石川県のホテル市場は、2024年1月の能登半島地震と同年3月の北陸新幹線敦賀延伸という、方向の異なる二つの衝撃を同時に受けた。その2年半後にあたる2026年の断面を、市町単位の価格・稼働・供給データで整理する。北陸で出店エリアを選ぶ開発担当、事業性を評価する金融機関、温泉旅館の承継や再生を検討する投資家に向けて、どの市場のどの価格帯に空白が残っているかを定量化した。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価/推定成約ADR):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- 掲載価格(全プラン平均):素泊まりから食事付きまで全プランを含む公開販売価格の平均(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)。推定成約ADRとは基準が異なるため、両者の水準を直接比較しないでください。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
- — 掲載価格+6.8% に対し推定成約ADRは+2.1%(2026年1〜7月)。上位プランは積み増されたが、実際に取れている単価はまだ動いていない。
- — 推定OCCは県全体86.0%・七尾市95.9%(2026年8月時点)。業態間の差は小さく、繁忙期と通常期の差も極端ではない。
- — 確定している供給パイプラインは1件171室のみ。2026年の新規開業は12施設259室(掲載確認ベース・下限値)で、既存ストックの希少性が当面続く。
- — 金沢市で推定成約ADR ¥15,000超は5施設。都市型アッパーミッド(¥15,000〜¥25,000 × 60〜150室)が構造的な空白として残る。
- — 開発3類型のGOP利回りはA 8.8%/B 6.2%/C 5.8%。B案は ADR−10%・OCC−5pt の同時下振れでも5.2%を確保する。
サマリー — 単価より「枠」が効く市場
結論を先に置く。2026年の石川県は、単価が伸びる市場ではなく、稼働が高止まりし供給が薄い市場である。2026年1〜7月の掲載価格は県全体で前年同期比+6.8%まで上がったが、推定成約ADRは+2.1%にとどまった。プランの上限は引き上がっているものの、実際に取れている単価の水準はまだ大きく動いていない。一方で8月の推定OCCは86.0%(2026年8月時点・OTA掲載在庫ベースの推定、N=376施設)と高く、新規開業は年間12施設259室(掲載確認ベース)と限られる。投資判断の軸は「値上げでどこまで伸ばせるか」ではなく、「稼働が張り付いているエリアで、どの価格帯の客室を新たに置けるか」に移っている。
そして、その空白の位置は市町ごとにはっきり分かれる。金沢市は施設数こそ県内最大だが上位価格帯が薄い。加賀温泉郷(加賀市)は県内最高の単価帯を持ちながら伸びが止まっている。七尾市(和倉温泉)と小松市は掲載価格が2桁台後半で伸び、観測施設数そのものも増えている。以下、順に見ていく。
県全体の価格トレンド — 掲載価格と成約単価の乖離
まず県全体の季節性を確認する。石川県は8月と11月に二つの山を持つ。8月は夏休みと北陸の海のシーズン、11月は加能ガニ(ズワイガニ)漁の解禁と紅葉が重なる、北陸特有の第二ピークである。この11月の山は、通年稼働を前提とするビジネスホテル型よりも、食を売る旅館・リゾート型の収益構造に強く効く。
二つのグラフを並べると差がわかる。掲載価格(左)は2026年の線が2024年・2025年より明確に上に乗っているのに対し、推定成約ADR(右)の2026年の線は2025年とほぼ重なる。2026年1〜7月平均で比べると、掲載価格は¥23,300から¥24,900へ+6.8%、推定成約ADRは¥10,300から¥10,500へ+2.1%であった。
この乖離をどう読むか。推定成約ADRは各施設の最安プラン水準を基準に算出しているため、掲載価格だけが伸びている状態は、施設が高単価プランを上に積み増している一方で、価格の下限は据え置いていることを示唆する。食事や体験を組み込んだ上位プランの整備が進んだ結果と読むのが自然で、単価の底上げはこれからという段階にある。裏を返せば、価格の下限を引き上げる余地は市場全体としてまだ残っている。
業態別 — 3年推移で見る構造
| 業態 | 掲載価格 2024 | 2025 | 2026 | 推定成約ADR 2024 | 2025 | 2026 | N(2026) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 旅館 | ¥45,778 | ¥48,088 | ¥47,814 | ¥19,463 | ¥17,747 | ¥17,385 | 118/112 |
| ビジネスホテル | ¥15,569 | ¥14,667 | ¥14,863 | ¥8,151 | ¥7,612 | ¥7,512 | 111/109 |
| シティホテル | ¥25,664 | ¥24,678 | ¥24,846 | ¥13,117 | ¥11,594 | ¥11,999 | 10/10 |
| リゾートホテル | ¥35,131 | ¥35,276 | ¥40,549 | ¥13,762 | ¥12,897 | ¥13,206 | 6/6 |
業態別に3年分を並べると、価格の水準そのものは業態間で大きく動いていない。旅館の掲載価格は¥45,800→¥48,100→¥47,800、ビジネスホテルは¥15,600→¥14,700→¥14,900で、いずれもレンジ内の推移である。県全体の掲載価格が+6.8%伸びたのは、業態内での値上げよりも観測対象そのものの構成変化—とりわけ能登側の施設が営業を再開して集計に戻り、相対的に単価の高い旅館・リゾート型の比重が上がったこと—の寄与が大きい。伸び率の解釈にあたっては、この母集団の変化を必ず併せて見る必要がある。
市町別マップ — 4つに分かれる投資市場
県内を市町単位に割ると、性格の異なる4つの市場が浮かび上がる。以下の表は2026年1〜7月平均の価格と、直近8月の推定OCCを並べたものである。
| 市 | 掲載価格 2026年1〜7月 | 前年同期比 | 推定成約ADR | 前年同期比 | 推定OCC 2026年8月 | N(掲載/成約) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 七尾市 (和倉温泉) | ¥26,141 | +34.1% | ¥9,320 | +9.1% | 95.9% | 42/17 |
| 小松市 (空港圏) | ¥25,580 | +41.8% | ¥7,502 | +4.2% | 86.1% | 31/20 |
| 金沢市 | ¥22,136 | +6.1% | ¥9,545 | +2.3% | 88.4% | 252/117 |
| 加賀市 (加賀温泉郷) | ¥49,570 | -0.2% | ¥19,137 | -7.8% | 86.1% | 58/45 |
| 白山市 | ¥21,513 | -4.1% | ¥8,768 | +11.6% | 93.5% | 34/17 |
回復 七尾市(和倉温泉)
掲載価格 +34.1% と県内最大の伸び。観測施設数も2025年1〜7月平均33から2026年42へ増加し、推定OCCは8月で95.9%と県内最高。営業再開が進み、戻ってきた需要に対して供給がまだ追いついていない局面。
拡大 小松市(空港圏)
掲載価格 +41.8%。空港アクセスと産業集積を背景に、2026年7月には171室規模の温泉付きビジネスホテルが開業した。観測施設数は25→31に増え、市場規模そのものが拡大している。敦賀延伸後に小松・金沢・福井・敦賀の単価がどう分かれたかは北陸新幹線敦賀延伸3年目の4都市ADR比較で整理している。
厚み 金沢市
県内最大の252施設。掲載価格は+6.1%、推定成約ADRは+2.3%と安定推移で、推定OCCは8月88.4%。ボリュームゾーンが厚い分、上位価格帯には空白が残る(後述)。
最高単価 加賀市(加賀温泉郷)
掲載価格 約¥49,600 は県内最高で、金沢市の2.2倍。ただし前年同期比は横ばい圏。既存ストックが厚く供給が安定しているため、新規開発より既存資産の承継・再生が主戦場になる市場。
七尾市の伸び率については、観測施設数が38から42へ増えている点に注意が必要である。単純な値上げではなく、営業を再開した施設が集計に加わったことによる母集団の変化が含まれる。同じ理由で、推定成約ADRの観測施設数も11から17へ増えており、前年同期比+9.1%という数値は幅を持って読むべきである。それでも掲載価格・成約単価・稼働のすべてが同じ方向を向いている点は、需給が締まっていることを示している。
分布図を見ると、80室以上の中大型ストックは金沢市中心部と加賀温泉郷(片山津・山代・山中)、和倉温泉の三極に集中している。能登半島の先端側(輪島市・珠洲市)には中大型施設がほとんど残っておらず、能登町・志賀町を含めても点在にとどまる。半島北部の宿泊キャパシティは、地震前の水準に対して依然として大きく空いた状態にある。
立地評価 — 金沢駅前の地価と需要基盤
| 業態 | 施設数 | 客室数 | 推定OCC(2026年8月) |
|---|---|---|---|
| 全施設 | 376 | 20,266 | 86.0% |
| ビジネスホテル | 103 | 12,508 | 86.4% |
| 旅館 | 104 | 4,137 | 84.7% |
| シティホテル | 10 | 1,748 | 85.7% |
| リゾートホテル | 10 | 508 | 90.2% |
2026年8月の推定OCCは全施設で86.0%、ビジネスホテルで86.4%、旅館で84.7%と、業態間の差が小さい。夏のピーク期に業態を問わず在庫が消化されている状態で、需要側の裾野が広いことを示す。6月・7月の県全体はそれぞれ79.7%・80.2%であり、繁忙期と通常期の差も極端ではない。年間を通じた稼働の下支えがあるという点は、地方市場の投資判断において重要な材料になる。
収益構造の面では、朝食の付加価値が比較的高いことも特徴である。同一施設内で素泊まりプランと朝食付きプランを比較すると(ペアード分析)、石川県全体で朝食プレミアムは+12.3%(約¥2,400、N=49施設)、金沢市に限れば+14.6%(約¥2,800、N=32施設)であった。北陸の食材を活かした朝食は、客室単価とは別の収益レイヤーとして機能している。
供給パイプライン — 新規開業は年間12〜27施設
新規開業は2023年24施設323室、2024年17施設274室、2025年27施設513室、2026年12施設259室で推移している。ただし2026年の数値は観測途中である点に注意が必要だ。OTA掲載は開業の数ヶ月前からしか出ないため、年後半以降の開業は今後の掲載で積み上がる。現時点の12施設は下限値として読むべき数値である。なお開業直後の単価が既存水準に追いつくまでの期間については、新規開業ホテルのADR回復は中央値2ヶ月|182軒実測が事業計画への織り込み方まで含めて検証している。
1施設あたりの規模は小さい。2025年の27施設513室は平均19室で、貸別荘・町家・ゲストハウスといった小規模業態が件数の多くを占める。その中で、2025年には山中温泉で101室、和倉温泉で101室、金沢駅前で81室・片町で69室、小松で65室の規模ある開業が続いた。2026年7月には小松市に171室の温泉付き宿泊特化型ホテルが開業しており、これは県内で近年最大級の単一開業となる。空港と産業集積を持つ小松に大手が客室を張った事実は、北陸の平日需要に対する事業者の評価を示すシグナルとして読める。
一方、建築確認申請ベースの計画パイプラインは薄い。石川県で確認できる宿泊施設の建築計画は1件(小松市・171室、2026年7月完成)にとどまる。ただしこれは調査時点での確認申請ベースであり、今後の申請追加により件数・客室数は増加する見込みで、現時点での確定パイプラインの下限値として参照すべきものである。確認申請は通常開業の1〜2年前に行われるため、2028年以降の供給はまだ数字に現れていない。
それでも、稼働86%に対して確定している新規供給がこの水準にとどまるという事実は、既存ストックの希少性が当面続くことを意味する。建設費の上昇がそれを補強する。国土交通省 建築着工統計に基づく2024年のホテル建築費は全構造平均195.0万円/坪(RC造173.6万円、S造164.8万円)で、2022年の138万円から2年で+41%上昇した。2025年はS造240.5万円、RC造202.6万円と過去最高水準が続いている。新築のハードルが上がるほど、稼働の張り付いた既存資産のポジションは強くなる。
能登 — 復興投資補助金という固有の変数
能登エリアには、他県の投資判断には存在しない変数がある。石川県は令和6年能登半島地震および奥能登豪雨からの復興に向けて「能登宿泊業復興投資補助金」を創設した。補助率20%・上限5億円で、対象は七尾市・輪島市・珠洲市・羽咋市・志賀町・宝達志水町・中能登町・穴水町・能登町の9市町である。宿泊施設の新設・再建・大規模改修に対する20%の補助は、投資回収年数を実質的に短縮する効果を持つ。
供給側の実態としては、県が2025年12月時点で能登地方6市町の宿泊施設を調査した結果、営業していた施設は地震前の55%にとどまっている。当社が観測する七尾市の掲載施設数も2025年1〜7月平均33から2026年42へ回復しているが、依然として空きは大きい。和倉温泉では老舗旅館が2026年冬に約50室規模の新旅館を開業する計画を公表しており、同グループの他施設も2026年度中の営業再開を目指している。需要が先に戻り、供給が後から追いつく構図が、七尾市の2026年8月の推定OCC 95.9%(OTA掲載在庫ベースの推定)という数字に表れている。どの旅館が再開し、どの客室がいつ戻るのかという軒数ベースの進捗は、和倉温泉の復興状況2026|19軒中11軒が再開、加賀屋新館は33室・28年度末で施設単位まで追っている。
ポジショニング — 金沢の上位価格帯に空白
次に、個別施設の客室規模と推定成約ADRを二次元にプロットする。対象は客室数40室以上かつ推定成約ADRが算出できる89施設である。
プロットからは、市場が二つのクラスターに分かれていることが読み取れる。金沢市の施設群(青)は客室数の中央値166.5室に対して推定成約ADRの中央値が約¥8,800で、横に広く、下に張り付いている。一方、加賀・和倉を中心とする温泉地の施設群(濃紺)は客室数中央値110.5室・推定成約ADR中央値約¥17,600で、金沢の2倍の単価帯に位置する。
注目すべきは金沢市の上方の空白である。客室60〜260室のレンジで見ると、推定成約ADRが¥15,000を超える施設は5施設にとどまり、¥15,000未満が45施設を占める。県内全体でも推定成約ADRが¥20,000を超える施設は温泉旅館に集中しており、都市型で上位価格帯を取れている施設はごく限られる。金沢という需要地に、上位価格帯の都市型客室の供給が構造的に手薄である——これが本稿で最も明確に観測された空白である。
密集 埋まっている領域
推定成約ADR ¥5,000〜¥13,000 × 60〜300室
金沢駅前・香林坊の宿泊特化型が集中。稼働は高いが単価競争になりやすく、新規参入で差別化しにくい領域。
空白① 都市型アッパーミッド
推定成約ADR ¥15,000〜¥25,000 × 60〜150室
金沢市内で該当は5施設。インバウンドの新ゴールデンルート定着で需要側の裾野は広がっている一方、供給の数がまだ限られる価格帯。
空白② 能登の中規模再建
推定成約ADR ¥15,000〜¥30,000 × 40〜100室
七尾市の2026年8月時点の推定OCC 95.9%(同上)に対し、80室以上のストックは限られる。復興投資補助金(補助率20%・上限5億円)が実質利回りを押し上げる。
評価データが示す商品力の所在
価格の空白を埋められるかどうかは、その市場が高い評価を取れる商品を作れるかにかかる。宿泊者の口コミを集計すると、石川県の「食事」評価は施設中央値4.41(N=131施設・19,473件、直近24ヶ月)と高い水準にある。個別に見ると、金沢市の小規模旅館・料理旅館や能登の宿が食事部門で4.8台の評価を得ており、県全体の平均を大きく上回っている。
清潔感の部門では、金沢市内の比較的新しい都市型ホテル群が上位を占める。ハイアット セントリック 金沢が4.91(N=183件)、雨庵 金沢が4.88(N=104件)、金沢 彩の庭ホテルが4.86(N=297件)、東急ステイ金沢が4.78(N=216件)といった水準で、いずれもエリア中央値を+0.6以上上回る。上位価格帯で評価を取れる都市型商品が金沢で成立することは、既に実証されている。空白①は需要がないから空いているのではなく、単に供給の数が少ない。
開発シナリオ試算 — 3類型の比較
ここまでの観測を前提に、石川県で想定される3つの投資類型を試算する。GOP(Gross Operating Profit=営業総利益。売上から部門費・販管費を差し引いた運営段階の利益で、賃料・減価償却・支払利息の控除前)率と、それを総投資額で割ったGOP利回りで比較する。いずれも簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要である。
| 項目 | A. 金沢・宿泊特化型(新築) | B. 金沢・アッパーミッド(新築) | C. 能登・既存旅館の承継+改装 |
|---|---|---|---|
| 客室数 | 140室 | 80室 | 60室 |
| 1室あたり面積 | 18㎡ | 26㎡ | 既存 |
| 推定成約ADR前提 | ¥10,500 | ¥18,000 | ¥20,000 |
| 稼働率前提 | 85% | 82% | 70% |
| GOP率前提 | 55% | 45% | 15% |
| 建設費(2025年実績ベース) | 坪205万円 | 坪240万円 | 改装 1室600万円 |
| 建設費(インフレ織込み後) | ¥2,655百万円 | ¥2,908百万円 | ¥288百万円(補助後) |
| 土地/取得費 | ¥210百万円 | ¥228百万円 | ¥500百万円 |
| 総投資額 | ¥2,865百万円 | ¥3,135百万円 | ¥788百万円 |
| 年間売上(客室のみ) | ¥456百万円 | ¥431百万円 | ¥307百万円 |
| GOP | ¥251百万円 | ¥194百万円 | ¥46百万円 |
| GOP利回り | 8.8% | 6.2% | 5.8% |
試算の含意は明快である。A案(宿泊特化型)は利回りで優位だが、これは既に45施設が密集する領域であり、稼働と単価の競争環境に入る。B案(アッパーミッド)は利回りで劣後するが、競合が5施設しかない。B案の6.2%という数字は、推定成約ADR ¥18,000を実際に取れるかどうかに全面的に依存しており、これは現在の金沢市で5施設のみが到達している水準である。裏を返せば、達成できれば競争は薄い。
C案(既存旅館の承継+改装)は総投資額が一桁小さく、補助金が実質利回りを押し上げる。ただし旅館業態のGOP率は構造的に低く(業界目安5〜15%)、人材確保と食材原価が収益を左右する。逆に言えば、運営効率の改善余地が最も大きい類型でもある。
感度分析(B案)
| シナリオ | ベースケース | ADR −10% | OCC −5pt | 両方 |
|---|---|---|---|---|
| 推定成約ADR | ¥18,000 | ¥16,200 | ¥18,000 | ¥16,200 |
| 稼働率 | 82% | 82% | 77% | 77% |
| 年間売上 | ¥431百万円 | ¥388百万円 | ¥405百万円 | ¥364百万円 |
| GOP | ¥194百万円 | ¥175百万円 | ¥182百万円 | ¥164百万円 |
| GOP利回り | 6.2% | 5.6% | 5.8% | 5.2% |
B案は下振れ時でも5.2%を確保する。ADRとOCCが同時に下振れするストレスケースでも利回りが5%を割らないのは、建設費が既に高い水準で織り込まれているためであり、逆に言えば上振れ余地は用地取得コストをどこまで抑えられるかに集約される。金沢駅前の地価が4年連続で上昇している以上、駅至近を避けた立地選定が実質利回りを左右する。
リスク要因と判断の順序
| 区分 | 内容 | 本稿の観測 |
|---|---|---|
| 需要 | インバウンド依存の集中 | 北陸新幹線敦賀延伸(2024年3月)以降、いわゆる新ゴールデンルートが定着。2024年の石川県は観光入込客数・宿泊者数ともに過去最高。集中は追い風だが、単一ルート依存の裏返しでもある |
| 供給 | 建設費の上昇 | 2025年 S造240.5万円/坪。新規参入の抑制要因であり、既存ストックには追い風 |
| 用地 | 金沢駅前の地価上昇 | 4年連続上昇、北信越5県で最高水準。ホテル用地の取得競争が主因 |
| 単価 | 成約単価の伸びの鈍さ | 2026年1〜7月の推定成約ADRは前年同期比+2.1%。強気のADR成長を織り込んだ事業計画は下振れリスク |
| 災害 | 能登の復興進度 | 2025年12月時点で能登6市町の営業施設は地震前の55%。復興投資補助金(補助率20%・上限5億円)が投資回収を支援 |
| 人材 | 運営人材の確保 | 旅館業態のGOP率は業界目安5〜15%と構造的に低い。運営体制が収益を左右する |
判断の順序としては、まず「単価成長を前提に置かない」ことが起点になる。石川県の推定成約ADRは2026年1〜7月で前年同期比+2.1%であり、業態別に見れば横ばい圏である。一方で稼働は8月で86.0%、七尾市に至っては95.9%に達し、確定している新規供給は限定的だ。したがって事業性は、ADR成長率ではなく「初年度から高稼働を取れる立地か」「その価格帯に競合が何施設あるか」で評価するのが実態に近い。
その基準で見たとき、金沢市の推定成約ADR ¥15,000超の帯に5施設しかいないという事実、七尾市の2026年8月時点の推定OCC 95.9%(同上)に対して80室以上のストックが限られているという事実は、いずれも定量的に確認できる空白である。加賀温泉郷は単価水準が県内最高である一方で伸びが止まっており、新規開発より既存資産の承継・再生に投資機会が寄っている。小松市は空港と産業集積を背景に市場そのものが拡大局面にあり、2026年7月の171室開業はその方向性を裏づけるシグナルとして読める。
⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事の価格指標は調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定値であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前値下げで下落する可能性がある点にご留意ください。2026年8月以降の月次データは掲載スナップショット基準の推定値であり、確定した実績値ではありません。年次比較は基準の揃う2026年1〜7月(履歴基準)で行っています。
集計方法について:価格・稼働のデータは、メトロエンジンリサーチが把握する範囲での集計です。メトロエンジンリサーチは国内約168,000施設を追跡し、うちOTA上で稼働が確認できる約27,000施設・約126万室を分析対象としています。OTA未掲載の旅館・民宿・簡易宿所は含まれません。新規開業データはOTA掲載確認ベースであり、掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の期間は今後の掲載で増加します。建築計画データは確認申請ベースで、今後の申請追加により件数は増加する見込みであり、現時点での確定パイプラインの下限値です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
掲載価格(全プラン平均)および推定成約ADRは、OTA公開価格の月次集計(石川県 N=473施設/239施設、2026年1〜7月平均)。推定OCCはOTA掲載在庫の消化状況に基づく推定値(2026年8月・N=376施設20,266室)。新規開業はOTA掲載確認ベース、建築計画は確認申請ベース。宿泊者評価は直近24ヶ月の口コミ集計(食事 N=131施設・19,473件)。朝食プレミアムは同一施設内の素泊まり/朝食付きペアード比較(N=49施設、金沢市 N=32施設)。いずれもメトロエンジンリサーチ&コンサルティング集計。
■ 試算前提
開発シナリオ3類型は、A=140室・1室18㎡・推定成約ADR¥10,500・稼働85%・GOP率55%、B=80室・26㎡・¥18,000・82%・45%、C=既存60室改装・¥20,000・70%・15%。年間売上は「推定成約ADR×客室数×稼働率×365」で客室売上のみを対象とし、付帯収入・その他部門は含めない。建設費は国土交通省「建築着工統計」2025年(S造240.5万円/坪、RC造202.6万円/坪)を基準に、Turner & Townsend の建設費予測(2026年+5.3%、2027年+5.0%、2028年+4.5%)で施工中間時点まで複利計算(係数1.155)。GOP率はインヴィンシブル投資法人の運営91物件実績38.9%(2024年12月期)および業態別目安を参照し保守的に設定。C案の改装費は能登宿泊業復興投資補助金(補助率20%)適用後。感度分析は総投資額とGOP率を固定し、ADR−10%・OCC−5ptを単独および同時に振った簡易試算。
■ 限界・留意点
推定成約ADRはOTA最安プラン水準に業態別補正係数を適用した推定値であり、上場ホテルREITの物件別開示との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。推定OCCはOTA掲載在庫ベースの推定であり、施設全体の実稼働率とは異なる。市町別の前年同期比には観測施設数の変動(母集団変化)が含まれ、とくに能登側は営業再開に伴う母集団の入れ替わりが大きい。建築計画は確認申請ベースの下限値であり、2028年以降の供給は数値に現れていない。本稿の試算はいずれも簡易試算であり、実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディを要する。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 掲載価格・推定成約ADR(石川県 N=473施設/239施設、2026年1〜7月)、推定稼働率(2026年8月 N=376施設・20,266室)、新規開業データ(OTA掲載確認ベース)、朝食プレミアムのペアード分析(N=49施設)
- ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミの集計(石川県「食事」N=131施設・19,473件、直近24ヶ月)
■ 政府統計・公的データ
- 国土交通省「建築着工統計調査」(建築費坪単価・宿泊施設の建築計画)
- 総務省・経済産業省「経済センサス−活動調査」(境界=国勢調査2020 小地域)
- 石川県「宿泊施設の状況」(復旧・復興推進)
- 石川県文化観光スポーツ部「統計からみた石川県の観光(令和6年)」
- 観光庁「能登半島地震からの復興に向けた観光再生支援事業」採択結果(2026年)
- 金沢市「持続可能な観光振興推進計画2026」
■ 業界レポート・企業資料
- インヴィンシブル投資法人 — 運営ホテルのGOP実績(2024年12月期 91物件38.9%)
- JLL「2025年日本ホテル投資市場」(GOP見通し・新規供給率)
- 日本銀行金沢支店「北陸地域のインバウンドを巡る現状整理と若干の視座」(2026年4月17日)
- 日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」
■ ニュース・報道
- 観光経済新聞「石川県が能登宿泊業復興投資補助金、9市町対象で補助率2割、最大5億円」
- 日本経済新聞「能登半島の加賀屋、26年冬に営業再開 新旅館を建設」
- 日本経済新聞「北陸新幹線延伸の金沢―敦賀沿線、宿泊施設が続々 開業効果最大に」
- 「金沢の”ホテル用地”がつり上げる公示地価 石川全体では上昇傾向続く」(2026年公示地価報道)
- NHK「能登地方の宿泊施設稼働率 地震前の55%」
- 鉄道・運輸機構「北陸新幹線(金沢・敦賀間)」
出典: 日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」
