石油化学コンビナートの定期修理(定修)は、プラントを止めて設備を開放点検する保全工事である。数年に一度しか回ってこないが、来れば全国から検査・配管・保温・足場の技能者が集まり、工事期間中は近隣の客室を数百室単位で押さえる。2026年は、その定修が国内のナフサクラッカーで同時に重なった年だった。石油化学工業協会(石化協)が毎月公表する実績概要メモを月次で追うと、2026年3月・4月は定修中のプラントが4基に達している。前年同月はいずれも0基である。
本稿では、四日市(三重県四日市市)・市原(千葉県市原市)・水島(岡山県倉敷市)・大分(大分県大分市)の4拠点について、定修の集中度、周辺の客室ストック、実際に観測された宿泊単価の動き、地価と用途規制、そして供給パイプラインを突き合わせる。ホテルバンクの既刊が扱ってきた半導体クラスター・データセンター・洋上風力・廃炉はいずれも建設フェーズの一過性需要で、着工から竣工までの数年間に山があり、その後は消える。定修はそれとは性格が違う。数年周期で反復し、そのたびに同じ場所に同じ規模で戻ってくる需要である。投資論点も「山をどう取るか」ではなく、4年周期で上下するNOI(純営業収益)のボラティリティをどう評価し、平準化するかに移る。既刊『三重県の8月はピーク日が業態で違う』は三重県全体のブッキングカーブを扱ったもので、四日市は業務需要の一部として登場するにとどまる。本稿は四日市を定修需要の受け皿として単独で扱う。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- 本稿で引用する稼働率:各REITが月次で開示する物件別の稼働率をそのまま引用したものです。当社の推定稼働率は用いていません。試算で用いる稼働率は明示した想定値です。
- GOP(売上高営業総利益):売上高から人件費・水道光熱費など運営に直接かかる費用を差し引いた営業総利益で、賃借料・減価償却費・支払利息を控除する前の段階の利益。本稿の試算では客室売上に対するGOP率を置いて算出しており、実際の会計上のGOPとは異なります。
- 定修プラント数:石油化学工業協会「実績概要(メモ)」が各月に記載する、当月に定期修理を実施したナフサクラッカーの基数。
- 客室ストック:メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、各コンビナート中心点からの直線距離帯に立地する宿泊施設の施設数と客室数。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング/石油化学工業協会/国土交通省 不動産情報ライブラリ/国土交通省 建築物着工統計(e-Stat)
- — 2026年3月・4月は定修プラントが4基(前年同月0基)。石化協の月次メモで数えられる、4年周期の反復需要が同時に立ち上がった年である。
- — 四日市市の推定成約ADRは2026年3月に前年同月比+45.9%(¥6,806→¥9,932・N=26施設)。10km圏コンプセット(N=19)でも+37.2%と、定修工期に重なって単価が動いた。
- — 受け皿の厚みは4拠点で最大8.3倍の開き。5km圏で四日市3,023室に対し大分364室。母集団が大きく観光需要の比重が高い水島(倉敷)では、リフトが希釈されて単価に表れない。
- — 150室の宿泊特化型で定修年のGOPは+12.8%(¥122.4百万→¥138.1百万)、4年平均への年換算寄与は+¥3.9百万。新築コスト約44.5億円に対しては0.09%で、開発の根拠にはならない。
- — 水島は2030年度をめどに生産集約が予定され、反復需要に終期がある。周期性を前提に投資するなら、周期が何回残っているかを併せて数える必要がある。
2026年3〜4月に定修プラントが4基同時 — 前年同月は0基
定修の周期は法令上の連続運転可能期間に紐づく。高圧ガス保安法の認定事業者制度では、認定を受けた事業所は4年間等(大臣に認められた期間)の連続運転が可能で、さらにスーパー認定事業所では最大8年までの自主設定が認められている。つまり「4年に一度」は業界の慣習ではなく、制度設計の帰結として現れる周期である。実際、クラサスケミカル(大分)は自社サイトで「2026年は、4年に1度のエチレンクラッカーの大型定期修理を予定しています」と明記している。
その集中度は、石化協が毎月公表する実績概要メモから機械的に数えられる。下図は各月に定修を実施したクラッカーの基数を2025年と2026年で並べたものだ。2025年は1〜4月がゼロで、5〜8月に1〜2基が散発したのに対し、2026年は1月に1基、2月に2基、そして3月・4月は4基が同時に停止している。エチレン生産量は3月に272,600トンまで落ち、前年同月比で-38.8%となった。
ここで一点、留保を置く。2026年の減産は定修だけが要因ではない。石化協は2026年6月の減産要因を「定修要因等 -5.8%、稼働率変動 -13.3%」と内訳で示しており、2月末のホルムズ海峡の実質封鎖に伴うナフサ調達難が同時に効いている。生産量の落ち込み幅をそのまま定修の規模と読むことはできない。宿泊需要の観点で意味を持つのは生産量ではなく、停止したプラントの基数と工期である。定修は原料が入らなくても予定どおり実施され、むしろ停止期間が延びれば工事の窓は広がる。東ソーの四日市事業所(三重県四日市市)では、3〜4月に予定された大型定修の完了後、ナフサ調達難により再稼働が延期され、最終的に4月25日の再稼働となった。
受け皿の厚みは4拠点で最大8.3倍の開き — 5km圏で大分364室、四日市3,023室
定修の技能者は現場に近いほど良いが、コンビナートの立地はほぼ例外なく工業専用地域で、敷地の隣に宿はない。実務上は「クルマまたはバスで通える範囲」に泊まることになる。そこで、各コンビナートの中心点から5km・10km・15kmの距離帯ごとに、メトロエンジンリサーチが把握する宿泊施設の施設数と客室数を数えた。
| 拠点 | 5km圏 | 10km圏 | 15km圏 | 15km圏の2020年以降開業 |
|---|---|---|---|---|
| 四日市(三重県四日市市) | 50施設 3,023室 | 69施設 3,395室 | 136施設 6,896室 | 25施設 731室 |
| 市原(千葉県市原市) | 39施設 1,550室 | 75施設 3,530室 | 184施設 10,779室 | 27施設 2,371室 |
| 水島(岡山県倉敷市) | 38施設 1,392室 | 139施設 5,128室 | 174施設 5,881室 | 33施設 981室 |
| 大分(大分県大分市) | 9施設 364室 | 46施設 1,636室 | 109施設 7,062室 | 6施設 818室 |
構造の違いがはっきり出た。四日市は5km圏に3,023室があり、近鉄四日市駅前の業務系ホテル群がそのまま定修の受け皿になる。市原は5km圏1,550室と薄いが、10kmで3,530室、15kmで10,779室へ一気に厚くなる。千葉市中心部が射程に入るためだ。水島は10km圏で5,128室に届き、そのほとんどが倉敷駅周辺である。そして大分は5km圏がわずか9施設364室と4拠点で最も薄く、10kmでも1,636室にとどまる。大分駅前の主力ホテル群はコンビナートから13〜15km離れている。5km圏で比べると四日市は大分の8.3倍の客室を抱えていることになる。
| 近隣商業地域 | 14区画 |
| 第一種住居地域 | 7区画 |
| 第二種中高層住居専用地域 | 7区画 |
| 商業地域 | 6区画 |
| 第二種住居地域 | 6区画 |
四日市市の推定成約ADRは2026年3月に前年同月比+45.9% — 水島には出ていない
では、定修は実際に宿泊単価を動かしたのか。市区町村単位の推定成約ADRを、基準が揃う実績月(2026年7月まで)に限って前年同月と比べた。将来月は現時点の掲載水準にもとづく推定であり、実績月と基準が異なるため前年比の対象から外している。
四日市市は3月に前年同月比+45.9%(推定成約ADR ¥6,800→¥9,900)と、他の3市から明確に離れた。東ソー四日市事業所の定修が3〜4月に実施された期間とちょうど重なる。4月は-10.0%に反転しており、需要のピークが工事の立ち上がり局面に前寄りで来ていることを示唆する。大分市は1月+21.4%、3月+11.1%と2つの山を持ち、市原市は1月+16.1%・2月+25.0%と年初に寄った。一方で倉敷市は2026年を通じてプラスの月がほとんどなく、5月-13.4%、6月-25.9%と前年を下回っている。
市の集計は観光需要や他の業務需要も一緒に拾ってしまうため、コンビナート10km圏に立地し30室以上を持つ施設だけを取り出したコンプセット(比較対象群)でも同じ計算をした。結果は市単位とほぼ同じ向きを示す。
| 拠点 | 集計施設数 | 2025年平均 | 2026年の最大リフト月 | 同月の前年同月比 |
|---|---|---|---|---|
| 四日市 | N=19 | ¥7,455 | 3月 ¥10,535 | +37.2% |
| 大分 | N=9 | ¥5,431 | 1月 ¥7,033 | +28.8% |
| 市原 | N=24 | ¥6,982 | 2月 ¥7,946 | +6.0% |
| 水島 | N=32 | ¥8,310 | 3月 ¥8,421 | -0.7% |
差がどこから来るかは、表1の客室ストックと合わせると読める。四日市は5km圏に3,023室があり、そのうち近鉄四日市駅前の業務系19施設がコンプセットの中核を占める。定修需要はこの狭い商圏に直撃するため、単価に素直に表れた。大分はもともと5km圏が364室しかなく、少ない在庫に需要が集中しやすい。対して水島は10km圏5,128室のうち大半が倉敷駅周辺で、美観地区の観光需要と混ざる。母集団が大きいほど、また観光需要の比重が高いほど、反復需要のリフトは希釈されて見えなくなる。これは既刊『TSMC第2工場ラインで見る菊陽・合志・大津のADR動向』で扱った半導体クラスターの単価分析と同じ構造であり、需要イベントを単価で検出できるかどうかは、需要側の規模ではなく受け皿側の希釈率で決まる。
地価は市原+9.2%・大分+4.7%に対し水島周辺は+0.5% — 商圏の伸びが分かれている
投資判断の前提として、各拠点の地価と建築規制を国土交通省 不動産情報ライブラリから確認した。2026年地価公示の商業地について、各拠点の宿泊集積エリアを含むタイル内の標準地を集計している。
| 拠点 | 最高地点 | 前年比 | 用途地域の主構成 |
|---|---|---|---|
| 四日市 | ¥495,000/㎡(近鉄四日市) | +6.9% | 近隣商業・商業 |
| 市原 | ¥319,000/㎡(五井) | +7.8% | 第一種低層住居・第一種住居 |
| 水島 | ¥77,700/㎡(児島) | +0.5% | 工業専用・準工業 |
| 大分 | ¥754,000/㎡(大分) | +4.1% | 商業・第一種住居 |
市原(五井)の商業地は前年比中央値+9.2%と4拠点で最も伸びているが、標準地はn=3と少なく、東京湾岸の物流・住宅需要も混ざる。四日市は+2.6%、大分は+4.7%と着実な上昇。水島周辺は+0.5%と、ほぼ横ばいである。水島は用途地域構成でも工業専用地域と準工業地域が中心で、宿泊施設を新設できる区画そのものが限られる。土地の値付けが動いていないことは、この商圏に対する市場の期待が現状維持であることを示す。
四日市10km圏のポジショニング — ¥16,000超の業務系上位帯が空いている
定修需要が最も明確に単価へ表れた四日市について、10km圏・30室以上の19施設を客室規模と推定成約ADRでマッピングした。横軸が客室数、縦軸が2026年1〜7月の推定成約ADR平均、円の大きさは客室数に比例する。
密集 埋まっている領域
¥5,800〜¥8,800 × 73〜237室
19施設中15施設がこの帯に入る。駅前の宿泊特化型が横並びで、定修期の一時的なリフトはあってもレンジの上限は動きにくい。
WS① 連泊・長期滞在対応の中価格帯
¥9,000〜¥16,000 × 60〜150室
該当は3施設。定修は工期が1〜2ヶ月に及ぶ連泊需要であり、調理設備・ランドリー・作業着対応を備えた中価格帯には伸びしろがある。
WS② ¥16,000超の業務系上位帯
¥16,000以上
10km圏に該当施設なし。定修期に管理職・監督者・メーカー技術者が同時に入るため、上位帯の受け皿が四日市市外へ流出している可能性がある。
供給パイプラインは限定的 — 4県合計で確認申請ベース7件2,654室
反復需要に対して供給側がどう動いているかを2つのソースで確認する。ひとつはOTA掲載確認ベースの新規開業(施設マスターの設立日)、もうひとつは国土交通省「建築物動態統計調査」にもとづく建築計画である。
| 県 | 2025年開業 | 2026年開業 | 計画(確認申請ベース) | 宿泊業用建築着工 2024年 |
|---|---|---|---|---|
| 三重県 | 33施設 268室 | 20施設 335室 | — | 42棟 10,759㎡ |
| 千葉県 | 72施設 1,521室 | 43施設 1,598室 | 5件 2,164室 | 209棟 47,255㎡ |
| 岡山県 | 18施設 641室 | 12施設 879室 | 2件 490室 | 19棟 25,791㎡ |
| 大分県 | 50施設 664室 | 39施設 309室 | — | 91棟 26,345㎡ |
4県の新規開業は施設数こそ多いが、1施設あたり客室数は三重県2026年で17室、大分県2026年で8室と小規模である。貸別荘・簡易宿所が中心で、定修の団体需要を受けられる規模ではない。確認申請ベースの計画は千葉県5件2,164室、岡山県2件490室が確認できる一方、三重県・大分県は現時点で該当がない。反復需要が確認できる商圏に、それを狙った新規供給は今のところ入っていない。
投資論点 — 4年周期のNOIボラティリティをどう評価するか
定修需要の投資的な意味は、単年の売上インパクトではなく4年周期で規則的に振れるNOIをどう織り込むかにある。四日市10km圏の標準的な業務系ホテルを想定して、定修年の増分を試算する。
■ 試算前提
- 対象: 客室数150室の宿泊特化型ホテル(四日市10km圏コンプセットの規模帯中央付近)
- 平年ADR: ¥7,455(同コンプセットの2025年12ヶ月中央値の平均、N=18〜19)
- 定修年のADRリフト: +¥2,859(2026年3月 ¥10,535 − 2025年3月 ¥7,676)
- リフト継続期間: 61日(定修工期の目安である約2ヶ月)
- 想定稼働率: 75%(平年・定修年とも同一。実測値ではなく試算のための想定値)
- GOP率: 40%(宿泊特化型ビジネスホテルの業界目安40〜60%の下限を採用)
- リフト分の変動費率: 20%(増収分に対する追加変動費)
| 項目 | 平年 | 定修年 | 差 |
|---|---|---|---|
| 客室売上 | ¥306.1百万 | ¥325.7百万 | +¥19.6百万 |
| GOP | ¥122.4百万 | ¥138.1百万 | +¥15.7百万 |
| GOP変動率 | — | +12.8% | — |
| 4年平均への年換算寄与 | — | +¥3.9百万 | +3.2% |
■ 感度分析
| ケース | リフト幅 | 継続日数 | 定修年GOP増分 | GOP変動率 | 4年平均への年換算 |
|---|---|---|---|---|---|
| ベースケース | +¥2,859 | 61日 | +¥15.7百万 | +12.8% | +¥3.9百万 |
| リフト幅 +30% | +¥3,717 | 61日 | +¥20.4百万 | +16.7% | +¥5.1百万 |
| リフト幅 -30% | +¥2,001 | 61日 | +¥11.0百万 | +9.0% | +¥2.7百万 |
| 継続期間 半減 | +¥2,859 | 31日 | +¥8.0百万 | +6.5% | +¥2.0百万 |
| 両方保守 | +¥2,001 | 31日 | +¥5.6百万 | +4.6% | +¥1.4百万 |
■ 2軸感度分析(リフト幅 × 継続日数)
| リフト幅 \ 継続日数 | 21日 | 31日 | 45日 | 61日 | 76日 |
|---|---|---|---|---|---|
| ¥1,500 | +2.3% | +3.4% | +5.0% | +6.7% | +8.4% |
| ¥2,000 | +3.1% | +4.6% | +6.6% | +9.0% | +11.2% |
| ¥2,859(実測) | +4.4% | +6.5% | +9.5% | +12.8% | +16.0% |
| ¥3,500 | +5.4% | +8.0% | +11.6% | +15.7% | +19.6% |
| ¥4,000 | +6.2% | +9.1% | +13.2% | +17.9% | +22.4% |
新規開発の観点で同じ数字を置き直すと、位置づけがはっきりする。150室・客室25㎡・客室部分比率62%(いずれも当社の想定値)とすると延床は約6,048㎡(約1,830坪)。ホテルタイプ別の坪単価目安220万円(国土交通省 建築着工統計にもとづく2025年の全構造平均195.2万円/S造240.5万円の間、ミッド帯の水準)を当てると建設費は約40.3億円になる。2028年開業・施工24ヶ月を想定し、建設期間中のインフレ(2026年+5.3%、2027年+5.0%=当社の想定値。出典のある確定値ではなく、既刊『建設費高騰でホテル新規供給が縮退する2027-2029年』で扱った建設工事費デフレーターの上昇トレンドを踏まえて置いた前提)を織り込むと約44.5億円である。定修年増分の年換算¥3.9百万は、この投資額に対して0.09%にすぎない。定修需要それ自体が新規開発の根拠になることはない。
むしろ意味があるのは既存ストック側の収益設計である。4年に一度、2ヶ月間だけ需要が跳ねることが事前に分かっているのなら、その期間の価格を段階的に設計し、連泊向けの商品を用意しておくことで、同じ資産から追加のGOPを取り出せる。四日市の2026年4月が-10.0%に反転していることは、需要の山が工期の前半に寄っており、後半の在庫消化に伸びしろが残っていることを示唆する。定修スケジュールは各社が事業計画で開示するため、イベント系の需要と違って数年前から読める。この予見可能性こそが、反復需要が一過性需要と決定的に違う点である。
上場REITの側では、これらの工業商圏にすでに投資が入っている。インヴィンシブル投資法人はホテルマイステイズ蘇我(千葉県千葉市、112室、2023年8月取得、取得価格2,039百万円)、アートホテル大分(大分県大分市、228室、2024年7月取得、5,484百万円)、ホテルマイステイズ大分(145室、2018年2月取得、1,604百万円)を保有する。いちごホテルリート投資法人はザ・ワンファイブガーデン倉敷(岡山県倉敷市、107室、2018年8月取得、1,725百万円)を保有。星野リゾート・リート投資法人はコンフォートイン倉敷水島(97室)とコンフォートイン千葉浜野R16(93室)を2014年5月に取得しており、工業商圏の宿泊需要に早くから投資してきた系列といえる。
| 物件 | 保有REIT | 客室数 | 稼働率 | ADR | RevPAR |
|---|---|---|---|---|---|
| ホテルマイステイズ蘇我 | インヴィンシブル投資法人 | 112室 | 90.9% | ¥7,941 | ¥7,220 |
| アートホテル大分 | インヴィンシブル投資法人 | 228室 | 84.0% | ¥7,114 | ¥5,976 |
| ホテルマイステイズ大分 | インヴィンシブル投資法人 | 145室 | 82.4% | ¥6,913 | ¥5,696 |
1室あたり取得価格を見ると、コンフォートイン倉敷水島が¥7.5百万/室(2014年)、ホテルマイステイズ大分が¥11.1百万/室(2018年)、ホテルマイステイズ蘇我が¥18.2百万/室(2023年)、アートホテル大分が¥24.1百万/室(2024年)と、取得年が新しいほど単価が上がっている。工業商圏の業務系ホテルは、10年でおおよそ3倍の取得単価に評価が切り上がったことになる。前掲の新築コスト試算(150室で44.5億円=¥29.7百万/室)と並べると、既存物件の取得が新築に対して依然として合理的なレンジにあることが分かる。
リスク要因 — 水島の集約計画が反復需要に終期を与える
| 要因 | 内容 | 影響度 |
|---|---|---|
| 生産体制の再編 | 旭化成・三井化学・三菱ケミカルの3社は、西日本のエチレン生産を2030年度をめどに大阪地区へ集約することで基本契約を締結。水島地区のプラントは操業を停止する計画で、水島の定修需要には終期がある。 | 高 |
| 定修周期の長期化 | 高圧ガス保安法の認定制度では、スーパー認定事業所で最大8年、新制度のA認定で最長8年の連続運転が可能。周期が延びるほど、1回あたりの需要は大きくなる一方で発生頻度は下がる。 | 中 |
| 原料調達環境 | 2026年はホルムズ海峡の実質封鎖によりナフサ調達が制約され、再稼働の延期が発生した。工事日程そのものは動かないが、前後の稼働計画に不確実性が残る。 | 中 |
| 受け皿の集中 | 大分は5km圏364室と薄く、需要が来た年に取りこぼしが発生しやすい。逆に倉敷のように母集団が大きい商圏では、リフトが希釈されて単価に表れにくい。 | 中 |
| 供給の追随 | 4県の確認申請ベース計画は千葉5件2,164室、岡山2件490室にとどまり、三重・大分は現時点で該当なし。当面の供給圧は限定的だが、確認申請は今後追加され得る。 | 低 |
まとめ — 予見できる需要は、価格設計で取りに行ける
2026年の定修集中は、石化協の月次メモで3月・4月に4基(前年同月0基)と数字で確認できた。その需要が宿泊単価に表れたのは、コンビナート至近に業務系の集積を持つ四日市(2026年3月・前年同月比+45.9%)と、5km圏が364室と薄い大分(1月+21.4%)である。市原は年初に小さな山が出た程度で、倉敷は観光需要と混ざって検出できなかった。
反復需要は、一過性の建設需要と違って「次がいつ来るか」が事前に分かる。だからこそ、新規開発で受け止めるより、既存ストックの価格設計と商品設計で取りに行く方が合理的である。試算では150室のホテルで定修年のGOPが+12.8%(¥122.4百万→¥138.1百万)、4年平均への年換算寄与が+3.9百万円となった。投資額に対する寄与は小さいが、既存資産の運営改善としては十分に意味のある大きさである。
同時に、水島のように2030年度をめどに生産集約が予定されている拠点では、反復需要そのものに終期がある。周期性を前提に投資するのであれば、周期が何回残っているかを併せて数える必要がある。
よくある質問
A. 高圧ガス保安法の認定事業者制度では、認定を受けた事業所は4年間等(大臣に認められた期間)の連続運転が可能で、スーパー認定事業所では最大8年までの自主設定が認められています。実務上は2〜4年周期が一般的で、クラサスケミカル(大分)は自社サイトで「2026年は、4年に1度のエチレンクラッカーの大型定期修理を予定しています」と公表しています。
A. 石油化学工業協会の実績概要メモによると、定修を実施したナフサクラッカーは2026年1月1基、2月2基、3月4基、4月4基、5月2基、6月3基、7月2基でした。前年同月は1〜4月がいずれも0基です。エチレン生産量は3月に272,600トン(前年同月比-38.8%)まで低下しましたが、同協会は減産要因に定修だけでなく原料ナフサ調達難による稼働率変動も含まれると説明しています。
A. 東ソー四日市事業所の定修が実施された2026年3月、四日市市の推定成約ADRは前年同月比+45.9%(¥6,800→¥9,900、N=26施設)でした。コンビナート10km圏・30室以上の19施設に絞ったコンプセット中央値でも+37.2%(¥7,676→¥10,535)です。ただし4月は-10.0%に反転しており、リフトは工期の前半に寄る傾向があります。
A. 大分です。大分コンビナート中心点から5km圏は9施設364室にとどまり、10km圏でも46施設1,636室です。四日市の5km圏50施設3,023室と比べると客室数で8.3倍の差があります。大分駅前の主力ホテル群はコンビナートから13〜15km離れています。
A. 試算では、150室の宿泊特化型ホテルで定修年のGOP増分は+15.7百万円、4年平均への年換算寄与は+3.9百万円です。同規模の新築コストを約44.5億円(建設期間のインフレ織込み後)と置くと、投資額に対する寄与は0.09%にとどまります。定修需要単独で開発を組み立てるのは難しく、既存ストックの価格設計・商品設計で取り込む方が現実的です。
あわせて読みたい
参考資料・出典一覧
■ データソース
本稿の宿泊データは、メトロエンジンリサーチ&コンサルティングが収集・集計した推定成約ADR(市区町村中央値および施設別)、宿泊施設マスター(所在地座標・客室数・開業年)、新規開業データ(OTA掲載確認ベース)にもとづく。ADRの前年同月比は実績基準が揃う月(2026年7月まで)のみを対象とし、将来月の掲載水準にもとづく推定値は前年比の対象から除外している。集計施設数は四日市市 N=25〜26、市原市 N=21〜22、倉敷市 N=42〜43、大分市 N=42〜44。コンプセットは各コンビナート中心点から半径10km圏・30室以上の施設に限定した(四日市 N=19、大分 N=9、市原 N=24、水島 N=32)。定修プラント数・エチレン生産量は石油化学工業協会「実績概要(メモ)」各月版、地価・用途地域は国土交通省 不動産情報ライブラリ、建築計画・着工は国土交通省の建築物動態統計調査および建築物着工統計(e-Stat)、REIT物件の稼働率・ADR・RevPARは各REITが開示する物件別月次運営実績(2026年7月分)による。
■ 試算前提
GOP試算は客室数150室・稼働率75%・GOP率40%・増収分の変動費率20%を固定した単室モデルである。平年ADR ¥7,455は四日市10km圏コンプセットの2025年12ヶ月中央値の平均(N=18〜19)、リフト幅+¥2,859は2026年3月と2025年3月の同コンプセット中央値の差(¥10,535−¥7,676)、継続期間61日は定修工期の目安である約2ヶ月を置いた。稼働率75%は実測値ではなく、定修年・平年で同一に固定して単価変動のみを取り出すための前提である。新築コスト試算の客室25㎡・客室部分比率62%・坪単価220万円・建設期間中のインフレ率(2026年+5.3%、2027年+5.0%)はいずれも当社の想定値であり、出典のある確定値ではない。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは各施設のOTA公開最安プラン水準に業態別補正係数を適用した推計であり、実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%)。市区町村単位の集計は定修需要以外の観光・業務需要も含むため、ADRの変動をすべて定修に帰属させることはできない。2026年の減産はホルムズ海峡の実質封鎖に伴うナフサ調達難も同時に効いており、エチレン生産量の落ち込み幅を定修規模と読むことはできない。客室ストックは当社が把握する範囲の施設に限られ、OTA掲載が確認できない施設は含まれない。確認申請ベースの計画は今後の申請追加により増加し得るため、現時点での下限値である。GOP試算は簡易なものであり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(市区町村中央値および施設別)、宿泊施設マスター(所在地座標・客室数・開業年)、新規開業データ(OTA掲載確認ベース)
■ 業界統計・一次情報
- 石油化学工業協会「実績概要(メモ)」各月版(定修プラント数・エチレン生産量・実質稼働率試算)
- 石油化学工業協会「主要石油化学製品生産実績」
- クラサスケミカル株式会社「次世代石油化学カンパニーとして、持続可能な社会へ貢献する」(2026年の大型定期修理に関する記述)
- 東ソー株式会社「四日市事業所」
- 三井化学「旭化成、三井化学、三菱ケミカル 西日本エチレン生産体制のグリーン化推進に向けた基本契約締結」(2026年1月27日)
- 旭化成「西日本エチレン生産体制のグリーン化推進に向けた基本契約締結」(2026年1月27日)
- レイズネクスト株式会社「メンテナンス事業」(全国4,000社以上の協力会社体制)
- 四日市市「四日市コンビナート先進化検討会 報告書」(平成31年3月)(定期修理問題に関する記述)
- 高圧ガス保安法における「認定制度」とは?(連続運転期間・開放検査周期の整理)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示(2026年)、都市計画決定情報(用途地域)
- 国土交通省「建築物着工統計」(e-Stat 統計表ID: 0003114490、用途「52宿泊業用」)
- 国土交通省「建築物動態統計調査」(宿泊施設の建築計画データ)
- 経済産業省 産業構造審議会 高圧ガス小委員会(高圧ガス保安法の新たな認定制度)
■ REIT・投資ベンチマーク
