奈良県は年間4,000万人を超える観光客が訪れる一方、県内で宿泊する人は実人数の1割に満たない。本稿では、メトロエンジンリサーチが追跡する県内308施設・8,496室の客室ストックと市町村別の推定成約ADRを軸に、京都・大阪との単価差、口コミ評価の高い施設が集まる価格帯、そして秋(10〜11月)の平日と週末の単価差を読み解く。「訪れる人は多いのに泊まる人が少ない」構造は、裏返せば宿泊単価と泊数を伸ばせる余地が大きいことを意味している。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。対象業態はビジネス・シティ・リゾート・旅館・カプセルです。
- 12か月平均:宿泊日が経過して確定した2025年9月〜2026年8月の月次値の単純平均。2026年9月以降の月は調査時点の掲載水準に基づく推定のため、確定月とは比較しません。
- 掲載価格:OTA等で公開されている販売価格(2名1室利用時の1室あたり料金・税込)。平日と週末の比較は、各施設の最安プランの掲載価格で行いました。
- 施設数・客室数:メトロエンジンリサーチが追跡するうち、2026年6〜8月に販売価格の掲載が確認できた奈良県内の施設(主要予約サイト掲載ベース)。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ(価格・供給)、観光庁「宿泊旅行統計調査」、奈良県「観光客動態調査」、ホテルバンク編集部調べ(口コミ評価)
- — 13,200円:奈良県の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の12か月平均、算出対象131〜136施設)は京都府16,500円の80%、大阪府10,400円の1.28倍。
- — 吉野町19,900円・天川村18,500円:算出対象5施設以上の市町村では県南部の温泉地が奈良市12,900円を上回り、天理・橿原・桜井は7,000〜8,000円台。
- — 1.24泊:2025年の平均泊数は全国1.42泊を下回る。全国並みなら延べ宿泊者数は約45万人泊(+14.3%)、客数1割増と組み合わせれば約82万人泊の上積み(編集部試算)。
- — 363室:口コミ4.3以上の比率が75%に達する2〜3.5万円帯は旅館22施設・363室のみ。50室以上で2万円以上の施設はJWマリオット・ホテル奈良の1軒。
- — +19.6%:2025年10〜11月の土曜泊は平日泊比+19.6%(中央値、N=122施設)で、金曜泊はほぼ平日並み。奈良市+33.7%に対し吉野郡は+13.2%。
訪問4,362万人に対し宿泊は274.5万人 — 泊数1.24泊が示す伸びしろ
奈良県「観光客動態調査」によると、2024年の県内観光客数(延べ)は4,362万人で前年比+9.3%だった。観光客1人が複数の観光地点を回る分を除いた実人数推計は2,876.9万人回で、そのうち宿泊客は274.5万人回、全体の9.5%にとどまる。一方で1人あたりの観光消費額は宿泊客33,284円、日帰り客4,405円と約7.6倍の開きがあり、宿泊客の消費額は前年から+24.7%伸びた。つまり、日帰り客のごく一部が宿泊に切り替わるだけで、県内の観光消費は大きく押し上げられる構造である。
観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年確定値でも同じ構造が確認できる。奈良県の延べ宿泊者数は317万7,210人泊で47都道府県中42位、実宿泊者数は255万6,580人だった。延べ宿泊者数を実宿泊者数で割った平均泊数は1.24泊で、全国の1.42泊、京都府の1.73泊、大阪府の1.48泊を下回る。外国人に限ると1.34泊で、全国(1.81泊)との差はさらに広がる。
ただし、この差はそのまま伸びしろとして読める。仮に2025年の実宿泊者数を据え置いたまま、平均泊数が全国並みの1.42泊に近づけば、延べ宿泊者数は約363万人泊となり、2025年実績から約45万人泊(+14.3%)上積みされる計算になる(編集部試算)。宿泊客の出発地は関東圏が36.5%を占めており(同調査のアンケート、回答者3,009人)、遠方からの来訪者が1泊を2泊に延ばす動機づくりが、奈良の宿泊市場にとって最も大きな機会といえるだろう。都道府県ごとの日帰りの厚さと宿泊転換の余地は、日帰りが厚い県ランキング2025で全国横断に比較している。
| 指標 | 奈良県 | 比較 |
|---|---|---|
| 観光客数(延べ、2024年) | 4,362万人 | 前年比+9.3% |
| 観光入込客数(実人数推計、2024年) | 2,876.9万人回 | うち宿泊 274.5万人回(9.5%) |
| 1人あたり観光消費額(2024年) | 宿泊 33,284円 / 日帰り 4,405円 | 宿泊は日帰りの約7.6倍 |
| 延べ宿泊者数(2025年・確定値) | 317万7,210人泊 | 47都道府県中42位 |
| 実宿泊者数(2025年・確定値) | 255万6,580人 | — |
| 平均泊数(延べ÷実、2025年) | 1.24泊 | 全国1.42泊・京都府1.73泊・大阪府1.48泊 |
| 外国人延べ宿泊者数(2025年) | 52万130人泊 | 外国人の平均泊数は1.34泊(全国1.81泊) |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年年間値・確定値)、奈良県「観光客動態調査報告書」(令和6年)よりホテルバンク編集部作成
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年年間値・確定値)よりホテルバンク編集部作成。平均泊数=延べ宿泊者数÷実宿泊者数
感度分析:平均泊数×実宿泊者数で見た延べ宿泊者数の上積み幅
上の約45万人泊は、実宿泊者数を据え置いたまま平均泊数だけを全国並みにした1点の見積もりである。泊数の伸長と宿泊客数の増加が同時に進む場合の幅を見るため、2025年の実宿泊者数255万6,580人・延べ宿泊者数317万7,210人泊を起点に、平均泊数と実宿泊者数の2軸で延べ宿泊者数の増分を試算した(編集部試算)。
| 実宿泊者数 \ 平均泊数 | 1.24泊 (2025年) | 1.30泊 | 1.35泊 | 1.42泊 (全国並み) | 1.48泊 (大阪府並み) |
|---|---|---|---|---|---|
| 255.7万人(2025年と同じ) | ±0 (基準) | +14.6万 (+4.6%) | +27.4万 (+8.6%) | +45.3万 (+14.3%) | +60.7万 (+19.1%) |
| 268.4万人(+5%) | +15.9万 (+5.0%) | +31.3万 (+9.8%) | +44.7万 (+14.1%) | +63.5万 (+20.0%) | +79.6万 (+25.0%) |
| 281.2万人(+10%) | +31.8万 (+10.0%) | +47.9万 (+15.1%) | +61.9万 (+19.5%) | +81.6万 (+25.7%) | +98.5万 (+31.0%) |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年年間値・確定値)をもとにホテルバンク編集部試算。増分=実宿泊者数×平均泊数−317万7,210人泊。平均泊数と実宿泊者数以外の条件は2025年と同じと仮定
表を横に読むと、平均泊数が0.06泊伸びて1.30泊になるだけで延べ宿泊者数は+14.6万人泊(+4.6%)増え、これは宿泊客数を5%増やす効果(+15.9万人泊)とほぼ同じ大きさである。宿泊客数を1割増やしたうえで全国並みの1.42泊に近づけば、上積みは+81.6万人泊(+25.7%)に広がる。どの組み合わせでも、泊数の小さな伸びが客数の増加と同じ桁の効果を持つことが、奈良の宿泊市場で「2泊目」の設計が重要になる理由である。
県内308施設・8,496室、6割が奈良市に集まる客室ストック
メトロエンジンリサーチが追跡する施設のうち、2026年6〜8月に販売価格の掲載が確認できた奈良県内の施設は308施設・8,496室(主要予約サイト掲載ベース)である。市町村別では奈良市が138施設・5,260室で県全体の61.9%を占め、天理市(10施設・589室)、橿原市(11施設・476室)、桜井市(14施設・337室)が続く。吉野郡の11町村を合計すると65施設・589室で、天理市(589室)と同じ客室規模になる。
地図で見ると、客室は近鉄・JRの奈良駅周辺に集中し、県中部の天理・橿原・桜井に中規模のまとまりがある。これに対し県南部の吉野・天川・十津川は、1施設あたりの客室数が小さい旅館・民宿が点在する分布だ。県内施設の客室数の中央値は9室で、100室以上の施設は25施設(計4,380室)にとどまる。奈良市以外では大型施設が限られるため、県中南部では1施設ごとの単価設計が市場全体の水準を左右しやすい。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(対象308施設/客室8,496室、主要予約サイト掲載ベース)。円=市町村別の客室数、点=施設(色はグレード)。
市町村別の推定成約ADR — 吉野町・天川村が奈良市を上回る階層
宿泊日が確定した2025年9月〜2026年8月の12か月平均で見ると、奈良県全体の推定成約ADRは13,200円だった。算出対象が5施設以上の市町村に絞って並べると、最も高いのは吉野町の19,900円(算出対象6〜8施設)で、天川村18,500円(同14〜16施設)、十津川村14,400円(同5〜7施設)が続く。奈良市は12,900円(同58〜62施設)で、県全体の水準とほぼ重なる。
県南部の3町村が奈良市を上回るのは、吉野山の桜や洞川温泉・十津川温泉など、1泊2食付きの旅館を中心とする滞在型の宿泊地だからである。一方、奈良盆地中南部の桜井市8,000円、天理市7,600円、橿原市7,200円はビジネスホテル中心の価格帯にある。生駒市は算出対象が3施設のため参考値(6,200円)として表に示し、ランキングからは外した。算出対象が1〜2施設の町村は単価が大きく振れるため、下表では施設数のみを示している。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。2025年9月〜2026年8月の推定成約ADR(税抜相当)12か月平均。算出対象が5施設以上の市町村のみ表示
| 市町村 | 施設数 | 客室数 | 県内構成比 | 推定成約ADR (12か月平均) | ADR算出対象 施設数 |
|---|---|---|---|---|---|
| 奈良市 | 138 | 5,260 | 61.9% | 12,875円 | 58〜62 |
| 天理市 | 10 | 589 | 6.9% | 7,633円 | 7 |
| 橿原市 | 11 | 476 | 5.6% | 7,189円 | 5 |
| 桜井市 | 14 | 337 | 4.0% | 7,964円 | 6〜7 |
| 大和郡山市 | 3 | 222 | 2.6% | — | 1〜2(非掲載) |
| 王寺町 | 1 | 191 | 2.2% | — | 1(非掲載) |
| 天川村 | 22 | 176 | 2.1% | 18,475円 | 14〜16 |
| 吉野町 | 16 | 154 | 1.8% | 19,938円 | 6〜8 |
| 平群町 | 4 | 138 | 1.6% | — | 1〜3(非掲載) |
| 香芝市 | 7 | 134 | 1.6% | — | 0(算出対象外) |
| 五條市 | 8 | 120 | 1.4% | — | 2(非掲載) |
| 生駒市 | 7 | 102 | 1.2% | 6,198円(参考) | 3 |
| 十津川村 | 9 | 100 | 1.2% | 14,362円 | 5〜7 |
| うち吉野郡11町村 | 65 | 589 | 6.9% | — | — |
| 奈良県計 | 308 | 8,496 | 100% | 13,220円 | 131〜136 |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。施設数・客室数は2026年6〜8月に掲載を確認した施設。ADR算出対象は検証済み業態のうち月別に推定成約ADRが算出できた施設数(月別の最小〜最大)
グレード別の供給構成 — バジェット・エコノミーが半数、南部はラグジュアリー比率が高い
当社のグレード分類(未分類の施設は掲載価格帯から割り当て)で客室を集計すると、県全体ではバジェット33.1%(2,816室)、エコノミー17.0%(1,447室)、ミドル20.8%(1,768室)、アッパーミドル12.0%(1,021室)、ラグジュアリー17.0%(1,444室)となった。バジェットとエコノミーを合わせると半数を超え、日帰り圏の立地を反映した宿泊特化型の供給が厚い。
エリア別の内訳を見ると性格の違いがはっきりする。奈良市はバジェットからラグジュアリーまで各グレードがそろう一方、天理・橿原・桜井などを含む「その他の市町村」ではバジェットとエコノミーが合計1,813室と68.5%を占める。吉野郡はラグジュアリーとアッパーミドルが合計350室で59.4%に達し、小規模ながら高単価の宿が集まっている。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(対象308施設/客室8,496室)。グレードは当社分類
口コミ評価の高い施設が集まるのは2万円以上の価格帯
次に、推定成約ADRを12か月のうち8か月以上算出できた128施設(6,822室)を価格帯に分け、口コミ件数50件以上の122施設について評価4.3以上(5点満点)の施設がどれだけあるかを数えた。評価4.3以上の比率は、8,000〜12,000円帯で26%、12,000〜20,000円帯で56%、20,000〜35,000円帯で75%、35,000〜60,000円帯で89%と、価格帯が上がるほど高まる。
注目したいのは供給量とのずれである。評価4.3以上の64施設のうち26施設(41%)が2万円以上の帯にあるのに、その帯の客室は751室と算出対象全体の11.0%しかない。特に20,000〜35,000円帯は22施設・363室で、すべてが旅館、最大でも42室の小規模施設だ。吉野温泉元湯(4.89)、光緑園 西清(4.71)、ホテルニューわかさ(4.66)など、この帯には評価の高い宿が並ぶ。12,000〜20,000円帯でも、MIROKU 奈良 by THE SHARE HOTELS(4.53)、いろはグランホテル近鉄奈良駅前(4.44)など、新しいホテルが高い評価を得ている。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部調べ(口コミ評価)より作成。対象は推定成約ADRを8か月以上算出できた128施設、口コミ評価は口コミ件数50件以上の122施設
| 推定成約ADR帯(12か月平均) | 施設数 | 客室数 | 口コミ4.3以上 / 評価対象 | 高評価比率 |
|---|---|---|---|---|
| 8,000円未満 | 28 | 1,404 | 11 / 27 | 41% |
| 8,000〜12,000円 | 27 | 2,344 | 7 / 27 | 26% |
| 12,000〜20,000円 | 38 | 2,323 | 20 / 36 | 56% |
| 20,000〜35,000円 | 22 | 363 | 15 / 20 | 75% |
| 35,000〜60,000円 | 10 | 312 | 8 / 9 | 89% |
| 60,000円以上 | 3 | 76 | 3 / 3 | 100% |
| 計 | 128 | 6,822 | 64 / 122 | 52% |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部調べより作成
京都・大阪との単価差 — 奈良は両都市の中間、2〜3.5万円帯に空白
同じ12か月平均で近隣府県と比べると、奈良県の推定成約ADR(検証済み業態全体)13,200円は、京都府16,500円の80%、大阪府10,400円の1.28倍にあたる。業態別に見ると、京都との差が最も大きいのはビジネス(奈良8,700円/京都13,900円、63%)とシティ(15,100円/23,700円、64%)で、旅館は16,800円と京都(24,400円)の69%である。大阪と比べると、シティと旅館は奈良が上回り、ビジネスは奈良がやや低い。なお奈良県のシティは算出対象が7施設と少ない点に留意したい。
京都府のシティ・旅館の中央値(2.4万円前後)は、奈良ではちょうど供給の薄い20,000〜35,000円帯に当たる。奈良県内でこの帯にある客室は旅館の363室のみで、推定成約ADRを算出できた施設のうち、50室以上の規模で2万円以上の水準にあるのはJWマリオット・ホテル奈良(158室)の1施設に限られる。京都で2万円台の客室に泊まっている層を、社寺・古墳・温泉と組み合わせた滞在で奈良に呼び込めれば、中規模の2〜3.5万円帯は県内で最も伸びしろの大きい価格帯になりうる。室数規模と価格帯の組み合わせから見た投資余地は、奈良のホテル投資、60室以上でADR2万円超は1軒で詳しく分析している。
| 業態 | 奈良県 | 京都府 | 大阪府 | 奈良÷京都 |
|---|---|---|---|---|
| 全体(検証済み業態) | 13,220円 | 16,469円 | 10,358円 | 80% |
| ビジネス | 8,690円 | 13,892円 | 10,016円 | 63% |
| シティ | 15,103円 | 23,722円 | 13,490円 | 64% |
| 旅館 | 16,822円 | 24,378円 | 11,470円 | 69% |
| 算出対象施設数(月別の幅) | 131〜136 | 576〜607 | 623〜653 | — |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。2025年9月〜2026年8月の推定成約ADR(税抜相当)12か月平均。各府県の対象施設の中央値
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
秋(10〜11月)の平日と週末 — 土曜は+19.6%、金曜はほぼ平日並み
推定成約ADRは月次の指標のため、曜日による差は各施設の最安プランの掲載価格で比べた。対象は推定成約ADRを8か月以上算出できた施設のうち日別の掲載を確認できた施設で、平日泊(日〜木曜泊、祝前日を除く)の平均を100とした指数の中央値を求めた。宿泊日が経過した2025年10〜11月は、土曜泊が119.6、祝前日が116.9だったのに対し、金曜泊は100.6と平日とほとんど変わらなかった。調査時点で掲載されている2026年10〜11月も、土曜119.4、金曜100.0と同じ形である。
エリア別の差も大きい。土曜泊の上げ幅(施設ごとの土曜÷平日の中央値)は、2025年秋に奈良市+33.7%、吉野郡+13.2%、その他の市町村+9.5%だった。奈良市は週末需要が単価にはっきり反映されている一方、県中南部の上げ幅は小さい。土曜の上げ幅が30%以上の施設は全体の41.8%で、残りの施設には週末料金を段階的に設定する余地がある。金曜泊の単価がほぼ平日並みであることも、2泊目を生む連泊プランや金曜限定の特典と組み合わせることで、泊数と単価を同時に伸ばす機会と捉えられる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。各施設の最安プラン掲載価格(2名1室・税込)を平日泊平均=100として指数化した中央値。2025年N=122施設、2026年N=118施設
| エリア | 2025年10〜11月 (宿泊日経過・確定) | 2026年10〜11月 (調査時点の掲載) |
|---|---|---|
| 県全体 | +19.6%(N=122) | +19.4%(N=118) |
| 奈良市 | +33.7%(N=53) | +34.0%(N=51) |
| 吉野郡 | +13.2%(N=35) | +16.6%(N=34) |
| その他の市町村 | +9.5%(N=34) | +12.5%(N=33) |
| 平日泊の掲載最安プラン(中央値) | 約13,600円 | 約14,800円 |
| 土曜泊の掲載最安プラン(中央値) | 約19,200円 | 約20,900円 |
| 土曜の上げ幅が30%以上の施設の割合 | 41.8% | 40.7% |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。上げ幅=施設ごとの土曜泊平均÷平日泊平均の中央値
秋の単価の立ち上がり — 奈良市は9月から11月に+72%
調査時点の掲載水準に基づく推定成約ADRで、2026年9月から11月にかけての立ち上がりを比べた(いずれも調査時点の掲載に基づく推定同士の比較)。奈良県全体は13,200円から17,900円へ+36.1%で、京都府(+88.0%)より小さく、大阪府(+24.7%)より大きい。市町村別では奈良市が11,200円から19,300円へ+72.2%と、紅葉期に単価が大きく上がる。吉野町(+18.0%)と天理市(+17.3%)も上昇する一方、天川村(−5.3%)と十津川村(+0.5%)は季節による変動が小さく、年間を通じて安定した単価の温泉地であることがわかる。
奈良市の11月の推定成約ADRは19,300円で、先述の京都府の11月(26,100円)と比べると約7割の水準にある。京都の紅葉期の混雑や単価を避けたい旅行者にとって、奈良は近接した代替の滞在先になりうる(会期中の奈良市の価格と在庫は正倉院展2026の奈良ホテルも参照)。11月の3連休(11/21〜23)を含む週末に、奈良市以外の市町村でも週末料金と連泊プランを組み合わせれば、秋の需要をより広い範囲で取り込める可能性がある。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。2026年9月→11月の推定成約ADR変化率(調査時点の掲載水準に基づく推定)。算出対象は奈良市56〜61施設、天川村14〜16施設、吉野町6〜7施設、桜井市6施設、天理市6〜7施設、十津川村5〜6施設、橿原市4〜5施設、奈良県123〜136施設、京都府572〜595施設、大阪府633〜643施設
まとめ — 「泊数」と「2〜3.5万円帯」が奈良の二つの伸びしろ
奈良県の宿泊市場は、訪問者数の大きさに比べて宿泊の比率と泊数が小さい。2024年の宿泊客は実人数の9.5%、2025年の平均泊数は1.24泊で、全国(1.42泊)に並ぶだけでも約45万人泊の上積みになる。宿泊客1人あたりの消費額が日帰り客の約7.6倍であることを踏まえると、宿泊への転換と泊数の伸長は、県内の観光消費を底上げする最も効率の良い手段といえる。
価格の面では、県全体の推定成約ADR 13,200円は京都の8割で、吉野町・天川村・十津川村の南部温泉地が奈良市を上回る階層がある。口コミ評価の高い施設は2万円以上の帯に集まっているのに、その帯の客室は1割程度しかなく、特に中規模のホテルが2〜3.5万円帯にほとんど見当たらない。秋の土曜泊は+19.6%上がる一方で金曜泊はほぼ平日並みであり、週末料金の段階設定と連泊の設計にはまだ余地がある。供給と価格設計の両面から見て、奈良は「日帰りの観光地」から「泊まる観光地」への移行を数字で後押しできる段階にある。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の2026年9月以降の推定成約ADRと2026年10〜11月の掲載価格は、調査時点(2026年9月)でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前に見直される可能性がある点にご留意ください。また、確定した月(2026年8月以前)と調査時点の掲載に基づく月(2026年9月以降)は算出の基準が異なるため、本記事では両者を比較していません。
宿向け:このテーマに効くプラン名のヒント
奈良県 × 紅葉で公開されているプラン名(N=77)に多い訴求要素 ——
会席コース 32%2食付 23%朝食付 17%季節催事 14%和牛・ブランド牛 10%季節SALE 9%
実際の名前の例(匿名化):
- 【秋冬SALE】【ロングステイ◆朝食付き】13時イン11時アウトの22時間ステイ
- 【秋冬SALE】【ロングステイ◆素泊り】13時イン11時アウトの22時間ステイプラン
- 紅葉満喫!地酒1杯サービス!プレミアム地鶏の陶板焼き!~選べる朝食
※公開プラン名の集計にもとづく傾向で、命名が販売を生む因果を示すものではありません。市場×命名の深掘りは命名ベンチマーク/イベント記事をご参照ください。
よくある質問
Q. 奈良県のホテルの平均単価はどのくらいですか?
A. 2025年9月〜2026年8月の推定成約ADR(税抜相当)の12か月平均は13,200円で、京都府16,500円の80%、大阪府10,400円の1.28倍にあたります。業態別ではビジネス8,700円、シティ15,100円、旅館16,800円です。
Q. 奈良県で単価が高い市町村はどこですか?
A. 算出対象が5施設以上の市町村では、吉野町19,900円、天川村18,500円、十津川村14,400円が上位で、いずれも奈良市12,900円を上回ります。1泊2食付きの旅館を中心とする滞在型の温泉地・観光地です。
Q. 奈良県の平均泊数はどのくらいですか?
A. 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年確定値で、延べ宿泊者数317万7,210人泊÷実宿泊者数255万6,580人=1.24泊です。全国1.42泊、京都府1.73泊、大阪府1.48泊を下回り、全国並みになれば約45万人泊の上積みになります(編集部試算)。
Q. 秋の週末は平日よりどのくらい高くなりますか?
A. 各施設の最安プラン掲載価格で見ると、2025年10〜11月の土曜泊は平日泊より+19.6%(中央値、N=122施設)、祝前日は+16.9%、金曜泊は+0.6%でした。エリア別の土曜の上げ幅は奈良市+33.7%、吉野郡+13.2%、その他の市町村+9.5%です。
Q. 奈良県で客室が少ない価格帯はどこですか?
A. 推定成約ADRを8か月以上算出できた128施設・6,822室のうち、2〜3.5万円帯は22施設・363室(すべて旅館、最大42室)にとどまります。この帯は口コミ4.3以上の比率が75%と高く、京都府のシティ・旅館の中央値(2.4万円前後)とも重なる価格帯です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチが追跡する奈良県内の施設のうち、2026年6〜8月に販売価格の掲載を確認した308施設・8,496室(主要予約サイト掲載ベース)。推定成約ADRは府県・業態・市町村別の月次集計(2025年9月〜2026年11月)、曜日差は各施設の最安プラン掲載価格(2025年・2026年の10〜11月)。宿泊統計は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年確定値、観光客数・観光消費額は奈良県「観光客動態調査報告書」令和6年。
■ 試算前提
12か月平均は確定月(2025年9月〜2026年8月)の月次値の単純平均。市町村ランキングは算出対象5施設以上の市町村に限定。平均泊数=延べ宿泊者数÷実宿泊者数。泊数の上積み試算と感度表は、2025年の延べ・実宿泊者数を起点に平均泊数と実宿泊者数だけを動かし、他の条件を一定とした編集部試算。土曜の上げ幅は施設ごとの土曜泊平均÷平日泊平均(日〜木曜泊、祝前日を除く)の中央値。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは最安プラン水準に業態別の補正係数を適用した推定値(上場ホテルREITの開示実績との照合で誤差中央値約7%)で、各施設の実際の成約価格とは異なります。算出対象が数施設の市町村(吉野町6〜8、十津川村5〜7、橿原市5)と奈良県のシティ(7施設)は、1施設の出入りで値が大きく振れます。2026年9月以降の値は調査時点の掲載に基づく推定で、確定月とは比較していません。口コミ評価は口コミ件数50件以上の122施設に限ります。
- メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR(奈良県・京都府・大阪府、市町村別)、掲載価格、客室ストック(奈良県308施設・8,496室)
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年(令和7年)年間値(確定値) — 延べ宿泊者数・実宿泊者数(第2表・第3表)
- 奈良県観光局観光戦略課「奈良県観光客動態調査報告書」令和6年1月〜12月
- 奈良県観光データポータルサイト「みるなら」
- ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミ評価(口コミ件数50件以上の122施設)、公開プラン名の集計(奈良県×紅葉、N=77)
