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ホテル1棟で客室の3割超の街は16市区町村|全国288市区町村の供給集中度2026

投稿日 : 2026.09.13

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投資・開発

ホテル1棟で客室の3割超の街は16市区町村|全国288市区町村の供給集中度2026

宿泊市場を語るとき、多くの分析は「エリアに何室あるか」で止まる。しかし実務上より重要なのは、その客室が何棟に分かれているかである。同じ2,000室でも、1棟が900室を占める街と、70棟に細かく分かれた街では、1軒の新規開業が市場に与える衝撃がまったく違う。本稿では、全国の宿泊施設を施設単位(1棟単位)で市区町村別に積み上げ、「最大棟シェア」「上位3棟シェア」という2つの集中度指標を算出した。そのうえで推定成約ADR・推定稼働率と並べ、さらに建築計画データを重ねて、1棟入るだけで市場構造が書き換わる街を特定する。

本記事における指標の定義

  • 最大棟シェア:市区町村内の総客室数に対する、単一施設(1棟)の客室数が占める割合。チェーンやグループ単位ではなく、あくまで施設単位の集計。
  • 上位3棟シェア:同じく、客室数上位3施設の合計が総客室数に占める割合。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(施設・客室数、推定成約ADR、推定稼働率)/国土交通省「建築物動態統計調査」(建築計画)
Key Takeaways
  • — 全国288市区町村(総客室1,000室以上・5施設以上)の最大棟シェア中央値は12.3%。3割を超えるのは16市区町村、2割超は46市区町村にとどまる。
  • — 集中度を決めているのは街の大きさ。総客室数との順位相関は−0.66で、市場が小さいほど1棟の比重が上がる。
  • — 集中度は単価も稼働も説明しない。推定成約ADR・推定稼働率との順位相関はいずれも−0.1未満だった。
  • — 効くのは新規1棟。計画客室が既存の2割を超えるのは12市区町村で、首位の大阪府此花区は69.3%(全計画実現時)。
  • — 集中市場46件の最大棟のうち上場ホテルREIT保有は1件のみ。街の需給を左右する1棟は公開市場の外にある。

最大棟シェアの中央値は12.3% — 全国288市区町村の分布

集計対象は、メトロエンジンリサーチが追跡する国内宿泊施設のうち、客室10室以上かつ直近でOTA上に販売在庫の掲載が確認できた19,424施設である。このうち、総客室数1,000室以上かつ5施設以上を擁する市区町村を「市場」として抽出すると288市区町村、施設数12,719軒・客室数1,133,723室となった。1市場あたりの中央値は31施設・2,082室である。

この288市場について最大棟シェアを計算すると、中央値は12.3%だった。つまり「標準的な街では、いちばん大きなホテル1棟が市場のおよそ8分の1を持っている」ことになる。上位3棟シェアの中央値は30.2%で、上位3棟で市場の3割という水準だ。分布は左に偏っており、10%未満が105市区町村と全体の36.5%を占める一方、最大棟シェアが30%を超える市場も16市区町村存在した。20%以上まで広げると46市区町村になる。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=288市区町村・12,719施設)

集中度の正体は「街の大きさ」 — 市場規模との順位相関は−0.66

なぜ集中度に差が出るのか。答えの大部分は市場規模で説明できる。総客室数(対数)と最大棟シェアの順位相関は−0.661で、市場が大きいほど最大棟シェアは下がる。実際、最大棟シェア20%以上の46市場は平均16.9施設しかないのに対し、10%未満の105市場は平均76.1施設を抱える。集中は「誰かが独占している」現象ではなく、棟数が少ないことの数学的な帰結である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=288市区町村)

最大棟シェアの分布 — 全国288市区町村(総客室1,000室以上・5施設以上、2026年8月時点)
市場規模帯(総客室数)市区町村数最大棟シェア中央値上位3棟シェア中央値推定成約ADR中央値
1,000〜2,000室13616.0%39.6%¥8,800
2,000〜5,000室959.6%24.4%¥9,100
5,000〜10,000室326.2%16.3%¥8,000
10,000室以上256.3%13.7%¥11,100

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=288市区町村)

最大棟シェア上位15市区町村 — 1棟で市場の3割超

集中度の高い15市場を並べたのが下表である。首位は北海道占冠村で、大型リゾート1棟が村全体の客室の47.6%、上位3棟で95.8%を占める。リゾート単独立地の極端な形といえる。

都市型で目を引くのが千葉県美浜区(海浜幕張)だ。市場全体4,440室に対し、国内最大級の客室規模を持つアパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉1棟が2,007室、シェア45.2%を占める。幕張メッセの大型イベント需要を1棟でまとめて受け止められる構造で、集客力の裏づけがある配置といえる。同様に、新潟県湯沢町では苗場プリンスホテル1,216室が37.2%、大阪府東淀川区ではアパホテル〈新大阪駅前〉660室が36.0%を担う。いずれも「その街の宿泊需要のかなりの部分を1棟で引き受けている」施設である。

上位46市場(最大棟シェア20%以上)の最大棟を業態別に見ると、ビジネスホテルが22件と最多で、リゾートホテル9件、シティホテル8件、デラックスホテル4件、旅館3件と続く。地方都市の駅前・インター周辺で大型ビジネスホテルが供給の中核を担う構図と、リゾート地で1棟の大型施設が街を形づくる構図が、同じ「集中」として並んでいる。

最大棟シェア上位15市区町村 — 推定成約ADRは2026年6〜8月の中央値、推定稼働率は2026年8月
#市区町村施設数総客室最大棟シェア上位3棟推定ADR推定OCC最大棟
1北海道占冠村61,12347.6%95.8%¥34,700星野リゾート トマム ザ・タワー(535室)
2千葉県美浜区134,44045.2%61.4%¥10,946アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉(2,007室)
3新潟県湯沢町553,27337.2%53.9%¥14,19086.3%苗場プリンスホテル(1,216室)
4沖縄県読谷村121,25237.1%76.8%¥20,126グランドメルキュール沖縄残波岬リゾート(465室)
5千葉県市川市131,25836.6%56.6%¥8,729東横INN西船橋原木インター(461室)
6和歌山県那智勝浦町191,00336.4%55.0%¥12,495ホテル浦島(365室)
7大阪府東淀川区141,83536.0%55.5%¥8,043アパホテル〈新大阪駅前〉(660室)
8福島県猪苗代町241,03835.6%52.1%¥9,942ホテルリステル猪苗代ウイングタワー(370室)
9大阪府港区161,35333.6%62.2%¥10,732アートホテル大阪ベイタワー(454室)
10福岡県東区131,53433.0%56.6%¥12,910HOTEL AZ 福岡和白店(506室)
11岩手県八幡平市241,23832.4%58.0%¥10,24688.3%ANAクラウンプラザリゾート安比高原(401室)
12北海道南区262,79332.3%66.5%¥19,94090.9%アパホテル&リゾート〈札幌〉(903室)
13山口県岩国市151,60931.9%56.5%¥5,950HOTEL AZ 山口岩国店(514室)
14静岡県西区131,16831.6%55.9%¥13,208グランドメルキュール浜名湖リゾート&スパ(369室)
15沖縄県宜野湾市131,10530.8%74.2%¥15,877沖縄プリンスホテルオーシャンビューぎのわん(340室)

推定成約ADRは2026年6〜8月の月次中央値。推定OCCは2026年8月。OTA掲載施設が少なく推定精度が確保できない市場は「—」。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

最大棟シェア下位15市区町村 — 1棟の影響が消える街

対照的に、最大棟シェアが極端に低い市場もある。東京都中央区は186施設・26,858室に対し最大棟が497室でシェアはわずか1.9%、上位3棟でも5.2%にとどまる。台東区は280施設で2.0%、大阪府中央区は247施設・37,826室で2.4%。これらの街では、500室クラスのホテルが1棟増えても市場全体の客室数は2%程度しか動かない。

都市部だけではない。神奈川県箱根町は176施設・6,269室で最大棟シェア3.2%、長野県山ノ内町(湯田中・渋温泉)は84施設・2,813室で4.0%。中小規模の旅館が数多く並ぶ温泉地も、構造としては「分散市場」である。

最大棟シェア下位15市区町村 — 推定成約ADRは2026年6〜8月の中央値、推定稼働率は2026年8月
#市区町村施設数総客室最大棟シェア上位3棟推定ADR推定OCC
1東京都中央区18626,8581.9%5.2%¥15,68093.3%
2東京都台東区28023,7522.0%5.5%¥11,98892.7%
3北海道中央区17027,1982.2%6.1%¥13,95694.9%
4福岡県博多区21125,6832.3%6.2%¥12,78995.2%
5沖縄県那覇市23122,1192.4%5.8%¥9,64590.6%
6大阪府中央区24737,8262.4%5.9%¥9,29088.6%
7京都府中京区16112,9662.5%7.5%¥11,32486.3%
8京都府下京区23720,8842.6%7.4%¥11,11187.4%
9神奈川県箱根町1766,2693.2%8.1%¥23,33290.5%
10愛知県中区10018,2413.4%9.3%¥8,29390.0%
11鹿児島県鹿児島市809,3813.8%10.7%¥6,380
12石川県金沢市11213,3553.8%11.0%¥8,69488.4%
13岐阜県高山市1225,5684.0%11.8%¥15,19892.6%
14長野県山ノ内町842,8134.0%10.2%¥10,98393.9%
15愛媛県松山市948,2034.0%11.6%¥8,81492.2%

推定成約ADRは2026年6〜8月の月次中央値。推定OCCは2026年8月。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

集中度は単価も稼働も説明しない — 順位相関はいずれも−0.1未満

ここが本稿の中心的な発見である。「1棟が市場を握っている街は価格が高いのではないか」という直感は、データでは支持されなかった。最大棟シェアと推定成約ADRの順位相関は−0.097、上位3棟シェアとでも−0.156にとどまる。推定稼働率との相関も−0.092で、いずれも実質的に無相関である。

288市場を最大棟シェアで4分位に分けると、推定ADRの中央値は分散側の¥9,700から集中側の¥8,600まで緩やかに下がるが、この差は集中度そのものではなく市場規模の違い(都心の大規模市場ほど単価が高い)を映している可能性が高い。推定稼働率にいたっては89.9〜91.6%(2026年8月時点・OTA掲載在庫に基づく推定、N=163市区町村)の範囲でほぼ横ばいだ。

推定稼働率は、OTA掲載施設が一定数以上あり推定精度を確保できた163市区町村のみで算出(第4四分位は16市区町村と母数が小さい点に留意)。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

つまり集中度は、価格戦略や需給の強弱を読むための指標ではない。集中度が効いてくるのは、市場に新しい1棟が入るときである。中央値の市場(2,082室)に200室のホテルが1棟開業すれば、その1棟だけで市場の8.8%を占める。第4四分位(中央値1,304室)ならば13.3%だ。分散市場ではノイズにしかならない規模の供給が、集中市場では構造変化になる。

1棟で構造が変わる12市区町村 — 建築計画から見た供給インパクト

国土交通省「建築物動態統計調査」をもとに、2026年9月以降に完成・稼働予定として届け出られている宿泊施設の建築計画を市区町村別に集計した(重複計上を除いた全国344件・54,219室)。このうち今回の288市場に該当するのは120市区町村・43,728室である。計画客室数を既存客室数で割った「供給インパクト比」が20%を超えるのは12市区町村だった。なお、開業時期が確定した新規開業ベースで同じ比率を見た場合の分布は、新規開業ホテルの供給圧ランキング2026-2027で別途整理している。

出典:国土交通省「建築物動態統計調査」よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成/既存客室数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティング

供給インパクト比20%超の12市区町村 — 建築計画は確認申請ベース(2026年9月以降完成予定)
市区町村既存施設既存客室最大棟シェア計画件数計画客室供給インパクト比最大計画完成予定推定ADR
大阪府此花区194,78515.9%23,31769.3%2,500室2029年10月¥14,681
北海道倶知安町423,23615.6%51,13235.0%482室2027年09月¥16,273
広島県南区354,84415.0%61,68734.8%600室2028年04月¥10,246
沖縄県宮古島市985,6025.9%21,90234.0%1,726室2028年03月¥16,509
三重県四日市市322,7848.5%392833.3%385室2027年12月¥7,140
北海道富良野市261,51526.9%239526.1%200室2027年12月¥16,094
宮城県大崎市321,72913.3%142824.8%428室2026年12月¥8,820
千葉県美浜区134,44045.2%11,00022.5%1,000室2027年12月¥10,946
熊本県大津町141,83311.6%140021.8%400室2026年12月¥8,085
静岡県葵区312,97210.3%264221.6%418室2027年04月¥8,191
東京都立川市181,62515.4%235121.6%211室2027年03月¥9,919
山形県鶴岡市392,2808.6%248521.3%300室2027年08月¥10,220

※調査時点での確認申請ベース。今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みであり、現時点での確定パイプラインの下限値として参照。出典:国土交通省「建築物動態統計調査」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

計画がどこまで実現するかで幅を取る — 3ケース比較

上表の供給インパクト比は、届け出られた計画がすべて実現した場合の値である。確認申請は開業の1〜2年前に行われるため、この先に中止・縮小が起きうる一方、申請の追加による上振れもある。ここでは12市区町村について、計画の実現度合いを3つのケースに分けて幅を示す。ケースAは最大計画1件が中止し残りだけが実現する場合、ケースBは最大計画1件だけが実現する場合、ケースCは全計画が実現する場合(本記事本体の値)である。

供給インパクト比の3ケース比較 — 計画実現度合いによる感度(既存客室数は2026年8月時点)
市区町村既存客室ケースA
最大計画が中止
ケースB
最大計画のみ実現
ケースC
全計画実現
レンジ
大阪府此花区4,78517.1%52.2%69.3%17.1〜69.3pt
北海道倶知安町3,23620.1%14.9%35.0%14.9〜35.0pt
広島県南区4,84422.4%12.4%34.8%12.4〜34.8pt
沖縄県宮古島市5,6023.1%30.8%34.0%3.1〜34.0pt
三重県四日市市2,78419.5%13.8%33.3%13.8〜33.3pt
北海道富良野市1,51512.9%13.2%26.1%12.9〜26.1pt
宮城県大崎市1,7290.0%24.8%24.8%0.0〜24.8pt
千葉県美浜区4,4400.0%22.5%22.5%0.0〜22.5pt
熊本県大津町1,8330.0%21.8%21.8%0.0〜21.8pt
静岡県葵区2,9727.5%14.1%21.6%7.5〜21.6pt
東京都立川市1,6258.6%13.0%21.6%8.6〜21.6pt
山形県鶴岡市2,2808.1%13.2%21.3%8.1〜21.3pt

ケースA=(計画客室−最大計画客室)÷既存客室、ケースB=最大計画客室÷既存客室、ケースC=計画客室÷既存客室。出典:国土交通省「建築物動態統計調査」/メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

幅の出方は市場によって性格が異なる。大阪府此花区・沖縄県宮古島市・千葉県美浜区・宮城県大崎市・熊本県大津町は最大計画1件が供給の大半を占めるため、その1件の可否がそのまま結論を決める。一方、広島県南区・北海道倶知安町・三重県四日市市は複数計画の積み上がりで、1件が落ちても20%前後の供給増は残る。前者は個別案件の進捗を追う必要があり、後者は市場全体の吸収力を見る必要がある。

新規1棟が取れるシェア — 市場規模×客室数の感度

投資・開発側から見ると、同じ規模の1棟でも、入る市場の大きさによって取れるポジションはまったく変わる。既存客室数と新規1棟の客室数を振って、その1棟が開業後の市場(既存+新規)に占めるシェアを計算したのが下表である。288市場の既存客室数の中央値は2,082室であり、この中央値の市場に200室を投じるとシェアは8.8%になる。同じ200室でも5,000室規模の市場では3.8%にとどまり、1,000室規模の市場では16.7%に達する。

新規1棟の市場シェア感度 — 既存客室数×新規客室数(開業後シェア=新規÷(既存+新規))
既存客室数\新規1棟100室200室300室500室1000室
1,000室9.1%16.7%23.1%33.3%50.0%
1,500室6.2%11.8%16.7%25.0%40.0%
2,082室(288市場の中央値)4.6%8.8%12.6%19.4%32.4%
3,000室3.2%6.2%9.1%14.3%25.0%
5,000室2.0%3.8%5.7%9.1%16.7%

濃色ほど高シェア。既存客室数は2026年8月時点。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

本記事の分析どおり、集中度そのものは推定成約ADRも推定稼働率も説明しない(順位相関はいずれも−0.1未満)。したがってこの表は「シェアを取れば単価が上がる」ことを示すものではなく、1棟が市場の在庫曲線に対して持つ影響力の大きさを示すものである。シェア20%を超える組み合わせでは、その1棟の販売停止や在庫投入が市場全体の需給に直接効く。

集中市場と供給計画の地図

最大棟シェア20%以上の集中市場と、供給インパクト比15%以上の市場を地図に落とすと、両者はほとんど重ならない。集中市場は地方の中規模都市とリゾート地に散在する一方、大型の建築計画は都市再開発・空港・大規模観光開発に紐づいて特定地点に集まる。円の大きさは最大棟シェア、青は供給計画が入る市場を示す。

座標は各市区町村の最大棟の所在地。出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省「建築物動態統計調査」

4つのケース — 入る1棟が何を変えるか

千葉県美浜区(海浜幕張):集中がやや解ける側
既存4,440室・13施設に対し、海浜幕張駅前で約1,000室の複合開発が2027年後半の開業を予定している。実現すれば市場は5,440室となり、現在45.2%の最大棟シェアは36.9%へ。新規1棟だけで市場の18.4%を占める計算だ。集中市場としては珍しく、供給が入ることで構造が分散側に動くケースにあたる。この開発の吸収余地については海浜幕張駅前1,000室・総投資300億円の複合開発で詳しく扱っている。

大阪府此花区:分散市場から一気に集中市場へ
既存4,785室・19施設。最大棟はリーベルホテル大阪の760室でシェア15.9%と、現状は中程度の分散市場である。ここに夢洲の統合型リゾートに伴う約2,500室(2030年秋開業予定)を含む計3,317室の計画が控える。供給インパクト比は69.3%で全国最大。計画が出そろえば市場は8,102室となり、最大棟シェアは30.9%へと跳ね上がる。分散市場が単一の開発によって集中市場に転換する、全国でも数少ない事例だ。

沖縄県宮古島市:98施設の分散市場に1,726室
既存5,602室を98施設で分け合う典型的な分散市場で、最大棟シェアは5.9%にすぎない。しかし城辺地区で計画されている大規模リゾート(1,726室)が加われば、その1棟だけで市場の23.0%を占める。推定成約ADRは¥16,500と全国上位で、推定稼働率も89.9%(2026年8月時点・同上)と高い水準にある。需要の受け皿としての妥当性はあるが、1棟の運営方針が島全体の価格水準に影響しうる構造に変わる点は押さえておきたい。

広島県南区・三重県四日市市:中規模都市の再編
広島市南区は既存4,844室・35施設に対し6件1,687室(供給インパクト比34.8%)、四日市市は既存2,784室・32施設に対し3件928室(同33.3%)の計画がある。いずれも1棟あたり300〜600室級が複数重なるタイプで、最大棟シェアを大きく動かすというより、市場全体の客室数を3分の1押し上げる。四日市市については、定期修繕(定修)需要という固有の需要構造をコンビナート定修年2026で分析している。

集中市場の最大棟は、上場REITの外側にある

最大棟シェア20%以上の46市場について、その最大棟が上場ホテルREITの保有物件かどうかを保有関係マスターで照合したところ、該当したのは大阪府住之江区の1件のみだった。集中市場の中核施設のほぼすべては、上場REITのポートフォリオ外にある。上場7社が国内客室の一部しか保有していない構造についてはREIT未保有ホテル97万室・4,934施設で整理しているが、集中度の観点から見ると、「その街の需給を左右する1棟」ほど公開市場の外にあるという含意が加わる。エリア分析を上場REITの月次開示だけで組み立てると、集中市場の実態は捉えきれない。

実務への含意

集中市場で運営する宿へ。最大棟シェアが20%を超える市場では、大型1棟の在庫投入・販売停止がそのまま市場全体の在庫曲線を動かす。自館のブッキングカーブを読む際に、同一市場の最大棟がいつ在庫を出し、いつ埋まるかを併せて観察すると、価格改定のタイミングを組み立てやすくなる。加えて、新規1棟の開業予定が判明している市場では、開業の1〜2年前から自館の強み(立地・館内施設・食事・客室規模)を明確化しておくことで、供給増局面でも選ばれる余地を確保できる。新規開業施設の単価が市場水準に追いつくまでの期間については新規開業ホテルのADR回復は中央値2ヶ月で実測している。

分散市場で運営する宿へ。最大棟シェアが5%を下回る市場では、競合1棟の開業を過度に警戒する必要は小さい。むしろ効いてくるのは累積の供給量であり、単発の開業情報よりも年間の供給増加率を追うほうが実務的である。

投資・開発の観点から。集中市場は、1棟の取得・開発でエリアの供給構造に対する明確なポジションを取れる余地がある。中央値の市場(2,082室)に200室を投じればシェア8.8%、1,300室規模の市場なら13.3%に達する。一方で、単価・稼働の水準は集中度から予測できないため、事業計画の前提となるADRとOCCは市場規模帯や業態構成から個別に組み立てる必要がある。

集計方法と出典

施設・客室数は、メトロエンジンリサーチが追跡する国内宿泊施設のうち、客室10室以上かつ直近の調査でOTA上に販売在庫の掲載が確認できた19,424施設(1,501,842室)を母集団とした。このうち総客室数1,000室以上かつ5施設以上の288市区町村を分析対象としている。OTAに掲載されない旅館・民宿・簡易宿所は含まれない。同一施設が複数の名称で掲載されている場合、名称単位で名寄せを行っているが、表記の揺れにより一部で重複が残る可能性がある。館・棟が分かれる施設は、掲載単位に従って集計している。

推定成約ADRは2026年6〜8月の月次値の中央値(対象施設数の中央値はN=27.5施設/市区町村)。直近月は調査時点でOTAに掲載されている販売価格に基づく推定を含むため、今後変動する可能性がある。推定稼働率は2026年8月の月次平均で、OTA掲載施設数が一定水準を下回る市区町村は算出対象から除外した(288市場中163市場で算出)。建築計画は国土交通省「建築物動態統計調査」に基づき、2026年9月以降に完成または稼働予定として届け出られた宿泊用途の案件を、同一市区町村・同一客室数の重複を除いて集計した。

⚠ 建築計画データに関する注意:本記事の計画客室数は調査時点での確認申請ベースであり、確認申請は通常、開業の1〜2年前に行われます。今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みで、現時点での確定パイプラインの下限値としてご参照ください。また、計画が中止・変更される可能性もあります。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

施設・客室数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングが追跡する国内宿泊施設のうち、客室10室以上かつ直近調査でOTA上に販売在庫の掲載が確認できた19,424施設・1,501,842室。うち総客室1,000室以上かつ5施設以上の288市区町村(12,719施設・1,133,723室)を分析対象とした。推定成約ADRは2026年6〜8月の月次中央値(対象施設数の中央値N=27.5施設/市区町村)、推定稼働率は2026年8月の月次平均(算出可能な163市区町村)。建築計画は国土交通省「建築物動態統計調査」の2026年9月以降完成・稼働予定案件(重複除去後344件・54,219室)。REIT保有判定は保有関係マスターとの照合による。

■ 試算前提

最大棟シェア=単一施設の客室数÷市区町村内総客室数、上位3棟シェア=上位3施設の合計客室数÷同、供給インパクト比=計画客室数÷既存客室数。いずれもチェーン・グループ単位ではなく施設(1棟)単位で集計している。3ケース比較はケースA=(計画客室−最大計画客室)÷既存客室、ケースB=最大計画客室÷既存客室、ケースC=計画客室÷既存客室。感度表の開業後シェアは新規客室÷(既存客室+新規客室)。集中度と単価・稼働の関係はスピアマンの順位相関で評価した。

■ 限界・留意点

OTAに掲載されない旅館・民宿・簡易宿所は母集団に含まれない。同一施設の複数名称掲載は名寄せしているが、表記揺れによる重複が一部残りうる。館・棟が分かれる施設は掲載単位で集計しているため、実際の建物単位とは一致しない場合がある。建築計画は確認申請ベースであり、申請は通常開業の1〜2年前に行われるため、現時点での確定パイプラインの下限値である(今後の申請追加で増加、中止・変更で減少しうる)。推定成約ADR・推定稼働率はOTA公開在庫に基づく推定値で、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。直近月の推定成約ADRは調査時点の掲載価格に基づく推定を含むため変動しうる。

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

  • 国土交通省「建築物動態統計調査」(宿泊用途の建築計画)

■ ニュース・プレスリリース

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