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地価調査2026はいつ公表?基準地価で見る観光地の商業地上昇率 — 白馬+29.3%・高山+28.1%

投稿日 : 2026.09.08

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投資・開発

地価調査2026はいつ公表?基準地価で見る観光地の商業地上昇率 — 白馬+29.3%・高山+28.1%

都道府県地価調査(いわゆる基準地価)は、毎年7月1日時点の土地価格を各都道府県が調査し、国土交通省がとりまとめて9月に公表する統計である。1月1日時点を調べる地価公示と並ぶ二大地価指標だが、両者は基準日も地点構成も異なり、とくに地方・観光地の地点を厚く持つのは地価調査のほうである。本稿では令和8年地価調査の公表を前に、直近で確定している令和7年地価調査の観光地・温泉地の商業地基準地を洗い出し、そこに推定成約ADRと容積率を重ねて、1室あたりの用地負担と想定NOI利回りを13エリアで試算する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率)=本記事の試算では観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)の全国全体値61.8%を一律の前提として使用します。
  • 地価公示=地価公示法に基づき国土交通省土地鑑定委員会が毎年1月1日時点の標準地価格を判定・公示するもの。地価調査(基準地価)=国土利用計画法施行令に基づき各都道府県知事が毎年7月1日時点の基準地価格を調査・公表するもの。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ・地価公示および都道府県地価調査/観光庁「宿泊旅行統計調査」
Key Takeaways
  • — 令和8年都道府県地価調査(基準地価)は2026年9月5日時点で未公表。直近3回はいずれも9月中旬〜下旬の公表で、令和7年分は2025年9月16日に報道発表された。
  • — 令和7年地価調査の商業地変動率は、長野県平均+0.4%に対し白馬村+29.3%(全国4位)、岐阜県平均+0.7%に対し高山市+28.1%(全国5位)。観光地の実勢は県平均では見えない。
  • — 地価調査は7月1日時点・21,441地点で都市計画区域外にも基準地を置ける。用途地域の指定がない白馬村・野沢温泉村・ニセコ町の商業集積を捕捉できるのは、1月1日時点・都市計画区域中心の地価公示にはない特性。
  • — 敷地1,000㎡・容積率上限消化で試算すると、想定NOI利回りは倶知安町6.60%・由布市5.92%・熱海市5.67%が上位。地価変動率で全国4位の白馬村は3.55%で、変動率の順位と開発の器としての順位は一致しない
  • — 効くのは単価より容積率。草津町は¥121,000/㎡と箱根町の4分の1の単価だが容積率500%で110室が載り、1室あたり用地負担110万円(箱根町577万円)。京都市東山区は用地が総投資の55.8%を占める。

地価公示と地価調査は何が違うのか — 基準日・地点数・カバー範囲

ホテル開発の用地検討で地価データを引くとき、地価公示と地価調査のどちらを見ているかで景色が変わる。両者は「相互に補完的な関係にある」と国土交通省自身が説明しているとおり、置き換え可能な同じ数字ではない。

最大の違いは基準日である。地価公示は1月1日時点、地価調査は7月1日時点を評価する。両者を交互に並べれば半年刻みで地価を追える設計だ。次に地点構成。令和8年地価公示は全国26,000地点の標準地(うち435地点が調査休止のため実施地点数は25,565地点)を対象とするのに対し、令和7年地価調査は21,441地点の基準地(うち10地点が調査休止)を対象とする。地点数では地価公示が上回るが、地価公示が都市計画区域を中心に設定されるのに対し、地価調査は都市計画区域外にも基準地を置ける。スキー場周辺や温泉街のように用途地域の指定がない地域に立つホテル用地は、地価調査でこそ捕捉されやすい。

表1:地価公示(令和8年)と都道府県地価調査=基準地価(令和7年)の制度比較
項目 地価公示(令和8年) 地価調査=基準地価(令和7年)
根拠法地価公示法国土利用計画法施行令
実施主体国土交通省 土地鑑定委員会各都道府県知事(国交省がとりまとめ)
価格時点1月1日7月1日
公表時期3月(令和8年は2026年3月18日)9月(令和7年は2025年9月16日報道発表)
地点数26,000地点(実施25,565地点)21,441地点(10地点休止)
地点の呼称標準地基準地
全国 全用途平均+2.8%(5年連続上昇)+1.5%(4年連続上昇)
全国 商業地+4.3%+2.8%
全国 住宅地+2.1%+1.0%

出典:国土交通省「令和8年地価公示の概要」「令和7年都道府県地価調査の概要」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

数字の水準そのものも一貫して差がある。商業地の全国平均は地価公示が+4.3%、地価調査が+2.8%で、直近5年間はどの年も地価公示のほうが高い。これは地価公示のほうが三大都市圏の高価格帯地点の構成比が高いためで、逆にいえば地価調査のほうが地方圏の実勢に引きずられた「重い」数字になる。地方の観光地でホテル用地を探すなら、この重い側の統計で地点を拾ったほうが、実際に買える土地の景色に近い。

出典:国土交通省「令和8年地価公示の概要」「令和7年都道府県地価調査の概要」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

令和8年地価調査はいつ公表されるのか — 執筆時点での確認結果

結論から書くと、令和8年(2026年)都道府県地価調査は本稿執筆時点の2026年9月5日時点でまだ公表されていない。直近3回の公表時期は令和5年が2023年9月、令和6年が2024年9月、令和7年が2025年9月16日報道発表と、いずれも9月中旬〜下旬に集中している。したがって令和8年分も9月中の公表が見込まれるが、具体的な日付は執筆時点で発表されていないため、国土交通省の報道発表ページで確認されたい。

データ側でも同じ結論が確認できる。国土交通省「不動産情報ライブラリ」の地価公示・地価調査ポイント配信を、同一地点座標に対して年次と価格区分を変えて照会すると、地価公示は2026年(令和8年)分がすでに返るのに対し、地価調査は2026年分の収録が0件で、返るのは2025年(令和7年)分までである。この記事に載せる観光地の基準地データが令和7年ベースなのはそのためで、令和8年地価調査が出れば同じ地点の7月1日時点の更新値が取得できるようになる。

本稿のデータ vintage:観光地・温泉地の地点別データは令和7年都道府県地価調査(価格時点 2025年7月1日/2025年9月公表)を使用。全国・全体動向の最新値としては令和8年地価公示(価格時点 2026年1月1日/2026年3月18日公表)を併記しています。地価公示の標準地と地価調査の基準地は別の地点であり、同じ「箱根5-1」のような番号でも指す場所が異なります。地点単位で両者の価格を直接比較することはできません。

観光地・温泉地の商業地は、県平均の何倍動いたか

令和7年地価調査の商業地変動率上位10位のうち、北海道千歳市の3地点(半導体工場進出)を除くと、白馬村(+29.3%、全国4位)と高山市(+28.1%、全国5位)が観光地として上位に食い込んでいる。ただし全国順位表に載るのは10地点だけなので、ここでは主要な温泉地・リゾート・観光都市に実際に置かれている商業地基準地を個別に抽出した。

県平均との差が大きい。長野県の商業地全体は+0.4%にとどまるが、白馬村の基準地は+29.3%、野沢温泉村は+24.2%である。北海道全体は+0.6%だが倶知安町は+15.2%、ニセコ町は+11.3%。岐阜県全体+0.7%に対し高山市の古い町並みに面した基準地は+28.1%。都道府県単位の平均値は、県内の大多数を占める非観光エリアの横ばい・下落に薄められてしまうため、観光地の実勢は基準地単位まで降りないと見えない

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(N=14基準地)

用途の面でも観光地らしい構成になっている。抽出した14基準地のうち、白馬村・野沢温泉村・ニセコ町の3地点は用途地域の指定がない区域に立地する。白馬5-2は「スキー用品店、飲食店等が建ち並ぶ細野筋沿いの商業地域」、野沢温泉5-1は「中小規模の小売店舗、民宿等が多い温泉街に近い商業地域」と鑑定上の周辺状況が記録されており、実態は商業集積でありながら都市計画上の用途地域指定を持たない。こうした地点は地価公示側では相対的に拾いにくく、地価調査ならではのカバー範囲といえる。

表2:観光地・温泉地の商業地基準地 14地点 — 価格・変動率・用途地域・容積率(令和7年都道府県地価調査)
エリア 基準地 価格(円/㎡) 変動率 用途地域 容積率 最寄駅・距離
白馬村白馬5-267,500+29.3%指定なし200%白馬 2,200m
高山市高山5-4493,000+28.1%近隣商業300%高山 800m
野沢温泉村野沢温泉5-140,000+24.2%指定なし300%戸狩野沢温泉 7,600m
熱海市熱海5-1294,000+17.1%商業地域500%熱海 300m
倶知安町倶知安5-1167,000+15.2%商業地域400%倶知安 350m
京都市東山区東山5-14,900,000+15.0%商業地域600%京阪祇園四条 300m
箱根町箱根5-1508,000+12.9%商業地域400%箱根湯本 50m
ニセコ町ニセコ5-129,500+11.3%指定なしニセコ 600m
軽井沢町軽井沢5-3208,000+11.2%近隣商業200%軽井沢 880m
那覇市那覇5-2285,000+10.9%商業地域400%倉庫前停 210m
草津町草津5-2121,000+10.0%商業地域500%長野原草津口 14,000m
別府市別府5-877,000+8.5%商業地域400%別府大学 1,900m
富良野市富良野5-154,100+5.0%近隣商業300%富良野 500m
由布市(湯布院)由布5-367,000+1.5%商業地域400%由布院 400m

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査、価格時点2025年7月1日)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

価格の絶対水準は大きく開いている。祇園町北側の東山5-1が¥4,900,000/㎡であるのに対し、ニセコ町本通の基準地は¥29,500/㎡。同じ「上昇している観光地の商業地」でも、単価には166倍の開きがある。この価格差が開発採算にどう効くかは、容積率をかけて1室あたりに直してみないと判断できない。

出典:国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

容積率から逆算する客室数 — 同じ1,000㎡でも44室と132室に分かれる

用地の巧拙は単価だけでは決まらない。同じ面積の土地でも、容積率が違えば載る延床面積が変わり、載る客室数が変わり、結果として1室あたりの用地負担が変わる。ホテル用地の比較は、円/㎡ではなく円/室に直して初めて横並びになる。

ここでは敷地1,000㎡を共通の器として、各基準地の容積率上限まで使い切った場合の客室数を機械的に算出する。前提は客室部分比率62%(廊下・ロビー・バックヤード・機械室を38%と想定)、1室あたり客室面積28㎡。この条件だと、容積率200%の白馬村・軽井沢町では44室、300%の高山市・野沢温泉村・富良野市では66室、400%の倶知安町・箱根町・別府市・那覇市・由布市では88室、500%の熱海市・草津町では110室、600%の京都市東山区では132室が上限となる。

この差はそのまま用地負担に効く。箱根5-1(¥508,000/㎡・容積率400%)は1,000㎡で88室が載るので1室あたり用地負担は約577万円。一方、軽井沢5-3は単価が¥208,000/㎡と箱根の4割ほどだが容積率が200%しかないため44室しか載らず、1室あたり約473万円と箱根との差は2割程度まで縮む。単価の安さが容積率で相殺される典型例である。

逆方向もある。草津5-2は¥121,000/㎡と単価は箱根の4分の1だが、容積率500%が効いて110室が載り、1室あたり用地負担は約110万円まで下がる。温泉街の中心部でありながら建物を高く積める指定になっていることが、開発の器としての強みになっている。用途地域と容積率が開発余地をどこまで規定するかは、ホテルはどこに建てられるか — 用途地域・容積率・地価で読む主要5商圏の開発余地2026でも主要商圏を対象に検証している。

推定成約ADRからNOIを逆算する — 前提条件と13エリアの試算

ここまでの用地側の数字に、収益側の数字を突き合わせる。各エリアの推定成約ADRはメトロエンジンリサーチの直近12ヶ月(2025年9月〜2026年8月)の月次値を平均したもので、エリア内の対象施設の中央値である。稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)の全国全体61.8%を全エリア共通で置いた。エリア間の相対比較を目的とするため、収益前提はすべて共通としている。

表3:想定NOI利回りの試算前提(敷地1,000㎡・容積率上限消化・全エリア共通)
前提項目 設定値 根拠
敷地面積1,000㎡全エリア共通の比較用の器
延床面積敷地×容積率上限令和7年地価調査の各基準地の容積率
客室部分比率/1室面積62%/28㎡(1室あたり延床45.2㎡=13.66坪)ミドルクラス宿泊主体型の一般的な設計値
建設費(着工時点)195.2万円/坪 → 1室2,667万円国土交通省 建築着工統計 2025年 全構造平均
建設期間インフレ織込み年+5%×2年 → 1室2,940万円Turner & Townsend 建設コスト予測(2026年+5.3%/2027年+5.0%)
ADRエリア別 推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月平均)メトロエンジンリサーチ
稼働率61.8%(2025年 通年・全エリア共通)観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)全国全体
付帯収入客室売上の+25%(料飲・温浴等)観光地立地を想定した保守的設定
GOP率総売上の30%インヴィンシブル投資法人 運営91物件のGOP実績38.9%(2024年12月期)に対し、新規開業の初期値として保守設定
FF&E積立総売上の3%業界標準的な積立水準
NOIGOP − FF&E積立土地・建物の取得原価に対する利回りを算出

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=各エリアの対象施設数は下表に記載)/国土交通省 建築着工統計/観光庁「宿泊旅行統計調査」

この前提で13エリアを試算した結果が下表である。想定NOI利回りが高いエリアほど、現行の地価水準に対して宿泊単価が先行しており、開発の余地が広く残っている。逆に低いエリアは、土地の側に将来の収益期待が先に織り込まれていると読める。

表4:13エリアの想定NOI利回り試算 — 推定成約ADR・客室数・1室あたり用地負担・総投資(中位ケース)
エリア 推定成約ADR 前年同期比 N 客室数 NOI/室 用地/室 総投資/室 想定NOI利回り
倶知安町¥27,100+1.1%2188室206万円190万円3,130万円6.60%
由布市(湯布院)¥23,400-0.3%13788室178万円76万円3,016万円5.92%
熱海市¥23,900+8.3%103110室182万円267万円3,207万円5.67%
箱根町¥26,000+1.9%17788室198万円577万円3,517万円5.63%
軽井沢町¥23,100+3.7%5144室176万円473万円3,413万円5.15%
草津町¥17,500+8.4%85110室134万円110万円3,050万円4.38%
別府市¥15,400+5.2%12088室117万円88万円3,028万円3.87%
白馬村¥14,400+17.7%4244室110万円153万円3,093万円3.55%
富良野市¥14,000+2.6%1266室106万円82万円3,022万円3.51%
高山市¥17,000+6.9%13366室130万円747万円3,687万円3.51%
野沢温泉村¥13,300+4.1%2366室101万円61万円3,001万円3.38%
京都市東山区¥23,500-1.2%47132室179万円3,712万円6,652万円2.69%
那覇市¥10,100+16.0%13988室77万円324万円3,264万円2.36%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均、Nは月次中央値の対象施設数)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査)/国土交通省 建築着工統計/観光庁「宿泊旅行統計調査」
※ニセコ町の基準地は容積率の指定がないため客室数を機械的に算出できず、試算対象から除外しています。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査)より作成(N=13エリア)

用地が総投資に占める比率は大きく割れる。野沢温泉村は2.0%、由布市は2.5%、富良野市は2.7%と、投資額のほぼ全てが建物側である。これらのエリアでは、地価がさらに上昇しても採算に与える影響は限定的で、むしろ建設費の推移のほうが事業成立を左右する。対照的に京都市東山区は用地が総投資の55.8%を占め、高山市も20.3%、箱根町も16.4%と、土地側の比重が明確に効いてくる。

感度も確認しておく。稼働率を55%まで落とすと倶知安町は6.60%から5.87%、箱根町は5.63%から5.01%へ低下する。逆に70%まで上がれば倶知安町7.47%、箱根町6.37%。用地比率の低いエリアほど稼働率の振れが利回りに直結し、用地比率の高い京都市東山区は2.39%〜3.04%と振れ幅そのものが小さい。土地の重い市場は、稼働の良し悪しでは動きにくい構造だといえる。同じ地価×ADRの枠組みで新築ではなく既存ストックの取得を試算した例は、企業保養所コンバージョンの投資経済性が温泉・高原5エリアで扱っている。

3シナリオで見た想定NOI利回りの振れ幅

ここまでの想定NOI利回りは、稼働率61.8%(2025年 通年・全国全体)・推定成約ADRを実勢どおりに置いた単一の中位ケースである。実際の事業計画では稼働と単価の両方が振れるため、2変数を同時に動かした3シナリオで幅を確認しておく。悲観ケースは稼働率55.0%・ADR実勢比−5%、中位ケースは稼働率61.8%・ADR実勢、楽観ケースは稼働率70.0%・ADR実勢比+5%とした。稼働率の下限55.0%は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)のリゾートホテル56.9%・旅館38.4%の間に置いた保守値、上限70.0%は同調査のシティホテル74.2%・ビジネスホテル75.3%を上回らない水準としている。用地・建設費・GOP率・FF&E積立は3ケースとも共通である。悲観・楽観の稼働率55.0%/70.0%は感度を見るための仮定値であり、特定の期間に観測された実績値ではない。

表5:3シナリオ別の想定NOI利回り(悲観:稼働率55.0%・ADR−5%/中位:稼働率61.8%=2025年 通年実績・ADR実勢/楽観:稼働率70.0%・ADR+5%。稼働率55.0%・70.0%は仮定値)
エリア 悲観 中位 楽観 振れ幅
倶知安町5.57%6.59%7.84%2.27pt
由布市(湯布院)4.99%5.91%7.02%2.03pt
熱海市4.80%5.67%6.75%1.95pt
箱根町4.76%5.63%6.69%1.94pt
軽井沢町4.36%5.15%6.13%1.77pt
草津町3.69%4.37%5.20%1.50pt
別府市3.27%3.87%4.61%1.33pt
白馬村3.00%3.54%4.21%1.22pt
富良野市2.98%3.53%4.19%1.21pt
高山市2.97%3.51%4.17%1.21pt
野沢温泉村2.85%3.37%4.01%1.16pt
京都市東山区2.27%2.69%3.20%0.92pt
那覇市1.99%2.36%2.80%0.81pt

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査)/国土交通省 建築着工統計/観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(N=13エリア)

順位は3ケースを通じて入れ替わらない。倶知安町は悲観でも5.57%を確保し、楽観では7.84%に届く。上位4エリア(倶知安町・由布市・熱海市・箱根町)は悲観ケースでも4.7%台を下回らず、稼働と単価が同時に沈む局面でも一定の余裕が残る。

注目したいのは振れ幅そのものの差である。倶知安町の悲観〜楽観のレンジは2.27ptあるのに対し、京都市東山区は0.92pt、那覇市は0.81ptにとどまる。用地が総投資の55.8%を占める京都市東山区では、分母が大きいぶん収益側が動いても利回りが動きにくい。逆にいえば、用地負担の軽いエリアほど運営の成否がそのまま利回りに反映される構造であり、稼働・単価を作り込める運営体制が用意できるかが実質的な前提条件になる。

ADR×稼働率の2軸感度 — 箱根町を例に

3シナリオはADRと稼働率を連動させているが、両者は独立に動くこともある。中位グループの代表として箱根町(1室あたり用地負担577万円・総投資3,517万円・88室)を取り、ADRを実勢比±10%、稼働率を52.0%〜70.0%(いずれも仮定値。中央列の61.8%のみ2025年 通年の実績値)の範囲で動かした25通りの想定NOI利回りを示す。中央の太字が本稿の中位ケースである。

表6:箱根町の想定NOI利回り — ADR×稼働率の2軸感度(縦軸:推定成約ADR実勢比/横軸:稼働率。61.8%=2025年 通年実績、他は仮定値)
推定成約ADR 稼働率
(実勢比) 52.0%57.0%61.8%66.0%70.0%
ADR -10%(¥23,400)4.26%4.67%5.06%5.41%5.74%
ADR -5%(¥24,700)4.50%4.93%5.35%5.71%6.06%
ADR 実勢(¥26,000)4.74%5.19%5.63%6.01%6.37%
ADR +5%(¥27,300)4.97%5.45%5.91%6.31%6.69%
ADR +10%(¥28,600)5.21%5.71%6.19%6.61%7.01%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADRは2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査)/国土交通省 建築着工統計/観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算(N=13エリア)

2軸で見ると、箱根町で想定NOI利回り6%に届くのは、ADR実勢のままなら稼働率66.0%(6.01%)以上、ADRが実勢比−5%まで下がるなら稼働率70.0%(6.06%)が必要という水準感になる。ADR−10%の列では稼働率70.0%でも5.74%どまりで6%には届かない。逆に下振れ側は、ADR−10%かつ稼働率52.0%でも4.26%を維持する。振れ幅は上下ともおおむね1.4pt前後で、ADR1%の変動が利回りに与える影響(約0.056pt)と稼働率1ptの変動が与える影響(約0.091pt)を比べると、この価格帯では稼働率のほうが感応度が高い。用地負担が総投資の16.4%にとどまる箱根町では、土地の取得条件よりも開業後の稼働形成が利回りを左右する。

地価が先行しているエリア、宿泊単価が先行しているエリア

最後に、地価の動きと宿泊単価の動きを同じ平面に置いてみる。横軸に令和7年地価調査の商業地基準地の変動率、縦軸に推定成約ADRの前年同期比を取ると、14エリアが4つの位置に分かれる。基準線は横軸が全国商業地の+2.8%、縦軸が0%である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR)/国土交通省 不動産情報ライブラリ(令和7年都道府県地価調査)より作成(N=14エリア)

地価も単価も伸びている領域に入るのが白馬村(地価+29.3%/ADR+17.7%)、熱海市(+17.1%/+8.3%)、草津町(+10.0%/+8.4%)、ニセコ町(+11.3%/+9.9%)、別府市(+8.5%/+5.2%)、高山市(+28.1%/+6.9%)である。土地の評価と宿泊需要が同じ方向に動いており、地価上昇が実需に裏打ちされている構図になっている。白馬村はADR側の伸びが二桁で、地価上昇率29.3%との差はまだ開いているものの、収益の伸びが地価を追いかけている。

地価の伸びが先行している領域には京都市東山区(地価+15.0%/ADR-1.2%)と倶知安町(+15.2%/+1.1%)、箱根町(+12.9%/+1.9%)が位置する。とくに京都市東山区は祇園町北側という国内屈指の商業立地であり、宿泊以外の用途(物販・飲食・ラグジュアリー小売)が土地の値付けを主導している。この地点でホテル開発の器を考えるなら、ミドルクラスの客室単価では届かず、より高い単価帯の商品設計か、容積率600%を使い切る規模の確保が前提になる。1室あたり用地負担3,712万円は、建設費2,940万円を上回る水準である。

宿泊単価が先行している領域で目立つのが那覇市(地価+10.9%/ADR+16.0%)である。沖縄県の商業地は令和7年地価調査で+7.1%、那覇市は+6.8%と全国平均を大きく上回っているが、ADRの伸びはそれをさらに上回っている。ただし那覇市の推定成約ADRは¥10,100と絶対水準が低く(対象施設139、エリア中央値)、ミドルクラスの新築ホテルを想定した本試算では想定NOI利回り2.36%となる。単価の伸び率と絶対水準は別の話であり、那覇市で開発採算を組むなら、より高い単価帯へのポジショニングか、容積率をさらに使える立地の選定が鍵になる。

由布市(湯布院)は地価+1.5%、ADR-0.3%と両軸とも横ばい圏だが、用地負担が1室76万円と極端に軽いため、想定NOI利回りは5.92%と全13エリア中2位に入る。変動率の大小と、開発の器としての効率は別の指標だということが、ここではっきり出ている。地価が動いていないエリアにこそ、収益と土地代のギャップが残っていることがある。

令和8年地価調査で確認したい3つのポイント

9月に令和8年地価調査が公表されたら、本稿の枠組みで真っ先に見るべき点を挙げておく。

第一に、白馬村・野沢温泉村の連続性である。白馬5-2は令和6年地価調査で+30.2%、令和7年で+29.3%と2年連続で30%前後の上昇を記録している。令和8年地価公示(2026年1月1日時点)でも白馬-1が住宅地全国1位(+33.0%)、白馬5-1が商業地全国3位(+35.2%)となっており、半年後の7月1日時点でこのペースが維持されているかが焦点になる。この2エリアで地価を押し上げている開発案件そのものは、白馬・野沢温泉スキーリゾート投資2026で投資規模・客室数まで整理している。

第二に、地方圏「その他の地域」の伸びしろである。令和7年地価調査では、地方四市を除く「その他」の住宅地が平成8年から29年続いた下落から横ばい(0.0%)に転じ、商業地は+0.6%と3年連続の上昇となった。令和8年地価公示ではその他の地域の商業地が+1.1%と上昇幅を拡大している。温泉地・観光地の多くはこの「その他の地域」に属するため、ここが押し上がるほど、地方観光地の用地取得環境は変化していく。

第三に、容積率と用途地域の運用である。本稿の試算が示すとおり、用地の効率は単価より容積率で決まる場面が多い。用途地域の指定がない区域に立つ観光地の基準地(白馬村・野沢温泉村・ニセコ町)は、地区計画や特定用途制限地域の設定次第で開発の器が変わる。地価調査は都市計画区域外の地点も拾うため、こうした地域の値動きを追うには最も適した統計である。

まとめ

令和8年都道府県地価調査は2026年9月5日時点で未公表であり、国土交通省 不動産情報ライブラリにも令和8年分の地価調査データは収録されていない。例年9月中旬〜下旬の公表であるため、間もなく最新値が入手できる見込みである。

それまでに確定している令和7年地価調査(2025年7月1日時点)を観光地・温泉地に絞って読むと、県平均では見えない動きが浮かび上がる。長野県の商業地全体が+0.4%のなかで白馬村の基準地は+29.3%、北海道全体+0.6%のなかで倶知安町は+15.2%。地価調査が地方・観光地の地点を厚く持つ統計であることが、この解像度を可能にしている。

その地価に容積率と推定成約ADRを重ねると、開発の器としての順位は変動率の順位とは一致しない。倶知安町6.60%、由布市5.92%、熱海市5.67%、箱根町5.63%が上位に並び、地価変動率で全国4位だった白馬村は3.55%にとどまる。一方、用地が総投資の55.8%を占める京都市東山区では、宿泊以外の用途が土地の値付けを主導しており、ミドルクラスとは異なる商品設計が前提になる。地価の上昇率は市場の温度を示すが、開発が成立するかどうかは容積率で割った1室あたりの用地負担で決まる。9月の令和8年地価調査は、この分母と分子の両方を半年分アップデートする材料になる。

試算に関する注意:本稿の想定NOI利回りは、敷地1,000㎡・容積率上限消化・共通の運営前提を置いた簡易試算であり、実際の投資判断には個別の詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。建設費・稼働率・GOP率はいずれも公表統計に基づく仮置きであり、個別プロジェクトの実績を保証するものではありません。また地価公示の標準地と地価調査の基準地は別の地点であり、地点単位で両者の価格を比較することはできません。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

地点別の価格・変動率・用途地域・容積率は国土交通省 不動産情報ライブラリの地価公示・都道府県地価調査ポイント配信から取得(令和7年都道府県地価調査/価格時点2025年7月1日、観光地・温泉地の商業地基準地14地点)。全国・都道府県の集計値は国土交通省「令和7年都道府県地価調査の概要」および「令和8年地価公示の概要」に拠る。推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの市区町村別月次値(2025年9月〜2026年8月の12ヶ月平均、エリア内対象施設の中央値、N=各表に記載)。稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(速報値)、建築費は国土交通省「建築着工統計調査」、GOP水準はインヴィンシブル投資法人の運営91物件実績(2024年12月期)を参照した。

■ 試算前提

全エリア共通の器として敷地1,000㎡を置き、各基準地の容積率上限まで延床を消化した場合の客室数を算出(客室部分比率62%、1室あたり客室面積28㎡=1室あたり延床45.2㎡)。建設費は2025年全構造平均195.2万円/坪に建設期間中のインフレを年+5%×2年で織り込み1室2,940万円。収益側は推定成約ADR×稼働率61.8%(2025年 通年・全国全体)×365日に付帯収入25%を加え、GOP率30%からFF&E積立3%を控除してNOIとした。想定NOI利回り=1室あたりNOI÷1室あたり総投資(用地+建設費)。感度分析は悲観(稼働率55.0%・ADR実勢比−5%)/中位(稼働率61.8%・ADR実勢)/楽観(稼働率70.0%・ADR実勢比+5%)の3ケースと、箱根町を対象としたADR±10%×稼働率52.0〜70.0%の2軸25通りで算出している。

■ 限界・留意点

本稿の想定NOI利回りは共通前提を置いた簡易試算であり、個別プロジェクトの事業性を示すものではない。実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要となる。留意点は5つある。第一に、地価公示の標準地と地価調査の基準地は別の地点であり、地点単位で両者の価格を直接比較することはできない。第二に、基準地はエリアを代表する1地点であって、同一市町村内でも実際の取得価格は地点ごとに大きく異なる。第三に、推定成約ADRはOTA公開価格に業態別補正を適用した推定値(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値約7%)であり、実際の成約価格・会計数値とは異なる。第四に、稼働率61.8%(2025年 通年)は全国全体の平均値を全エリアに一律で適用したもので、エリア別・季節別の実勢とは乖離しうる。第五に、容積率上限まで消化できるかは、地区計画・高さ制限・斜線制限・景観条例・駐車場附置義務など基準地データに含まれない規制に左右され、とくに用途地域の指定がない区域(白馬村・野沢温泉村・ニセコ町)では地区計画や特定用途制限地域の設定次第で開発の器が変わる。ニセコ町の基準地は容積率の指定がないため、利回り試算の対象から除外している。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ REIT・業界レポート

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