2026年のインバウンドはどこに着地するのか。日本政府観光局(JNTO)が2026年8月19日に公表した訪日外客数(2026年7月推計値)は344万2,100人で、7月として過去最高を記録した。ただし前年同月比は+0.1%とほぼ横ばいで、1〜7月の累計は前年同期を1.7%下回っている。本稿では「2026年は◯◯万人になる」と断定するのではなく、いま何%まで進んでいるのか、残り5か月にどれだけのペースが必要か、そしてその人数が客室需要に換算すると何室泊になるのかを、公的統計だけで再現できる計算式として提示する。数値は毎月のJNTO発表と観光庁「宿泊旅行統計調査」で更新できる。
結論を先に — 2026年インバウンドの進捗ダッシュボード(2026年7月時点)
| 項目 | 数値 | 出典・算出 |
|---|---|---|
| 1〜7月累計 訪日外客数 | 2,452.7万人 | JNTO(7月は推計値) |
| 前年同期比 | −1.7% | 2025年1〜7月 2,495.6万人 |
| 2025年通年に対する進捗率 | 57.5% | 2025年通年 4,268.3万人 |
| 通年着地レンジ(3シナリオ) | 4,137万〜4,314万人 | 8〜12月が前年同期比 −5%/±0%/+5% |
| 中国を除いた1〜7月の伸び | +14.4% | 2,204.1万人(前年同期1,926.3万人) |
| 訪日1人あたり宿泊数 | 3.95泊 | 観光庁 外国人延べ宿泊者数÷JNTO訪日外客数 |
| 通年の外国人客室需要(横ばい時) | 約1.01億室泊 | 全国供給6.17億室泊の約16% |
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年7月推計値)」、観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成
本記事における指標の定義
- 訪日外客数:法務省「出入国管理統計」に基づきJNTOが算出する推計値。外国人正規入国者から日本を主たる居住国とする永住者等を除き、寄港地上陸・通過上陸・船舶観光上陸を加えたもの。駐在員・留学生等の入国者・再入国者を含み、乗員は含まない。
- 外国人延べ宿泊者数:観光庁「宿泊旅行統計調査」における、日本国内に住所を有しない宿泊者の延べ人泊数。訪日外客数とは調査主体・母集団が異なるため、両者の比を「1人あたり宿泊数」として扱う際は概算である点に留意。
- 客室稼働率:観光庁「宿泊旅行統計調査」の公表値(利用客室数÷総客室数×日数)。本記事で用いる稼働率はすべて同調査の公表値であり、当社の推定値ではない。
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- データ出典:日本政府観光局(JNTO)、観光庁「宿泊旅行統計調査」、メトロエンジンリサーチ
※観光庁「宿泊旅行統計調査」は2026年1月分調査から層化変数を「従業者数」から「客室数」に変更している。前年同月比・前年差には見直しの影響が含まれる可能性がある。
- — 進捗57.5% — 2026年1〜7月の訪日外客数は2,452.7万人。2025年通年4,268.3万人に対する消化率で、前年同期比は−1.7%。
- — 通年4,137万〜4,314万人 — 8〜12月を前年同期比−5%/±0%/+5%と置いた機械的レンジ。JTB予測4,140万人はこの下限付近にある。
- — 中国−320.6万人を、他22市場の+268.7万人が83.8%相殺 — 中国を除く1〜7月累計は+14.4%。総量の横ばいは、市場構成の入れ替わりを打ち消した結果。
- — 1人あたり3.95泊(2025年通年4.22泊)— 訪日客数を延べ宿泊者数に換算する係数。低下には層化基準の変更と滞在日数の短い市場への構成シフトの両方が効く。
- — 客室需要は約1.01億室泊=全国供給6.17億室泊の約16% — 着地が177万人ぶれても全国平均シェアの変動は1pt未満。効くのは総量より、どのエリア・業態に落ちるか。
1. 通年着地の計算式 — 進捗57.5%と、残り5か月に必要なペース
通年見通しを立てる作業は、実際には引き算と割り算しか使わない。まず確定している分を積み上げ、次に残り期間の前提を置く。それだけである。
2026年1〜7月の訪日外客数は2,452万7,200人。内訳は1月359万7,881人、2月346万6,848人、3月361万9,159人、4月369万2,364人、5月356万256人、6月314万8,600人、7月344万2,100人(7月は推計値)。前年同期の2,495万5,693人に対して−1.7%である。
次に分母を決める。2025年通年の訪日外客数は4,268万3,301人で、このうち8〜12月は1,772万7,608人だった。年間の41.5%が8〜12月に集中するという季節構造である。したがって2026年1〜7月の2,452.7万人は、2025年通年比で57.5%の進捗にあたる。
ここまでが観測値だ。残る作業は8〜12月に何を仮定するかに尽きる。前年同期比±5%の幅を置いた3シナリオは以下のとおりとなる。
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」よりホテルバンク編集部作成
| 通年着地 | 8〜12月合計 | 必要な月平均 | 前年同期比 | 位置づけ |
|---|---|---|---|---|
| 4,137万人 | 1,684.1万人 | 336.8万人 | −5.0% | 弱含みシナリオ |
| 4,140万人 | 1,687.3万人 | 337.5万人 | −4.8% | JTB予測(2026年1月8日発表) |
| 4,200万人 | 1,747.3万人 | 349.5万人 | −1.4% | 節目ライン |
| 4,225万人 | 1,772.8万人 | 354.6万人 | ±0.0% | 横ばいシナリオ(基準) |
| 4,268万人 | 1,815.6万人 | 363.1万人 | +2.4% | 2025年並み(過去最高更新の分岐点) |
| 4,314万人 | 1,861.4万人 | 372.3万人 | +5.0% | 上振れシナリオ |
| 4,400万人 | 1,947.3万人 | 389.5万人 | +9.8% | 大幅上振れ(達成には相応の追い風が必要) |
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」、株式会社JTB「2026年(1月〜12月)の訪日旅行市場トレンド予測」(2026年1月8日)よりホテルバンク編集部作成
この表の使い方は単純である。毎月JNTOが単月の数値を発表したら、その月の実績が「必要な月平均」のどのラインを上回ったかを見る。8月・9月・10月と実績が積み上がるにつれてレンジは急速に狭まり、10月発表(9月分)の時点でおおむね着地が固まる。
参考として、株式会社JTBは2026年1月8日発表の見通しで通年4,140万人(前年比97.2%)、消費額9.64兆円(同100.6%)を予測している。中国・香港からの需要減により人数では前年をわずかに下回る一方、滞在期間の長い欧米豪市場の伸びで消費額は前年を上回るという構図だ。7月末時点の進捗は、この予測とほぼ整合する位置にある。
なお政府目標との距離も押さえておきたい。2026年3月27日に閣議決定された第5次観光立国推進基本計画は、2030年に訪日外国人旅行者数6,000万人・旅行消費額15兆円を掲げている。2026年が横ばいの4,225万人で着地した場合、2030年までの4年間で年率9.2%の成長が必要になる計算だ。弱含みの4,137万人着地なら年率9.7%となる(年率はいずれもホテルバンク編集部試算)。
2. 国別寄与分解 — 中国の−320万人を、どの市場がどれだけ埋めたか
2026年1〜7月の全体は−1.7%だが、この数字は市場ごとの動きを打ち消し合った結果である。分解すると景色が変わる。
まず中国。1〜7月累計は248万6,500人で前年同期比−56.3%、実数では−320万6,000人のマイナス寄与となった。7月単月でも42万8,200人(−56.1%)で、依然として前年の半分以下の水準が続いている。
一方、増加側の合計は大きい。主要23市場のうち中国を除く22市場はすべてプラスで、増加分の合計は+268万7,000人。中国の減少分の83.8%を埋めた計算になる。牽引したのは韓国(656万9,800人、+20.3%、+110万8,000人)と台湾(473万6,000人、+21.8%、+84万7,000人)で、この2市場だけで中国の減少分の61%を相殺している。7月単月では台湾が76万3,800人と単月として初めて70万人を超え、韓国も89万4,700人(+31.9%)と7月として過去最高を記録した。
結果として、中国を除いた1〜7月累計は2,204万700人で、前年同期比+14.4%。つまり2026年のインバウンドは「縮小している市場」ではなく、一つの巨大市場の調整を、他の22市場の合計+14.4%の成長が吸収しきれるかどうかの局面にある。この構図を理解しているかどうかで、通年見通しの読み方は大きく変わる。
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」よりホテルバンク編集部作成(2026年1〜7月累計、7月は推計値)
| 市場 | 2026年1〜7月 | 2025年同期 | 増減(人) | 前年同期比 |
|---|---|---|---|---|
| 韓国 | 6,569,800 | 5,462,088 | +1,107,712 | +20.3% |
| 台湾 | 4,736,000 | 3,888,980 | +847,020 | +21.8% |
| 米国 | 2,107,900 | 1,978,506 | +129,394 | +6.5% |
| 香港 | 1,571,000 | 1,447,126 | +123,874 | +8.6% |
| マレーシア | 395,100 | 342,078 | +53,022 | +15.5% |
| インドネシア | 418,700 | 373,572 | +45,128 | +12.1% |
| インド | 230,600 | 189,420 | +41,180 | +21.7% |
| シンガポール | 407,400 | 369,457 | +37,943 | +10.3% |
| カナダ | 419,000 | 387,497 | +31,503 | +8.1% |
| ベトナム | 448,700 | 418,173 | +30,527 | +7.3% |
| 中国 | 2,486,500 | 5,692,537 | −3,206,037 | −56.3% |
| 全体 | 24,527,200 | 24,955,693 | −428,493 | −1.7% |
2025年同期の数値はJNTO公表の累計値と前年同期比伸率から算出。出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」よりホテルバンク編集部作成
実務上のポイントは、市場の入れ替わりが宿泊需要の性質を変えることにある。韓国・台湾は近距離・高頻度・短期滞在が中心で、リピーター比率が高い。中国からの団体・買物中心の需要とは、必要な客室タイプも滞在日数も予約リードタイムも異なる。人数の総量が横ばいであっても、施設側から見える予約の姿は同じではない。中国発の需要が半減した局面でも東京・京都の単価が上がった実測については、中国人訪日-60.4%でも東京・京都はADR上昇 — 労働節2026の4都市実測が代替需要の入り方を都市別に追っている。
3. 訪日客数を延べ宿泊者数に換算する — 2026年は1人あたり3.95泊
訪日外客数はあくまで入国者数であり、宿泊施設の売上に直結する指標ではない。宿泊需要に換算するには「1人あたり何泊が宿泊施設に落ちているか」という係数が要る。これは観光庁「宿泊旅行統計調査」の外国人延べ宿泊者数をJNTOの訪日外客数で割れば求められる。
2026年1〜7月の外国人延べ宿泊者数は合計9,681万7,900人泊(1〜6月は第2次速報値、7月は第1次速報値)。同期間の訪日外客数2,452万7,200人で割ると3.95泊/人となる。月別では1月3.57泊、2月4.05泊、3月3.95泊、4月4.16泊、5月4.07泊、6月3.88泊、7月3.94泊で、4月をピークに3.6〜4.2泊のレンジで推移している。
この係数は前年より低い。2025年通年では外国人延べ宿泊者数1億7,992万人泊÷訪日外客数4,268万3,301人=4.22泊/人だった。0.27泊分の低下である。
ただし、この差をすべて実態の変化と解釈するのは早い。観光庁は2026年1月分調査から層化変数を「従業者数」から「客室数」に変更しており、前年との単純比較には見直しの影響が含まれる可能性がある。加えて、滞在日数の長い中国からの団体需要が減り、短期滞在が中心の韓国・台湾の構成比が上がったという市場構成の変化も同じ方向に働く。第2節で見た市場の入れ替わりが、そのまま係数に現れている可能性が高い。
したがって通年換算では、3.95泊(2026年の実測)を中心に、4.22泊(2025年実績)までを上限とする幅で見るのが妥当だ。横ばいシナリオ4,225万人に3.95泊を掛けると1.67億人泊、4.22泊なら1.78億人泊となる。
出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」、観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成
4. 客室需要への換算 — 全国169万室ストックの何%を訪日客が占めるか
延べ宿泊者数(人泊)を客室需要(室泊)に直すには、もう一段の変換が要る。1室に何人が泊まっているかである。
観光庁「宿泊旅行統計調査」の2026年7月分(第1次速報値)を使うと、この係数は直接計算できる。同月の延べ宿泊者数は5,467万1,130人泊、利用客室数は3,193万50室。割ると1室あたり1.71人となる。6月(第2次速報値)は延べ宿泊者数4,581万5,140人泊÷利用客室数2,882万6,670室=1.59人で、レジャー期の7月のほうが1室あたりの人数が多い。
同じ統計から全国の客室ストックも逆算できる。7月の利用客室数3,193万50室を客室稼働率60.8%(2026年7月・観光庁「宿泊旅行統計調査」第1次速報値の公表値)と日数31日で割り戻すと、全国の総客室数は約169万室。6月分(利用客室数2,882万6,670室、稼働率57.2%(2026年6月・同調査第2次速報値の公表値)、30日)から計算しても約168万室で、月をまたいでほぼ一致する。
参考として、メトロエンジンリサーチが追跡する国内約168,000施設のうち、OTA等の掲載で稼働が確認できるのは約27,000施設・約126万室である。観光庁ベースの約169万室に対して約75%にあたる。差分には、OTA等に掲載していない旅館・民宿・簡易宿所や、団体・法人契約中心の施設が含まれる。
ここまでの数字を組み合わせると、訪日客が占める客室需要が出る。2026年7月の外国人延べ宿泊者数1,357万5,980人泊を1室あたり1.71人で割ると約793万室泊。同月の利用客室数3,193万50室に対して24.8%、総供給室泊(169万室×31日=5,252万室泊)に対して15.1%となる。6月も同様に計算すると利用客室数の26.7%、総供給室泊の15.3%で、水準は安定している。
| 通年着地 | 3.95泊/人 | 4.10泊/人 | 4.22泊/人 |
|---|---|---|---|
| 弱含み 4,137万人 | 9,900万室泊(16.1%) | 1億280万室泊(16.7%) | 1億580万室泊(17.2%) |
| 横ばい 4,225万人 | 1億120万室泊(16.4%) | 1億500万室泊(17.0%) | 1億810万室泊(17.5%) |
| 上振れ 4,314万人 | 1億330万室泊(16.7%) | 1億720万室泊(17.4%) | 1億1,030万室泊(17.9%) |
カッコ内は全国の総供給室泊(169万室×365日=6億1,685万室泊)に占める割合。1室あたり人数を1.60人とすると割合は約0.5pt上振れ、1.80人とすると約1.4pt下振れする。出典:日本政府観光局(JNTO)、観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(2026年6月 第2次速報値・7月 第1次速報値)よりホテルバンク編集部作成
整理すると、訪日客は全国の客室供給のおよそ6分の1を消費している。稼働している客室に限れば4分の1前後だ。この「16%」という数字が重要なのは、通年着地が4,137万人と4,314万人のどちらに振れても、全国平均で見た客室需要のシェアは16.1%〜16.7%の範囲にしか動かない点にある。全国マクロで見れば、177万人の着地差は稼働率にして1pt未満の影響にとどまる。
言い換えれば、通年の着地点そのものよりも、その需要がどのエリア・どの業態に落ちるかのほうが、個々の施設にとっては影響が大きい。次節でその分布を見る。
5. 需要はどこに落ちているか — 地方部35.8%と、1.3億人泊目標との距離
2026年1〜6月の外国人延べ宿泊者数8,324万1,920人泊を都道府県別に見ると、上位への集中が鮮明だ。東京都2,704万1,700人泊(32.5%)、大阪府1,115万8,570人泊(13.4%)、京都府757万3,550人泊(9.1%)で、この3都府県だけで55.0%を占める。以下、北海道627万3,340人泊(7.5%)、福岡県413万6,630人泊(5.0%)、沖縄県394万5,380人泊(4.7%)と続く。
三大都市圏(東京・神奈川・千葉・埼玉・愛知・大阪・京都・兵庫の8都府県)の合計は5,346万9,060人泊で64.2%。残る39道県の「地方部」は2,977万2,860人泊、35.8%である。2025年通年では地方部6,056万2,510人泊・33.7%だったので、地方部シェアはわずかに上がっている。
ここで政府目標との距離が論点になる。第5次観光立国推進基本計画は、2030年に地方部の外国人延べ宿泊者数1.3億人泊を掲げ、三大都市圏と1対1の比率にすることを目指している。2025年実績の6,056万人泊からは2.15倍への拡大が必要で、4年間の年率換算では21%成長にあたる。1人あたり宿泊数を据え置くと、地方部と三大都市圏の合計は2.6億人泊。これは訪日客6,000万人に4.3泊/人を掛けた水準とほぼ一致する。政府目標の内部整合性は、1人あたり宿泊数が4.3泊前後で維持されることを前提にしていると読める。
だからこそ、第3節で見た3.95泊への低下は単なる誤差以上の意味を持つ。人数が6,000万人に届いても、1人あたり宿泊数が3.95泊にとどまれば延べ宿泊者数は2.37億人泊となり、目標の2.6億人泊には約9%届かない。人数目標と人泊目標は同時に達成されるとは限らないという点は、供給計画を立てる側が押さえておきたい論点だ。地方部の客室ストックと宿泊シェアのねじれ、および1.3億人泊に必要な成長率については、地方インバウンドは客室61.7%・宿泊33.7% — 1.3億人泊目標に年16.5%成長で詳しく分析している。
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」推移表(2026年1〜6月)よりホテルバンク編集部作成
2030年に6,000万人・4.0泊/人が実現した場合の客室需要も試算しておく。2.4億人泊を1室あたり1.65人で割ると約1億4,500万室泊。2026年の横ばいシナリオ(約1億120万室泊)からは+4,400万室泊の増加となる。これを客室稼働率60%(通年平均の仮定値)で受け止めるなら約20万室、70%なら約17万室の追加供給に相当する規模だ。現在の全国ストック約169万室に対して10%超の増床にあたる。
6. 人数が横ばいでも単価は動く — 施設側から見た2026年夏
ここまでは公的統計による需要量の話である。最後に、それが施設側の価格にどう表れているかを確認しておきたい。人数の増減と単価の増減は、必ずしも同じ方向を向かない。
メトロエンジンリサーチのデータで2026年7月の推定成約ADRを見ると、東京都は約¥12,600(N=1,136施設)で前年同月の約¥13,300から−4.8%。京都府は約¥12,200(N=604施設)で前年同月比−12.8%、大阪府は約¥8,800(N=647施設)で同−30.7%だった。大阪の水準差には、2025年4〜10月に開催された大阪・関西万博による前年の押し上げが大きく効いている。
訪日外客数が7月として過去最高を記録した月であっても、エリア単位の単価は前年を下回りうる。人数の指標だけを追っていると、施設の収益実感との乖離が生まれるのはこのためだ。マクロの人数、延べ人泊、そしてエリア別の単価は、それぞれ別の情報を持っている。第4節で見たとおり全国平均の需要シェアは着地シナリオによってほとんど動かないため、施設ごとの差はむしろエリアと業態の構成、そして前年に何があったかで決まる部分が大きい。訪日客数の増加が単価にどこまで転嫁されるのかという論点は、インバウンド最高でもADR+5%止まり — 2026年3月、伸びたのは地方の旅館・リゾートが業態・エリア別に検証している。
7. 毎月の更新手順 — 3つの数字を差し替えるだけ
本稿の計算は、以下の3つの公表値を毎月差し替えることで最新化できる。特別なデータは要らない。
| 更新するもの | 出典 | 発表タイミング | 使い方 |
|---|---|---|---|
| 単月の訪日外客数 | JNTO「訪日外客数」 | 翌月中旬〜下旬 | 累計に加算し、表1の「必要な月平均」と比較 |
| 外国人延べ宿泊者数 | 観光庁「宿泊旅行統計調査」 | 約2か月遅れ(第1次速報) | 訪日外客数で割り、1人あたり宿泊数を更新 |
| 利用客室数・客室稼働率 | 同上(第3表・第5表) | 同上 | 延べ宿泊者数÷利用客室数で1室あたり人数、利用客室数÷稼働率÷日数で総客室数を更新 |
出典:日本政府観光局(JNTO)、観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成
注意点は2つある。第一に、観光庁の統計には第1次速報値と第2次速報値、確定値があり、後から改定される。単月の細かい増減よりも、数か月の移動平均で傾向を見るほうが安定する。第二に、2026年1月分調査から層化変数が変更されているため、2025年以前との比較には見直しの影響が含まれる可能性がある。前年比を語る際は、この点を注記に添えておきたい。
まとめ — 2026年インバウンドの読み方
2026年7月末時点の事実を整理すると、次の5点になる。
| 論点 | 2026年7月末時点の答え |
|---|---|
| 進捗 | 1〜7月累計2,452.7万人、前年同期比−1.7%。2025年通年に対する進捗率57.5%。 |
| 着地レンジ | 8〜12月が前年同期比±5%なら4,137万〜4,314万人。2025年並みの4,268万人には8〜12月+2.4%が必要。 |
| 構造 | 中国が−320.6万人。他22市場の増加+268.7万人がその83.8%を相殺。中国を除けば+14.4%。 |
| 宿泊換算 | 1人あたり3.95泊(2025年通年は4.22泊)。横ばい着地なら通年1.67億人泊。 |
| 客室需要 | 約1.01億室泊。全国供給6.17億室泊の約16%。着地が177万人ぶれても、全国平均のシェア変動は1pt未満。 |
2026年のインバウンドは、総量としては2025年とほぼ同じ水準に着地する公算が大きい。ただしその内訳は、市場構成でも、滞在日数でも、地域分布でも動いている。「何万人か」を当てることより、その人数がどれだけの室泊になり、どこに落ちるかを自分で計算できることのほうが、施設運営や供給計画の実務では役に立つ。本稿の3つの係数——1人あたり宿泊数、1室あたり人数、総客室数——は、いずれも観光庁の公表値から毎月更新できる。
⚠ 本稿のシナリオ試算について:通年着地レンジは2026年8〜12月の訪日外客数を前年同期比−5%/±0%/+5%と仮定した機械的な試算であり、予測ではありません。為替、航空座席供給、各市場の渡航環境、自然災害等により実績は大きく変動する可能性があります。また訪日外客数の7月分および観光庁統計の速報値は、いずれも後日改定されることがあります。1室あたり人数は施設全体の平均であり、外国人宿泊者に限定した値ではないため、客室需要への換算は概算です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
訪日外客数は日本政府観光局(JNTO)「訪日外客統計」の月別推計値(2026年7月は推計値)。延べ宿泊者数・利用客室数・客室稼働率は観光庁「宿泊旅行統計調査」(2026年6月は第2次速報値、2026年7月は第1次速報値、都道府県別は推移表2026年1〜6月)。通年見通しの参照値は株式会社JTB「2026年の訪日旅行市場トレンド予測」(2026年1月8日)。エリア別の推定成約ADRはメトロエンジンリサーチ(2026年7月・東京都 N=1,136施設、京都府 N=604施設、大阪府 N=647施設)。
■ 試算前提
通年着地レンジは2026年8〜12月の訪日外客数を前年同期比−5%/±0%/+5%と仮定して積み上げた。延べ宿泊者数への換算係数は3.95泊/人(2026年1〜7月実測)を中心に、4.22泊/人(2025年通年実績)を上限とする幅を採用。室泊への換算は1室あたり1.65人(2026年6月1.59人・7月1.71人の中間)を用い、1.60人/1.80人の振れ幅を併記している。全国の総客室数は利用客室数÷客室稼働率÷日数で逆算した約169万室、総供給室泊は169万室×365日=6億1,685万室泊。年率成長率はいずれも編集部試算。
■ 限界・留意点
着地レンジは仮定に基づく機械的試算であり予測ではない。為替・航空座席供給・各市場の渡航環境・自然災害等で実績は大きく変動しうる。訪日外客数の推計値と観光庁統計の速報値はいずれも後日改定される。観光庁は2026年1月分調査から層化変数を「従業者数」から「客室数」へ変更しており、前年比には見直しの影響が含まれる可能性がある。訪日外客数と外国人延べ宿泊者数は調査主体・母集団が異なるため「1人あたり宿泊数」は概算である。1室あたり人数は施設全体の平均で外国人宿泊者に限定した値ではなく、客室需要への換算も概算にとどまる。推定成約ADRは公開価格に基づく推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。
■ 訪日外客数
■ 宿泊統計
- 観光庁「宿泊旅行統計調査」2026年7月分(第1次速報値)集計結果・2026年6月分(第2次速報値)集計結果・推移表
- 観光庁「宿泊旅行統計調査の層化基準の変更について」(2026年1月分調査から適用)
■ 政府計画・民間見通し
- 観光庁「観光立国推進基本計画」(第5次・2026年3月27日閣議決定)
- 観光庁「観光立国推進基本計画(概要等)」(第5次)
- 株式会社JTB「2026年(1月〜12月)の訪日旅行市場トレンド予測」(2026年1月8日)
■ 価格データ
- メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR(東京都 N=1,136施設、京都府 N=604施設、大阪府 N=647施設/2026年7月)、国内客室ストックの参考値
