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鳥取県ホテル市場の3階層構造 — 市町村平均が隠す温泉地の単価カーブ

投稿日 : 2026.08.14 更新日 : 2026.09.02

鳥取県

エリア・施設分析

鳥取県ホテル市場の3階層構造 — 市町村平均が隠す温泉地の単価カーブ

鳥取県の宿泊市場を「県平均」で語ると、実像の半分も見えない。メトロエンジンリサーチのデータを県・市町村・温泉地の3階層に分解すると、同じ米子市の中に推定成約ADR(平均客室単価)が2.16倍も違う2つの市場が同居していることが分かる。本稿では、県内エリアの階層構造と、松葉がに漁期が形づくる季節単価カーブを実測値で定量化し、投資家・運営者・地域DMOが押さえるべき「解像度」の問題を検証する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)です。
  • 掲載価格:OTA等に掲載されている全プランの平均額(2名1室利用時・1室あたり料金・税込、素泊まり〜食事付きを含む)。売れ残った高価格帯プランも含むため、推定成約ADRより高い水準となります。本記事でADRと呼ぶ数値は上記の推定成約ADRであり、掲載価格に言及する箇所は必ずその旨を明記しています。
  • 実績月と観測中の月:2026年6月までは確定済みの実績ベース、2026年7月以降は調査時点でOTA等に掲載されている販売価格からの推定です。両者は算出基盤が異なるため、実績月と観測中の月をまたいだ増減率は本記事では算出していません。比較はいずれも実績月同士、または観測中の月同士で行っています。
  • N:各数値の算出対象となった施設数。本記事では図表ごとに明記しています。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 2.16倍 — 米子市の推定成約ADR ¥7,400 に対し、市内の皆生温泉は ¥16,100。市町村を分析単位に置くと温泉地の実力が集計に埋没する。
  • — ピークは12月 — 鳥取県の単価カーブは8月に山が立つ全国型と逆位相で、最高月÷最低月は1.43倍。松葉がに漁期と正確に重なる。
  • — 1.76倍 対 1.14倍 — 冬の山を作るのは旅館、通年の土台を支えるのは業務帯。季節性リスクの性格が異なり、互いを打ち消し合う。
  • — 2.60倍 — 三朝町は掲載価格 ¥48,900 に対し推定成約ADR ¥18,800。表示価格から収益力を推定すると旅館主体エリアを大幅に過大評価する。
  • — 809室 — 直近1年半の新規供給は鳥取市・倉吉市の駅前業務帯に集中。業務帯の単価横ばいは供給吸収局面の反映と読める。

冬に単価が上がる県 — 鳥取の季節カーブは全国型と逆位相

まず県全体の姿を押さえる。鳥取県の推定成約ADRは、直近12ヶ月(2025年7月〜2026年6月・実績ベース)で平均¥8,600、最低が2026年6月の¥7,200、最高が2025年12月の¥10,300だった。最高月と最低月の比は1.43倍である(N=145〜153施設)。

重要なのは、その最高月が「12月」だという点だ。全国の宿泊市場は8月と大型連休に山を作り、12月は年末年始の数日を除けば端境期になりやすい。ところが鳥取県は、8月と並んで11月・12月に明確な第2の山が立つ。これは後述する松葉がに漁期と正確に重なる。

年次で重ねると、この冬の山が近年ぶ厚くなっていることが読み取れる。前年同月比で見ると、2025年11月が+6.8%、2025年12月に至っては+23.6%と大きく伸びた。一方で2026年に入ってからの春先は、2月-2.9%、3月-2.2%、4月-0.3%、6月-7.1%と横ばいから小幅な調整局面にある。つまり鳥取県が直近1年で単価を伸ばした場所は、通年ではなく冬季に集中していた。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=145〜154施設/月)

鳥取県全体の推定成約ADRと前年同月比(実績ベース・主要月抜粋)
月 推定成約ADR 前年同月 前年同月比 N(施設)
2025年8月¥10,100¥9,100+10.9%147
2025年11月¥9,800¥9,200+6.8%147
2025年12月¥10,300¥8,400+23.6%146
2026年1月¥9,200¥8,700+5.9%149
2026年3月¥8,300¥8,500-2.2%152
2026年6月¥7,200¥7,800-7.1%151

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(いずれも実績ベース)

季節を作るのは旅館、土台を支えるのは業務帯

では、この冬の山は誰が作っているのか。業態別に分解すると答えははっきりする。

2026年7月〜12月の観測値(同一基盤どうしの比較)で見ると、旅館は7月の¥11,300から12月の¥19,900へと1.76倍に立ち上がる。対してビジネスホテルは同じ期間で¥8,100〜¥9,200のレンジに収まり、変動幅は1.14倍にとどまる。リゾートホテル、シティホテルはその中間に位置する。

施設数の重みも押さえておきたい。推定成約ADRの算出対象となる検証済み業態のうち、旅館はN=76〜83施設(実績月)と最大の母集団を持ち、ビジネスホテルがN=51〜53、リゾートホテルがN=9〜10、シティホテルがN=8と続く。つまり鳥取県は「数の上でも旅館が主役の県」であり、県平均の季節カーブは事実上、旅館の季節カーブを反映したものになっている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年7〜12月の観測値。N=旅館46〜74/ビジネス43〜50/リゾート11/シティ7〜8施設)

ここで強調しておきたいのは、変動幅が小さいことは弱さではないという点だ。ビジネスホテル帯は年間を通じて需要が途切れず、季節性リスクをほとんど負わない。旅館が冬の4ヶ月で年間収益の大半を取りにいく構造であるのに対し、業務帯は12ヶ月にわたって安定したキャッシュフローを生む。ポートフォリオとして見れば、この2つは互いのリスクを打ち消し合う関係にある。

加えて、業務帯には単価の伸びしろがある。2025年7月〜2026年6月の実績ベースで、鳥取県のビジネスホテル帯の推定成約ADRは¥5,700〜¥6,400のレンジで推移していた。全国的にビジネス需要の単価改善が進むなか、この帯には季節需要のピークに合わせた価格の階段設計や、連泊・早期予約の設計を重ねる余地が残されている。松葉がに需要で県内の旅館が満室に近づく11月〜12月には、あふれた宿泊需要が市街地の業務帯に流れる構造があり、その局面をどう価格に織り込むかは検討に値するテーマだろう。

「市町村」という解像度の限界 — 米子市¥7,400 vs 皆生温泉¥16,100

ここからが本稿の中心的な発見である。鳥取県の宿泊市場を市町村単位で見ると、深刻な情報の欠落が起きる。

米子市の推定成約ADRは、直近12ヶ月の実績ベースで平均¥7,400(N=44〜45施設)。県平均の¥8,600を下回り、県内では下位グループに入る。数字だけ見れば「単価の低いエリア」に分類されかねない。

ところが、その米子市の中にある皆生温泉に絞って同じ期間・同じ指標で集計し直すと、平均は¥16,100(N=18施設)。市の集計値の2.16倍に跳ね上がる。三朝町の¥18,800(N=18〜19施設)に迫る、県内トップクラスの単価帯である。

なぜこんなことが起きるのか。理由は業態構成にある。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、米子市には掲載価格ベースでビジネスホテルが23施設ある一方、旅館は14施設、リゾートホテルは4施設。数の上ではビジネスホテルが最大勢力であり、市全体の中央値は業務帯の水準に引き寄せられる。皆生温泉という高単価の温泉街は、市の集計のなかに完全に埋没してしまうのだ。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2025年7月〜2026年6月の実績ベース平均)

同じ現象は鳥取市でも起きている。鳥取市は掲載価格ベースで旅館14施設・ビジネスホテル14施設・シティホテル3施設が併存する混成市場であり、市の推定成約ADRは¥8,100(N=30〜37施設)。市街地の業務需要と、吉岡温泉・浜村温泉といった温泉地の需要が同じ数字に押し込められている。

一方で、三朝町のように単一業態でほぼ構成される自治体では、市町村単位の数字がそのまま温泉地の実態を表す。掲載価格ベースで三朝町の宿泊施設は旅館17施設が中心であり、市町村=温泉地としてほぼ一致する。倉吉市も逆の意味で単純で、ビジネスホテル9施設が中心の業務単機能市場である。

主要市町村の業態構成(掲載価格ベース・2026年6月時点/3施設以上のセルのみ)
市町村 構成(業態:施設数/掲載価格) 市場タイプ
三朝町旅館 17施設/¥46,400単一業態・温泉特化
米子市ビジネス 23/¥10,100、旅館 14/¥46,400、リゾート 4/¥36,200、貸別荘 3/¥50,200混成(業務+温泉街)
鳥取市旅館 14/¥29,900、ビジネス 14/¥13,000、シティ 3/¥24,200、ペンション 3/¥11,500、ゲストハウス 3/¥7,800混成(県都+温泉)
大山町旅館 9/¥24,800、ペンション 7/¥19,200、貸別荘 3/¥62,600小規模分散・高原型
倉吉市ビジネス 9/¥10,800、貸別荘 3/¥35,200業務単機能
湯梨浜町旅館 8/¥28,800単一業態・温泉特化
岩美町旅館 4/¥34,300、民宿 3/¥14,200小規模・海岸型
伯耆町リゾート 3/¥45,000、ペンション 6/¥21,600リゾート型

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。掲載価格は全プラン平均(2名1室・税込)であり、本記事のADR(推定成約ADR)とは基準が異なります。

実務上の含意は明快だ。鳥取県で投資判断や商圏分析を行う際、市町村を分析単位に置くと、米子市のように性格の異なる2つの市場が1つの数字に潰れる。エリア単位は「自治体」ではなく「温泉地・商圏」で切るべきである。

エリア階層マップ — 単価帯と客室規模の地理的な偏り

県内の主要エリアを地図上に置くと、単価と規模の分布が視覚的に理解しやすくなる。円の大きさは各エリアが抱える客室数、色は推定成約ADRの水準を表している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

県西部(米子・境港・大山)と県東部(鳥取・岩美)に人口・客室が集積し、その中間の中部(倉吉・三朝・湯梨浜)に高単価の温泉地が点在する。単価の高いエリアほど客室規模は小さく、規模の大きいエリアほど単価が低いという明確な逆相関がある。県内最大の客室集積である鳥取市街と米子市街は、いずれも推定成約ADRが県平均前後にとどまる。鳥取を含む山陰の主要都市を横断して都市間の階層構造を比較した分析は、山陰4都市ホテル投資マップでも扱っている。

季節振幅マップ — エリアはどれだけ「冬に賭けて」いるか

次に、エリアごとの季節依存度を定量化する。横軸に2026年7月〜12月の推定成約ADR平均、縦軸に同期間内の最高月÷最低月(季節振幅)を取り、円の大きさをサンプル施設数としたのが下図である。同一の観測基盤どうしの比較であるため、エリア間の振幅は素直に比較できる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年7〜12月の観測値。円サイズはサンプル施設数)

右上に位置するのが「高単価かつ季節依存が強い」エリアである。岩美町は振幅2.42倍と県内最大で、7月の¥10,700から12月の¥25,900まで動く。ただしこのエリアは推定成約ADRの算出対象がN=3〜4施設と小さく、参考値として扱うべき水準にある。三朝町は振幅1.97倍・平均¥18,400、皆生温泉は1.82倍・平均¥16,300で、いずれもN=17〜19施設と厚みのあるサンプルに支えられている。

左下は「中〜低単価だが通年安定」のグループだ。倉吉市は振幅1.12倍と県内で最も平坦で、6ヶ月間のレンジは¥7,500〜¥8,400。鳥取市(1.36倍)、米子市(1.33倍)もこれに近い。冬季の需要増を取り込みつつも、年間を通じた稼働の土台がしっかりしている構造が読み取れる。

伯耆町は平均¥22,800と県内最高水準ながら振幅1.17倍と平坦で、通年高位という珍しいポジションにある。大山南麓のリゾート需要が夏の高原滞在と冬のスキー需要の双方に支えられているためと考えられるが、こちらもN=4施設と小さいため参考値である。

サンプル数に関する注記:三朝町の2026年11月・12月は推定成約ADRの算出対象がN=11、N=10施設と、同系列の中央値(N=19施設)を下回っています。同様に大山町の2026年12月はN=4施設(同系列中央値N=10施設)です。該当月の数値は掲載中の施設が絞られた状態での値であり、今後の掲載追加により変動する可能性があります。また、岩美町・境港市・伯耆町(いずれもN=3〜4施設)、および智頭町・若桜町・日南町・北栄町・日野町・江府町・南部町・八頭町・琴浦町(N=1〜2施設または推定成約ADRの算出対象外)は、本記事では参考値扱いとし、県全体の傾向を論じる根拠には用いていません。

松葉がに漁期 — 単価カーブを動かす需要装置

鳥取の冬の単価上昇を説明する最大の要因が、松葉がに(ズワイガニの雄)の漁期である。

鳥取県が公表したプレスリリースによれば、直近シーズンの漁期間は2025年11月6日(木)から2026年3月20日(金)まで。解禁翌日の11月7日には県内3ヶ所の港で初競りが行われ、最高級ブランド「特選とっとり松葉がに 五輝星(いつきぼし)」の最高落札額は鳥取港で100万円に達した。同県は「カニの水揚げ量日本一」を公式に掲げており、「蟹取県」というキャンペーン名でこれを打ち出している。

また、鳥取市観光サイト(公式)によれば、雌のズワイガニである親ガニ(セコガニ)の漁期は11月上旬から12月末までとさらに短い。松葉がにが3月20日まで続くのに対し、親ガニは実質2ヶ月弱で終わる。11月〜12月に需要が突出して集中するのは、この2つの漁期が重なる期間だからである。なお、2026年11月に始まる次シーズンの漁期日程は、本稿執筆時点(2026年7月31日)では公表を確認できていないため記載していない。

この漁期構造は、実測されたADRカーブと整合的だ。旅館業態の推定成約ADRは2026年7月の¥11,300から11月に¥17,900、12月に¥19,900へと段階的に立ち上がり、直近の実績ベースでも2026年3月(¥12,600)から4月(¥11,300)にかけて、漁期終了とほぼ同時に水準が切り下がっている。

需要の集中は宿泊者の声にも表れる。ホテルバンク編集部が集計した宿泊者口コミのうち、直近24ヶ月(2024年8月〜2026年7月)に投稿されたものを対象に、夕食でカニに触れた言及を抽出すると、鳥取県内で言及件数が5件以上の施設は15施設だった。その分布には明確な地理的偏りがある。

夕食のカニに関する好意的な言及が多い施設(鳥取県・直近24ヶ月・言及5件以上/N=15施設)
# 施設名 所在エリア 客室数 言及件数 口コミ総数 言及率
1皆生グランドホテル 天水米子市・皆生温泉100375207.1%
2三朝館三朝町・三朝温泉81225683.9%
3三朝温泉 三朝ロイヤルホテル三朝町・三朝温泉98193215.9%
4海色・湯の宿 松月米子市・皆生温泉19179571.8%
5皆生温泉 皆生菊乃家米子市・皆生温泉31122464.9%
6華水亭米子市・皆生温泉79105491.8%
7千年亭湯梨浜町・はわい温泉5693182.8%
8ベイサイドスクエア 皆生ホテル米子市・皆生温泉8084211.9%
9鳥取温泉 観水庭こぜにや鳥取市街2583062.6%
10三朝薬師の湯 万翆楼三朝町・三朝温泉4483072.6%
11浜村温泉 魚と屋鳥取市・気高町3281276.3%
12皆生風雅米子市・皆生温泉3272832.5%
13三朝温泉 木造りの宿 橋津屋三朝町・三朝温泉1062402.5%
14温泉旅館 皆生つるや米子市・皆生温泉5552591.9%
15湯喜望 白扇米子市・皆生温泉3352991.7%

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミの自然言語解析。言及率=当該施設の口コミ総数に占める、夕食のカニに好意的に触れた口コミの割合であり、評価スコアではありません)

15施設のうち8施設が皆生温泉、4施設が三朝温泉に集中している。カニの評価軸で見ると、県内でこの2つの温泉街が突出した存在であることが分かる。宿泊者からは「カニ食べ放題は…普通に美味しい」「夕飯の蟹はとても満足」といった声が寄せられており、カニを目的とした滞在の受け皿として機能している様子がうかがえる。カニ評価の高い宿が全国でどう分布し、冬の予約がいつから動き始めるかについては、蟹が高評価の宿 全国TOP30が全国30施設の言及率データから掘り下げている。

ここでもう一度、前節の発見に立ち返りたい。カニ評価で県内最多の8施設を抱える皆生温泉は、市町村単位では「米子市」の中に埋没し、推定成約ADR¥7,400という業務帯寄りの数字で表現されてしまう。地域DMOがエリアの魅力を数字で語ろうとするとき、この解像度の選択が結論を左右する。

掲載価格と推定成約ADRの乖離をどう読むか

本記事のADRは推定成約単価であり、OTA等に並んでいる掲載価格そのものではない。この差はエリアによって大きく異なり、特に温泉旅館が中心のエリアで開く。

直近12ヶ月の実績ベースで見ると、三朝町は掲載価格(全プラン平均)が¥48,900であるのに対し推定成約ADRは¥18,800で、比率は2.60倍。湯梨浜町は¥27,400対¥8,900で3.09倍と県内最大の開きがある。一方、岩美町は¥23,900対¥14,800の1.62倍と比較的近く、鳥取市は¥16,300対¥8,100の2.02倍だった。

掲載価格と推定成約ADRの関係(2025年7月〜2026年6月の実績ベース平均)
エリア 掲載価格
全プラン平均
推定成約ADR 比率 N
湯梨浜町¥27,400¥8,9003.09倍9
三朝町¥48,900¥18,8002.60倍19
大山町¥25,300¥10,3002.45倍11
倉吉市¥12,800¥5,3002.39倍15
米子市¥17,000¥7,4002.29倍45
鳥取市¥16,300¥8,1002.02倍33
岩美町(参考値)¥23,900¥14,8001.62倍4
鳥取県 全体¥22,000¥8,6002.55倍150

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。掲載価格は全業態を対象とした集計、推定成約ADRは検証済み業態(旅館・ビジネス・シティ・リゾート・カプセル)を対象とした集計であり、母集団が一致しないため比率は目安として参照してください。

この乖離は、価格設定の巧拙を意味するものではない。旅館は1泊2食付きの上位プラン(部屋食、上級会席、露天風呂付き客室など)を幅広く掲載するため、掲載価格の平均が押し上がる。実際に選ばれるのはより手前のプランが中心となるため、成約水準との差が開く。同じ理由で、プランの階層が浅いビジネスホテル中心のエリアでは乖離が小さくなる。

投資家・運営者にとっての実務的な示唆は、OTA等の表示価格からエリアの収益力を推定すると、旅館主体のエリアを大幅に過大評価してしまうということだ。三朝町の掲載価格¥48,900をそのまま収益前提に置けば、実態の2.6倍で事業計画を組むことになる。エリア比較は、必ず同じ基準に揃えたうえで行う必要がある。

供給側の動き — 駅前業務帯に集中した約800室

需要側と並んで押さえておきたいのが供給の動きである。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、鳥取県内の新規開業は2023年12軒、2024年17軒、2025年7軒、2026年は7月時点で4軒が確認されている。

軒数だけを見ると小規模施設(貸別荘・ゲストハウス・キャンプ場等)が数の多くを占めるが、客室規模で見ると景色が変わる。直近3年で開業した100室超の施設は4件あり、いずれも駅前立地のビジネスホテルである。

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=40軒)、ホテルバンク編集部より作成

鳥取県内で近年開業した100室超の宿泊施設(メトロエンジンリサーチが把握する範囲)
施設名 開業 客室数 業態 立地
東横INN鳥取駅北口2024年12月245ビジネスホテル鳥取市(駅前)
アパホテル〈鳥取駅前〉2025年10月205ビジネスホテル鳥取市(駅前)
ホテルルートイン倉吉駅前2025年7月201ビジネスホテル倉吉市(駅前)
ホテルリブマックス鳥取GRANDE2026年6月158ビジネスホテル鳥取市
合計2024年12月〜2026年6月809——

出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース、N=40軒)、ホテルバンク編集部より作成

約1年半で809室が、鳥取市と倉吉市の駅前に集中投入された。これは全国展開する大手チェーンが鳥取県内の業務需要に強い関心を寄せていることの表れであり、市場の魅力度を示すシグナルとして読める。同時に、この供給が業務帯の単価が横ばい圏で推移している一因になっている可能性は高い。新しい客室ストックが加わったことで、県内の業務帯は設備面で刷新が進んでおり、中期的には単価の底上げにつながる基盤が整いつつあるとも言える。地方中核都市が新規供給をどの程度吸収できるかという論点は、地方中核都市の新規供給吸収余地が8市を対象に検証している。

今後のパイプラインについては、国土交通省「建築物動態統計調査」に基づく建築計画データを確認したところ、鳥取県内でホテル用途の計画は本稿執筆時点で確認できなかった。ただしこれは確認申請ベースのデータであり、確認申請は通常開業の1〜2年前に行われるため、現時点での確定パイプラインの下限値として参照されたい。今後の申請追加により件数は増加する見込みである。また新規開業データ自体もOTA掲載確認ベースであり、掲載は開業の数ヶ月前から出るため、直近以降の月は今後の掲載追加で増加する可能性がある。

まとめ — 鳥取市場を読むための3つの視点

第一に、分析単位を「自治体」から「温泉地・商圏」へ移すこと。米子市の推定成約ADR¥7,400と、その内側にある皆生温泉の¥16,100という2.16倍の差は、市町村を単位に置く限り決して見えない。鳥取市も旅館14施設とビジネスホテル14施設が同居する混成市場であり、同じ問題を抱える。逆に三朝町、湯梨浜町、倉吉市のように単一業態でほぼ構成される自治体では、市町村=商圏として扱って差し支えない。エリアごとに適切な解像度が異なるという前提を持つことが出発点になる。

第二に、季節振幅と単価水準を2軸で捉えること。県内のエリアは「高単価・高振幅」(三朝町1.97倍、皆生温泉1.82倍)、「高単価・低振幅」(伯耆町1.17倍・参考値)、「中低単価・低振幅」(倉吉市1.12倍、米子市1.33倍、鳥取市1.36倍)に大別できる。高振幅型は冬季の4ヶ月で収益の相当部分を確保する構造であり、閑散期の稼働づくりと人員配置の設計が経営の主要テーマになる。低振幅型は年間を通じた安定運営が可能で、季節性リスクを負わない分、投資判断における予測可能性が高い。どちらが優れているという話ではなく、性格が違うということだ。

第三に、通年安定帯の伸びしろに目を向けること。鳥取県の業務帯は、直近1年半で駅前に809室の新しい客室が加わり、ストックの質が一段上がった。単価は横ばい圏で推移しているが、これは新規供給の吸収局面にあることの反映でもある。11月〜12月には松葉がに需要で県内の旅館が高稼働となり、あふれた需要が市街地に流れる構造がある。この局面に合わせた価格の階段設計、連泊・早期予約の設計、そしてカニ需要を意識した滞在提案を組み合わせることで、通年安定という強みを保ちながら単価を引き上げる機会が生まれる。三朝・皆生という強力な温泉ブランドを県内に持つことは、業務帯にとっても追い風になり得る。

地域DMOの観点からは、県の宿泊統計を市町村単位で発信することの限界も示唆される。皆生温泉というブランドが米子市の平均値のなかに埋没する状況は、エリアの実力を対外的に伝える機会を狭めている面がある。温泉地単位での指標公開は、投資誘致にも送客促進にも寄与するはずだ。

宿向け:このテーマに効くプラン名のヒント

鳥取県 × 松葉がに で公開されているプラン名(N=356)に多い訴求要素 ——

カニ 98%会席コース 77%和牛・ブランド牛 31%海鮮 24%部屋食 22%早割 14%一人旅 10%

実際の名前の例(匿名化):

  • 【割引】「活け鮑&焼蟹&鳥取牛フィレステーキの会席」/個室食事処
  • 直前割【スタンダード会席】「蟹1杯付」山陰の恵みと海の幸を堪能/夕食はお部屋食

※公開プラン名の集計にもとづく傾向で、命名が販売を生む因果を示すものではありません。

将来日程のADRに関する注意:本記事のうち2026年7月以降の数値は、調査時点(2026年7月31日)でOTA等に公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。特に松葉がに漁期にあたる11月〜12月は、解禁後にプランが順次追加されるため、対象施設数・価格水準ともに今後変化する可能性が高い点にご留意ください。実績月(2026年6月まで)と観測中の月(2026年7月以降)は算出基盤が異なるため、両者をまたいだ増減率は算出していません。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチの推定成約ADR・掲載価格(鳥取県 N=145〜154施設/月、市町村別 N=1〜45施設、2024年7月〜2026年12月)、新規開業データ(2023〜2026年、N=40軒)、宿泊者口コミの自然言語解析(直近24ヶ月・夕食のカニ言及 N=15施設)を主軸に、鳥取県・鳥取市観光サイト(公式)・国土交通省の公表資料で外部事実を裏付けた。

■ 試算前提

推定成約ADRは、各施設がOTA等で公開する価格(2名1室利用時・1室あたり・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価であり、エリア値は対象施設の中央値を用いた。2026年6月までは確定済みの実績ベース、2026年7月以降は調査時点(2026年7月31日)の掲載価格からの推定である。季節振幅は2026年7〜12月の同一基盤内で「最高月÷最低月」として算出した。掲載価格は全プランの平均額であり、母集団・基準が推定成約ADRとは異なる。

■ 限界・留意点

実績月と観測中の月は算出基盤が異なるため、両者をまたいだ増減率は算出していない。推定成約ADRの算出対象がN=5未満の市町村(岩美町・境港市・伯耆町ほか)は参考値扱いとし、県全体の傾向を論じる根拠には用いていない。観測中の月は今後の掲載追加により対象施設数・価格水準ともに変動する。新規開業データはOTA掲載確認ベース、建築計画データは確認申請ベースであり、いずれも下限値である。推定成約ADRは上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値が約7%であり、個別施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — OTA等の公開情報に基づく推定成約ADR・掲載価格(鳥取県 N=145〜154施設/月、市町村別 N=1〜45施設)
  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(OTA掲載確認ベース)— 新規開業データ(鳥取県 2023〜2026年、N=40軒)
  • ホテルバンク編集部調べ — 宿泊者口コミの自然言語解析(鳥取県・直近24ヶ月、夕食のカニに関する言及 N=15施設)

■ 政府・自治体の公表資料

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