群馬・草津温泉で、2026年6月から7月にかけて客室数90室超の宿泊施設が2件、合計191室分オープンした。人口6,000人規模の温泉町としては異例の規模である。供給が一気に増えれば単価は崩れる——というのが素朴な予想だが、メトロエンジンリサーチのデータを追うと、草津町の推定成約ADRは群馬県内の主要温泉地のなかで最も下落幅が小さかった。本稿では、湯畑を中心とする半径5km圏の221施設・3,841室を対象に、供給の実数、単価の前年同月比、在庫消化のスピードを突き合わせ、この夏の草津温泉に何が起きたのかを検証する。
【直答】いまの草津温泉の相場 — 1泊・1室2名利用・1室あたり・税込(2026年9月15日取得のOTA掲載価格)
- 平日(日〜木曜泊):おおむね¥30,000〜¥37,000。中央値は約¥32,900で、多くの日が¥31,700〜¥34,000の帯に収まる。
- 金曜泊:¥30,500〜¥37,500。平日との差は小さい。
- 土曜泊:¥40,000〜¥49,500。平日の中央値より3〜5割高い。
- 3連休(9月シルバーウィーク・10月の連休):残室が薄く、平均¥59,000〜¥106,000まで上振れた日もある。
草津町でOTA上に残室のある施設の掲載価格平均(全プラン平均)。チェックイン2026年9月17日〜10月30日の44日分、N=68〜73施設/日(日により変動)。「今から予約できる残室」ベースの値のため、低価格プランから売れた日ほど高めに出る。月平均の推移と前年比は「2026年秋(9〜11月)の掲載価格」を参照。出典:メトロエンジンリサーチ
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- 掲載価格(全プラン平均):OTA等に公開されている全プラン(素泊まり〜2食付きを含む)の平均価格。2名1室利用時の1室あたり料金・税込。上記ADRとは基準が異なるため、両者を直接比較しないでください。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
- LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT0=当日。早期完売LT=残室数が初めて0室に到達したリードタイム(値が大きいほど早く完売)。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ
- — 191室の開業、純増は約94室 — うち97室は既存100室施設の改装転換。エリア客室2,474室(2026年8月・OTA稼働確認ベース)に対して3.8%の増加にとどまる。
- — 草津町の推定成約ADRは6〜7月平均で前年同月比-2.6% — 群馬県内の主要5温泉地で最小の下落幅。県全体(-4.5%)、渋川市(-19.0%)を上回って単価が守られた。
- — 推定稼働率は6〜8月を通じて92〜97%(OTA掲載在庫ベースの推定値)— 群馬県平均の81%前後を11〜15ポイント上回り、増えた在庫は消化されている。
- — 純増が県平均並みの稼働に効くのは約300〜500室から — 実績需要を固定した感度試算では、94室では92.0%を維持。3〜5倍の純増で初めて群馬県平均(81%前後)圏に入る。
- — 動いたのは平均ではなく「60室以上×¥35,000超」という帯 — 従来ほぼ空白だったこの価格帯にプレーヤーが入り、その帯の競争環境だけが不連続に変化した。
191室の新規開業、しかし純増は94室
まず供給の実数を確認する。2026年に草津温泉エリアで開業した客室数90室超の施設は次の2件である。
| 施設 | 客室数 | 開業 | 形態 | エリア客室の純増 |
|---|---|---|---|---|
| 界 草津 | 94室 | 2026年6月7日 | 新築 | +94室 |
| B/C HOTEL 草津 | 97室 | 2026年7月6日 | 既存施設(100室)の改装・転換 | 実質横ばい |
| 合計 | 191室 | — | — | 約+94室 |
出典:メトロエンジンリサーチ(OTA掲載確認ベース)、各施設・運営会社の公表資料よりホテルバンク編集部作成/界 草津の客室数94室・2026年6月7日開業は運営会社の公式リリースで確認。B/C HOTEL 草津の97室・2026年7月6日プレオープンは複数の第三者予約サイトで一致した値であり、運営会社公式での室数・開業日の明記は未確認。前身施設の事業譲渡(2025年7月31日)は前運営会社の公表資料で確認
ここが第一の論点である。見出しの数字は191室だが、B/C HOTEL 草津は2025年7月に事業譲渡された既存施設(100室)を全面改装して再開業したもので、両者の所在地は座標レベルでほぼ一致する。つまりエリアの客室総数に対する純増は、実質的に94室にとどまる。
これを分母と比べてみる。メトロエンジンリサーチが草津町でOTA上の稼働を確認できた客室数は、2026年8月時点で107施設・2,474室だった。94室はこの3.8%にあたる。エリア全体で見れば、一夜にして需給が反転するほどの規模ではない。新規供給がエリアのADRをどこまで押し下げるかは県ごとの客室ストック規模に左右されることを、47都道府県を対象にした検証で確認している。ただし単価帯を絞れば話は変わる——この点は後段のポジショニング分析で扱う。
湯畑5km圏の宿泊供給マップ — 221施設・3,841室
供給の地理的な広がりを見る。湯畑を中心とする半径5km圏には、メトロエンジンリサーチが把握する範囲で221施設・3,841室が所在する。このうち20室以上の中〜大規模施設は42施設・2,465室で、客室数ベースでエリアの64%を占める。裏を返せば、施設数の8割は20室未満の小規模宿である。草津温泉は「大型ホテルの街」ではなく、「小規模宿が数多く集まる街に、大型施設が点在する」構造をしている。
出典:メトロエンジンリサーチ/円の大きさ=客室数、色=推定成約ADR帯(N=42施設・20室以上)
地図を見ると、中〜大規模施設の大半は湯畑から半径500m圏の温泉街中心部に密集し、その外側では東側(ベルツの森・スキー場方面)に大型施設が離れて点在する。今回の新規供給2件はいずれも湯畑から徒歩圏の中心部に立地しており、供給増のインパクトは「エリア全体」よりも「湯畑徒歩圏」に集中していると考えられる。開業前の時点で湯畑5km圏の供給構成をどう見ていたかは、草津温泉エリアの需給ショック2026夏で整理している。
2026年秋(9〜11月)の掲載価格 — 最新実測【2026年9月16日追記】
本節は2026年9月16日の追記である。以降の需給検証は2026年夏(6〜8月)を対象としたもので、「2026年夏の記録」としてそのまま残している。ここでは、秋の予約検討に直接使える9〜11月の最新実測を先にまとめる。
| 月 | 掲載価格 2025年(実績) | 掲載価格 2026年(取材時点) | 前年同月比 | 推定成約ADR 2026年(推定) | N(2026年掲載) |
|---|---|---|---|---|---|
| 9月 | ¥33,702 | ¥36,456 | +8.2% | ¥17,349 | 147施設 |
| 10月 | ¥34,503 | ¥37,897 | +9.8% | ¥17,681 | 144施設 |
| 11月 | ¥36,392 | ¥42,168 | +15.9% | ¥18,467 | 130施設 |
出典:メトロエンジンリサーチ(2026年9月13日集計)/2026年9〜11月の値は調査時点でOTA上に公開されている販売価格に基づき、チェックイン日に近づくにつれて変動します。推定成約ADRは前売り段階のスナップショットに基づく推定値(9月 N=90・10月 N=85・11月 N=79施設)
掲載価格は9月+8.2%、10月+9.8%、11月+15.9%と、3ヶ月とも前年を上回る水準が掲示されている。夏に観測された「値付けの強気化」は秋も継続しており、とくに紅葉期の11月は上げ幅が最も大きい(11月は集計対象が130施設と9月より少なく、前売り段階の値であるため振れ幅には注意が必要だ)。さらに先の12月は取材時点で¥47,604(N=105施設)と、前年12月実績の¥37,492を大きく上回る水準が出ているが、対象施設数が絞られた前売り値であり、確定値とは切り離して読みたい。
一方、推定成約ADRは9月が約¥17,300(前年同月比+2.8%)、10月が約¥17,700(+3.3%)と小幅なプラスにとどまり、11月は約¥18,500(-6.2%)と前売り段階では前年を下回る。夏の検証で確認した「掲載価格は強気、推定成約単価は前年並み」という乖離の構図は、秋のデータでもそのまま続いている。
在庫の消化も先行している。2026年9月15日時点で、10月の土曜はチェックイン日別のOTA在庫の83〜93%がすでに消化済み、平日もおおむね7割前後まで進んでいる(草津町 N=68〜73施設/日)。紅葉ピークの週末に向けて、選択肢は価格の高い側から絞られていく局面にある。
【2026年夏の記録】掲載価格は上がり、推定成約ADRは横ばい
では単価はどう動いたか。草津町の推定成約ADRを月次で追うと、2026年6月は約¥14,600(前年同月¥15,400、前年同月比-5.4%)、7月は約¥15,800(同¥15,700、+0.2%)だった。6月は下落したが、7月はほぼ前年並みに戻している。
出典:メトロエンジンリサーチ(草津町・推定成約ADR・N=77〜96施設)/2026年8月以降は調査時点の掲載水準に基づく推定
年別に重ねると、草津温泉の単価カーブの形がよく分かる。8月と12月に明確な山があり、6月と4月が谷になる二山構造だ。2025年は12月に¥21,300と年間ピークをつけ、年間を通じて2024年を明確に上回った。2026年は5月まで前年を上回って推移し、6月に前年を下回ったのち、7月はほぼ前年並みの水準に戻している。
ここで注意したいのは、同じ期間に「掲載価格(全プラン平均)」は逆に上昇していることだ。草津町の掲載価格は2026年6月が約¥31,500(前年同月¥29,300、+7.6%)、7月が約¥34,200(同¥33,500、+2.0%)と、いずれも前年を上回っている。値付け自体は強気になっているが、最安プラン水準から推定した成約単価は横ばい——この乖離が2026年夏の草津温泉の実像である。
出典:メトロエンジンリサーチ(草津町/掲載施設数はOTA上で価格が観測できた施設数)
同時に、OTA上で価格が観測できた施設数は6月が126→142施設、7月が112→146施設、8月が110→142施設と、6月が+12.7%、7月が+30.4%、8月が+29.1%と、いずれも前年を上回っている。新規開業2件だけでは説明できない増え方であり、既存宿のOTA掲載拡大や販売枠の開放が同時に進んだと考えるのが自然だろう。売り手が増え、掲載価格を上げつつ、実際に売れる水準は前年並みに収まった——という構図になる。
群馬の主要温泉地で最も単価が守られたのは草津町
この-5.4%/+0.2%という数字は、単独では良いのか悪いのか判断がつかない。そこで群馬県内の主要温泉地と横並びで比較する。
| エリア(主な温泉地) | 6月YoY | 7月YoY | 2ヶ月平均 | N(26年7月) |
|---|---|---|---|---|
| 草津町(草津温泉) | -5.4% | +0.2% | -2.6% | 92 |
| みなかみ町(水上・猿ヶ京ほか) | -8.3% | +0.2% | -4.1% | 49 |
| 嬬恋村(万座・鹿沢ほか) | -16.7% | +4.1% | -6.3% | 21 |
| 中之条町(四万温泉ほか) | -5.6% | -10.4% | -8.0% | 36 |
| 渋川市(伊香保温泉ほか) | -21.2% | -16.7% | -19.0% | 46 |
| 群馬県全体 | -5.4% | -3.5% | -4.5% | 438 |
出典:メトロエンジンリサーチ(推定成約ADRの前年同月比、N=2026年7月の集計対象施設数)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
6〜7月の2ヶ月平均で見ると、草津町の-2.6%は比較した5温泉地のなかで最も下落幅が小さい。群馬県全体の-4.5%も上回っている。単価の軟化は草津固有の現象ではなく群馬県全体で起きている動きであり、そのなかで最も供給が増えた草津町が最も単価を維持した——というのが実際に観測された順序である。
県全体で単価が軟化した背景としては、群馬県全体のOTA掲載施設数が2025年7月の696施設から2026年7月には791施設へと1割以上増えていること、そして貸別荘型の小規模施設が新規開業の中心になっていることが挙げられる。2026年に群馬県で新たにOTA掲載が確認された宿泊施設34件のうち、22件が貸別荘、23件が客室2室以下だった。1〜2室規模の在庫が母集団に加わることは、エリア中央値を動かす方向に働く。この貸別荘シフトは群馬に限った動きではなく、全国でも2026年の新規開業は件数の47%を貸別荘が占めている(詳細は2026年の新規開業1,242件・33,749室を参照)。草津温泉のように旅館・ホテルが母集団の中心を占めるエリアと、貸別荘の増加が著しい北軽井沢周辺のようなエリアとでは、同じ「単価下落」でも意味が異なる点は押さえておきたい。
稼働率は92〜97% — 増えた供給は吸収されている
単価が守られたのは、需要が供給増を吸収したからなのか。稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)を見ると、その傍証が得られる。
| 対象 | 施設数 | 対象客室数 | 推定稼働率 |
|---|---|---|---|
| 草津町・2026年6月 | 98 | 2,167室 | 93.7% |
| 草津町・2026年7月 | 74 | 1,965室 | 97.2% |
| 草津町・2026年8月 | 107 | 2,474室 | 92.0% |
| 群馬県全体・2026年6月 | 519 | 18,849室 | 80.6% |
| 群馬県全体・2026年7月 | 475 | 18,348室 | 81.8% |
出典:メトロエンジンリサーチ/OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります
草津町の推定稼働率は6〜8月を通じて92〜97%で推移し、群馬県全体(81%前後)を11〜15ポイント上回った。新規開業2件・191室(エリア客室の純増ベースでは約94室)が市場に投入された6月と7月をまたいでも、この水準が崩れていない点が重要である。OTA上で売り出された在庫はほぼ消化されており、単価の微減は「売れ残った結果の値下げ」というより、母集団に加わった施設の構成変化と、掲載価格を上げた分が最安プラン水準に完全には反映されていないことの合成と読むのが妥当だろう。
草津町の観光入込客数は2025年度に405万3,223人と3年連続で過去最高を更新している(前年度比+0.84%、草津町発表)。母数となる来訪者そのものが増え続けていることが、供給吸収の土台にある。
感度試算 — 何室の純増なら単価が崩れたのか
ここまでは実際に起きたことの記述である。では、どの程度の供給増であれば需給は緩んだのか。2026年8月時点の草津町(N=107施設)で観測された販売室数——総客室2,474室 × 推定稼働率92.0%(OTA掲載在庫ベースの推定値)≒ 2,276室相当——を需要側の実績として固定し、開業前相当の供給(2,380室)に純増室数を加えた場合の推定稼働率を試算した。需要の増減幅も併せて振ることで、供給と需要の2軸で読めるようにしている。
| 純増室数 | 総客室数 | 需要 -10% | 需要 -5% | 需要 横ばい | 需要 +5% |
|---|---|---|---|---|---|
| ±0室(開業前相当) | 2,380室 | 86.1% | 90.9% | 95.6% | 100%到達 |
| +94室(2026年実績) | 2,474室 | 82.8% | 87.4% | 92.0% | 96.6% |
| +200室 | 2,580室 | 79.4% | 83.8% | 88.2% | 92.6% |
| +300室 | 2,680室 | 76.4% | 80.7% | 84.9% | 89.2% |
| +500室 | 2,880室 | 71.1% | 75.1% | 79.0% | 83.0% |
出典:メトロエンジンリサーチ(2026年8月・草津町 N=107施設・2,474室・推定稼働率92.0%)をもとにホテルバンク編集部試算/需要側は販売室数相当を固定した単純試算であり、価格弾力性・季節性・チャネル構成の変化は織り込んでいません。赤字は群馬県平均(2026年6〜7月で80.6〜81.8%)を下回る水準。
読み方は単純である。実績の+94室では推定稼働率92.0%(2026年8月時点)が維持される。需要が横ばいのまま群馬県平均(81%前後)の水準まで下がるには、純増が約500室——実績の5倍以上——必要になる。需要が5%減る局面でも、県平均圏に入るのは+300室からである。人口6,000人規模の温泉町で単年に500室が純増する現実味は薄く、今回の191室(純増94室)は、エリア全体の需給を反転させる規模ではなかったと数字の側からも確認できる。
ただしこの試算はエリア平均の話にとどまる。次節以降で見るように、単価帯を絞れば結論は変わる。感度が高いのはエリア全体の稼働率ではなく、特定の価格帯における競合密度のほうである。
客室規模×単価のポジショニング — 「中〜大規模×高単価」という空白
エリア平均では単価が守られた。しかし価格帯を分解すると、供給増のインパクトが集中している帯が見えてくる。20室以上かつ推定成約ADRが算出できる23施設を、客室数(横軸)と推定成約ADR(縦軸)でプロットした。
出典:メトロエンジンリサーチ(N=23施設・2026年7月の推定成約ADR/円の大きさ=口コミ件数)
プロットには明確な構造がある。100室を超える大型施設6件の推定成約ADRは¥16,400〜¥34,100の帯に収まり、¥35,000を超える施設はゼロだった。一方、¥35,000超に位置するのは36室の奈良屋のみである。つまり草津温泉には従来、「中〜大規模でありながら高単価」というポジションがほぼ存在しなかった。
2026年6月に開業した94室の新規施設は、まさにこの空白帯にあたる規模である。エリア全体で見れば純増94室・3.8%にすぎないが、「60室以上×高単価」というセグメントに限れば、これまで実質的に競合が存在しなかった帯に事業者が1社参入したことになる。既存の高単価宿は30〜60室規模が中心であり、価格帯は重なる一方で規模と提供形態が異なるため、直接の代替関係になるかどうかは今後の在庫消化データを追って判断する必要がある。
評価と単価の関係 — 高評価の小規模宿に残る伸びしろ
もう一つの軸として、宿泊者からの評価と単価の関係を見る。ホテルバンク編集部が集計した草津温泉エリア25施設・延べ11万9,580件の宿泊者口コミから総合スコアを取り、推定成約ADRが算出できる23施設について突き合わせた。
出典:ホテルバンク編集部調べ(口コミ総合スコア)、メトロエンジンリサーチ(推定成約ADR・2026年7月)/N=23施設
総合スコア4.5以上の高評価施設は6件あり、そのうち3件は推定成約ADRが¥23,000未満に位置している。湯宿みゆき本館(23室・スコア4.63)は約¥17,500、源泉一乃湯(44室・4.55)は約¥15,800、昔心の宿金みどり(32室・4.53)は約¥22,500という水準だ。いずれも湯畑徒歩圏に立地し、口コミ件数も1,000件を超えている。
評価の頂点にある奈良屋(36室・スコア4.81)は推定成約ADR約¥47,600と、エリアで唯一¥35,000超の帯に位置する。同じく高評価の望雲(42室・4.67)が約¥31,300、湯畑泉水(33室・4.54)が約¥32,200。高評価×高単価というポジションが成立することは、エリア内で既に実証されている(草津温泉エリア25施設・延べ119,580件の口コミのうち、推定成約ADRが算出できる23施設が対象。N=23)。だとすれば、評価は同等でありながら単価が¥15,000〜¥23,000にとどまる施設群には、価格面での伸びしろが残っているとみるのが自然だろう。
シルバーウィークの在庫消化 — 早く埋まるのは小規模宿
供給が増えたエリアで、どの層が先に埋まっているのか。2026年9月19日〜22日の4連休を対象に、草津町の施設別の残室推移を集計した。対象は草津町でOTA上の在庫が観測できた116施設のうち、OTA公開枠が総客室の30%以上ある85施設である(公開枠が極端に小さい施設は、直販中心のチャネル運用、在庫を小出しに追加する販売コントロール、OTAへの割当設定など複数の要因が考えられ、完売判断の材料にならないため除外した)。
| 順位 | 施設 | 総客室数 | 平均早期完売LT | 完売した日数 | 現在の残室率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 奈良屋 | 36室 | 87.5日前 | 2/4日 | 10.4% |
| 2 | ゲストハウス シーダーロッジ | 6室 | 86.5日前 | 4/4日 | 0% |
| 3 | 裏草津 蕩 | 56室 | 83.5日前 | 4/4日 | 6.2% |
| 4 | うり房旅館仲通り うら房 | 5室 | 82.7日前 | 3/4日 | 15.0% |
| 5 | ニューいずみ | 6室 | 76.5日前 | 2/4日 | 33.3% |
| 6 | ホテルスパックス草津 | 18室 | 71.8日前 | 4/4日 | 1.4% |
| 7 | 松村屋旅館 | 10室 | 70.0日前 | 4/4日 | 0% |
| 8 | 湯の宿 音雅 | 12室 | 65.7日前 | 3/4日 | 4.2% |
| 9 | お豆の小宿 花いんげん | 10室 | 65.0日前 | 3/4日 | 5.0% |
| 10 | 草津 山本館 | 11室 | 62.2日前 | 4/4日 | 0% |
出典:メトロエンジンリサーチ/2026年9月19〜22日チェックイン、草津町。対象116施設のうちOTA公開枠が総客室の30%以上ある85施設を集計(N=85)
上位10施設のうち8施設が20室未満である。5〜12室規模の宿が、チェックインの60〜87日前という早い段階で残室ゼロに到達している。連休需要に対して、小規模宿は在庫が薄いぶん先に埋まりきる——構造としては当然だが、これは同時に「9月連休の草津に泊まりたい客のうち、小規模宿を第一希望にする層は2ヶ月以上前に意思決定を終えている」ことを意味する。
36室の奈良屋が平均87.5日前という最速水準で完売日を作っている点も注目に値する。エリア最高評価(4.81)かつエリア最高単価(約¥47,600)でありながら、最も早く埋まる。評価が単価と稼働の両方を支えている好例といえる。
レベニューマネジメントへの示唆
ここまでのデータから、草津温泉の宿にとっての収益機会を3点に整理したい。いずれも「現状の課題」ではなく「取りにいける余地」として提示する。
第一に、高評価×中単価帯の価格アップサイド。総合スコア4.5以上でありながら推定成約ADRが¥23,000未満の施設群は、既に強い集客力と顧客満足を実証している。エリア内には評価4.6〜4.8で¥31,000〜¥47,600を実現している施設が存在し、価格の上限がエリア構造として存在しないことは確認できている。連休・週末・紅葉期といった需要が確実に立つ日程から段階的にレートを引き上げていくアプローチは、実証済みの評価を収益に転換する手段になる。
第二に、早期完売日程における「上げ幅」の設計。9月連休で60〜87日前に完売している施設は、少なくともその日程においては需要が価格を上回っている。完売が早いほど、より高い価格でも売り切れた可能性が高い。翌年同時期に向けては、販売開始時点のレートを一段引き上げたうえで、残室の消化スピードを見ながら調整する運用が取りやすい。室数の少ない宿ほど1室あたりの単価改善がGOPに直結するため、効果も出やすい。
第三に、中〜大規模施設の差別化軸。「60室以上×¥35,000超」という帯にプレーヤーが増えることは、その価格帯の認知そのものを引き上げる効果がある。草津温泉に高単価で泊まるという選択肢が可視化されれば、エリア全体の単価天井が上がる。中規模施設にとっては、同じ価格帯で正面から競うよりも、湯畑からの距離・源泉・食事・貸切風呂といった既存の強みを言語化し、価格帯を接近させながら別の価値軸で選ばれる設計にアップサイドがある。エリアの推定稼働率が92〜97%で推移している以上、需要側の余力はまだある。
まとめ — 「供給ショック」は起きなかった、ただし帯は動いた
2026年夏の草津温泉で観測されたことを整理する。第一に、新規開業は191室と報じられるが、うち97室は既存施設の改装転換であり、エリア客室の純増は約94室(OTA稼働確認ベース2,474室の3.8%)にとどまる。第二に、草津町の推定成約ADRは6月-5.4%・7月+0.2%で、6〜7月平均の-2.6%は群馬県内の主要5温泉地で最も下落幅が小さかった。第三に、推定稼働率は6〜8月を通じて92〜97%と群馬県平均を11〜15ポイント上回り、増えた在庫は消化されている。
つまりエリア全体で見れば需給ショックは起きていない。一方で、価格帯を分解すると別の絵が見える。「60室以上×¥35,000超」という帯は従来ほぼ空白であり、そこに94室規模の事業者が入った。エリア平均には表れないが、この帯の競争環境だけは2026年に不連続に変わったと言える。
中規模の旅館・ホテルにとっての実務的な含意は、価格で正面から張り合うことではなく、評価と単価の関係を見直すことにある。エリアには総合スコア4.5以上でありながら推定成約ADRが¥23,000未満の施設が複数あり、同じエリアで4.6〜4.8のスコアと¥31,000〜¥47,600の単価を両立している施設も存在する。需要は3年連続で過去最高を更新し(草津町「令和7年度入込客数調査結果」、2025年度405万人)、在庫はほぼ消化されている。単価の伸びしろは、まだエリアの内側に残っている。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年8月以降のADRは、調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。とくに2026年11月・12月は集計対象施設数が他月より少なく(67施設・58施設)、推定値の振れ幅が大きくなる点にご留意ください。前年同月比の比較は、確定済みの履歴基準で算出できる2026年6月・7月を中心に読んでいます。
よくある質問(FAQ)
Q. 草津温泉に安く泊まれる時期はいつですか?
月次では4月と6月が谷になる二山構造で、2026年の実測では6月が掲載価格約¥31,500・推定成約ADR約¥14,600(草津町 N=142施設)と年間で最も低かった。曜日では日〜木曜泊が安く、2026年9〜10月チェックインの実測では平日の掲載価格中央値約¥32,900に対し、土曜泊は¥40,000〜¥49,500と3〜5割高い。8月・紅葉期の11月・12月は山にあたるため、価格を優先するなら「4月・6月の平日」が実測データ上の答えになる。
Q. 新規開業191室の影響は、いつ・どこに出るのですか?
エリア平均の需給には現時点で影響は観測されていない。純増は約94室(エリア客室の3.8%)にとどまり、開業をまたいだ2026年6〜8月も推定稼働率は92〜97%を維持し、秋の掲載価格も前年比+8〜16%と強気の水準が続いている。影響が出るとすれば、従来ほぼ空白だった「60室以上×¥35,000超」の価格帯における競合密度である。判断材料になるのは、確定した履歴基準で前年比を計算できるようになる各月の確定値(各月の終了後に確定)で、紅葉期・年末年始・GW・夏休みを一巡した通年評価が可能になるのは、開業から1年を経た2027年夏以降になる。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADR・掲載価格は、OTA等に公開された販売価格の日次履歴を市区町村単位で集計したもの(草津町 N=77〜96施設/群馬県 N=438施設、2025年6月〜2026年8月)。推定稼働率はOTA上で販売された在庫の消化状況から算出(草津町 2026年6月 N=98施設・2,167室/7月 N=74施設・1,965室/8月 N=107施設・2,474室)。供給マップは湯畑(北緯36.6224・東経138.5966)を中心とする半径5km圏の221施設・3,841室、うち20室以上の42施設・2,465室を作図対象とした。早期完売リードタイムは2026年9月19〜22日チェックインを対象に、草津町でOTA在庫が観測できた116施設のうち公開枠が総客室の30%以上ある85施設を集計。口コミスコアは草津温泉エリア25施設・延べ119,580件、うち推定成約ADRが算出できる23施設を散布図の対象とした。
【2026年9月16日追記】秋(9〜11月)の月次掲載価格・推定成約ADRは2026年9月13日集計(草津町 掲載価格 N=130〜147施設、推定成約ADR N=79〜90施設)。冒頭の平日・週末の相場レンジは、2026年9月15日取得の日次残室・掲載価格スナップショット(チェックイン2026年9月17日〜10月30日の44日分、N=68〜73施設/日)に基づく。いずれも出典はメトロエンジンリサーチ。
■ 試算前提
前年同月比は、確定済みの履歴を基準に算出できる2026年6月・7月を比較対象とした(2ヶ月平均は6月・7月の単純平均)。感度試算(表5)は、2026年8月の総客室数2,474室×推定稼働率92.0%=約2,276室相当を需要側の実績として固定し、開業前相当の供給2,380室(2,474室−純増94室)に純増室数を加算して推定稼働率を再計算する単純試算である。価格弾力性、季節性、チャネル構成の変化、新規施設と既存施設の需要代替は織り込んでいない。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)を用いている。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値が約7%あり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。推定稼働率はOTA販売在庫に基づく推定であり、直販・団体・旅行会社経由の在庫を含む施設全体の実稼働率とは一致しない。月ごとに集計対象施設数が変動するため(草津町で74〜107施設)、月次の増減には母集団変動の影響が含まれる。2026年8月以降のADRは調査時点の公開価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動する。とくに2026年11月・12月は集計対象施設数が少なく(67施設・58施設)、推定値の振れ幅が大きい。新規開業2件の客室数・開業日は各施設の公表資料およびOTA掲載確認に基づく。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR・掲載価格・推定稼働率・残室推移(草津町 N=77〜96施設、群馬県 N=438施設)
- メトロエンジンリサーチ(OTA掲載確認ベース)— 新規開業施設データ(群馬県 2026年 N=34件)
- ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミ総合スコア(草津温泉エリア25施設・延べ119,580件)
■ 公的統計・自治体資料
■ ニュース・施設情報
- 「群馬県草津町の観光客、2025年度は最多の405万人」(日本経済新聞、2026年4月)
- 「界 草津」開業に関する公式リリース(星野リゾート、2026年) — 客室数94室・2026年6月7日開業・宿泊者専用トンネルの記載を確認
- 「B/C HOTEL 草津」施設情報(運営会社公式) — 所在地・施設概要を確認
- 「草津温泉ホテルニュー紅葉」事業譲渡のお知らせ(前運営会社公式) — 2025年7月31日をもって事業譲渡との記載を確認
- 「『ホテルニュー紅葉』跡地に『B/C HOTEL 草津』が誕生|2026年7月6日よりプレオープン」(いこう!草津温泉)
- 「草津温泉に新オープン。宿泊者専用トンネルで温泉街とつながる新しい湯宿へ」(ことりっぷ、2026年)
- 「19年度の草津温泉、入込数327万人で過去最高に」(観光経済新聞)
