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ふるさと住民登録制度、2027年3月開始見通し — 関係人口1,000万人は平日の宿に何室泊を生むか

投稿日 : 2026.10.25

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ふるさと住民登録制度、2027年3月開始見通し — 関係人口1,000万人は平日の宿に何室泊を生むか

総務省が創設を進める「ふるさと住民登録制度」は、住所地以外の地域に継続的に関わる人をアプリで登録し、関係人口を可視化する仕組みで、同省は「2026年度中の制度開始」を掲げている。2026年10月5日には「ふるさと住民応援コンソーシアム」(2025年9月設立、事務局は楽天グループ)が、参画する楽天グループ・日本旅行・タイミー・おてつたび・LIFULLの5社の協力で自治体向けの「ふるさと住民登録制度ソリューションブック」を公開し、宿泊補助設計や旅行・体験コンテンツなど10分野の支援策を示した。本稿では制度の時間割を整理したうえで、関係人口が泊まる「平日・連泊・リピート」の受け皿を47都道府県の推定OCCで確かめ、先行して施策を公表した6自治体の宿泊ストックと推定成約ADRから、登録者1,000人が生む室泊数を試算する。

なお、本サイトで先に取り上げた「二地域居住の指定28市町村」は、国土交通省所管の広域的地域活性化法(2024年11月改正施行)に基づき、市町村が特定居住促進計画を作成し民間の支援法人を指定する制度である。一方のふるさと住民登録制度は総務省所管で、住所を移さない個人がアプリで地域に登録する側の仕組みであり、居住拠点の整備ではなく「関わりの可視化」が目的になる。両制度は補完関係にあり、京丹後市のように特定居住支援法人の指定とふるさと住民キャンペーンを同時に進める自治体も出てきた。本稿は後者の制度に絞り、前者の記事と内容を重ねない。

本記事のデータについて
• ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
• エリア(都道府県・市区町村)単位のADRは、対象施設の推定成約単価の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
• 掲載価格に言及する箇所は、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
• OCC(稼働率)=エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
• 出典:メトロエンジンリサーチ(国内約168,000施設のOTA公開価格を継続追跡、うち稼働確認済み約27,000施設)
本稿の推定OCCについて
• 推定OCCは宿泊日の1日前(LT1)時点のOTA残室から算出した「稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)」で、OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なる。宿泊日の45日超前の観測は使っていない。
• 「日〜木」「金土」は宿泊日の曜日で分け、2026年9月の日別推定OCCを単純平均した値。推定OCCを示す箇所には対象施設数・客室数(主要予約サイト掲載ベース)を併記した。
• 推定成約ADRは確定値(履歴基準)の月のみを使い、2026年10月以降の掲載スナップショットは用いていない。本文の数値は2026年10月20日時点の再取得値である。
Key Takeaways
  • — 2026年度中に開始:総務省は「2026年度中の制度開始」「アプリは年度末リリース予定」と表記し、報道では2027年3月開始の見通し。政府目標は10年間で実人数1,000万人・延べ1億人。
  • — 宿泊を組み込んだ制度設計:プレミアム登録は年3回以上の担い手活動が必須。サポート施策に交通・宿泊費補助が例示され、年間10日以上の滞在をベースに長期滞在者の要件を設定できる。
  • — 全国の曜日差は1.7pt:2026年9月の推定OCCは日〜木85.0%・金土86.7%(対象12,048施設/766,694室)。奈良県+6.4pt・山梨県+5.8ptは平日に余地を残す。
  • — 2,000室泊の重みは町で違う:登録者1,000人×年2回×2泊の試算では、那須町で年間供給の0.24%、京丹後市で日〜木の空室の9.6%、甲州市(対象42室)で年間供給の13.0%に相当。
  • — 宿の準備は3つ:登録者向けの平日料金、ワーク設備の明示、長期滞在(連泊)プラン。いずれも制度開始を待たずに整えられる。

制度の概要 — 2区分の登録と「10年で実人数1,000万人」

制度の骨格は総務省が2026年3月に公表した「基本的な制度設計(案)」と、同年9月の推進室資料に整理されている。登録は関わりの深さに応じた2区分で、要件のない「ベーシック登録」と、年3回以上の担い手活動を必須要件とする「プレミアム登録」に分かれる。宿泊業の読者にとって重要なのは、プレミアム登録のサポート施策として「交通・宿泊費補助」「ワーキングスペース利用料補助」が例示され、「年間10日以上滞在」をベースに自治体が長期滞在者の要件を設定できる点だろう。つまり制度は、設計の段階から宿泊と滞在を関係深化の手段として組み込んでいる。

ふるさと住民登録制度の主な設計(公表資料ベース)
項目内容出典
制度の目的住所地以外の地域に継続的に関わる人を登録し、関係人口の規模と地域との関係性を可視化して、担い手の確保と地域経済の活性化につなげる総務省「ふるさと住民登録制度について」(令和8年9月)
登録の方法国が構築する共通システム(ふるさと住民アプリ)から市区町村・都道府県に登録する。自治体の参加は任意で、市区町村に登録すると都道府県にも同時登録される仕組みが基本総務省「基本的な制度設計(案)」
ベーシック登録要件を設けず自動的に登録できる。登録先の数に制限はなく更新も不要(一定期間アクセスがない場合は解除)。自治体から地域の情報提供を受ける同上
プレミアム登録「年3回以上、自治体が指定する担い手活動を実施すること」が必須要件。マイナンバーカードによる本人確認が必須で、登録は3団体まで、年1回程度の更新。年間10日以上の滞在をベースに自治体が設定する要件を満たす長期滞在者は登録証に明示できる同上
サポート施策の例交通・宿泊費補助、ワーキングスペース利用料補助、公共施設等の住民並み利用、避難先としての受入など。現地に行かなくても物的恩恵が及ぶ「返礼品」型の特典は禁止同上
政府目標関係人口の量的拡大・質的向上として、今後10年間で実人数1,000万人・延べ人数1億人を目指す地方創生2.0基本構想(2025年6月13日閣議決定)
予算システム構築は令和7年度補正予算32.1億円(デジタル庁一括計上)、モデル事業は同3.5億円(総務省)。令和9年度概算要求は普及促進事業として3.22億円総務省資料
モデル事業161団体の応募から、都道府県と市町村の連携モデル7道県(域内37市町村)と個別市町村モデル21市町村を2026年3月27日に採択豊岡市資料(2026年5月)
システム利用料令和9年度までに参加する団体は一定期間負担を求めない。令和10年度以降の参加団体の負担は今後検討総務省資料

出典:総務省「ふるさと住民登録制度について」(令和8年9月)、同「基本的な制度設計(案)」、内閣官房資料(閣議決定の抜粋)、豊岡市資料(2026年5月)よりホテルバンク編集部作成

目標値の出どころも確認しておきたい。「実人数1,000万人・延べ人数1億人」は2025年6月13日に閣議決定された地方創生2.0基本構想の「当面の目標」に、「関係施策と連携し、今後10年間で」という条件付きで記されている。延べ1億人は登録の延べ数であって宿泊者数ではないが、プレミアム登録の要件が年3回以上の訪問を伴う担い手活動である以上、登録の深化は訪問回数の増加と同義になる。ここに宿泊需要としての意味がある。

時間割 — 2026年10〜12月の試用版実証から2027年3月へ

開始時期は資料によって表記が揺れるため、公表資料の文言をそのまま並べる。総務省の特設サイトは「2026年度中の制度開始」と「ふるさと住民アプリは年度末リリース予定」を掲げ、令和8年9月の推進室資料は2027年1〜3月に「正式版完成」「自治体におけるシステムの事前運用」を置いている。報道ベースでは2026年10月15日付の熊本日日新聞が「2027年3月に始まる見通し」と伝えた。自治体の参加は任意で、令和9年度までに参加する団体はシステム利用料を一定期間負担しない。

制度開始までの時間割(公表資料の表記どおり)
時期できごと(公表資料の表記)
2025年6月13日地方創生2.0基本構想・骨太方針2025を閣議決定。制度創設と「実人数1,000万人・延べ1億人」目標を明記
2025年9月ふるさと住民応援コンソーシアム設立(事務局:楽天グループ)
2026年3月27日ガイドライン(Ver.1.0)公表、モデル事業の対象自治体を採択
2026年4〜6月全国の自治体で取組内容を検討。システム開発(試用版)に着手
2026年7月24日総務省が特設サイト「ふるさと住民登録制度ナビ」を公開(第1回全国説明会は6月に宮城県で開催)
2026年7〜9月試用版完成。9月30日に第2回全国説明会
2026年10月5日コンソーシアム5社が「ソリューションブック」を公開(宿泊補助設計・旅行・体験コンテンツなど10分野)
2026年10〜12月モデル団体が試用版を活用して実証。自治体のシステム利用申請
2027年1〜3月正式版完成、自治体におけるシステムの事前運用。総務省は「2026年度中の制度開始」「アプリは年度末リリース予定」と表記(報道では2027年3月開始の見通し)

出典:総務省「ふるさと住民登録制度ナビ」、総務省「ふるさと住民登録制度について」(令和8年9月・今後のスケジュールは「現時点の想定・未定稿」)、トラベルボイス(2026年10月5日)、熊本日日新聞(2026年10月15日)よりホテルバンク編集部作成

コンソーシアムのソリューションブックは、この時間割の「自治体が取組内容を検討する」段階に向けた民間側のメニュー表といえる。10分野は地域コーディネーター・伴走支援、空き家マッチング、宿泊補助設計、旅行・体験コンテンツ、担い手活動創出、スポーツ・健康・産品振興、地域おこし協力隊支援、人材育成、地域活性化起業人派遣、プラットフォーム提供で、宿泊事業者が直接関わるのは宿泊補助設計と旅行・体験コンテンツの2分野になる。楽天グループは2027年4月にふるさと住民向けのポータルサイトを開始する予定と報じられており、自治体の登録者募集は制度開始の前後で民間の会員基盤を通じて進む構図である。

関係人口は「平日・連泊・リピート」で泊まる — 日〜木に余地がある県

ふるさと住民が泊まる日を想像してみる。年3回以上の担い手活動は祭りや保全活動、副業や地域の仕事であり、週末に集中する観光客とは違って平日を含む。年間10日以上の滞在要件は連泊を前提にしているし、同じ地域に繰り返し通うからリピートにもなる。したがって制度が生む宿泊需要の受け皿は、金土の満室日ではなく日〜木の空室にある。そこで2026年9月(対象12,048施設/客室766,694室・主要予約サイト掲載ベース)の推定OCCを曜日で分けると、全国では日〜木が85.0%、金土が86.7%で、その差は客室数で加重しても1.7ptにとどまる。ただし県別に見ると、平日に余地がある県とそうでない県がはっきり分かれる。

日〜木の推定OCCが低い順に並べると鹿児島県72.4%、長崎県76.8%、大分県77.5%、和歌山県78.2%、宮崎県78.3%となり、いずれも観光需要が週末に寄る県である。金土との差が大きい順では奈良県+6.4pt、山梨県+5.8pt、佐賀県+5.7pt、大分県+5.0pt、新潟県+5.0ptで、奈良県(対象101施設/4,703室)と山梨県(対象262施設/8,623室)は週末に埋まる一方で平日に6.4pt、5.8ptの余地を残していた。逆に鹿児島県(対象301施設/11,313室)は日〜木72.4%に対し金土68.8%と週末のほうが低く、富山県も同様の形で、これらは出張需要が平日を支えている県といえる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年9月宿泊分・LT1時点の残室から推定・対象12,048施設/766,694室)

先行自治体が属する県で見ると、栃木県(対象315施設/13,513室)は日〜木80.5%・金土83.4%、山梨県は日〜木80.7%・金土86.4%、京都府(対象566施設/31,989室)は日〜木83.1%・金土86.5%と、いずれも平日に受け皿がある。一方で北海道(対象679施設/53,149室)は日〜木90.2%、兵庫県(対象354施設/17,641室)は86.2%と9月時点では平日も高水準で、こうした県では関係人口の宿泊が既存需要と重なる時期を避け、閑散期に寄せる設計が合理的になる。なお9月は秋の行楽と出張が重なる月であり、11月以降の閑散期に同じ集計をすれば平日の余地は広がるとみてよい。北海道をはじめ山岳・高原リゾートを抱える道県で11月の谷の深さがそろっていないことは、山岳6道県の11月の谷と平日の埋め方で確かめている。

先行6自治体の宿泊ストックと推定成約ADR

次に、制度開始に先立って関係人口施策を公表している市町村を6つ選び、宿泊ストックと単価を並べた。選定の基準は、総務省のモデル事業に採択されているか、コンソーシアムや楽天グループとの連携を自治体として公表しているか、あるいは那須町のように独自の登録アプリを先に運用しているか、のいずれかを満たすことである。表の施設数・客室数は推定OCCの対象(主要予約サイトに在庫が掲載されている施設)で、推定成約ADRの対象施設数(N)とは集計範囲が異なる。

先行6自治体の施策・宿泊ストック・推定成約ADR(2026年9月)
自治体先行して公表している施策(出典は末尾)推定OCCの対象施設/客室
主要予約サイト掲載ベース・2026年9月
推定成約ADR
2026年9月(確定値)
推定OCC 日〜木/金土
2026年9月
上川町
北海道
コンソーシアム連携「関係人口創出モデル」(2026年4月公表、起業人赴任7月)4施設/466室¥8,260
N=11・前年同月比-10.0%
—(対象施設数が少なく非掲載)
上士幌町
北海道
楽天グループ・タイミー・JALとの共同施策(2026年6月24日)、6自治体連携キャンペーン(7月1日〜)5施設/133室¥12,398
N=4・前年同月比+8.8%
—(対象施設数が少なく非掲載)
那須町
栃木県
「那須町ふるさとアプリ」で二地域居住者を登録、町民料金適用等(2015年ふるさと定住課設置)91施設/2,237室¥18,882
N=53・前年同月比-7.4%
79.3% / 84.3%
甲州市
山梨県
コンソーシアム連携「関係人口創出モデル」(起業人2026年4月1日赴任)、6自治体連携キャンペーン4施設/42室¥14,593
N=5・前年同月比+37.9%
—(対象施設数が少なく非掲載)
京丹後市
京都府
楽天グループを特定居住支援法人に指定(2026年7月1日)、登録希望者2万人目標で情報発信32施設/554室¥19,121
N=75・前年同月比+8.2%
85.6% / 87.9%
豊岡市
兵庫県
総務省モデル事業採択(兵庫県内唯一)、湿地保全・演劇祭スタッフを担い手活動として試行49施設/1,172室¥19,502
N=95・前年同月比+4.8%
81.8% / 81.9%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(ADRは推定成約ADR・確定値、2026年9月と2025年9月の比較。施策の出典は末尾の一覧)

単価の水準は二つの層に分かれる。那須町(N=53)・京丹後市(N=75)・豊岡市(N=95)は2026年9月の推定成約ADRが¥18,900〜¥19,500の帯にあり、温泉旅館とリゾートが主体の観光地型である。前年同月比では京丹後市が+8.2%、豊岡市が+4.8%と伸ばし、那須町は-7.4%と前年の高い水準から落ち着いた。もう一方の上川町(N=11)・上士幌町(N=4)・甲州市(N=5)は¥8,300〜¥14,600の帯で、対象施設数が少ないため月ごとの振れが大きく、前年同月比は参考値にとどめたい。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(推定成約ADR・各自治体の中央値・確定値。N=対象施設数)

推定OCCが算出できた3自治体の曜日差も興味深い。那須町(対象91施設/2,237室)は日〜木79.3%・金土84.3%と週末型の差が5.0ptあるのに対し、豊岡市(対象49施設/1,172室)は日〜木81.8%・金土81.9%でほぼ差がなく、京丹後市(対象32施設/554室)も2.3pt差にとどまる。那須町は約1万棟の別荘を抱える二地域居住の先進地であり、平日の余地が最も大きい自治体でもある。制度の長期滞在者要件と最も相性がよい受け皿といえるだろう。栃木県の旅館・リゾートで連休のピークと10月上旬平日の谷が39.7pt開いた構造については、栃木県の旅館・リゾート、9月5連休と10月上旬平日の谷が詳しい。

登録者1,000人が年2回・2泊した場合の室泊数 — 前提を明示した簡易試算

では、登録が宿泊にどの程度つながるのか。前提を次のように置く。ある自治体にプレミアム登録に近い関わり方をする登録者が1,000人いて、年2回訪れ、1回あたり2泊する。これで年間4,000人泊になる。本稿のADRは2名1室利用時の1室あたり単価なので、2名1室なら2,000室泊、1名1室なら4,000室泊で、売上換算は2名1室の2,000室泊に推定成約ADRを掛けた値を示す。年間の供給室泊は客室数×365日、日〜木の年間空室は客室数×約261日×(1−日〜木推定OCC)とし、2026年9月の推定OCCが通年続くと仮定した粗い目安である。登録者数や訪問頻度は仮定であり、制度の実績値ではない。

登録者1,000人×年2回×2泊(2,000室泊)の簡易試算
自治体対象客室年間供給室泊
客室×365
2,000室泊の比率日〜木の年間空室に対する比率推定成約ADR 2026年9月2,000室泊の売上換算
上川町466室170,090室泊1.18%—¥8,260約1,652万円
上士幌町133室48,545室泊4.12%—¥12,398約2,480万円
那須町2,237室816,505室泊0.24%1.7%¥18,882約3,776万円
甲州市42室15,330室泊13.05%—¥14,593約2,919万円
京丹後市554室202,210室泊0.99%9.6%¥19,121約3,824万円
豊岡市1,172室427,780室泊0.47%3.6%¥19,502約3,900万円

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(前提:登録者1,000人×年2回×2泊×2名1室=2,000室泊。推定OCCは2026年9月・主要予約サイト掲載ベース)

結果は自治体の規模で大きく違う。那須町では2,000室泊が年間供給の0.24%、日〜木の空室の1.7%に過ぎず、売上換算約3,776万円は町全体の宿泊市場からすれば小さい。しかし京丹後市では日〜木の空室の9.6%に相当し、豊岡市でも3.6%になる。さらに上士幌町(対象133室)では年間供給の4.1%、甲州市(対象42室)では13.0%と、小規模な町では登録者1,000人の宿泊が供給の1割を動かす計算になる。京丹後市は登録希望者2万人に向けた情報発信を掲げており、仮に2万人の1割が上記の頻度で泊まれば室泊数は本試算の2倍、つまり日〜木の空室の約2割を埋める規模になる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(売上換算=2,000室泊×推定成約ADR 2026年9月。比率=2,000室泊÷年間供給室泊)

この試算が示すのは、制度の宿泊インパクトが「県」ではなく「町」の単位で効くということである。全国の客室の0.1%にも満たない室泊数でも、客室数が数百室の自治体では平日の空室の数%から1割を占める。ソリューションブックが宿泊補助設計を独立した分野に置いた理由も、ここにあるとみてよい。補助の原資を持つのは自治体で、受け皿を持つのは宿であり、両者が連携する設計次第で同じ登録者数から生まれる室泊数は変わる。

宿の側の機会 — 登録者向け料金・ワーク設備・長期滞在プラン

宿泊事業者が今から準備できることは三つある。第一に登録者向け料金である。プレミアム登録者はアプリの登録証で身分を示せるため、自治体の宿泊費補助と組み合わせた「ふるさと住民料金」を平日限定で設定しやすい。日〜木の推定OCCが8割前後の自治体では、補助後の実質単価を下げても空室を埋めるほうが収益を押し上げる余地がある。制度は返礼品型の特典を禁じているが、宿泊そのものは現地に行かなければ受けられない体験であり、禁止の対象にはあたらない。

第二にワーク設備である。制度のサポート施策にワーキングスペース利用料補助が例示されているように、担い手活動と仕事を組み合わせる滞在が想定されている。客室の机と電源、館内の共用ワークスペース、長時間の滞在に耐える通信環境は、本サイトのワーケーション導入事例でも需要の受け皿として繰り返し確認されてきた要素だ。既存の設備を「ふるさと住民向け」と明示するだけでも訴求になる。

第三に長期滞在プランである。年間10日以上の滞在要件を満たす長期滞在者は登録証にその旨を明示できるため、自治体はこの層を優先してサポートする可能性が高い。平日3連泊が取れる秋の温泉地の記事で見たように、平日の連泊在庫は地方の温泉地ほど残りやすく、連泊割引と担い手活動の日程を組み合わせたプランは制度と最も直接に接続する。加えてふるさと納税の宿泊返礼品は制度の外側にある別の仕組みだが、同じ自治体に関わる人が両方を使う導線は自然であり、宿としては二つの制度を一枚の案内にまとめておきたい。

自治体と投資家の視点を補足しておく。自治体にとって宿泊補助は、登録者の訪問回数を増やす最も直接的なサポート施策であり、補助単価×想定室泊数で予算規模が見積もれる。本稿の前提なら2,000室泊に1泊3,000円の補助を付けて600万円で、売上換算の約3,776万円前後を地域に呼び込む計算になる。投資家にとっては、客室数が数百室規模で日〜木の推定OCCに余地があり、かつ自治体が制度参加を公表している町が、平日需要の底上げを期待できる立地ということになる。

まとめ

ふるさと住民登録制度は2026年10〜12月の試用版実証を経て、総務省の表記では2026年度中、報道では2027年3月に始まる見通しである。政府目標の「10年で実人数1,000万人」は登録者数の目標だが、プレミアム登録の要件が年3回以上の担い手活動と年10日以上の滞在に置かれている以上、制度の深化は平日・連泊・リピートの宿泊需要として現れる。2026年9月の推定OCCは全国で日〜木85.0%・金土86.7%と差が小さいものの、奈良県や山梨県のように週末との差が6pt前後ある県、那須町のように日〜木が8割を下回る町には受け皿が残っている。登録者1,000人が年2回2泊する前提の2,000室泊は、那須町では年間供給の0.24%でも、京丹後市では日〜木の空室の9.6%、上士幌町では年間供給の4.1%に相当する。宿にとっての機会は、登録者向けの平日料金、ワーク設備の明示、長期滞在プランの三つで、いずれも制度開始を待たずに整えられる。

よくある質問

Q. ふるさと住民登録制度はいつ始まりますか。
総務省の表記は「2026年度中の制度開始」「アプリは年度末リリース予定」で、報道では2027年3月開始の見通しです。

Q. ベーシック登録とプレミアム登録はどう違いますか。
ベーシック登録は要件なしで誰でも登録でき、プレミアム登録は年3回以上の担い手活動とマイナンバーカードによる本人確認が必須(3団体まで)で、交通・宿泊費補助などのサポート施策の対象になります。

Q. 宿泊施設はどのように関われますか。
自治体の宿泊費補助と組み合わせた登録者向け料金、ワークスペースの提供、年10日以上の滞在要件に沿った連泊プランが接点で、ソリューションブックの「宿泊補助設計」「旅行・体験コンテンツ」が宿泊事業者に関わる分野です。

Q. 国土交通省の二地域居住の制度とは何が違いますか。
二地域居住の制度は広域的地域活性化法(2024年11月改正施行)に基づき、市町村が特定居住促進計画を作成し民間の支援法人を指定する居住拠点側の仕組みです。ふるさと住民登録制度は総務省所管で、住所を移さない個人がアプリで地域に登録し、関わりを可視化する仕組みです。両制度は補完関係にあります。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチのOTA公開価格・残室データ(推定OCC:2026年9月宿泊分・LT1時点、47都道府県と6市町。推定成約ADR:市区町村別の中央値・確定値、2025年9月と2026年9月)と、総務省・内閣官房・各自治体のプレスリリース・報道の公表資料。

■ 試算前提

登録者1,000人×年2回×1回2泊=年4,000人泊、2名1室で2,000室泊(1名1室なら4,000室泊)。年間供給室泊=客室数×365日、日〜木の年間空室=客室数×約261日×(1−日〜木の推定OCC)。2026年9月の推定OCC・推定成約ADRが通年続くと仮定した。登録者数・訪問頻度は仮定で、制度の実績値ではない。

■ 限界・留意点

推定OCCはOTA掲載在庫ベースの推定値で、施設全体の実稼働率とは異なる。9月は行楽と出張が重なる月で、閑散期の平日の余地は本稿の値より大きい可能性がある。上川町・上士幌町・甲州市は推定成約ADRの対象施設数が少なく(N=4〜11)、前年同月比は参考値。制度の今後のスケジュールは総務省資料で「現時点の想定・未定稿」とされている。

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