客室稼働率(OCC)はホテル経営でもっとも頻繁に使われる指標でありながら、「どの数字と比べればよいのか」で最も誤解が生まれる指標でもある。観光庁が公表する全国平均、投資法人が開示する運営実績、そして宿泊予約サイト上の在庫消化から推定される数値は、いずれも「稼働率」と呼ばれるが、母集団も分母も別物である。本稿では計算式の定義から出発し、2026年6月時点の公式基準値、定員稼働率との違い、業態・規模・地域による水準差、そして自館の損益分岐稼働率の逆算までを一本の記事として整理する。
本記事における指標の定義
- 客室稼働率(観光庁定義):販売客室数 ÷ 販売可能客室数 × 100。観光庁「宿泊旅行統計調査」における公式の集計定義。
- 定員稼働率(観光庁定義):延べ宿泊者数 ÷(宿泊者収容人数 × 日数)× 100。
- 推定OCC(OTA掲載在庫ベース・推定):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。宿泊予約サイト上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約6.6%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- RevPAR:ADR × 客室稼働率。販売可能客室1室あたりの宿泊売上。
- データ出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」、メトロエンジンリサーチ
- — 客室稼働率=販売客室数 ÷ 販売可能客室数 × 100。「人」を数える定員稼働率は別指標で、2026年5月の全国は61.0%対40.0%(観光庁 第2次速報値)。
- — 2026年6月の全国平均は56.2%。業態別ではビジネスホテル70.9%、シティホテル69.1%、旅館35.3%で、最大35.6ポイントの開きがある(観光庁 第1次速報値)。
- — 規模でも水準は変わる。客室数1〜19室は27.8%、200室以上は74.5%(2026年5月・第2次速報値)。平均値との比較は同一業態・同一規模帯で行う。
- — 公式統計とOTA在庫消化率は母集団も分母も別物。2026年5月は61.0%対88.2%と27.2ポイント離れるが、47都道府県の順位相関は0.638で相対比較には使える。
- — 損益分岐は業界平均でなく自館の固定費と単価から逆算する。120室・ADR12,000円・年間固定費2億4,000万円の簡易試算では58.2%。
客室稼働率の計算式 — 分母は「客室数 × 日数」
客室稼働率の定義式はきわめて単純である。
客室稼働率(%) = 販売客室数 ÷ 販売可能客室数 × 100
販売可能客室数 = 総客室数 × 対象期間の日数
ここで実務上つまずきやすいのは分母である。販売可能客室数は「その月に売ろうとした部屋数」ではなく「物理的に存在する客室数 × 日数」で置くのが観光庁の集計上の考え方であり、改装で止めた部屋も、予約サイトに載せなかった部屋も、原則として分母に含まれる。100室の施設が30日間営業すれば、分母は3,000室である。このうち1,800室が売れれば稼働率は60.0%となる。
したがって、館内の一部を長期改装で閉鎖している月に「稼働している客室だけを分母にした稼働率」を社内で使っていると、外部統計と並べた瞬間に数字が合わなくなる。自館の数値を業界平均と比較するときは、まず分母の置き方をそろえる必要がある。この分母の違いは、後述する予約サイト在庫ベースの推定値との乖離の根本原因でもある。
定員稼働率との違い — 同じ月・同じ母集団で61.0%と40.0%
もう一つの稼働率が定員稼働率である。こちらは部屋ではなく「人」を数える。
定員稼働率(%) = 延べ宿泊者数 ÷(宿泊者収容人数 × 日数)× 100
宿泊者収容人数 = 全客室の定員合計(例:ツイン50室で定員100名)
両者は同じ調査・同じ母集団から算出されるにもかかわらず、水準は大きく異なる。観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月分(第2次速報値)では、全国の客室稼働率が61.0%であるのに対し、定員稼働率は40.0%だった。21.0ポイントの差は、客室が「売れている」ことと、その客室の定員が「埋まっている」ことが別問題であることを示す。
| 項目 | 客室稼働率 | 定員稼働率 |
|---|---|---|
| 分子 | 販売客室数(室) | 延べ宿泊者数(人泊) |
| 分母 | 総客室数 × 日数 | 収容人数 × 日数 |
| 全国値(2026年5月) | 61.0% | 40.0% |
| 上がりやすい業態 | 1〜2名利用が中心の宿泊特化型 | 定員いっぱいで使われる施設 |
| 主な用途 | RevPAR・客室収益の設計 | 食事・館内消費・人員配置の設計 |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月分(第2次速報値)よりホテルバンク編集部作成
この差は業態によって大きく変わる。ビジネスホテルは客室稼働率74.5%に対し定員稼働率60.5%(比率81.2%)で両者が近い。1室1名利用が多く、定員2名の部屋を1名で使っても客室は「1室売れた」と数えられるためだ。一方で旅館は、同じ2026年5月分(第2次速報値)で客室稼働率41.5%に対し定員稼働率24.4%(比率58.8%)と開きが大きい。定員4〜5名の和室を2〜3名で使うケースが多く、客室が売れても定員は埋まりきらない構造になっている。
実務上の意味は明快である。食材原価や配膳人員、大浴場の混雑設計は人数で決まるため、これらを客室稼働率だけで組むと過大に構えることになる。逆に客室清掃の人繰りや客室単価の設計は室数で決まる。両方を持っておくと、同じ月の数字から異なる打ち手が見えてくる。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月分(第2次速報値)よりホテルバンク編集部作成
2026年6月の基準値 — 全国56.2%、業態別では35.3%〜70.9%
自館の稼働率を評価するとき、最初に置くべき基準線が全国平均である。観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年6月分(第1次速報値、2026年7月31日公表)によると、全国の客室稼働率は56.2%だった。同月の延べ宿泊者数は46,775,820人泊(4,678万人泊)、うち外国人延べ宿泊者数は12,512,800人泊(1,251万人泊)である。前年同月(2025年6月:50,043,220人泊、外国人14,206,900人泊)と比べると、延べ宿泊者数は−6.5%、外国人延べ宿泊者数は−11.9%となる。
ただしこの前年同月比には注意が必要だ。同調査は2026年1月分から層化変数を「従業者数」から「客室数」へ変更しており、観光庁自身が推移表で「対前年(同月)比、対前年(同月)差については、見直しの影響が含まれている可能性がある点に留意」と明記している。2026年の数値と2025年以前の数値を並べる際は、この断層を織り込んで読む必要がある。
全国平均56.2%という数字だけを見て「自館は70%あるから優秀だ」と判断するのは早い。この平均には、稼働率が構造的に低く出る簡易宿所や会社・団体の宿泊所、そして定員稼働率の項で見た旅館が大量に含まれているからである。業態別に分解すると、同じ2026年6月でビジネスホテル70.9%、シティホテル69.1%、リゾートホテル50.4%、旅館35.3%、会社・団体の宿泊所27.8%、簡易宿所23.0%と、最大で47.9ポイントの開きがある。この全国56.2%という水準を「客室1室あたり何人が泊まっているか」の側から分解した分析は、2026年6月の稼働率56.2% — 「客室1室あたり宿泊者数」で読む47都道府県の需給余地で扱っている。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年6月分(第1次速報値)・2025年6月分よりホテルバンク編集部作成
前年同月と比べると、下げ幅が大きいのはシティホテル(72.5%→69.1%、−3.4ポイント)と簡易宿所(28.2%→23.0%、−5.2ポイント)である。外国人延べ宿泊者数が−11.9%となった月であり、訪日需要への依存度が高い業態ほど影響が数字に出た形といえる。一方で旅館は35.0%→35.3%とわずかに上向き、会社・団体の宿泊所は23.0%→27.8%と伸びた。全国平均という一本の線の裏側で、業態ごとに異なる動きが同時に起きている。
月次の推移で見ると、季節性の形そのものは年によって大きくは変わらない。1月に落ち、3月と5月に山を作り、6月にいったん谷、8月と10〜11月に再び山が立つ。この形を把握しておくと、単月の数字が「季節どおり」なのか「季節を超えた変化」なのかを切り分けられる。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」推移表・2026年6月分(第1次速報値)よりホテルバンク編集部作成。2026年1〜5月は第2次速報値、6月は第1次速報値。2026年1月分から層化基準を変更。
規模と地域で変わる水準 — 1〜19室は27.8%、200室以上は74.5%
業態と並んで水準を大きく左右するのが施設規模である。2026年5月分(第2次速報値)を客室規模別に見ると、客室数1〜19室の施設は客室稼働率27.8%、20〜39室は47.1%、40〜99室は63.3%、100〜199室は73.0%、200室以上は74.5%となっている。小規模施設と大規模施設の差は46.7ポイントに達する。
| 客室規模 | 客室稼働率 | 定員稼働率 | 定員/客室 比率 |
|---|---|---|---|
| 1〜19室 | 27.8% | 16.5% | 59.4% |
| 20〜39室 | 47.1% | 28.2% | 59.9% |
| 40〜99室 | 63.3% | 42.7% | 67.5% |
| 100〜199室 | 73.0% | 56.9% | 78.0% |
| 200室以上 | 74.5% | 58.0% | 77.9% |
| 全国計 | 61.0% | 40.0% | 65.6% |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月分(第2次速報値)第6表・第8表よりホテルバンク編集部作成
規模が大きいほど稼働率が高く出る背景には、大規模施設ほど都市部・交通結節点に立地しやすく、法人契約や団体需要といった需要の底が厚いという構造がある。したがって20室の宿が全国平均61.0%と自館を比べても、比較対象として適切とはいえない。同じ規模帯・同じ業態・同じ商圏の水準を基準線に置くことが、稼働率を経営指標として使う際の出発点になる。
地域差も大きい。2026年5月分の都道府県別客室稼働率は、東京都77.9%を筆頭に大阪府72.8%、京都府72.0%、福岡県71.7%と続く。下位は長野県40.9%、新潟県43.9%、山形県46.4%で、上位と下位の差は37.0ポイントである。ただしこの序列は「需要の強さ」だけを表すものではない。長野県や新潟県は小規模旅館・ペンションの構成比が高く、前述した規模別・業態別の構造がそのまま県平均に反映されている面が大きい。都道府県と業態を掛け合わせたときに単価の動きがどこまで割れるかは、2026年上期・47都道府県×4業態のADR前年比 — 符号が揃った16県、割れた31県が参考になる。
| 都道府県 | 客室稼働率 (観光庁) | 定員稼働率 (観光庁) | 参考:推定OCC (OTA掲載在庫ベース) | 推定対象 客室数 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 77.9% | 62.8% | 94.7% | 182,095 |
| 大阪府 | 72.8% | 58.9% | 88.0% | 110,702 |
| 京都府 | 72.0% | 50.9% | 92.0% | 54,146 |
| 福岡県 | 71.7% | 56.7% | 91.3% | 54,616 |
| 埼玉県 | 68.3% | 45.3% | 90.2% | 17,388 |
| 千葉県 | 67.4% | 43.8% | 91.0% | 48,892 |
| 広島県 | 67.4% | 46.3% | 89.8% | 26,648 |
| 富山県 | 66.6% | 40.6% | 86.9% | 12,721 |
| 石川県 | 66.4% | 44.3% | 85.5% | 19,719 |
| 神奈川県 | 66.1% | 38.9% | 88.6% | 48,658 |
| …(中略)… | ||||
| 鳥取県 | 49.3% | 28.7% | 86.9% | 8,247 |
| 山梨県 | 46.7% | 28.4% | 86.6% | 15,603 |
| 山形県 | 46.4% | 23.0% | 86.2% | 11,760 |
| 新潟県 | 43.9% | 23.5% | 85.4% | 24,869 |
| 長野県 | 40.9% | 23.5% | 87.8% | 37,132 |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月分(第2次速報値)/メトロエンジンリサーチ(2026年5月、全国47都道府県 N=22,212施設・1,351,342室)よりホテルバンク編集部作成。左2列と右2列は母集団・定義が異なるため水準の直接比較はできません。
公式統計のOCCとOTA在庫消化率は別物 — 水準を混ぜてはいけない
前掲の表で、同じ2026年5月でありながら観光庁の客室稼働率と推定OCCが大きく離れていることに気づいた方も多いはずだ。全国で見ると、観光庁の客室稼働率は61.0%、メトロエンジンリサーチの推定OCC(客室数加重平均)は88.2%で、27.2ポイントの差がある。これは片方が誤っているのではなく、母集団も分母も定義も別物であることによる、当然の差である。
| 項目 | 観光庁 客室稼働率 | 推定OCC(OTA掲載在庫ベース) | 投資法人が開示する運営実績 |
|---|---|---|---|
| 母集団 | 全国の宿泊施設(旅館・簡易宿所・会社団体の宿泊所を含む層化抽出) | OTA上で稼働が確認できる施設のみ | 当該投資法人の保有物件のみ |
| 分母 | 総客室数 × 日数(未販売分・改装中も含む) | エリア内の総客室数(OTA販売在庫に基づく推定) | 物件の総客室数 × 日数 |
| 分子 | 実際に販売された客室数(調査票回答) | 販売済みと推定される客室数 | 実際の成約客室数(会計実績) |
| 公表の速さ | 翌月末に第1次速報(第2次速報は翌々月末) | 日次で更新、将来日程も観測可能 | 翌月下旬に月次開示 |
| 2026年の実測値 | 全国 61.0%(5月)/56.2%(6月) | 全国 88.2%(5月・客室数加重) | 82.2%(6月・国内ホテル103物件) |
| 向く用途 | 長期トレンド、業態・地域の構造比較 | 直近〜将来の需要把握、日別の値決め | 都市型運営の実績ベンチマーク |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」/メトロエンジンリサーチ/インヴィンシブル投資法人「2026年6月度 月次運営状況」よりホテルバンク編集部作成
3列目に挙げたのは投資法人の開示値である。インヴィンシブル投資法人が公表した2026年6月度の国内ホテル103物件の稼働率は82.2%、ADRは12,306円、RevPARは10,118円だった(前年同月比:稼働率−0.9ポイント、ADR−5.0%、RevPAR−6.0%)。同月の観光庁のビジネスホテル70.9%・シティホテル69.1%を上回るが、これも母集団が「都市型の運営物件に絞られている」ことによる差であり、優劣を示すものではない。
では推定OCCは使えないのかというと、そうではない。全国47都道府県について、観光庁の客室稼働率(2026年5月)と推定OCC(同月)の順位相関を取ると、スピアマンの順位相関係数は0.638となる。水準は27.2ポイント離れているが、「どの県が相対的に強いか」という序列は概ね連動している。つまり水準を混ぜて語ることはできないが、相対比較の材料としては機能する。加えて推定OCCは将来日程まで観測できるため、公式統計が届かない「これから先の需要」を読む用途で補完的な価値を持つ。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月分(第2次速報値)/メトロエンジンリサーチ(2026年5月、N=22,212施設・1,351,342室)よりホテルバンク編集部作成
散布図で外れやすいのは、青森県(観光庁55.1%に対し推定OCC 90.1%)や長野県(40.9%に対し87.8%)のように、小規模施設の構成比が高い県である。観光庁の集計にはOTAに掲載していない小規模旅館・民宿・簡易宿所が分母として含まれる一方、推定OCCの対象はOTA上で稼働が確認できる施設に限られるため、この構成差がそのまま乖離幅に現れる。地域を横断して数字を並べるときは、この点を注記なしに済ませないことが重要である。
損益分岐OCCを逆算する — ADR12,000円なら58.2%が分岐点
稼働率を経営指標として使う最終形は、「自館は何%で回るのか」という損益分岐稼働率の把握である。ここでは宿泊特化型ホテルを想定した簡易モデルで逆算の手順を示す。実際の水準は施設ごとに大きく異なるため、以下はあくまで計算の型として参照いただきたい。
■ 試算前提
- 客室数 120室、年間365日営業 → 販売可能客室数 43,800室
- ADR 12,000円(税抜相当)。2026年6月の推定成約ADRは東京都のビジネスホテルで約11,900円、福岡県で約10,000円、北海道で約9,500円、愛知県で約7,300円。またインヴィンシブル投資法人が開示した同月の国内ホテル103物件のADRは約12,300円であり、都市部の宿泊特化型としてこの水準を置いた
- 宿泊以外の売上(朝食・自動販売機等)=客室売上の12%
- 変動費率=売上の30%(送客手数料・リネン・アメニティ・変動人件費等)
- 年間固定費=2億4,000万円(固定人件費・賃借料・水道光熱の基本料・管理費・保険等)。感度分析として2億円・2億8,000万円も併記
- 減価償却費・支払利息・税金は含まない(営業段階での分岐点)
計算式は以下のとおりである。
損益分岐OCC = 年間固定費 ÷(販売可能客室数 × ADR × (1+宿泊以外売上比率) × (1−変動費率))
= 240,000,000 ÷(43,800 × 12,000 × 1.12 × 0.70)= 58.2%
この前提では、損益分岐となる稼働率は58.2%、そのときのRevPARは約7,000円である。ここで冒頭の全国平均を思い出したい。2026年6月の全国客室稼働率は56.2%だった。仮にこのモデルの施設が全国平均どおりの稼働で1年を回したとすると、営業損益は約−840万円となる。逆に同月のビジネスホテル平均70.9%で回れば約+5,220万円である。14.7ポイントの稼働差が、6,000万円規模の営業損益差として現れる。
もう一つの読み方が、稼働を所与としたときの必要ADRである。2026年6月の全国平均である稼働率56.2%のまま分岐点に到達するには、ADRは約12,400円が必要になる。同月のビジネスホテル平均である稼働率70.9%であれば必要ADRは約9,900円まで下がる。稼働と単価はどちらか一方で解く問題ではなく、この2本の線が交わる点で経営が成立しているかを確認する作業になる。関連して、開発段階で必要となる成立ADRの逆算については政策金利1.00%とホテル開発 — 主要8商圏の「成立ADR」を逆算するでも扱っている。
| ADR | 固定費2.0億円 | 固定費2.4億円 | 固定費2.8億円 |
|---|---|---|---|
| 8,000円 | 72.8% | 87.4% | 101.9% |
| 10,000円 | 58.2% | 69.9% | 81.5% |
| 12,000円 | 48.5% | 58.2% | 67.9% |
| 14,000円 | 41.6% | 49.9% | 58.2% |
| 16,000円 | 36.4% | 43.7% | 51.0% |
| 18,000円 | 32.4% | 38.8% | 45.3% |
| 20,000円 | 29.1% | 34.9% | 40.8% |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(上記「■ 試算前提」に基づく簡易試算)
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(上記「■ 試算前提」に基づく簡易試算)
表を縦に読むと、固定費が4,000万円増えるだけで損益分岐OCCは約10ポイント跳ね上がることがわかる。ADR12,000円の列では48.5%→58.2%→67.9%である。人件費や賃借料の上昇局面において、稼働率の目標値そのものを据え置いたまま計画を組むと、達成しても利益が残らない設計になりうる。固定費が動いたら分岐点も引き直す、というのが実務上の要点になる。
横に読めば、ADRを2,000円引き上げるごとに損益分岐OCCは下がるが、下げ幅は低単価帯ほど大きい。固定費2.4億円の行では8,000円→10,000円で17.5ポイント、12,000円→14,000円で8.3ポイント、16,000円→18,000円では4.9ポイントの低下にとどまる。単価を上げれば必要な稼働率は下がるが、単価を上げれば需要も動くため、両者は独立ではない。ここで役立つのが、日別・リードタイム別の在庫消化の観測である。どの日程が単価を積める日で、どの日程が稼働を優先すべき日かを分けられれば、年間平均の稼働率とADRを同時に押し上げる余地が生まれる。この考え方についてはRevPARとは Revenue per available roomおよびホテルの収益最大化に活用したい9つのKPI(重要業績評価指標)とは?も参照されたい。
業態別の実測水準を同じモデルに入れ替える — 3区分の換算と5×5グリッド
前節の損益分岐OCCは「何%で回るか」を求める式だった。ここでは同じ簡易モデル(120室・年間販売可能客室数43,800室・宿泊以外売上12%・変動費率30%・年間固定費2億4,000万円)の稼働率と単価に、本稿でここまで扱った実測水準をそのまま当てはめ、年間の営業損益とRevPARに換算する。新しい需要予測は置いていない — 前節の式に、観光庁が2026年6月に公表した業態別の水準と、前節の感度分析ですでに用いたADR5水準を代入した単位換算である。3区分の名称は幅を示すためのもので、発生確率の重みづけは含まない。
| 区分 | 当てはめた稼働水準 | RevPAR | 年間営業損益 |
|---|---|---|---|
| 悲観 | リゾートホテル 50.4% | 6,048円 | −3,232万円 |
| 中位 | 全国平均 56.2% | 6,744円 | −842万円 |
| 楽観 | ビジネスホテル 70.9% | 8,508円 | +5,216万円 |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年6月分(第1次速報値)、ホテルバンク編集部より作成(上記「■ 試算前提」に基づく簡易試算)
中位に置いた全国平均の水準では年間−842万円、楽観に置いたビジネスホテルの水準では+5,216万円で、その差は約6,058万円である。稼働率の1ポイントは、このモデルでは年間438室にあたり、ADR12,000円なら総売上で約589万円、変動費控除後の営業損益で約412万円に相当する。
| 当てはめた稼働水準 | ADR8,000円 | ADR10,000円 | ADR12,000円 | ADR14,000円 | ADR16,000円 |
|---|---|---|---|---|---|
| 旅館 35.3% | −14,303万円 | −11,878万円 | −9,454万円 | −7,030万円 | −4,605万円 |
| リゾートホテル 50.4% | −10,154万円 | −6,693万円 | −3,232万円 | +230万円 | +3,691万円 |
| 全国平均 56.2% | −8,561万円 | −4,701万円 | −842万円 | +3,018万円 | +6,878万円 |
| シティホテル 69.1% | −5,017万円 | −272万円 | +4,474万円 | +9,220万円 | +13,965万円 |
| ビジネスホテル 70.9% | −4,523万円 | +346万円 | +5,216万円 | +10,085万円 | +14,954万円 |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年6月分(第1次速報値)、ホテルバンク編集部より作成(上記「■ 試算前提」に基づく簡易試算。予測ではなく単位換算)
25セルのうち黒字は11セルである。横に読むと、単価を8,000円から16,000円へ2倍にしても、旅館の水準(35.3%)では全列が赤字のままで、この稼働水準で黒字に到達するには単価が約19,800円必要になる。縦に読むと、ADR12,000円の列では35.6ポイントの稼働差が年間約14,670万円の営業損益差として現れる。単価と稼働のどちらか一方だけでは埋まらないというのが、業態間の水準差をこのモデルに通したときの含意である。ただしこれは全国・業態平均を1施設のモデルに当てはめた換算であり、実際の水準は立地・契約形態・固定費構造で大きく変わる。
実務での使い方と、よくある取り違え
ここまでを踏まえ、客室稼働率を実務で使う際の要点を4つに整理する。
第一に、比較対象は「同じ業態・同じ規模帯・同じ商圏」でそろえる。全国平均56.2%は業態と規模の混合物であり、150室の都市型ビジネスホテルにとっての基準線ではない。同じ2026年6月でもビジネスホテルは70.9%であり、この14.7ポイントの差は実力差ではなく母集団の差である。
第二に、客室稼働率と定員稼働率を用途で使い分ける。室数で決まるコスト(客室清掃、リネン、客室単価設計)は客室稼働率、人数で決まるコスト(食材、配膳人員、朝食会場のキャパシティ)は定員稼働率で組む。旅館業態のように両者の比率が58.8%まで開く場合、片方だけで計画すると人員も原価も実態からずれる。業態別の宿泊者構成についてはシティホテル宿泊の45.9%は訪日客 — 業態別インバウンド比率と旅館の+3.7%で詳しく扱っている。
第三に、速報値は改定されることを前提に読む。本稿で用いた2026年6月の全国56.2%は第1次速報値であり、後日公表される第2次速報値で改定される可能性がある。速報値をもとに社内の意思決定を行う場合は、月次で数値を更新する運用にしておくのが安全である。
第四に、稼働率単独では判断しない。稼働率は、上げようと思えば単価を下げるだけで容易に上がる。90%の稼働率が95%の稼働率より収益的に優れているケースは珍しくない。ADRとの積であるRevPAR、さらに販売コストを差し引いた実質的な収益で見る習慣を持つことで、稼働率という指標は初めて経営判断に耐える。低価格帯の供給構造については簡易宿所29.6%が映す低価格帯の成長余地|2025年確定値と供給構造もあわせて参照されたい。
よくある質問
Q. 客室稼働率の計算式は?
A. 販売客室数 ÷ 販売可能客室数 × 100 です。販売可能客室数は「総客室数 × 対象期間の日数」で置きます。100室の施設が30日間営業した場合の分母は3,000室となり、そのうち1,800室が販売されれば稼働率は60.0%です。改装で閉鎖している客室や予約サイトに掲載していない客室も、原則として分母に含めます。
Q. 客室稼働率と定員稼働率は何が違うのですか?
A. 客室稼働率は「室」を数え、定員稼働率は「人」を数えます。定員稼働率=延べ宿泊者数 ÷(宿泊者収容人数 × 日数)× 100 です。観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年5月分(第2次速報値)では、全国の客室稼働率61.0%に対し定員稼働率は40.0%でした。定員4〜5名の和室が中心の旅館では客室稼働率41.5%・定員稼働率24.4%と差が開き、1〜2名利用が中心のビジネスホテルでは74.5%・60.5%と両者が近づきます。
Q. ホテルの客室稼働率の全国平均は何%ですか?
A. 観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年6月分(第1次速報値、2026年7月31日公表)によると全国平均は56.2%です。業態別ではビジネスホテル70.9%、シティホテル69.1%、リゾートホテル50.4%、旅館35.3%、会社・団体の宿泊所27.8%、簡易宿所23.0%となっています。全国平均はこれらの混合値であるため、自館との比較には同一業態の数値を使うことをおすすめします。
Q. 客室稼働率は何%あれば黒字になりますか?
A. 施設の固定費とADRによって大きく変わります。本稿の簡易試算(120室・ADR12,000円・宿泊以外売上12%・変動費率30%・年間固定費2億4,000万円)では損益分岐OCCは58.2%でした。同じ条件で固定費が2億円なら48.5%、2億8,000万円なら67.9%となります。ADRが10,000円に下がれば69.9%が必要です。稼働率の目標値は固定費と単価から逆算して設定するものであり、業界平均をそのまま目標にするものではありません。
Q. 予約サイトの在庫から推定した稼働率と、観光庁の客室稼働率が大きく違うのはなぜですか?
A. 母集団と分母が異なるためです。観光庁の統計は全国の宿泊施設(旅館・簡易宿所・会社団体の宿泊所を含む)を層化抽出し、未販売分や改装中の客室も分母に含めます。一方で推定OCCはOTA上で稼働が確認できる施設に限定した推定値です。2026年5月時点で全国の客室稼働率が61.0%、メトロエンジンリサーチの推定OCC(客室数加重)が88.2%と27.2ポイント離れるのはこのためで、どちらかが誤っているわけではありません。ただし47都道府県の順位相関は0.638あり、水準ではなく相対比較の材料としては有効です。
Q. 第1次速報値と第2次速報値はどう違いますか?
A. 第1次速報値は全国計を中心とした早期公表値で、原則として翌月末に公表されます(2026年6月分は2026年7月31日公表)。第2次速報値は都道府県別・施設タイプ別・客室規模別の内訳を含み、回収票が増えた段階で集計されるため数値が改定される場合があります。2026年8月20日時点では、6月分が第1次速報値、5月分までが第2次速報値として公表されています。
Q. 2026年の数値を前年と比較する際に注意すべき点はありますか?
A. 観光庁は2026年1月分の調査から層化変数を「従業者数」から「客室数」に変更しています。同庁は推移表において、対前年同月比・対前年同月差にはこの見直しの影響が含まれている可能性がある旨を注記しています。2026年の数値と2025年以前の数値を並べる場合は、この断層を踏まえて読む必要があります。
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参考資料・出典一覧
■ 政府統計
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」(最終更新:2026年7月31日)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年(令和8年)6月分(第1次速報値)集計結果
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年(令和8年)5月分(第2次速報値)集計結果
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」推移表
■ REIT開示資料
■ データソース
全国・業態別の客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年6月分(第1次速報値、2026年7月31日公表)、定員稼働率・客室規模別・都道府県別は同調査2026年5月分(第2次速報値)を用いた。推定OCC(OTA掲載在庫ベース)は2026年5月時点の全国47都道府県・22,212施設・1,351,342室を対象とするメトロエンジンリサーチの集計で、都道府県値を客室数で加重して全国値を算出している。推定成約ADRは同社の業態別集計(2026年5〜6月)、投資法人の運営実績はインヴィンシブル投資法人「2026年6月度 月次運営状況」の開示値による。
■ 試算前提
損益分岐OCCおよび3区分・2軸の換算は、宿泊特化型ホテルを想定した簡易モデル(120室・年間365日営業=販売可能客室数43,800室、宿泊以外の売上=客室売上の12%、変動費率30%、年間固定費2億4,000万円)に基づく。損益分岐OCC = 年間固定費 ÷(販売可能客室数 × ADR × 1.12 × 0.70)。減価償却費・支払利息・税金は含まない営業段階の分岐点である。3区分の換算表と2軸グリッドは、この同じ式に本文で扱った稼働水準(2026年6月の業態別・全国の実測値)とADR5水準を代入した単位換算であり、将来の需要予測ではない。区分名は幅を示すためのもので発生確率の重みづけを含まない。
■ 限界・留意点
(1) 観光庁の客室稼働率と推定OCCは母集団・分母がともに異なり、水準の絶対値を比較しても意味をなさない(相対比較・順位比較にのみ用いる)。(2) 第1次速報値は回収票が増えた段階で第2次速報値として改定される場合がある。(3) 観光庁は2026年1月分の調査から層化変数を「従業者数」から「客室数」に変更しており、対前年同月比・対前年同月差にはこの見直しの影響が含まれる可能性がある旨を同庁が注記している。(4) 推定OCCはOTA上で稼働が確認できる施設に限定した推定値で、実稼働率より高めに出る。(5) 推定成約ADRは推定値であり各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。(6) 簡易モデルの固定費・変動費率は一般的な水準を置いたもので、実際の損益分岐稼働率は施設ごとに大きく異なる。(7) 投資法人の開示値は都市型の運営物件に母集団が偏る。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ — 推定OCC(OTA掲載在庫ベース、2026年5月・全国47都道府県 N=22,212施設・1,351,342室)、推定成約ADR(2026年5〜6月・業態別)
