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リゾート開発費の約1割が従業員宿舎 — 倶知安の給与住宅比率9.5%で試算

投稿日 : 2026.09.05

北海道

長野県

沖縄県

投資・開発

リゾート開発費の約1割が従業員宿舎 — 倶知安の給与住宅比率9.5%で試算

リゾートホテルの開発計画書には、客室・レストラン・スパ・駐車場の面積は書かれている。しかし従業員が寝る場所の面積と費用が書かれていることは少ない。都市部のホテルなら従業員は自分で家を借りて通勤するが、リゾート地では通勤圏そのものが存在しない。事業者が住まいを用意しなければ、そもそも人が集まらない。

この「従業員宿舎(統計上の呼称は給与住宅)」は、総務省の住宅・土地統計調査で住宅の所有関係の一区分として毎回集計されている。本稿では令和5年調査の確報値を使い、リゾート型自治体の居住ストックに占める給与住宅の比率、市場家賃との差額、そして地価と建築費から従業員宿舎コストのオーダーを定量化する。結論を先に書くと、北海道倶知安町の給与住宅比率は9.53%で全国平均2.34%の4.1倍、集計対象1,210市区町村中10位である。そして上位10のうち9は製鉄・製紙・自動車の企業城下町で、観光を主産業とする自治体は倶知安町だけだった。

本記事における指標の定義

  • 給与住宅=勤務先の会社・官公庁・団体などが所有又は管理していて、職務の都合上又は給与の一部として居住している住宅。いわゆる社宅・公務員住宅。家賃の支払いの有無を問わず、勤務先が借り上げた一般の住宅に従業員が住んでいる場合を含む(総務省「令和5年住宅・土地統計調査 用語の解説」)。
  • 給与住宅比率=給与住宅数 ÷ 居住世帯のある住宅数。分母に空き家は含まない。
  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • データ出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」/国土交通省「建築着工統計調査」「不動産情報ライブラリ」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
倶知安町 給与住宅比率
9.53%
690戸/7,240戸・全国10位
全国平均
2.34%
中央値1.72%(N=1,210)
給与住宅の家賃水準
民営の31%
倶知安町・㎡あたり月額
寄宿舎等の建築単価
28.1万円
/㎡・2024年・全国
宿舎が事業費に占める比率
6〜14%
100室・試算レンジ
Key Takeaways
  • — 倶知安町の給与住宅比率9.53%は全国平均2.34%の4.1倍、総住宅1,000戸以上の1,210市区町村中10位。上位10のうち9は製鉄・製紙・自動車の企業城下町で、観光を主産業とする自治体は倶知安町だけだった。
  • — 観光集約度(客室数÷総住宅数)と給与住宅比率の相関係数は0.86(N=12市町村)。客室が住宅ストックに対して大きい町ほど、事業者が住まいを用意する以外の選択肢が消える。
  • — 倶知安町の給与住宅家賃は民営借家の31%(348円/㎡ 対 1,137円/㎡)。差額789円/㎡は1戸あたり年間54.5万円で、値引きではなく実質的な人件費として運営期間中ずっと残る。
  • — 空き家転用は成立しない。軽井沢町の空き家20,030戸のうち17,940戸が二次的住宅(別荘等)で賃貸用は310戸。倶知安町でも賃貸用空き家550戸に対し給与住宅は690戸あり、全量転用しても現ストックを置き換えられない。
  • — 寄宿舎等の建築単価は28.1万円/㎡(2024年・全国、宿泊業用59.1万円/㎡の47%)。100室のリゾートホテルで宿舎費は事業費の6〜14%=1.5〜3.2億円、客室約10室分に相当する。

給与住宅比率で全国10位の倶知安町 — 上位を占めるのは企業城下町

住宅・土地統計調査は5年に一度、全国の住宅を「持ち家」「公営の借家」「都市再生機構(UR)・公社の借家」「民営借家」「給与住宅」の5区分で集計する。このうち給与住宅が、企業が従業員のために保有・借上げしている住宅にあたる。令和5年調査(調査期日:令和5年10月1日)の全国値は1,302,100戸、居住世帯のある住宅55,665,000戸に対して2.34%だった。

市区町村編に収録されている1,283地域のうち、総住宅数1,000戸以上の1,210市区町村を比率順に並べると、中央値は1.72%である。そして上位10位は次のようになる。

表1 給与住宅比率 全国上位10市区町村(令和5年住宅・土地統計調査、総住宅数1,000戸以上の1,210市区町村を対象)
順位市区町村給与住宅比率給与住宅数居住世帯のある住宅主な産業背景
1千葉県 君津市10.88%3,65033,560製鉄
2愛媛県 四国中央市10.50%3,68035,060製紙
3鹿児島県 薩摩川内市10.34%4,24041,000発電・製造
4静岡県 小山町10.25%6206,050製造
5福岡県 北九州市八幡東区10.02%3,07030,640製鉄
6茨城県 鹿嶋市9.93%2,83028,490製鉄
7群馬県 大泉町9.92%1,82018,340自動車
8岩手県 金ケ崎町9.76%5605,740自動車
9千葉県 鴨川市9.66%1,38014,280医療・観光
10北海道 倶知安町9.53%6907,240観光・リゾート
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」(令和6年9月25日公表)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。産業背景欄は各自治体の主要立地産業に基づく編集部注記。

1位から8位までは、いずれも大規模製造業の事業所が立地する自治体である。企業が労働力を確保するために社宅を整備してきた、日本の産業史そのものの分布といっていい。9位の鴨川市は大規模医療機関と観光が混在する。そのなかで10位の倶知安町だけが、製造業の集積を持たないまま同じ水準に到達している。

倶知安町の給与住宅には940人が居住しており、町の居住世帯人員14,110人の6.66%にあたる。全国の同比率は1.82%であるから、約3.7倍の密度で「勤務先が用意した住まい」に人が住んでいる町ということになる。

観光集約度と給与住宅比率は連動する — 相関係数0.86

倶知安町が例外なのか、それともリゾート型自治体に共通する構造なのかを確かめるため、市区町村編に収録されている観光・温泉地12市町村について、給与住宅比率と「観光集約度(宿泊施設の客室数 ÷ 総住宅数)」を並べた。

図1 リゾート・温泉地12市町村の給与住宅比率
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
図2 観光集約度 × 給与住宅比率(r=0.86, N=12)
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(客室数)

12市町村のピアソン相関係数は0.857だった。住宅ストックに対して客室が多い町ほど、給与住宅の比率が高い。倶知安町は総住宅9,150戸に対して宿泊施設の客室が5,596室と、客室が住宅ストックの61.2%に達する。三重県鳥羽市(43.7%・給与住宅8.49%)がこれに続く。逆に大分県別府市(12.5%・2.87%)や沖縄県名護市(12.4%・2.87%)のように、周辺に一定規模の生活圏を抱える観光地では給与住宅比率は全国平均近辺にとどまる。

この関係の解釈は単純である。宿泊施設の客室数に見合うだけの住宅が町の中に存在しない場合、従業員は「町の外から通う」か「事業者が用意した住まいに住む」かのどちらかしかない。そして冬季のスキーリゾートのように公共交通の乏しい山間部では、前者の選択肢が実質的に消える。特定技能「宿泊」の受入れ状況を見ても、外国人材の比重が高い地域ほど住まいの手当ては事業者側の課題になりやすい。

この数字は下限値である。住宅・土地統計調査では、「会社・官公庁・団体の独身寮などのように、生計を共にしない単身の従業員をまとめて居住させる建物」は住宅ではなく「住宅以外で人が居住する建物」に分類され、給与住宅には計上されない。全国の「会社等の寮・寄宿舎」は9,300棟ある。つまり本稿で扱う給与住宅比率は、独立した台所・トイレ等を備えた住戸型の社宅だけを数えた保守的な値であり、共用型の寮を加えた実際の従業員居住キャパシティはこれより大きい。

倶知安・白馬・恩納 — 3リゾート自治体の位置づけとデータ制約

本稿が対象とする3つのリゾート型自治体のうち、市区町村別の給与住宅データが取得できたのは倶知安町のみである。長野県白馬村と沖縄県恩納村は、住宅・土地統計調査の市区町村編(収録1,283地域)に含まれていない。したがって両村については都道府県値に落として扱い、市町村値を推計で埋めることはしない。

表2 3リゾート型自治体の比較(給与住宅は倶知安町のみ市区町村値、白馬村・恩納村は所在県値)
項目北海道 倶知安町長野県 白馬村沖縄県 恩納村
宿泊施設数428施設1,025施設386施設
客室数合計5,596室9,618室6,468室
うち20室以上の施設56施設・3,970室92施設・3,424室40施設・5,579室
推定成約ADR(2026年1月)約61,600円(N=20)約21,500円(N=44)約16,900円(N=38)
推定成約ADR(2026年7月)約17,500円(N=22)約11,700円(N=44)約30,400円(N=42)
給与住宅比率9.53%(町値)2.07%(長野県値)1.86%(沖縄県値)
民営借家 月額家賃1,137円/㎡(町値)1,081円/㎡(長野県値)1,161円/㎡(沖縄県値)
給与住宅 月額家賃348円/㎡(町値)629円/㎡(長野県値)569円/㎡(沖縄県値)
住宅地 最高地点200,000円/㎡ (+10.5%)27,400円/㎡ (+33.0%)54,700円/㎡ (+9.4%)
商業地 最高地点181,000円/㎡ (+16.0%)40,300円/㎡ (+35.2%)108,000円/㎡ (+9.5%)
地価の基準令和8年地価公示令和8年地価公示令和7年地価調査
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」/国土交通省「不動産情報ライブラリ」(地価公示・都道府県地価調査)/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設数・客室数・推定成約ADR)。恩納村には地価公示の標準地が設定されておらず、都道府県地価調査(令和7年7月1日時点)の基準地を用いた。

3村町とも、地価は明確な上昇局面にある。白馬村北城の住宅地は令和8年地価公示で前年比+33.0%、同村の商業地は+35.2%と、全国でも突出した変動率を記録した。倶知安町のニセコひらふ地区の住宅地は1㎡あたり200,000円と、地方の村としては異例の水準に達している。恩納村の商業地(前兼久)は108,000円/㎡である。

図3 3リゾート自治体の地価調査地点(円の大きさ=1㎡あたり価格)
出典: 国土交通省「不動産情報ライブラリ」(地価公示・都道府県地価調査)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

宿泊需要のパターンは3者で大きく異なる。倶知安町の推定成約ADRは2026年1月に約61,600円(N=20施設)と冬に極端に振れ、7月は約17,500円(N=22施設)へ下がる。恩納村は逆に7月が約30,400円(N=42施設)で1月が約16,900円(N=38施設)と夏型である。白馬村は1月約21,500円・7月約11,700円で、季節差はあるが振幅は倶知安町より小さい。ニセコエリアの供給構造で見たとおり、倶知安町は高単価帯の客室が限られる一方で単価の季節変動が最も大きく、その分だけ繁忙期に必要な人員も集中する。

従業員宿舎の実質コスト — 市場家賃との差額は㎡あたり月789円

給与住宅は「家賃の支払いの有無を問わない」区分であり、多くの場合は市場家賃より安い水準で従業員に提供される。住宅・土地統計調査は借家について延べ面積1㎡あたりの月額家賃を所有関係別に集計しているため、同一自治体内で民営借家と給与住宅を直接比べられる。

図4 民営借家と給与住宅の月額家賃(延べ面積1㎡あたり・家賃0円を含まない)
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

全国では給与住宅の家賃は民営借家の60%だが、倶知安町では31%まで下がる。1㎡あたり月額で見ると民営借家1,137円に対し給与住宅348円、差額は789円である。倶知安町の給与住宅は1住宅あたり延べ面積57.58㎡なので、1戸あたり月額約45,400円、年間約54.5万円が市場家賃との差になる。町内690戸すべてに当てはめると、事業者側が年間で約3.8億円相当を負担している計算になる。

この差額は「値引き」ではなく、実質的には人件費の一部である。倶知安町の民営借家家賃は1㎡あたり1,137円で、北海道全体の1,065円を上回る。地方の町でありながら賃貸市場が逼迫しているため、市場価格でスタッフに住まいを確保させると採用競争力が失われる。差額を事業者が吸収する構造が定着していると読める。この負担が離職率や運営継続性にどう跳ね返るかについては、ホテル従業員社宅・人材インフラ投資の事業性分析が事業性の側から整理している。

空き家では代替できない — リゾート地の空き家の正体は別荘である

「リゾート地は空き家率が高いのだから、既存ストックを従業員宿舎に転用すればよい」という発想は自然に見える。しかし住宅・土地統計調査の空き家内訳を開くと、この前提は成立しない。

図5 リゾート地の空き家内訳(賃貸用/二次的住宅(別荘等)/その他)
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

長野県軽井沢町の空き家率は70.4%と全国屈指だが、その内訳は総住宅28,460戸のうち二次的住宅(別荘等)が17,940戸を占め、賃貸用の空き家はわずか310戸しかない。静岡県熱海市も空き家率53.4%に対し二次的住宅が11,730戸である。これらは所有者が保有し続ける資産であり、賃貸市場には出てこない。

倶知安町では空き家1,730戸のうち賃貸用が550戸、二次的住宅が420戸である。町内の給与住宅690戸は、賃貸用空き家550戸を上回っている。仮に町内の賃貸用空き家をすべて従業員宿舎に転用しても、現在の給与住宅ストックを置き換えることすらできない。市場からの調達で宿舎需要を満たすという選択肢が、統計上すでに閉じているということである。

表3 リゾート地の空き家構成と給与住宅(令和5年住宅・土地統計調査)
自治体総住宅数空き家率賃貸用の空き家二次的住宅給与住宅給与住宅÷賃貸用空き家
北海道 倶知安町9,15018.9%5504206901.25倍
長野県 軽井沢町28,46070.4%31017,9402000.65倍
静岡県 熱海市39,51053.4%4,71011,7305000.11倍
三重県 鳥羽市10,53030.2%5104906201.22倍
岐阜県 下呂市13,50019.7%3602108102.25倍
沖縄県 石垣市24,6307.4%1,1501001,2701.10倍
沖縄県 宮古島市29,96015.2%1,6402401,3700.84倍
北海道 富良野市11,00016.4%990503600.36倍
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。空き家率は総住宅数に対する空き家数の割合。

建てる場合の単価 — 寄宿舎等は㎡28.1万円、宿泊業用の47%

市場から調達できないなら建てるしかない。国土交通省「建築着工統計調査」は用途別に工事費予定額と床面積を集計しており、従業員宿舎に相当する「居住専用準住宅(寄宿舎・下宿等)」の単価を追える。

図6 用途別 建築工事費単価の推移(全国・万円/㎡)
出典: 国土交通省「建築着工統計調査」(用途別・建築主別/床面積・工事費予定額)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
2024年 全国の単価(工事費予定額 ÷ 床面積)
宿泊業用建築物59.1万円/㎡(195.5万円/坪)
寄宿舎等(居住専用準住宅)28.1万円/㎡(92.7万円/坪)
居住専用住宅24.9万円/㎡(82.5万円/坪)
1坪=3.30578㎡で換算。寄宿舎等は2024年に全国1,656棟・522,597㎡が着工。
■ 試算前提
・宿舎1戸の延べ面積:57.58㎡(倶知安町の給与住宅1住宅あたり実績値)
・建築単価:28.05万円/㎡(2024年・全国・寄宿舎等)
・敷地面積は延べ面積と同等(2階建・容積率100%相当)と仮定
・地価は令和8年地価公示の倶知安町内の住宅地標準地を使用
・ホテル1室あたり延床は35〜45㎡、単価59.13万円/㎡

寄宿舎等の単価は2019年の21.7万円/㎡から2024年の28.1万円/㎡へ、5年で+29.3%上昇した。同期間に宿泊業用建築物は36.4万円/㎡から59.1万円/㎡へ+62.4%上昇している。宿舎の単価上昇は客室に比べれば緩やかだが、それでも従来の想定で事業費を組むと不足する水準である。

表4 従業員宿舎1戸あたり再調達コスト試算(倶知安町・延べ面積57.58㎡)
立地住宅地の地価建物費土地費合計/戸ホテル1室(延床40㎡)比
倶知安 北7条西(町北部)35,000円/㎡1,615万円202万円1,817万円77%
倶知安 南3条東(町中心部)67,000円/㎡1,615万円386万円2,001万円85%
ニセコひらふ5条3丁目200,000円/㎡1,615万円1,152万円2,767万円117%
出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」(延べ面積)/国土交通省「建築着工統計調査」(建築単価)「不動産情報ライブラリ」(令和8年地価公示)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。ホテル1室は延床40㎡・59.13万円/㎡=2,365万円で計算(建物のみ、土地を含まない)。

注目したいのは最下行である。ニセコひらふ地区の住宅地価で宿舎を建てると、1戸あたりの総額がホテル1室の建物費を上回る。従業員宿舎は客室と違って収益を生まないため、リゾート中心部の地価が上がるほど宿舎は郊外へ押し出される。倶知安町でリゾート中心部から離れた場所に宿舎が立地するのは、この算数の帰結である。

事業費に乗るオーダーは6〜14% — 感度分析

ではリゾートホテルの開発事業費に、宿舎はどれだけ乗るのか。倶知安町の実績値から出発する。町内の給与住宅690戸に対して宿泊施設の客室は5,596室あり、客室100室あたり給与住宅は12.3戸である。ただしこの給与住宅には役場・建設業・小売業など宿泊業以外の事業者が保有するものも含まれるため、宿泊業だけの所要戸数を示すものではない。以下では12.3戸を中心値に、8戸・16戸を上下のケースとして置いた。

表5 100室のリゾートホテルにおける従業員宿舎コストの感度分析
宿舎所要(100室あたり)町北部立地の宿舎費町中心部立地の宿舎費ホテル建物費事業費に占める比率
8戸(低位ケース)1.45億円1.60億円23.65億円6.1〜6.8%
12.3戸(倶知安町実績相当)2.23億円2.46億円23.65億円9.4〜10.4%
16戸(高位ケース)2.91億円3.20億円23.65億円12.3〜13.5%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。ホテル建物費は100室×延床40㎡×59.13万円/㎡(2024年・全国・宿泊業用建築物)。宿舎費は表4の1戸あたり単価を乗じたもの。土地取得費(ホテル用地)・設計監理料・什器備品・開業費は含まない簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。

中心値では事業費の約1割が従業員宿舎に乗る。100室クラスのリゾートホテルで2.2〜2.5億円、これは客室に換算すると約10室分に相当する。低位ケースでも6%、高位ケースでは13%を超える。設計段階でこの費用を織り込んでいなければ、着工後に「宿舎をどうするか」という論点が資金計画の外側から降ってくることになる。

加えて、前章で見た家賃差の負担が運営期間中ずっと続く。倶知安町の水準(1戸あたり年間54.5万円)で12.3戸を運用すれば、年間約670万円。これはGOPを直接押し下げる固定費であり、上下水道費のような自治体別の運営コスト差と同じく、立地選定の段階で比較すべき項目である。

初期投資:事業費の6〜14%

100室で1.5〜3.2億円。客室10室分に相当する。用地は客室用地とは別に確保する必要があり、地価上昇局面では郊外化が進む。設計初期の事業費算定に組み込む余地がある。

運営期:年間54.5万円/戸の差額

市場家賃との差は倶知安町で㎡あたり月789円。12.3戸なら年間約670万円の固定費。採用競争力と直結するため削減対象にしにくく、立地比較の段階で織り込む価値がある。

立地判断:通勤圏の有無が分岐点

観光集約度と給与住宅比率の相関は0.86。客室数が住宅ストックに対して大きい町ほど宿舎負担は増える。周辺に生活圏を持つ観光地(別府・名護など)では全国平均並みに収まる。

2軸感度分析 — 所要戸数 × 宿舎立地の9通り

表5は町北部・町中心部の2立地で見たが、宿舎用地をどこに確保するかは事業者の裁量であり、倶知安町内の地価は標準地の間で最大5.7倍の開きがある。所要戸数(8戸・12.3戸・16戸)と宿舎立地(表4の3標準地)を掛け合わせた9通りを並べると、宿舎が事業費に乗るオーダーの幅が一目で分かる。

表6 2軸感度分析 所要戸数 × 宿舎立地(上段=宿舎費、下段=ホテル建物費23.65億円に対する比率)
所要戸数(100室あたり)町北部立地
1,817万円/戸
町中心部立地
2,001万円/戸
ニセコひらふ立地
2,767万円/戸
8戸(楽観・低位ケース)1.45億円
6.1%
1.60億円
6.8%
2.21億円
9.4%
12.3戸(中位・倶知安町実績相当)2.23億円
9.4%
2.46億円
10.4%
3.40億円
14.4%
16戸(悲観・高位ケース)2.91億円
12.3%
3.20億円
13.5%
4.43億円
18.7%
出典: メトロエンジンリサーチ&コンサルティング試算。1戸あたり単価は表4、ホテル建物費23.65億円(100室×延床40㎡×59.13万円/㎡)は表5と同一の前提で、新たな仮定は置いていない。

本文で示した6〜14%は、町北部・町中心部立地の6通り(6.1〜13.5%)のレンジである。ニセコひらふ地区の住宅地価で宿舎用地を確保した場合は9.4〜18.7%まで上振れするが、表4で見たとおりこの立地では1戸あたりの総額がホテル1室の建物費を上回るため、現実の選択肢というより上限の目安として読むのが妥当である。逆に楽観ケース(8戸・町北部)でも6.1%は乗るため、宿舎費をゼロで置いた事業計画は、どの組み合わせを取っても成立しない。

感度が最も大きいのは戸数ではなく立地である。戸数を8戸から16戸へ倍にすると比率は約2倍になるが、同じ12.3戸でも立地を町北部からひらふへ動かすだけで9.4%から14.4%へ1.5倍に振れる。用地取得の順序として、客室用地の確保と同時に宿舎用地の候補を押さえておくことの経済的な意味はここにある。

よくある質問

Q. 給与住宅とは具体的にどのような住宅を指しますか。

A. 勤務先の会社・官公庁・団体などが所有又は管理していて、職務の都合上又は給与の一部として居住している住宅です。いわゆる社宅・公務員住宅がこれにあたります。家賃の支払いの有無を問わず、勤務先の会社又は雇主が借りている一般の住宅に従業員が住んでいる場合も含みます(総務省「令和5年住宅・土地統計調査 用語の解説」)。

Q. 白馬村と恩納村の給与住宅比率が本文に出てこないのはなぜですか。

A. 住宅・土地統計調査の市区町村編に収録されているのは1,283地域で、長野県白馬村と沖縄県恩納村は含まれていません。市町村値が存在しないため、本稿では都道府県値(長野県2.07%、沖縄県1.86%)を示すにとどめ、推計による市町村値の作成は行っていません。

Q. 従業員宿舎の建築単価はどこから取りましたか。

A. 国土交通省「建築着工統計調査」の用途別集計から、「居住専用準住宅(寄宿舎・下宿等)」の工事費予定額を床面積で除して算出しました。2024年の全国値は1㎡あたり28.05万円(1坪あたり92.7万円)です。同年の宿泊業用建築物は1㎡あたり59.13万円でした。

Q. リゾート地は空き家が多いのに、なぜ宿舎を新築する必要があるのですか。

A. リゾート地の空き家の多くは二次的住宅(別荘等)で、賃貸市場には流通しないためです。軽井沢町では空き家20,030戸のうち17,940戸が二次的住宅で、賃貸用の空き家は310戸にとどまります。倶知安町では賃貸用の空き家550戸に対し既存の給与住宅が690戸あり、市場の空き室をすべて転用しても現在の宿舎ストックを置き換えられません。

Q. 事業費に占める宿舎の比率6〜14%はどう計算していますか。

A. 100室のホテルの建物費を100室×延床40㎡×59.13万円/㎡=23.65億円と置き、宿舎を1戸あたり1,817万円(町北部立地)〜2,001万円(町中心部立地)として、所要戸数8戸・12.3戸・16戸を掛けた比率です。12.3戸は倶知安町の給与住宅690戸÷客室5,596室×100から得た実績相当値ですが、給与住宅には宿泊業以外の事業者分も含まれます。土地取得費・設計監理料・什器備品は含まない簡易試算です。

集計方法と出典

給与住宅・民営借家・空き家の数値は、総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」(調査期日:令和5年10月1日、公表:令和6年9月25日)の e-Stat 提供データから集計した。給与住宅比率の分母は居住世帯のある住宅数、空き家率の分母は総住宅数である。全国順位は市区町村編収録1,283地域のうち総住宅数1,000戸以上の1,210市区町村を対象とし、都道府県値・全国値・政令市の市計は除いた。家賃は「延べ面積1平方メートル当たり家賃(借家(専用住宅))」の家賃0円を含まない値を用いた。
建築単価は国土交通省「建築着工統計調査」の用途別・建築主別集計(建築主計)から、工事費予定額(単位:万円)を床面積の合計(単位:㎡)で除して算出した。地価は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の地価公示・都道府県地価調査データを用い、倶知安町・白馬村は令和8年地価公示(価格時点:令和8年1月1日)、恩納村は地価公示の標準地が設定されていないため令和7年都道府県地価調査(価格時点:令和7年7月1日)を用いた。
宿泊施設数・客室数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングが把握する施設マスターから所在地表記により抽出した。推定成約ADRは同社の集計値で、2026年8月以降は調査時点で公開されている販売価格に基づく推定であり、今後変動する。

⚠ 試算に関する注意:本稿の宿舎コスト試算は、公開統計の平均値を用いた簡易試算です。実際の従業員宿舎は仕様・構造・立地・規模により単価が大きく変動し、土地取得費・造成費・設計監理料・什器備品費・開業準備費は含んでいません。所要戸数の12.3戸は倶知安町の全産業合計の給与住宅から得た参考値であり、個別ホテルの必要戸数を示すものではありません。投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要です。

参考資料・出典一覧

■ 政府統計・公的データ

■ データソース

給与住宅数・居住世帯のある住宅数・空き家内訳・延べ面積1㎡あたり家賃は、総務省「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計」(調査期日 令和5年10月1日、確報 令和6年9月25日公表)の e-Stat 統計表 0004021424/0004021421/0004021492 から集計した。建築単価は国土交通省「建築着工統計調査」用途別・建築主別集計(統計表ID 0003114490)の工事費予定額÷床面積。地価は国土交通省「不動産情報ライブラリ」の地価公示(倶知安町・白馬村=令和8年地価公示)および都道府県地価調査(恩納村=令和7年、地価公示の標準地が設定されていないため)。宿泊施設数・客室数・推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティング集計データ(倶知安町N=428施設、白馬村N=1,025施設、恩納村N=386施設)。

■ 試算前提

宿舎1戸の延べ面積57.58㎡(倶知安町の給与住宅1住宅あたり実績値)、建築単価28.05万円/㎡(2024年・全国・寄宿舎等)、敷地面積は延べ面積と同等(2階建・容積率100%相当)と仮定。ホテルは100室・1室あたり延床40㎡・59.13万円/㎡=建物費23.65億円。所要戸数は倶知安町の給与住宅690戸÷客室5,596室×100=12.3戸を中位に、8戸を楽観・16戸を悲観として置いた。表6の2軸感度分析は表4の3標準地と表5の建物費をそのまま掛け合わせたもので、新たな仮定は追加していない。「事業費に占める比率」の分母はホテル建物費23.65億円である。

■ 限界・留意点

(1) 給与住宅比率は住戸型の社宅のみを数えた下限値である。独身寮など「住宅以外で人が居住する建物」(全国の会社等の寮・寄宿舎9,300棟)は計上されないため、実際の従業員居住キャパシティはこれより大きい。(2) 所要戸数12.3戸は倶知安町の全産業合計の給与住宅から得た参考値で、宿泊業のみの必要戸数ではない。(3) 白馬村・恩納村は住宅・土地統計調査の市区町村編(収録1,283地域)に含まれないため所在県値で代替しており、市町村値の推計は行っていない。(4) 宿舎コスト試算は公開統計の平均値による簡易試算で、土地取得費(ホテル用地)・造成費・設計監理料・什器備品費・開業準備費を含まない。実際の単価は仕様・構造・規模により大きく変動する。(5) 推定成約ADRは推定値であり実際の成約価格・会計数値とは異なる。投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要である。

■ 市場データ

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