全国のホテルを「県で割る」のではなく「価格帯で割る」と、需要の入り方はまったく別の姿で見えてくる。本稿は推定成約ADRで全国のビジネスホテル・シティホテルを7つの価格帯(ADRバンド)に分け、確定済みのピーク日における客室在庫の消化スピードをバンド単位で比較したものである。分析単位は都道府県でも市区町村でもなく、価格帯そのものだ。
これまでホテルバンクが公開してきたホワイトスペース分析は、いずれも西三河、静岡県東部4市、奄美群島のように、まず地理でエリアを切り出し、その内側の価格階層を見る構造だった。地理が主語で、価格帯が述語である。本稿はこれを反転させる。先に全国を価格帯で割り、そのバンドの中身として地理が何であるかを後から読む。したがって個別県の階層構造は再掲しない。読み手として想定しているのは、出店価格帯を決めるチェーンの開発担当、既存物件のリポジショニングを検討するアセットマネージャー、新規参入の価格戦略を組む投資家である。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。本稿の「ADRバンド」は、各施設の2025年9月〜2026年8月の確定月ベースの推定成約ADRの中央値(有効6ヶ月以上)で割り付けています。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。個別施設ではなくバンド単位・エリア単位の集計にのみ用います。
- LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT0=当日。
- 早期完売LT:残室数が初めて0室に到達したリードタイム(値が大きいほど早く完売)。完売観測日数:観測期間中に残室0を確認した延べ日数。
- 最大在庫掲載率:観測期間中にOTA上へ同時掲載された客室数の最大値が、その施設の総客室数に占める割合。本稿は全ての抽出でこれが30%以上の施設のみを集計対象としています。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング
- — ¥6,000〜10,000 が最速で埋まる帯。ゴールデンウィーク主断面(2026-05-03)でLT14時点の残室ゼロ比率は¥6,000〜8,000が19.6%、¥8,000〜10,000が17.3%(N=2,804施設)。
- — ¥13,000を境に消化が折れる。¥13,000以上3バンドの同比率は4.5%で、¥10,000未満ゾーン17.3%の約3.9分の1(2026-05-03・施設数加重)。
- — 順位は3断面で安定、差の大きさは動く。低〜中単価帯が上位という並びは5/3・5/4・8/13で不変だが、両ゾーンの倍率は3.87倍から1.95倍まで縮む。
- — 新規客室の19.8%が¥20,000超に集中(既存ストック12.1%、+7.7pt)。2024〜2026年開業529施設・59,184室ベース。
- — 需要・供給薄・単価上値は別々の帯。最速は¥6,000〜10,000、供給が最も薄いのは¥13,000〜16,000(新規6.2%対既存12.3%)、単価を取りに行くのは¥20,000以上。
結論 — 最速で埋まるのはADR6,000〜10,000円、新規客室の19.8%は2万円超へ流れている
結論から示す。2026年ゴールデンウィークのピーク日(5月3日)を断面に、全国のビジネスホテル・シティホテル2,804施設を推定成約ADRで7バンドに割り付けて在庫消化を比較すると、チェックイン14日前の時点で残室が0室になっていた施設の比率は¥6,000〜8,000バンドで19.6%、¥8,000〜10,000バンドで17.3%と突出し、¥13,000〜16,000で4.5%、¥20,000以上で3.5%まで下がる。同じ全国市場を価格帯で割るだけで、ピーク需要の入り方には3〜5倍の開きが出る。
一方で供給側は別の方向を向いている。2024〜2026年に開業したビジネスホテル・シティホテル529施設・59,184室をバンド別に見ると、¥20,000以上のバンドが新規客室の19.8%を占める。既存ストックにおける同バンドの客室シェアは12.1%だから、新しい客室は+7.7ポイント分、高単価側へ寄っている。逆に¥13,000〜16,000は既存12.3%に対し新規6.2%と、供給の厚みが半分に薄まっている。最も早く埋まる帯と、最も客室が増えている帯は、いま一致していない。
7つのADRバンドで消化スピードを測る — LT14時点の残室ゼロ比率
まず指標の置き方を明示しておく。ピーク日の需給を「最終的に埋まったかどうか」で測ると、ゴールデンウィークやお盆のような繁忙日はほぼ全てのバンドが上限に張り付いてしまい、差が消える。実際、当社推定の稼働率(OTA掲載在庫ベース)を全国・客室数加重で集計すると、5月3日は97.2%、5月4日は95.6%で、ビジネスホテル(97.3%/95.6%)とシティホテル(97.1%/95.7%)の間にほとんど差がない。ピークに何が起きているかは、埋まったかどうかではなくいつ埋まったかにしか現れない。
そこで本稿は主指標を「チェックイン14日前(LT14)時点で残室が0室になっていた施設の比率」に置く。この指標なら、当日までに結局は満室になる施設同士でも、2週間前に売り切っていたのか直前で滑り込んだのかを分離できる。副指標として、観測期間を通じて一度でも残室0を確認した施設の比率(完売観測比率)、残室が初めて0に到達したリードタイムの中央値(早期完売LT)、残室0を確認した延べ日数の中央値(完売観測日数)を併記する。なお、推定稼働率と完売の観測が同じ市場でどう食い違うかについては、推定OCCと完売率は何が違うのかで東京都3業態を題材に整理している。
3つの断面がそろって同じ形を描いている。ゴールデンウィークの2日間では¥6,000〜10,000のゾーンが山になり、お盆(8月13日)では山がもう一段下の¥6,000未満まで広がる。共通しているのは、¥13,000を超えたところで消化スピードが明確に落ちるという段差である。バンドを1つ上げるごとに緩やかに下がるのではなく、¥10,000〜13,000を境に折れる形になっている。
| ADRバンド | N(5/3) | LT14残室0 5/3 | LT14残室0 5/4 | LT14残室0 8/13 | LT14稼働 中央値 | 完売観測 比率 | 早期完売LT 中央値 | 完売観測日数 中央値 | 客室数 中央値 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ¥6,000未満 | 334 | 12.1% | 5.0% | 17.2% | 93.8% | 20.4% | 19 | 14 | 45 |
| ¥6,000〜8,000 | 765 | 19.6% | 8.8% | 11.5% | 93.5% | 42.9% | 18 | 10 | 78 |
| ¥8,000〜10,000 | 478 | 17.3% | 9.6% | 11.0% | 88.8% | 52.5% | 13 | 7 | 109 |
| ¥10,000〜13,000 | 489 | 9.9% | 4.4% | 6.9% | 83.9% | 46.0% | 2 | 2 | 119 |
| ¥13,000〜16,000 | 317 | 4.5% | 2.4% | 6.8% | 81.2% | 45.1% | 0 | 1 | 130 |
| ¥16,000〜20,000 | 154 | 6.1% | 3.9% | 5.1% | 83.2% | 38.3% | 4 | 2 | 127 |
| ¥20,000以上 | 267 | 3.5% | 1.7% | 6.8% | 85.3% | 29.2% | 1 | 2 | 120 |
副指標も同じ方向を指す。一度でも残室0を観測した施設の比率は¥8,000〜10,000バンドが52.5%で最も高く、¥20,000以上では29.2%にとどまる。残室が初めて0に到達したリードタイムの中央値は、¥6,000未満で19日前、¥6,000〜8,000で18日前、¥8,000〜10,000で13日前であるのに対し、¥13,000以上の3バンドはいずれも0〜4日前だ。低〜中単価帯は2週間以上前に枠が閉じ、高単価帯は直前まで枠が動いている。
カーブで見ると差はさらにはっきりする。30日前の時点ではどのバンドも稼働の中央値は63〜75%の範囲に収まっており、出発点はほぼ横並びだ。ところが14日前になると、¥6,000〜8,000は93.5%まで駆け上がるのに対し、¥13,000〜16,000は81.2%にとどまる。差がつくのは最後の30日、とりわけ30日前から14日前までの2週間である。この区間で低〜中単価帯は残った枠をほぼ吐き切り、高単価帯は3日前まで在庫を持ち続けている。
価格帯が先、地理は後 — 同じ¥6,000〜10,000でも長野40.7%・大阪1.0%
ここからが本稿の設計の核心である。バンドを先に決めると、そのバンドの「中身」として地理が浮かび上がる。下表は各バンドの上位構成県だ。
| ADRバンド | N(5/3) | 構成上位3県(施設数) |
|---|---|---|
| ¥6,000未満 | 334 | 鹿児島県27、福島県22、茨城県19 |
| ¥6,000〜8,000 | 765 | 茨城県44、愛知県40、静岡県39 |
| ¥8,000〜10,000 | 478 | 大阪府65、愛知県40、北海道37 |
| ¥10,000〜13,000 | 489 | 東京都104、大阪府52、愛知県37 |
| ¥13,000〜16,000 | 317 | 東京都132、大阪府31、福岡県26 |
| ¥16,000〜20,000 | 154 | 東京都59、京都府20、福岡県15 |
| ¥20,000以上 | 267 | 東京都121、京都府41、福岡県21 |
価格帯は地理の性格をかなりの精度で言い当てる。¥6,000未満と¥6,000〜8,000は鹿児島・福島・茨城・静岡・北海道といった地方圏の中小規模施設(客室数中央値45〜78室)が中心で、¥8,000〜10,000になると大阪・愛知・北海道の都市部ビジネスホテル(同109室)が主役に替わる。¥13,000を超えると東京の比重が一気に上がり、¥20,000以上では東京121施設・京都41施設が構成の6割を占める。つまり「高単価バンドの需要が鈍い」という観測は、そのまま「東京・京都のゴールデンウィーク需要が鈍い」という観測とほぼ同義になりうる。価格帯と地理は独立ではない。
この交絡を切り分けるため、東京を除いた全国だけで同じ集計を行った。結果、東京以外でも完売観測比率は¥6,000〜8,000で43.2%、¥8,000〜10,000で53.0%と山を作り、¥20,000以上では28.1%に落ちる。早期完売LTの中央値も¥6,000〜8,000で18日前、¥8,000〜10,000で14日前、¥20,000以上で3日前と、全国と同じ勾配が残る。単一市場の内側でも同様で、愛知県では¥8,000〜10,000の完売観測比率が72.5%(N=40)と、同県の¥6,000〜8,000(37.5%、N=40)を大きく上回った。バンドの形は東京の構成比だけで説明できるものではないと読める。
逆に、同じバンドの内側では地理が強く効く。最速バンド帯(¥6,000〜10,000)を県別に分解すると、LT14時点の残室ゼロ比率は愛媛72.7%、山梨54.5%、山口42.9%、長崎41.7%、福岡40.9%を筆頭に、長野40.7%、岐阜30.4%、福島28.1%、栃木27.8%、静岡26.7%と、行楽地や地方中核都市を抱える県が上位に並ぶ。同じ価格帯でありながら大阪府は1.0%、兵庫県は5.9%と対照的だ。価格帯は需要の「入り方」を決め、地理はその「濃さ」を決めるという二層構造になっている。
| 都道府県 | 対象施設数 | 客室数合計 | LT14残室0比率 | LT14稼働中央値 |
|---|---|---|---|---|
| 愛媛県 | 12 | 1,477 | 72.7% | 100.0% |
| 山梨県 | 13 | 1,041 | 54.5% | 100.0% |
| 山口県 | 14 | 1,659 | 42.9% | 97.8% |
| 長崎県 | 17 | 1,563 | 41.7% | 98.7% |
| 福岡県 | 22 | 3,575 | 40.9% | 98.0% |
| 長野県 | 32 | 2,449 | 40.7% | 98.0% |
| 滋賀県 | 13 | 916 | 40.0% | 97.3% |
| 広島県 | 22 | 2,445 | 33.3% | 98.6% |
| 岐阜県 | 27 | 2,824 | 30.4% | 97.4% |
| 京都府 | 24 | 3,397 | 30.4% | 87.5% |
| 福島県 | 41 | 3,902 | 28.1% | 97.7% |
| 栃木県 | 39 | 3,581 | 27.8% | 93.8% |
この分布は、2026年ゴールデンウィークの旅行動向とも整合する。JTBの推計では総旅行者数が前年比101.9%と微増する一方、1人あたり平均費用は4万6,000円(同97.9%)と減少し、居住地域内の近距離・短期間・自家用車利用が増えたとされる。近距離・低単価の需要が厚くなる年は、その需要が最初に触れるのは中価格帯以下の客室であり、行楽地に近い地方圏でその圧力が最も強く出る、という説明と観測は矛盾しない。
供給はどこへ向かっているか — 新規客室の19.8%が¥20,000超、¥13,000〜16,000は半減
需要側の勾配が分かったところで、供給側の向きを重ねる。2024年から2026年に開業したビジネスホテル・シティホテル713施設のうち、推定成約ADRを12ヶ月ベースで確定できた529施設・59,184室を同じ7バンドに割り付け、既存ストック(本稿の分析母集団4,650施設・532,682室)の客室シェアと比較した。
| ADRバンド | 既存施設数 | 既存客室数 | 既存客室シェア | 新規施設数 | 新規客室数 | 新規客室シェア | 差 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ¥6,000未満 | 624 | 38,727 | 7.3% | 67 | 4,173 | 7.1% | -0.2pt |
| ¥6,000〜8,000 | 1356 | 130,528 | 24.5% | 159 | 15,782 | 26.7% | +2.2pt |
| ¥8,000〜10,000 | 813 | 99,670 | 18.7% | 90 | 11,272 | 19.0% | +0.3pt |
| ¥10,000〜13,000 | 728 | 96,084 | 18.0% | 72 | 9,729 | 16.4% | -1.6pt |
| ¥13,000〜16,000 | 455 | 65,549 | 12.3% | 36 | 3,650 | 6.2% | -6.1pt |
| ¥16,000〜20,000 | 257 | 37,772 | 7.1% | 27 | 2,868 | 4.8% | -2.3pt |
| ¥20,000以上 | 417 | 64,352 | 12.1% | 78 | 11,710 | 19.8% | +7.7pt |
読み取れるのは3点である。第一に、¥20,000以上バンドは既存客室シェア12.1%に対して新規客室シェア19.8%と、+7.7ポイント厚く供給されている。施設数ベースでも既存9.0%に対し新規14.7%だ。第二に、¥13,000〜16,000は既存12.3%に対し新規6.2%と、供給の厚みがほぼ半分に薄まっている。第三に、最速で埋まる¥6,000〜10,000のゾーンは既存43.2%に対し新規45.7%で、ほぼ横ばい。需要の消化が最も速い帯に、供給が特段の重心を置いているわけではない。なお、こうした新規供給の積み増しが単価にどう跳ね返るかは県の規模によって異なり、ホテル新規供給はADRを下げるかで47都道府県を対象に検証している。
年次で見ると、¥20,000以上のシェアは2024年開業で13.7%、2025年で15.2%、2026年で16.7%(施設数ベース)と緩やかに切り上がっている。ただし2026年開業はADRを確定できた施設が54件と少なく、この年次系列だけで趨勢を断定はできない。OTA掲載は開業の数ヶ月前からしか出ないため、直近年ほど観測が途中であり、今後の掲載で件数は増える。
結論の感度 — 3断面のばらつきと、順位はどこまで動かないか
ここまでの結論は主にゴールデンウィークの主断面(2026年5月3日)に依拠している。断面を変えても同じ結論になるのか、どこから先は断定できないのかを、本稿がすでに観測している3断面のばらつきそのもので確認しておく。以下は新たな推計ではなく、既出の断面別数値を最小・中央・最大に組み替えたものである。将来日程の予測は含まない。
| ADRバンド | N(5/3) | 最小 (3断面) | 中央 (3断面) | 最大 (3断面) | 幅 (最大−最小) | 順位 5/3 / 5/4 / 8/13 | 順位 変動幅 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| ¥6,000未満 | 334 | 5.0% | 12.1% | 17.2% | 12.2pt | 3 / 3 / 1 | 2 |
| ¥6,000〜8,000 | 765 | 8.8% | 11.5% | 19.6% | 10.8pt | 1 / 2 / 2 | 1 |
| ¥8,000〜10,000 | 478 | 9.6% | 11.0% | 17.3% | 7.7pt | 2 / 1 / 3 | 2 |
| ¥10,000〜13,000 | 489 | 4.4% | 6.9% | 9.9% | 5.5pt | 4 / 4 / 4 | 0 |
| ¥13,000〜16,000 | 317 | 2.4% | 4.5% | 6.8% | 4.4pt | 6 / 6 / 6 | 0 |
| ¥16,000〜20,000 | 154 | 3.9% | 5.1% | 6.1% | 2.2pt | 5 / 5 / 7 | 2 |
| ¥20,000以上 | 267 | 1.7% | 3.5% | 6.8% | 5.1pt | 7 / 7 / 5 | 2 |
読み取れることは2つある。第一に、順位の並びはほぼ動かない。¥10,000〜13,000は3断面すべてで4位、¥13,000〜16,000は3断面すべてで6位に固定されており、上位3枠は常に¥10,000未満の3バンドが占める。どの断面を選んでも「低〜中単価帯が先に埋まり、¥13,000超が後に残る」という並び自体は崩れない。第二に、最速バンドを1本に特定することはできない。最大値では¥6,000〜8,000(19.6%)、中央値では¥6,000未満(12.1%)、最小値では¥8,000〜10,000(9.6%)が首位に立つ。本稿が結論として置くべき単位は個別バンドではなく、¥10,000未満というゾーンである。
| ゾーン | N(5/3) | 2026-05-03 | 2026-05-04 | 2026-08-13 |
|---|---|---|---|---|
| ¥10,000未満(3バンド) | 1,577 | 17.3% | 8.2% | 12.6% |
| ¥13,000以上(3バンド) | 738 | 4.5% | 2.5% | 6.4% |
| 両ゾーンの倍率 | — | 3.87倍 | 3.35倍 | 1.95倍 |
| 両ゾーンの差 | — | 12.8pt | 5.8pt | 6.1pt |
ゾーン単位で見ると、差の向きは3断面で一貫している一方、差の大きさは断面で大きく変わる。ゴールデンウィーク初日(5月3日)には¥10,000未満ゾーンが¥13,000以上ゾーンの3.87倍の比率で2週間前に閉じているが、お盆(8月13日)では1.95倍まで縮む。お盆断面では¥20,000以上バンドの順位が7位から5位へ上がり(6.8%)、¥13,000〜16,000(6.8%)や¥10,000〜13,000(6.9%)とほぼ横並びになる。つまり「¥13,000で折れる」という段差はゴールデンウィークで最も鋭く、お盆ではかなり鈍い。需要期の性格によってコントラストの強さが変わる点は、バンド戦略を年間の意思決定に翻訳する際の前提として押さえておく必要がある。
もう一点、バンドの割り付け自体にも幅がある。本稿のADRは推定値であり、上場ホテルREITの物件別開示との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%である。したがってバンド境界の近傍にある施設は、実際には隣のバンドに属している可能性がある。この影響は、幅の狭いバンド(¥8,000〜10,000、¥10,000〜13,000)ほど相対的に大きい。また¥16,000〜20,000はN=154と他バンドより小さく、3断面の幅も2.2ptと最小である一方、順位は5位から7位まで動いている。同バンドの数値は幅を持って読む必要がある。
バンド別に読む参入機会
¥6,000〜10,000 — 需要が最初に詰まる帯
ピーク日の2週間前に枠が閉じる比率が全バンドで最も高く、早期完売LTの中央値も13〜18日前と最長。新規客室シェアは既存とほぼ同水準にとどまり、供給が需要の速さに追いついて厚みを増しているわけではない。行楽地に近い地方圏(長野・岐阜・福島・栃木・静岡)では、この帯のLT14残室ゼロ比率が27〜41%に達する。同じ価格帯構造を県単位で切り出した例は宮崎・佐賀のホテル投資ホワイトスペースも参考になる。
¥10,000〜13,000 — 消化の折れ点
LT14残室ゼロ比率は9.9%と、上下のバンドをつなぐ位置にある。構成は東京104施設・大阪52施設と都市部が中心で、客室数中央値119室と規模も大きい。上の帯と下の帯のどちらの性質を取り込むかで結果が変わる、設計自由度の高い帯といえる。
¥13,000〜16,000 — 供給が薄くなる帯
新規客室シェア6.2%は既存12.3%の半分。ピーク消化は速くないが、この帯に新しい客室がほとんど積み上がっていないため、数年単位で見ると競合の増え方が最も緩やかな帯になる。既存物件のリポジショニング先としての余地はここにある。
¥20,000以上 — 単価の伸びしろを取りに行く帯
新規客室の19.8%が集中し、業界全体として最も意欲的に単価を取りに行っている領域。ピーク日の在庫は直前まで動くため、消化は最後の3日に寄る。東京121施設・京都41施設と立地が絞られており、この2市場以外での展開余地が残る。
ここまでの整理を、投資判断の言葉に置き換えるとこうなる。需要が最も早く詰まるのは¥6,000〜10,000、供給が最も薄くなるのは¥13,000〜16,000、単価の上値を取りに行っているのは¥20,000以上。3つが別々のバンドに分かれているという事実が、本稿の最大の発見である。「需要が速い帯に出す」「競合が増えない帯に出す」「単価を取りに行く帯に出す」は、2026年の日本市場では同じ意思決定ではない。開発担当は自社が3つのうちどれを狙っているのかを先に決めたうえで、そのバンドの中身として地理を選ぶ順序に組み替えると、既存のエリア起点の検討とは違う候補地が浮かんでくるはずだ。
なお本稿の観測は確定済みのピーク日3断面に基づくものであり、将来日程について「早く埋まるから値上げできる」といった判断を導くものではない。バンド間の相対的な消化スピードの差を示すことが目的であり、個々の施設の価格戦略はそれぞれの商圏条件のもとで検討されるべきものである。
集計方法と出典
対象は全国のビジネスホテルおよびシティホテル。断面は確定済みの3日、2026年5月3日・5月4日(ゴールデンウィーク)と2026年8月13日(お盆)である。将来日程は用いていない。
母集団は当社が把握するビジネスホテル13,292施設・シティホテル1,599施設の計14,891施設。このうち在庫の観測データを取得できたのは5月3日断面で6,764施設、5月4日断面で7,044施設、8月13日断面で7,870施設。さらに最大在庫掲載率30%以上(観測期間中にOTAへ同時掲載された客室数の最大値が総客室数の3割以上)という抽出条件を課し、5月3日2,841施設、5月4日3,374施設、8月13日3,749施設を集計対象とした。この条件を課すのは、OTAへの掲載枠を絞って運用している施設では、残室数の推移が施設全体の需給を表さないためである。掲載枠が小さい施設の背景には、公式サイト直販やコールセンター・旅行会社経由を中心としたチャネル運用、チェックインが近づくにつれ在庫を小出しに追加する運用、契約上のOTA割当が小さいなど複数の可能性が考えられ、公開情報からは判別できない。
各施設のADRバンドは、2025年9月から2026年8月までの確定月の推定成約ADR(有効6ヶ月以上)の中央値により割り付けた。バンド別の最終サンプル数は、5月3日断面で¥6,000未満334施設/¥6,000〜8,000が765施設/¥8,000〜10,000が478施設/¥10,000〜13,000が489施設/¥13,000〜16,000が317施設/¥16,000〜20,000が154施設/¥20,000以上267施設(合計2,804施設、抽出条件適合2,841施設のうちADRを確定できた分)。5月4日断面は合計3,335施設、8月13日断面は合計3,665施設。¥16,000〜20,000バンドは5月3日断面でN=154と他バンドに比べ小さく、同バンドの数値は幅を持って読む必要がある。県別の集計は該当バンドで10施設以上を確保できた県に限定した。
新規供給は、当社がOTA掲載を確認した2024〜2026年開業のビジネスホテル・シティホテル713施設のうち、推定成約ADRを確定できた529施設・59,184室。OTA掲載は開業の数ヶ月前からしか出ないため、直近年ほど観測が途中であり、時間の経過とともに件数は増える。既存ストック側の比較対象は本稿の分析母集団(3断面いずれかで抽出条件を満たしADRを確定できた4,650施設・532,682室)である。
稼働率は当社推定(OTA掲載在庫ベース)であり、OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値である。施設全体の実稼働率とは異なる。個別施設の稼働率は算出しておらず、本稿の稼働率は全てバンド単位・エリア単位の集計値である。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の確定月・有効6ヶ月以上の中央値)、客室在庫のリードタイム別推移、推定稼働率(OTA掲載在庫ベース)、および新規開業データ(OTA掲載確認ベース)。母集団は当社が把握するビジネスホテル13,292施設・シティホテル1,599施設の計14,891施設。ゴールデンウィークの全国稼働(5月3日97.2%・5月4日95.6%)は47都道府県の客室数加重で再集計し、ビジネスホテル97.3%/95.6%、シティホテル97.1%/95.7%を確認している。
■ 試算前提
断面は確定済みの3日(2026年5月3日・5月4日・8月13日)のみで、将来日程は用いていない。抽出条件は最大在庫掲載率30%以上。主指標はチェックイン14日前時点の残室ゼロ比率で、副指標として完売観測比率・早期完売LT中央値・完売観測日数中央値を併記する。ゾーン別の値は各バンドの対象施設数(5月3日断面)による加重平均。感度は3断面の最小・中央・最大で表現しており、確率分布に基づく予測区間ではない。
■ 限界・留意点
推定成約ADRは上場ホテルREITの物件別開示との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値が約7%であり、バンド境界近傍の施設は隣接バンドに属している可能性がある。¥16,000〜20,000バンドは5月3日断面でN=154と小さく、数値は幅を持って読む必要がある。稼働率はOTA掲載在庫ベースの推定値であり施設全体の実稼働率とは異なるため、バンド単位・エリア単位の集計にのみ用いている。本稿は価格帯間の相対的な消化スピードの差を示すものであり、個別施設の価格判断や将来日程の値上げ余地を導くものではない。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR、客室在庫のリードタイム別推移、推定稼働率(OTA掲載在庫ベース)、新規開業データ(OTA掲載確認ベース)
■ 業界レポート・報道
