「簡易旅館のROI(投資利益率)はどのくらいか」。結論から言えば、定員12名・改修費1,600万円のモデルで試算すると、回収年数は約4〜31年と、稼働率と1ベッド単価の組み合わせ次第で8倍近く開く。本稿では、旅館業法上の「簡易宿所営業」の制度を整理したうえで、メトロエンジンリサーチの2026年9月の掲載価格(ゲストハウス平均約20,900円・N=2,305施設など)、観光庁の簡易宿所客室稼働率29.6%、日本政策金融公庫の簡易宿所経営指標、自治体の公表改修事例を組み合わせ、収益側と費用側の両面から回収年数の感応度を示す。
本記事における指標の定義
- 掲載価格(平均):メトロエンジンリサーチが集計した公開販売価格。1室2名利用時の1室あたり料金(税込)の平均値であり、中央値ではない。全プラン(素泊まり〜食事付き)を含む。推定成約単価(ADR)ではなく、実際の成約価格とは異なる。
- 1ベッド単価への換算:ドミトリー(相部屋)主体の業態では、2名利用の掲載料金を「2ベッド分」とみなし、1/2を1ベッドあたり単価とする仮定を置いた。平均値は個室や高価格帯の掲載に引き上げられるため、相部屋ベッドの実勢はこれより低い可能性がある。
- 客室稼働率(観光庁):観光庁「宿泊旅行統計調査」の施設タイプ別客室稼働率。2025年年間値(確定値、2026年7月6日公表)の簡易宿所の全国値・都道府県値・月別値を引用する。
- 通年稼働率(モデル想定):本稿の試算で置いた年間平均のベッド稼働率。実績値ではなく、30%・45%・60%の3水準の仮定である。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ(掲載価格)、観光庁・厚生労働省・日本政策金融公庫・珠洲市(公表資料)。2026年9月の掲載価格は調査時点(2026年9月27日)までの集計。
- — 定員12名・改修費1,600万円のモデルで、簡易旅館の回収年数は約4〜31年。通年稼働率と1ベッド単価の組み合わせで8倍近く開く(試算)。
- — 簡易宿所の客室稼働率は全国29.6%(2025年確定値)だが、都道府県別では大阪府73.6%から秋田県8.9%まで開き、候補地の値が出発点になる。
- — 2026年9月の掲載価格平均はゲストハウス20,883円(N=2,305)・ホステル21,500円(N=1,985)。1ベッド換算の仮定(÷2)では約1万円だが、相部屋の実勢は3,500円前後の事例もある。
- — 公庫の簡易宿所指標は償却前経常利益率11.2%、損益分岐点比率98.7%。売上が数%動くだけで損益が入れ替わる。
- — 回収10年に必要な通年稼働率は、1ベッド7,000円で35〜47%、3,500円では69〜93%。単価の置き方で必要稼働率が2〜3倍動く(試算)。
簡易旅館とは — 旅館業法上の「簡易宿所営業」
一般に「簡易旅館」と呼ばれる業態は、旅館業法上は「簡易宿所営業」にあたる。旅館業法上の定義は「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」で、山小屋やユースホステルなどが該当し、ゲストハウス、ホステル、カプセルホテルの多くがこの許可で営業している。客室数の下限がなく(旅館・ホテル営業も2018年の法改正で最低客室数が撤廃された)、戸建てや小規模ビルの転用で始めやすい点が個人投資家にとっての入口になっている。旅館業法の3つの営業区分と近年の改正の経緯は、旅館業法とは — 3区分の許可要件と2018・2023年改正で整理している。
構造設備の基準の中心は客室の延床面積である。原則は33㎡以上だが、平成28年4月の改正で「一度に宿泊させる宿泊者数が10人未満の施設の場合には、宿泊者1人当たり面積3.3㎡に宿泊者数を乗じた面積以上」で許可を受けられるようになった(厚生労働省「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」)。二段ベッドを置く場合は上段と下段の間隔がおおむね1m以上であること、入浴・洗面・便所・換気等の設備を備えることなども求められる。
よく比較される住宅宿泊事業法(いわゆる民泊新法)との違いを整理すると、次のようになる。最大の違いは営業日数の上限の有無で、収益モデルを組む前提そのものが変わる。
| 項目 | 簡易宿所営業(旅館業法) | 住宅宿泊事業(住宅宿泊事業法) |
|---|---|---|
| 手続き | 都道府県等(保健所)の許可 | 都道府県知事等への届出 |
| 年間営業日数 | 上限なし | 年間180日以内 |
| 客室面積 | 延床33㎡以上(10人未満は3.3㎡×人数以上) | 居室1人あたり3.3㎡以上 |
| 建物 | 用途変更(宿泊用途200㎡超は建築確認)、消防設備の設置 | 住宅のまま(規模・形態により安全措置) |
| 収益モデルへの含意 | 通年稼働を前提に回収計画を組める | 稼働日数に上限があるため回収期間が伸びやすい |
出典:厚生労働省「民泊サービスと旅館業法に関するQ&A」、観光庁「民泊制度ポータルサイト」、珠洲市「空き家を活用した宿泊施設開業ガイドブック」(令和2年3月)よりホテルバンク編集部作成
供給面では、簡易宿所の許可施設は増え続けている。厚生労働省「衛生行政報告例」によると、令和6(2024)年度末の簡易宿所営業は44,901施設で、前年度から2,992施設(+7.1%)増えた。令和2年度末の37,847施設からの4年間では約7,000施設の増加で、旅館・ホテル営業(52,946施設、+3.7%)より伸び率が高い。参入が相次いでいることは需要の厚みを示す一方で、立地によっては競合の増加を織り込む必要があることも意味する。この44,901施設を都道府県別の供給量に組み込んだ場合の見え方は、県別の宿泊供給は分母で入れ替わるが掘り下げている。
出典:厚生労働省「令和6(2024)年度衛生行政報告例の概況」よりホテルバンク編集部作成(各年度末現在)
収益側の実測 — ゲストハウス平均約20,900円、ホステル約21,500円
メトロエンジンリサーチの2026年9月の全国集計では、ゲストハウスの掲載価格は平均約20,900円(N=2,305施設)、ホステルは約21,500円(N=1,985施設)、カプセルホテルは約19,100円(N=107施設)だった。いずれも1室2名利用・1室あたり料金(税込)の平均値で、中央値ではない。参考として、同月のビジネスホテルは約15,600円(N=7,900施設)である。
簡易宿所系の平均がビジネスホテルを上回るのは意外に見えるが、これは「2名利用・1室あたり」という集計基準による。ゲストハウスやホステルには1棟貸しや和室の個室、グループ向けの大部屋が含まれ、平均値はこうした高単価の掲載に引き上げられる。ドミトリー主体の施設で1ベッドあたりに換算する場合、2名分=2ベッド分とみなすとゲストハウスで約10,400円、ホステルで約10,800円、カプセルホテルで約9,500円となる。ただし、相部屋ベッドの実勢はこれより低いと考えるのが自然で、実際に珠洲市が公表している開業事例では、ドミトリーが1人3,500〜3,800円から、個室が1人4,500円からに設定されている。
| 業態 | 掲載価格 平均(2名1室・税込) | 1ベッド換算(÷2の仮定) | 集計施設数 | 前年同月(2025年9月) |
|---|---|---|---|---|
| ゲストハウス | ¥20,883 | ¥10,442 | N=2,305 | ¥20,323(N=1,523) |
| ホステル | ¥21,500 | ¥10,750 | N=1,985 | ¥20,524(N=1,288) |
| カプセルホテル | ¥19,050 | ¥9,525 | N=107 | ¥14,720(N=74) |
| (参考)ビジネスホテル | ¥15,625 | — | N=7,900 | ¥14,955(N=6,935) |
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年9月は調査時点までの掲載に基づく)。前年同月比較は集計施設数が異なるため、構成の変化を含む点に留意。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年9月・全国・1室2名利用の掲載価格平均)
前年同月比では、ゲストハウスが+2.8%、ホステルが+4.8%と、いずれも価格水準は底堅い。ただし2026年7月以降は集計対象の施設数が大きく増えており(ゲストハウスは6月の1,500施設から7月に2,294施設へ)、前年との差には構成の変化が含まれる。カプセルホテルはN=107と母数が小さく、前年同月(N=74)との比較は参考にとどめたい。月次の推移を年ごとに重ねると、2025年は両業態とも8月に山ができる季節性が読み取れる。
出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(全国・1室2名利用の掲載価格平均)。2026年9月は調査時点までの集計。
稼働率の実勢 — 簡易宿所の客室稼働率は全国29.6%
単価と並んで収益を決めるのが稼働率である。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年年間値(確定値・2026年7月6日公表)では、簡易宿所の客室稼働率は29.6%(前年差+0.6pt)で、全体の61.6%、ビジネスホテルの75.3%と比べると半分以下の水準にある。これは山小屋や季節営業の施設、小規模な家族経営の宿まで含む全国平均であり、都市部の簡易宿所とは性格が異なる点に注意したい。
月別に見ると、2025年は12月の24.5%から8月の39.1%まで約15ptの振れ幅があった。2024年も8月が37.9%で最も高く、夏休み期に需要が集中する構造は2年続けて同じである。年間の回収計画は、こうした閑散月を含めた通年平均で置く必要がある。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」よりホテルバンク編集部作成(2024年・2025年とも確定値)
地域差はさらに大きい。同調査の都道府県別では、簡易宿所の客室稼働率は大阪府の73.6%が最も高く、京都府52.0%、東京都48.6%、福岡県44.8%と続く。一方で最も低い秋田県は8.9%と1割に届かない。投資判断では、全国平均の29.6%よりも、候補地の都道府県値を出発点にするほうが実態に近い。
| 都道府県 | 簡易宿所 客室稼働率(2025年・観光庁) | ゲストハウス 掲載価格平均 | ホステル 掲載価格平均 |
|---|---|---|---|
| 大阪府 | 73.6% | ¥14,593(N=89) | ¥13,756(N=142) |
| 京都府 | 52.0% | ¥20,979(N=164) | ¥21,237(N=251) |
| 東京都 | 48.6% | ¥21,485(N=141) | ¥22,725(N=374) |
| 福岡県 | 44.8% | ¥22,598(N=36) | ¥20,408(N=191) |
| 沖縄県 | 34.7% | ¥20,305(N=151) | ¥16,923(N=304) |
| 北海道 | 25.2% | ¥18,950(N=151) | ¥25,782(N=150) |
| (全国) | 29.6% | ¥20,883(N=2,305) | ¥21,500(N=1,985) |
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」、メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(2026年9月・1室2名利用の掲載価格平均。都道府県値は域内の市区町村別平均をもとに算出)
大阪府は稼働率が全国で最も高い一方、掲載価格の平均はゲストハウス・ホステルとも東京都や京都府より6,000〜9,000円ほど低い。稼働率の高さは価格を抑えた集客とセットになっている可能性があり、「高稼働エリア=高収益」とは限らない。逆に単価の高い地域でも、稼働率が伸び切っていなければ売上は頭打ちになる。次章の感応度表は、この2軸を同時に動かして見るためのものである。
費用側 — 公表事例で見る初期投資と運営コスト
費用側は、推計ではなく公表資料の数値のみで組み立てる。初期投資については、石川県珠洲市が令和2年3月に公表した「空き家を活用した宿泊施設開業ガイドブック」が具体的な目安を示している。同ガイドは簡易宿所としての改修費の目安を40万円/坪とし、「40坪×40万円=1,600万円」「80坪×40万円=3,200万円」という例を挙げる。
同ガイドに掲載された実例(築40年・木造2階建てをゲストハウスに改修、ドミトリー2室と個室2室)では、当初450万円を見込んだ改修費が最終的に650万円となり、当初計画から4割増となった。追加工事の内容は空調設備の追加、自動で閉まるドアの設置、電気容量の拡大、火災報知器の追加などで、建築確認申請に5か月を要したことも記されている。改修期間の目安は1〜4か月とされるが、手続きを含めると開業まで1年程度を見込むのが現実的だろう。
| 費用項目 | 公表値 | 出典 |
|---|---|---|
| 改修費の目安(簡易宿所) | 40万円/坪 | 珠洲市ガイドブック |
| モデル(40坪)の改修費 | 1,600万円 | 同上(40坪×40万円の例示) |
| 実例の改修費(当初→最終) | 450万円→650万円 | 同上(築40年・木造2階建て) |
| 合併浄化槽の設置費(市町村設置型) | 5人槽20万円/14人槽32万円/30人槽58万円 | 同上(珠洲市の例) |
| 運営:人件費対売上高比率 | 29.4% | 日本政策金融公庫(簡易宿所・平均値) |
| 運営:諸経費対売上高比率 | 41.4% | 同上 |
| 売上高経常利益率(償却前) | 平均11.2%/黒字企業平均15.1% | 同上(調査対象24社) |
| 損益分岐点比率 | 98.7% | 同上 |
出典:珠洲市「珠洲市の空き家を活用した宿泊施設開業ガイドブック」(令和2年3月)、日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(飲食店・宿泊業/業種別・簡易宿所)よりホテルバンク編集部作成
運営費については、日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」の簡易宿所(調査対象24社)が手がかりになる。売上に対する人件費が29.4%、諸経費が41.4%で、減価償却前の経常利益率は平均11.2%、黒字かつ自己資本プラスの企業に限ると15.1%だった。損益分岐点比率は98.7%で、売上が数%動くだけで損益が入れ替わる、稼働率に敏感な事業構造であることがわかる。裏を返せば、稼働率や単価を少し引き上げられれば利益が大きく伸びるアップサイドがある業態ともいえる。
なお、珠洲市ガイドの改修費目安は令和2年時点の数値である。その後の建設物価の上昇を踏まえると、現時点の見積もりはこれを上回る可能性が高い。後述の試算では1,600万円を基準としつつ、投資額が変わった場合の読み替え方も示す。
ROI・回収年数の感応度 — 通年稼働率×1ベッド単価の9通り
以上の公表値をもとに、次のモデルで回収年数を試算した。前提は延床40坪の空き家を改修し、定員12名(12ベッド)の簡易宿所として通年営業、投資額は改修費の目安1,600万円(物件は取得済みまたは既保有と仮定し、取得費は含めない)とする。売上は「ベッド数×365日×通年稼働率×1ベッド単価」、回収原資は日本政策金融公庫の簡易宿所の償却前経常利益率(平均11.2%/黒字企業平均15.1%)を売上に乗じた額とした。
1ベッド単価は、珠洲市の公表事例のドミトリー料金に近い3,500円、中間の仮定7,000円、当社のゲストハウス全国平均を1/2にした約10,400円の3水準を置いた。通年稼働率は、観光庁の簡易宿所全国値29.6%に近い30%、東京都(48.6%)・京都府(52.0%)の水準を挟む45%と60%の3水準である。
| 年間売上(税込) | 1ベッド ¥3,500 | 1ベッド ¥7,000 | 1ベッド ¥10,400 |
|---|---|---|---|
| 通年稼働率 30% | 460万円 償却前利益 52〜69万円 | 920万円 償却前利益 103〜139万円 | 1,367万円 償却前利益 153〜206万円 |
| 通年稼働率 45% | 690万円 償却前利益 77〜104万円 | 1,380万円 償却前利益 155〜208万円 | 2,050万円 償却前利益 230〜310万円 |
| 通年稼働率 60% | 920万円 償却前利益 103〜139万円 | 1,840万円 償却前利益 206〜278万円 | 2,733万円 償却前利益 306〜413万円 |
出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成(試算。償却前利益は売上×11.2%〜15.1%)
| 回収年数(投資額1,600万円) | 1ベッド ¥3,500 | 1ベッド ¥7,000 | 1ベッド ¥10,400 |
|---|---|---|---|
| 通年稼働率 30% | 31.1年 / 23.0年 利回り 3.2% / 4.3% | 15.5年 / 11.5年 利回り 6.4% / 8.7% | 10.5年 / 7.8年 利回り 9.6% / 12.9% |
| 通年稼働率 45% | 20.7年 / 15.4年 利回り 4.8% / 6.5% | 10.4年 / 7.7年 利回り 9.7% / 13.0% | 7.0年 / 5.2年 利回り 14.3% / 19.3% |
| 通年稼働率 60% | 15.5年 / 11.5年 利回り 6.4% / 8.7% | 7.8年 / 5.8年 利回り 12.9% / 17.4% | 5.2年 / 3.9年 利回り 19.1% / 25.8% |
出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成(試算)。各セルは「利益率11.2%時/15.1%時」。利回り=年間償却前利益÷投資額。色が濃いほど回収が早い(8年以内・15年以内)。
出典:メトロエンジン株式会社、ホテルバンク編集部作成(試算・償却前経常利益率11.2%)
試算からは三つのことが読み取れる。第一に、全国平均並みの通年稼働率30%・相部屋並みの単価3,500円では回収に23〜31年かかり、改修費1,600万円の投資は成り立ちにくい。第二に、単価を7,000円に上げるか、稼働率を45%に上げるかのどちらか一方だけでは回収は約11〜21年にとどまる。第三に、通年稼働率45%以上かつ単価7,000円以上がそろうと回収年数は約4〜10年に縮まり、償却前の投資利回りも約10%以上に届く。
投資額が変わる場合は、回収年数を比例で読み替えればよい。珠洲市の実例(650万円)程度に収まれば回収年数は表の約0.41倍、物件取得費や物価上昇を見込んで2,400万円になれば約1.5倍となる。いずれにしても、稼働率と単価をどちらも立地の実勢に合わせて置けるかが、簡易旅館投資のROIを左右する最大の変数である。
逆方向から見ると、目標の回収年数に必要な通年稼働率が求まる。1ベッド単価ごとに、回収10年・15年を達成するのに必要な通年稼働率(試算・利益率11.2%時/15.1%時)を整理したのが表7である。相部屋並みの3,500円では回収10年に通年稼働率69〜93%が必要で、2025年の簡易宿所で最も高い大阪府(73.6%)並みの稼働を通年で維持しても、利益率が平均の11.2%なら届かず、黒字企業平均の15.1%でようやく届く水準である。7,000円なら35〜47%と東京都(48.6%)・福岡県(44.8%)の水準、10,400円なら23〜31%と全国平均(29.6%)前後の水準で回収10年が視野に入る。単価の置き方ひとつで、必要な稼働率の水準が2〜3倍動くことがわかる。
| 目標回収年数 | 1ベッド ¥3,500 | 1ベッド ¥7,000 | 1ベッド ¥10,400 |
|---|---|---|---|
| 回収10年 | 93.2% / 69.1% | 46.6% / 34.6% | 31.4% / 23.3% |
| 回収15年 | 62.1% / 46.1% | 31.1% / 23.0% | 20.9% / 15.5% |
出典:ホテルバンク編集部作成(試算)。各セルは「利益率11.2%時/15.1%時」の必要通年稼働率=投資額÷目標年数÷利益率÷(12ベッド×365日×1ベッド単価)。比較の都道府県値は観光庁「宿泊旅行統計調査(2025年・年間値(確定値))」の簡易宿所客室稼働率で、ベッド稼働率とは定義が異なる参考値。
| 投資額 | 通年稼働率30%×¥3,500 | 通年稼働率45%×¥7,000 | 通年稼働率60%×¥10,400 |
|---|---|---|---|
| 650万円(珠洲市の実例) | 12.6年 / 9.4年 | 4.2年 / 3.1年 | 2.1年 / 1.6年 |
| 1,600万円(本稿の基準) | 31.1年 / 23.0年 | 10.4年 / 7.7年 | 5.2年 / 3.9年 |
| 2,400万円(取得費・物価上昇を見込む) | 46.6年 / 34.6年 | 15.5年 / 11.5年 | 7.8年 / 5.8年 |
出典:ホテルバンク編集部作成(試算)。稼働率は通年のベッド稼働率(モデル想定)。各セルは「利益率11.2%時/15.1%時」。
リスク要因 — 許可・消防・季節変動を先に織り込む
回収年数の試算は、許可が予定通り下り、開業後すぐに想定稼働に乗ることを暗黙の前提にしている。実務では、次の三つが計画を後ろ倒しにしやすい。
1. 許可・用途変更:宿泊用途に使う部分が200㎡を超えると、用途変更に伴う建築確認申請が必要になる。珠洲市の実例では建築確認申請だけで5か月を要した。また、用途地域によっては旅館業の建物用途が認められない場合があるため、物件取得前に保健所・建築担当窓口への事前相談で「許可が取れる物件か」を確認しておくことが、最も効果の大きいリスク対策になる。確認申請が必要になる面積・階数の条件と2025年4月の4号特例縮小については、宿の改修に確認申請が要る条件も参考になる。
2. 消防設備:宿泊施設には原則として自動火災報知設備と誘導灯の設置が求められ、延べ面積150㎡以上では消火器、収容人数30人以上では防火管理者の選任と消防計画の策定も必要になる。設置後も点検が年2回、報告が年1回ある。実例で改修費が4割増えた要因の多くは、こうした安全・設備面の追加工事だった。
3. 季節変動と立地:簡易宿所の客室稼働率は、2025年の全国で月24.5%〜39.1%の幅で動き、都道府県別では1割未満から7割台まで開く。閑散月の固定費を賄える資金計画と、繁忙期に単価を上げる価格設計の両方を用意しておくことが、年間の稼働率・単価を試算表の右下に近づける手段になる。
まとめ — 簡易旅館のROIは「稼働率×単価」の掛け算で決まる
簡易旅館(簡易宿所)は、許可制で通年営業ができ、客室数の下限もないため、個人投資家や小規模事業者が参入しやすい宿泊業態である。当社の2026年9月の掲載価格ではゲストハウス平均約20,900円・ホステル平均約21,500円と価格水準は底堅く、許可施設数も令和6年度末に44,901施設まで増えた。一方で、観光庁の簡易宿所客室稼働率は全国29.6%にとどまり、日本政策金融公庫の経営指標では損益分岐点比率が98.7%と、稼働と単価に敏感な構造がはっきり表れている。
本稿のモデル(定員12名・改修費1,600万円)では、回収年数は約4〜31年と大きく開いた。投資判断の出発点は、全国平均ではなく候補地の稼働率と、相部屋か個室かを踏まえた現実的な1ベッド単価の2つを置くことである。そのうえで、許可・消防の追加工事と季節変動をあらかじめ織り込めば、試算表のどのセルを狙えるかが見えてくる。
よくある質問
Q. 簡易旅館と簡易宿所は同じものですか?
A. 一般に「簡易旅館」と呼ばれる業態は、旅館業法上の「簡易宿所営業」にあたります。宿泊する場所を多人数で共用する構造の施設で、ゲストハウス、ホステル、カプセルホテル、山小屋などが含まれます。
Q. 簡易旅館のROI(回収年数)の目安は?
A. 本稿の試算(定員12名・改修費1,600万円)では、通年稼働率と1ベッド単価の組み合わせにより約4〜31年と開きました。稼働率45%以上かつ1ベッド7,000円以上で、回収年数は約4〜10年に縮まります。
Q. 簡易宿所の稼働率はどのくらいですか?
A. 観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年年間値(確定値)で全国29.6%です。都道府県別では大阪府73.6%、京都府52.0%、東京都48.6%など地域差が大きく、候補地の値を確認することが重要です。
Q. 民泊(住宅宿泊事業)との違いは?
A. 簡易宿所は旅館業法の許可が必要な代わりに営業日数の上限がありません。住宅宿泊事業は届出で始められますが、年間の営業日数が180日以内に制限されます。
参考資料・出典一覧
■ データソース
収益側はメトロエンジンリサーチの業態別掲載価格(1室2名利用・1室あたり料金・税込の全プラン平均。2026年9月は調査時点2026年9月27日までの掲載、前年同月・月次推移は2024年10月〜2026年9月)。稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」2025年年間値(確定値)、供給は厚生労働省「衛生行政報告例」、費用側は珠洲市ガイドブックと日本政策金融公庫「小企業の経営指標調査」(簡易宿所・調査対象24社)の公表値のみを用いた。
■ 試算前提
定員12名(12ベッド)・365日営業、投資額は改修費1,600万円(物件取得費・融資条件・税金は含まない)。売上=12ベッド×365日×通年稼働率(30%/45%/60%の仮定)×1ベッド単価(3,500円/7,000円/10,400円の仮定)。回収原資=売上×償却前経常利益率(公庫の簡易宿所 平均11.2%/黒字かつ自己資本プラス企業平均15.1%)、回収年数=投資額÷回収原資。表7・表8は同じ式を逆算・投資額変更に適用したもの。
■ 限界・留意点
掲載価格は推定成約単価ではなく、2026年7月以降は集計施設数が増えているため前年比には構成変化が含まれる。1ベッド単価の「÷2」は仮定であり相部屋の実勢は低い可能性がある。観光庁の値は客室稼働率で、本稿のモデルが置くベッド稼働率とは定義が異なる。利益率は売上規模や稼働水準によらず一律に適用しており、固定費比率の高い小規模施設の低稼働時には過大になりうる。珠洲市の改修費目安は令和2年時点の値である。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 業態別掲載価格(2026年9月・全国:ゲストハウスN=2,305、ホステルN=1,985、カプセルホテルN=107、ビジネスホテルN=7,900)
■ 政府統計・公的資料
