に建ったかを見ていく。下の地図は、後段のADR分析で対象とした大牟田市内13施設の位置を、大牟田駅からの半径3kmの円とともに示したものである。既存施設の大半が駅の半径1km以内に集まっているのに対し、新規の328室は駅から西へ約2km、有明海に近い臨海部に単独で立つ。
国土交通省の地価公示(2026年)を不動産情報ライブラリで確認すると、大牟田駅から半径1kmの商業地で価格が公表されているのは2地点で、有明町2丁目が60,400円/㎡、不知火町2丁目が51,000円/㎡、いずれも前年比0.0%だった。2022年はそれぞれ60,500円、51,200円であり、駅前の商業地は4年間ほぼ動いていない。用途地域は商業地域(容積率400%・建蔽率80%)である。
一方で、ホテルから約1.4kmの北磯町にある工業地の標準地は、2022年の8,980円/㎡から2026年は11,000円/㎡へと4年で+22.5%上昇し、直近の前年比も+5.8%だった。水準そのものは駅前商業地の5分の1ほどにとどまるが、臨海部の産業用地に実需が戻っていることを示す動きと読める。ホテルの周辺には工業専用地域(容積率200%・建蔽率60%)が広がっており、駅前とは土地の性格が異なる。
| 地点(用途) | 2022年 | 2026年 | 2026年 前年比 | 4年間の変化 |
|---|---|---|---|---|
| 有明町2丁目(商業地・駅から約90m) | 60,500円/㎡ | 60,400円/㎡ | 0.0% | −0.2% |
| 不知火町2丁目(商業地・駅から約580m) | 51,200円/㎡ | 51,000円/㎡ | 0.0% | −0.4% |
| 新地町(住宅地・駅から約720m) | 31,600円/㎡ | 32,700円/㎡ | +1.2% | +3.5% |
| 北磯町(工業地・ホテルから約1.4km) | 8,980円/㎡ | 11,000円/㎡ | +5.8% | +22.5% |
周辺の就業構造も、このホテルの客層を考える手がかりになる。経済センサス(2021年活動調査)によると、大牟田駅から半径2kmには事業所2,688か所・従業者23,071人が立地し、事務所系の従業者比率は8.2%である。ホテルを中心とする半径2kmでは事業所1,238か所・従業者11,300人、事務所系比率は6.2%だった。オフィスワーカーの比率が1割に満たない、製造・物流・商業の現場で働く人が主体の街であり、宿泊需要もデスクワークの出張より、工場や現場に通う中長期の滞在が厚いと考えられる。車で動く客にとって、IC至近で平面駐車場を持つ立地は駅前より使い勝手がよい。
市ADRの開業前後 — 9か月平均は約5,200円から約6,000円へ
供給が7割増えた市場では、単価が下がると考えるのが自然だろう。ところが大牟田市の推定成約ADR(市内対象施設の中央値)は、開業後のほうが高い。12か月平均で見ると、2024年9月〜2025年8月の約5,200円(5,165円)に対し、2025年9月〜2026年8月は約5,900円(5,887円)と+14.0%だった。開業後の9か月(2025年12月〜2026年8月)に限れば平均は約6,000円(6,049円)で、前年同期の約5,200円(5,162円)から+17.2%上昇している。
年を重ねたグラフからは、2つのことが読み取れる。1つは、2026年の線が1月から6月まで過去2年を一貫して上回っていること。もう1つは、2025年が2024年より低い年だったことである。2026年1〜8月の平均は約6,000円で、2年前の同じ8か月(約5,400円)と比べると+11.5%になる。前年比の+17.2%には、比較対象の2025年前半が低かったことも含まれている。
なお、2026年9月以降の数値は調査時点の掲載水準に基づく推定であり、確定月と基準が異なるため、本稿では前年比の計算に使っていない。
+17.2%の内訳 — 同一施設の伸びが+7.8%、構成の変化が約9ポイント
ただし、この+17.2%をそのまま「需要が強くなった結果」と読むのは早い。市のADRは対象施設の中央値であり、集計対象は開業前の11施設から、2025年10月と12月に新しい施設が1軒ずつ加わって13施設になった。新たに加わった2施設の推定成約ADRは、開業後9か月の平均でホテルルートイン大牟田が約7,300円、もう1施設が約7,100円と、どちらも従来の中央値を上回る。中央値は施設を単価順に並べた真ん中の値なので、上側に2施設が加われば、真ん中の位置は1つ上の施設へ移る。
そこで、開業前から継続して掲載のある11施設だけで中央値を取り直した。結果は、開業後9か月の平均が約5,600円(5,565円)で、前年同期の約5,200円(5,162円)に対して+7.8%だった。市全体の+17.2%のうち、同じ施設どうしで比べた伸びが+7.8%、新規施設が加わったことによる構成の変化が約9.4ポイントという内訳になる。
| 集計対象 | 前年同期(2024年12月〜2025年8月) | 開業後9か月(2025年12月〜2026年8月) | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 市全体(N=11→13施設) | 5,162円 | 6,049円 | +17.2% |
| 同一11施設(開業前から掲載) | 5,162円 | 5,565円 | +7.8% |
| 差(構成の変化) | — | 484円 | 約9.4ポイント |
月ごとに分けると、同一施設の伸びが時期によって大きく違うことも分かる。11施設の中央値は2025年12月が前年同月比+22.8%、2026年1月が+27.0%、2月が+17.2%、3月が+14.8%と、冬から春にかけて2桁で伸びた。4月以降は+1.5%、−5.7%、+0.2%、+5.0%、−8.4%と前年並みの範囲に戻っており、12〜3月の4か月平均が+20.3%、4〜8月の5か月平均が−1.7%である。
注目したいのは、この冬の上昇が開業の前月から始まっていた点である。11施設の中央値は2025年11月の時点で前年同月比+10.6%になっていた。328室の開業が既存施設の単価を押し上げたというより、市内の宿泊需要そのものが冬に強まり、そこへ新しい客室が加わったと読むほうが整合的だろう。施設別に見ても、11施設のうち8施設が開業後9か月の平均で前年同期を上回っており、施設ごとの前年同期比の中央値は+11.3%だった。
一方で、4月以降は市全体の線と同一施設の線が離れていく。5月は市全体が+14.4%、同一施設が−5.7%で、その差は約20ポイントに開いた。春以降の市ADRの上昇は、既存施設の値上げではなく、相対的に単価の高い新規施設が市場の「真ん中」を引き上げた効果で説明できる。供給が7割増えても既存施設の単価が前年並みを保ち、新規施設はその上の価格帯で売れているという構図であり、新規供給が既存の客を奪い合うのではなく、別の価格帯の需要を取り込んだと考えられる。隣県の熊本で2年間に1,619室が加わった局面の単価の動きは、熊本のビジネスホテルの新規供給と単価を分析した記事も参考になる。
近隣都市との比較 — 同一施設の+7.8%は周辺4市を上回る
大牟田の伸びが周辺と比べてどの位置にあるかを、同じ推定成約ADR(各市の対象施設の中央値)・同じ9か月の前年同期比で並べた。隣接する熊本県荒尾市は+0.4%、近隣の久留米市は+1.7%、柳川市は−0.6%、筑後市は+0.2%と、いずれも前年並みにとどまり、大牟田の同一11施設の+7.8%はこれらを上回る。一方で福岡県全体は+9.3%、鳥栖市は+19.1%、飯塚市は+9.8%と、大牟田と同程度かそれ以上に伸びた地域もある。なお近隣都市の値は市全体の中央値であり、大牟田のように同一施設へそろえてはいないため、施設の入れ替わりの影響を含みうる。
季節の偏りも比べておく。福岡県全体でも12〜3月が+14.4%、4〜8月が+5.3%と冬に伸びが偏っており、大牟田の冬の上昇(同一施設で+20.3%)は県全体の冬の強さと重なる部分がある。ただし隣接する荒尾市(12〜3月−0.7%)や久留米市(同+1.7%)では冬の上昇が見られず、大牟田の冬の伸びには市内に固有の需要が重なった可能性がある。その要因までは本稿のデータでは特定できない。
| 地域(対象施設数) | 前年同期 9か月平均 | 開業後9か月平均 | 前年同期比 | うち12〜3月 | うち4〜8月 |
|---|---|---|---|---|---|
| 大牟田市・市全体(N=11→13) | 5,162円 | 6,049円 | +17.2% | +25.1% | +11.2% |
| 大牟田市・同一11施設 | 5,162円 | 5,565円 | +7.8% | +20.3% | −1.7% |
| 荒尾市(N=5) | 6,801円 | 6,827円 | +0.4% | −0.7% | +1.2% |
| 久留米市(N=21〜22) | 6,791円 | 6,905円 | +1.7% | +1.7% | +1.6% |
| 柳川市(N=9〜10) | 7,953円 | 7,908円 | −0.6% | +5.6% | −5.3% |
| 筑後市(N=5〜6) | 6,234円 | 6,245円 | +0.2% | −3.7% | +3.4% |
| 鳥栖市(N=7〜8) | 5,660円 | 6,739円 | +19.1% | +18.6% | +19.4% |
| 飯塚市(N=8) | 5,432円 | 5,964円 | +9.8% | +9.3% | +10.2% |
| 福岡県全体(N=459〜476) | 10,779円 | 11,782円 | +9.3% | +14.4% | +5.3% |
推定OCC — 県のビジネスホテルは90%前後、大牟田市は77%で週末型の山
単価の次は稼働である。福岡県のビジネスホテル(対象173〜178施設/客室22,306〜22,893室、主要予約サイト掲載ベース)の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は、2026年6月が89.2%、7月が89.7%、8月が90.6%、9月が90.0%と、90%前後で安定していた。県全体の数字は福岡市・北九州市の比重が大きく、これが県内ビジネスホテルの標準的な水準といえる。
大牟田市(全カテゴリ、対象9〜10施設/客室620〜634室、主要予約サイト掲載ベース)は観測できた日が限られるが、6月が72.8%(15日分)、7月が76.3%(19日分)、8月が81.3%(10日分)、9月が77.6%(19日分)だった。6〜9月の観測日63日の平均は76.6%で、同じ63日の福岡県ビジネスホテル平均(89.7%)を約13ポイント下回る。開業から1年に満たない時期に、市内の掲載客室が大きく増えた直後の数字として見ておきたい。
| 月(2026年) | 福岡県ビジネス 施設/客室 | 推定OCC | 大牟田市 施設/客室 | 推定OCC(観測日数) |
|---|---|---|---|---|
| 6月 | 177/22,575 | 89.2% | 9/620 | 72.8%(15日) |
| 7月 | 178/22,775 | 89.7% | 10/634 | 76.3%(19日) |
| 8月 | 173/22,306 | 90.6% | 9/623 | 81.3%(10日) |
| 9月 | 175/22,893 | 90.0% | 10/634 | 77.6%(19日) |
曜日別に並べると、大牟田市の形が見えてくる。火曜から木曜は77.8〜79.5%で安定し、土曜が82.0%で週の山、日曜が65.9%で谷になる。福岡県のビジネスホテルも土曜93.6%・日曜83.9%と同じ形をしているが、土曜と日曜の差は県の9.7ポイントに対して大牟田市は16.1ポイントと大きい。平日の現場出張が土台を作り、土曜にスポーツ遠征やレジャーが上積みされ、日曜に一斉に抜けるという、郊外の大型ビジネスホテルらしい週次の波である。7月25日(土)には100.0%、9月15日(火)には94.5%の日も観測されており、日によっては市内の掲載在庫がほぼ埋まっている。
8月の数字を読むときは、7月28日に発生した熊本地震の影響にも留意したい。大牟田市は熊本県境に接しており、8月下旬の90%前後の日には復旧関連の宿泊が含まれている可能性がある。地震後の九州の宿泊需要については熊本地震と九州の宿泊需要を分析した記事で整理している。
1室あたり投資額と簡易利回り — 公表値610万円、現在の建築費なら約860万円
ここからは投資の側から同じ1棟を眺める。ふくおか経済が報じた総工費約20億円(土地代を除く)を328室で割ると、1室あたり約610万円になる(計画時の333室で割れば約600万円)。ただし、これは2022年末に報じられた計画時点の金額であり、最終的な工事費は公表されていない。同じ建物をこれから建てる場合の目安として、建築費の上昇を2段階で織り込んでおく。
第1段階は現在の建築費水準への引き直しである。国土交通省の建築着工統計によると、宿泊業用建築物の工事費予定額は全構造平均で2022年の坪138万円から2024年は坪195万円へと2年で+41%上昇し、2025年も坪195.2万円と高止まりしている。この比率を当てはめると、20億円は約28.3億円、1室あたり約860万円に相当する。第2段階は建設期間中の上昇の織り込みで、Turner & Townsendの日本の建設コスト予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)に、同社予測の範囲外となる2028年以降は本稿の仮置きとして+4.5%を加え、施工の中間点を2028年と置くと約32.7億円、1室あたり約1,000万円になる。
収入側は客室売上だけで簡易に置く。ADRは新規施設の開業後9か月の推定成約ADR(約7,300円)、稼働率は市の推定OCC(63日平均76.6%)を参考に75%、GOP率は40%とした。GOP率は、インヴィンシブル投資法人が開示する国内ホテル91物件の実績38.9%(2024年12月期)と、宿泊特化型の業態目安とされる50〜60%の間で、保守寄りに置いた前提である。この条件では客室売上が年間約6.55億円、GOPが約2.62億円となる。
| 項目 | 公表値ベース(2022年計画) | 現在の建築費水準 | 建設期間の上昇を織込み |
|---|---|---|---|
| 建物投資額(土地除く) | 約20.0億円 | 約28.3億円 | 約32.7億円 |
| 1室あたり | 約610万円 | 約860万円 | 約1,000万円 |
| 客室売上(ADR 7,300円×稼働75%×328室) | 約6.55億円 | 約6.55億円 | 約6.55億円 |
| GOP(GOP率40%) | 約2.62億円 | 約2.62億円 | 約2.62億円 |
| GOP÷建物投資額 | 13.1% | 9.3% | 8.0% |
| ADR −10%(6,570円) | 11.8% | 8.3% | 7.2% |
| 稼働 −5ポイント(70%) | 12.2% | 8.6% | 7.5% |
| ADR −10%かつ稼働 −5ポイント | 11.0% | 7.8% | 6.7% |
感度分析 — ADRと稼働を同時に動かした場合(現在の建築費水準)
上の表は1項目ずつ動かした感度だが、ADRと稼働が同時に振れたときの幅も確かめておく。現在の建築費水準(建物投資 約28.3億円)を分母に、GOP÷建物投資額をADR×稼働の2軸で並べた。中位(ADR 7,300円・稼働75%)は9.3%、悲観側(ADR 6,570円・稼働70%)は7.8%、楽観側(ADR 8,030円・稼働80%)は10.9%になる。
読みどころは最上段である。新規施設が既存11施設の中央値水準(約5,600円)でしか売れなかった場合、稼働85%でも8.1%にとどまり、中位と同じ9.3%を得るには通年でほぼ98%の稼働が必要になる。後段の条件4「既存の単価帯の上に入れるか」は、収支の前提そのものといえる。
| ADR \ 通年稼働(仮定値) | 65% | 70% | 75% | 80% | 85% |
|---|---|---|---|---|---|
| 5,600円(同一11施設の中央値水準) | 6.2% | 6.6% | 7.1% | 7.6% | 8.1% |
| 6,570円(−10%) | 7.2% | 7.8% | 8.3% | 8.9% | 9.4% |
| 7,300円(新規施設の推定成約ADR) | 8.0% | 8.6% | 9.3% | 9.9% | 10.5% |
| 8,030円(+10%) | 8.8% | 9.5% | 10.2% | 10.9% | 11.5% |
土地を含めても、絵は大きく変わらない。敷地1万㎡に周辺の地価公示(工業地11,000円/㎡〜住宅地32,700円/㎡)を機械的に当てると1.1億〜3.3億円で、現在の建築費水準に土地を足した場合のGOP利回りは8.3〜8.9%になる。建物に対して土地が1割前後に収まることが、地価の低い都市で大型1棟を計画するときの出発点といえる。なお、この比率はGOP段階のもので、固定資産税・保険料・FF&E更新・運営報酬を差し引く前の数字である点には注意したい。
建築費の上昇は、これから同じ規模を建てる事業者にとっては利回りを13%台から8〜9%台へ押し下げる要因だが、既に開業した施設にとっては後続の大型供給が出にくくなることを意味する。2022年の価格で建てられた328室は、同じ市場で長く価格優位を持ちうる。
地価横ばいの都市で大型1棟が成立する条件
ここまでを整理すると、大牟田の事例は「需要が急拡大している都市」ではなく、「既存ストックの構成に空白があった都市」で大型1棟が受け入れられた例と読める。地方都市で郊外型の大型ビジネスホテルを検討する際の確認項目を、4つにまとめておく。
1. 規模の空白があるか
3km圏で100室以上は138室の1軒だけだった。小規模施設が多い市場ほど、団体・遠征・工事関係の一括予約を受けられる大箱は既存施設と競合しにくい。
2. 平日の現場需要が厚いか
駅2km圏の従業者は23,071人、事務所系は8.2%。製造・物流の現場に通う車移動の宿泊客には、IC至近と平面駐車場が駅前立地より効く。
3. 土地が建物の1割前後に収まるか
駅前商業地でも5.1万〜6.0万円/㎡、臨海の工業地は1.1万円/㎡。1万㎡級の敷地を取っても、土地は建物投資の1割前後で済む。
4. 既存の単価帯の上に入れるか
新規施設の推定成約ADRは約7,300円で、同一11施設の中央値(約5,600円)より3割高い。大浴場・朝食・駐車場の付加価値で一段上の価格帯を作れるかが鍵になる。
4つの条件のうち、開業前に最も確かめにくいのは2つ目と4つ目だろう。大牟田では、開業後に既存11施設のADRが前年並みを保ち(4〜8月平均で−1.7%)、新規施設がその上の価格帯で売れているため、市場が2層に分かれた形で落ち着いている。この「既存の単価が崩れない」ことこそ、新規供給が吸収されたかどうかを測る実務的な指標であり、検討段階では近隣で同規模の開業があった都市の同一施設ADRを前後比較しておきたい。
留意点も挙げておく。日曜の推定OCCは65.9%と平日より10ポイント以上低く、週のうち1日は客室の3分の1が空く前提で損益を組む必要がある。また、敷地は海に近い臨海部にあるため、高潮・洪水・液状化の想定は自治体のハザードマップと地盤調査で個別に確認する項目になる。自治体による宿泊施設向けの立地支援策は都市ごとに有無と要件が異なるので、計画地の市町村の一次資料で確かめたうえで収支に織り込むのが有効といえる。
| 確認項目 | 大牟田で観測された数値 | 検討時の見方 |
|---|---|---|
| 供給インパクト | 3km圏 455→841室(+84.8%) | 既存ストック比で5割を超える供給は、価格帯が重ならないことが前提 |
| 同一施設ADR | 開業後9か月 +7.8%、4〜8月 −1.7% | 前年並みを保てば吸収は進んでいると判断できる |
| 週次の稼働 | 土曜82.0%・日曜65.9%(推定) | 日曜の谷を連泊・長期滞在プランで埋める余地がある |
| 建築費 | 610万円/室(2022年計画)→現在水準 約860万円/室 | 着工時期の坪単価で利回りは13%台から8〜9%台へ動く |
| 地価 | 駅前商業地 前年比0.0%、臨海工業地 +5.8% | 産業用地の動きは平日需要の先行指標として見ておきたい |
まとめ — 見るべきは市の平均ではなく、同じ施設どうしの前後比較
大牟田駅3km圏の客室は、328室の開業で455室から841室へと1年で1.8倍になった。それでも市の推定成約ADRは開業後9か月で前年同期比+17.2%と上がり、同一11施設に限っても+7.8%だった。ただし同一施設の伸びは12〜3月に集中しており、4月以降は前年並みである。春以降の市ADRの上昇は、既存施設より3割高い価格帯の新規施設が中央値を引き上げた構成の変化で説明できる。
新規供給の影響を測るとき、市区町村の平均や中央値だけを見ると、施設の入れ替わりによる見かけの上昇を需要の伸びと取り違えやすい。同じ施設どうしで前後を比べ、そのうえで新規施設がどの価格帯に入ったかを別に確かめるという2段階の読み方が、地方都市の供給吸収を判断するうえで役に立つ。建築費が2022年から4割上がった現在、同じ規模の後続は出にくく、先に建った大型1棟の優位は当面続くと考えられる。
データの留意点:本記事のADRは2026年10月3日の調査時点で確定している2026年8月までの月を対象とした推定値であり、今後の再集計で変動する場合があります。2026年9月以降の月は調査時点の掲載水準に基づく推定で基準が異なるため、前年比には使用していません。推定OCCは観測できた日のみの平均です。
よくある質問
Q. ホテルルートイン大牟田の客室数と開業日は?
公式サイトによると総客室数は328室、開業日は2025年12月26日です。所在地は福岡県大牟田市岬町6番地67で、有明海沿岸道路の大牟田ICから車で約2分です。計画段階の報道では333室とされていました。
Q. 開業で大牟田のホテル客室はどれくらい増えましたか?
大牟田駅から半径3kmの客室は2024年末の16軒・455室から2025年末の19軒・841室へ、386室(+84.8%)増えました。増加分の85%にあたる328室がこの1棟によるものです。
Q. 開業後に大牟田市のホテル単価は下がりましたか?
下がっていません。市の推定成約ADRは開業後9か月で前年同期比+17.2%でした。開業前から掲載のある同一11施設に限ると+7.8%で、差の約9ポイントは単価の高い新規施設が集計に加わったことによるものです。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADR・客室ストック・推定稼働率はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(大牟田市 N=11〜13施設、近隣都市は各市の対象施設、福岡県ビジネスホテル 173〜178施設)。地価は国土交通省 地価公示(不動産情報ライブラリ)、建築費は建築着工統計、就業構造は経済センサス-活動調査(2021年)、施設概要はルートインジャパン公式サイトと報道による。数値は2026年10月3日の調査時点。
■ 試算前提
建物投資額は報道値の約20億円(土地除く)を起点に、建築着工統計の宿泊業用建築物の坪単価比(2022年138万円→2024年195万円)で約28.3億円、Turner & Townsendの予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)と2028年以降の本稿の仮置き(+4.5%)で約32.7億円とした。収入は客室売上のみ(ADR 7,300円×通年稼働75%×328室×365日)、GOP率は40%。2軸感度は現在の建築費水準を分母とした。土地は敷地1万㎡に周辺の地価公示(11,000〜32,700円/㎡)を当てた。
■ 限界・留意点
ADRは推定値で、エリア単位の値は対象施設の中央値のため施設の入れ替わりで動く(本稿が同一施設で分解した理由)。近隣都市の値は市全体の中央値で、同一施設にはそろえていない。推定稼働率は観測できた日のみの平均(大牟田市は2026年6〜9月の63日)。利回りはGOP段階の簡易値で、固定資産税・保険料・FF&E更新・運営報酬の控除前。2026年9月以降の月は基準が異なるため前年比に使用していない。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(大牟田市 N=11〜13施設)、推定稼働率(福岡県ビジネス 173〜178施設/大牟田市 9〜10施設)、客室ストック推移(大牟田駅3km圏・5km圏)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示(2022年・2026年)・用途地域
- 国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計表ID: 0003114490)
- 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス-活動調査」
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」
■ REIT・業界レポート
- インヴィンシブル投資法人(8963)決算説明資料(2024年12月期) — 国内ホテル91物件のGOP実績
- Turner & Townsend「Trends shaping Japan’s construction market in 2026」(2026年3月12日) — 日本の建設コスト予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%)
■ 公式サイト・ニュース
