宿泊特化型ビジネスホテルを全国に集約してきた運営プラットフォームが、温泉リゾート帯へ踏み出す——。KOKO HOTELS(運営:ポラリス・ホールディングス、東証スタンダード3010)は2025年10月末時点で76ホテル・10,810室を展開する宿泊特化集約モデルの代表格である。そのプラットフォームが新ブランド「kokonoyu」の第1号店として、別府駅西口徒歩3分・150室・屋上10階に露天風呂付天然温泉大浴場を備えるホテルを2025年11月に着工、2027年夏の開業を予定している(事業主:東京建物・ミサワホーム、運営:フィーノホテルズ)。本稿では、宿泊特化帯と温泉リゾート帯のADR階層を別府市の公開価格データから定量化し、温泉リゾート進出に伴う1室Capex・客単価の上振れ余地・運営フィー構造を投資家視点で読み解く。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
- 1室Capex:客室1室あたりの建設投資額。延床面積×建築坪単価÷客室数で試算した目安値。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング、国土交通省「建築着工統計」、各社プレスリリース
結論を先に示せば、別府市の宿泊特化帯(ビジネスホテルADR約¥15,300)と温泉リゾート帯(リゾートホテル・旅館の加重平均約¥38,000)の間には約2.5倍の単価ギャップが存在する。kokonoyu別府は、この二帯の中間に「温泉体験を備えた宿泊特化集約モデル」というポジションを取る設計であり、宿泊特化型の建築効率(1室あたり延床約50㎡)を維持しながら、温泉リゾート帯の客単価レンジへ近づける構造を持つ。ここに、オペレーター成長×開発の観点で見るべき上振れ余地がある。
- — 別府市の宿泊特化帯(ビジホADR約¥15,300/N=21)と温泉リゾート帯(リゾート・旅館約¥38,000)の間に約2.5倍の単価ギャップが存在する。
- — kokonoyu別府は1室延床約49.8㎡の宿泊特化効率を保ちつつ、1室Capexを約4,100万円(インフレ織込み)に抑える——旅館新築の坪単価より明確に低い。
- — 客単価シナリオではADR¥22,000・OCC80%で客室売上年9.6億円、リゾート帯接近(ADR¥28,000)なら年12.3億円規模に達する。
- — 別府は通年OCC70%台・シーズン80%台、外国人観光客+60.5%(2024年)と需要地力が厚く、宿泊特化の安定稼働と温泉高単価が両立しうる市場。
- — 開発・保有(東京建物・ミサワホーム)と運営(フィーノホテルズ/ポラリス)の分業で、業績連動フィーが客単価上振れをオペレーター成長へ直結させる構造。
別府市場のADR階層 — 宿泊特化帯と温泉リゾート帯のギャップ
まず、別府市内のカテゴリ別ADRを公開価格データから整理する。メトロエンジンリサーチが2026年4月時点で集計した別府市のカテゴリ別ADR(2名1室・全プラン平均・税込)は、明確な階層構造を示している。最下層のゲストハウス・民宿が¥11,000前後、ビジネスホテルが¥15,300(N=21)、ホステル¥18,800、シティホテル¥23,100と続き、温泉リゾート帯に入るとリゾートホテル¥38,000(N=16)、旅館¥39,300(N=77)、コテージ¥50,900(N=3)へと跳ね上がる。
注目すべきは、ビジネスホテル帯(¥15,300)から旅館・リゾート帯(¥38,000台)への跳躍幅である。同じ別府という温泉地のなかで、提供形態がビジネスホテルか温泉リゾートかによって、公開価格は約2.5倍に開く。宿泊特化型の運営プラットフォームから見れば、この階層差は「温泉という付加価値を建物側に組み込めば、同じ集約運営ノウハウのまま客単価レンジを引き上げられる」ポテンシャルを意味する。kokonoyu別府が屋上10階に露天風呂付天然温泉大浴場を据え、2階に朝食レストランを配置した設計は、まさにこの単価上振れを取りにいく構造といえる。
別府市全体のADRモメンタム — 温泉需要の地力
次に、別府市全体のADR推移を年次オーバーレイで確認する。別府市のADRは季節性が明瞭で、夏季(7〜8月)と秋季(9〜12月)にピークを形成する。2025年8月には¥32,800まで上昇し、2026年4月は¥29,100(前年同月比+5.8%、N=77)と、前年を上回る水準で推移している。インバウンドの回復がこの地力を下支えしており、別府市の2024年外国人観光客は45.2万人(前年比+60.5%)、観光消費額は113.4億円(同+68.1%)と急伸している。
別府市の客室稼働率は通年で70%台、観光シーズン中は80%台に達するとされ、4割以上をインバウンド客が占める。つまり別府は、宿泊特化型の安定稼働と温泉リゾートの高単価が両立しうる稀有なマーケットである。韓国(14.9万人)、香港(9.2万人)、中国(5.3万人)、台湾(5.1万人)と東アジア近距離客が厚く、別府駅西口という交通至便な立地は、こうした層の取り込みに適している。
立地分析 — 別府駅西口徒歩3分、約10,000人/日の駅勢圏
| 別府駅 1日平均乗降 | 約10,000人 |
| 駅圏 公示地価水準 | 約¥67,600/㎡ |
| 別府市 年間観光客(2024) | 707.6万人 |
| うち宿泊客 | 256.5万人 |
| 客室稼働率(市平均・通年) | 70%台 |
別府駅は1日平均乗降客数が約10,000人、駅圏の公示地価水準は¥67,600/㎡前後で、別府市内では最も高い水準にある。観光客707.6万人・宿泊客256.5万人という厚い需要母数に対し、駅西口徒歩3分という立地は、鉄道アクセスのインバウンド・国内個人客の双方を捕捉できる。温泉リゾート帯の旅館・コテージが郊外・高台に立地するケースが多いなか、駅至近に温泉大浴場を備える宿泊特化型は、立地利便性と温泉体験を同時に提供する点で、既存供給とは異なるポジションを取りうる。
1室Capex試算 — 宿泊特化の建築効率で温泉リゾートを建てる
kokonoyu別府の延床面積約7,475㎡(約2,261坪)を150室で割ると、1室あたり延床は約49.8㎡(約15.1坪)となる。これは温泉リゾートとしては効率的な配分で、宿泊特化型の建築ノウハウが活きる数値である。建築坪単価は、屋上天然温泉大浴場・朝食レストランを備えるミドル〜アッパーミッド帯として、国土交通省「建築着工統計」を基準に試算する。以下は2段階のCapex試算である。
| 試算段階 | 坪単価 | 総建設費 | 1室Capex | 標準ビジホ比 |
|---|---|---|---|---|
| Stage1 ミドル下限(2025年実績ベース) | 240万円/坪 | 約54.3億円 | 約3,620万円 | 約1.27倍 |
| Stage1 アッパーミッド(2025年実績ベース) | 260万円/坪 | 約58.8億円 | 約3,920万円 | 約1.37倍 |
| Stage2 インフレ織込み(施工期間 年+5%複利) | 273万円/坪→ | 約61.7億円 | 約4,110万円 | 約1.44倍 |
標準的な宿泊特化型ビジネスホテル(1室延床約13坪・坪220万円で1室Capex約2,860万円)と比べると、kokonoyu別府の1室Capexは温泉インフラ(屋上大浴場・配湯設備)と客室面積の上乗せにより、インフレ織込みベースで約1.4倍(約4,100万円)と試算される。重要なのは、これが一般的な旅館新築の坪単価よりも明確に低い点である。温泉リゾート帯の客単価を取りにいきながら、建築コストは宿泊特化型に近い効率で抑える——この差分こそが、宿泊特化集約モデルが温泉帯へ進出する経済合理性の源泉といえる。なお、近年の建設費高騰は新規供給全体を抑制する方向にも働いており、既存供給との競争緩和というアップサイド要因としても作用する。この建設費高騰局面では新築と改装の損益分岐も動いており、その境界線は改装投資が新築を凌駕する条件で検証している。
客単価上振れシナリオ — 二帯の中間ポジションの取り込み余地
kokonoyu別府の収益ポテンシャルを、別府市の実勢ADR階層に重ねて試算する。宿泊特化型の素泊まり中心ではなく、屋上温泉大浴場・朝食レストラン・地元食材を活かした体験を組み込むことで、ビジネスホテル帯(¥15,300)を起点に、シティホテル帯(¥23,100)からリゾートホテル帯(¥38,000)へと客単価を引き上げる余地がある。以下は3つの客単価シナリオによる客室売上の感応度である。
| シナリオ | 想定ADR | OCC 75% | OCC 80% | ポジション |
|---|---|---|---|---|
| A. 宿泊特化準拠 | ¥18,000 | 7.4億円 | 7.9億円 | ホステル〜シティ帯 |
| B. 温泉付き集約 想定レンジ | ¥22,000 | 9.0億円 | 9.6億円 | 市全体ADR近傍 |
| C. リゾート上振れ | ¥28,000 | 11.5億円 | 12.3億円 | リゾート帯接近 |
シナリオB(ADR¥22,000・市全体ADR近傍)でOCC80%なら客室売上は年9.6億円規模、シナリオC(リゾート帯接近)まで上振れれば年12億円規模に達する。総建設費約61.7億円(インフレ織込み)に対し、客室売上が年9〜12億円台で推移し、これに温泉・朝食・物販等の付帯収益が加わる構造を踏まえれば、宿泊特化型の標準利回りを温泉付加価値が押し上げるポテンシャルが見て取れる。客単価が市平均からリゾート帯へ近づくほど、1室あたり延床50㎡という効率的なCapex構造が利回り上のレバレッジとして効いてくる。温泉地の宿をADR×OCC×目標利回りから逆算する見方については、温泉旅館の買収上限価格を逆算した分析も参考になる。
運営フィー構造 — オーナー資本×オペレーター成長の分業
kokonoyu別府のスキームは、宿泊特化集約モデルの典型的な役割分担を示している。開発・保有を東京建物・ミサワホームが担い、運営をポラリス傘下のフィーノホテルズが担う。ポラリス・ホールディングスのホテル運営事業は、運営委託契約(MC)・賃貸借契約・リースの3形態を組み合わせ、運営フィーは業績連動型でオペレーターとオーナーのインセンティブを整合させる構造を採る。
オーナー側(東京建物・ミサワホーム)
約62億円規模の開発投資を保有し、土地・建物の資産価値とリースイン収益を享受。建設費高騰下でも、駅至近・温泉付きという希少性が資産の競争力を支える。
オペレーター側(フィーノホテルズ/ポラリス)
軽資産で運営ノウハウとブランドを提供。業績連動フィーにより、客単価上振れがそのままフィー成長につながる。76棟の集約運営で得た仕入・人材・OTA等の運用力を温泉帯へ横展開。
成長の方向性
kokonoyuは新ブランド第1号店。Standard/Premier/STAY/Residenceの4サブブランドに温泉リゾート帯が加わることで、プラットフォームの単価レンジと出店余地が拡張する。
この分業構造の要点は、オペレーターが大規模なCapexを負わずに高単価帯へ進出できることにある。宿泊特化型で磨いた集約運営ノウハウ——標準化されたオペレーション、OTA等の販売運用力、人材の効率配置——を温泉リゾート帯に持ち込めば、業績連動フィーは客単価の上振れ分を取り込んで成長する。オーナー側にとっても、約4,100万円/室というCapexは旅館新築より明確に低く、駅至近・温泉付きの希少性が建設費高騰下での資産競争力を担保する。両者のインセンティブが客単価上振れに向かって整合する点に、このスキームのポテンシャルがある。なお、同じミサワホーム×ポラリスの座組では那覇でも『KOKO HOTEL』の新設が進んでおり、その開発スキームは那覇市前島の2027年開業計画で詳しく整理している。
大分県の供給環境 — 重ねて読むパイプライン
kokonoyu別府の位置づけを、大分県全体の供給パイプラインに重ねて確認する。メトロエンジンリサーチが把握する範囲(OTA掲載確認ベース)では、2026年の全国新規開業は807棟(平均33室)で、大分県は上位15都道府県には入っていない。これは別府・湯布院といった温泉地に既存供給が厚く、新規大型供給が相対的に限定的であることを示唆する。一方で、kokonoyu別府のような150室規模・温泉付き・駅至近の大型案件は、こうした成熟市場のなかで明確な差別化ポジションを取りうる。
※新規開業データはOTA掲載確認ベースであり、掲載は開業の数ヶ月前から出るため、2026年後半以降の月は今後の掲載で増加する可能性がある。2027年以降の供給を確定的に語ることはできず、現時点での観測値として参照されたい。kokonoyu別府(2027年夏開業予定)は着工済みの確定パイプラインであり、上記OTA掲載確認ベースの集計には未反映である。
本稿の試算に関する注意:本記事の1室Capex・客室売上・利回りに関する数値は、公開された延床面積・客室数と、国土交通省「建築着工統計」の建築坪単価、別府市の実勢ADR階層に基づく簡易試算です。実際の建設費・運営条件・客単価・稼働率は事業者の運用方針や市場環境により変動し、本試算は投資判断を保証するものではありません。実際の投資検討には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
まとめ — 宿泊特化集約モデルの温泉リゾート拡張がもつポテンシャル
別府市の公開価格データは、宿泊特化帯(ビジネスホテルADR約¥15,300)と温泉リゾート帯(リゾート・旅館約¥38,000)の間に約2.5倍の単価ギャップがあることを明確に示す。kokonoyu別府は、この二帯の中間に「駅至近×温泉付き×宿泊特化集約運営」というポジションを取り、1室あたり延床約50㎡という効率的な建築でCapexを約4,100万円/室(インフレ織込み)に抑えつつ、客単価を市平均ADR近傍からリゾート帯へ引き上げる余地を持つ。
オペレーター成長の観点では、業績連動の運営フィー構造により、客単価の上振れがそのままフィー成長へ直結する。76棟・10,810室で磨いた集約運営ノウハウを温泉リゾート帯へ横展開できれば、プラットフォームの単価レンジと出店余地は拡張する。別府という、通年70%台・シーズン80%台の稼働とインバウンド急伸(外国人観光客+60.5%)を併せ持つ成熟温泉市場は、この拡張モデルを検証する第1号サイトとして合理的な選択といえる。ホテル投資家・PE・地銀・オペレーターにとって、宿泊特化集約モデルの温泉リゾート進出は、建築効率と高単価の両立という新しい開発フォーマットのポテンシャルを示す事例として注視に値する。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
別府市のカテゴリ別ADR・月次ADR推移はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングのOTA公開価格データ集計(2名1室・全プラン平均・税込、2026年4月時点)。新規開業データはOTA掲載確認ベース(2026年・N=807施設)。建築坪単価は国土交通省「建築着工統計」、立地・観光指標は別府市観光動態要覧およびJR九州駅別乗車人員に基づく。
■ 試算前提
1室Capex=延床面積(約2,261坪)×建築坪単価÷150室で試算。坪単価はStage1(240〜260万円/2025年実績ベース)とStage2(着工2025年11月〜竣工2027年5月の中間時点まで年+5%複利でインフレ織込み、273万円)の2段階。客室売上=150室×想定ADR×OCC×365日。想定ADR(¥18,000/¥22,000/¥28,000)は別府市実勢ADR階層に基づく3シナリオ、OCCは市平均レンジ75%/80%を前提とする。
■ 限界・留意点
ADRはOTA公開価格の平均値であり実成約価格とは異なる。1室Capex・客室売上・利回りは公開された延床面積・客室数と坪単価基準による簡易試算で、実際の建設費・運営条件・客単価・稼働率は事業者の運用方針や市場環境により変動する。本試算は投資判断を保証するものではなく、実際の投資検討には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 別府市カテゴリ別ADR・月次ADR推移(OTA公開価格データ、2名1室・全プラン平均・税込)、全国新規開業データ(OTA掲載確認ベース、2026年 N=807施設)
■ 政府統計・公的データ
- e-Stat「建築着工統計」(建築坪単価の基準)
- 別府市「2024年別府市観光動態要覧」
- JR九州「駅別乗車人員」
■ ニュース・プレスリリース
