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【取材】古民家再生から生業再生へ マルトが「蘊」で目指すこと

投稿日 : 2026.08.19

奈良県

取材

奈良県田原本町で、1689年から続く奈良最古の醤油蔵を舞台にした宿泊施設「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」が、2026年8月29日、新ブランド「蘊 奈良 マルト醤油」を始動する。一般の宿泊受付を含む正式オープンは10月を予定している。

2020年の開業以来、醤油醸造の復活とともに、歴史ある蔵に泊まり、地域の生業や文化に触れる滞在を提供してきた同施設。約6年の運営を経て、いま改めてブランドを刷新する背景には、旅に求められる体験の変化と、地域に残る生業や物語を次代へつなぐという課題があるという。

醸造体験や食のあり方をどう進化させ、何を未来へ受け継ごうとしているのか。リブランドの背景と新ブランド「蘊(UHN:うん)」が目指す姿について、施設を運営する株式会社マルトに話を聞いた。

公式サイト: https://maruto-shoyu.co.jp

――2020年の開業から約6年を経て、「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」を新ブランド「蘊」へリブランドすることを決めた背景を教えてください。これまでの運営を通じて、どのような成果や課題が見えてきたのでしょうか。

開業からの約6年間、「NIPPONIA 田原本 マルト醤油」は、地域に根差し、地域や醤油の物語を体感していただける宿として、多くのお客様をお迎えしてきました。

大きな成果として感じているのは、単なる古民家再生にとどまらず、醤油醸造の再開や「醤油蔵に泊まる」という体験の提供を通じて、「生業(なりわい)の復興が地域の光になる」という確信を得られたことです。

一方で、これからの課題であり、新たな挑戦として見えてきたのが、「お客様が求めている体験の深さ」でした。

旅の目的は、単に「歴史ある建物に泊まる」という観光的な好奇心だけではなく、「地域の物語に触れ、発酵文化やものづくり文化への理解を深めること」へと広がっているのではないかと感じています。

さらに、そうした体験を通して知的好奇心を満たしたり、日常から離れることで本来の自分を取り戻したりするような時間も、求められているのではないか。そうした仮説を持つようになりました。

そこで、これまで培ってきた地域再生の成果を土台としながら、より本質的な「生業体験」と「自分自身と静かに向き合う時間」を高度に融合させた、独自の滞在スタイルを提示したいと考え、新ブランド「蘊(UHN)」を構想してきました。

――「蘊」は、地域に受け継がれてきた生業と、宿泊者が自分自身に静かに向き合う体験を結びつけるブランドとされています。こうした考え方を、客室や接客、食事、館内での過ごし方にどのように落とし込んでいくのでしょうか。

「蘊」が目指しているのは、地域に受け継がれてきた生業の知恵や精神性に触れながら、現代を生きる方々が日常の喧騒から離れ、「心と感性をときほぐす」ことのできる空間や体験をつくることです。

具体的には、「客室」「接客」「食事」「体験」という4つの軸で表現していきます。

まず客室は、これまでと変わらず、かつて蔵人が寝泊まりしていた蔵を改修した空間です。醤油蔵として積み重ねてきた歴史や木材の温もりを感じながら、テレビや時計のない、心地よい静寂の中で過ごしていただけます。

接客では、過度なサービスをするのではなく、お客様一人ひとりの過ごし方にそっと寄り添う、「控えめで温かなおもてなし」を大切にしています。地域の物語を語り部のようにお伝えする一方で、「今はそっとしておいてほしい」という時間にも配慮し、程よい距離感を保つことを心がけています。

食事については、新たな料理長を迎えてリニューアルするレストラン「MARUTO 1689」で、醸造のストーリーを感じていただける洗練されたイノベーティブ料理をご提供します。料理を通して、醤油の新たな可能性や魅力に出会うきっかけをつくっていきたいと考えています。

そして体験では、マルト醤油の物語に触れながら、人々が紡いできた長く尊い歴史に思いを馳せる「醤油しぼり体験」や、朝の清々しい空気の中で行う「朝参り」などをご用意します。

知的好奇心を満たすだけでなく、自らの感性を静かに研ぎ澄ませていく。そんな時間を過ごしていただければと思っています。

――2泊3日の「SHOYU BREWER STAY」をはじめ、リブランド後は醤油醸造をより深く体験できるコンテンツを拡充されます。実際の生業としての醤油造りを守りながら、宿泊者向けの体験として提供するうえで、どのような点を重視していますか。

私たちが何よりも重視しているのは、「本物であること」です。

実際に醤油造りを続けている蔵元だからこそ感じられる醤油の香りや、しぼりたての醤油ならではの鮮度、季節ごとの食材のおいしさなど、地域の営みそのものを肌で感じていただくことを大切にしています。

2泊3日の「SHOYU BREWER STAY」でも、醤油造りの表面的な作業だけを体験していただくのではありません。

地域で大切に育てられた大豆や小麦が、発酵という長い時間を経て、醤油へと生まれ変わっていく。その過程に触れることで、「一度進んだ時間は戻らない」という不可逆性や、自然の循環まで感じていただきたいと考えています。

本物の素材や、本物のものづくりの現場を目の当たりにすること。それこそが、お客様の知的好奇心を刺激し、深い感動や新たな気づきを生み出すのではないかと思っています。

――レストランを「MARUTO 1689」へ一新し、伝統的な和食から、地元食材と発酵文化を融合したイタリアンベースの料理へと転換するのは、どのような狙いからでしょうか。また、醤油の新たな可能性を、料理を通じてどのように伝えていきたいとお考えですか。

料理長 伊藤 敏浩氏

これまで提供してきた和のお料理は、「マルト醤油の歴史と原点」をお伝えするうえで、大きな役割を果たしてきました。

一方、今回のリブランドでは、醤油という日本古来の調味料を、単に「過去から受け継いできた伝統を守るもの」としてだけではなく、「現代の食文化の中で進化し続けるもの」として提示していきたいという思いがあります。

新たに就任する伊藤敏浩シェフによるイタリアンベースのイノベーティブ料理は、醤油そのものだけではなく、そのルーツである大豆や小麦へのアプローチから始まります。そして、醤油が持つ複雑な旨味や香りを、西洋料理の技法によって引き出していく挑戦でもあります。

料理を召し上がったお客様に、「醤油にこんな表現や楽しみ方があったのか」と驚いていただきたいですね。

その驚きを入り口に、醤油が秘めている新たな可能性や奥深い魅力を、現代の感性で再発見していただければと考えています。

――「蘊 奈良 マルト醤油」を、生業や地域の物語を未来へつなぐ拠点として、今後どのように成長させたいとお考えですか。また、ここで得た知見を「蘊」ブランドの今後の展開にどう生かしていくのか、目標や展望をお聞かせください。

「蘊 奈良 マルト醤油」は、ブランド「蘊(UHN)」のフラッグシップであり、生業とホスピタリティを融合した最初のモデルです。

まずはここで、奈良最古の醤油蔵という唯一無二の物語をさらに深化させ、国内外の感度の高いお客様に向けて、「ここでしか味わえない静かな贅沢」を確立していきたいと考えています。

そして、ここで得られる「生業の文化的価値を、いかに現代の上質な滞在体験へと昇華させるか」というノウハウや知見を、日本各地に眠る、失われつつある物語や伝統産業を未来へ紡ぐための、新たな拠点づくりに生かしていきます。

地域に根づく生業を守り、育てながら、そこを訪れる人の心と感性をときほぐしていく。

この「蘊」の世界観を日本各地へと広げ、地域経済の活性化と文化継承が持続的に循環していく仕組みをつくること。それが、私たちの大きな目標です。

■施設概要

施設名:蘊 奈良 マルト醤油
所在地:奈良県磯城郡田原本町伊与戸170
客室数:7室
リブランド日:2026年8月29日(土) ※旧名称にて2020年開業
      ※2026年9月はプレオープン期間。一般の宿泊受付を含む正式オープンは10月を予定。
宿泊料金目安:1泊2食付き・2名1室 71,450円〜(お一人様35,725円〜/税込)
公式サイト: https://maruto-shoyu.co.jp

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