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新規開業ホテル2026年10月〜27年3月は14施設2,283室|100室超の全リストと供給インパクト

投稿日 : 2026.09.10

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新規開業・供給

2026年10月から2027年3月にかけて、メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、100室を超える規模のホテルが14施設・合計2,283室開業する。うち11施設・1,580室が新設で、残る3施設・703室は既存施設の再生・改修・リブランドである。建替えや転換で失われる既存客室を差し引いた実質的な純増はおよそ1,591室にとどまる。

特筆すべきは、この供給が入る場所の偏りだ。客室数だけを見れば那覇市の333室や立川市の211室が目立つが、地元の既存客室ストックと比べたときにインパクトが最大になるのは、岡山県備前市(既存比237.9%)、島根県安来市(同149.1%)、青森県六ヶ所村(同147.9%)という、いずれも人口数万人以下の産業立地都市である。本稿では、開業リスト・供給インパクト・ローンチ価格の3点を数字で整理し、供給が入る街で既存ホテルが取りにいける価格帯と客層を検討する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価)=各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格=OTA等に公開されている全プランの平均額(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)。推定成約ADRとは基準が異なるため、本文では区別して表記します。
  • 既存客室ストック=メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、当該市区町村において稼働が確認できる宿泊施設の客室数合計(新規開業施設を除く)。OTA等に未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まれません。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ(OTA掲載確認ベース)/各社公表資料
Key Takeaways
  • 14施設・2,283室が2026年10月〜2027年3月に開業。うち11施設・1,580室が新設で、建替え・転換分を差し引いた実質的な純増は約1,591室。
  • — 供給インパクトが最大なのは大都市ではなく、岡山県備前市(既存ストック比237.9%)・島根県安来市(149.1%)・青森県六ヶ所村(147.9%)の産業立地都市。
  • — ローンチ価格は同一市区町村の推定成約ADR中央値の0.38〜4.23倍と10倍以上の開き。同じ「100室超の新規開業」でも狙う客層が異なる。
  • — 人口9,740人の六ヶ所村に210室が入る根拠は居住人口ではなく就業人口。半径3km圏の従業者8,708人に対し居住人口は3,692人で2.36倍。

14施設2,283室 — ただし純増は約1,591室

まず全体像を押さえたい。対象期間(2026年10月〜2027年3月)に開業する100室超の施設は14。メトロエンジンリサーチが追跡する国内約168,000施設のうち、主要OTA等に掲載されている開業ホテルを抽出したもので、全数調査ではない。OTA等への掲載は開業の数ヶ月前から始まるため、期間後半(特に2027年2月以降)については今後の掲載追加で件数が増える可能性がある点に留意されたい。

月別に積み上げると、開業のピークは2026年10月の5施設・729室。以降は月あたり1〜3施設のペースで推移する。11月・12月は東名阪から離れた地方都市と山岳リゾートが中心となり、年明け以降は既存施設のリブランド・改修再開業がボリュームを占める構図だ。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=14施設)/各社公表資料よりホテルバンク編集部作成

ここで重要なのは「新設」と「既存施設の再生」を分けて数えることである。THE ALPS HOTEL HAKUBA(長野県小谷村・159室)は白馬乗鞍温泉スキー場直結の既存ホテルを全面再生したもので、前身施設は121室だった。ザ グランドキャッスル 那覇 首里城 by ヒューイットリゾート(沖縄県那覇市・333室)は既存の333室ホテルの運営・ブランド変更である。THE NEXTT HOTEL(東京都立川市・211室)は旧パレスホテル立川(238室)を改修して再開業する。これら3件を差し引くと、市場に新たに積み上がる客室は約1,591室という計算になる。

表1:2026年10月〜2027年3月に開業する100室超のホテル14施設一覧(開業予定・所在地・客室数・区分)
開業予定 施設名 所在地 客室数 区分
2026/10/02たびのホテル青森六ヶ所村青森県六ヶ所村210新設
2026/10/15HOTEL AZ 岡山備前店岡山県備前市157新設
2026/10/16スマイルホテル八王子南口駅前東京都八王子市114新設
2026/10リッチモンドホテル八戸スクエア青森県八戸市126新設
2026/10/31東横INN大船駅西口神奈川県鎌倉市122新設
2026/11/01亀の湯 by HATAGO INN熊本県熊本市東区134リブランド開業
2026/11/01スマイルホテルプレミアム鳥取鳥取県鳥取市119新設
2026/11/15たびのホテルlit豊川愛知県豊川市112新設
2026/12/01THE ALPS HOTEL HAKUBA長野県小谷村159既存施設の再生
2026/12/15HOTEL THE MITSUI HAKONE神奈川県箱根町126新設
2026/12/18ソラリア西鉄ホテル大阪本町大阪府大阪市中央区202新設
2027/01/01ザ グランドキャッスル 那覇 首里城 by ヒューイットリゾート沖縄県那覇市333リブランド
2027/01/15HOTEL AZ 島根安来店島根県安来市158新設
2027/03/01THE NEXTT HOTEL東京都立川市211既存施設の改修

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=14施設)/各社公表資料よりホテルバンク編集部作成。開業日は各社公表値を優先。亀の湯 by HATAGO INN は既存施設「つる乃湯」を承継するリブランド開業だが、宿泊客室は新規在庫として集計している。

開業地マップ — 東名阪は3施設、残る11施設は地方都市とリゾート

14施設を地図に落とすと、都市圏集中型ではないことが一目でわかる。三大都市圏に立地するのは大阪市中央区・八王子市・立川市の3施設のみで、残る11施設は地方中核都市、産業集積地、山岳・温泉リゾートに分散している。円の大きさは客室数を示す。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング

供給インパクトは「小さな街」に出る — 備前市は既存ストックの2.4倍

新規開業を評価するとき、客室数の絶対値だけを見ると判断を誤る。202室のソラリア西鉄ホテル大阪本町は、大阪市中央区の既存26,506室(233施設)に対して0.8%の上乗せにすぎない。一方、157室のHOTEL AZ 岡山備前店は、岡山県備前市の既存66室(7施設)に対して237.9%、つまり街の客室在庫が一気に3倍以上になる計算になる。

同じ構図は島根県安来市(HOTEL AZ 島根安来店158室/既存106室・10施設=149.1%)、青森県六ヶ所村(たびのホテル青森六ヶ所村210室/既存142室・2施設=147.9%)にも当てはまる。いずれも既存ストックが旅館・民宿・小規模ビジネスホテル中心で、100室級の宿泊特化型ホテルがそもそも存在しなかった市場である。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=14市区町村)よりホテルバンク編集部作成

表2:市区町村別の新規客室数と既存客室ストックの比較(既存比の降順・14市区町村)
市区町村 開業施設 新規客室 既存客室ストック 既存比
岡山県備前市HOTEL AZ 岡山備前店15766(7施設)237.9%
島根県安来市HOTEL AZ 島根安来店158106(10施設)149.1%
青森県六ヶ所村たびのホテル青森六ヶ所村210142(2施設)147.9%
熊本県熊本市東区亀の湯 by HATAGO INN134394(4施設)34.0%
神奈川県鎌倉市東横INN大船駅西口122834(46施設)14.6%
愛知県豊川市たびのホテルlit豊川112789(10施設)14.2%
長野県小谷村THE ALPS HOTEL HAKUBA1591,183(58施設)13.4%
東京都立川市THE NEXTT HOTEL2111,637(18施設)12.9%
東京都八王子市スマイルホテル八王子南口駅前1141,616(14施設)7.1%
鳥取県鳥取市スマイルホテルプレミアム鳥取1192,124(42施設)5.6%
青森県八戸市リッチモンドホテル八戸スクエア1263,107(42施設)4.1%
沖縄県那覇市ザ グランドキャッスル 那覇 首里城 by ヒューイットリゾート33316,614(227施設)2.0%
神奈川県箱根町HOTEL THE MITSUI HAKONE1266,296(235施設)2.0%
大阪府大阪市中央区ソラリア西鉄ホテル大阪本町20226,506(233施設)0.8%

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)よりホテルバンク編集部作成。既存客室ストックは当該市区町村で稼働が確認できる施設の客室数合計(新規開業施設を除く)。

ただし数字の読み方には注意がいる。ザ グランドキャッスル 那覇 首里城 by ヒューイットリゾートの既存比2.0%、THE NEXTT HOTELの同12.9%は、いずれも既存施設の運営・ブランド変更であるため、市場全体の在庫としては純増しない。THE ALPS HOTEL HAKUBAも前身121室からの再生であり、小谷村への実質的な上乗せは38室相当となる。

逆に、備前市・安来市・六ヶ所村の3市村は、いずれも新設であり、街の宿泊キャパシティが実際に倍増する。既存事業者にとっては、これまで宿泊の選択肢が限られていたために日帰りで済ませていた需要が滞在に変わる可能性と、エリア内の価格帯が再編される可能性が、同時に立ち上がる局面といえる。既存ストック比で供給圧を全国順位付けした新規開業ホテルの供給圧ランキング2026-2027でも、上位を占めるのは大都市ではなく人口規模の小さい市町村だった。

ローンチ価格は市場中央値の0.38〜4.23倍 — 同じ「新規開業」でも狙う客層が違う

次に、開業月の先行掲載情報から算出した推定成約ADRを、同じ市区町村の推定成約ADR中央値と突き合わせた。調査時点(2026年9月)で価格が確認できたのは14施設中6施設で、残り8施設は開業日が先である、あるいは販売開始前であることから価格未掲載である。2027年2月以降のチェックイン日は現時点で掲載自体が始まっていないため、THE NEXTT HOTEL(2027年3月開業)は集計対象外とした。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(N=6施設、市区町村中央値の対象施設数は表に記載)よりホテルバンク編集部作成。縦軸は対数目盛。

表3:開業月のローンチ推定成約ADRと同一市区町村の推定成約ADR中央値との倍率(価格確認済み6施設・未掲載8施設)
施設名 対象月 ローンチ推定成約ADR 同市区町村中央値 倍率
HOTEL AZ 岡山備前店2026年10月¥7,778¥20,327(N=3)0.38倍
東横INN大船駅西口2026年11月¥10,247¥19,936(N=18)0.51倍
たびのホテルlit豊川2026年11月¥10,755¥10,778(N=9)1.00倍
THE ALPS HOTEL HAKUBA2026年12月¥47,502¥13,324(N=6)3.57倍
HOTEL THE MITSUI HAKONE2026年12月¥130,438¥30,844(N=149)4.23倍
HOTEL AZ 島根安来店2027年1月¥7,778¥12,946(N=7)0.60倍
たびのホテル青森六ヶ所村2026年10月調査時点で価格未掲載
スマイルホテル八王子南口駅前2026年10月調査時点で価格未掲載
リッチモンドホテル八戸スクエア2026年10月調査時点で価格未掲載
亀の湯 by HATAGO INN2026年11月調査時点で価格未掲載
スマイルホテルプレミアム鳥取2026年11月調査時点で価格未掲載
ソラリア西鉄ホテル大阪本町2026年12月調査時点で価格未掲載
ザ グランドキャッスル 那覇 首里城 by ヒューイットリゾート2027年01月調査時点で価格未掲載
THE NEXTT HOTEL2027年03月調査時点で価格未掲載

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年8月30日時点の先行掲載情報にもとづく推定値)よりホテルバンク編集部作成

倍率の幅は0.38倍から4.23倍まで、10倍以上の開きがある。同じ「100室超の新規開業」でも、市場に対する構え方はまったく異なる。

高価格帯で市場を引き上げる型。HOTEL THE MITSUI HAKONE(126室)の2026年12月の推定成約ADRは約¥130,400で、箱根町全体の中央値約¥30,800(N=149施設)の4.23倍にあたる。全室に天然温泉を備えた三井不動産グループの最上位ブランドで、箱根の既存価格帯とは重ならないレンジを設定している。THE ALPS HOTEL HAKUBA(159室)も同様で、2026年12月の推定成約ADR約¥47,500は小谷村中央値約¥13,300(N=6施設)の3.57倍。スキー場直結という立地資産を、従来の民宿・ロッジ価格帯ではなくマウンテンリゾート価格帯で売り出す設計だ。

市場中央値に並べる型。たびのホテルlit豊川(112室)の2026年11月の推定成約ADRは約¥10,800で、豊川市中央値約¥10,800(N=9施設)とほぼ同水準の1.00倍。全室に電子レンジ・2ドア冷蔵庫を備え、ミニキッチン付き客室も用意する中長期滞在対応型だが、初期の価格は市場に合わせて入り、稼働を積んでから単価を取りにいく立ち上げ方と読める。当社が182軒の新規開業ホテルを実測したADR回復の分析でも、開業直後の価格が中央値2ヶ月でエリア水準に収れんする傾向が確認されている。

明快な均一料金で別セグメントを取る型。東横INN大船駅西口(122室)はJR大船駅西口から徒歩1分という駅前立地で、シングル約¥9,400からという分かりやすい料金を提示している。掲載価格は2026年11月〜2027年1月を通じて約¥12,000でほぼ一定に保たれており、日並びによる変動が小さい。鎌倉市の中央値(約¥19,900・N=18施設)は観光旅館やリゾート施設が押し上げているため、この施設は観光目的の宿と同じ土俵に並ぶのではなく、価格が読める駅前ビジネス・短期滞在という自らの強みが効くセグメントを取りにいく構えといえる。予算を確定させたい出張者や、鎌倉観光の前泊・後泊需要にとっては選びやすい選択肢が増える。

チェーン統一料金で地方に入る型。HOTEL AZ 岡山備前店とHOTEL AZ 島根安来店は、いずれも最安プラン水準が約¥8,900で揃っており、推定成約ADRも約¥7,800で一致する。全国展開チェーンの統一料金設計をそのまま地方市場に持ち込む形だ。備前市の中央値約¥20,300は対象施設が3施設と少なく、しかも1泊2食付きが標準の旅館・民宿が中心であるため、素泊まり中心のビジネスホテルとは商品性が異なる点は割り引いて読む必要がある。参考までに岡山県全体の推定成約ADR中央値は2026年10月で約¥11,600(N=180施設)、島根県は2027年1月で約¥12,200(N=135施設)である。

人口9,740人の六ヶ所村に210室 — 産業立地型の宿泊需要をどう読むか

今回のリストで最も説明を要するのが、青森県六ヶ所村の210室である。六ヶ所村の人口は9,740人(2026年8月1日現在)。人口1万人未満の自治体に、既存の宿泊在庫142室(2施設)を上回る規模のホテルが入る。観光地でもなければ県庁所在地でもない。

答えは居住人口ではなく就業人口にある。総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)にもとづくと、当該ホテル立地の半径3km圏には事業所275・従業者8,708人が集計される。一方、国土交通省 国土数値情報の250mメッシュ別推計では、同じ半径3km圏の居住人口は3,692人(2025年推計)にとどまる。従業者数を居住人口で割ると2.36となり、住んでいる人の2倍以上が働きに来ている計算だ。

年齢構成も特徴的である。同圏内の生産年齢人口比率は77.6%で、比較した他の4エリア(54.2〜61.1%)を大きく上回る。高齢化率は11.8%と全国平均を大きく下回る。これは典型的な産業立地型の人口プロファイルであり、地域の「暮らし」ではなく「仕事」が人を集めていることを示す。

出典:総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)、国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)よりホテルバンク編集部作成。六ヶ所村は経済センサス小地域の該当区画が1区画のみで、農山漁村部では区画が粗くなる点に留意。

六ヶ所村には日本原燃の再処理施設・ウラン濃縮工場・MOX燃料工場、国家石油備蓄基地、量子科学技術研究開発機構の六ヶ所フュージョンエネルギー研究所(国際核融合エネルギー研究センター)が集積する。運営するサンフロンティアホテルマネジメントは公表資料の中で、国内外から研究者・技術者・工事関係者が訪れる一方で、宿泊の受け皿が限られていた、と開業理由を説明している。全室に洗濯機・電子レンジ・2ドア冷蔵庫を備え、ミニキッチン付き客室も用意する仕様は、数日単位の出張ではなく数週間から数ヶ月の常駐を前提とした設計である。

居住人口の分布を250mメッシュで描くと、この立地の性格がより明確になる。半径3km圏内で居住人口が計上されるメッシュは45セルにとどまり、大半は無人の産業用地・保安林・海岸線である。人が住んでいない場所に、人が働きに来る。宿泊需要はその移動から生まれる。

出典: 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口・R6国政局推計)。居住人口(国勢調査ベース)であり、滞在人口・通過人口ではありません。

同じ読み筋は他の2市にも当てはまる。島根県安来市は日立金属を前身とするプロテリアル安来工場を擁する特殊鋼の街で、半径3km圏の事業所716・従業者9,378人に対し、オフィス系従業者は5.4%にとどまる。製造・建設が主体の就業構造だ。日本経済新聞の報道によれば、HOTEL AZ 島根安来店は同社の山陰初出店で、周辺の工場立地に伴うビジネス・工事関係の宿泊需要を見込んでいる。岡山県備前市も半径3km圏の従業者7,552人に対しオフィス系は1.7%と、耐火煉瓦・窯業を軸とした産業集積地である。

産業立地型の宿泊需要には、観光需要と異なる3つの性質がある。第一に、平日集中型で週末が弱い。第二に、プロジェクト期間に連動するため、工事や定期検査のスケジュールで需要の山谷が読みやすい。第三に、滞在が長期化しやすく、1泊単価より月あたりの総額と客室の生活機能(洗濯・調理・収納)が選定基準になる。今回の3施設がいずれも中長期滞在対応の設備を備えているのは、この需要構造への回答といえる。工事フェーズの宿泊需要をプロジェクト側から数えたデータセンター建設の宿泊需要の試算も、規模感を掴むうえで併せて参照したい。

供給が入る街で、既存ホテルが取りにいける価格帯と客層

ここまでの数字を、既存事業者の打ち手に翻訳したい。

①「街の在庫が倍増する」市場では、価格ではなく用途で差をつける余地が広がる。備前市・安来市・六ヶ所村のように既存ストックが100室前後しかなかった市場では、これまで宿泊需要の一部が近隣都市(岡山市・米子市・三沢市・八戸市など)に流出していた可能性が高い。新規開業は競合であると同時に、その街に「泊まる」という選択肢を市場に認知させる装置でもある。既存の旅館・民宿にとっては、100室級の宿泊特化型とは商品性が異なる領域 — 1泊2食の食事提供、家族・グループ単位の1棟利用、地元食材を使った夕食 — に商品を寄せることで、新規開業とは異なる棚を確保できる。実際、備前市の既存施設の推定成約ADR中央値(約¥20,300)は新規開業のローンチ水準(約¥7,800)の2.6倍にあたり、両者は同じ価格帯で正面から競合する関係にはない。

②産業立地型市場では、長期滞在の「月額換算」で勝負の土俵が決まる。工事・定期検査・研究常駐といった需要は、1泊単価より30泊あたりの総額で比較される。既存施設が新規開業に対して打てる手は、連泊割引の設計、清掃頻度を選べるプラン、洗濯・調理設備の後付け、駐車場の確保といった運用面の整備である。単価を下げずに滞在価値を上げる方向であり、これはレベニュー面でもアップサイドが大きい。

③高価格帯の新規開業は、周辺の中価格帯にとって追い風になりうる。箱根町ではHOTEL THE MITSUI HAKONEが町の中央値の4.23倍の水準で参入する。小谷村ではTHE ALPS HOTEL HAKUBAが3.57倍。こうした施設は、そのエリアの価格上限を引き上げ、比較対象の基準点をずらす効果を持つ。エリア全体の商品グレードが引き上げられるなかで、既存の中価格帯施設は「同じ地域でこの価格ならお得」という相対的な訴求力を得る。箱根町では宿泊税350円の条例案も動いており、価格改定のタイミングを設計するうえで押さえておきたい論点である。

④都市部の新規開業は、既存の稼働より客層構成に効く。大阪市中央区の202室は既存ストックの0.8%にすぎず、需給バランスへの影響は限定的である。むしろ本町駅直結の複合施設内という立地と、ミニキッチン・洗濯機を備えた連泊対応客室という商品設計から、都心の中長期滞在需要という比較的新しい棚を掘りにいく施設と読める。都心の既存ホテルにとっては、稼働率の心配より、連泊・法人月極需要をどう囲い込むかという競争軸が一段上がる局面といえる。愛知県では西三河エリアの価格帯分析でも同様の構造が確認されている。

⑤リブランド案件は「供給増」ではなく「商品入れ替え」として読む。那覇市・立川市・小谷村の3件は、既存施設の運営者交代やブランド変更である。客室数が市場に上乗せされるわけではないが、価格帯・客層・販売チャネルが変わる。同一エリアの既存施設にとっては、これまでの競合の位置が動く出来事であり、自社のポジションを取り直す機会になる。熊本市でも供給増局面が続いており、供給と推定成約ADRの関係を継続的に確認しておきたい。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年10月以降のADRは、調査時点(2026年8月30日集計分)でOTA等に公開されている販売価格にもとづく推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。新規開業施設は開業前に一部プランのみを掲載しているケースが多く、開業後にプラン数が増えることで水準が動く可能性があります。また、開業月・客室数・施設名はいずれも各社公表時点の情報であり、今後変更される場合があります。

集計方法と出典

■ データソース

開業施設の抽出は、メトロエンジンリサーチが追跡する国内約168,000施設のうち、主要OTA等に掲載され、開業日が2026年10月1日〜2027年3月31日、客室数100室以上の施設を対象とした。抽出後、各社公表資料(プレスリリース・公式サイト・報道)で施設名・客室数・開業日・所在地を照合し、相違がある場合は各社公表値を採用している。周辺の就業・居住データは公的統計(経済センサス、国土数値情報)による。

■ 試算前提

既存客室ストックは、当該市区町村で稼働が確認できる宿泊施設の客室数合計(新規開業施設を除く)である。推定成約ADRは、各施設がOTA等で公開する最安プラン水準に業態別の補正係数を適用して算出した推定値で、2026年8月30日時点の先行掲載情報にもとづく。市区町村単位の中央値は対象施設数(N)を表中に併記した。

■ 限界・留意点

全数調査ではなく、OTA等に未掲載の施設や、調査時点で掲載が始まっていない施設は含まれない。客室数が登録されていない施設は0室として扱っているため、既存客室ストックは実際の在庫よりやや小さく出る可能性がある。2026年10月以降のADRは調査時点で公開されている将来日程の販売価格にもとづく推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動する。開業月・客室数・施設名はいずれも各社公表時点の情報である。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ 市場データ

■ 政府統計・公的データ

■ 各社公表資料・プレスリリース

新規開業ホテル2026年10月〜27年3月は14施設2,283室|100室超の全リストと供給インパクト

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